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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科6巻11号

1951年11月発行

雑誌目次

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手術後の水分食塩貯留

著者: 澁澤喜守雄 ,   稻生綱政

ページ範囲:P.505 - P.510

まえがき
 ふつう外科手術ののち第3日ごろまでは明かに食塩の尿中排泄が減少し,またしたがつてナトリウムの細胞外貯留,細胞外液相拡張が著明である.術後,リンゲル液または食塩水を多量に投與すれば,いたずらに細胞外液相を拡張せしめ,肺合併症などを招くにすぎない1).したがつてColler2)は術後食塩水を與えてはならないといゝ,またわれわれは,食塩平衡から計算された量を添加しつゝブドウ糖を主として,3日間の蓄積平衡を30〜50cc/kg正に保たれる程度の水分補給を理想的とすべきであろうことを強調した3)4).電解質が全く添加されなければ,一方ではhypotonc syndrome5)などを,他方では低カリ血症などを招来する危險があるからである6)
 このような術後数日の著しい水分食塩の貯留は副腎皮質内分泌の亢進に皈するであろうことが想像され,Har—dy7)8)はエオジン好性細胞の消長からこれを窺い,またColler9)は高温高濕度の実驗による汗の電解質濃度の変化からこれを帰納しているのである.しかしながら,すでにわれわれが報告10)したように,胃切除・胆嚢剔除・直腸切断術などでは,17ケトステロイド,11オキシステロイドいずれから見ても手術当日あるいは手術第1日の副腎皮質内分泌は明かに術前より低下しているのである.このような副腎皮質機能低下にも拘わらず,これら手術後の水分食塩貯留はすでに当日からきわめて顯著である.

肺葉切除と肝機能

著者: 小谷彥藏

ページ範囲:P.511 - P.514

 胸部外科最近の発達は著しい.これは,麻酔法,術前術後処置の改善発達におうところが多い.然しながら,胸部に外科的な大侵襲を加えることは,生体機能に大きな変調を来す.ましてや,肺葉切除の如き,長時間の手術侵襲と,大出血を来す大手術においては然りである.この生体機能の変化を探究し,これに対して,適宜な処置を行うことは外科医に課せられた大きな任務である.
 私は,昭和25年8月より,昭和26年4月までに,福田外科で手術施行された肺葉切除例9例(肺結核8例,肺腫瘍1例),片肺全剔除例2例(肺結核2例),合計11例を主体として,術前術後と経過を追い,肝機能を檢査し,同時に肝庇護処置の肝機能に及ぼす影響,他種胸部手術の際の肝機能推移,及び腹部手術の肝機能を同じ樣に追究して,胸部手術と比較檢討した.

酸素飽和血輸血に就いて—胸廓成形術の場合

著者: 片岡一朗

ページ範囲:P.515 - P.517

 現在肺結核に於ける外科治療法の中で,胸廓成形術は最も広く各方面で行われており,その治療成績の進歩には著しいものがある.之には適應の選定並に手術手技の向上等による事は勿論であるが,新抗菌化学藥剤,手術前,手術中及び手術後に於ける補助治療法に負う処が大きい.これに関連して最も主要な事は最近シヨックの病態生理が明かにされ,手術時に於ける出血,酸素欠乏等の問題は興味を引く処である.
 胸廓成形術は手術による機械的損傷が極めて大きいので,從つて出血量は多くそれが爲め血圧降下,循環障碍等が惹起され,肝臟腎臟機能等にも重大な影響が及ぼされる.從つてシヨック或はシヨック準備状態が招来される事になる.又酸素欠乏は手術時麻醉のみで既に程度の差こそあれ常に現われる.其の上広範に亘る手術操作が加えられ殊に相当範囲の肺呼吸面が急激に非復元性に萎縮され呼吸機能が喪失されるのであるから酸素欠乏は必らず附随して現れる.此れ等を未然に防止する爲,最近は手術時に出血量が測定され,それを上廻る輸血が行われ又酸素吸入が行われている.米國などではBloodBankが設備されているので大量の輸血が容易であるし,又酸素は充分に設備された病院では病室へ酸素輸送パイプが引き込まれてあると云うことであつて,斯樣な処置により,シヨックは未然に防止され患者の恢復は驚く程早い理である.

骨性顎関節強直症に対する授動手術

著者: 舟生秀夫 ,   二宮以義

ページ範囲:P.518 - P.520

緒言
 関節の強直とは2個又は2個以上の骨関節端が其の中間に介在する組織の爲に癒着したる状態を言い,其の介在する組織の種類に依り繊維性強直,軟骨性強直,骨性強直とに区別される.然し関節の強直は毎常軟部組織の攣縮を伴うものなるが故に臨床上関節の攣縮と明瞭に区別する事は困難である.
 顎関節は大関節である股関節其他の関節に比し小なれども人類の一大慾たる食事に関耕し之が強直症は食物の攝取障碍,言語障碍及び所謂鳥顔と称せらるゝ小下顎症を惹起して患者の精神的打撃は尠なからず之が治療は誠に意義深きものである.

胃穿孔を起した嵌頓横隔膜ヘルニアの1例

著者: 奧田浩三 ,   木下公吾

ページ範囲:P.520 - P.522

緒言
 横隔膜ヘルニアは1579年Ambroise Paréの剖檢例の記載に始り,次いで1874年Leichtensternの最初の臨床診断更に1900年Hirschのレ線診断を経て其の後多数の報告あり.Schaenによれば1935年までは2000例を突破せりと云う.
 本邦に於ては武樋によれば明治35年以来,昭和18年既に70余例に上ると.

廻盲部及虫垂を嚢内容とした左側鼡蹊ヘルニア嵌頓の1例

著者: 飯田秀雄

ページ範囲:P.523 - P.525

緒言
 各種ヘルニア中最も多数を占めるものは鼡蹊ヘルニアで,Bergerは96%と云つている.ヘルニア内容として小腸,大腸,大網,其の他小骨盤内臟器等種々なものがあるが,廻盲部を内容としたものは1812年Scapaの記載が最初の報告である.左側鼡蹊ヘルニアの内容として廻盲部をみる事は比較的珍らしく,多くは乳幼児期にみられ16歳以後に於ては稀なものとされている.
 私は最近幼兒先天性左鼡蹊ヘルニア嵌頓の一手術例に於て,内容に,廻盲部及虫垂を見出したので,茲に報告する.

S字状結腸軸捻轉を伴える腸管結節形成に因るイレウスの1例

著者: 前田美行

ページ範囲:P.525 - P.528

緒言
 腸管結節形成に因るイレウスは極めて稀有な疾患とされているがS字状結腸軸捻轉症の屡々経驗されるフィンランド,ソビエートに於ては本症の報告例もかなり多く1932年にはKallioは自驗例77例に文献例を加え,161例を報告している.
 Küttner,Wilms(1903),Ekehorm(1903)等の諸家はこの複雜多岐な手術或は剖檢所見を基礎として其の成立機轉を推論し確固たる基礎を築きあげている.然るに本邦に於てはその例少く文献上僅かに12例を得たに過ぎない.最近私はその1例を陣内外科教室に於て経驗したのでこゝに報告し参考にする次第である.

色素性絨毛結節性滑膜炎に就て

著者: 宮崎三郞

ページ範囲:P.529 - P.532

 色素性絨毛結節性滑膜炎と言う名称は1941年Jaffe及び共同研究者1)により使用されたもので,本症は臨床的には関節の腫脹,疼痛及び多量の純血樣滲出液を認め病理的には腫瘍状の外観を呈する滑膜の絨毛状或は結節状増殖を主徴とする疾患である.
 始めて本症を報告したのはSimon2)と言われ,其後Heryrovsky, Moser3),Hartmann4),Mandle5),Fraryen—heim6),Hunter7),Klings & Sashin8),De Santo & Wil—son9),Galloway10)等により症例を加えて来たが,從来はその多彩な組織的所見の爲に慢性出血性絨毛性滑液膜炎,巨細胞性線維血管腫,線維血鉄素性肉腫,紡錘巨細胞肉腫,良性多型細胞性腫瘍,惡性多型細胞性腫瘍,黄色腫性巨細胞腫,良性黄色腫性巨細胞肉腫等と色々な名称の下に報告されて来たものである.Jaffe等は世界の文献より57例を集め之に自家症例20例を加えて考察を行い,1941年本症を表題の樣な名称に統一する事を提案した.我國に於ては1936年藤野11)により慢性絨毛性出血性膝関節炎として1例を報告されたものを見るのみである.本症を独立した疾患と認める事には疑問の点が多いが,この種の報告は尚少いので私の経驗した1例につきその概要を報告する.

人事消息

ページ範囲:P.532 - P.532

 ◇河合 直次氏 厚生省に新設された厚生科学研究補助金による結核療法研究協議会の外科的療法研究科会長となり,更に氏は後療法研究科会,細菌学的研究科会,病理学的研究科会等の委員をかねらる.
 ◇瀬尾 賓三氏 連合國軍要員健康保險組合下谷病院外科医長並に同組合板橋病院長を辞し,財團法人河端病院顧問に就任し同病院の外科診療に從事される.

大腿手術創に発生し與味ある経過をとれる肉腫の1症例に就て

著者: 近藤謙二 ,   貴島惟栄

ページ範囲:P.533 - P.535

1.前言
 最初大轉子結核を疑わしめ病理組織檢査によりても結核と考えれたるも後に至りて肉腫と診断されるに至れる比較的長い経過の後死の轉帰をとれる臨床上甚だ興味ある症例を経驗したのでこゝにその大略を報告し諸賢の御参考に供したい次第である.

孤立性腎嚢腫を思わせた腎嚢腺腫の1例

著者: 石田正統 ,   大園茂臣

ページ範囲:P.535 - P.537

 緒言 腎腺腫は内外文献によるも,比較的少く,然も其の組織発生に関しては未だ定説がない.吾々は最近当教室に於て興味ある構造を有する1例を経驗したので,こゝに報告する次第である.
 臨床例:44歳男子,鑄物工,家族歴既往歴に特記すべきことは無い.現病歴は昭和25年7月初旬,偶然左季肋部に手拳大の腫瘤を気付き,9月12日膵臟嚢腫の診断の下に当科へ入院した.その間何等の自覚症状も無かつた.入院時所見は,体骼中等,栄養良,尿屎正常,心臟肺に所見なく,血圧70/125,ワッセルマン(—),肝を触れぬ.左季肋部に僅に膨隆があり,皮膚は正常である.触診すると,上部は季肋弓下に陰れる小兒頭大,表面平滑,弾性軟,波動不明,境界略々明瞭,呼吸性移動あるも僅に固定性あり,バロットマン陽性と思われ,立位でやゝ下降する腫瘤をふれた.血液所見正常,血清及尿ヂアスターゼ正常,屎中に多数の蛔虫卵あり.胸部レ線像正常,腹部單純撮影により,左上腹部に淡い小兒頭大の腫瘤像があり,その略々中央に小豆大の互に隣接集合した5個の石樣の濃い陰影を認めた.胃腸透視によう腫瘤との直接関係は認められぬ.気腹法により腫瘤は後腹膜腫瘍と想像された.下行性ピエログラフによると左腎は後上方に圧排されて,且つ腎門は前方に捩れているが,腎盞の破壞像はなく,輸尿管は側方に圧排されている.膀胱鏡所見は正常,インジコカルミン排泄時間が右に比し約1分遅延するが略々正常範囲である.

アメリカ便り その2

著者: 榊原仟

ページ範囲:P.537 - P.537

 (前略)Chicago市に於けるInternational College of Surgeonsの第16回合衆國部会の会議は予定の如く,9月10日から13日迄行われました.講演は特に新しいことというよりは,経驗者が経驗を語るという様な感じをもちました.從つて,参会者もそれにふさわしい方々が集つておられる様であります.同時に映画,展示会などがあり,矢張り色々教えられる所が多くありました.柳先生(國立相模原病院長柳壮一博士)も温泉と創治癒についてお話になりました.会の前後には色々顴待を受け,思い掛けない御馳走になりました.
 会がすみました翌9月14日にDetroit市までドライブし6時間で達しました.正木君は元気で居ります(正木幹雄医学土,東大幅田外科教室員,目下DetroitのHerman Kiefer Hospitalで勉学中).一夜大に語り合い,Herman Kiefer HospitalのDr. O, Brienは休暇で不在でありましたが,正木君から聞いて,大体の傾向も判つたかの様に存じましたので,すぐBuffaloに向い,ナイヤガラ瀑布を見物しましたが,現在カナダ側に渡ることは,旅券の関係で仲々めんどうであります.蓮轉車が色々交渉して呉れましたので渡ることが出来ました.さすがに大したものだと驚きました.

原子爆彈災害調査報告書の刊行に就て

著者: 日本學術會議原子爆彈災害調査報告書刊行委員會

ページ範囲:P.541 - P.541

 昭和20年8月6日広島市に原子爆彈の第1彈が投ぜられ,越えて8月9日長崎市にその第2彈が落されてから,我邦各方面の機関は時を移さず,その全力を挙げて災害の救護と調査とにあたつたが,当時の文部省学術研究会議はその災害を綜合的に調査するために,直ちに原子爆彈災害調査研究特別委員会を組織発足せしめ,我邦学者の総力を挙げて災害の眞相を明らかにすることゝなつた.
 時恰も終戰時前後の混乱期に当り,調査研究の作業は甚しく困難を極めたが,各研究員はあらゆる惡條件を克服して鋭意調査研究に從い着々として多大の成果を收めた.その間,不幸にして京都大学眞下俊一及び杉山繁輝教授以下殉職死亡者12名を出したことに対しては衷心衷悼の意を禁じ得ない.

集談会

ページ範囲:P.547 - P.548

第21回広島外科集談会
        昭和26.4.29.
 1)大出血のため血色素17%に減少せる
   胃潰瘍手術治驗例 河石外科 古賀虎之助
 慢性の胃潰瘍患者で出血により高度の貧血を呈せる患者を輪血1100ccにて手術可能ならしめ入院5日目に胃切除術を行つた.

第13回日本臨床外科医会総会順序

ページ範囲:P.549 - P.551

日時 昭和26年11月3日(土)4日(日)
 場所 東京都港区芝愛宕町慈恵医科大学中央講堂
第1日 11月3日(土)
 開会の辞        会長 塩田廣重
 演 題
 1,外科的野兎病に就て
     福島市大原病院 大原嘗一郎,小田島博

外科と生理

その6

著者: 須田勇

ページ範囲:P.538 - P.541

3.呼吸機能
 3:1 肺容量の分劃
 肺容量の劃分は次の如くである.
 上記4劃分のうち,残気の測定法は種々あるが次の如く行うのが容易であり,正確である(Christie; J. Clin.Inv. 11, 1099, 1932, Herrald and McMichael; ProcRoy. Soc. B. 126, 491, 1939).スビロメータ内に空気2lと酸素3lを容れ,これを被檢者と気密に連結し,呼気中の炭酸ガスは吸收し,消費された酸素は常に補つて気槽の容積を常に5lに保つように整備する.この状態で被檢者に安靜呼吸を7分間行わせる.終りに気槽の空気を分析して窒素が48%であつたとする.中位量をxlとすれば,窒素では次式が成立する筈である(空気の窒素量を79.1%とした).

米國外科

Current American Surgery

ページ範囲:P.542 - P.543

SURGERY
 Vol. 29. No. 6, June. 1951.

最近の外国外科

腹部手術の補助薬としてのネオマイシン,他

著者:

ページ範囲:P.544 - P.546

 Streptomyces fradaeから得られるネオマイシンはこれと極めて近い関係にある抗生物剤のストレプトマイシンとは多少異る点がある.
 それ故この点で抵抗性細菌の発生を防ぎ得る.しかし時としてはネオマイシンでもAerobacter aerogenesの発育を抑制出来ない場合がある.この理由から手術前の腸内消毒にはPhthalyl sulfathiazolを補助藥として投與する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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