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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科6巻2号

1951年02月発行

雑誌目次

移植・成形・2

血管移植術

著者: 木本誠二

ページ範囲:P.51 - P.57

 血管外科に関する研究が非常に古い問題であると同時に最近再び注目されている新しい問題であることは本誌前月号に述べた通りであり,これは單に理論的な学問的興味を超えて日常の実地臨床に必要な操作となつて来ている結果である.今回標題の件に関し総括的記述を依頼されたのを機会に,先ずその前提となる血管縫合に就て前月号に今日までの状況を記述したのであるが,引続き主題の血管移植に就て考察して見ようと思う.
 血管移植の中には,自家移植,同種移植,異種移植,貯藏血管移植,死滅血管移植,異物乃至代用血管移植などが含まれているが,現在特に問題となつているのは同種移植,殊に同種貯藏血管移植であり,順次にこれらに就て文献を参照しながら吾々の目下檢索しつゝある成績の一部も加えて総括記述する積りである.なお広い意味では動脈を切断してその中枢端を同じく切断した靜脈の末梢端と吻合する交叉吻合(脱疽に対するWieting氏手術など)や,門脈を切断してその末梢端を下大靜脈に吻合するEck氏瘻孔なども含まれる訳であるが,本稿にはそうした單端移植には触れないで,專ら両端移植に就て考えて見よう.又血管移植には当然これを利用する臟器移植が絡んでくるのであるが,紙数の関係でこれも別の機会に譲ることゝする.

Os Germinativum(胚芽骨)移植のその後の檢討

著者: 光安萬夫

ページ範囲:P.58 - P.60

 多数の研究者によつて移植骨片の運命が考究されている.その結果は大体において移植骨片は全く壞死におち入り,それ自身としては移植床の骨膜骨髄よりおこる骨新生の誘導をなすというBarthの古い学説が,Baschkirzew-Petrow等によつて,この移植床よりの骨新生は移植床における結合織よりの化生によると説かれ,この学説が有力視されて来た.しかし移植骨片中の骨膜,Havers小管内組織の超生を主張する富田—Axhausen説も否定し難い所であつで,その移植の條件という事が,問題となるものであろう.從つてBarth等の骨移植による謂わば受動的の骨新生に,もし富田—Axhausen等の説く移植骨片よりの能動的の骨新生が可能ともなれば,殊に後者の能動的骨新生が活溌に起れば,骨移植の主要なる目的たる骨新生は著明に増加されその目的の達成も一層的確迅速になるものと考えられる.こゝにこの希望が達成されるに必要な條件があるとすればそれは何であろうか.今外胚葉に由来する表皮移植の場合を考えてみると,この場合移植後超生して増殖して行くものは,その分化度の低い原始的なるstratum germinativum(芽層)の細胞である.故に中胚葉に由来する骨組織に於ても亦分化度の低い原始的なる細胞がもし移植源として多量に存する場合には,これに近い結果が得られるであろうという類推を持ち得るであろうと考えた.これが前に述べた條件となるものと云える.

尿道形成手術

著者: 落合京一郞

ページ範囲:P.61 - P.65

 尿道形成術の対象となる疾患は尿道畸形(尿道下裂,尿道上裂)が主で,広い意味では尿道瘻の閉鎖や尿道狹窄手術などもこれにいれることができる.尿道形成術の最初の試みはDieffenbach(1836)によつて行われたというが,Thiersch(1869)が尿道上裂の手術法を発表しAnger(1874)がこれを尿道下裂に應用して成功したのが端緒である.つゞいてDuplayの尿道下裂に対する手術の論文が公表され(1880及び1886),以後幾多の改良考案が加えられたもので,現在の尿道形成術は極めて確実な手術となつている.

顎成形骨移植

著者: 佐藤伊吉

ページ範囲:P.66 - P.69

 約30年前の我が國の口腔外科の状態は,下顎腫瘍の切除等による骨欠損に対しては,まだフロテーゼによる顎補綴一点張で,しかも殆んど満足な成績を示していなかつた.その後欧洲大戰が,顎補綴に一段の進歩をもたらしたとはいえ,口腔外科の現状からすれば,すでに過去のものである.下顎の骨欠損に骨移植を以てする方法は欧洲大戰前の微々たる歴史的段階を経て,戰後には劃期的な進歩をなし,今日顎成形の新しい基礎を作つた.しかし今次太平洋戰爭にいたるまでは,わが國の口腔外科の進歩は,まだ海外の進歩を全國的に受け入れ,批判するまでには程遠く微々たるものに過ぎない.その程度の知識経験を以て,今次太平洋戰爭にあたつて,多数の顎戰傷の処置に直面したのである.陸軍では現在國立東京第一病院の前身,臨時東京第一陸軍病院と陸軍軍医学校の口腔外科が,もつぱら,顎戰傷重症者の特種治療にあたり,井上,松木,中山,中村,高橋,上野,川又,三留,吉田,田村,佐藤(正)その他多数の優秀な人々が,一丸となつて,これにあたつたのであるが,治療開始初期から,幾多の失敗例に苦心を重ね,実質的な体驗を積んで今日の顎成形骨移植に対する生きた体驗を獲得したのである.その失敗から成功までの足どりは,実に過去の顎外科の歩みの縮図であり,立派な一体系をなしている.筆者もその共同研究の一員たるの機に惠まれたのである.

胸廓成形術に依り切除せられた肋骨の利用

著者: 黑木健夫

ページ範囲:P.70 - P.72

 一方の手術台にて苦心慘胆して腸骨或は脛骨から移植骨片を採取していると隣の手術台では胸廓成形術で次々,に肋骨が捨てられている.此の矛盾した行爲の同時に行われている本院の手術場で何とか此の肋骨が利用出来ないものかと考え,乏しい文献の中を満つて見たが未だ此の肋骨を利用した人はないようである.
 此の肋骨を利用するに当り先づ危惧せられる問題は重症肺結核患者の肋骨であるからその中に結核菌が存し,結核傳染の懸念がある事である.之を解決するものとして余の念頭に浮んだのは余が年来神中教授御指導のもとにやつて来た骨長径成長帶遊離移植の研究中に散見した煮沸骨移植である.云う迄もなく骨遊離移植は鉱物質と生きた細胞成分との移植であるが此の内,煮沸骨移植は鉱物質移植の目的を達し得るのではないかと考えるに至つたのである.Groves & Lond(1939)は造骨細胞や血管等の生きた要素は身体の生きた組織及び造骨組織からかり出されねばならないが鉱物質は如何なる他の骨例えば死んだ動物骨でもいゝ筈であると述べている.然し彼等も後で述べている如く自家移植,同種移植及び異種移植の間には大なる差のある事は既に幾多の報告の示す所である.亦Reynolds & Oliver(1950)の実驗的研究の結果が明確に示す通り,煮沸骨移植は決して自家骨移植に勝るものではないが後述の如く多数の著者が骨癒命に成功する事を記載しているのである.

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義足を使用しつゝある下腿切断者の断端の骨変化

著者: 糟谷淸一郞 ,   金井豊正

ページ範囲:P.73 - P.75

緒 言
 四肢を切断するや,その断端の末端附近に起る変化は,先づ化骨の新生である.この化骨は切断端の状況や手術の方法により,又その後の経過により,量と形と場所を異にするのは勿論である.殆んど認められぬこともあれば,又時には巨大なものになることもある.この化骨反應はやがて靜止し,その後の断端の骨部を支配する変化は,靜かに進行する骨萎縮である.かくして骨皮質は幅狹く,且つ淡くなり,且つその輪廓は次第に朦朧となり,又骨海綿質は粗となる.
 以上はたゞ四肢を切断したまゝで何らの処置も加えない場合の断端の骨部の運命であるが,これに義足を裝着して歩行を開始した場合,これらの骨が再び如何なる変化を示すかは興味ある問題である.しかして義足には,その体重支持の形式よりみて二つの種類がある.即ち,下腿義足について言えば,その一つは脛骨内髁の下方及び腓骨小頭の外下部附近にて主として体重を支持し,断端末は義足の断端鞘の中に下垂して遊んでおり,直接体重の支持には関與しないものであり,他の一つは断端末にて直接体重を支持するものである.かくして断端の骨変化も此の二つの種類の義足に分けて研究することゝした.

橈骨神経痲痺の症例とその手術

著者: 間島永太郞 ,   小山繁

ページ範囲:P.76 - P.77

 戰時中外地にあつて,マラリアにかゝる者は多く,不幸にもバグノン注射たよつて橈骨神経麻痺を起した例もまゝ散見した.しかし最近ではマラリアそのものも稀となり,又バクノン注射によつておこつた橈骨神経麻痺の如きは更に稀有となつた.
 たまたまかゝる橈骨神経麻痺の一症例に遭遇したので,これに対する手術等を論じてみたい.

S字状結腸捻轉症療法に於ける根治的一次的結腸切除兼端々吻合—特に端々吻合術式に就て

著者: 伊藤榮一 ,   藤山幸夫

ページ範囲:P.78 - P.82

I 緒 言
 本症の発生機轉についての諸説は次の如くに大別することが出来る.
 1.S字状結腸部及び同結腸間膜の過長説
 塩田等の説,即ち先天性の原因によると説く.なお他にTarentzky.Cruster,Kanter Wilms, Luschka等は不消化物に富んだ植物性食餌を多くとる事が腸管を長大ならしむるにあずかつて力ある原因となると言つている.

局所凍傷に関する2,3の問題に就いて

著者: 阪田泰正

ページ範囲:P.83 - P.86

I.緒 言
 東・北満の如き極寒地の凍傷は,日本に於けるものの比にはあらず.忽ちにして患部は白色に凍結し,壞死に陷るもの多く,其の慘酷なる症状は,目を蔽しわむるものあり.然れども,その予後判定に関しては,内外共に余り報告を見ざるところなり.余は,昭和16年の冬より昭和20年の春まで東北満,元虎林陸軍病院に勤務し,その間,部隊及び開拓團,地方人の凍傷患者270例を診察し,其の症状経過を観察し,統計的見地より凍傷の予後判定上の参考となるべき知見を得たるを以て,数回に亘り虎林,牡丹江地方の研究会の席上で発表せり.然るに終戰と共にこれら多数の症例報告は悉く燒却せられたれば,当時の成績の残片的のものを蒐集し,抄録的のものに書きまとめ,多少,独断的な嫌はあるが,之を茲に発表して,先学諸氏の御叱生を仰がんとす.なおこの研究に関しては,当時,虎林病院に勤務せる阿部.原.奏.牛山.大前諸氏の献身的な援助めありたることを附加し感謝の意を表す.

集会

ページ範囲:P.98 - P.98

第192回整形外科東京集談会 昭和25.12.16
 1)脊髄癆性脊椎症の1例
       昭和医大整形 上村正吉,藤波康雄
 43歳家婦,先天梅毒による,第2,3,4,5腰椎に著明な骨増殖と破壤を認めた1例,
 遞信病院整形 渡邊正毅……脊椎後部に著明の変化があり,辷り症を起した1例を追加.

外科進歩の跡・1

本邦に於ける肺外科の発達史

著者: 佐藤淸一郞

ページ範囲:P.87 - P.88

 肺外科の進歩は他の外科のそれに比して極めて遅々たるものであつたが,是れは日本に限らず外國も同樣の傾向であつたのである.尾見博士の記事にも見られる通り1905年Garrè氏が肺損傷に対する縫合法を報告した際に氏が蒐集した総ての文献僅かに8例に過ぎなかつたのを見てもわかることである.尚胸廓成形術の始祖とも言うべきBrauer-Friedrichの手術も1907年でSauerbruch氏は1909年に其創案を発表しているのであつて,我國に於ける肺外科の出発も之れに遅れること僅かであつて明治め末年即ち1910年頃から気運が現われ特に福岡と大連方面から肺外科の曙光が見えはじめたのである.
 福岡の三宅外科では明治43年頃チーゲル式高圧麻醉器を独逸より買入れ動物実驗などやり出したが,其研究担当者は近藤外卷君で,次で間もなく拙者佐藤が讓り受けて此仕事をした.佐藤は明治末年即ち大正元年独逸に留学して肺労性胸廓論を書き上げ肺虚脱の目的として肺尖結核に対し斜角筋切断術を案出し独逸外科時報BD126,(1913)に発表して肺虚脱法を礼讃した.次で大正3年帰朝して以来肺結核に対し胸廓成形術(ザ式)其他肺壞疽等の手術に精進するに至つたのである.

今月の小外科・11

所謂腰部神経痛と脊椎カリエス

著者: 石原佑

ページ範囲:P.89 - P.90

 〔1〕診断のあり方 專門家からいうと毎常のことであるが,專門外になると中々そうはいかない場合が多い.半年もの間神経痛とか,婦人の場合には婦人科的疾患に因る神経痛等の診断の下に,鎭痛剤の皮下注射,靜脈注射,或は又洗滌等に過し,はては指圧,鍼灸等にたより,最後に整形外科で脊椎カリエスと確定することが,今以てかなり多い.それはカリエスの早期診断がむつかしい事にも原因するが,一方にカリエスに因る疼痛の理解に乏しいことにも原因する(カリエス類症疾患も多いが其等は抄略する).
 そこで診断不確実のもの,即脊椎カリエスの疼痛に如何程それ等の注射其他を行つても,結局は患者の負担が多いばかりで,医師の無力をうらまれるに過ぎなくなつてしまう.

外科と生化学

その1

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.91 - P.91

 戰爭前までは生化学は外科にとつては大して重要な基礎学ではなく,生化学の詳しい事は内科の人には必要であるけれども,外科の人は知らなくてもすむような有樣であつた.ところが,最近にいたつて,外科領域で生化学に関する関心が急に高まつて,最近の外科学会総会の演題を見ても,生化学に関係のあるものが多数出されているし,外科の研究室に籍を置く若い人達が私の教室にもやつて来て仕事をしたりするようになつて来た.
 これは一つには生化学を重く視るアメリカの医学が戰後の日本に大きく影響する状態になつたためもあろうが,アメリカにおいても,外科に生化学の知識が大きく使われるようになつたのは今度の戰爭がはじまる頃からであるらしい.戰傷とその治癒とが栄養によつて大きく左右されることや,輪血,輪液の問題が,このような気運をうながしたのだと思う.

米國外科

Current American Surgery

ページ範囲:P.92 - P.93

AMERICAN JOURNAL OF SURGERY
 Vol.80.No.2., Aug.1950.

最近の外国外科

腹部放線状菌症に對するペニシリン大量療法,他

著者: ,  

ページ範囲:P.94 - P.97

 スタンフオード及びバーンズの両氏は,腹部放線状菌症は過去に於ては死亡率の高い疾患とされており,人類に来る放線状菌症の18〜22%を占めるのに過ぎないけれども,放線状菌症の死亡率の約50%を占めていることを挙げている.しかし,スルフオンアミド剤及びペニシリンの出現並にその使用と共に,適当の手術及び補助療法を併用して,本疾患の予後は多少改善されるようになつて来た.
 著者たちの初めに経驗した腹部放線状菌症例中の2例の経過からは,この腹部放線状菌症は相当大量のペニシリン(毎日80万單位),スルフオンアミド剤,手術及び補助療法でも時としては余り効果が無いことが示された。即ちこの2名の患者はこの樣な治療法を長期間(8カ月間及び9カ月間)受けたが,一時は効果を示めし軽快したが間もなく病気は進行したのであつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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