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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科60巻3号

2005年03月発行

雑誌目次

特集 急性肺塞栓症の最新診療

急性肺塞栓症の疫学

著者: 相馬真子 ,   佐久間聖仁 ,   白土邦男

ページ範囲:P.287 - P.292

要旨:欧米では,急性肺塞栓症は虚血性心疾患,脳血管疾患に次ぐ三大疾患の1つとされるほど頻度の高い疾患である.一方,日本では比較的稀な疾患とされてきた.残念ながらわが国では発生頻度の正確な把握がなされているとは言えないが,現在,信頼できるデータとして以下の報告がある.すなわち,(1)臨床症例からの検討による人口100万人あたり32人(2000年),(2)厚生労働省の人口動態調査結果における肺塞栓症死亡者数の人口10万人あたり1.37人(2001年),(3)日本病理剖検輯報における剖検例での頻度3.31%(1998年),である.これらはいずれも増加傾向にあることから,肺塞栓症の頻度は増加傾向にあって,すでに稀な疾患と言うことはできないと思われる.今後,適切な予防処置の普及が望まれる.

深部静脈血栓症と急性肺塞栓症

著者: 平井正文

ページ範囲:P.293 - P.297

要旨:深部静脈血栓症の大きな後遺症・合併症として静脈血栓後遺症(血栓後症候群)と肺塞栓症とがあるが,2004年4月に肺血栓塞栓症予防への管理料が新設されて以来,肺塞栓症は重篤な術後合併症として大きな関心事となっている.肺塞栓症の90%以上が下肢の深部静脈血栓症より発生することから,深部静脈血栓症から肺塞栓症の発生を予防する二次予防と同時に,下肢に深部静脈血栓症を起こさせない一次予防もまた非常に大切ということになる.すなわち,術後の深部静脈血栓症は,血管外科医ばかりではなく全科の医師が周知するべき疾患と言える.

『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン』の意義

著者: 西山信一郎

ページ範囲:P.299 - P.303

要旨:欧米では肺血栓塞栓症の発症頻度が高いことから,エビデンスに基づいた予防ガイドラインが策定されてきたが,欧米とは生活環境や発症頻度が異なるわが国で欧米のガイドラインをそのまま利用することはできなかった.近年はわが国でも本症の発症頻度が増加し,マスコミを通じてエコノミークラス症候群として本症の認知度も高まり,飛行機のなかでさえ本症の予防のためのビデオが上映される時代である.本症が院内で発症した場合,以前は予測できない事故として済まされてきたものが,今後は予防対策が不十分として医療責任を問われかねず,現に医療訴訟に発展する症例も増加している.このような背景からわが国でも早急な予防対策が望まれていたが,この時期にわが国におけるガイドラインが作成された意義は大きい.

―外科手術後急性肺塞栓の予防―私たちはこうしている―聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院

著者: 舟木成樹 ,   阿部裕之 ,   萩原優

ページ範囲:P.305 - P.309

要旨:一般外科手術後の肺塞栓症は,術中・術後に生じた深部静脈血栓が遊離し,肺動脈が塞栓子によって閉塞する疾患である.重篤な場合は不幸な転帰を招くこともあり,問題となっている.本症はわが国では発生頻度が低いと考えられてきたため,あまり重要視されなかった.しかし,手術症例数や高齢者の増加や腹腔鏡下手術の普及などで深部静脈血栓症のリスクが高くなってきており,その頻度が増加していることが推測される.肺塞栓症はその原因血栓の90%以上が深部静脈血栓由来である.それゆえ深部静脈血栓を予防することが肺塞栓症を回避するうえで非常に重要になる.本稿では,われわれが行っている予防法について紹介する.

―外科手術後急性肺塞栓の予防―私たちはこうしている―群馬大学大学院医学系研究科

著者: 桑野博行 ,   宮崎達也 ,   加藤広行 ,   国元文生

ページ範囲:P.311 - P.318

要旨:近年,肺血栓塞栓症はわが国でも増加傾向にあり,発症頻度は低いものの,発症すると重篤な状態に陥るため,予防することが非常に重要と考えられる.わが国においては2004年2月に『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン』が作成され,保険的にも肺血栓塞栓症予防管理料が算定されるようになった.本稿では,本ガイドラインに準じて,(1)術後の肺血栓塞栓症の病態,(2)リスクの評価とそれに対して必要な処置,(3)治療効果のエビデンス,そして(4)群馬大学医学部附属病院における肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症防止対策とその実際について概説する.

―外科手術後急性肺塞栓の予防―私たちはこうしている―新潟大学大学院医歯学総合研究科

著者: 黒﨑功 ,   大橋学 ,   飯合恒夫 ,   小山諭 ,   畠山勝義 ,   布施一郎 ,   旭正子

ページ範囲:P.319 - P.323

要旨:新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科における消化器外科手術後の肺血栓塞栓症の現況と,新潟大学医歯学総合病院における肺血栓塞栓症予防ガイドラインについて報告した.肺塞栓血栓症の発生頻度は0.24%(7例)であり,全例が救命された.統計学的には疾患別・手術術式別に差はなかったが,肝胆道系疾患と大腸疾患が各3例を占めた.最近の症例では弾性ストッキングやintermittent pneumatic compression(IPS)の装着例でも発生を認めた.予防ガイドラインは患者のリスクを医療サイドが定量的に把握でき,各科の連携によって迅速な診断・治療が可能になるなどの点で有用であると思われた.

急性肺塞栓症の症状と診断

著者: 佐藤徹

ページ範囲:P.325 - P.330

要旨:急性肺塞栓症の診断の契機となるものは症状で,突然の呼吸困難,胸痛,失神が主なものである.Protein C欠損症などの血栓性の基礎疾患,術後,長期臥床,悪性腫瘍などの誘因の検索も必須である.診断のためには,動脈血液ガス分析,胸部X線,心電図,心エコー,血栓マーカー測定などのスクリーニング検査によって急性肺塞栓症の可能性を判定し,十分に疑われるようであれば肺換気/血流シンチグラム,CT,肺動脈造影によって確定診断を行う.肺換気/血流シンチグラムは無侵襲に施行でき有用な検査であるが,実施できない施設もあり,診断を確定できない症例もある.最近,急速に普及した,短時間で連続的にスキャンできるヘリカルCTを使用することによって診断感度は上昇した.

急性肺血栓塞栓症の薬物治療

著者: 山田典一

ページ範囲:P.331 - P.338

要旨:薬物治療は急性肺血栓塞栓症に対する治療の中心であり,抗凝固療法と血栓溶解療法が主なものである.抗凝固療法は多くの臨床的研究から本疾患での予後改善効果が明らかであり,禁忌例を除いて,ほぼ全例に施行される.血栓溶解療法は抗凝固療法と比較すれば早期血栓溶解効果や血行動態改善効果は明らかであるが,死亡率低下といった予後改善効果については未分画ヘパリンに対する優位性は明らかでない.また,出血性合併症の発生頻度が高まることから安易に用いるべきではなく,適応について十分に検討して施行されるべきである.そのほかの薬物治療としては,血行動態不安定例に対し使用される昇圧剤などがある.

急性肺塞栓症のIVRによる治療

著者: 田島廣之 ,   村田智 ,   中沢賢 ,   市川和雄 ,   福永毅 ,   村上隆介 ,   隈崎達夫

ページ範囲:P.339 - P.342

要旨:急性肺塞栓症は急性期死亡率の高い疾患で,的確な診断と治療が不可欠となっている.抗凝固療法は最も古くから行われてきたが,生命の危機に瀕している致死性塊状型急性肺塞栓症には十分とは言えず,全身からの血栓溶解療法と外科的血栓摘除術が治療として選択されてきた.しかしながら,これらの治療法も決して満足な治療成績を収めてきたわけではない.カテーテルからの局所的血栓溶解療法や経皮的血栓摘除術,特殊なデバイスを用いた経皮的血栓破砕術,そしてステント治療はinterventional radiology(IVR)と総称される新しい治療法で,特に重症症例に対し行われ,比較的優れた成績が報告されてきている.本稿では,この新しい治療法について述べた.

急性肺血栓塞栓症の手術治療

著者: 安藤太三

ページ範囲:P.343 - P.348

要旨:急性肺血栓塞栓症は最近増加している救急疾患であり,一般外科や産婦人科などの術後において注意しなくてはならない術後合併症の1つである.病態は無症状に近いものから突然心停止に至るものまで多彩であり,重症例では低酸素血症や肺高血圧が進行して,最後には呼吸不全や右心不全に陥る.本症では,まず胸痛の症状や低酸素血症などの所見で肺血栓塞栓を疑い,心エコーや体部CTなどによって迅速に確定診断を下し,早めに治療方針を決定する必要がある.本症に対しては血栓溶解療法による内科的治療が有効な症例が多いが,血栓が多量で広範に存在したりショックとなった症例では,人工心肺を用いた体外循環下の直視下血栓摘除術が非常に有効である.循環虚脱で心停止をきたした症例では,経皮的心肺補助(PCPS)を装着して外科治療に持って行くことができれば救命が可能である.

急性肺塞栓症のフィルターによる予防と治療

著者: 應儀成二

ページ範囲:P.349 - P.353

要旨:肺塞栓症の予防法である下大静脈フィルターには,永久型と一時型とがある.永久型では長期間にわたる抗凝固療法の禁忌を適応とするが,一時型では短期間の確実な肺塞栓症の予防を適応とする.主に内頸静脈から挿入して,下大静脈の腎静脈末梢側に留置する.抗凝固療法は禁忌でない限り使用する.フィルターの異常は超音波検査で疑診し,造影CTで確定する.合併症は,穿刺部では永久型と一時型とで大差はないが,留置部では永久型で多い.特に,フィルター血栓は下大静脈閉塞に進展する可能性があり,早期診断と治療が必要である.下大静脈フィルターによって致死的肺塞栓症が減少することから,予防効果が期待できる.

腹腔鏡下手術とガス塞栓

著者: 謝宗安

ページ範囲:P.355 - P.362

要旨:腹腔鏡下手術中のガス塞栓は,臨床的に2種類に分類される.1つは少量のガスが血管内に入り,臨床症状の変化はなく経食道心エコー(TEE)などで発見されるAタイプである.もう1つは,大量のガスが血管内に入って循環変動を示すBタイプである.TEEを用いると,腹腔鏡下胆囊摘出術では70%ほどの患者にAタイプのガス像がみられる.ガス塞栓のリスク因子は,(1)気腹針とトロッカーの盲目的挿入,(2)腹部手術の既往,(3)CO2以外のガスの使用,である.Bタイプの塞栓は終末呼気CO2分圧の低下によって発見されることが多い.CO2の低下があれば,TEEや胸壁ドップラー心雑音の検査をする.治療は,(1)気腹と亜酸化窒素の中止,(2)酸素吸入,(3)循環補助,(4)動脈ガス塞栓の検索と対策,である.

 腹腔鏡は20世紀初頭から診断法として用いられ,1924年には二酸化炭素(CO2)が気腹ガスとしてはじめて使用された1).一方,心臓弁や大血管を映像化するために,空気やCO2の血管内注入が1950年代まで行われていた2,3).このようにガスは古くから使用され,塞栓の危険性も認識されてきた.したがって,ガスの安全性や塞栓の診断と治療についての研究は長い歴史を持っている.

 近年,腹腔鏡下に多くの臓器手術が行われるようになった.それによって再びガス塞栓が注目されるようになった.本稿では,ガス塞栓のリスクと防止法を中心に,最近までの考え方を紹介する.

カラーグラフ 内視鏡外科手術に必要な局所解剖のパラダイムシフト・6

腹腔鏡下S状結腸切除術

著者: 福永正氣 ,   木所昭夫 ,   射場敏明 ,   杉山和義 ,   永仮邦彦 ,   須田健 ,   吉川征一郎 ,   阿部正史

ページ範囲:P.279 - P.285

◆◆◆

はじめに

 大腸癌の腹腔鏡下大腸切除術(以下,LAC)は北米COSTグループによるrandomized control trialなどで進行癌でも長期予後が開腹手術に劣らないことが報告され,アメリカ大腸肛門外科学会(ASCRS)は習熟した外科医が施行することでLACの認可を声明した1~4).わが国では大腸癌研究会のガイドラインに組み込まれることが確実で,今後,さらに普及が予想される.

 本稿では,LACの施行頻度が最も高いS状結腸進行癌を安全で合理的に行うための具体的な手技とコツを解説する.

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 14

胃腸吻合の漿膜筋層縫合は必要か

著者: 木ノ下義宏 ,   宇田川晴司

ページ範囲:P.364 - P.365

 1871年,Billrothによってはじめて胃切除術が行われたが,このときの吻合法は残胃の小彎側に十二指腸を吻合する方法で,Albertの一層吻合であったと言われている.その後,大彎側に吻合するようになり,BillrothⅡ法が行われるようになった.さらに多くの外科医によって種々の工夫や改良がなされ,縫合不全や狭窄,吻合部潰瘍など多くの苦い経験を経て今日に至っている.そして,消化管吻合として金科玉条のように教えられた二層吻合の代表として,Albert-Lembert法による縫合はいまだ日本では広く愛用されている.しかし,近年は消化管の切断端を各層ごとに接合させる断端接合吻合(Gambee法,Jourdan法,Olsen法など)が注目され,なかでも一層吻合のGambee法は海外では最も普及している.本稿では二層吻合と一層吻合の長所・短所を比較し,はたして漿膜筋層縫合は必要かという疑問に対して私見を述べる.

日米で異なる外科レジデント教育・医療事情・9

血管外科および胸部外科の実際

著者: 十川博

ページ範囲:P.366 - P.367

◇はじめに◇

 日本の外科が米国に比べて症例の数で負けているのは血管外科および胸部外科の分野であろう.心筋梗塞や閉塞性末梢血障害の数は圧倒的に米国のほうが多い.また,米国の特徴としては胸部外科はCT surgeryと呼ばれて,心臓外科と肺外科を両方扱うことが多い.また,それには食道外科も含まれる.胸部の血管は胸部外科が扱う.一方,それ以外の血管の手術(腹部大動脈瘤からcarotid endoarterectomyまで)は血管外科の独占場となる.現在,心臓外科は一般外科レジデント教育の必修教科には入っていない.つまり,外科レジデントは心臓外科の手術に入る必要もないし,そのローテーションも必要ない.労働時間80時間制限のせいで人手がないせいもあり,徐々にレジデントを心臓外科から引き上げつつある.一方,肺外科,食道外科は一般外科教育に必修である.食道の手術は胸部外科医もやるし,腫瘍外科医もやるという具合に,あまり縄張り分けがされていないのが現状である.

病院めぐり

大阪警察病院外科

著者: 水谷伸

ページ範囲:P.368 - P.368

 当院は大阪府警の職域病院として昭和12年9月に設立され,当初から市民に開放されています.開院当時の診療科は9科,230床でした.昭和55年に大阪府医師会三次救急医療機関の指定を受けました.平成5年4月に全面改築を行い,現在は24科,稼動病床534床で,21世紀の高度先進医療機関を指向する病院として地域医療に貢献しています.日本医療機能評価機構の認定を平成11年に取得し,平成16年6月に再審査を受けて再認定されました.

 外科は,一般消化器外科と乳腺・内分泌外科を合わせて63床です.平成15年の1日平均外来患者数は102名,平均在院日数は18.2日,入院稼働率は101.9%でした.スタッフは大阪大学第1外科から出向しており,中尾量保院長,仲原正明部長以下9名と研修医5名からなっています.診療は仲原部長の統括のもと,上部消化管,下部消化管,肝胆膵,乳腺内分泌の4グループに分かれて行っています.平成15年の年間手術総数は818例で,うち全身麻酔手術数は705例,手術内容は食道24例,胃128例,結腸・直腸136例,胆石147例,肝臓51例,胆道32例,膵臓16例,甲状腺65例,乳腺69例,ヘルニア109例などでした.

近森会近森病院外科

著者: 北村龍彦

ページ範囲:P.369 - P.369

 近森病院は昭和21年12月21日に起きた南海地震の3日後に開設した近森外科から始まります.現院長の近森正幸が昭和59年に2代目の院長・理事長に就任し,若き医師とともに外科を引っ張ってきました.昭和61年には現副院長・外科部長の筆者が着任し,院長,科長,外科医2名,形成外科医1名の5人体制が始まりました.平成2年からは東京女子医科大学の派遣がなくなり,院長も外科を離れましたが,高知大学第1外科,大阪医科大学形成外科,群馬大学第1外科,高知大学第2外科,獨協医科大学小児外科からの派遣医が加わり,現在に至っています.

 近森病院は高知駅前の中心地にあって365日24時間休みなしの医療を提供しており,平成15年には地域医療支援病院の認定を受け,北米型のER(救急センター)方式での救急患者の受け入れとともに地域との医療連携に力を注いでいます(昨年の救急搬入は5,527件).すなわち,外来患者は極力,地域の先生方にお任せし,重症患者・救急患者の入院治療を引き受けることに主眼を置くことで機能分化をはかっています.また,豊富な症例を経験できるため,これからの医療を担う医師を育てるべく管理型と協力型の臨床研修病院の使命も果たしています.基盤の整備と組織的な対応結果として急性期特定病院として認められ,日本医療機能評価機構の更新認定も受けています.また,各学会の専門医修錬施設として認定され,後期研修にも対応しています.

臨床研究

囊胞内乳癌の確定診断に有用な乳腺囊胞内液中のCEA測定

著者: 赤木純児 ,   前田圭介 ,   岩永知大 ,   竹本隆博 ,   高井英二 ,   光野利英

ページ範囲:P.371 - P.374

はじめに

 乳線囊胞内腫瘍には,良性腫瘍として囊胞内乳頭腫が,悪性腫瘍として囊胞内乳癌がある.囊胞内乳癌はその発生頻度はきわめて低いが,囊胞内乳頭腫との鑑別に難渋することが多い.

 今回,われわれは乳線囊胞内乳頭腫2例と囊胞内乳癌1例を経験し,その鑑別診断に囊胞内液中のCEA値が有用であったので,文献的考察を加えて報告する.

臨床報告・1

術前CT検査でMeckel憩室内翻を疑った成人腸重積症の1例

著者: 普光江嘉広 ,   高梨秀一郎 ,   李雨元 ,   村上雅彦 ,   草野満夫 ,   竹山信之

ページ範囲:P.375 - P.377

はじめに

 成人の腸重積症は比較的稀であり,小児と比べ器質的疾患によることが多い.今回,Meckel憩室内翻による成人腸重積症の1例を経験した.本症例は術前CT検査でMeckel憩室内翻による腸重積症も鑑別診断に入れることが可能であったと思われたので,本稿では文献的考察を加え報告する.

直腸癌術後の骨盤腔内感染による外腸骨動脈および尿管破裂の1例

著者: 上田順彦 ,   川崎磨美 ,   古屋大 ,   中川原寿俊 ,   吉光裕 ,   澤敏治

ページ範囲:P.379 - P.383

はじめに

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下,MRSA)は1980年代以降の第3世代セフェム薬の頻用の結果,全国的に蔓延し,感染症治療上の深刻な問題となっている1,2).今回,直腸癌術後の骨盤腔内のMRSA感染によって外腸骨動脈および尿管破裂をきたした1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

鼠径法でProline® hernia systemを用いて修復した閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 宮澤智徳 ,   冨田広 ,   牧野春彦

ページ範囲:P.385 - P.387

はじめに

 閉鎖孔ヘルニアは高齢の女性に多く発症し,腸管の嵌頓による腸閉塞症状によって緊急手術が選択されることが多い.最近では,全身状態が悪く全身麻酔や開腹手術のリスクが高い症例に対し,より侵襲の小さい鼠径法による手術や1,2),meshを用いた修復3~6)が報告されている.

 今回,われわれは自然還納を確認した閉鎖孔ヘルニアに対して待機的に鼠径法でProline® hernia system(以下,PHS)を用いて治療した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

巨大後腹膜脂肪肉腫の1例

著者: 石部敦士 ,   黒澤治樹 ,   小松茂治 ,   鬼頭文彦 ,   福島恒男 ,   中村宣生

ページ範囲:P.389 - P.393

はじめに

 後腹膜腫瘍の頻度は全腫瘍の0.2%とされ,70%~80%が悪性と報告されている.また,後腹膜脂肪肉腫は後腹膜腫瘍の10~20%を占める1).後腹膜から発生するため臨床症状が乏しく,巨大腫瘤として発見されることが多い.

 今回,われわれは巨大後腹膜脂肪肉腫の1例を経験したので報告する.

イレウスを呈した穿孔性小腸憩室の1例

著者: 秋山有史 ,   青木毅一 ,   中屋勉 ,   藤原久貴 ,   小松正代 ,   斎藤和好

ページ範囲:P.395 - P.398

はじめに

 小腸憩室は消化管憩室症のなかでも比較的稀な疾患である1).今回,筆者らは,穿孔によって腹腔内膿瘍を形成しイレウスをきたした小腸憩室の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

臨床報告・2

非外傷性腹直筋血腫の1例

著者: 島本強 ,   水谷知央 ,   野尻真 ,   阪本研一

ページ範囲:P.400 - P.401

はじめに

 腹直筋血腫は急激な腹直筋の収縮による腹壁動脈の破綻によって筋鞘内に血腫を形成する疾患である1).Warfarin®(warfarin potassium)内服中に感冒時の咳嗽によって腹直筋内の血管から出血し,限局的に血腫を形成したと考えられた非外傷性腹直筋血腫の1例を経験したので報告する.

手術手技

シアノアクリレートを用いた痔瘻に対する一次口閉鎖法

著者: 星加奈子 ,   大見良裕 ,   稲葉宏 ,   大見琢磨 ,   城俊明 ,   深野雅彦

ページ範囲:P.404 - P.407

はじめに

 痔瘻の発生機序は,肛門小窩からの細菌感染によって肛門腺に生じたprimary anal gland abscessが抵抗の少ないスペースへ波及した,いわゆるcrypt-glandular infection theoryで説明されている1~3).この理論をもとに,全瘻管を開放するlaying open methodや,肛門機能の温存を重視し,一次口を含めた内外括約筋間の瘻管部分の切除または開放にとどめたconservative operationなど種々の手術法が現在まで考案され行われている3).しかし,従来の痔瘻に対する根治手術は内・外肛門括約筋が程度の差はあるが損傷され,術後ガスが漏れやすくなったり,下痢便のとき少し便が漏れやすくなるなど肛門機能障害が生じる可能性があった.

 われわれは一次口の存在そのものが痔瘻の発生や再燃の主な原因であり,この一次口を切除・閉鎖することができれば肛門機能をまったく損なうことなく痔瘻は治り得ると考え,一次口閉鎖法・一次口切除法を施行してきた.その結果,再燃は痔瘻の一次口閉鎖法で39例中3例(7.7%),一次口切除法で28例中1例(3.6%)と良好な結果を得ている4)

 今回,さらにシアノアクリレート(医療用アロンルファ:以下,アロンアルファ®)を用いた一次口閉鎖法を考案し施行したので,その方法および効果について報告する(図1).

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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