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臨床外科交見室
リスターは「傷を消毒」してではなく,「傷を外部環境から(侵入してくる細菌から)遮断」して感染を防止した!
著者: 佐藤裕1
所属機関: 1北九州市立若松病院外科
ページ範囲:P.1390 - P.1391
文献購入ページに移動 近年,消毒薬は細菌に対するのと同じように生体細胞にも傷害的に作用するということが医療従事者に知られてくるのにつれて,「消毒薬を使わない創傷管理」が注目されるようになり,実際に日常診療の場に採用されつつある.しかし,そのような新しい創傷管理を取り上げた解説書において,「リスターは石炭酸で傷を消毒することによって創感染を減らしたが,実際には石炭酸の殺菌力は弱いものなので,創感染の減少は石炭酸によるのではなく,石炭酸で創を洗うことによって物理的に細菌を減らしたためだ」というように記されている(たとえば,夏井睦氏の「傷に消毒は必要か」1)).
今回,筆者が取り上げるのは,消毒薬を使わない創傷管理に関連して,リスターが防腐法を取り上げた原著論文である.Brit Med J誌に載った有名なリスターの論文2)を読むと,リスター式防腐法の主旨が,創面に消毒薬を塗って感染を防止するのではなく,創の感染を防ぐために「傷を外界から(すなわち,外部から侵入してくる細菌から)遮断する」ことにあることがわかるのである.すなわち,「致命的な敗血症に移行していく創感染は,腐敗と同じように外界の細菌によって生じる」というパスツールの説を受け入れたリスターは,石炭酸を滲みこませたガーゼで傷を被覆することによって,「創を細菌が浮遊している外界から遮断した」のである.この点に関して,前述したリスター論文において「I arrived at the conclusion that the essential cause of suppuration(化膿)in wounds is decomposition(筆者訳:腐敗=化膿と同じ意味), brought about by the influence of the atmosphere upon blood or serum retained within them, and in the case of contused wounds, upon of tissue destroyed by the violence of the injury(筆者意訳:創化膿の本質は,創内の血液や血清,挫滅組織に外部環境が影響して生じる腐敗である)」,「Pasteur showed that the septic property of the atmosphere depended on minute organisms suspended in it(筆者意訳:パスツールが示した外部環境からの感染の本体は,空中に浮遊する微生物である)」,「It occurred to me that decomposition in the injured part might be avoided without excluding the air, by applying as a dressing some material capable of destroying the life of the floating particles(筆者意訳:浮遊する粒子,すなわち微生物ないし細菌を破壊することができるものでドレッシングすれば,空気を排除せずとも挫滅した部分に生じる腐敗すなわち化膿は回避できる)」,「All that requisite is to guard against the introduction of living atmospheric germs from without(筆者意訳:感染防止のための必要条件は,創を外部からのgermすなわち細菌の侵入から守ることである)」,「The material which I have employed is carbolic or phenic acid(筆者意訳:その目的のために,石炭酸ないしフェノールを選択した)」というような記述がみられる.また,論文内には「aseptic curtain」という記述があり,「油に混ぜた石炭酸を滲み込ませたガーゼは“防腐用の仕切(aseptic curtain)”として働く」と述べている.なお,このリスター論文の中程には「The carbolic acid, though it prevents decompsition, induces suppuration-obviously by acting as a chemical stimulus;and we may safely infer that putrescent organic materials(which we know to be chemically acrid)operate in the same way」という一節があり,リスターはきちんと「石炭酸が化学的刺激物であることから,(組織を傷めて)化膿も引き起こすものである」ことに言及しているのである.
今回,筆者が取り上げるのは,消毒薬を使わない創傷管理に関連して,リスターが防腐法を取り上げた原著論文である.Brit Med J誌に載った有名なリスターの論文2)を読むと,リスター式防腐法の主旨が,創面に消毒薬を塗って感染を防止するのではなく,創の感染を防ぐために「傷を外界から(すなわち,外部から侵入してくる細菌から)遮断する」ことにあることがわかるのである.すなわち,「致命的な敗血症に移行していく創感染は,腐敗と同じように外界の細菌によって生じる」というパスツールの説を受け入れたリスターは,石炭酸を滲みこませたガーゼで傷を被覆することによって,「創を細菌が浮遊している外界から遮断した」のである.この点に関して,前述したリスター論文において「I arrived at the conclusion that the essential cause of suppuration(化膿)in wounds is decomposition(筆者訳:腐敗=化膿と同じ意味), brought about by the influence of the atmosphere upon blood or serum retained within them, and in the case of contused wounds, upon of tissue destroyed by the violence of the injury(筆者意訳:創化膿の本質は,創内の血液や血清,挫滅組織に外部環境が影響して生じる腐敗である)」,「Pasteur showed that the septic property of the atmosphere depended on minute organisms suspended in it(筆者意訳:パスツールが示した外部環境からの感染の本体は,空中に浮遊する微生物である)」,「It occurred to me that decomposition in the injured part might be avoided without excluding the air, by applying as a dressing some material capable of destroying the life of the floating particles(筆者意訳:浮遊する粒子,すなわち微生物ないし細菌を破壊することができるものでドレッシングすれば,空気を排除せずとも挫滅した部分に生じる腐敗すなわち化膿は回避できる)」,「All that requisite is to guard against the introduction of living atmospheric germs from without(筆者意訳:感染防止のための必要条件は,創を外部からのgermすなわち細菌の侵入から守ることである)」,「The material which I have employed is carbolic or phenic acid(筆者意訳:その目的のために,石炭酸ないしフェノールを選択した)」というような記述がみられる.また,論文内には「aseptic curtain」という記述があり,「油に混ぜた石炭酸を滲み込ませたガーゼは“防腐用の仕切(aseptic curtain)”として働く」と述べている.なお,このリスター論文の中程には「The carbolic acid, though it prevents decompsition, induces suppuration-obviously by acting as a chemical stimulus;and we may safely infer that putrescent organic materials(which we know to be chemically acrid)operate in the same way」という一節があり,リスターはきちんと「石炭酸が化学的刺激物であることから,(組織を傷めて)化膿も引き起こすものである」ことに言及しているのである.
参考文献
1)夏井 睦:傷に消毒は必要か.臨外61:206-207,2006
2)Lister J:On the antiseptic principle in the practice of surgery. Brit Med J 2:246-248, 1867
3)佐藤 裕:Antisepsis(防腐法)からAsepsis(滅菌,無菌)へ.臨外61:955-958,2006
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