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両側開胸の臨床経驗
著者:
石川義信1
米沢利英1
鴇田尚彥1
所属機関:
1東北大學醫學部桂外科教室
ページ範囲:P.116 - P.118
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鳥潟先生の平圧開胸説以来,日本に於ては,開胸に際して,通常平圧開胸を使用し,且つ日本の胸部外科は主として,肺を対称として来たので,陽圧の必要に迫られることが少く,從つて,両側開胸の臨床的経驗としての報告は少く,著者等の知れる範囲では,僅に,大沢1),が下部食道癌で,両側開胸を惹起した症例を報告しているが,之とても,平圧開胸のため,直ちに閉鎖している.然るに,外國では,古くはKüttner2)が,両側開胸のもとで,食道癌手術を実施してゐ,其の後,多くの両側開胸の報告があり,近時Sweet3)は,36例中13例の食道癌手術に,両側開胸の必要があつたと云うている.偏側開胸時は,通常平圧開胸でもよいが,両側開胸の場合には,陽圧装置なしでは,開胸は不可能である.一方,Finberg4)は,不知不識の間に,縱隔竇を破り,反対側の肺の萎縮を来した例を報告,Kergin5)は,一側開胸で,次第に動脈血酸素飽和度の減少を来す場合のあることを指摘し,之の防止に,陽圧を使用するとしている.吾々も通常平圧開胸で,食道癌の手術を,実施しているが,4例で,両側開胸の必要があり,陽圧により,手術を続行した例を経驗したので,其の術中の所見を述べ,陽圧の使用法について,檢討して見ようと思う.
症例1.(第1表参照)予め左側気胸を実施,ナル,スコ前注射,右側臥位で 左胸腔に入る.左肺は,約小兒頭大に萎縮していた.