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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

特集 研修医のための外科基本手技とそのコツ

外科研修医の心得

著者: 炭山嘉伸 ,   長尾二郎

ページ範囲:P.809 - P.811

 要旨:卒後臨床研修の義務化に伴い,すべての研修医が外科で修練することになった.本特集では,すべての研修医が2~3か月の研修期間中に経験し,習得しなければならない外科における基本的手技について各領域の専門医が執筆している.本稿では,外科基本手技習得の前に必要な外科研修医の心得について以下の項目について述べた.(1)スタッフとのチームワーク,(2)外科侵襲の理解,(3)インフォームドコンセント,(4)器械の準備,(5)記録の励行.

滅菌・消毒

著者: 三毛牧夫 ,   加納宣康 ,   黒木基夫

ページ範囲:P.813 - P.817

 要旨:外科治療において滅菌・消毒の知識は不可欠である.滅菌とはすべての微生物を殺滅または除去する処理方法であり,消毒とは対象とする微生物を殺滅または減少させる処理方法である.したがって,滅菌・消毒は周術期感染症の発生防止や拡大抑制の観点から重要であり,その適応を熟知する必要がある.生体消毒・手指消毒は従来から各施設・先輩医師の経験に基づいて行われてきた感がある.本稿では,適切な消毒薬を選択し正しく施行するために最近の知見について概説した.

麻酔法―準備するもの,方法,合併症

著者: 讃岐美智義

ページ範囲:P.819 - P.827

 要旨:麻酔は局所麻酔と全身麻酔に大別される.局所麻酔にはいわゆる浸潤麻酔や脊髄くも膜下麻酔,硬膜外麻酔などの区域麻酔がある.手術の程度に応じて麻酔法を選択するが,最近では局所麻酔と全身麻酔を併用する方法も多く行われている.麻酔研修では,正しい麻酔手技を身につけ,各麻酔法の利点や合併症を理解することが大切である.そのうえで,各手術症例の術前合併症や手術侵襲,手術時間,手術体位などを総合的に判断して麻酔を適用する必要がある.本稿では,局所麻酔と全身麻酔について,麻酔研修に役立つポイントを実際の手順を含めて解説した.

切開,縫合,抜糸

著者: 平田泰

ページ範囲:P.829 - P.833

要旨:切開,縫合,抜糸は重要な外科基本手技である.切開は原則としてLanger皮膚割線に沿って目標の直上におかれるが,機能障害や醜状を最小限にとどめるよう臨機応変に応用することが必要である.縫合の第一の目的は死腔を残さず層を正しく合わせ,速やかな一時治癒を得ることである.そのためには血行障害を生じさせずに十分な創の固定を行うことが重要であり,創に応じた適切な縫合法と縫合糸を選択し,組織を愛護的に扱い,縫い代,糸掛けの深さ,縫合同士の間隔,結紮の締め具合に十分に配慮する.抜糸は早すぎると創の離開を招き,遅すぎると糸の圧挫による瘢痕を生じる.部位や縫合の方法によって大きく異なる抜糸時期を知ることが望ましい.

止血法

著者: 浅沼晃三

ページ範囲:P.835 - P.839

要旨:出血は外科医にとって最も恐ろしい出来事の1つである.短時間での大量出血は生命の危険を伴うものであり,小出血であっても術中の視野の妨げになるなど,手術操作を困難なものとする.出血時の対応の基本は,出血部位をピンポイントで確認し,速やかに止血法を選択することである.ガーゼや吸引などで出血部位から血液を可及的に除去し,毛細血管からの小出血であれば鑷子で把持し,電気メスで止血が可能である.ガーゼから沸き出るような出血は大きな血管からの出血である場合が多いが,この血管を犠牲にしても生体にとって差し支えないものであれば,これを把持して結紮すればよい.結紮することが許されない血管からの出血の場合は,血行を保つように縫合し修復しなくてはならない.止血法は古くから外科手術手技の主要な部門である.各種の止血法のテクニックとコツを解説した.

創傷処置

著者: 西尾剛毅

ページ範囲:P.841 - P.847

要旨:開放性損傷は非常に多い疾患であり,治療は緊急のものである.医師は誰でもその治療と対処ができなければならない.対処は全身状態の把握と,眼に見えない深部損傷の検索から始まる.治療の優先順位に従い,緊急手術,入院治療,外来治療に振り分ける.そののち,外来で洗浄,消毒,麻酔,止血,デブリドマン,創傷の縫合閉鎖,開放処置,抗生物質,破傷風トキソイド投与,フォローアップの順に行われる.また,創傷には発生機序によって特徴があり,なかにはその創傷に応じた特殊な,または適切な処置を行わなければならないものもある.醜い創跡や後遺症を残さないように適切な対処が必要である.

胃管およびイレウス管の挿入

著者: 輿石直樹 ,   井出澤剛直 ,   柴修吾 ,   白石謙介 ,   岡﨑護 ,   木嶋泰興

ページ範囲:P.849 - P.853

 要旨:胃管およびイレウス管の挿入は基本的な外科手技の1つである.胃管挿入には検査目的と治療目的があり,イレウス管挿入は主にイレウスに伴う拡張腸管の減圧治療を目的とする.胃管,イレウス管ともに各社から様々な製品が発売されており,それぞれの特性を理解し,目的に応じ選択する必要がある.また,挿入手技は慣れれば決して困難ではないが,いくつかのピットフォールがあり,手際よく確実に挿入できるようにしておくべきである.さらに,挿入・留置後の管理も重要であり,特にイレウス患者に対するイレウス管の管理は,手術の時期を逸さないために会得しておく必要がある.また,左側大腸癌に伴うイレウスに対しての経肛門的イレウス管の有用性についても解説した.

血管確保―血管確保の方法と手技,末梢静脈確保のための方法と手技,中心静脈経路の確保の手技

著者: 古屋隆俊

ページ範囲:P.855 - P.860

要旨:末梢静脈確保の要点は,(1)内針と外筒にギャップがあることと,留置針を彎曲させること,(2)皮膚と静脈に硬度差があること,(3)つねに皮膚の緊張を保つこと,(4)静脈は真上から突くこと,(5)血液が逆流したのちさらに数mm進め,逆流があれば外筒も静脈内にあること,である.鎖骨下静脈穿刺の要点は,(1)Trendelenburg位(15度)として右背部を挙上し,顔は左側とすること,(2)右鎖骨中線,鎖骨下縁より1~2cm下方から胸骨上切痕方向へ試験穿刺すること,(3)本穿刺は軽い陰圧をかけ,静脈血を吸引したのち5mm進め,内針を抜去してカテーテルを10cm挿入.静脈血吸引を確認すること,(4)カテーテルをガイドワイヤーとして外筒を深く進め,顔を右側に,右肩をすぼめてカテーテルを15cm挿入すること,(5)外筒を抜去して2か所で固定すること,(6)胸部X線でカテーテルの位置と気胸の有無を確認すること,である.失敗には必ず理由があることを心にとめて,より良い方法の工夫を怠らないことが重要である.

気道確保

著者: 上田仁 ,   末満隆一 ,   隠土薫 ,   松阪俊光

ページ範囲:P.861 - P.865

要旨:気道確保は救急の場面で重要な位置を占め,その習得は重要である.下顎が落ちて舌根沈下している患者では,下顎挙上,バッグマスク換気によって簡便に気道確保ができる.その後,場合によって気管内挿管を行う.気管内挿管では十分な開口操作が重要である.気管穿刺は多くの場合,喀痰喀出が困難なときに用いられる.気管切開は長期に気道確保が必要なときに用いられる.頸部伸展と,つねに気管を確認することが大切である.腫瘍による気道閉塞の解除は難しく,専門の施設へ送るほうがよい.まず,バッグマスク換気ができることが第一である.

胸腔穿刺および胸腔ドレナージの実際

著者: 奥村典仁

ページ範囲:P.867 - P.872

要旨:様々な病態によって胸腔内に液性および気体の貯留が発生するが,それらに対しての貯留物の診断・検査目的および排出治療の手段として胸腔穿刺と胸腔ドレナージがある.それぞれには特徴があり,これらを十分に理解し,適切かつ有効に応用することが肝要である.本稿では,主に安全な胸腔穿刺と胸腔ドレナージの手技について述べるとともに,起こり得る合併症とその対策についても言及した.

腹腔穿刺および腹腔ドレナージの実際

著者: 秋吉高志 ,   橋本光孝 ,   徳永正則 ,   豊増泰介 ,   長家尚

ページ範囲:P.873 - P.877

要旨:腹腔穿刺は目的によって診断的穿刺と治療的穿刺に大別される.画像診断の進歩によって診断的穿刺の意義は変化しており,その適応を十分に理解しておく必要がある.穿刺においては,超音波で穿刺部位を確認することと,腹直筋の穿刺を避けることが重要である.限局性腹腔内膿瘍に対する経皮的ドレナージは開腹ドレナージに比べて低侵襲で安全性も高いが,あらかじめCTと腹部超音波で安全な穿刺経路が確保可能かを十分に検討しなければならない.穿刺の手技には1回の穿刺でカテーテルを留置するトロッカー法と,ガイドワイヤーを使用してカテーテルを留置するSeldinger法がある.合併症の頻度は低いが,出血,腸管損傷などに注意を要する.

導尿および膀胱穿刺の適応と方法

著者: 山田哲司

ページ範囲:P.879 - P.885

要旨:導尿は,尿道から膀胱内にカテーテルを挿入して尿を体外に排出する方法であり,膀胱穿刺は尿道カテーテル挿入が不可能なときに膀胱を直接穿刺して尿を体外に排出する方法である.導尿,膀胱穿刺とも,医学の発達とともに用いられる頻度が高くなり,高度医療を可能としてきた.しかし,この便利さと引き換えに,カテーテルという異物を体内に挿入することから尿路感染症が高頻度で生じるとされ,この尿路感染が院内感染と密接に関連していることも明らかになっている.そのため,導尿や膀胱穿刺には多くの合併症や弊害を伴うことを知り,その適応や手技に精通しなければならない.

心蘇生

著者: 吉田順一

ページ範囲:P.887 - P.892

要旨:心蘇生に関しては,近年完成された国際蘇生法連絡委員会と米国心臓協会によるガイドラインが普及している.一次救命処置では心マッサージを約100回/分行い,心マッサージと人工呼吸の割合は15:2である.二次救命処置では1回換気量が10~15ml/kg,頻度12~15回/分で換気するが,心臓マッサージは無関係に行う.除細動の適応は心室細動および心室頻拍である.心肺徴候がない場合,30分間の二次救命処置で自己心拍が再開されなければ蘇生を中止してもよいが,家族の立会いなどを考慮する.循環動態が安定した場合も中止する.

カラーグラフ 肝・膵・脾内視鏡下治療最前線・4

膵体尾部切除術

著者: 松本敏文 ,   柴田浩平 ,   太田正之 ,   北野正剛

ページ範囲:P.803 - P.807

はじめに

 消化器外科領域における内視鏡下手術は機器の開発と技術の進歩によって,その適応の拡大にはめざましいものがある.われわれは膵疾患に対して内視鏡下手術を導入して以来10年を超え,良好な結果を得ている1,2)

 本稿では,その経験をもとに腹腔鏡下膵体尾部切除術の基本手技を紹介し,その工夫について述べる.

目で見る外科標準術式・50

痔核に対する半導体レーザー法(ICG併用)

著者: 碓井芳樹

ページ範囲:P.893 - P.898

はじめに

 筆者は現在無床診療所で日帰り手術を行っている.痔核に対しインドシアニングリーン(以下,ICG)併用の半導体レーザー治療(以下,本治療法)を単独で行うこともあるが,従来の結紮切除術,ゴム輪結紮術などに併用して行うことのほうが多く,症例ごとそして痔核ごとに使い分けていることを明記しておく.

 半導体レーザーは従来のレーザーに比べ小型軽量で,電源は通常の100 Vで使用でき,冷却水やウオーミングアップの必要がないという特徴があるが,一番の特性はICGの吸収ピークと半導体レーザーの発振波長が805nmでぴったり一致することである.

 この特性を使って鈴木ら1)が食道静脈瘤などの治療を行った.つまり,ICGを粘膜下の静脈瘤周囲に注入し,低出力で照射することによって,粘膜面に欠損を生ずることなく,粘膜下に注入したICGにより半導体レーザー光の吸収が増強され,静脈瘤を選択的に凝固治療でき,かつ固有筋層へのレーザーによる傷害が回避されたのである.これを筆者2,3)が痔核治療に応用し,良好な成績をすでに報告した.しかし,本治療法は歴史が浅く,長期予後の成績は出ていない.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・19―ビルロートゆかりの地の紹介

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.899 - P.901

 Christian Albert Theodor Billrothは1829年4月26日に北ドイツのバルト海をのぞむRugen島のBergen(図1)において牧師の長男として生まれた(折しも日本では文政12年にあたり,国内がシーボルト事件で揺れていた頃である).新潟大学の堺哲郎教授が臨床外科誌上に「ビルロートの生涯」を連載されていた頃は,東西ドイツ統合の前でRugen島がまだ東ドイツ領に属していたこともあり,訪問することはまず不可能な状況であったが,統一後は往来が自由となり,1998年には長崎大学医療技術短期大学名誉教授の三浦敏夫氏が,雑誌「いずみ(1998年5月号)」に「リューゲン島訪問記(実際の訪問は1996年のこと)」を載せている.おそらく三浦氏がBillrothの生家を披見すべくRugen島を訪問した最初の日本人であろう.

 余談になるが,現在Rugen島はフェリーでスウェーデンへ向かう際のドイツ側の出発拠点となっており,またドイツで一番人気のリゾートアイランドということもあり,夏には多くの海水浴客でにぎわうという.

日米で異なる外科レジデント教育・医療事情(第1回)

外科レジデントの1日

著者: 十川博

ページ範囲:P.902 - P.903

はじめに

 筆者は在沖縄米海軍病院インターンを経て,東京女子医大消化器病センター外科にて医療錬士を3年間務め,ハーバード大学の移植外科に研究留学した.現在はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の一般外科レジデント(現在4年目)として米国留学中であり,今回,日米での外科レジデント教育,医療事情について計12回にわたって連載する機会をいただいた.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 4

絶食は排ガスがあるまで必要か

著者: 松股孝

ページ範囲:P.904 - P.905

【絶食の効用】

 「断食はメスを使わない外科医」ともいわれる.絶食すると,熱ショック蛋白が誘導され細胞がストレスに強くなる.急性胆囊炎や急性虫垂炎も絶食療法によって急場をしのぐことができる.「食べすぎによる病気は絶食によって治る」はヒポクラテスの箴言である.しかし,手術侵襲後の絶食は危険である.

【早期経口摂取のメリット】

 消化管は単なる消化と吸収の場ではなく,手術直後で消化管の運動機能が衰えているときでも,グルタミンを基質とした活発な蛋白代謝が営まれている.高カロリー輸液を行っても,2日もすれば消化管粘膜の透過性が亢進してくる.排ガスが起こる前の術後40時間以内に開始する経口摂取を早期経口摂取といっているが,消化管粘膜の萎縮を防止するためにも必要である.

病院めぐり

利根中央病院外科

著者: 安藤哲

ページ範囲:P.906 - P.906

 利根中央病院は谷川連峰に面し,片品,利根,薄根川の三川が合流する赤城山の北麓,群馬県沼田市の中央に位置します.周辺を山に囲まれた群馬県の北端にあり,古くは医療の恩恵に浴さなかった地域でもあります.そうした状況のなか地域住民の強い要望を受けて昭和29年,前身である利根中央診療所が開設されました.経営母体は診療圏(人口約10万人)の世帯数の80%弱が加入する利根保健生活協同組合で,昭和37年には現在の利根中央病院の基礎が築かれました.関越自動車道沼田インターチェンジから車で5分の当院は,精神科病床(48床)を含めて330床の地域最大の中核病院であり,利根歯科診療所,片品診療所,とね訪問看護ステーション,介護老人保健施設とねを併設しています.現在,厚生労働省指定単独型臨床研修病院,県指定災害拠点病院,県指定小児救急輪番制病院などになっており,診療科目は21科,1日平均入院患者数290人,1日平均外来患者数1,070人で,救急医療では開設以来力を注いできた結果,救急車収容は第二次医療圏全体の43%を占めています.

 当科は現在,6名体制(2チーム制)で診療に当たっています.2次救急の受け入れをはじめ,マムシ咬傷などの農山村特有の疾患,またスキー場を多数抱えているため,整形外科などと共同してスノーボード外傷にあたるなど多彩な外科系疾患に対応してきました.一日の外来患者数は約50名,ベッド数40床,2003年の入院患者数1,175名の当科で扱う年間手術件数は約350件,2003年の全身麻酔症例は244例,緊急手術は82例でした.2003年の主な手術は,食道癌3例,肺癌12例,胸部良性疾患17例,胃癌28例,結腸癌16例,直腸癌11例,消化管良性疾患21例(胃・十二指腸潰瘍穿孔5例),虫切38例,肝・胆・膵・脾悪性疾患8例,胆石症40例,イレウス6例,ヘルニア73例,乳癌13例などです.2001年から肺外科の郡も加わり,胸部手術も増加してきました.鏡視下手術も胆石はもちろん胃,結腸,肺と様々です.竹内のまとめた統計によると胃癌の膵脾合併切除は減少してきました.救急医療は関原,緩和医療は原と多士済済です.施設認定では日本外科学会,日本消化器外科学会,日本大腸肛門病学会,日本乳癌学会,日本消化器病学会などがあり,呼吸器外科学会の関連施設でもあります.

中野総合病院外科

著者: 石田孝雄

ページ範囲:P.907 - P.907

 当院は,昭和6年に新渡戸稲造らによって設立された東京協同組合病院をその源としています.戦後,中野周辺の地域医療に専念しました.地域に密着しながら発展し,幾星霜を経て現在の病院に至っています.国民皆保険制度のなかった戦前や戦後の混乱期には一定の存在意義がありましたが,皆保険制度の確立とともに中野を中心とした地域の中核病院に変身し,不偏不党の総合病院として日夜診療に邁進してきました.当院は地域支援病院であり,さらに東京都災害後方病院および臨床研修指定病院としても年々充実を重ねています.病床は300床で,うち外科は50床を占めます.附属施設として,透析センター,老健施設,看護専門学校などがあります.中野区を中心として新宿,練馬,杉並,世田谷からも患者さんを受け入れています.

 外科のスタッフは総勢7名であり,主に東京医科歯科大学腫瘍外科からローテーターを受け入れています.平成15年度の手術件数は718例で,平均在院日数は15.6日です.主な全身麻酔手術は食道癌5例,胃癌41例,大腸癌30例,直腸癌21例,乳癌33例,胆道疾患58例,肝切10例,PD5例,大血管手術10例でした.また,学会発表は12件,誌上発表は5件でした.

臨床外科交見室

Sentinel node navigation surgery(SNNS)発展史瞥見

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.908 - P.908

 最近,特に乳癌の外科治療の面においてsentinel node navigation surgery(以下,SNNS)という新機軸の外科手術が普及してきているが,従来,このSNNSという手技の嚆矢は1977年のCabanas1)であるとされてきた.1977年,Cabanas1)は陰茎癌の手術に際してまず「センチネルリンパ節(sentinel lymphnode:以下,SLN)生検」を行い,ここに転移がある場合にのみ,鼠径部のリンパ節郭清を行うという治療を提唱したのである.その後,1992年にアメリカのMortonら2)が悪性黒色腫において色素を用いて行うSLN生検とそれに引き続くSNNSを提唱して以来,癌の外科的治療においてSNNSという概念が定着し普及していったというのが定説になっているかと思う.

 しかし,文献を振り返ると,癌の周術期に色素を用いて所属リンパ節を染めようとするアイデアは1950年にイギリスのWeinbergら3)が胃癌の手術においてすでに提唱していたのである.そして,諸家が指摘しているように筆者もこれがSNNSというアイデアの嚆矢と考えていたが,最近になって,胃癌の手術に際して「周術期にリンパ節を染めて,これを目安に郭清を行う」とするアイデアがWeinbergより前に提唱されていたことが判明した.1946年の日本外科学会誌(第47回)に九州大学第1外科の石山福二郎が「胃癌手術の再検討」という抄録文を発表しており,このなかに「色素を用いてリンパ節の生体染色を行う」ことを明言している(図1).胃癌手術の大家といわれたMikuliczに師事した三宅速の跡を嗣いだ石山は,三宅速による創設以来,同教室が経験した3,000例を超える胃癌の治療成績をまとめるとともに,治療成績を向上させるための工夫として「色素によるリンパ節の生体染色」を導入したと報告したのである.すなわち,「墨汁を注入するとリンパ系の広がりが明瞭となり,かつ墨汁に染まったリンパ節には転移の可能性がある」という観点に立って,系統的にかつ徹底的にリンパ節を摘出(郭清)するように努めたとしている.以後,石山一門はこのような手術を「廓清的切除術」と呼んだが,「リンパ節を染める(具体的には,開腹と同時に癌が存在する部分の周辺の漿膜下5か所に墨汁を打ち込む方法)」という手技についてはこれといって命名していない.しかし,この「墨汁によるリンパ節の生体染色」は内容的には近年言われ出したSNNSの概念とほぼ同じで,その走りであると言ってよい.

臨床報告・1

膵頭部仮性囊胞内仮性動脈瘤破裂の1治験例

著者: 神保雅幸 ,   遠藤忠雄 ,   郷右近祐司 ,   関根義人 ,   田澤秀樹 ,   菅井有

ページ範囲:P.909 - P.914

はじめに

 膵仮性囊胞に伴う合併症のなかで出血は稀ではあるが重篤であり,ときに致死的でもある1~5)

 今回,仮性動脈瘤が膵頭部仮性囊胞内に破裂出血し,消化管出血を呈した腎癌併存の1例を経験したので報告する.

腎癌術後14年目に発見された小腸・膵同時転移の1例

著者: 白潟義晴 ,   佐藤元彦 ,   澤田尚 ,   福山学 ,   西川秀文 ,   水野恵文

ページ範囲:P.915 - P.918

はじめに

 腎癌はしばしば肺,骨,肝,リンパ節などに転移するが小腸,膵への転移は稀である.

 今回,われわれは腎癌術後14年目に小腸および膵に同時性に転移したと考えられた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

硬膜外麻酔下に手術を施行し得た超高齢者胆囊捻転症の1例

著者: 川口正春 ,   黒田浩章 ,   福本和彦 ,   山崎将典 ,   谷口正美 ,   松田巌

ページ範囲:P.919 - P.923

はじめに

 胆囊捻転症は,胆囊頸部の捻転によって胆囊の血行障害が生じ壊死をきたす疾患であり,緊急手術を必要とする急性腹症として鑑別を要する1,2)

 今回,われわれは超高齢者の胆囊捻転症に対して硬膜外麻酔下に手術を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.

保存的治療で治癒し得た難治性小腸膣瘻の1例

著者: 清水研吾 ,   西森英史 ,   秦史壮 ,   古畑智久 ,   八十島孝博 ,   平田公一

ページ範囲:P.925 - P.928

はじめに

 腸管腟瘻は腹腔内感染症や悪性腫瘍,放射線療法後,消化管手術後などに生じ得る病態で,一般に難治性であり,外科的な治療が選択されることが多い1).しかしながら放射線療法や術後に形成された腸管膣瘻においては,腸管の骨盤腔内への落ち込みに加え高度の癒着によって腸管を大量に切除せざるを得ない症例が多く,また,術後合併症の頻度も低くない.

イレウスを呈し大腸癌との鑑別に難渋した多発結腸憩室症の1例

著者: 佐治攻 ,   田中圭一 ,   青木一浩 ,   佐藤工 ,   萩原優 ,   品川俊人

ページ範囲:P.929 - P.932

はじめに

 近年,大腸憩室症は増加してきており,その原因として,食生活の欧米化による食物線維摂取量の不足や日常生活におけるストレスの増加,運動不足による肥満などが挙げられている.この憩室症の増加は欧米型の左結腸型ばかりでなく東洋型ともいえる右結腸型にも認められている1)

 今回,われわれはイレウス症状で発症し,術前に大腸癌との鑑別に難渋した左側結腸憩室症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

2つの組織像を有し巨大囊胞を伴う興味ある胃GIST(committed type)の1例

著者: 佐藤正幸 ,   蘆野吉和 ,   宮澤正紹 ,   武藤淳 ,   児山香 ,   箱崎半道

ページ範囲:P.933 - P.937

はじめに

 胃原発のgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)はときに囊胞変性を伴って巨大化し,壁外発育を示すために仮性膵囊胞などに類似の臨床所見を呈することが知られている1,2)

 今回,われわれは胃壁とわずかに連続するのみで壁外発育を示し,加えて出血に起因する巨大な囊胞形成をきたし,病理学的には2つの組織像を有する胃GISTの1例を経験したので報告する.

臨床報告・2

腎静脈との連続性を認めた後腹膜漿液性囊腫の1例

著者: 西岡宏彰 ,   中林洋 ,   木野茂生 ,   谷口雅輝 ,   北寿美友

ページ範囲:P.940 - P.942

はじめに

 後腹膜囊腫は比較的稀に報告されているが,このうち漿液性囊腫はさらに少ない1).われわれは,有症状症例に対して摘出手術を施行し,囊胞壁が左腎静脈に連続し,起源が中腎組織由来と考えられた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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