ヘルニア・システム法(内鼠径ヘルニアの場合)
著者:
岡本正吾
,
山本俊二
,
成田匡大
,
小泉直樹
,
山神和彦
,
小柴孝友
,
藤本康二
,
西澤弘泰
,
坂野茂
,
山本正之
ページ範囲:P.321 - P.330
はじめに
Open tension-freeヘルニア修復術は成人鼠径ヘルニアに対する標準術式となっているが,現在いくつかの形態のメッシュが用いられており,それぞれの適応については議論がある.プラグでヘルニア門を閉鎖するmesh plug法(メディコン)はプラグの硬結収縮やプラグとヘルニア門との隙間からの再発の危険がある.特に内鼠径ヘルニア症例では鼠径管後壁(Hesselbach三角)全体がヘルニア門になるためプラグのみではヘルニア門の閉鎖は不十分であり,メッシュ・シートでHesselbach三角全体を広く覆うことが必要である.一方,メッシュ・シートをonlay patchとして鼠径管後壁にあてるLichtenstein法は精索を通すスリットからの再発の危険がある.小切開創から腹膜前腔に特製のメッシュ・シートをunderlay patchとして留置するKugel法(メディコン)は手技に熟練を要し,導入初期に再発が生じる危険がある.これらに対して,2枚のメッシュ・シートからなるPROLENE(R) Hernia System(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は下部パッチはコネクターとともに風呂桶の底の栓のように腹膜前腔側からヘルニア門を閉鎖するので,内鼠径ヘルニアでの大きなヘルニア門(Hesselbach三角)にも有用である.外鼠径ヘルニアでは内鼠径輪からの比較的狭い視野で腹膜前腔の囊離および下部パッチの挿入・展開を行わなければならないが,内鼠径ヘルニアではヘルニア囊の処理の段階で腹膜前腔を広く囊離しており,下部パッチの腹膜前腔への挿入および展開は容易である.
本稿では,右側の内鼠径ヘルニアに対するヘルニア・システム法について図説を中心に述べる.麻酔は腹膜前腔囊離時のよりよい麻酔効果を得るために,脂肪吸引などの形成外科手術に用いられているtumescent local anesthesia(以下,TLA)を導入している1).TLAとは微量のエピネフリンを添加し希釈した局所麻酔薬を大量に加圧注入し浸潤させる局所麻酔法で,止血効果,囊離効果,広範囲の麻酔効果が得られる2,3).今回,TLAの手技についても記述する.