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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科60巻12号

2005年11月発行

雑誌目次

特集 生体肝移植―最新の話題

生体肝移植におけるドナー評価

著者: 橋倉泰彦 ,   中澤勇一 ,   小林聡 ,   浦田浩一 ,   三田篤義 ,   池上俊彦 ,   宮川眞一

ページ範囲:P.1353 - P.1358

要旨:生体肝移植におけるドナー評価は,ドナー候補の自発的な意思を前提として,(1)ドナー肝切除を安全に行うことが医学的に可能であること,(2)移植されるグラフトがレシピエントにおいて長期的に機能するであろうこと,などを確認するプロセスである.その重要性については生体肝移植医療の開始当初から強調されており,近年になって国内外からドナー評価とドナーの術後経過に関する報告が増加している.欧米に比べて脳死肝移植例数が限られているわが国では,生体肝移植以外の選択肢は限られている現状にある.このため,ドナー候補の「選択の自由」を確保することが重要であり,あわせてドナー術後合併症への対策と,十分に配慮されたインフォームド・コンセントが必要である.

成人ABO不適合生体肝移植における新しい免疫抑制療法によるマクロキメリズムの誘導

著者: 佐藤好信 ,   大矢洋 ,   小林隆 ,   竹石利之 ,   山本智 ,   中塚英樹 ,   冨山智香子 ,   安保徹 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1359 - P.1365

要旨:成人ABO不適合生体肝移植におけるドナー分離白血球門脈内投与とサイモグロブリン投与による新しい免疫抑制療法について述べた.全例のドナーにおいて特異的血液型抗体の低下は順調で,液性拒絶,細胞性拒絶とも全症例で認めなかった.ステロイドやMMFの早期離脱も可能であった.免疫学的検討では,ドナータイプのCD56陽性T細胞が術後1か月経ても高率にグラフト肝内に存在しマクロキメリズムの状態となっていることが確認された.われわれの免疫抑制療法は新たなABO不適合肝移植の新たな治療法となり得るものと考えられた.しかし,術前感染症を有する症例では,過剰免疫となって感染症が増悪することが考えられ,さらなる検討を要するものと考える.

成人間生体肝移植における過小グラフト問題

著者: 副島雄二 ,   藤井正彦 ,   居村暁 ,   森根裕二 ,   池本哲也 ,   島田光生

ページ範囲:P.1367 - P.1374

要旨:成人間生体肝移植における過小グラフト,いわゆるsmall-for-size(SFS)graftの問題は,生体肝移植という手技の性質上避けられない問題である.近年,成人間生体肝移植症例の増加によって,過小グラフトにから引き起こされるいわゆるSFS graft syndromeの臨床像,発症メカニズム及び対策も明らかにされつつある.本稿では,移植後肝不全の重要な因子の1つであるSFS graftにおけるこれらの病態と対策について解説し,今後の課題を含めて解説した.

成人生体肝移植における胆道再建と合併症対策

著者: 島津元秀 ,   若林剛 ,   田辺稔 ,   河地茂行 ,   高原武志 ,   千葉斉一 ,   清水裕智 ,   松原健太郎 ,   和多田晋 ,   星野健 ,   中塚誠之 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1375 - P.1378

要旨:生体肝移植の胆道再建では,片葉の細くて薄い胆管を再建しなければならず,その手技は脳死肝移植と比べて難度が高く,合併症も比較的多い.胆道再建法としては,従来は胆管空腸吻合のみが行われていたが,成人例の増加に伴って次第に生理的で簡便な胆管胆管吻合が増えつつある.胆管胆管吻合にはいくつかのメリットがあるが,手技的な問題点や少なからぬ合併症もみられる.当科でも,初期には胆管胆管吻合において合併症,特に胆管吻合部狭窄の発生頻度が高く,interventional radiologyによる治療をしばしば必要とした.その後,適応・手技を再検討し,いくつかの工夫を行った結果,その頻度は著明に改善した.

門脈血栓症における門脈再建および拡大左葉グラフトにおける肝静脈再建の工夫

著者: 末廣剛敏 ,   志村龍男 ,   持田泰 ,   加藤広行 ,   浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1379 - P.1384

要旨:生体肝移植においては,inflowである門脈血流とoutflowである肝静脈血流の両方をバランスよく確保することが重要である.Inflowを障害する門脈血栓症は肝移植のリスクファクターの1つであり,適応禁忌の時代もあったが,現在では血栓除去や血管グラフトを用いた再建などの工夫によって成績も向上した.また,生体肝移植ではoutflow blockが起こりやすく,肝静脈の再建に工夫が必要である.われわれは拡大左葉グラフトにおいてグラフト肝静脈を形成し下大静脈に直接吻合することによってoutflow blockを防いでいる.脳死移植が進まないわが国においては生体肝移植が中心とならざるを得ないが,合併症症例の1例1例に対して綿密に計画し工夫することによって脳死移植に遜色ない成績が得られるようになった.

生体肝移植における感染症

著者: 山本栄和 ,   長井俊志 ,   須田竜一郎 ,   亀井秀弥 ,   藤本康弘 ,   木内哲也

ページ範囲:P.1385 - P.1389

要旨:末期肝疾患を扱う肝移植領域では,術前状態が不良で易感染性であることが少なくない.肝移植術前の安易な抗生剤使用や長期の使用は菌交代を助長して術後の感染のリスクを高めるため,術前からの適切な管理が必要となってくる.さらに,術後においては免疫抑制剤の使用が不可欠であるため,拒絶反応を制御しつつ,つねに感染症を念頭に置いた管理が必要である.また,肝臓が直接生体免疫に関与していることから,感染予防の点からも移植肝機能を良好に維持することが重要である.

生体肝移植における免疫抑制療法

著者: 大段秀樹 ,   浅原利正

ページ範囲:P.1391 - P.1398

要旨:近年の優れた免疫抑制剤の開発は肝移植成績の向上に大きく寄与してきた.生体部分肝移植における免疫抑制プロトコールはカルシニューリンインヒビターとステロイドの併用が中心で,脳死肝移植のものと変わりない.良好な移植成績の一方で,慢性拒絶反応の問題や非特異的免疫抑制に起因する感染症や悪性腫瘍の問題が重要視されている.肝移植医療のさらなる発展には,正常な生体防御能を保ちつつ移植抗原に対する免疫応答のみを抑制し得るプロトコールの確立が重要であろう.本稿では,生体部分肝移植における免疫抑制療法の現状を概説し,一部の施設で行われている積極的な免疫抑制剤の減量・離脱の試みを取り上げた.また,われわれの免疫監視下での免疫調節の試みと,さらには免疫寛容誘導法の確立へ向けて足掛かりとなり得る肝類洞内皮細胞の免疫調節機構に関する研究成果の概要を紹介した.

肝癌に対する生体肝移植

著者: 谷口雅彦 ,   嶋村剛 ,   鈴木友己 ,   山下健一郎 ,   中西一彰 ,   中川隆公 ,   蒲池浩文 ,   神山俊哉 ,   松下通明 ,   古川博之 ,   藤堂省

ページ範囲:P.1399 - P.1405

要旨:1996年にMazzaferroらが提唱した,いわゆるミラノ基準が現在,世界的なgold standardとなっており,この基準を満たした肝癌は肝移植のよい適応となっている.わが国においても肝癌に対する生体肝移植は増加の一途をたどっており,保険適用となった2004年からは特に急増している.ミラノ基準内の症例の3年生存率は78.7%と良好であるが,一方で肝癌症例の半数以上はミラノ基準外の症例であり,なおかつミラノ基準を逸脱した症例の50%前後は再発を認めていない.このことから,肝癌に対する肝移植適応基準の上限について,わが国独自の適応基準が求められている.さらに,移植成績の向上によって移植後患者生存率が移植以外の治療法と比べて遜色ないものとなってきたことから,肝癌治療全体における肝移植の位置づけを明確にし,どの段階から移植を積極的に適応とすべきなのか,内科医や放射線科医と連携して肝癌の治療体系を決定すべきである.

C型肝硬変に対する肝移植

著者: 丸橋繁 ,   堂野恵三 ,   宮本敦史 ,   武田裕 ,   永野浩昭 ,   梅下浩司 ,   門田守人

ページ範囲:P.1407 - P.1413

要旨:C型肝硬変に対する肝移植は,欧米では肝移植の40%を超える主要原因であり,わが国においても成人間生体肝移植が拡まるとともに急速に増加している.しかし,肝移植後の成績はC型肝炎の再発や肝硬変への進行が起こることから,ほかの原因に比べて劣っている.この肝移植後C型肝炎再発に対し,これまでさまざまな取り組みがなされてきたが,現在のところ,残念ながら確実に再発予防あるいは治療する方法はいまだない.本稿では,C型肝炎に対する肝移植における,肝炎再発に対するこれまでの取り組みと,当科での工夫および成績について報告する.

臨床外科交見室

痔核治療のエポック

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1414 - P.1414

最近,ジオン(R)(OC-108)という痔核に対する新しい硬化剤が発売された.これは中国で開発された消痔霊という硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸を配合した痔核治療の硬化剤に改良を加え,沖縄のあるベンチャー企業が開発した薬である.従来から手術の適応であったstageⅢおよびⅣの痔核に対し,注射による硬化療法で同等あるいはそれ以上の治療効果が期待される.

 注射の手技がむつかしいため,どこの施設でもすぐに開始するわけにはいかず,まず限られた施設から2,000例を目標に,訓練を受けた医師による治療が行われてから,その成績をもとに今後の治療が考慮されるということである.

外科学温故知新 3

麻酔の始まりと麻酔科学の進歩

著者: 外須美夫

ページ範囲:P.1415 - P.1421

1 麻酔の始まり

 近代麻酔の歴史は19世紀に始まる1)

  ・1803年に阿片からモルヒネが抽出される.

  ・1832年にコデインが精製される.

  ・1844年に笑気ガス吸入が抜歯の治療に用いられる.

  ・1846年にエーテルによる全身麻酔の公開実験が成功する.

  ・1847年にクロロホルム麻酔が成功する.

  ・1884年にコカインが伝達麻酔に用いられる.

  ・1898年に脊髄くも膜下麻酔が行われる.

 このように,19世紀は鎮痛薬や麻酔法の開発の歴史として画期的な世紀であった.そのなかでも,1846年に全身麻酔を初めて成功させたモルトン(Morton WTG,アメリカ)の業績は光っている.

 モルトンは27歳のとき(1846年),エーテル麻酔の公開をマサチューセッツ総合病院で行い,成功を収めた(図1).以来,エーテル麻酔が世界中に普及し,それ以後の全身麻酔の礎をつくった.彼の墓碑には次のような言葉が刻まれている1)

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 22

乳癌手術の胸筋筋膜切除は必要か

著者: 渋田健二 ,   上尾裕昭

ページ範囲:P.1422 - P.1423

【はじめに】

 近年の乳癌手術は乳房温存や腋窩リンパ節郭清の省略など縮小化の潮流のなかにあるが,胸筋筋膜の温存は可能であろうか.わが国では,乳腺組織を大胸筋から剥離する際に大胸筋の筋膜を完全に切除する術式が好んで行われているようであるが,骨格筋の萎縮を防ぐには筋膜を残して栄養血管や支配神経を温存することが大切であるとも推測されている.はたして,温存する胸筋が術後に十分に機能するためには大胸筋筋膜を残したほうがよいのであろうか?一方,大胸筋筋膜を残すと再発が多くなり,予後に悪影響を及ぼすのであろうか?本稿では,このシンプルな疑問に文献的考察を加えてみる.

人に聞けない素朴な疑問・番外編

「先生」に「御侍史」は必要か

著者: 安達洋佑

ページ範囲:P.1424 - P.1425

医師の常識が世間では非常識.しかも医師はそれに気づいていない.「○○先生 御侍史」はその代表であろう.一般の手紙は宛名が「様」であり,脇付を添えるなら「侍史」であるが,医師への手紙は宛名が必ず「先生」であり,脇付はご丁寧にも「御侍史」である.今回は医療とは関係ないが,医師が用いる「御侍史」について考える.

【私の記憶】

 高校時代に習った脇付は「侍史」や「机下」であり,「御侍史」や「御机下」はなかった.もちろん,個人には「様」,公用には「殿」を用い,団体には「御中」,複数の関係者には「各位」を使う.返信用の宛名にある「行」は,二重線で消して「様」にする.

病院めぐり

岩手県立釜石病院外科

著者: 八島良幸

ページ範囲:P.1426 - P.1426

岩手県釜石市は鉄の街として最盛期の1962年には9万2千人が居住し,岩手県第二の都市であり,経済的に豊かな企業城下町でした.しかし,鉄需要が冷え込みあいつぐ合理化が進められ,平成元年には高炉の灯が消えました.現在では人口が半減し,高齢化が極端に進んでいます.一方,岩手県は四国4県に匹敵する広大な面積を有し,内陸から沿岸部釜石に来るには仙人峠,笛吹峠らの難所を越えてこなければなりません.

 ただでさえ医師不足が叫ばれている岩手県ですが,本線沿いの内陸部と沿岸部とではさらに医師の偏在がおきており,釜石での医師不足は深刻です.医師不足に悩む釜石市民病院を財政難の釜石市が抱えていくのは難しい状況となり,平成19年度をめどに釜石市民病院250床を廃止し,県立釜石病院272床と合併することが正式に決定いたしました.県立病院は増床をせず,市民病院を2年間かけて徐々に縮小し,医師をはじめとする職員を県立病院に移行させるというものです.その第一陣として外科,脳外科の医師,看護師ら8名がこの4月から県立釜石病院に転勤してまいりました.

岩手県立胆沢病院外科

著者: 遠藤義洋

ページ範囲:P.1427 - P.1427

当院は昭和11年に購買利用組合胆沢病院として発足し,昭和25年11月に岩手県に移管され県立胆沢病院となりました.その後,施設の増改築,診療機能の充実をはかるなど幾多の変遷を経て,平成9年3月に全面移転・改築し,今日に至っています.現在,標榜診療科は19科です.岩手県胆江医療圏の中核的病院として,地域の公私医療機関との機能分担と連携をはかりながら,救急医療および高度・専門医療を担う総合病院として機能しています.2003年には日経メディカルの「良い病院北海道,東北」ランキング2位となりました.各種委員会も構成され活発に活動しています.2005年3月には増築棟が完成,麻酔科外来,内視鏡室が移転し手術室も1室増えました.

 さて,外科の常勤医は現在総勢6名で,北村副院長をはじめ一般・消化器外科医5名,乳腺・甲状腺外科医1名です(呼吸器に関しては呼吸器外科が別にあります).そのほか,シニアレジデント(卒後4年目)2名,3年目の研修医が2名(各科ローテーション中),昨年から始まった研修医制度によって卒後1~2年目の研修医3~4名が常時研修しています.そのほか,毎月第2,第4週の水曜日午後に東北大学第2外科から血管外来のために血管外科医がみえます.

臨床研究

腹腔鏡下胆囊摘出術の術前検査としてのCT angiographyの有用性

著者: 平能康充 ,   龍沢泰彦 ,   木下静一 ,   清水淳三 ,   川浦幸光 ,   高橋志郎

ページ範囲:P.1431 - P.1433

はじめに

 胆石症などの良性胆囊疾患に対する腹腔鏡下胆囊摘出術(以下,LC)の普及に伴い様々な合併症が報告されているが1,2),そのなかでも胆道損傷や血管損傷は重要な合併症とされる.腹腔鏡下手術では1方向からの映像に限定されるため,詳細な解剖学的把握がきわめて困難である.そのため,術前に胆道系および血管系の解剖学的把握を開腹手術よりも詳細に行う必要がある.胆道系,血管系の走向異常に関する確認が十分になされていなければ,肝管や肝動脈の切離などの重大な合併症を引き起こす可能性がある.胆道系の評価としては経静脈的胆道造影後のmulti-slice CT(以下,DIC-CT)が有用とされており3),近年,比較的普及してきている.

 当院では,2003年11月からDIC-CTに加え,血管系に関してCT angiography(以下,CTA)を施行し胆囊動脈の走向に関する評価を行っており,その有用性について検討を行ったので報告する.

臨床報告・1

十二指腸原発gastrointestinal stromal tumorの1切除例

著者: 旭吉雅秀 ,   千々岩一男 ,   江藤忠明 ,   大内田次郎 ,   佛坂正幸 ,   甲斐真弘

ページ範囲:P.1435 - P.1439

はじめに

 Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)は消化管の間葉系腫瘍であり,発生部位としては胃が60~70%と多数を占め,ついで小腸が20~25%で,そのうち十二指腸での発生は4%と稀である1).その治療は外科的切除が第一選択であるが,解剖学的特徴からさまざまな術式が選択されている.

 今回われわれは,膵内分泌腫瘍との鑑別を要した腫瘍で,診断に超音波内視鏡検査と生検が有用であった十二指腸原発のGISTの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

成人下行結腸間膜乳びリンパ管腫の1例

著者: 井上亮 ,   三宅泰裕 ,   黒川英司 ,   滝本泰光 ,   大島一輝 ,   半田理雄 ,   大島聡 ,   加藤健志 ,   飯島正平 ,   山本仁 ,   吉川宣輝

ページ範囲:P.1441 - P.1444

はじめに

 腸間膜リンパ管腫は比較的稀な疾患であり,その半数以上が小児例であり,成人例は少ない1).そのなかでも,その内容が乳びである成人腸間膜乳びリンパ管腫は少なく,さらに大腸の腸間膜に発生する乳びリンパ管腫は自験例がわが国で2例目の報告である.今回,われわれは成人乳び性腸間膜リンパ管腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

盲腸神経線維腫により盲腸捻転をきたしたvon Recklinghausen病の1例

著者: 豊田泰弘 ,   西嶌準一 ,   伊豆蔵正明 ,   垣田成庸

ページ範囲:P.1445 - P.1448

はじめに

 von Recklinghausen病(以下,R病)は常染色体優性遺伝疾患であり,全身に多発する皮膚神経線維腫を主徴とする.今回われわれは,R病に盲腸神経線維腫を伴い,それが原因となって盲腸捻転をきたした1例を経験したので報告する.

大腿ヘルニア嵌頓が併存した胆石イレウスの1手術例

著者: 岩谷昭 ,   川口英弘 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1449 - P.1451

はじめに

 大腿ヘルニアは嵌頓の状態で来院することも多く,日常診療でときおり経験する疾患である.一方,胆石イレウスは比較的稀な疾患で,全イレウス症例の0.05%であるとの報告もある1).さらに,大腿ヘルニア嵌頓と胆石イレウスの両者が併存した症例は稀と考えられ,わが国での報告例は,われわれが医学中央雑誌で検索し得た限りでは見出せなかった.

 今回,胆石イレウスと大腿ヘルニア嵌頓が併存したきわめて稀な1手術症例を経験したので報告する.

幽門輪温存膵頭十二指腸切除後の難治性膵液瘻が経皮ドレナージの合併症で内瘻化され治癒した1例

著者: 瀬尾智 ,   大久保遊平 ,   祝迫惠子 ,   三木明 ,   鍛利幸 ,   浮草実

ページ範囲:P.1453 - P.1456

はじめに

 膵頭十二指腸切除術(以下,PD)後の膵空腸吻合部縫合不全は,現在もなお発生頻度の高い合併症であり,ときには致死的な経過をとることもある.膵液瘻となれば,多くの場合保存的に治癒するが,膵管と腸管との交通が消失した完全外膵液瘻は非常に難治性である.

 今回われわれは,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(以下,PpPD)後の完全外膵液瘻が経皮ドレナージの合併症で内瘻化され治癒した症例を経験したので報告する.

消化管穿孔をきたした小腸原発T細胞性悪性リンパ腫の1例

著者: 内山周一郎 ,   瀬口浩司 ,   安藤好久 ,   東秀史 ,   山下兼一 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.1457 - P.1460

はじめに

 小腸原発悪性リンパ腫のうちでT細胞性はB細胞性と比較して予後不良であり,穿孔は予後不良因子の1つである1).わが国における小腸原発T細胞性悪性リンパ腫穿孔の症例報告は自験例を含めて16例と比較的稀である.今回,われわれは穿孔性腹膜炎で発症したT細胞性小腸悪性リンパ腫の1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

肝細胞癌破裂後腹膜播種をきたし,外科的に切除し得た1例

著者: 前田真一 ,   瀧川譲治 ,   豊山博信 ,   原口優清 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.1461 - P.1464

はじめに

 肝細胞癌は破裂により腹膜播種をきたすことがあるが,その播種巣を外科的に切除し得た症例は稀である1).今回,肝細胞癌破裂で肝外側区域切除施行後,約7か月で腹膜播種と考えられる孤立性大網転移を認め,外科的に切除したので若干の文献的考察を加え報告する.

総説

巨大鼠径ヘルニアに対する外科治療と周術期管理

著者: 津村裕昭 ,   市川徹 ,   金廣哲也 ,   村上義昭 ,   末田泰二郎

ページ範囲:P.1465 - P.1471

はじめに

 成人の巨大鼠径ヘルニア(giant inguino-scrotal hernia)は立位において大腿内側中点から下方にまで達する鼠径ヘルニアと定義され,わが国に限らず欧米においても比較的稀な病態である1~26).通常の鼠径ヘルニア手術ではtension-free(TF)法が隆盛を極めており,比較的簡便な手術によって良好な治療成績が提供され,短期滞在手術も普及しつつある.しかしながら,巨大鼠径ヘルニアの手術では,膨大なヘルニア内容の還納(急激な腹腔内圧上昇)に起因する二次的な呼吸・循環器系への影響,すなわち腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:ACS)に十分な配慮が必要である.MorenoのいうLose their“right of domain”26)を保障する必要がある.ヘルニア門や鼠径管後壁の修復方法,腹圧を腹壁全体で受け止める腹壁再構築の工夫17,18),術前気腹訓練を始めとした腹腔内容量の増大をはかる工夫26~36),術後人工呼吸管理など,修復法や周術期管理に対する特別の配慮が要求される.

 本稿では,巨大鼠径ヘルニアに対する外科治療と周術期管理の知見を内外の文献から整理して概説した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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