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移植・成形・2
顎成形骨移植
著者: 佐藤伊吉1
所属機関: 1千葉大学医学部歯科口腔外科
ページ範囲:P.66 - P.69
文献購入ページに移動 約30年前の我が國の口腔外科の状態は,下顎腫瘍の切除等による骨欠損に対しては,まだフロテーゼによる顎補綴一点張で,しかも殆んど満足な成績を示していなかつた.その後欧洲大戰が,顎補綴に一段の進歩をもたらしたとはいえ,口腔外科の現状からすれば,すでに過去のものである.下顎の骨欠損に骨移植を以てする方法は欧洲大戰前の微々たる歴史的段階を経て,戰後には劃期的な進歩をなし,今日顎成形の新しい基礎を作つた.しかし今次太平洋戰爭にいたるまでは,わが國の口腔外科の進歩は,まだ海外の進歩を全國的に受け入れ,批判するまでには程遠く微々たるものに過ぎない.その程度の知識経験を以て,今次太平洋戰爭にあたつて,多数の顎戰傷の処置に直面したのである.陸軍では現在國立東京第一病院の前身,臨時東京第一陸軍病院と陸軍軍医学校の口腔外科が,もつぱら,顎戰傷重症者の特種治療にあたり,井上,松木,中山,中村,高橋,上野,川又,三留,吉田,田村,佐藤(正)その他多数の優秀な人々が,一丸となつて,これにあたつたのであるが,治療開始初期から,幾多の失敗例に苦心を重ね,実質的な体驗を積んで今日の顎成形骨移植に対する生きた体驗を獲得したのである.その失敗から成功までの足どりは,実に過去の顎外科の歩みの縮図であり,立派な一体系をなしている.筆者もその共同研究の一員たるの機に惠まれたのである.
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