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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科61巻11号

2006年10月発行

雑誌目次

特集 イラストレイテッド外科標準術式 Ⅰ.食道の手術

頸部食道切除後遊離空腸再建術

著者: 吉野邦英 ,   奈良智之

ページ範囲:P.7 - P.13

はじめに

 頸部食道癌切除後に遊離空腸で再建可能なのは癌が頸部に限局し,縦隔リンパ節転移のない場合である.術前に縦隔リンパ節転移が疑われたり内視鏡的に切除が不可能な胸部食道の副病変をもつものは,開胸して胸部食道を切除するため胃管または結腸による再建となる.

 また頸部食道に限局した癌であっても喉頭が温存できるのは前壁側の口側境界が下咽頭にかからないことと,気管や反回神経など周囲臓器への浸潤がないことが条件となる.

 ここでは喉頭が温存可能な頸部食道に限局した癌に対して,両側頸部郭清,頸部食道切除後遊離空腸による再建の術式の要点を述べる.

食道亜全摘胃管再建術

著者: 安藤暢敏 ,   佐藤道夫 ,   戸張正一

ページ範囲:P.15 - P.22

はじめに

 食道亜全摘胃管再建術は本邦における胸部食道癌に対する最も標準的な切除再建術である.その多くは右開胸開腹により行われるが,右開胸下の食道亜全摘,縦隔郭清については,本項の共通項目なのでその手順を簡潔に述べるにとどめ,本稿では胃管再建について詳述する.

食道亜全摘結腸再建術

著者: 井垣弘康 ,   加藤抱一

ページ範囲:P.23 - P.29

適応と選択

 食道癌切除後の再建臓器に第一選択となる胃を用いることができない場合,通常,結腸が用いられる.結腸による再建では中結腸動脈を血管茎とした右側結腸と,左結腸動脈を血管茎とし横行結腸を中心とした左側結腸が用いられる.あとに述べるような理由で,今日筆者らは左側結腸を用いることを第一選択としている.再建経路は原則的には胸壁前経路を選択していたが,最近では胸骨後経路も再建経路として選択している.後縦隔経路は食道亜全摘の場合,縫合不全になったときに縦隔炎,膿胸への進展が危惧されるが,この経路を選択するときもある.

結腸の授動

 結腸の剝離は右側では肝彎曲部から上行結腸,回盲部を後腹膜から十分に授動する(図1).左側では中結腸動脈根部から脾彎曲部,S状結腸まで剝離する.このとき,尿管,精巣(卵巣)動静脈を損傷しないように剝離を行う.

左開胸開腹下部食道噴門切除・胸腔内胃管再建術

著者: 藤田博正 ,   末吉晋 ,   田中寿明 ,   白水和雄

ページ範囲:P.31 - P.41

はじめに

 胸部食道癌の標準手術は右開胸開腹食道亜全摘・胃管による食道再建術である.一方,①下部食道の表在癌で上縦隔転移の可能性が少ない症例,②下行大動脈,左肺,横隔膜などへの浸潤が予想される症例,③胃に浸潤する下部食道噴門癌あるいは胃壁内転移を有する症例,④小彎から左胃動脈や腹腔動脈の周囲にかけてリンパ節転移が一塊となっている症例では,左開胸開腹下部食道噴門切除・胸腔内食道胃管吻合術が適応となる場合がある.ここでは筆者らが行っている標準的な術式とともにその変法を紹介する.なお,この手術で郭清されるリンパ節を図1に示す1,2)

下部食道噴門癌(腺癌)手術〔開胸付加〕

著者: 磯﨑博司

ページ範囲:P.43 - P.51

はじめに

 下部食道噴門部癌に対する左胸腹連続斜切開法(いわゆる斜め胴切り法)を用いた胃全摘,脾・脾動脈幹合併切除,D3郭清手術について解説する.本術式の適応は食道浸潤が2cm以上の胃上部(噴門部を含む)を中心とした進行胃癌であり,十分な腹腔内および縦隔内リンパ節の郭清が必要な場合である.左開胸の手術侵襲はそれほど大きくはないが,術後の肺合併症が懸念される高齢者では開腹のみの操作による術式を採用するほうが安全である.

胸腔鏡下食道切除術

著者: 東野正幸 ,   竹村雅至 ,   谷村愼哉 ,   福長洋介

ページ範囲:P.53 - P.60

はじめに

 実験的に縦隔鏡を用いて鏡視下に食道切除が試みられたのは比較的早く,1989年Kipfmullerら1)は羊を用い行っている.しかし,最初に臨床例で胸腔鏡下に食道を切除したのは1992年のCuschieriら2)とされる.わが国では川原ら3)の反転抜去との組み合わせによる臨床例への応用に始まり,その後,井上4)や赤石5)らによって通常の開胸術と同様の手順で鏡視下に食道切除が行われるようになってきた.しかし,現在においても胸部食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術の適応や位置づけに関しては,施設により相違がみられる.筆者らは,以前から鏡視下においても右開胸下の術式と同等の郭清が可能であり,さらに呼吸機能の温存が可能であることを報告してきた6).本稿では筆者らが行っている,完全鏡視下の胸腔鏡下食道切除術,ならびに縦隔リンパ節郭清の手術手技と工夫について述べる.

Ⅱ.胃の手術

幽門保存胃切除術

著者: 柴田近 ,   小林照忠 ,   上野達也 ,   木内誠 ,   溝井賢幸 ,   舟山裕士 ,   佐々木巖

ページ範囲:P.63 - P.70

はじめに

 幽門保存胃切除術(pylorus preserving gastrectomy:PPG)は槇ら1)により胃潰瘍に対する幽門温存機能手術として開発されたが,最近では早期胃癌に対する機能温存手術として広く行われている.本術式における幽門機能温存のポイントは幽門輪から1.5cmの幽門部を残して口側の残胃と吻合して消化管再建を行うもので,幽門機能が温存されることによりダンピング症状や逆流性食道炎の発生が少なく,従来のBillroth Ⅰ法,Ⅱ法に比べて良好な術後のQOLが期待される2,3).実際のPPGではリンパ節郭清度の違いにより,胃潰瘍に対する術式と同様の術式からD2リンパ節郭清に近い術式まで様々なものがある.本術式の手技的ポイントは幽門部周囲の血管・神経の処理法と胃・胃吻合に対する熟練度であり,その他の手術操作については従来の遠位側胃切除術とほぼ同様と考えてよい.

腹腔枝温存胃切除術

著者: 三輪晃一

ページ範囲:P.71 - P.77

はじめに

 胃癌手術後の困難症には,胃切除によるもののほかにリンパ節郭清に伴う自律神経系,特に迷走神経の損傷によって生じるものがある.迷走神経切離による障害は消化性潰瘍の迷切術の経験で明らかにされており1,2),胃癌手術でも根治性が満たされる場合は自律神経系が温存されるべきである.

 迷走神経の肝枝,腹腔枝温存の利点は胃切除後胆石の予防,下痢の予防,術後の順調な体重回復,インスリン分泌障害の予防である.そのほか血糖などのcircadian rhythm,胃,十二指腸,胆道,膵臓などの臓器相関にも関与すると考えられる3)

 本稿では胃周囲の自律神経の解剖と機能,腹腔枝温存のポイントを記載する.

幽門側胃切除空腸パウチ間置術

著者: 帆北修一 ,   愛甲孝 ,   上之園芳一 ,   中条哲浩 ,   石神純也 ,   有留邦明 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.79 - P.85

はじめに

 幽門側胃切除後の術後障害や愁訴は胃切除術後のquality of lifeの面から注目を集めている.術後愁訴は術後のQOL,手術に対する満足度に大きく結びつくものであり,われわれ外科医に課せられた解決すべき重要な問題でもある.これまでにも各種の再建術式の工夫が幽門側胃切除後の症例に対し試みられ,その1つとして二重腸管を用いたpouchによる代用胃作製が提唱された1,2)が,手術術式が複雑であったことや,QOLや栄養学的な面でどのように評価するか科学的な指標がなかったこともあり,広く普及するには至らなかった.近年,自動吻合器の進歩・普及に伴い手技上の煩雑さが軽減されたこともあり,再び代用胃としてのpouch作製の気運が高まってきている3~6).そこで胃癌手術後患者のQOLの向上を目的として,現在教室で行っている残胃と十二指腸との間にpouchを形成した空腸を間置する再建術式7)について述べる.

噴門側胃切除空腸パウチ再建術

著者: 生越喬二 ,   中村健司

ページ範囲:P.87 - P.94

はじめに

 従来,上部胃癌においては進行癌のみならず早期胃癌に対してもリンパ節郭清の完全性や手術手技上の容易さから,一般的には胃全摘術が広く行われてきた.しかし,近年,癌患者のQOLが注目されるようになり,外科手術も臓器温存,術後障害の少ない再建術式を採用する方向へと変化する時代となってきた.筆者ら1)は以前から上部胃癌に対して,術後の栄養面やQOLの面から噴門側胃切除術を施行してきた.再建術式としては食物が十二指腸を通過するいわゆる生理的な経路と,食物の排出を良好に保つためにダブルトラクト法を施行してきた2).さらに数年前から術後患者の小胃症状の改善を目的として,ダブルトラクト法に空腸囊を応用した空腸囊形成ダブルトラクト再建法(jejunal pouch double tract:以下,JPD)を施行してきた.本稿では噴門側胃切除術後のJPD再建につき紹介する.

胃全摘後空腸パウチ再建術

著者: 竹下公矢 ,   関田吉久 ,   谷雅夫

ページ範囲:P.95 - P.103

はじめに

 近年,消化管吻合器の改良,進歩に伴い,胃切除後のQOLの改善を目指して,各種の空腸パウチ(pouch)を用いた再建術が行われるようになってきた1~5).胃癌における胃全摘後空腸パウチ再建術では,従来の再建法に比べ安全性,手術時間の面で遜色のないことが普及するための必須条件である.本稿では最近筆者らが主として行っている方法6~10)を中心に,その手技と成績を報告する.

大動脈周囲リンパ節郭清術

著者: 喜多村陽一 ,   小熊英俊 ,   高崎健

ページ範囲:P.105 - P.111

はじめに

 胃癌手術において,大動脈周囲リンパ節郭清術は進行胃癌手術術式として広く行われるようになり,術式として確固とした地位を得たと言える1,2)

 しかし,どの進行程度の胃癌が本術式の適用となるのか,またどのようなアプローチでどの範囲の大動脈周囲を郭清することが最良か,未だ明確ではない3).そこで本稿においては,日頃当教室で行っている方法をシェーマを中心に呈示する.

進行胃癌の拡大手術(左上腹内臓全摘術など)

著者: 古河洋 ,   今村博司 ,   龍田眞行 ,   岸本朋乃 ,   山本和義

ページ範囲:P.113 - P.119

はじめに

 胃癌の手術法は,比較試験はされなかったもののその治療成績や安全性が一般に発表されているので,それが「標準手術」として扱われてきた.進行癌では「根治B」になるよう,すべて取り除く術式が採用された.一方,リンパ節郭清のために一定の臓器を合併切除する術式も定着し,例えば「胃全摘+膵・脾合併切除」が行われてきた.さらに拡大した手術術式として「左上腹内臓全摘術」や「膵頭十二指腸切除」も行われている.ここでは,胃全摘+膵・脾合併切除,「左上腹内臓全摘術」などとそれより大きい手術の意義と手術術式,治療成績について述べる.

腹腔鏡補助下幽門側胃切除術

著者: 白石憲男 ,   安田一弘 ,   北野正剛

ページ範囲:P.121 - P.129

はじめに

 腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)は,早期胃癌(T1)や中期の胃癌(T2N0)を適応として施行されており,D1+αやβのリンパ節郭清が行われることが多い.LADGは,従来の手術に比べ根治性を低下させることなく,低侵襲性・術後疼痛の軽減・早期社会復帰・美容上の利点などを兼ね備えた術式として評価されるようになってきた1,2).そのため,日本内視鏡外科学会のアンケート調査においても年々増加の傾向にある3).本稿では,より安全なLADG(D1+β)を行うための手技上のコツを概説する.

Ⅲ.結腸・直腸の手術

右半結腸切除術

著者: 高橋孝 ,   畦倉薫 ,   石川博敏

ページ範囲:P.133 - P.145

標準的右半結腸切除術

 最も高い頻度で出会う進行度の右側結腸癌に対して,過不足のない切除と郭清の操作をもつ術式で,多くの外科医が採用している術式を標準的右半結腸切除術と呼ぶならば,これに相当する右半結腸切除術を1つ挙げることは難しい.それだけ日常に行われている右半結腸切除術式には切除と郭清の範囲に違いがあり,かつその操作への到達方向にも相違が見られている.この意味ではいくつもの標準的右半結腸切除術式があると言える.

 何をもって右半結腸切除術とするかも定まっていない.ここではまず筆者らの考える右半結腸切除術を述べておく.

横行結腸切除術

著者: 橋口陽二郎 ,   望月英隆

ページ範囲:P.147 - P.153

はじめに

 横行結腸切除は横行結腸の良性腫瘍および早期癌に対してD0~D1程度の郭清の手術として行われる場合には腹腔鏡補助下手術の良い適応と考えられる.一方,十分なリンパ節郭清を行うためには中結腸動脈を根部で切離し,大網および結腸間膜も広範に切離する必要があるため,標準的横行結腸切除は腹腔鏡補助下手術の対象となりにくいとされている.本稿では当科で施行している進行横行結腸癌に対する開腹によるD3郭清の横行結腸切除について述べる.

左半結腸切除術

著者: 山口高史 ,   森谷冝皓 ,   赤須孝之 ,   藤田伸 ,   山本聖一郎

ページ範囲:P.155 - P.162

はじめに

 左側進行結腸癌に対する標準的なD3結腸左半切除(left hemicolectomy)は下腸間膜動脈(IMA)根部切離を伴い,下行結腸を脾彎曲部,S状結腸とともに切除し,残された横行結腸をS状結腸,あるいは直腸と吻合する術式である(図1).適応は下行結腸の進行癌が主であるが,腫瘍の場所,進行度,リンパ節転移の有無,血管の走行に応じて腸管切除,郭清範囲は適宜縮小される.一方,リンパ節転移状況によっては傍大動脈リンパ節郭清を施行することもある.本稿では当院で行われている左半結腸切除について,手術手技のポイントをシェーマを中心に述べる.

S状結腸切除術

著者: 河村裕 ,   小西文雄

ページ範囲:P.163 - P.169

はじめに

 本稿ではS状結腸癌に対する標準的な術式である自律神経を温存したS状結腸切除術に関して述べる.

腹会陰式直腸切断術

著者: 前田耕太郎 ,   花井恒一 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   小出欣和 ,   青山浩幸

ページ範囲:P.171 - P.178

はじめに

 近年超低位での吻合術式の改良や進歩により,直腸癌に対する腹会陰式直腸切断術の症例は減少している1,2).しかしながら,肛門近傍の病変などに対しては,根治性を保つために永久的なストーマを造設する腹会陰式直腸切断術を行う症例も少なくない.本稿では,筆者らの行っている標準的な術式について述べる.

直腸癌に対する前方切除術

著者: 森武生

ページ範囲:P.179 - P.185

はじめに

 直腸癌に対する前方切除術は古くて新しい術式である.つまり原理的には腹腔内で直腸を切除し吻合することは可能であるはずだが,手術技術や栄養管理などの補助療法が進歩していない時代には腹腔内で縫合不全を起こすことは致命的であったために,採られなかった術式であった.しかし1970年代からは周辺の環境が整ったために,積極的に行われるようになり,現在では低位直腸癌であっても標準的な術式となっている.本稿では,基本的に癌が腹膜反転部にかかる位置にある進行癌と想定して叙述を進めたい.

直腸癌に対する経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー

著者: 木下敬弘 ,   金平永二 ,   近藤樹里 ,   山田英夫 ,   大村健二

ページ範囲:P.187 - P.195

はじめに

 経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(以下:TEM)は,1980年代初頭にBuessら1,2)によって開発された,直腸腫瘍の外科的一括切除を行う管腔臓器内手術(endoluminal surgery)の一種である(図1).現在,わが国では内視鏡的粘膜切除術(以下:EMR)の技術向上や内視鏡的粘膜下層剝離術(以下:ESD)の開発によって適応症例はかなり限定される傾向にある.しかし,TEMは(1)粘膜切除であれば全周に近い一括切除まで行える,(2)腹膜翻転部以下では全層切除が行える,(3)欠損部を確実に縫合閉鎖が行える,という特徴を有する.

 TEMも開発から20年以上が経過していくつかの変法も報告されているが,本稿では,われわれが通常行っている直腸内通気法を用いたTEM原法を解説する3)

直腸癌に対する自律神経温存手術

著者: 榎本雅之 ,   安野正道 ,   樋口哲郎 ,   吉村哲規 ,   杉原健一

ページ範囲:P.197 - P.203

はじめに

 直腸癌の治療において骨盤腔内の局所再発およびリンパ節再発を減少させる目的で側方郭清を含む拡大リンパ節郭清が導入され,その効果も認められた1).しかし,局所再発およびリンパ節再発は減少しても生存率にはさほど反映されず,一方,自律神経系を切除するために生じる排尿・性機能障害が手術後の患者のQOLを低下させることが問題となってきた2).そこで,進行度に応じて自律神経を温存する手術が導入され,広く行われるようになってきた.

直腸癌に対する結腸囊肛門吻合術

著者: 須田武保 ,   畠山勝義 ,   寺島哲郎 ,   川原聖佳子 ,   飯合恒夫 ,   岡本春彦

ページ範囲:P.205 - P.212

はじめに

 直腸癌に対する結腸囊肛門吻合術は1986年に報告されて以来1,2),本邦でも2000年に超低位前方切除(経肛門的結腸囊肛門吻合によるもの)として保険適用され,下部直腸癌に対する標準術式の1つと認められている.本稿では,当科で行ってきたこの直腸癌低位前方切除後の結腸囊肛門吻合術について述べる.

腹腔鏡下大腸手術

著者: 渡邊昌彦

ページ範囲:P.213 - P.222

結腸右半切除

 1.体位

 左半側臥位(15度位)にマジックベッドと側部支持器で体軀を固定する.下肢は間歇式下肢加圧装置を装着し,レビテーターを用いて開脚位とする.右上肢はハンセンマッケを用い良肢位で吊り下げ,テープで左右にずれないように固定,左上肢は開いて固定する.額部にレストンパッドをあて,そこをテープで頭部をベッドに固定する.

 2.トロッカーの穿刺部位

 剣状突起と臍との中間点で小開腹し,ラップディスク(R)を装着しトロッカー(12mm)を導入して気腹したのち(A),内視鏡を挿入する.臍下部に内視鏡用のトロッカーを穿刺し,左中腹部〔(5mm)=B〕,下腹部正中〔(5mm)=C〕,右中腹部〔(5mm)=D〕を穿刺する.上腹部創以外は整容上,横切開とする.術者は患者の左側に立ち,カメラマンはその頭側か尾側に立ち,助手は脚間に立つ.

Ⅳ.肝・胆・膵の手術

中央2区域肝切除術

著者: 山崎晋 ,   小菅智男 ,   島田和明 ,   佐野力

ページ範囲:P.225 - P.231

適応

 肝臓の中央2区域切除とは,右葉前区域と左葉内側区域とを一塊として切除する術式である(図1).すなわち腫瘍がこの2区域に限局している症例で適応となる.多くは肝細胞癌や肝内胆管癌などの肝腫瘍,胆囊癌で肝S4-5に浸潤(Hinf)がある場合が適応である.

手技

 1.皮切,アプローチ

 J字切開,八の字切開,ベンツ切開などが使える(図2).

肝門部グリソン鞘一括処理による肝左区域(肝左葉)切除

著者: 山本雅一 ,   高崎健 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.233 - P.238

はじめに

 グリソン鞘一括処理による肝切除は1986年に高崎ら1)が報告し,現在では広く認知された術式となってきている.グリソン鞘一括処理による肝切除は解剖学的であり,手技も平易である.肝葉切除だけでなく,肝機能不良例における肝亜区域切除,区画切除に至るまで応用範囲が広いことも特徴であり2),また術後の合併症も少ない3).消化器外科医にとっては基本的な手術手技と認識すべきである.

前・後区域肝切除術

著者: 佐野圭二 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.239 - P.244

はじめに

 前・後区域切除術のポイントは肝門処理による区域同定と肝静脈の露出を伴う肝離断である1).すなわち右肝切除術と同じ手順を踏むが,肝門処理をより末梢で行う点,前区域切除術では離断面が複雑である点でさらに高度な技術を要する.

右葉・右3区域肝切除術

著者: 川村徹 ,   寺本研一 ,   有井滋樹

ページ範囲:P.245 - P.254

はじめに

 肝右葉切除術は中肝静脈を温存し,前区域と後区域の2区域を切除する術式で,「原発性肝癌取扱い規約」では,Hr2(A, P)のように記載される1).右3区域切除術は内側区域・前区域・後区域の3区域を切除する術式で,Hr3(A, P, M)のように記載される1).本稿では右葉切除術と右3区域切除術に関する手技を要点的に述べる2,3)

肝右葉・尾状葉切除,肝外胆管切除術

著者: 新井利幸 ,   梛野正人 ,   二村雄次

ページ範囲:P.255 - P.260

はじめに

 (拡大)肝右葉・尾状葉切除+肝外胆管切除は肝門に主座をもつ,あるいは肝門に浸潤した胆道癌に対する根治切除の中では最も多い術式のうちの1つである.本稿では本術式の適応,手術手技について概説する.

門脈合併切除を伴う肝門部胆管癌手術

著者: 宮崎勝 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之

ページ範囲:P.261 - P.267

はじめに

 肝門部胆管癌はその解剖学的特性のため,容易に門脈・肝動脈への浸潤をきたし得る.しかしながら,血管浸潤例でも根治切除が望めると判断したら積極的に血管合併切除再建を行っていくことで,予後の向上につながる可能性が報告されている1~6)

 今回は肝門部胆管癌において比較的しばしば遭遇する門脈浸潤例に対する血管合併切除術について,特に拡大肝右葉切除,門脈合併切除再建法の手技について詳述する.

進行胆囊癌に対する(拡大)肝右葉,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 太田岳洋 ,   吉川達也 ,   山本雅一 ,   新井田達雄 ,   吾妻司 ,   大坪毅人 ,   桂川秀雄 ,   今泉俊秀 ,   高崎健

ページ範囲:P.269 - P.276

はじめに

 (拡大)肝右葉切除,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術は進行胆囊癌や広範囲胆管癌に対して施行される術式である.消化器外科の手術のうちでも最も手術侵襲の大きい術式の1つであり,手術手技,周術期管理の進歩した現在でも術後肝不全などの術後合併症による手術死亡も稀ではない.また周術期を乗り切っても早期に再発死亡する症例もあり,手術適応の決定にはより慎重でなければならない.胆囊癌における膵頭十二指腸切除術の適応に関しては,これまで教室で経験した症例をもとに報告してきた1~4).本稿では手術手技に関して詳述する.

門脈合併切除を伴う全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術

著者: 今泉俊秀 ,   飛田浩輔 ,   堂脇昌一 ,   矢澤直樹 ,   大谷泰雄 ,   幕内博康

ページ範囲:P.277 - P.284

はじめに

 本術式の適応となる膵頭部癌は,(1)遠隔転移や高度のリンパ節転移がない例,(2)上腸間膜動脈,腹腔動脈,総(または18固有)肝動脈などの主要動脈浸潤がない例,(3)胃・十二指腸球部への直接浸潤がない例に限られる(なお,膵癌の根治性には関係しない).本稿では膵頭部癌の基本手術であるD2リンパ節,後腹膜神経叢郭清,門脈合併切除を伴う全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術について述べる.

胆道・十二指腸温存膵頭切除術

著者: 平野聡 ,   近藤哲 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.285 - P.293

はじめに

 膵頭切除術はBegerらにより腫瘤形成性慢性膵炎に対する術式として初めて報告されたものである1).本術式は幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)とのrandomized studyの結果,術後長期の栄養状態や膵機能維持の点でより優れていることが報告され,機能温存術式として膵頭部領域の良性病変の切除術式としても次第に応用されるようになった2,3).筆者らも主に慢性膵炎症例に対して行ってきた胆道・十二指腸温存膵頭切除術を,膵頭部の分枝型粘液産生膵腫瘍などの低悪性度病変に対して適応し,良好な結果を得ている4,5)

 本稿では,胆道・十二指腸温存膵頭切除術の手術手技の実際について述べる.

全胃温存,腹腔動脈合併切除を伴う膵体尾部切除術

著者: 富川盛啓 ,   菱沼正一 ,   尾澤巖 ,   尾形佳郎

ページ範囲:P.295 - P.302

手術適応

 周囲血管に浸潤する膵癌に対する動脈合併切除例の予後は不良であるため,その適応は厳格に検討する必要がある.筆者らは腹腔動脈周囲への浸潤を認める膵癌症例のうち後腹膜浸潤が軽度で,第1群リンパ節以遠に転移を認めず,膵頭部を温存できるものをこの術式の適応としている.この術式では術後の肝および胃への血行動態の問題から上腸間膜動脈から膵頭部アーケード,胃十二指腸動脈が浸潤を受けずに温存できることが必須条件である1)(図1).

手技

 1.開腹,腹腔内の検索

 正中切開にて開腹する.吊り上げ鉤,開創器を用いて術野を展開し,さらにオクトパス鉤を右頭側からかけて,良好な視野を確保する(図2).腹腔内を観察し,肝転移や腹膜播種の有無を検索する.

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)に対する脾温存膵体尾部切除術

著者: 木村理 ,   森谷敏幸 ,   竹下明子 ,   平井一郎 ,   布施明

ページ範囲:P.303 - P.310

はじめに

 膵の縮小手術としての「脾動静脈および脾臓を温存した膵体尾部切除術」は着実な広がりをみせている.この術式は小児の膵外傷に対しては行われていたものの,成人における膵の腫瘍性病変や慢性膵炎に対しては行われていなかった.筆者らの報告1~3)以来,すでに慢性膵炎に対しては筆者らの推奨したコツに従って手術を成功裏に施行したという報告がみられる4,5).またIPMNに対しても症例を選んで行われるようになってきている6)

Ⅴ.ヘルニアの手術

ヘルニア・システム法(外鼠径へルニアの場合)

著者: 下間正隆 ,   竹中温

ページ範囲:P.313 - P.320

はじめに

 成人外鼠径へルニアは胎生期の腹膜鞘状突起が遺残している状態に加えて,成人になってから横筋筋膜が脆弱化して内鼠径輪が開大したために症状が出現したものである.したがって,基本的には「ヘルニア囊の処理」と「開大した内鼠径輪の縫縮」の2操作だけでヘルニア症状は消失する.しかし一般的には,将来発生する可能性のある直接ヘルニア(内鼠径ヘルニア)を予防するために後壁補強を付加している.

 プロリン(R)・ヘルニア・システム(以下,PHS)を用いて外鼠径へルニアを修復する場合,鼠径管後壁を補強するために腹膜前腔に下部パッチを留置する.下部パッチ留置スペースを作製するために,健常な鼠径管後壁(横筋筋膜)をかえって破壊して脆弱にしてしまわないように腹膜前腔の剝離操作は丁寧に行う.

ヘルニア・システム法(内鼠径ヘルニアの場合)

著者: 岡本正吾 ,   山本俊二 ,   成田匡大 ,   小泉直樹 ,   山神和彦 ,   小柴孝友 ,   藤本康二 ,   西澤弘泰 ,   坂野茂 ,   山本正之

ページ範囲:P.321 - P.330

はじめに

 Open tension-freeヘルニア修復術は成人鼠径ヘルニアに対する標準術式となっているが,現在いくつかの形態のメッシュが用いられており,それぞれの適応については議論がある.プラグでヘルニア門を閉鎖するmesh plug法(メディコン)はプラグの硬結収縮やプラグとヘルニア門との隙間からの再発の危険がある.特に内鼠径ヘルニア症例では鼠径管後壁(Hesselbach三角)全体がヘルニア門になるためプラグのみではヘルニア門の閉鎖は不十分であり,メッシュ・シートでHesselbach三角全体を広く覆うことが必要である.一方,メッシュ・シートをonlay patchとして鼠径管後壁にあてるLichtenstein法は精索を通すスリットからの再発の危険がある.小切開創から腹膜前腔に特製のメッシュ・シートをunderlay patchとして留置するKugel法(メディコン)は手技に熟練を要し,導入初期に再発が生じる危険がある.これらに対して,2枚のメッシュ・シートからなるPROLENE(R) Hernia System(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は下部パッチはコネクターとともに風呂桶の底の栓のように腹膜前腔側からヘルニア門を閉鎖するので,内鼠径ヘルニアでの大きなヘルニア門(Hesselbach三角)にも有用である.外鼠径ヘルニアでは内鼠径輪からの比較的狭い視野で腹膜前腔の囊離および下部パッチの挿入・展開を行わなければならないが,内鼠径ヘルニアではヘルニア囊の処理の段階で腹膜前腔を広く囊離しており,下部パッチの腹膜前腔への挿入および展開は容易である.

 本稿では,右側の内鼠径ヘルニアに対するヘルニア・システム法について図説を中心に述べる.麻酔は腹膜前腔囊離時のよりよい麻酔効果を得るために,脂肪吸引などの形成外科手術に用いられているtumescent local anesthesia(以下,TLA)を導入している1).TLAとは微量のエピネフリンを添加し希釈した局所麻酔薬を大量に加圧注入し浸潤させる局所麻酔法で,止血効果,囊離効果,広範囲の麻酔効果が得られる2,3).今回,TLAの手技についても記述する.

Lichtenstein法

著者: 中嶋昭 ,   藍原有弘 ,   佐藤康 ,   川村徹

ページ範囲:P.331 - P.338

はじめに

 成人の鼠径ヘルニアに対する術式はメッシュを用いた方法が標準となった.いわゆるtension free法の先駆的,代表的術式であるLichtenstein法はそれまでの自己組織によるヘルニア修復術に比較して手技的容易さ,低い再発率など数々の面で優れ,広く受け入れられた.また腹腔鏡下修復術を含めたその後の各種メッシュ修復術の展開に大いに貢献した.この術式について局所麻酔による手技を述べる.

Mesh plug法

著者: 伊神剛 ,   長谷川洋 ,   坂本英至 ,   小松俊一郎 ,   森俊治

ページ範囲:P.339 - P.345

はじめに

 成人鼠径ヘルニアに対する術式は従来法から腹腔鏡を利用した術式まで多種多様にあり,各々に長所,短所がある.そのなかでmesh plug法はLichtensteinら1)のtension-freeという概念を発展させ,Rutkowら2)が開発した術式で,人工的なprosthesisを使用し再発率も低く,初心者にも確実に施行可能である.当院では1995年3月からmesh plug法を採用し,麻酔法として局所麻酔を主体に選択してきた3).局所麻酔下mesh plug法は合併症を有する高齢者でも安全に施行可能で,短い手術時間,良好な術後QOL, day surgeryが可能など有用な点が多い.しかし,局所麻酔下で患者に苦痛を与えずに手術を施行するには麻酔法や術式に対する正確な理解,術中の細やかな配慮が重要である.今回は,鼠径ヘルニアに対する局所麻酔下mesh plug法の詳細と工夫点を中心に述べる.

Kugel法

著者: 堀孝吏 ,   坂本昌義 ,   竹村信行 ,   田代浄 ,   南村圭亮 ,   梅村彰尚 ,   菊一雅弘 ,   平田泰

ページ範囲:P.347 - P.353

はじめに

 鼠径ヘルニアに対するtension free修復法にはさまざまな術式が存在するが,鼠径管後壁を腹腔側から修復する術式の最大の欠点は“手技の煩雑さ”である.Kugel法は専用に考案されたパッチを用いることにより,従来施行されてきた腹膜前到達法によるinlay修復をより簡便に行おうとする術式である1~5)

 本稿では,左側ヘルニアに対する手技を図示する.

大腿ヘルニア手術

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.355 - P.359

はじめに

 大腿ヘルニアとはヘルニア囊が腹部内臓の一部や腹膜前脂肪織を伴って大腿輪から大腿管の中に脱出し,さらに大腿卵円窩に突出するヘルニアである.手術術式には鼠径靱帯の上からアプローチするのか下からアプローチするのかの違いにより,鼠径法と大腿法の2つがある.鼠径法では本来ヘルニアのない鼠径靱帯より上の腹壁にも手術侵襲が加わるため,大腿輪に加えて鼠径管後壁の補強も同時に行わなければならない.一方,大腿法では大腿輪のみを閉鎖する方法であるが,視野が悪いためヘルニア門である大腿輪を閉鎖することが困難であるとされてきた.

 プラグ(Bard(R) PerFix(R) Plug,メディコン社製)を用いた大腿法(以下,プラグ・大腿法)は,大腿管にプラグを挿入することで大腿輪を確実に閉鎖することのできる最も簡単な大腿ヘルニア修復術で1~3),非嵌頓例であれば15分程度で施行可能である.本稿ではプラグ・大腿法について,その術式を詳細に解説する.

小児鼠径ヘルニア手術

著者: 横井忠郎 ,   松藤凡

ページ範囲:P.361 - P.368

はじめに

 小児鼠径ヘルニアは先天的に腹膜鞘状突起(processus vaginalis)が開存することに起因する.このため,ほとんどが外鼠径ヘルニアであり,手術ではヘルニア囊を高位結紮することが肝要である.成人で必要となる鼠径管後壁の補強や内鼠径輪の縫縮などを加える必要はない.

 一般的にはこのヘルニア囊の高位結紮のみを行う手術をsimple herniorrhaphyと総称しており,表のように細分される.Lucus-Championniereが始めたものであるが,その後Pottsがこの方法を普及させたこともあり,現在はPotts法が最も普及した術式である.

Ⅵ.痔核・痔瘻・裂肛の手術

痔核に対する結紮切除開放術式

著者: 栗原浩幸 ,   金井忠男 ,   石川徹 ,   小澤広太郎 ,   金武良憲 ,   金井慎一郎

ページ範囲:P.371 - P.377

はじめに

 痔核手術は脱出や出血の原因となる病変を治癒させるために行われるが,当院では良好な肛門機能をもつ“きれいな”肛門に整え,再発を起こさせないことを目標としている1).そのためには肛門上皮を最大限に温存しながら,痔核組織すなわち平滑筋(Treitz's muscle)や弾性線維,結合組織などを含めた静脈瘤2,3)を十分に郭清することが必要である.

 筆者らは肛門手術の原則であるドレナージ創を適切にとることができること,すべての痔核を同様な良視野で切除することができるという理由から,開創器を用いて開放式結紮切除術を行っている.開放式結紮切除術はWhitehead肛門や粘膜脱,あるいは痔瘻や裂肛などを伴う痔核手術にも適応が可能である.

 以下に当院で行っている開放式結紮切除術を解説する.

痔核に対する結紮切除半閉鎖術式

著者: 奥田哲也

ページ範囲:P.379 - P.384

はじめに

 社会保険中央総合病院大腸肛門病センターでは年間約1,000例の痔核手術が結紮切除半閉鎖術式で行われており,さまざまな形態の痔核の切除に対応でき,術後の肛門機能が良好で後遺症の少ない術式として評価を得ている.本稿では,筆者らが実際に行っている術式について述べる.

痔核に対する半導体レーザー法(ICG併用)

著者: 碓井芳樹

ページ範囲:P.385 - P.390

はじめに

 筆者は現在無床診療所で日帰り手術を行っている.痔核に対しインドシアニングリーン(以下,ICG)併用の半導体レーザー治療(以下,本治療法)を単独で行うこともあるが,従来の結紮切除術,ゴム輪結紮術などに併用して行うことのほうが多く,症例ごとそして痔核ごとに使い分けていることを明記しておく.

 半導体レーザーは従来のレーザーに比べ小型軽量で,電源は通常の100Vで使用でき,冷却水やウオーミングアップの必要がないという特徴があるが,一番の特性はICGの吸収ピークと半導体レーザーの発振波長が805nmでぴったり一致することである.

 この特性を使って鈴木ら1)が食道静脈瘤などの治療を行った.つまり,ICGを粘膜下の静脈瘤周囲に注入し,低出力で照射することによって,粘膜面に欠損を生ずることなく,粘膜下に注入したICGにより半導体レーザー光の吸収が増強され,静脈瘤を選択的に凝固治療でき,かつ固有筋層へのレーザーによる傷害が回避されたのである.これを筆者2,3)が痔核治療に応用し,良好な成績をすでに報告した.しかし,本治療法は歴史が浅く,長期予後の成績は出ていない.

低位筋間痔瘻に対する切開開放術式

著者: 東光邦

ページ範囲:P.391 - P.398

はじめに

 低位筋間痔瘻は日常最も多く遭遇する痔瘻である.瘻管の走行部位によっては肛門括約筋の機能を損なわないように括約筋温存術式(瘻管くりぬき術など)が選択されることがあるが,後方の痔瘻では根治性を考慮し,通常切開開放術式が行われる.低位筋間痔瘻のほとんどの症例ではデイサージェリーで手術可能であり,当院では仙骨硬膜外麻酔下に手術を行っている1).当院での手順に沿って,低位筋間痔瘻の一般的な術式である切開開放術式の手技について述べる.

低位筋間痔瘻に対する括約筋温存術

著者: 辻順行 ,   辻大志 ,   辻時夫

ページ範囲:P.399 - P.405

はじめに

 肛門腺の感染で痔瘻の大部分が発生することが判明し,病変を切開(切除)する開放術の普及とともに痔瘻の根治率は高まった.その後,原発口(以下,PO)と瘻管のみを切除する括約筋温存術(温存術)が開発され,その広まりとともに痔瘻の根治のみならず肛門機能も保持されるようになった.しかし,実際には術者により後術成績に差が生じているのが現状である1).そこで今回痔瘻の約半数を占める低位筋間痔瘻に対する手術のなかで,特に括約筋温存術に焦点を当て手術法を解説する.

低位筋間痔瘻に対するseton法

著者: 坂田寛人

ページ範囲:P.407 - P.415

はじめに

 Seton法は瘻管に紐を通して治す方法で,古くはインドのクシャラスートラに始まり,ヒポクラテスも馬の毛とリントの線維を互いに縒った紐を痔瘻の二次口から原発口へと通して肛門外で結紮し,これが緩むだびに結紮を繰り返しながら瘻管の開放を行った1).さらにわが国では本間棗軒や畑嘉聞らにより行われている古典的痔瘻治療法で,近年再評価された痔瘻の一治療法である.

坐骨直腸窩痔瘻に対する括約筋温存術式と肛門保護手術(Hanley変法)

著者: 瀧上隆夫 ,   嶋村廣視 ,   竹馬彰 ,   根津真司 ,   仲本雅子 ,   竹馬浩

ページ範囲:P.417 - P.423

はじめに

 坐骨直腸窩痔瘻は痔瘻のなかで低位筋間痔瘻についで多く約20%を占める.原発口はほとんどの場合6時の方向にある.原発口から細菌が侵入し,内外括約筋間に膿瘍を形成し,さらにCourtney's space(深肛門後隙,原発巣)と呼ばれる間隙を経て,左右の坐骨直腸窩に炎症が波及して形成される痔瘻である.片側のみの痔瘻はsingle horse shoe type(Ⅲu),両側のものはhorse shoe type(馬蹄型痔瘻ⅢB)と呼ばれ,肛門尾骨靱帯を穿破したものである.

 痔瘻の治療の原則はいずれの型であろうとも原発口,原発巣,感染巣の完全除去であることに変わりはない.坐骨直腸窩痔瘻(膿瘍)の治療において,創をすべて開放するには肛門に対するダメージが大きく,諸家により根治性を維持しながら括約筋を可及的に温存し,術後創の変形の少ない術式が種々工夫されてきた1,2).1965年Hanley3,4)は坐骨直腸窩膿瘍に対して肛門後方の原発口から内括約筋の一部,皮下,浅外括約筋の一部を切開し,原発口,原発巣を開放創とし,左右に広がる膿瘍に対しては皮膚切開を行い,ドレナージ創を作製することでほとんどの症例で良好な成績を上げたと発表している.その後,原発口から内括約筋の一部と皮下外括約筋は切開するが,浅外括約筋は切開しないで膿瘍腔,瘻管を開放するHanley変法が一般的に行われるようになった.

 筆者らは坐骨直腸窩痔瘻の手術に対しては一般的には原発口,原発巣,二次口を含めた瘻管を可及的にくり抜き,肛門後方の死腔となった括約筋間隙を強彎Vicryl(R)糸で縫合・閉鎖し,その縫合・閉鎖部を肛門管上皮および直腸粘膜で被覆縫合する術式5)をとっているが,坐骨直腸窩膿瘍で一期的に根治手術を目指す場合や,原発巣周囲の炎症が強く,瘻管をうまくくり抜けない場合はHanley変法で行っている.この稿では筆者らの行っている坐骨直腸窩痔瘻の手術術式について述べる.

肛門狭窄を合併する慢性裂肛に対する皮膚弁移動術(SSG法)

著者: 松島誠

ページ範囲:P.425 - P.430

はじめに

 慢性裂肛における肛門狭窄症状は,程度に差はあるがよく認められる症状である.慢性裂肛潰瘍部の肛門管上皮と潰瘍底に露出した内括約筋が線維化し,伸展性を失って狭窄症状を呈するようになる(図1,2).この狭窄はさらなる裂肛増悪因子として働き,症状を悪化させる.通常,裂肛はそのほとんどの症例が排便のコントロールを中心とした生活指導と保存的な方法で治療可能である.仮に保存的治療に抵抗して急性裂肛が慢性化した症例でも側方皮下内括約筋切開術(LSIS)や,用手的肛門拡張術などで治療可能なものがほとんどである.しかし,さらに病状が進行し,強度の狭窄症状を呈するようになった慢性裂肛では,伸展性を失った潰瘍部切除を含めた根本的な手術治療が必要となる.

 本稿では,慢性裂肛の治癒を阻害する因子でもある狭窄を解除し,同時に潰瘍切除部を正常な肛門周囲皮膚で覆う皮膚弁移動術(SSG法)について述べる.

Ⅶ.甲状腺・乳腺の手術

バセドウ病の手術―甲状腺亜全摘術および超亜全摘術

著者: 杉野公則

ページ範囲:P.433 - P.441

はじめに

 バセドウ病に対する手術方法は術後内服の必要のない寛解をめざす甲状腺亜全摘術1)と,再燃を確実に避ける甲状腺超亜全摘2)がある.前者は甲状腺の一部(残置量)を約4g程度残し,後者は2g以下の極少量の残置量にする方法である.前者の場合は術後再燃の危険性が残されており,後者の場合は術後再燃の可能性は非常に少ないものの,一生涯にわたる甲状腺ホルモンの内服が必要となる.

甲状腺濾胞性腫瘍の手術

著者: 岡本高宏

ページ範囲:P.443 - P.449

はじめに

 甲状腺濾胞性腫瘍には濾胞癌と濾胞腺腫とが含まれる.両者を手術前に鑑別することは必ずしも容易でなく,細胞診でも癌と腺腫の区別をせずに濾胞性腫瘍として診断することが多い.したがって,濾胞性腫瘍の症例では濾胞癌の可能性をいつも念頭に置き,甲状腺全摘そしてアイソトープ(131I)治療となる場合があることを想定して手術を行うべきである.とりわけ大切なのは副甲状腺と反回神経・上喉頭神経外枝の温存である.

甲状腺分化癌に対する気管・喉頭合併切除術

著者: 中尾量保 ,   仲原正明 ,   黒住和史

ページ範囲:P.451 - P.457

はじめに

 甲状腺分化癌の予後は良好であり,10年生存率は平均的に90%を越える.しかし,なかには局所浸潤性の強い癌があり,その多くは低分化癌である.また,甲状腺は解剖学的に生命に直接影響を及ぼす気管,頸動脈などの重要臓器と接しているので,それらの臓器に癌が進展した時に対処の仕方が問題となる.甲状腺分化癌の場合には生物学的にも進展が遅く予後が良好であること,もう1つには手術以外の化学療法や放射線療法などの有効性が示されていないという理由で,局所根治性が得られる限りにおいて浸潤臓器を合併切除することはQOL,予後が改善が期待されるので手術適応と考えられる1)

内視鏡下甲状腺手術

著者: 清水一雄

ページ範囲:P.459 - P.466

はじめに

 低侵襲,整容上の利点から内視鏡手術はもはや各科領域で一般化されている.甲状腺外科も国外1,2)および国内3,4)で最初の報告以来9年が経過し,本疾患を扱う施設では本術式が一般化してきた.甲状腺手術は女性に多い疾患であるとともに,露出された前頸部に手術創が入ることから,通常手術と遜色なく行うことができればこの内視鏡手術はおもに整容上の利点からきわめて有用性があると思われる.現在は各施設から独自の工夫された方法が報告されているが5~7),本稿では内視鏡手術を取り扱う施設であればどこでも行える,簡便で,実用性のある筆者らの術式を示し,適応疾患,手術手技とポイントなどについて述べる.

乳房再建を前提とした経乳輪皮下乳腺全摘術

著者: 南雲吉則 ,   有木かおり ,   山口悟 ,   丹羽幸司 ,   蔡顕真

ページ範囲:P.467 - P.473

はじめに

 乳房温存術非適応例には胸筋温存乳房全摘術が行われるが,皮膚および乳頭・乳輪の欠損を生じるため再建がより困難で,再建後も大きな傷を残す.そこで筆者らは第3の選択として,皮膚を切除せずに経乳輪的に乳腺を全摘する経乳輪皮下乳腺全摘術(trans-areolar total glandectomy:TATG)を提唱している.本法の導入により乳房再建は容易になった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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