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文献詳細

雑誌文献

臨床外科60巻8号

2005年08月発行

外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問 19

胃癌手術に網囊切除は有用か

著者: 白石憲男1

所属機関: 1大分大学医学部第1外科

ページ範囲:P.1034 - P.1035

文献概要

わが国で出版されている手術書を開くと,「胃癌の手術」の項に網囊切除の手技が掲載されている.研修医の頃,私も先輩から網囊切除は標準的な手術手技の1つだと教わってきた.

 網囊は胃の後面に接する腹膜で構成され,Winslow孔に開口している.網囊切除は,横行結腸間膜の前面にある腹膜を膵臓や後腹膜を被覆する腹膜とともに切除する術式である.最近出版された多くの書物にも,「癌が胃後壁に露出しているときには網囊切除を行うことが手技上のポイントである」と強調している.その理論的根拠は,漿膜浸潤を認める胃癌の場合,網囊内に微小な腹膜転移が生じている可能性があるためというものである.2004年4月に改定された胃癌治療ガイドラインには,網囊切除を省略する手術を「縮小手術」と位置づけ,その適応を漿膜浸潤のない症例とした1).しかし,「S(+)症例を含めて網囊切除の延命効果を示すエビデンスはない」とも記載している.面白いことに,有名な外国の教科書の索引を調べてみても網囊切除に対応する言葉は見つからない.もちろん,1回のRCTもない.

参考文献

1)日本胃癌学会(編):胃癌治療ガイドライン(第2版).金原出版,2004
2)渡辺直純,梨本 篤,藪崎 裕,他:T2,T3胃癌根治手術例における大網・網嚢温存の意義に関する検討.日臨外会誌65:2570-2574,2004
3)藤田淳也,塚原康生,池田康生,他:進行胃癌に対する大網網嚢温存手術適応の可能性―手術侵襲,術後合併症および手術成績からみた検討.日本消化器外科学会雑誌36:1151-1158,2003
4)山村義孝,伊藤誠二,望月能成,他:胃癌手術における大網切除・網嚢切除は有用か?.外科治療90:70-76,2004
5)廣瀬和郎,山口明夫,片山寛次,他:胃癌根治手術例における網嚢・大網切除の意義:術後イレウスの発症との関連性について(会議録).日本消化器外科学会35:928,2002
6)吉川貴己,利野 靖,高梨吉則,他:漿膜浸潤陽性胃癌に網嚢切除は有効か(会議録).日本消化器外科学会35:927,2002
7)日本胃癌学会(編):胃癌取扱い規約(第13版).金原出版,1999

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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