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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科61巻13号

2006年12月発行

雑誌目次

特集 消化器外科術後合併症の治療戦略―私たちはこのように治療している

頸部食道癌術後縫合不全

著者: 諌山冬実 ,   梶山美明 ,   岩沼佳見 ,   富田夏実 ,   天野高行 ,   小室裕造 ,   梁井皎 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.1579 - P.1582

 要旨:頸部食道癌術後縫合不全の臨床的特徴,診断,治療などについて胸部食道癌術後と対比し述べた.縫合不全の要因は低酸素血症,低栄養,基礎疾患,放射線治療の既往などである.吻合に際しての注意点は,(1)膿瘍形成が起こった場合は大血管の破綻により大出血することがある,(2)遊離空腸移植は血管吻合の成否が重要である,(3)全胃挙上では先端部の虚血に注意する,(4)喉頭温存例では高位吻合となり,縫合には細心の注意が必要となる,の4点である.診断の要点は,(1)咽頭吻合の左右縫縮部にも注意する,(2)頸部皮膚の発赤があれば頸部創を1~2針抜糸して臓器壊死の可能性も疑う,の2点である.縫合不全となっても多くの場合は再手術せず経過観察とドレナージで治癒するが,再手術の適応は(1)急性血行障害からの挙上臓器壊死が疑われたとき,(2)慢性血行障害のため再建臓器が瘢痕化し高度の狭窄を起こしたとき,である.

胃全摘後食道空腸縫合不全

著者: 藍原龍介 ,   持木彫人 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1583 - P.1587

 要旨:縫合不全は胃全摘術後にある一定の頻度で起こり,ときに重篤化する.術前,術中の十分な配慮が必要であることは言うまでもない.術後は縫合不全を念頭においた十分な観察が必要である.診断は,理学所見はもとよりドレーンの性状,血液検査,上部消化管造影,腹部超音波検査,腹部CT検査を用い総合的になされる.治療の基本は絶飲食と高カロリー輸液,適切なドレナージである.通常は,時間を要するが保存的に軽快する.ただし,病状の変化に応じた対応が要求され,ときとして重篤化するサインを見逃さない注意深いフォローが必要である.

胃切除BillrothⅠ法再建後の吻合部狭窄

著者: 小野木仁 ,   鈴木聡 ,   遠藤良幸 ,   大木進司 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.1589 - P.1593

 要旨:幽門側胃切除術後再建における吻合部狭窄はBillrothⅡ法よりⅠ法における発生頻度が高い.以前は手縫い吻合より器械吻合のほうが発生頻度が高いと言われていたが,最近は器械吻合のほうが低いという報告が増えている.消化管吻合部狭窄は吻合部の浮腫や血腫によるもので一過性であることが多いが,縫合不全に起因する瘢痕性狭窄は何らかの処置を必要とすることが多い.吻合部狭窄の診断と治療は,内視鏡検査が最も有用性が高い.観察後ただちに内視鏡的拡張治療を行うことができ,なかでも内視鏡下のバルーン拡張術が有効である.加えて内視鏡下切開拡張術などの進歩により吻合部狭窄に対する再手術を要する症例は減少している.

直腸癌に対する低位前方切除術後の縫合不全の治療

著者: 飯合恒夫 ,   丸山聡 ,   谷達夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1595 - P.1599

 要旨:直腸癌に対する低位前方切除術は,手術手技の向上や吻合・縫合器械の改良により安全に行われるようになった.しかし,縫合不全は避けられない合併症であり,在院期間の延長や術後排便機能の低下,また長期的には局所再発にも影響を及ぼすなど患者の予後に大きくかかわってくる.術者は縫合不全を起こさないように患者の術前・術後管理に注意を払い,手術手技の向上に努めるべきである.そして,いったん縫合不全を疑ったならば,早期に診断し,保存的治療をするか人工肛門造設術を含めた外科的治療を行うかを的確に判断し実行することが重要である.

胆道再建を伴う肝切除後胆汁瘻の治療

著者: 會津恵司 ,   伊神剛 ,   梛野正人 ,   小田高司 ,   西尾秀樹 ,   横山幸浩 ,   安部哲也 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1601 - P.1604

 要旨:胆道癌の根治術として肝切除を行う場合などの胆管切除・胆道再建を伴う肝切除の場合は胆汁リークテストが行えないが,肝切離面にガーゼを当て胆汁色に着色するかどうかで胆汁漏の有無を判断する.再建胆管枝の胆汁ドレナージと肝切離面からの排液ドレナージが有効に行えていれば,胆汁瘻は自然に閉鎖することが多い.しかし,病態によっては難治性になることがある.下流側が切除された胆管枝で,その上流側のドレナージ肝実質領域がある程度の大きさである場合は難治性であり,瘻孔からのエタノールアブレーションを行い,胆管枝のアブレーションおよびドレナージ領域の肝実質機能の廃絶させる処置が必要になることもある.胆汁瘻の病態に合った治療法を選択することが肝要である.

肝硬変合併肝癌切除後の難治性腹水と治療

著者: 有泉俊一 ,   片桐聡 ,   浜野美枝 ,   山本雅一 ,   高崎健

ページ範囲:P.1605 - P.1612

 要旨:慢性肝炎や肝硬変など慢性肝障害の合併した肝細胞癌に対する肝切除後には術後胸・腹水の貯留がある.肝切除後の胸・腹水は肝機能の低下だけがその原因ではなく,様々な病態がある.本稿では肝切除後の腹水に対する治療法について述べる.また,肝切除後の難治性腹水にDenverシャントが有効であった症例と,他医で肝切除後難治性腹水と診断されたが肝リンパ漏であった症例を報告する.

胆管損傷修復後の胆管狭窄

著者: 清水宏明 ,   木村文夫 ,   吉留博之 ,   大塚將之 ,   加藤厚 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1613 - P.1618

 要旨:術中胆管損傷は腹腔鏡下胆囊摘出術の際が最も頻度が高いとされるが,損傷した手術時(golden chance)に適切な処置がなされないと術後胆管狭窄をきたし,繰り返す胆管炎から重篤な経過をとることがある.胆管狭窄例のほとんどは黄疸,胆管炎を合併しているため,まず胆汁うっ滞解除のための胆管ドレナージが必要となる.狭窄部の治療としてIVRによる保存的療法と外科的療法が挙げられる.最近では,バルーン拡張やチューブステント留置などのIVR治療により比較的良好な成績が得られ,治療の主体となっている.しかしながら,強固な瘢痕のため十分な拡張が得られない,あるいは一時的に拡張が得られても再狭窄をきたす場合,さらにはメタリックステントが留置された症例などでは,保存的治療ではコントロールがつかず,外科的療法が必要となることが多い.外科的治療では胆道再建,おもに胆管空腸吻合が選択されるが,手術では狭窄部周辺の瘢痕組織を十分に摘除し,健常な胆管を確実に露出して挙上空腸と吻合することがポイントとされる.

膵頭十二指腸切除後の膵液漏対策

著者: 阪本良弘 ,   小菅智男 ,   島田和明 ,   江崎稔 ,   佐野力

ページ範囲:P.1619 - P.1623

 要旨:膵頭十二指腸切除後の代表的な合併症は膵空腸吻合の縫合不全および膵液漏であり,ときに致命的となる.対処法としては,膵液漏の発生を的確に診断し,適正なドレナージを行って膿瘍を限局させ,確実に治癒を促すことが最も重要である.当科では膵空腸吻合部周囲には2本の閉鎖式ドレーンを挿入し,間欠的持続吸引を行っている.膵液漏を認めた場合は,約2週間後からドレーンを定期的に交換し,膿瘍腔の縮小を待つ.ドレナージ不全症例に対しては,CTガイド下の膿瘍ドレナージが必要な場合もある.動脈からの出血を認めた場合は,血管造影下の塞栓が有効である.最近2年間に140件の膵空腸吻合術を行った.膵液漏の頻度はISGPFによる国際基準では54%と判定されたが,ドレーン留置期間と在院期間の中央値はそれぞれ16,27日で,在院死亡率は0%であった.

門脈合併切除再建後の門脈血栓閉塞

著者: 杉本博行 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.1625 - P.1629

 要旨:門脈血栓症は様々な疾患を背景として生じる.術後門脈血栓症としては脾摘後門脈血栓症が多い.門脈合併切除後は吻合部狭窄がある場合は容易に血栓を形成する.術後早期門脈血栓症では側副血行路の発達が期待できないため,早期診断と治療が重要である.超音波検査では新鮮な血栓は低エコーに描出され,カラードプラでの診断は感度,特異度とも高い.完全閉塞例では血栓除去術を第一に考慮する.晩期血栓症に対しては保存的治療が選択されることが多い.血栓溶解療法が行われ,使用薬剤はウロキナーゼや組織プラスミノゲンアクチベーター,ヘパリン,低分子ヘパリン,ダナパロイドナトリウム,antithrombin Ⅲ,ワーファリンがある.投与経路として全身,上腸間膜動脈経由,門脈内,TIPSが報告されている.

開腹術後の癒着性イレウス

著者: 本田和男 ,   小林展章

ページ範囲:P.1631 - P.1635

 要旨:術後早期小腸閉塞(early postoperative small bowel obstruction:EPSBO)は術後30日以内に起こる腸閉塞と定義され,術後の様々な影響を受けるため,その病態を十分理解し,正しい診断と適切な処置をすることが必要である.小腸透視と3D-CTの併用は責任病変の同定に有用である.臨床症状のあるイレウスに対する腹腔鏡下腸管癒着剝離術は,その適応と限界を十分理解して施行する必要がある.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・12

肺良性疾患

著者: 三浦隆 ,   川原克信

ページ範囲:P.1564 - P.1574

はじめに

 呼吸器疾患の分野において画像と組織像を対比したstudyは“Heitzman's the Lung―Radiologic-Pathologic Correlations”に代表されるように古くから行われてきたが,胸部単純X線に加えてCTが用いられるようになると,薄いスライスとして病変が描出されるため,画像と組織像との対比がより正確に行われるようになってきた.特に近年の画像診断の進歩は目覚しく,高分解能CT(high resolution CT),螺旋CT(spiral CT),マルチスライスCT(multiditector CT)の出現に伴い,病変部をより詳細かつ三次元的に,しかも短時間に構築することが可能となった.われわれ外科医は,これらの画像情報をもとに手術のシミュレーションを行い,また,切除した標本の病理像から画像を見直すことによって日常の診断能力の向上をはかるなど,これらの画像情報から受ける恩恵は大なるものがある.

 ところで,胸部単純X線やCT検査の異常所見は,病変が「腫瘤性病変」か,あるいは境界が不明瞭な「びまん性陰影」,「浸潤影」かに大きく分類される.われわれ外科医が携わる日常の臨床の場において特に重要となるのは,腫瘤性病変に対して良・悪性の鑑別を含めた質的診断を行うことである.

 腫瘤性病変は一般に径3cmまでのものが結節(nodule),3cmを超えると腫瘤(mass)と呼ばれる.病変が大きくなるにつれて悪性疾患の可能性も高くなり,また,それぞれの疾患に特徴的な画像所見を呈することもあるが,小さな病変では画像所見から得られる情報を頼りに十分な検討がなされなければならない.

 肺の腫瘤性病変は,われわれが経験した手術例をみると,約80%は悪性腫瘍である.悪性疾患に関しては他稿に譲るとして,本稿では,日常の診療のなかでしばしば経験される代表的な肺の良性疾患について,特に肺腫瘤性病変を中心に画像所見と切除標本の病理像を対比して呈示し,病態生理について概説する.

外科学温故知新・15

食道外科

著者: 桑野博行 ,   福地稔 ,   加藤広行

ページ範囲:P.1637 - P.1640

1 はじめに

 消化器のなかでも食道は解剖学的により手術困難な臓器として,その術式や周術期管理法などに多大な努力が払われてきた.また,食道癌についてはその悪性度の高さから転移,再発のメカニズムの研究が重点的になされ,その病態の解明とともに診断学も進歩し,深達度別,リンパ節転移度別に治療方法を個別化する方向に進んできている.他臓器には類をみない綿密な診断に基づく集学的個別化治療による成績は,この半世紀で格段の進歩を遂げた.これは,治療法の中心を担う外科切除の成績向上,すなわち,安全性,根治性,QOL(quality of life)の向上を目指した,先達のたゆまぬ努力に負うものである.近年では上従隔の徹底的リンパ節郭清や3領域リンパ節郭清が比較的安全に実施されるようになり,手術症例の5年生存率が50%に達するようになってきた1)

 しかしながら,食道外科の歴史は麻酔法,輸液法,栄養法および呼吸管理法などの進歩と表裏一体をなしながら,合併症の克服を目的とした苦難の歴史でもある.それが種々の再建臓器や再建経路の選択につながり,術式の多様性に帰結したと考えられる.

 本稿では,「食道癌の外科」の歴史を振り返り,今後の進むべき方向性について考察したい.

元外科医,スーダン奮闘記・8

運命を考える

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1643 - P.1645

学生時代

 彼は,私の高校の後輩にあたり,同じラグビー部に所属していた.ラグビー部時代は,体こそ大きくはないが,練習に熱心に取り組み,着実なプレーをしていた.特に長距離走では別の生き物かと思えるほど生き生きとトップを走っていた.現役で東京の大学に行き,エリートコースを歩いていた.私はラグビーのやりすぎで2浪もしたが,その2浪目に東京に受験に行った際に久しぶりに高校のラグビーの連中と集まり,しこたま酒を飲んだことがあった.多分,誰一人としてまともであった人はいないほど,すごい飲み会になった.彼もそれに参加していた.その後,私は九州の大学に進み,彼とは会う機会がなかった.風の便りで,彼は海外でボランティア活動をしていると聞いていたような覚えがある.私は大学院へと進み,その後,タンザニアに医務官として赴任していた.

タンザニアで再会

 ある時,大使館の医務室で通常通りに勤務をしていると,1人の患者さんが入ってきた.その「ちょっと風邪気味なんですけれども」と言ってきたのが,なんと彼であった.実に13年ぶりの再会がアフリカのタンザニアであった.診療もそこそこに色々と話を聞いた.彼は大学卒業後,ボランティア活動を行うために海外を転々としていた.東南アジアから中東,そして当時,一番危険であったろうソマリアでも援助活動を行っていた.それからタンザニアにやってきて,難民キャンプで働いていた.そこで,とても美人のタンザニア女性の奥様をもらっていた.なんと私がタンザニアにいるときに結婚式を挙げていた.もっと早くに再会していたら結婚式にも参列できたのにと思った.奥様に会うと,とても聡明で美しいアフリカ女性であった.うちの家内は高校時代のラグビー部のマネージャーだったこともあり,彼のことはもちろんよく知っている.そして,家族ぐるみでの付き合いが始まった.彼とも何度か酒を酌み交わしたりした.

病院めぐり

佐々木外科病院外科

著者: 佐々木明

ページ範囲:P.1646 - P.1646

 山口市は山口県のほぼ中央に位置する人口約19万人の県庁所在地で,市内にある約600年の歴史を持つ湯田温泉は維新の志士たちである高杉晋作,伊藤博文,坂本竜馬らの歴史の舞台となったところです.当院は山口市の湯田温泉にあり,昭和34年に開設された一般病床54床の小規模病院ですが,手術的治療が可能な急性期病院として,開院当初から消化器疾患の診療を中心に癌,外傷,整形外科領域の外科系病院として地域医療を実践しています.

 平成16年に老朽化した病院を隣接地に新築・移転し,検査機器も既存の超伝導MRIに加え,最新のMMG,MDCT,DRなどを導入しました.現在は院内LANを構築し,電子カルテ導入準備段階の時期です.また,日本医療機能評価機構認定病院(Ver4.0一般病院)となっており,6床の開放型病床を設置し,近隣の40診療所の登録医との地域医療連携を行っています.平均在院日数は約14日で,入院期間が短縮しています.

祐愛会織田病院外科

著者: 森倫人

ページ範囲:P.1647 - P.1647

 当院は,有明海と多良岳山系に囲まれた自然豊かな佐賀県西南部の鹿島市にあります.市の人口は約33,000人で,年間280万人の参拝客が訪れる祐徳稲荷神社(九州では福岡の太宰府天満宮に次いで2位)や有明海の干潟を生かしたイベント「ガタリンピック」などで有名です.この地については,古くは「風土記」のなかに記述がみられ,平安時代には一大仏教文化が花開き,近世になり佐賀藩の支藩として鹿島鍋島藩が成立しました.織田家は織田信長の実弟で,千利休七哲の1人でもある茶人の織田有楽斎を祖としています.武家諸法度によってこの地に移り住んだ有楽斎の孫から現・織田理事長で14代目となりますが,9代頃から鍋島家の御典医として仕えられたようです.

 織田病院(11科.一般病床数111床,うち亜急性期10床)は,小規模ながら県南部医療圏(3市5町,17万3千人)の中核をなす病院です.平均在日数は約14日で,常勤医師20名,非常勤医師11名,看護体制10対1の配置で手厚い体制を整え,急性期医療を中心に高度で専門的な医療を提供できるように努めてきました.1998年には佐賀県初の医療機能評価機構認定病院となり,2003年にはVer. 4で更新を受けています.2004年には人事考課制度が導入され,2006年7月からは佐賀県で唯一のDPC支払い方式が導入された民間病院となりました.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・36

開腹手術で腹腔内の検索は必要か

著者: 松股孝

ページ範囲:P.1648 - P.1649

 【研修医の頃】

 筆者が1年次の研修を受けた病院には3人の部長がいた.当時,50歳代半ばの外科医であった.とにかく手術が速くて,研修医は糸結びをするのに精一杯で,手術の内容はあまり覚えていない,そのような部長がいた.また,手術は速いと思えないが,粛々と手術が進行し,結局手術が速い部長がいた.あと1人の部長はとにかくスタッフに怖がられていた.S状結腸癌の手術に入ったとき,開腹後に肝臓に手をあてた.「肝臓に転移がある,これはダメだ」と宣言し,手術はそこで終了になった.転移巣の直径は3cmはあったが,5cmはなかったと記憶している.この出来事がトラウマになったのだろうか,開腹手術では腹腔内の検索をあまりしない外科医になった.

 彼らよりひとまわり上の院長が,定年退職の半年前にVIPの手術の執刀者になられた.「九州に○○あり」という伝説の手術の名手である.ところが術後にトラブルが重なり,回復に半年近くを要した.「毎日,手術をしている人が外科医である」とそのとき思った.大型肝癌の切除を一気呵成に行っていたのはついこの前のような気がするが,いまではとてもできないだろう.自戒すべし.

連載企画「外科学温故知新」によせて・8

腸管吻合法の歴史的変遷

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1651 - P.1656

 麻酔法や防腐法(感染制御)が外科臨床の場に導入されるようになるまでは,腸管同士を吻合(anastomosis)することは頭のなかでは考えられても,実際には夢のまた夢であったと言ってよい.仮に腸管同士を吻合できたとしても,それは僥倖とも言うべき非常に稀なことであり,ほとんどの症例において致命的な腹膜炎(術後感染症)が必発し,患者を失っていたのである.

 閑話休題.今回は,連載企画「外科学温故知新」で各論が開始されるのを受けて,腸管吻合の歴史的変遷を紹介していく.さて,黎明期の腸管吻合の歴史を通観するには,米国のニコラス・セン(Nikolas Senn:1844~1909)(図1)が1893年にJAMA誌(Vol. XXI, no. 7, August 12, 1893)に掲載した「Enterorrhaphy:Its history, technique and present status」1)が非常に有用である.ただし,ここで注目すべきことは,この論文のタイトルが「腸管吻合(intestinal anastomosis)」ではなく「Enterorraphy(ここでは一応「腸管修復」と訳しておく)」となっていることである.すなわち,その当時「腸管を縫う」ということは,今日われわれが行っているように腸管を切除したあとに腸管同士を「端々(end-to-end)」で縫合するようなものではなく,ちょうどヘルニア修復術を「Herniorraphy」というように,外傷などで損傷を受けた腸管の部分的な破裂ないし穿孔部を縫い合わせて修復する手技であったのである.さらにこのSenn論文では,腸管吻合の歴史的な変遷を「ケルズス(Celsus)以後」,「ランベール(Lembert)以後」,そして「リスター(Lister)以後」という3つの時期に区分しているので,この区分に沿って歴史的変遷を述べていきたい.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・10

1910年前後からの実践(1)―本道と逸脱:Jamieson,Dobsonのリンパ流とGrovesの大網切除

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.1659 - P.1668

【Jamieson,Dobsonのリンパ流―その矛盾点】

 1900年代に入り,最初の10年の間に腹部外科は大いに膨張しました.胃外科も大きく拡大するとともにその内容も様変わりしたことは前回述べました.胃外科の対象疾患の多くは十二指腸潰瘍であり,議論の集中するところは胃空腸吻合の短期機能面での評価でありました.そのなかで胃癌外科は主流の座を外され,傍流から細流へと追いやられました.

 胃癌の外科を成り立たせている2つの術式・切除と再建の術式と癌根治の術式のうち,前者は十二指腸潰瘍の術式を借用する形をとりますが,後者の術式についてはなぜか直接議論されることも少なくなり,いつのまにか忘れ去られて1898年のMikuliczの演説(本連載第7回参照)を一歩も越え出ることはありませんでした.

私の工夫 手術・処置・手順

トロッカー補助下小開腹手術(TACS)による幽門側胃切除

著者: 篠原尚 ,   佐々木直也 ,   水野惠文

ページ範囲:P.1670 - P.1671

【はじめに】

 胃癌に対する内視鏡下手術は,低侵襲による早期回復や,小さな術創がもたらす軽い術後疼痛,優れた整容性などの利点が多いが1,2),反面,手技が複雑で手術時間が長くなるなど外科医の肉体的,精神的ストレスが敬遠され,いまだ一般医療としては定着していない3)

 われわれは幽門側胃切除に際し,小開腹に1本のトロッカーを補助的に用いることで短時間の低侵襲手術が可能なtrocar-assisted conventional surgery(以下,TACS)を考案し導入したので紹介する.

臨床報告・1

十二指腸に穿破した胃十二指腸動脈瘤の1救命例

著者: 倉立真志 ,   余喜多史郎 ,   山口剛史 ,   兼田裕司 ,   宮内隆行 ,   矢田清吾

ページ範囲:P.1675 - P.1678

はじめに

 胃十二指腸動脈瘤は,腹部内臓動脈瘤のうちで稀な疾患で1),破裂頻度が高く,いったん破裂すれば予後不良であり2),早期診断,早期治療が必要とされる.今回,十二指腸に穿破した胃十二指腸動脈瘤の1救命例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Richterヘルニアによるイレウスの2手術例―本邦報告124例の検討

著者: 横井川規巨 ,   米倉康博 ,   池袋一哉 ,   小島善詞

ページ範囲:P.1679 - P.1682

はじめに

 Richterヘルニアとは腸壁の一部をヘルニア内容とする特異な嵌頓形式をとるもので,腸壁ヘルニアとも呼ばれる.本疾患は様々な臨床症状を呈するため術前診断が難しく,急性腹症もしくは腸閉塞として開腹手術を行い,術中に初めてRichter型の嵌頓ヘルニアと診断されることも多い1,2).今回,われわれは内鼠径輪と閉鎖孔にそれぞれ嵌頓したRichterヘルニアの2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Direct Kugelパッチを用い修復したSpigelヘルニアの1例

著者: 水沼和之 ,   中塚博文 ,   藤高嗣生 ,   中島真太郎

ページ範囲:P.1683 - P.1685

はじめに

 SpigelヘルニアはSpigelian腱膜に発生する比較的稀な腹壁ヘルニアであり,全腹壁ヘルニアの2%以下と言われている1)

 今回,われわれはSpigelヘルニアに対しDirect Kugelパッチを用いて修復を行った1例を経験したので報告する.

多発肝病巣に対して切除可能であった肝類上皮血管内皮腫の1例

著者: 松山正浩 ,   種田靖久 ,   飛田浩輔 ,   大谷泰雄 ,   鬼島宏 ,   今泉俊秀 ,   幕内博康

ページ範囲:P.1687 - P.1691

はじめに

 類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma:以下,EHE)は,肝臓,肺,骨,軟部組織から発生する非上皮性の血管内皮腫瘍で,比較的稀な疾患である.肝原発のEHEは一般的に進行が緩徐で低悪性度の腫瘍とされているが1),発見時には通常多発しており,治療に苦渋する例も多い.今回,われわれは肝内に多発したEHEに対し切除により良好な予後が得られている1例を経験したので,本邦報告例の臨床的特徴の検討と文献的考察を加えて報告する.

消化管出血シンチグラフィーが有用であった食道癌狭窄を伴う出血性胃潰瘍の1例

著者: 椎津敏明 ,   西原実 ,   阿嘉裕之 ,   久志一朗 ,   友利健彦 ,   奥島憲彦

ページ範囲:P.1693 - P.1696

はじめに

 上部消化管出血の診断には通常内視鏡検査が行われ,そのまま止血処置に移行する場合が多い.他方,消化管出血シンチグラフィー(以下,出血シンチ)は,内視鏡の届かない小腸出血1),糞便・血塊などで出血点の確認が困難な大腸出血例2)で施行されることが多く,上部消化管で用いられる機会は少ない.

 今回,われわれは食道癌狭窄のため上部消化管内視鏡検査が施行できず,出血シンチによって診断し得た出血性胃潰瘍の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

先端部残存型遺残虫垂炎に対し腹腔鏡下手術を施行した1例

著者: 森本純也 ,   小山剛 ,   松村雅方

ページ範囲:P.1697 - P.1701

はじめに

 右下腹部痛で発症する疾患は種々挙げられるが,虫垂切除術という既往歴があると,通常虫垂炎は除外される.このため,治療に関して診断の遅れから膿瘍形成や穿孔などの炎症が広範に及ぶ症例が多く,回盲部切除となることが多い1).しかし,遺残虫垂炎の報告は散見され,鑑別疾患としての認識が必要と考えられる.今回,われわれはこれまで報告のない,先端部残存型遺残虫垂炎に対して腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

内視鏡補助下に摘出した乳腺線維腺腫の3例

著者: 木原実 ,   松野裕介 ,   末広和長 ,   八島暁英

ページ範囲:P.1703 - P.1706

はじめに

 近年,乳腺外科においてその優れた整容性の面から内視鏡下手術が行われるようになり1~5),また保険収載されるようにもなったが,コストの点で問題がある.今回,われわれは整容性を保ちながらコストも下げる目的で,3例の乳腺良性疾患に対して内視鏡補助下腫瘍摘出術を行ったので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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