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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科60巻11号

2005年10月発行

雑誌目次

特集 癌治療のプロトコール2005-2006 Ⅰ.食道癌治療のプロトコール

愛知県がんセンター中央病院胸部外科

著者: 篠田雅幸 ,   波戸岡俊三 ,   森正一 ,   光冨徹哉

ページ範囲:P.7 - P.14

はじめに

 食道癌の治療方法は,内視鏡的粘膜切除(以下,EMR),外科的切除,化学放射線治療など選択肢が多様化する一方で,適応の境界が曖昧になってきている.また,この情報化社会にあっても治療方針には施設間に微妙な差が存在する.

 本稿では,われわれが経験と文献的考察1)に基づいて徐々に改善してきた現時点での食道癌に対する治療方法について述べる.

大阪市立総合医療センター消化器外科・他

著者: 東野正幸 ,   竹村雅至

ページ範囲:P.15 - P.19

はじめに

 食道癌は胃癌や大腸癌に比べて予後の悪い疾患として知られており,根治術後でも再発率が高い.さらに,わが国で行われている3領域リンパ節郭清術は予後を改善させる効果はあるものの,術後合併症の頻度が高く手術侵襲も大きいことで知られており,適応できる症例が限定されるため,術前の患者ごとのリスク評価が非常に重要である.

 近年では放射線化学療法などの集学的治療が発達し,腫瘍の進行度や症例ごとの全身状態に合わせて,手術療法のみならず化学療法や放射線照射を組み合わせて行うことが多くなっている.さらに術後のquality of life(QOL)を向上させる目的で食道癌手術にも内視鏡下手術手技が導入され,施設によって様々な工夫もなされている1,2).このように,食道癌の治療方針に関しては「食道癌治療ガイドライン」3)が日本食道疾患研究会から出版されているものの,腫瘍の進行度や患者の状態によってその組み合わせには様々な選択がある.

 本稿では,われわれが行っている胸腔鏡下食道切除術を中心とした胸部食道癌治療のプロトコールについて述べる.

恵佑会札幌病院外科・他

著者: 西田靖仙 ,   細川正夫 ,   久須美貴哉 ,   中野敢友 ,   川口晃 ,   松永明宏 ,   小林裕明 ,   渡邉昭仁 ,   高橋宏明

ページ範囲:P.21 - P.27

はじめに

 食道癌に対し,外科手術・内視鏡手術・放射線化学療法およびそれらを組み合わせた治療が行われている.2002年には旧日本食道疾患研究会編により「食道癌治療ガイドライン」が作成され,「現時点で最も妥当と考えられる食道癌の標準的治療法として推奨されるもの」が示されている.しかし,治療法の選択や治療内容についての標準化については,まだ検討を必要とするのが現状である.

 本稿では,当院における食道癌治療のプロトコールを術前検査から術後フォローアップ・再発治療まで順を追って説明する.

東京都立駒込病院外科・他

著者: 出江洋介 ,   加藤剛 ,   吉田操

ページ範囲:P.29 - P.36

はじめに

 「食道癌治療ガイドライン」1)によれば,T1aN(-)に対するEMR以外は,どのステージにも手術と化学・放射線療法が記載されており,実際にどのように使い分けるかの議論は混沌としている.現在,当施設では,キャンサーボード(食道癌の治療に携わる全科が一堂に会して行うカンファレンス)を導入し,1人1人の患者をどのように治療するのがベストかを放射線科や化学療法科とも議論を重ねて治療のかたちを作り上げている.患者が納得いくような十分な説明とともに選択肢を示すが,安易に患者に治療法の選択を迫ることはしない.医師側で治療方針の統一をはかって患者に呈示するようにしている.

 治療法の選択にあたっては,隣接臓器浸潤の診断およびリンパ節転移の診断が重要であるが,診断精度は必ずしも高いとは言えない.診断のあたりはずれによって患者が不利益を被る可能性をできるだけ低くしなければならない.

 上縦隔郭清を中心とした郭清技術の進歩や術後管理の進歩によって手術成績は飛躍的に向上し,再建方法の工夫や胸腔鏡の利用によって胸壁破壊を最小限に抑える工夫などにより,根治性とともに術後のquality of life(QOL)も確実に向上している.しかしながら,切除可能であってもきわめて予後不良な症例が存在するのも事実であり,こういった症例に手術を選択するのは得策ではない.これまでの手術成績から,予後の改善が期待できる患者には手術を行い,予後不良な患者には手術以外の治療法を選択するという方針が現時点での妥当な戦略ではないかと思われる.

 本稿では,(1)手術治療の工夫,(2)化学放射線治療を先行させたほうがよい患者をいかにして選択するか,(3)サルベージ手術はどうするかなどについて,現在われわれが行っている実際を紹介する.

新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野・他

著者: 神田達夫 ,   小杉伸一 ,   大橋学 ,   矢島和人 ,   牧野成人 ,   田邊匡 ,   鈴木力 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.37 - P.44

はじめに

 食道癌の治療は腫瘍の局在や進展に応じて手術術式が大きく変わること,また進行度によっては化学療法,放射線療法の組み合わせが必要なことから専門施設以外ではその治療計画の立案に苦慮する場合もあると思われる.

 本稿では,当科で現在行っている食道癌治療の治療プロトコールを紹介する.日常の診療にわずかでも参考になる点があれば幸いである.

Ⅱ.胃癌治療のプロトコール

NTT東日本関東病院外科

著者: 野家環 ,   伊藤契 ,   小西敏郎

ページ範囲:P.47 - P.51

はじめに

 当科では,基本的には「胃癌治療ガイドライン」1)に準拠した治療を行っている.刻々と変貌する胃癌治療のなかで,患者のquality of life(QOL)を少しでも維持・改善させるための機能温存・縮小手術をできるだけ取り入れるように努力しつつも,安全性を第一に重視し,かつ根治性を損なわないことを大前提に治療に取り組んでいる.

 本稿で紹介する内容は,基本的に全身状態が良好で,全身麻酔下開腹手術の安全性には問題がなく,病変の進行度に応じた根治性に基づいた治療方針である.高齢者や,併存症を有するなどでリスクを伴う症例では,安全性を重視し,バランスを保ちつつ適宜,手術内容を縮小している.また,胃癌に限らず癌診療上当科で重視している内容は,できる限り迅速に診断して治療を開始することと,患者中心の医療を展開することである2)

群馬大学大学院医学系研究科病態総合外科

著者: 桑野博行 ,   持木彫人 ,   藍原龍介

ページ範囲:P.53 - P.58

はじめに

 近年の胃癌に対する診断技術の向上に伴い,早期胃癌の頻度は胃癌の約半数を占めるに至っている.これら早期胃癌に対して,従来の画一的な胃切除に代わり,EMRや腹腔鏡下手術などの縮小手術が盛んに行われている.また,根治切除不可能な進行胃癌治療に対してirinotecan(CPT-11),S-1,taxolなどの新規抗癌剤が開発され,従来と比較し高い奏効率が示されている.

 このように,手術手技の進歩や医療機器,新薬の開発に伴い,胃癌症例に対する治療法の選択肢は多様化している.ときを同じくして,胃癌学会から「胃癌治療ガイドライン」1)が出版され,進行度別治療法の適応が明確化されてきた.われわれは,胃癌治療にあたり,これら標準的治療法の適応を熟知したうえで,癌の進行度,癌の悪性度,治療の侵襲,患者背景などを十分に考慮し,個々の症例に応じた治療選択(テーラーメイド治療)を行うべきと考える.

 本稿では,当科で行っている診断,治療の一連の流れについて進行度別に述べた.

独立行政法人国立病院機構九州がんセンター消化器外科

著者: 藤也寸志 ,   伊藤修平 ,   足立英輔 ,   田中真二 ,   大賀丈史 ,   坂口善久 ,   椛島章 ,   山本一治 ,   原口勝 ,   岡村健

ページ範囲:P.59 - P.66

はじめに

 当科では,原則として外来での精査を行い,入院後の術前・術後診療についてはクリニカルパスを使用している.また,胃癌治療の基本的なプロトコールは「胃癌治療ガイドライン」1)に則っている.

東邦大学医療センター大橋病院・東邦大学医学部外科学第3講座

著者: 中村陽一 ,   炭山嘉伸 ,   長尾二郎 ,   斉田芳久 ,   中村寧 ,   片桐美和 ,   榎本俊行 ,   渡辺学 ,   草地信也

ページ範囲:P.67 - P.73

はじめに

 当施設の外科は臓器ごとのグループ診療を実施しており,それぞれ関連診療科と協力し,初診から術前診断,治療方針の決定,内視鏡治療,手術,化学療法,そして緩和ケアまでを可能な限り同一の主治医と担当医で行っている.このことで,患者や患者の家族とのコミュニケーションを深め,より満足度の高い医療を行うことができる.胃癌治療に関しては,治療の大原則は「胃癌治療ガイドライン」1)に準じた治療を実践している.

 本稿では,われわれが治療に際し心掛けている内容について記載する.

富山県立中央病院外科

著者: 加治正英 ,   小西孝司 ,   森田晃彦 ,   寺田逸郎 ,   山本精一 ,   前田基一 ,   藪下和久 ,   清水康一

ページ範囲:P.75 - P.80

はじめに

 胃癌の治療における最近のトピックスは,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)1)の普及と化学療法の進歩2)などが挙げられる.当科においては,治療方針を決定する場合,術前のみならず病理結果をもとに術後カンファレンスを必ず行い,統一性を持った診療ができ,EBMを実践できるように心掛けている.

Ⅲ.大腸癌治療のプロトコール

群馬県立がんセンター消化器外科

著者: 鮫島伸一 ,   澤田俊夫

ページ範囲:P.83 - P.92

はじめに

 近年,大腸癌の増加とともに手術件数も飛躍的に増加している.当院でも年間150例の大腸癌手術を施行している.手術を安全に適切に行う点や医療経済の点からも,外来,入院,手術,術後管理を円滑に合理的に行う必要がある.当科ではクリニカルパスを導入し,合理的な大腸癌治療を目指している.

 当院での大腸癌治療方針は,がん専門施設として標準的なものである.地方において質の高い医療を提供することに努めている.外科治療は局所治療であるため,手術では局所の根治性を高める努力を行っている.非切除例,再発例では化学療法を中心とした集学的治療を推進している.

自治医科大学大宮医療センター外科

著者: 小西文雄 ,   河村裕 ,   佐々木純一 ,   櫻木雅子 ,   相原弘之 ,   前田孝文

ページ範囲:P.93 - P.100

はじめに

 自治医科大学大宮医療センター外科においては,消化器癌の治療を主体に診療を行っている.本稿では,筆者らが中心となって施行してきた当科における大腸癌の治療のプロトコールについて述べる.特に,早期癌に対する内視鏡的治療と腹腔鏡大腸切除などについて重点を置いて述べる.

順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院外科

著者: 福永正氣 ,   木所昭夫 ,   射場敏明 ,   杉山和義 ,   永仮邦彦 ,   飯田義人 ,   須田健 ,   吉川征一郎

ページ範囲:P.101 - P.108

はじめに

 大腸癌に対する治療は,大腸癌研究会によりガイドラインが示され標準治療の有力な指針となっている1).われわれはこのガイドラインを尊重し,加えて研究的治療として有望な治療を積極的に組み入れていくことを基本方針としている.当科の特徴は1993年から腹腔鏡下手術(以下,LAP)を積極的に導入し,多方面からの改良を加え,進行癌に対しても積極的に適応拡大をはかってきたことである2,3).現在,結腸癌(Rs直腸癌を含む)に対しての外科手術の80~90%にLAPを適応し,直腸癌では60~70%に適応している.

昭和大学横浜市北部病院消化器センター

著者: 石田文生 ,   工藤進英 ,   田中淳一 ,   遠藤俊吾 ,   日高英二 ,   永田浩一 ,   辰川貴志子 ,   樫田博史

ページ範囲:P.109 - P.116

はじめに

 癌治療の方法を決定するに際して,benefitとriskを正しく評価した,すなわち病変の根治性と治療による侵襲の大きさを考慮した選択が望まれる時代になってきた.診断のうえでは,大腸内視鏡診断学は電子スコープの出現と拡大電子スコープの開発によって飛躍的に進歩を遂げた1).一方,治療面でも1992年に腹腔鏡下手術がわが国に紹介されて以来,大腸手術にも腹腔鏡下手術が導入されるに至った.腹腔鏡下手術手技の開発と適応の拡大によって,さらに低侵襲な手術治療が可能となってきた.また近年,内視鏡においても粘膜切開剝離法(endoscopic dissection:以下ESD)が大腸に導入されて,治療法の選択がより多彩になっている.これらの医療技術の進歩を背景として,正確な診断に基づいた的確な治療法の選択が確実なものとなりつつある.

 本稿では,われわれが現在行っている大腸癌治療のプロトコールを,これまでに蓄積・解析したデータを示しながら紹介したい.

兵庫医科大学第2外科

著者: 外賀真 ,   柳秀憲 ,   山村武平

ページ範囲:P.117 - P.125

はじめに

 近年,大腸癌に対する標準療法が検討されているが,それらの概要は,限局した病変を有する切除可能症例に対する外科治療(+術後補助化学療法)か,再発・切除不能症例に対する化学療法を中心としたpalliative treatmentのいずれかを選択して,それぞれ専門家が行っていくというものである.

 切除可能症例に対する外科手術は,癌に対する根治性だけではなく,機能温存・低侵襲性も必要である.再発・切除不能進行大腸癌症例の治療に関しては,化学療法はpalliationであり,ほとんど治癒が望めない.その理由の1つとして,切除不能・再発症例では,化学療法剤の治療用量に対して腫瘍細胞の総数が多すぎるために,total cell killに至る症例はわずかであり,遺残癌細胞が急速な再増殖をきたすために制御不能となり死に至ると言われている1).そこでわれわれの施設では,再発・切除不能症例であっても,一度に大量の腫瘍細胞を除去できる手術を化学療法と組み合わせることによって,さらなる延命と治癒をはかる戦略を立てている.幸い,大腸癌では原発巣,転移臓器とも手術侵襲は比較的軽度であり,積極的切除手術とともに機能改善を行うことが可能であるため,quality of life(QOL)の向上も期待できる.

 本稿では,大腸内視鏡下で行う小病変に対する治療は割愛し,進行大腸癌に対する集学的治療方針を中心に解説する.

Ⅳ.肝癌治療のプロトコール

大阪府立成人病センター消化器外科

著者: 佐々木洋 ,   山田晃正 ,   大東弘明 ,   江口英利 ,   岸健太郎 ,   能浦真吾 ,   高地耕 ,   宮代勲 ,   大植雅之 ,   矢野雅彦 ,   石川治 ,   今岡真義

ページ範囲:P.129 - P.138

はじめに

 肝癌には,原発性肝癌と転移性肝癌があり,原発性肝癌には,90%以上を占める肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)と,5%にも満たないが,最近,特に注目され,積極的に治療されつつある胆管細胞癌(肝内胆管癌,cholangiocellular carcinoma:CCC)がある.また,転移性肝癌のなかで現在,積極的な治療対象となっているのは大腸および直腸からの転移例である.

 本稿では,当科の肝切除の中心をなすHCCについて,当科における治療プロトコールを述べる.

静岡県立静岡がんセンター肝胆膵外科・他

著者: 上坂克彦 ,   前田敦行 ,   松永和哉 ,   金本秀行 ,   森本幸治 ,   新宮優二 ,   山口茂樹 ,   古川敬芳

ページ範囲:P.139 - P.144

はじめに

 肝細胞癌の治療には,手術のほかにもラジオ波焼灼療法(RFA),肝動脈塞栓術(TAE),肝動注療法,放射線治療,陽子線治療など,いくつもの選択肢が存在する.それらのなかで根治性に優れ,さらに病理学的に検証が可能であるのは手術だけである.しかし肝切除は,腫瘍の進展範囲や肝予備能などの面から制約を受けることが多いのも事実である.

 本稿では,肝癌のなかでも頻度が最も高い肝細胞癌を取り上げ,治療法の選択,肝予備能評価,術前後管理と手術の実際などに関して,当施設の考え方を紹介する.

Ⅳ.肝細胞癌治療のプロトコール

東京女子医科大学消化器病センター外科

著者: 山本雅一 ,   桂川秀雄 ,   片桐聡 ,   吉利賢治 ,   有泉俊一 ,   清水公一 ,   高崎健

ページ範囲:P.145 - P.150

はじめに

 肝癌治療は,手術以外の選択肢が多く,その治療選択においては多くのdecision makingが必要である.多くの場合は,腫瘍径,進展度,腫瘍個数,肝機能,合併症などである.最近は,肝癌治療ガイドラインなども出版され,よりエビデンスに基づいた治療が求められている.しかし,すべての治療が科学的に評価されているわけではなく,患者にとってベストの治療を相互の理解のもとに決定し,選択していかなくてはならない.

 本稿では,肝細胞癌外科治療に至る過程と外科治療内容の選択,補助療法について記載し,現在当施設で施行しているプロトコールについて概略する.

Ⅳ.肝癌外科治療のプロトコール

北海道大学大学院医学研究科癌診断治療学講座腫瘍外科学分野

著者: 平野聡 ,   竹内幹也 ,   七戸俊明 ,   齋藤克憲 ,   仙丸直人 ,   鈴木温 ,   近藤哲

ページ範囲:P.151 - P.155

はじめに

 肝癌に対する治療として各種の非手術的治療が盛んに行われるようになった現在でも,局所制御能の点で外科的肝切除術をしのぐものはいまだ存在しないといってよい.しかし,外科的肝切除術は腫瘍の占拠部位や肝予備能によってその適応が厳密に制限されるため,最も制約の多い治療法の1つでもある.また,肝機能,術式などの違いでその治療経過が症例ごとに大きく異なることも本切除術の特徴である.これらのさまざまな可変因子が存在するなかで最大限の効果と安全性を確保するためには,術前・術中・術後を通して整理された一定のプロトコールに則って治療を行うこと,すなわち治療の標準化がきわめて重要であると考えられる.

 本稿では,肝癌を肝細胞癌,肝内胆管癌,転移性肝癌の三疾患に分け,それぞれに共通する点と異なる点を明らかにしながら,教室で行っている肝切除のプロトコールを概説する.

Ⅴ.胆管癌治療のプロトコール

千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学

著者: 吉留博之 ,   伊藤博 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.159 - P.165

はじめに

 胆管癌に対する有効な治療手段として,外科的な治癒切除以外にない現状では,まず可能な限り外科切除を目指した診断・治療プランを検討することが重要である1,2).胆管癌は解剖学的特性から動脈・門脈に近接して存在することから,正確な癌の胆管進展度(水平・垂直浸潤),血管浸潤度,リンパ節転移などを十分に検討する.また,胆管癌症例では閉塞性黄疸を伴うことが多いことから,特に肝切除例においては肝予備能を十分に評価することが重要である.これらを総合的に検討し,切除の可否を決定し,さらに適切な術式選択を行っている.また,術後病理組織の結果から補助療法の必要性の有無などを決定している.

 本稿では,現在の当科における胆管癌に対しての診断・治療・経過観察において施行しているプロトコールを紹介する(図1).

東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座消化器外科学分野

著者: 及川昌也 ,   片寄友 ,   力山敏樹 ,   山本久仁治 ,   林洋毅 ,   海野倫明

ページ範囲:P.167 - P.172

はじめに

 胆管癌は,腫瘍量が比較的少ない時期からグリソン鞘に沿って進展(水平進展)または周囲脈管に容易に浸潤(垂直進展)する.術前画像から腫瘍局在および水平・垂直進展の程度を詳細に評価し,適切な切除術式と胆管切離線を設定する必要がある.

栃木県立がんセンター外科・他

著者: 富川盛啓 ,   菱沼正一 ,   尾澤巖 ,   尾形佳郎 ,   長瀬通隆 ,   山本孝信

ページ範囲:P.173 - P.180

はじめに

 胆管癌は進展度診断が困難であるばかりではなく,周囲の組織や臓器へ容易に浸潤するなど切除不能症例も多く,治療戦略を立てるのに難渋する癌の1つである.現時点では,胆管癌に対して有効とされる化学療法はなく,放射線治療でも腫瘍を根治に至らしめることは不可能である.胆管癌治療の中心は治癒切除を目指して「切除できるものは切除する」という手術療法である.ただし,切除に際しては肝切除や膵頭十二指腸切除など大きな侵襲を伴う術式が多いため,全身状態の把握を含め,可能な限り正確に診断を行ったうえで慎重に治療方針を検討する必要がある.

 当センターでは,それぞれの症例の治療方針については,外科医のみの判断ではなく,外科,画像診断部(消化器内科),化学療法科(腫瘍内科),放射線治療部,病理医,放射線技師,検査技師などが参加して開かれる週1回のカンファレンスで詳細に検討している(図1).そうすることで,診断はもとより集学的治療を含めた治療方針に関してさまざまな専門分野の立場から意見を述べて議論を行うことができ,より適切な治療が行えるものと考えている.

名古屋大学大学院医学系研究科器官調節外科学

著者: 平松聖史 ,   梛野正人 ,   西尾秀樹 ,   江畑智希 ,   新井利幸 ,   小田高司 ,   湯浅典博 ,   二村雄次

ページ範囲:P.181 - P.187

はじめに

 胆管癌治療には手術療法以外に確立された治療法はなく,治療には徹底した根治切除が求められる.そのためには肝門部の複雑な解剖を熟知して正確な進展度診断を行い,合理的な手術術式を立案することが重要である.また,通常胆管癌の手術侵襲は大きいので,周術期合併症の予防と合併症発症時の対策は外科治療上きわめて重要な位置を占める.

 本稿では,当科において実際に行っている胆管癌治療のプロトコールについて解説する(図1).

Ⅵ.胆囊癌治療のプロトコール

茨城県立中央病院・地域がんセンター外科

著者: 吉見富洋 ,   朝戸裕二 ,   三瀬祥弘 ,   岡本光順 ,   小室安宏 ,   川崎普司

ページ範囲:P.191 - P.199

はじめに

 胆囊癌には,無症状で偶発的に発見され胆摘のみにて治癒が望める早期の癌や,黄疸,発熱,疼痛などの症状出現後に診断されその切除に肝切除や膵頭十二指腸切除術などの術式の付加が必要な進行癌などさまざまな進行段階の症例が認められる.そこで,当科で経験した胆囊癌切除症例(同時性他臓器癌合併例を除く)を概観したのちに,治療方針について考察する.

国立がんセンター中央病院肝胆膵外科

著者: 島田和明 ,   阪本良弘 ,   佐野力 ,   小菅智男

ページ範囲:P.201 - P.207

はじめに

 胆囊癌では腹部超音波検査によって偶然発見された早期病変から,黄疸や腹痛で発症した進行癌まで,さまざまな病期が外科治療の対象となる.しかし,術式の選択基準などの具体的な治療方針についてのエビデンスは乏しいのが現状である.このような場合,経験の豊富な施設における外科医の治療指針は,個別の症例において治療方針を決定する際の参考になる.

 本稿では,国立がんセンター中央病院肝胆膵外科グループの胆囊癌治療指針について述べる.

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院外科

著者: 小森山広幸 ,   萩原優

ページ範囲:P.209 - P.214

はじめに

 胆囊癌の臨床的特徴は癌の壁進達度によって術式が大きく異なり,さらには予後も格段に異なることである.胆囊癌の全国集計の結果をみると,全切除例の5年生存率は42%であるが,StageⅠでは77%,Ⅱでは53%,Ⅲでは31%,Ⅳでは9%と報告されている1).粘膜層(m)や固有筋層(mp)までの癌では胆囊切除のみでも良好な予後が得られるが,進行するにつれて肝内や胆管側への浸潤,広範なリンパ節への転移をきたし,対応する術式も拡大広範囲切除となり侵襲も過大となる.現在のところ胆囊癌治療の第一選択は外科切除であるが,新しい薬剤による補助療法の成績も発表されつつある.

 本稿では,われわれが行ってきた胆囊癌治療の概要を示すとともに,最近の胆囊癌治療についての文献的考察を述べる.

山形大学医学部器官機能統御学講座消化器・一般外科学分野

著者: 須藤幸一 ,   木村理

ページ範囲:P.215 - P.219

はじめに

 胆囊癌の治療においては,現在のところ根治手術のみが胆囊癌の生存率を改善できる唯一の治療法である.1982年から2004年の間に当科で切除した胆囊癌は53例で,壁深達度別の内訳は深達度m:4例,mp:6例,ss:26例,se:10例,si:7例であった.手術術式は,胆囊摘出術から拡大肝右葉切除+膵頭十二指腸切除術(PD)まで様々な術式が施行された(表1).総合的根治度(final curability:fCur)別にはfCur A:25例,fCur B:14例,fCur C:14例であった.fCur別の5年生存率はfCur A:78.3%,fCur B:27.8%,fCur C:0%で,非治癒切除例では3年以上の長期生存例は認められなかった(図1).

 本稿では,術前診断から術式選択,術後補助療法に関する現在の当科における治療方針について述べる.

Ⅶ.膵癌治療のプロトコール

癌研有明病院消化器センター肝胆膵グループ

著者: 山本順司 ,   斎浦明夫 ,   古賀倫太郎 ,   野呂拓史 ,   関誠 ,   大矢雅敏 ,   瀬戸泰之 ,   大山繁和 ,   山口俊晴 ,   高野浩一 ,   浅原新吾 ,   清水深雪 ,   藤田直哉 ,   亀井明 ,   猪狩功遺

ページ範囲:P.223 - P.226

原発性膵悪性腫瘍の80~90%近くを占める浸潤性膵管癌(以下,膵癌)の悪性度は固形癌のなかでも際立っており,根治的治療によってもその予後が不良であることはよく知られている1).本稿では,そのような悪性腫瘍に対する当院での治療法のプロトコールについて解説する.

術前診断とステージング

 診断において最も重要な点は膵実質内の腫瘍性病変の描出と膵管の拡張である.通常は腹部超音波検査やCT,MRIで膵内の占拠性病変が描出され,それより末梢の主膵管拡張が確定診断の根拠となる.TS1膵癌(径2cm以下)では腫瘤そのものの描出が困難なことも多い.拡張主膵管の途絶部膵頭側に体外式超音波検査やCTで腫瘍が描出されない場合には,超音波内視鏡(EUS)が有用である(図1).

杏林大学医学部外科

著者: 阿部展次 ,   杉山政則 ,   植木ひさよ ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.229 - P.234

術前診療のプロトコール

1.術前患者の評価

1)存在・質的診断

 体外式超音波検査(US)やCT,MRIを用いて腫瘍の存在・質的診断を行っている.これらのうち,正常膵と膵癌のコントラストが最大になる造影ダイナミックCTでの膵実質相や脂肪抑制T1強調MRI,造影ダイナミックMRIでの膵実質相を特に重視している.MRCPは全例に行っている.質の高いMRCP像が得られており,胆管ドレナージが必要のない場合は,存在・質的診断のみを目的としたERCPは最近では行っていない.しかし,良性疾患との鑑別が問題となる限局性の膵管狭窄例などでは,鮮明な膵管像や細胞を得ることを目的としたERPは積極的に行っている.超音波内視鏡検査(EUS)は,小膵癌例や,ほかの画像診断で良性疾患との鑑別が困難な症例で意義が高いと考えている.EUS下穿刺は,EUSあるいはほかの画像診断で他疾患との鑑別に難渋する場合のみ行っている.

2)進展度評価

 MDCTで第一段階の進展度評価を行う.MDCTはMRIより空間分解能に優れ,curved planar reformation法などの新しい画像表示法も可能とし,進展度評価を単独でほぼ完結させうる画像診断法として重視している.造影ダイナミック検査により,リンパ節腫大,肝腫瘤,腹水などの評価とともに,局所のresectabilityを決定する動脈・門脈系の浸潤,膵前・後方進展,他臓器浸潤などの評価を行っている.胆管浸潤の評価,膵管内進展の拡がりはMRCP,あるいはERCPで得られた画像を参考としている.また,全例に胸部CTを行い,肺転移の有無を検索している.骨シンチやPETは,現状では全例に行える態勢が整っていないため,施行しない場合がほとんどである.

国立病院機構四国がんセンター消化器外科

著者: 棚田稔 ,   栗田啓 ,   久保義郎 ,   高嶋成光

ページ範囲:P.235 - P.242

はじめに

 膵癌に対する治療法としては,大きく分けて手術,化学療法,放射線療法の3つがある.最も予後が期待できる治療法は手術であるが,積極的な切除を行っても,その成績は満足できるものではない1).一方で,手術は,ほかの治療法と比べ大きなリスクを伴い,患者の負担は計り知れない.このため,膵癌の手術の適応についてはある程度の慎重さが必要である.

 本稿では,現時点で,膵癌に対して行っている手術の実際について記載する.

帝京大学医学部外科

著者: 天野穂高 ,   高田忠敬 ,   長島郁雄 ,   吉田雅博 ,   三浦文彦 ,   井坂太洋 ,   豊田真之 ,   和田慶太 ,   高木健司 ,   加藤賢一郎

ページ範囲:P.243 - P.247

はじめに

 膵癌の診断・治療は,これまでの拡大手術に対する再評価やMDCT(multidetector row CT)などの新しい画像診断装置の進歩,新規抗癌剤であるgemcitabine(以下,GEM)の登場などによって次第に変化してきている.近年,各種疾患でガイドラインが整備されつつあり,EBM(evidence-based medicine)に基づいた診断・治療が求められる時代になってきた.一方,膵癌でのevidence levelの高い検討は少なく,わが国におけるガイドラインも現在作成中である.また,DPC(diagnosis procedure combination)の導入などによる診療報酬体系の見直しといった医療経済的な側面も考慮すべき時代となってきた.

 本稿では,現在われわれが施行している膵癌の診断・治療における,(1)術前診療,(2)手術,(3)術後治療・処置のプロトコールについて述べる.

Ⅷ.甲状腺癌治療のプロトコール

あかね会土谷総合病院外科・他

著者: 杉野圭三 ,   矢野将嗣 ,   西原雅浩 ,   番匠谷将孝 ,   矢野健次 ,   川口康夫 ,   岡本英樹 ,   浅原利正

ページ範囲:P.251 - P.257

はじめに

 甲状腺癌の治療に関しては諸外国の間で意見の相違が激しく,コンセンサスが得られていないのが実情である.国内の各施設においても治療方針にかなりの開きがある1).甲状腺癌のすべてについて記述するのは誌面の都合上限界があるため,本稿では分化型甲状腺癌を中心とし,未分化癌については治療のポイントのみ簡潔に述べる.

神奈川県立がんセンター乳腺甲状腺外科〔甲状腺〕

著者: 吉田明 ,   中山博貴

ページ範囲:P.259 - P.266

はじめに

 甲状腺癌は濾胞上皮由来で発育の遅い分化癌(乳頭癌,濾胞癌)と,きわめて急激な進展を示す未分化癌,傍濾胞細胞(c-cell)由来の髄様癌に大別される.甲状腺癌の臨床的特徴や予後は組織型により大きく異なっており,それぞれの組織型に基づいて治療方針が決定される.したがって,術前診断が非常に重要となる.

 本稿では,まず各癌の特徴を概説し,ついでわれわれが実際に行っている甲状腺癌治療のプロトコールを紹介する.

Ⅸ.乳癌治療のプロトコール

慶應義塾大学医学部外科

著者: 神野浩光 ,   池田正 ,   高山伸 ,   北島政樹

ページ範囲:P.269 - P.275

はじめに

 乳癌の治療においては,手術療法,化学療法,内分泌療法および放射線療法を適切な組み合わせと順序で用いることが重要である.当施設における乳癌治療の基本的方針は,evidenceに基づきながらも,個々の患者の希望,個人的および社会的状況を考慮して上記を組み合わせた治療方針を呈示し,インフォームド・コンセントを得てから治療を開始することである.

埼玉県立がんセンター乳腺外科

著者: 末益公人 ,   武井寛幸

ページ範囲:P.277 - P.283

はじめに

 当院における乳癌治療の基本方針は,手術に関してはでき得る限りを尽くして乳房温存を行うことである.腋窩リンパ節に関してはセンチネルリンパ節生検を積極的に行い,腋窩郭清を省略するという縮小手術主体の治療である.当院における治療スケジュールは初診から手術まではつぎのとおりである.すなわち,初診時に画像診断,組織診断を組み,がんの告知を行う.がん告知後は,看護師により告知後ケアガイドブック(後述)に基づいて行われる.その後,乳房温存術可能症例については手術を行う.乳房温存術が不可能な症例については個々の症例によって術前ホルモン療法や術前化学療法を行う.その後,乳房温存術可能になった症例(大多数の症例であるが)に対しては乳房温存術を,腫瘤の縮小が認めらない症例に対しては乳房切除術を行う.もちろん乳房温存術施行例には,原則として全例にセンチネルリンパ節生検を行う.転移陰性例に対しては腋窩郭清を省略する(図1).これらについて順次,詳細を述べる.

札幌乳腺外科クリニック

著者: 岡崎稔 ,   岡崎亮 ,   渡部芳樹 ,   大口美代子

ページ範囲:P.285 - P.291

はじめに

 乳腺クリニックを訪れる患者の要望は,総合病院の診療とは異なり,専門クリニックにおける迅速な対応,疾病についての十分な説明,癒しの雰囲気であろう.われわれのクリニックの理念は,患者サイドに立脚した医療を可能な限り実践することである.

 近年の情報化社会にあって,乳がんに関する知識もある程度得て来院する場合,セカンドオピニオンを求めて来院する場合,検診で来院し乳がんが検出される場合など様々な患者がいるが,パターナリズム(父権主義)の時代とは異なり,まず初診時に医療者側がインフォームド・コンセント(IC)を患者にとられているのである.仕事を第一優先に治療を望む患者,生命より乳房が重要な時期である患者,死に対する恐怖でパニックに陥っている患者など,さまざまな心理を最初の段階で汲み取り,同意することが必要である.これが治療の第一歩であろう.

Ⅹ.肺癌治療のプロトコール

京都大学大学院医学研究科呼吸器外科

著者: 田中文啓 ,   和田洋巳

ページ範囲:P.295 - P.301

はじめに

 原発性肺癌は日本人の悪性腫瘍による死亡原因の第1位を占める予後不良の疾患であるが,治療の点からは小細胞肺癌とそれ以外の非小細胞肺癌に分類される.小細胞肺癌は原発性肺癌の15%程度を占め,早期にリンパ節および遠隔転移をきたすこと,また放射線や化学療法に対する感受性がきわめて高いことから外科治療の対象になることは稀である.非小細胞肺癌は,小細胞肺癌以外の組織型の総称であり,早期に発見して完全切除することが治癒に導く最も有効な治療法である.したがって本稿では,主として手術の対象となる非小細胞肺癌の外科治療を中心とした治療について延べることにする.

独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター外科

著者: 松村晃秀 ,   太田三徳 ,   田中壽一 ,   池田直樹 ,   井内敬二

ページ範囲:P.303 - P.311

はじめに

 わが国では悪性腫瘍が1985年以降死因の第1位を占めており,厚生労働省の平成15年人口動態統計(確定数)の概況によれば,年間56,000人が気管支および肺の悪性新生物で死亡している.当院においても肺癌手術例は年々増加している.

 2000年にも癌治療のプロトコールとして同様の企画で特集が組まれているが,この5年間に大きく異なったのは,診断面では,(1)空間分解能に優れたヘリカルCT〔helical CT,あるいはスパイラルCT(spiral CT)〕の普及により,従来では発見されないような微小あるいは小型肺癌が発見されるようになったこと.当院でも,肺癌手術例の増加は主としてⅠ期肺癌の増加によるものである(図1,表1).(2)Positoron emission tomography(PET)が普及し,ある程度の質的診断が可能となったこと,である.治療面では,(1)1990年代に出現した新規抗癌剤が臨床の場で広く用いられ,その評価が定まりつつあること,(2)分子標的薬のような従来の抗癌剤とは作用機序の異なる薬剤が出現したこと,などが挙げられる.

 そのうち外科の領域では,(1)当時は未だ明らかでなかった術後補助化学療法の有効性が明らかにされつつあること,(2)胸腔鏡がほとんどの症例で使用され,Ⅰ期肺癌では,施設により胸腔鏡下肺葉切除術(VATS lobectomy)が標準術式となったこと,などが挙げられる.そのほか,evidence based medicine(EBM)やクリニカルパスの普及,種々の癌について治療のガイドラインが設けられた1)ことにより,従来多くは経験に基づいて行われていた治療,処置の再評価が行われ,施設間,医師間の治療方針の差異が徐々に少なくなっていることである.

 本稿では,現在の当院における肺癌治療について述べる.

仙台厚生病院呼吸器センター外科・他

著者: 稲沢慶太郎 ,   由岐義弘 ,   菅原俊一 ,   中村雄介 ,   本田芳宏 ,   堀越理紀 ,   小林隆夫 ,   石本修

ページ範囲:P.313 - P.318

はじめに

 肺癌は1998年から悪性新生物のなかで死亡数が第1位になり,現在も年間死亡者数が増加している.治療に関して種々の研究がなされているにもかかわらず,その治療成績は満足のいくものではない.最近,胸部CTを用いた肺癌検診が普及し,小型肺癌症例が発見されるようなり,早期のうちに切除を行い良好な5年生存率が得られるようになってきている.

 本稿では,開業医や診療所などからの紹介を受ける当施設における,このような早期病変に対する診断・治療を含め,現在行われている非小細胞肺癌治療のプロトコールを紹介する.

新潟県立がんセンター新潟病院呼吸器外科

著者: 小池輝明 ,   大和靖 ,   吉谷克雄 ,   宮内善広

ページ範囲:P.319 - P.324

はじめに

 わが国における肺がん手術症例は増加の一途をたどり,日本胸部外科学会が調査を開始した1986年の肺がん手術数は6,421例1)であったが,2000年には18,643例2),2002年には20,440例3)と,近年は年間2万例以上が手術の対象となっている.手術対象例の肺がん進行度にも変化がみられ,呼吸器外科学会の調査によると,1989年に切除された3,643例の病理病期はⅠ期47%,Ⅱ期10%,Ⅲ期37%とⅢ期の比率が高かったが4),1994年の切除7,393例ではⅠ期51%,Ⅱ期15%,Ⅲ期30%とⅢ期が減少し,Ⅰ・Ⅱ期が増加してきた5).2001~2002年に新潟県で切除された1,211例でみるとこの傾向はさらに顕著となり,Ⅰ期74%,Ⅱ期10%,Ⅲ期14%とⅠ期症例が大勢を占める状況に変化してきた6)

 本稿では,このような現状を踏まえて当施設における肺がん治療のプロトコールを紹介する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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