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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科61巻3号

2006年03月発行

雑誌目次

特集 乳腺疾患を取り巻くガイドラインと最新の知見―最適な診療を目指して

特集にあたって

著者: 炭山嘉伸 ,   岡本康

ページ範囲:P.274 - P.275

「ガイドライン」とは臨床医が診療上の意思決定を行う際に,科学的根拠に基づいた最新で最良の医療ができるように支援するための日常診療支援ツールと理解されている.画一的診療を目的としたマニュアルとは異なり,標準化を意図しつつも,ガイドラインをもとに各症例に応じた判断が必要となる.ガイドラインそのものには強制力はないが,「ガイドラインを守って治療した例のほうが予後良好であった」との報告もあり,ガイドラインを利用することによって,医療者サイドのみならず患者サイドにおける利益も大きい.

 乳腺領域に関して,国外ではNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)やAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)のガイドラインがよく知られている.さらに,ガイドラインではないものの,2年ごとに開催されるSt. Gallenコンセンサス会議の内容も日常診療において重要視されている.近年は,わが国においても乳腺診療に関する種々のガイドラインが作成されている.(1)日本乳癌研究会学術委員会ガイドライン作成小委員会(編)「乳房温存療法ガイドライン」(1999年),(2)科学的根拠に基づく「乳癌診療ガイドライン(薬物療法)」(2004年),(3)精度の高い乳癌検診を目的とした「マンモグラフィガイドライン」(1999年),(4)クラス分類からの脱却と針生検の取り扱いに関して作成された「細胞診,針生検の報告様式ガイドライン」(2003年),(5)日本乳腺甲状腺超音波診断会議による「乳房超音波診断ガイドライン」(2004年),(6)センチネルリンパ節生検の標準手技の確立を目指した「SN生検ガイドライン(試案)」(2004年),などがある.

乳房温存療法ガイドライン

著者: 霞富士雄

ページ範囲:P.277 - P.282

要旨:乳房温存療法(以下,BCT)は,原発巣を周囲に正常組織を加えて進行局所切除を行い,腋窩は郭清あるいはSNBに従って手術し,残した残存乳房に対しては照射を加えて,進行度に応じて化学・ホルモン療法を付加する複合療法である.問題は局所切除であり,その可否を決するのは病理検索である.局所切除は多数の画像診断をもとにして行われ,腫瘍の大きさ,乳房の大きさとの対比,占居部位など整容性にかかわる問題に配慮して実施される.また,摘出標本の病理検索の困難さは言うまでもないが,詳細に調べても離れた場所に多発癌が潜んでいればそれが顕性化してこなければ判明しない.これらを考えると,BCTには問題が多く,ガイドライン作成においては特に手術法と病理検索法の律し方が難しい.一言で言えば,詳細な画像診断にしたがって整容性を考えたうえでやや大き目の切除を行い,確実な残存乳房照射をしておくというのが各ガイドラインの骨子となっている.

乳癌学会診療ガイドライン(薬物療法)

著者: 渡辺亨 ,   向井博文

ページ範囲:P.283 - P.287

要旨:効率的に計画・実践された臨床試験結果がつぎからつぎへと公表され,乳癌薬物療法に関する知識はめざましい勢いで増加している.このような状況では,定期的な「実地臨床ガイドライン」改訂が不可欠な作業である.乳癌の薬物療法を担当する医師の大多数は,一般消化器外科医であるため,薬物療法の理論的根拠や,最新の臨床研究の動向については,必ずしも適切に把握できているとは言えないのが現状である.そのため,乳癌診療を担当しなくてはならない一般消化器外科医にとっては,要領よくまとめられたガイドラインは,エビデンスに基づく実地臨床を実践するうえでとても重要なツールである.一方,乳癌薬物療法を専門とする乳腺科医,腫瘍内科医にとっても,未解決な問題が何であるかを明らかにすることによってevidence based clinical researchを効率的に展開することができる.

マンモグラフィガイドライン

著者: 大内憲明 ,   鈴木昭彦 ,   石田孝宣

ページ範囲:P.289 - P.293

要旨:わが国では1987年から視触診による乳がん検診が開始されたが,2000年からは50歳以上に対してマンモグラフィを併用すること,さらに2005年からは40歳以上すべての女性にマンモグラフィによる検診を原則とするようガイドラインが改正された.国による乳がん検診が見直された一方で,マンモグラフィという画像診断による新たな検診システムの再構築を迫られたことになる.はじめからマンモグラフィを採用した欧米では,放射線科医が読影するシステムが機能している.しかし,視触診でスタートした日本では,乳がん検診医師は外科医や婦人科医が中心であり,放射線科医はほとんど参加していない.そこで,われわれは教育研修プログラムを策定し,基本講習プログラムによるマンモグラフィ撮影および読影講習会を全国的に展開した.さらに,撮影する施設に対して線量および画質を評価する制度を構築した.現在,これらの成果はNPOマンモグラフィ検診精度管理中央委員会へと引き継がれ,マンモグラフィ検診に関する全国的なサポート体制が整いつつある.研究成果に基づいてガイドラインを改正する一方で,厚生労働省はがん検診の精度管理を具体的に推進させるための検討会を設け,乳がん検診の事業評価項目をまとめた.

乳房超音波診断ガイドライン

著者: 遠藤登喜子

ページ範囲:P.295 - P.299

要旨:乳房超音波診断におけるガイドラインが乳腺甲状腺超音波診断会議によって編纂され出版された.その目的は,用語・判定基準の共有化によって乳房超音波検査が正当に利用され,乳腺疾患診断の発展に寄与することである.従来の研究を集積し検討するなかで,境界部,腫瘤像形成性病変,腫瘤像非形成性病変などの新しい所見用語が提案されるとともに,判定基準としてカテゴリーも導入された.診断に有用な所見を検討し,組み合わせることによってフローチャートも考案され,さらに代表的疾患(鑑別診断)を掲示し,診断から検診まで幅広く利用できるものとなっている.さらに,装置や画像の精度管理の方向も示されている.

センチネルリンパ節生検のガイドライン

著者: 井本滋 ,   和田徳昭

ページ範囲:P.309 - P.311

要旨:ガイドラインは,臨床医が実地診療の方針を立てる際に,膨大な文献に当たらずとも,あるいは臨床経験が乏しくても,最善の医療を行ううえで参考となる指針である.質の高い臨床試験からエビデンスが蓄積されている分野では質の高いガイドラインが作成可能である.しかし,単施設の臨床研究が多い分野では質の高いガイドラインは作成できない.ただし,日進月歩の医療現場のニーズに呼応するためにガイドラインが必要とされる場合もある.乳癌におけるセンチネルリンパ節生検のガイドラインは,現時点では後者に分類される.海外におけるガイドラインの紹介とsentinel node navigation surgery(SNNS)研究会のガイドラインについて概説する.

国際的ガイドライン―2005 St. Gallenコンセンサス会議

著者: 福富隆志

ページ範囲:P.313 - P.317

要旨:2005年のSt. Gallenコンセンサス会議では主に乳癌の初期治療について議論がなされ,practicalな性格が強かった.前回2003年の会議では,術後補助療法におけるrisk category,治療方針ともに大きな改訂はなかった.しかし,今回は腋窩リンパ節転移(n)陰性群とn(1~3)個群とを一部区別せずに扱い,さらにextensive vascular invasion,HER-2/neuなどの新しいリスク因子が加わるなど,大幅な修正がみられた.術後薬物療法に関しては,aromatase阻害剤がtamoxifenと同等以上であること,taxaneの有効性が確立したこと,などである.本稿では,会議内容を詳細に分析した.

乳腺腫瘍の組織学的分類―乳腺領域における新しい病理学的疾患概念

著者: 黒住昌史

ページ範囲:P.319 - P.324

要旨:乳腺腫瘍の組織学的分類は乳腺疾患の臨床と研究の両分野で使用されており,種々の検査結果,予後,研究結果と組織診断との関連性を追究するために必要不可欠なものである.乳腺の組織型分類としては,乳癌学会の「乳腺腫瘍の組織学的分類」と新WHO分類がよく知られており,その整合性について論議されている.現在,従来の乳癌学会の分類には含まれていないいくつかの重要な組織型(ductal adenoma, mastopathic fibroadenoma, diabetic mastopathy, adenomyoepithelioma, apocrine ductal carcinoma in situ, invasive micropapillary carcinoma, matrix-producing carcinoma)を新しい規約に加えることが検討されている.また,新WHO分類で取り上げているDIN分類についてはその有用性について期待されており,NSABP B-17のDCISの亜型分類もDCISの術後局所再発を検討する際に必要と考えられている.

〔細胞診,針生検の報告様式ガイドライン〕

細胞診

著者: 土屋眞一

ページ範囲:P.301 - P.303

要旨:乳腺細胞診の新しい報告様式ガイドラインについて解説した.このガイドラインはPapanicolaou分類(クラス分類)からの脱却を目指して策定されたもので,(1)報告様式を「判定区分」と「所見」に大別すること,(2)「判定区分」を検体適正と検体不適正に分けること,(3)検体適正をさらに4区分に分類し,それぞれの診断基準を明確化すること,(4)「所見」に可能な限り推定される組織型の記載すること,付帯事項として,(5)検体不適正比率(総検体数の10%以下),鑑別困難比率(検体適正数の10%以下),悪性の疑いでの組織学的悪性比率(10%以下)の設定,がその骨子である.

針生検

著者: 堀井理絵 ,   秋山太

ページ範囲:P.305 - P.307

要旨:針生検による病理組織診断は確定診断であるが,検体が病変のごく一部で小さいため非常に難しい.診断を誤った場合には不必要な切除や診断の遅れが生じる可能性があり,非常に問題である.日本乳癌学会はこの問題を解決するべく「乳腺における細胞診および針生検の報告様式ガイドライン」を作成し,判定区分として「鑑別困難」と「悪性の疑い」を設定した.本稿では,このガイドラインの概要を示し,運用時に一番問題となる鑑別困難,悪性の疑いの判定区分について症例を呈示する.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・3

胃悪性腫瘍

著者: 檜沢一興 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.262 - P.266

はじめに

 病変の肉眼像から組織像を読み解くことは臨床診断の基礎であり,治療方針の決定にも必須である.消化管X線二重造影法と胃カメラの開発とともに,胃癌におけるX線・内視鏡所見と病理所見とを対比検討することで,わが国における消化管診断学は飛躍的に進歩した1,2).特に早期胃癌の診断はすべての消化管診断の基礎であり,本稿ではそのX線・内視鏡診断を中心に概説する.

外科学温故知新

7.外科免疫

著者: 吉村了勇 ,   岡本雅彦 ,   貝原聡 ,   秋岡清一 ,   瓜生原健嗣 ,   牛込秀隆 ,   昇修治

ページ範囲:P.325 - P.331

1 はじめに

 免疫機能は感染防御を行うばかりでなく,外科侵襲期における急性期反応や組織修復にかかわる種々の生体反応に深く関与している.免疫応答には免疫担当細胞由来の液性因子が重要な役割を担っており,細胞間相互作用を担うこれら液性因子のうちで,一定の生物活性と物性を持つ物質群をサイトカイン(cytokine)と総称している.一方,臓器移植における急性拒絶反応時にはTリンパ球系を中心として免疫担当細胞の激しい変化が起こる.この拒絶反応においてもサイトカインが重要な役割を担っていることが次第に明らかとなってきた.

8.輸液栄養の今昔

著者: 標葉隆三郎

ページ範囲:P.333 - P.338

1 はじめに

 栄養管理は近年,NST(nutrition support team)サポートチームを含めソフトの面もハードの面も様変わりしている.食道癌に関して言えば,10年前には痩せ細った進行した食道癌患者が多く,術前から中心静脈栄養で栄養管理し,術後も合併症で長期の栄養管理を続けることが稀でなかったが,今では肥満の食道癌の患者が2週間で退院する時代である.

 手術や術中・術後の管理の進歩とともに,栄養輸液管理の分野も大いに変革してきた.本稿では,外科領域の臨床栄養を中心とした栄養管理の変遷を述べる.

臨床外科交見室

地方私立総合病院小児外科の小さな挑戦―鼠径ヘルニア手術からみた小児外科の現状

著者: 末浩司

ページ範囲:P.332 - P.332

民間病院の小児外科医は小児人口の減少(=小児外科患者数の相対的減少)やDPC(diagnosis procedure combination)の導入で,よりいっそうの経営感覚を必要とされている.つまり,収入を増やす努力をしながら支出を減らす努力もしなければならない.しかし現状をどこまで改善できるのだろうか.本稿では,鼠径ヘルニア手術を例に入院日数や手術経費などで考えてみる.

 鼠径ヘルニア手術は日帰りか1泊か2泊か.当科では数年前から従来の2泊3日を1泊2日としたのち,さらに1歳以上の症例は日帰りに,1歳未満は1泊2日とした.地方では,いまだ日帰りに踏み切っていない施設が多いが,東京や大阪などの中央の大都市では以前から小児鼠径ヘルニア手術は日帰りという施設が多くなっている.日帰り手術は患者の保護者の束縛時間が少なく,若く働き盛りの親が多い小児外科領域では受け入れられてきている.患者の住居が病院から車で30~60分であれば術後の急な再来を考えても十分に日帰りができる.しかし,現状は必ずしも患者数の劇的増加とはなっていない.地方の小児人口減少のなかで患者数の増加はあまり望めないようだ.

安達氏論文「鼠径ヘルニアの手術は必要か」に対する愚見

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.349 - P.349

本誌に掲載された安達氏の論文「鼠径ヘルニアの手術は必要か」1)に対して愚見を述べさせていただきます.

 まず,「鼠径ヘルニアには手術」と何の疑いもなく信じている外科医にとって非常に考えさせられる論文です.従来,外科医が常識あるいは当然と考えていることがはたして正しいのであろうかということをつねに反省すべき,あるいは問うべきであるという姿勢が感じられ,思わずどきっとする表題でした.

臨床研修の現状―現場からの報告・7

淀川キリスト教病院外科

著者: 濱辺豊

ページ範囲:P.339 - P.342

1 はじめに―病院の概要

 当院は1955年に米国長老教会婦人会の献金を基に初代院長ブラウン博士により開設され,現在では大阪市東淀川区内(人口17万人)で唯一の高機能病院であり,一次,二次の救急病院としての役割も果たしている.また,ホスピス・緩和ケアや周産期医療,リハビリテーションなどにも積極的に取り組んでおり,さらに,病診連携として東淀川医師会などの診療所からの紹介率は約60%と高く,病床の共同利用,定期的に症例検討や勉強会を行っている.

 当院における研修医制度は1968年より公募で有給の研修医を6名採用したのが始まりで,現在のスーパーローテートに似た研修方式を導入しており,その背景には米国留学帰りの教育熱心な医師が研修プログラムを計画し,古くからプライマリ・ケアを重視していたことによる.1992年,厚生省の臨床研修指定病院に指定され,毎年公募で採用し(2~11名),ローテートのスケジュールは内科,外科,小児科(周産期医療を含む),麻酔科,救急診療科,ホスピス科などの必修科で1年4か月研修して,残り8か月は希望の科を研修するものであった.なお,当院のホスピスは1984年に開設されており,急性期と終末期の2つの医療を経験することによって,医師としての資質をより深く養うことができると考えている.

 したがって,2004年に新臨床研修制度が開始するにあたって大きな変更はなく,医師,看護師をはじめ全職員が研修医を育てていくという意識をもっておりスムーズに移行できた.研修医の指導に際しては本院の理念である「全人医療」のもと,患者中心のチーム医療の教育に力を入れており,すなわち,(1)研修医の自主性を尊重する,(2)救急医療に力を入れる,(3)周産期から終末期(ホスピス)まで研修できる,(4)専攻の決定・未決定にかかわらず幅広い医学的知識を身に付けることができる,ことを目標に掲げ,「医師としてのあり方」だけでなく「社会人としてのあり方」についても多くを学べ,有意義な研修を受けることができると考えている.

 病院の概要は,医師数131名(うち研修医24名),病床数607床(本院487床,分院120床),1日平均入院患者数513.5名,1日平均外来患者数1,094.5名,平均在院日数14.3日,また,救急件数は救急搬送数17.7件/日,救急患者数63.8人/日である.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・1

連載のはじめに―概観

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.343 - P.348

【自分史のなかでの胃癌リンパ節郭清】

 「胃癌外科におけるリンパ節郭清は,いつ,どこで,誰が始め,それがどのようにして日本の胃癌外科に繋がってきたのであろうか」,この疑問あるいは課題は私にとっては積年のものであり,私の外科医としての生活のなかに深く入り込んでいるものです.

 それは私が大学を卒業(1962年)したのち,確とした進路の定まらぬまま無為な5年を過ごしたのち,伝手を頼って大塚の癌研究会病院に梶谷鐶先生を訪ねて胃癌の手術を見学し,その摘出標本の整理に立ち会って以来のものであります.当時見た胃癌の手術は,これまでは表面的に無思慮に眺めていた外科手術そのものを根本的に考え直すきっかけを私に与えてくれました.たとえば,胃を血流支配する4本の動脈は,これらが結紮・離断されて胃は安全に切除されるものと考えていましたが,実はこれらの動脈は第一義的には結紮されるためのものではなく,郭清のためのリンパ節を追跡していく道標として考慮されなければならないことに気がつきました.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・27

虫垂炎にCT検査は必要か

著者: 蛯澤記代子 ,   石井敬基 ,   高山忠利

ページ範囲:P.350 - P.351

【はじめに】

 近年,様々な診断技術,特に画像診断の進歩によって,正確な術前診断とそれによる適切な治療方針の重要性が指摘されている.急性虫垂炎においても術前診断の正確さが要求され,特にカタル性虫垂炎は絶食および抗生剤投与による保存的加療で軽快する可能性が高いため,カタル性虫垂炎であるか否かを鑑別することが手術適応を決定するうえで重要である.

 われわれは術前に腹部CT,超音波検査を加えることで,カタル性虫垂炎が診断可能であるかを自験例で解析した.本稿では,急性虫垂炎の診断で施行する腹部CTおよび超音波検査が有用であるか否かを検討した.

病院めぐり

三友堂病院外科

著者: 川村博司

ページ範囲:P.352 - P.352

当院は,山形県の南部,置賜(おきたま)地方の中心である米沢市にある急性期病院です.開設は明治19年と言いますから,山形県では最も歴史のある病院の1つであると言えます.その歴史を繙いてみると,県内初のX線撮影装置の導入に始まり,県内初のMRI導入,置賜地方唯一の看護学院創設,県内初のリハビリ専門病院の併設,さらに県内2番目で置賜地方唯一の緩和ケア病棟開設など積極的に先進医療を取り入れており,世の中のニーズに対応した医療を伝統的に行ってきています.当院に対する地域住民の期待は大きいものがあります.その地域の期待に応えるために病院機能評価認定を受け,ICT,NSTあるいは緩和ケアチームがアクテイブな活動を展開しており,つねに医療環境を充実させる努力を怠らず,また職員教育にも力を注いでいます.

 外科のスタッフは5名ですが,精鋭が揃い,全員が外科学会指導医もしくは専門医です.それぞれ上部消化管,下部消化管,肝・胆・膵,乳腺・内分泌,そして内視鏡外科とサブスペシャリテイーを活かす診療を行っています.この数年,手術部・ICUが充実し,ハイレベルな手術,ハイリスク患者の管理が可能となり,特に悪性腫瘍の手術においては食道癌,肝・胆・膵領域の癌,拡大郭清を伴う胃癌・大腸癌の手術成績の向上が達成されています.一方で,QOLを重視した消化器内視鏡手術や乳癌手術にも力を注いでいます.手術件数は年間約300件で,うち悪性腫瘍手術は約120件(食道3,胃40,大腸40,肝・胆・膵10,乳腺20,甲状腺3,肺2件など),内視鏡手術は約50件(LADG 10件,LAC 5件,LC 30件など)となっています.

近江八幡市民病院外科

著者: 奥川郁

ページ範囲:P.353 - P.353

当院は昭和15年に保証責任共生医療購買利用組合連合会八幡病院として発足し,昭和41年に市立近江八幡市民病院となりました.長い年月を経て建物の老朽化が進み,現在,PFI(private financial initiative:民間資金等活用事業)方式で現病院のすぐ近くに新病院を建築中です.平成18年秋に移転予定の新病院は5階建てで,上空から見ると「井」のかたちになっており,名産の八幡瓦を豊富に用いた意匠あふれる設計となっています.現在の病床は407床(外科病床は46床)で,新病院も同程度の病床数となる予定です.

 外科では迫外科部長以下,消化器症例を中心に乳線,甲状腺,移植外科および一般外科の治療にあたっています.外科スタッフは昭和52年卒から平成5年卒までの気心の知れた7名で,スムーズに診療が進んでおり,研修医がこれに加わります.2004年の全身麻酔手術件数は264例,脊椎麻酔症例は145例と,この数年は施設の老朽化に伴い手術症例が若干減少していました.しかし,2005年4月から静岡がんセンター胃外科より高橋先生を迎え,腹腔鏡下胃切除術や腸切徐術などの症例を増やしています.手術療法の標準化を進めるべく,クリニカルパスの適応疾患を拡げています.新病院ではさらなる患者数の増加が期待されています.

臨床報告・1

腹腔内ドレーン抜去困難症例に対して診断,治療に難渋した1例

著者: 佐藤耕一郎 ,   加藤丈人 ,   玉橋信彰 ,   吉田徹 ,   小原真 ,   八島良幸

ページ範囲:P.355 - P.359

はじめに

 ドレーンは手術時に色々な目的に使用されるが,そのドレーンが抜去困難になったという報告は稀であり,われわれが医学中央雑誌で検索し得た範囲では会議録を含め2例しかなかった1,2)

 今回,われわれは腹腔内2か所に留置したドレーンが一時期同時に抜去困難となり,再手術が必要であった症例を経験した.本稿では,その機序と予防方法を含めて考察し,報告する.

100歳の患者に対する大腸癌手術の1例

著者: 高久秀哉 ,   大竹雅広 ,   松木久 ,   田代和徳 ,   田代成元 ,   須田武保

ページ範囲:P.361 - P.364

はじめに

 高齢化社会が進むにつれて,高齢者の手術所症例が増加してきており,90歳以上の超高齢者に対する大腸癌手術の報告も散見される1~3).しかし,100歳を超える大腸癌手術例の報告はきわめて少ない4~10).今回,われわれは100歳の下行結腸癌手術症例を経験したので報告する.

メッケル憩室のmesodiverticular vascular bandによる絞扼性イレウスの1例

著者: 植木智之 ,   西村彰一 ,   横田徹 ,   佐野晴夫 ,   小玉正智 ,   角谷亜紀

ページ範囲:P.365 - P.368

はじめに

 メッケル憩室とは,胎生4週頃に原始腸管と卵黄囊と連絡している卵黄腸管が胎生6週頃に吸収・消失するときに,卵黄腸管の腸管側の吸収不全によって生じたものである.また,卵黄腸管は左右卵黄動脈によって栄養されるが,左卵黄動脈が遺残もしくは右卵黄動脈の末梢が遺残した場合,mesodiverticular vascular band(憩室間膜血管帯:以下,MVB)と呼ばれる索状物となり,しばしば症候性メッケル憩室の腸閉塞の原因となっている1~3)

 今回,われわれは成人に発生したMVBによる絞扼性イレウスの1例を経験し,さらに病理組織学的にその索状物がMVBと証明できたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

経皮内視鏡的胃瘻造設術を介しての空腸留置チューブ栄養法が有効であった1例

著者: 蜂須賀康己 ,   大森克介 ,   梅岡達生 ,   木村真士 ,   魚本昌志 ,   宮田ひかる ,   佐藤公治

ページ範囲:P.369 - P.373

はじめに

 食道裂孔ヘルニア症例に対しては経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:以下,PEG)は施行不能あるいは困難であることが多く,経皮経食道胃管挿入術(percutaneous trans-esophageal gastro-tubing:以下,PTEG)を施行した場合にも栄養管理に難渋する場合がある1,2).今回,高度食道裂孔ヘルニア症例に対し,PEGを介しての空腸留置チューブ栄養法が有効であった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

亜イレウスを呈した成人Meckel憩室穿孔の1例

著者: 平沼知加志 ,   高野徹 ,   野崎治重

ページ範囲:P.375 - P.378

はじめに

 Meckel憩室は卵黄腸管の遺残による小腸憩室であり,無症状で経過することが多いが,合併症を起こした場合は急性腹症として緊急処置を必要とすることがある1).今回,われわれは亜イレウス状態を呈した成人Meckel憩室穿孔の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

小腸GIST穿孔による腹膜炎の1例

著者: 小澤秀登 ,   水野均 ,   位藤俊一 ,   水島恒和 ,   相馬大人 ,   岩瀬和裕

ページ範囲:P.379 - P.383

はじめに

 小腸に発生したGIST(gastrointestinal stromal tumor)は特徴的な症状に乏しく,しばしば診断に難渋する.今回,われわれは,興味ある既往歴を有し,汎発性腹膜炎の発症によって発見された小腸GISTの1例を経験したので報告する.

特徴的な画像所見を示した胆囊捻転症の1例

著者: 尾﨑知博 ,   齊藤博昭 ,   蘆田啓吾 ,   近藤亮 ,   池口正英

ページ範囲:P.385 - P.388

はじめに

 胆囊捻転症は胆囊頸部の捻転によって胆囊壊死を起こす疾患で,内科的治療で保存的に加療される急性胆囊炎と違い穿孔や腹膜炎のリスクがあるため,緊急手術を要する急性腹症として鑑別が必要である.今回,特徴的な画像所見より術前に診断し得た完全型胆囊捻転症の1例を経験したので報告する.

クロストリジウム菌敗血症による溶血発作を呈した気腫性胆囊炎の1例

著者: 窪田忠夫 ,   多鹿昌幸

ページ範囲:P.389 - P.393

はじめに

 クロストリジウム菌による敗血症の際には溶血発作を伴うことがあり,ひとたび溶血発作が発症するとその致死率は70~100%と高いことが知られている1).今回,気腫性胆囊炎の起炎菌がClostridium perfringensであり,溶血発作から多臓器不全へと進展して救命し得なかった1例を経験したので報告する.

術前診断し得た右傍十二指腸ヘルニアの1例

著者: 角辻格 ,   固武健二郎 ,   尾形佳郎 ,   月岡健雄

ページ範囲:P.395 - P.398

はじめに

 内ヘルニアは剖検例の0.2~0.9%に認め1,2),嵌頓の発生率はその0.5~3%と稀であるとされる3).今回,われわれはイレウスのために緊急手術を余儀なくされた右傍十二指腸ヘルニアを経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

臨床報告・2

腹腔鏡で診断した被囊性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)の1例

著者: 川崎健太郎 ,   後藤直大 ,   金光聖哲 ,   中村哲 ,   黒田大介 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.399 - P.401

はじめに

 被囊性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:以下,EPS)は腹膜透析患者に稀にみられる疾患であるが1~3),腹膜透析を施行していない患者に発症することは非常に稀である4,5)

 今回,腹膜透析未施行の患者に腹腔鏡を行い,EPSと診断された症例を経験したので,特徴的な画像を供覧するとともに文献的考察を加えて報告する.

肝静脈内異物の手術経験

著者: 尾関豊 ,   仁田豊生 ,   近藤哲矢 ,   林伸洋 ,   中堀泰賢 ,   大場修司

ページ範囲:P.402 - P.403

はじめに

 CVカテーテル導入用のカニューレが離断し,左肝静脈内に迷入した稀な1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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