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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科59巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

特集 乳癌初回の診療:ガイドラインと主治医の裁量

〔序文〕ガイドラインに基づく乳癌初回診療のトータルパス

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.1097 - P.1101

はじめに

 乳癌診療のガイドラインがインターネットなどを通じて一般国民にも公開される日が近い.ガイドラインの位置づけについて,医療の供給側と受ける側との間に理解の乖離があれば,その分,医療の現場は混乱するであろう.また,ガイドラインが法律に準ずるようなものと解釈されれば,それに則っていれば医療訴訟にならないが,ガイドラインからはずれた診療でその結果が悪ければ医療側が訴訟に負けるというシナリオが描かれてしまう.医療の充実に向けてガイドラインをフルに活用する姿勢が求められているはずの医療者であるが,医療訴訟に結びつけて考えてしまう向きもあるように見受けられる.

 こうした受け身的な姿勢を医療者の側から払拭したいという願いもあって組まれたのがこの特集である.ガイドラインが世に出る直前のこの時期に,また,乳癌病態の多様性についての認識が進むなかで,読者諸氏にはガイドラインの作成姿勢を理解し,乳癌初回診療が関わる部分についての要点と,医師の裁量として許容される範囲について各筆者の本音部分を汲み取り,幅をもって乳癌診療を工夫していただきたいと思う.

 さて,この序文のタイトルを「乳癌初回診療のトータルパス」とした事由はつぎの通りである.病院や医師によって格差の大きいわが国の医療を標準化するために,EBM実践を支援するガイドラインと同等に導入すべきものがクリニカルパスであり,限られた医療資源の枠を考えればパスは必需品である1).EBM実践の支援ということでパスとガイドラインとは不分離の関係にあり,よき臨床を実践するシナリオを描くには,パスの各ステップにガイドラインの要素が適切に組み入れられていることの確認が必要である.また,パスは入院だけでなく,外来や後方医療施設などの連携をも包括したトータルパスの考え方が求められる.ガイドラインを内包したトータルパスを拠り所に医療を充実させるという方向性を,ほかの分野の模範になるように医療のモデルである乳癌診療の場で確認していただきたいと願うものである.

術前診断プロセス―標準化とバリアンス

著者: 中村清吾

ページ範囲:P.1103 - P.1107

 要旨:わが国でも,質の高いエビデンスをもとに専門家が集まり,一定のコンセンサスを経てガイドラインを作成するという道筋ができてきた.また,ガイドラインをもとにクリニカルパスが作成されている場合は,個々の診療行為ごとにバリアンスを収集し解析することが可能である.この結果は,つぎのガイドライン改定や,新たな臨床試験をデザインするうえで大いに参考になるであろう.大規模臨床試験が次々と計画され,数多くの学会で日々新たなエビデンスが生まれ出る今日,これらをリアルタイムにガイドライン上に反映し,一般臨床家に広く浸透させていくためには,IT(information technology)を駆使した専任組織とその活動を支える継続的な財源の確保が必要である.薬剤に関しては基本的な枠組みが構築されているが,診断や手術に関しても同様に早急な取り組みが必要と思われる.

ネオアジュバント療法―患者のメリット・デメリット

著者: 渡辺亨

ページ範囲:P.1109 - P.1115

 要旨:乳癌は,局所疾患であるとの考え方から全身疾患であるとの考え方にシフトしてきた.その背景には,過去100年間の臨床経験と40年の臨床試験による検証がある.全身疾患であるとの認識に基づき,局所治療よりも全身治療が重視されるようになった.しかし,症例によっては局所疾患にとどまっている場合もあり,症例ごとに局所治療と全身治療のいずれを重視すべきかを見極める努力が必要である.診断直後の初期治療として,抗癌剤やホルモン剤などの全身治療および手術や放射線照射などの局所治療から,どれを,どの順番で採用するか,という全体構成を行い,全身疾患と考えられる症例には最初に全身治療である抗癌剤治療を行うことで,微小転移の撲滅と原発病巣縮小に伴う質の高い乳房温存療法が可能となった.

ネオアジュバント療法―薬剤選択とその根拠

著者: 佐伯俊昭 ,   高嶋成光

ページ範囲:P.1117 - P.1122

 要旨:術前補助療法の臨床試験の目的は乳癌補助薬物療法のベストレジメンの開発と考えられ,新しいレジメンの初回治療における奏効率と生存期間の改善および安全性を同時に検討することが可能である.術前補助療法の利点として明らかなのは,(1)生命予後に関連する全身治療の早期開始が可能なこと,(2)原発巣摘出前に微小転移巣の治療を行えること,(3)腫瘍組織内の栄養が保持された状態で化学療法が行えること,(4)薬剤感受性が確認できること,(5)原発巣および腋窩リンパ節転移のdown stagingによって縮小手術が可能であること,(6)乳房温存率を向上させられること,(7)病理学的CR症例の予後判定が可能であること,などである.高嶋班の「乳がん診療ガイドライン」では,術前補助化学療法に関するリサーチクエスチョンが3項目取り上げられている.ガイドラインはエビデンスによって作成されてはいるが,次々と公表される新しい臨床試験の結果には対応できていない.

乳房温存手術における乳腺切除範囲の決定

著者: 岩瀬拓士

ページ範囲:P.1123 - P.1128

 要旨:乳房温存手術における乳腺の切除範囲決定に際しては,マンモグラフィや超音波検査のみならず,必ずMRIやCTなどの造影検査を併用して,乳管内進展を含めた癌の拡がりを正確に把握することが重要である.癌の拡がりに関して疑わしい病変が存在するときは積極的に画像ガイド下針生検や細胞診を行い,切除断端を陰性にできるような切除線を決定すべきである.乳管内視鏡を用いた乳頭方向への進展診断や,非触知乳癌に対する造影CTとシェルを用いた切除線の決定方法は診断精度の向上とともに今後,有用な方法になると思われる.

乳房切除術の適応とその根拠―歴史的考察を含めて

著者: 清水哲

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 要旨:乳癌の手術の歴史を振り返りながら,現在の乳房切除術の適応について述べた.19世紀半ばの腫瘤切除術しか行われなかった時代から,Halstedがradical mastectomyを考案して局所再発率が飛躍的に向上し,Halstedian theoryに基づいてmastectomyは一躍,乳癌の治療の主役となった.しかし,やがて,乳癌の予後は血行性転移が重要であると考えるalternative theoryが様々なRCTによって支持されるようになると,乳房温存療法と術後補助療法にその主役の座を譲ることになり,現在では,mastectomyは優れた局所コントロールができる治療法と考えられている.

センチネルリンパ節生検の現状と展望

著者: 神野浩光 ,   池田正 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1133 - P.1139

 要旨:乳癌におけるセンチネルリンパ節生検同定法として,色素法,RI法および併用法があるが,習熟すればいずれの方法でも問題はない.RIコロイドの粒子径に関しては200nmをやや超える程度のものが優れているとする報告が多いが結論は出ていない.トレーサーの注入部位に関しては,皮下と腫瘍周囲の乳腺実質の併用がよいと思われる.術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検の有用性は証明されていない.センチネルリンパ節の転移診断には迅速組織診と捺印細胞診が用いられており,どちらも有用である.センチネルリンパ節における微小転移の臨床的意義は確立していない.胸骨傍センチネルリンパ節生検は正確なステージングに有用であると思われるが,いまだ前臨床段階である.

腋窩リンパ節転移陽性例の至適郭清範囲

著者: 稲治英生 ,   柄川千代美 ,   菰池佳史 ,   元村和由

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 要旨:腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対する至適郭清範囲として,乳がん診療ガイドライン(厚生労働省高嶋班報告書)では「局所制御のために腋窩リンパ節(レベルⅠ,Ⅱ)と鎖骨下リンパ節(レベルⅢ)までの郭清を行うことが望ましい(グレードB)」とされている.ガイドラインとしては適切な表現であるが,レベルⅢの郭清となるとそのイメージする内容は医師間でも微妙に異なる.また,乳房温存手術では技術的にレベルⅢの完全郭清が可能かどうか自体も疑問である.臨床的転移陽性例はまだしも,センチネルリンパ節生検での微小転移例なども,どこまでの郭清が至適範囲であるかは今後の課題である.つまり,リンパ節転移陽性乳癌の郭清範囲としてレベルⅡまでは必須としても,レベルⅢ郭清については臨床病期や術中所見に応じて主治医の裁量によって臨機応変に対応しているのが実情であろう.

術後補助化学療法の適応と標準的レジメン

著者: 福島久喜 ,   松田実 ,   伊坂泰嗣 ,   寺岡秀郎 ,   木川田弥生 ,   呉屋朝幸

ページ範囲:P.1145 - P.1150

 要旨:乳癌治療のグローバルスタンダードは,手術および術後補助療法の集学的治療から成り立つ.術後補助化学療法の適応は再発リスクによって決定される.高リスク群にはCAFを中心にしたアンスラサイクリンを含む多剤併用が,低リスク群や安全性を重視するときはCMFや経口抗癌剤が勧められる.わが国で普及している経口抗癌剤は,簡便さ,安全性,医療費を考慮すると今や世界が注目する標準的レジメンの1つである.術後補助化学療法は,乳癌患者に標準的レジメンを提供するとともに,医療現場の安全性も含め主治医の裁量に大きくかかってくる.

術後補助ホルモン療法の適応と標準的レジメン

著者: 園尾博司

ページ範囲:P.1151 - P.1158

 要旨:術後補助ホルモン療法の適応と標準的レジメンについて,最新情報を含めて概説した.補助ホルモン療法の適応は,IHC法によるER, PgRが推奨されるが,判定法の標準化が望まれる.現時点ではHER1, HER2の発現例はホルモン療法の適応外にはならない.標準的レジメンはSt. Gallenコンセンサス会議ガイドラインに従って,閉経前はLHRHアゴニストが中心となり,閉経後はタモキシフェンが用いられる.閉経後では,(1)アナストロゾールはタモキシフェンより良好な健存率を示し,(2)タモキシフェン→アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール,エクセメスタン,レトロゾール)切り替えはタモキシフェン継続より良好な健存率を示すので,近い将来,アロマターゼ阻害剤が閉経後の標準薬剤となるであろう.

乳癌初回治療における放射線治療―ガイドラインと主治医の裁量

著者: 光森通英

ページ範囲:P.1159 - P.1163

 要旨:乳癌診療ガイドラインの整備は,わが国の乳癌診療レベルの底上げをもたらすことが期待される反面,ガイドラインの科学的根拠とされる研究が行われた状況を考慮せずに結論だけを取り上げて盲従すると,思わぬ落とし穴に陥ることになりかねない.たとえば,乳房温存療法におけるブースト照射の必要度は切除範囲や病理診断の精度・断端陽性の判定基準によって変化するし,乳房切除術術後照射における胸壁照射の必要性については,放射線治療が生存率に寄与したとされる対象群に匹敵する局所再発率を持つサブグループをわが国で独自に定義する必要がある.科学的根拠とされる研究から,自施設の治療体系のなかに適用が可能なエッセンスを抜き出して応用する過程に専門医の裁量が活かされるべきである.

カラーグラフ 肝・膵・脾内視鏡下治療最前線・6

腹腔鏡下Hassab手術

著者: 富川盛雅 ,   小西晃造 ,   山口将平 ,   金城直 ,   前原喜彦 ,   橋爪誠

ページ範囲:P.1091 - P.1096

はじめに

 食道胃静脈瘤に対する治療法は,つねに新しく開発された最先端技術を応用しつつ発展してきた.内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)やバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(Balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)はその代表であると言える.これらの優れた治療法が登場した結果,非手術療法に大きな注目が集まり,食道胃静脈瘤に対する外科治療はほかの治療法との併用療法として,あるいは内視鏡治療抵抗性の症例に対してのみ選択されることが多くなった1,2)

 しかし,非手術療法にも問題点がないわけではなく,最近は(1)一度で確実かつ長期的な治療効果が得られる,(2)長期にわたる治療が必要な内視鏡治療に比べてコストダウンが実現できる,などの利点を有する外科的治療の役割が再評価されている.

 Hassab手術は食道や胃の離断を行わず,胃周囲および食道下部の広範囲な血行遮断と脾摘を行う術式で,胃静脈瘤の標準術式とされている3).さらに,(1)門脈血行動態からみて合理的である,(2)侵襲が比較的軽度である,(3)脾機能亢進も同時に解消できる,などの利点も有しており4),食道胃静脈瘤に対する手術療法のなかでは広く行われるようになった.

 しかし,本術式の対象となる症例は多くの場合,耐術能の低下した肝硬変を伴っているため,外科治療特有の侵襲を少しでも低減する工夫が望まれる.われわれは内視鏡下手術の低侵襲性に着目し,1994年から肝硬変に合併した胃静脈瘤に対し腹腔鏡下Hassab手術を行っており5,6),最近では手術手技の安定化や新しい手術機器の導入により良好な成績を収めている.

 本稿では,本術式における手技および治療成績について述べる.

臨床外科交見室

リンパ学研究史瞥見

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 近年,「sentinel node navigation surgery(SNNS)」の導入によって,あらためて「lymph(リンパ)」が脚光を浴びている.これを反映するかのように,色々な雑誌において「SNNS」が特集されているが,リンパ学の歴史からみると誤った認識と思われる記述が見受けられる.それは本誌(臨床外科)の2004年の第59巻5号(特集:Sentinel node navigation surgery―新たなる展開)にみられる記述で,具体的には,鹿児島大学の上之園らの「Sentinel nodeトレーサーの特性に関する新知見」という論文の冒頭にある「トレーサーを用いたリンパ流の研究は,1622年にGasparo Aselloが色素を用いてイヌの腸間膜リンパ管を描出した報告が最初といわれる」という一節である.

 Gasparo Aselli(1581~1625)(図1)は,「血液循環説」を唱えたイギリスのWilliam Harveyと同世代で,パヴィア大学(パドア説もあり)に学んだのちにミラノ大学に奉職(「外科医」説もあるが,当時の解剖学教授は外科教授を兼務することがほとんどであった)するところとなり,1622年(1623年説,1627年説もある)に現在の腸間膜リンパ管に相当する構造を「lacteal vessel=chyliferous vessel(乳び管)」として報告した(図2).Aselliが活躍した17世紀は,Vesaliusのあとを受けて人体解剖が盛んに行われるようになったことから「解剖学の世紀」と言われるほど,解剖学上の新知見が飛躍的に増加した時期であった.そういう時期に,Aselliは摂食後のイヌを「生体解剖(vivisection)」している最中に,腸間膜表面に従来から知られている血管系とは異なる「白色の線条構造」を認めたのである.当初は神経かと考えていたが,よく観察すると神経系とも違う構造であることが判明した.また,絶食中のイヌではそのような白色の線条構造は認められなかったとしている.このような観察結果から,Aselliはこの「白色の線条構造」を「venae albae et lacteae=chyliferous vessel(乳び管)」と称して報告したのである.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問

6.胆囊管の貫通結紮は必要か

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1166 - P.1167

【素朴な疑問】

 重要な血管を閉鎖する際には,二重結紮や貫通結紮が行われる.胆石症の手術で胆囊を切除する際にも,胆囊管の断端は貫通結紮で処理するのがよいとされてきた.ところが腹腔鏡下手術の時代になると,胆囊管の断端をクリップで閉鎖し,二重結紮や貫通結紮どころか,糸による結紮そのものが行われなくなっている.腹腔鏡下手術の時代であっても,胆囊管の処理に貫通結紮を行うべき場合があるのだろうか.胆囊管の貫通結紮はほんとうに必要だったのだろうか.

7.手術前の剃毛は必要か

著者: 堀孝吏 ,   平田泰 ,   坂本昌義

ページ範囲:P.1168 - P.1169

【はじめに】

 術野における体毛の存在は雑菌混入の原因とされ,20世紀初頭に確立した術前の体毛処理は,範囲や方法の変遷はあるものの現在も施行されている1).確かに,術野に多量の体毛があると一見不潔に見えるし,ドレープや術布の貼付を妨げ,縫合時には体毛を巻き込み,創傷治癒の妨げになりそうにも思える.しかし,科学的な考え方が重要視されるようになった現在,確たる科学的根拠もなしに必要性がない行為が行われているとしたら問題である.また,処理方法や時期についても,様々な科学的検証が行われてきつつある現在,術前の体毛処理を再考するよい機会であると考える.

病院めぐり

小張総合病院外科

著者: 冨岡一幸

ページ範囲:P.1170 - P.1170

 野田市(人口約15万人)は千葉県の西北端に位置し,利根川と江戸川の悠久の流れを東西に,北は旧 関宿町(合併して現 野田市),南は柏市,流山市と隣接しています.当院の歴史は,昭和17年に初代理事長の小張志郎先生が一般内科診療所を開設したときから始まります.昭和26年に結核病棟を増設して医療法人圭春会小張病院を設立し,さらに昭和45年,51年と増床および改築を重ねて50床の救急病院となりました.昭和60年には,現在地の国道16号線沿いに「24時間365日二次救急医療」を旗印に192床を新築・移転し,平成3年,さらに326床に増改築を行って小張総合病院と改称しました.現在,当院は千葉県東葛北部地区の中核基幹病院として臨床研修指定病院の指定を受け,「医療内容の充実と地域に密着した心の医療の実践」を基本理念に全職員一丸となって日々頑張っております.

 診療科は19科,常勤医40名,研修医2名,1日の外来患者数は約850名です.救急患者も年々増加し,平成15年の救急搬送件数は約3,000件に達し,時間外の救急患者には各科オンコール体制で速やかに対応しています.外科は,一般・消化器外科,心臓血管外科があり,日本大学医学部消化器外科,東京女子医科大学消化器病センター外科,順天堂大学医学部心臓血管外科の関連病院として医師を派遣していただき,一般・消化器外科は冨岡副院長,吉井部長,心臓血管外科は山崎医長の下,総勢7名のスタッフで診療にあたっています.専門医修練施設としては,日本外科学会,日本消化器外科学会,日本胸部外科学会などの認定施設になっています.また,当院が地域の二次救急医療を担っているということから,外科の救急搬送患者数は年間約550件前後あります.

刈羽郡総合病院外科

著者: 若桑隆二

ページ範囲:P.1171 - P.1171

 当地,柏崎市は新潟県の海岸線のほぼ中央に位置する日本海側の景勝地で,海の幸はもちろん,山の幸,そして何より旨い新潟米と三拍子揃った食の宝庫であります.当病院は昭和12年10月に北越医療購買利用組合刈羽郡病院として20床で開設し,昭和27年5月に新潟県厚生農業協同組合連合会刈羽郡病院へ組織変更されました.平成3年5月に北陸自動車道柏崎インター近傍に移転し,現在に至っています.

 医療人口は柏崎市と周辺人口を併せ約12万人弱で,当病院は診療科15科,病床数440床(精神科65床を含む),1日の外来患者数約1,200名規模の地域唯一の総合病院であり,地域の救急の9割は当院に搬送されます.一方で,当地域は人口10万人当たりの医師数が118.8人と県平均を大幅に下回る慢性的な医師不足の状態にあり,当病院医局も例外ではありません.また,当地域内には柏崎刈羽原子力発電所があり,原子力防災計画に基づく一次救急放射能汚染感者の受け入れ病院にもなっています.平成15年8月には日本医療機能評価機構の基準認定を取得し,平成16年4月からは卒後臨床研修指定病院として研修医を迎えるなど,病院体制もハード,ソフトの両面から着実に整備されてきています.

近代腹部外科の開祖:Billroth

ビルロート余滴・21―佐藤進の「外科通論」

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1172 - P.1175

 明治7年の秋から翌明治8年の夏までウィーンにおいてBillrothに師事した佐藤進(図1)は帰朝後,Billrothの「Die allgemeine chirurgische Pathologie und Therapie in 50 Vorlesungen」(図2)を底本として順天堂において臨床講義を行い,これを講義録としてまとめて明治9年に「外科通論」(図3)を出版した.そして,この外科通論をBillrothに謹呈したところ,以下に示す丁重な礼状が送られてきたのである(図4).すなわち,「貴君からの懇ろな書簡確かに拝読しました.また,貴君の行った講義記録や貴君が施行した手術記録をお送りいただき,深く感謝しています.ちょうど当クリニックにおいて勉学中の橋本綱常君に翻訳してもらった次第です.小生の研究結果が広く世界中に拡まり,さらに小生の研究が役立って日本の患者に多くの恩恵をもたらしているようで,非常に喜ばしく思います.今後とも貴君の手術がより多くの患者に恩恵をもたらすように祈っています.当クリニックでもリスター氏創傷療法を導入しましたが,非常に満足のいく結果を得ています.つきましては,貴君も使ってみてはいかがでしょう.スプレー用には1%濃度のものを,海綿や器械の消毒には3%を使っています.5%液や2%液では創周囲の皮膚を痛めてしまうようですので,注意すべきです.遠く離れていますが,今後も貴君の近況や手術経験について色々と知らせて下さい.最後になりましたが,小生の最新刊(第八版)の『allgemeine chirurgische Pathlogie und Therapie』を送ります.今後とも末永い御交誼をよろしくお願いします.

海外医療事情

ニュージーランドの医療事情

著者: 北川博昭

ページ範囲:P.1176 - P.1179

はじめに

 ニュージーランドは大きな2つの島,北島と南島,そしてそれを囲む多数の島々からなり,総面積は約268,000km2であり,北海道を除く日本全体の面積とほぼ同じである.国の総人口は日本の約1/30で393万人(2002年)にすぎない.この少ない人口に比べて羊の数はわが国の総人口に匹敵するほどである.すなわち首都である北島の最南端の地,Wellingtonを含め,農地・牧草地以外の都市部の人口が国全体の3/4を占め,その総人口の3/4に当たる住民の居住区は北島に集中している.筆者は1996年から1年間,小児外科医としてOtago大学Wellington病院に勤務したが,その経験をもとにニュージーランドの医療事情について述べる.

日米で異なる外科レジデント教育・医療事情(第3回)

M & Mカンファレンス

著者: 十川博

ページ範囲:P.1180 - P.1181

はじめに

 前回は米国の“スタンダードな治療”について述べた.病院内で適切な治療がなされたかどうかについての検証はM&M(morbidity and mortality)カンファレンスで検討される.M&Mは米国の外科トレーニングにおいて非常に重要な教育的役割を担っており,ある意味で米国の外科研修を象徴しているように思われる.今回はそのM&Mについて述べる.

目で見る外科標準術式・51

低位筋間痔瘻に対する切開開放術式

著者: 東光邦 ,   草間香

ページ範囲:P.1183 - P.1190

はじめに

 低位筋間痔瘻は日常最も多く遭遇する痔瘻である.瘻管の走行部位によっては肛門括約筋の機能を損なわないように括約筋温存術式(瘻管くりぬき術など)が選択されることがあるが,後方の痔瘻では根治性を考慮し,通常切開開放術式が行われる.低位筋間痔瘻のほとんどの症例ではデイサージェリーで手術可能であり,当院では仙骨硬膜外麻酔下に手術を行っている1).当院での手順に沿って,低位筋間痔瘻の一般的な術式である切開開放術式の手技について述べる.

臨床報告・1

肛門周囲Paget病変を伴った肛門腺由来の肛門管癌の1例

著者: 花井雅志 ,   井垣啓 ,   青野景也 ,   津金恭司

ページ範囲:P.1191 - P.1194

はじめに

 肛門管癌は大腸癌の2~3%で1),そのうち肛門腺由来(以下,本症)は7.4%と稀である2).さらに,肛門周囲Paget病変を伴った症例は少ない.

 今回,われわれは肛門周囲Paget病変を伴った肛門腺由来の肛門管癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

7年の経過観察ののち消化管出血で発症した十二指腸原発GISTの1例

著者: 松岡隆久 ,   大楽耕司 ,   岸川正彦 ,   広橋善美 ,   森倫人

ページ範囲:P.1195 - P.1201

はじめに

 近年,消化管gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)は間葉系腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor:GIMT)の一亜型の分類され,分子生物学的研究の進展とともにその報告例も多くみられるようになった1,2).今回,われわれは発症部位としては比較的稀とされる十二指腸(球部)原発のGISTを経験したので,わが国における報告例の検討とともに若干の考察を加え報告する.

十二指腸GISTの1例

著者: 黒住和史 ,   仲原正明 ,   畑中信良 ,   赤松大樹 ,   辻本正彦 ,   中尾量保

ページ範囲:P.1203 - P.1206

はじめに

 現在のgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)の定義は初期の定義から変遷している1,2).十二指腸間葉系腫瘍で,現在の診断基準に合う免疫組織学的検索のうえでGISTと報告しているものは多くない3,4)

 われわれは十二指腸原発GISTを経験したので,文献的考察を含め報告する.

トラフェルミンが奏効した広範囲外傷性皮膚欠損の1例

著者: 大内孝幸

ページ範囲:P.1207 - P.1209

はじめに

 トラフェルミンは塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:以下,bFGF)製剤で,褥創や皮膚潰瘍に適応のある薬剤である1)

 今回,筆者は広範囲外傷性皮膚欠損に対してトラフェルミンが奏効し,植皮せずに治癒し得た1例を経験したので報告する.

CA19-9産生脾囊胞の1例

著者: 奈賀卓司 ,   山代寛 ,   池口正英 ,   戸田博子 ,   元井信

ページ範囲:P.1211 - P.1214

 近年の画像診断の進歩によって,脾囊胞の報告例は増加している.これに伴い,CA19-9産生脾囊胞の報告例が散見されるようになってきたが,いまだ比較的稀な疾患である1~8)

 今回,われわれはCA19-9産生脾囊胞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸重積の画像所見を呈した原発性小腸癌の1例

著者: 上田順彦 ,   大場大 ,   根塚秀昭 ,   八木治雄 ,   山本精一 ,   礒部芳彰

ページ範囲:P.1215 - P.1219

はじめに

 原発性小腸癌(以下,小腸癌)は消化管悪性腫瘍のなかでも発生頻度は低く,特異的な臨床症状にも乏しいため,早期に診断することは困難な症例が多い1).今回,通過障害の症状の軽快と再燃を繰り返し,画像診断で腸重積の所見が捉えられた小腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腹壁膿瘍で発症した下行結腸癌の1例

著者: 安藤拓也 ,   山崎雅彦 ,   深尾俊一 ,   中野浩一郎 ,   呉原裕樹 ,   堅田武保

ページ範囲:P.1221 - P.1225

はじめに

 大腸癌が隣接する他臓器へ浸潤する症例はしばしばみられるが,腹壁膿瘍を合併する症例は稀である.今回,われわれは腹壁膿瘍で発症した下行結腸癌の1例を経験したので報告する.

臨床報告・2

S状結腸癌術後に局所再発から結腸粘膜下腫瘍様形態を呈した1例

著者: 五井孝憲 ,   本多桂 ,   片山寛次 ,   山口明夫 ,   平泉泰

ページ範囲:P.1227 - P.1229

はじめに

 結腸癌術後の症例における局所再発は,肝転移や肺転移と並んで重要な再発形式の1つである1).今回,S状結腸癌術後に尿管周囲の後腹膜から散在性に再発をきたし,結腸に浸潤したのち,粘膜下腫瘍様形態を呈した稀な症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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