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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科61巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

特集 消化器外科における非観血的ドレナージ

特集にあたって

著者: 中塚誠之 ,   栗林幸夫

ページ範囲:P.872 - P.873

 X線透視や血管造影装置,超音波断層装置(以下,US),CTあるいはMRIといった画像診断装置をガイドとして,細径針やカテーテル挿入を行い,主に低侵襲治療を行うことをインターベンショナル・ラジオロジー(以下,IVR)と言う.IVRは低侵襲であるため,特に患者の全身状態が良好でない場合に有効な治療手段となり得る.適切なタイミングで効果的にIVRを活用することによって,全身状態の劇的な改善が得られる患者は少なくない.

 IVRは内視鏡や画像診断装置の普及とともに,いわゆるIVRistといわれる放射線科医のみが行うものではなくなっている.ただし,低侵襲であることと裏腹に技術的な困難さを伴うことも多く,十分なトレーニングを受けた医師が適切なタイミングで行うことが肝要である.一方では,IVRを依頼する側,つまりIVRを専門としない医師がIVRに対しての知識と理解があることが最も重要であると思われる.このような状況で施設内の各領域間の連携が成熟していれば,IVRという有効手段が最大限の効力を発揮するということである.

ドレナージの適応とタイミング

著者: 山田豪 ,   竹田伸 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.875 - P.880

 要旨:消化器外科領域における各種ドレナージは,疾患に対する治療の成否を含め,周術期管理においてきわめて重要な役割を果たしている.ドレナージの適応やタイミングに関しては,領域もしくは疾患において欧米との間に意見の相違が認められるだけでなく,国内の施設間においても差異が認められるのが現状である.外科医が臨床の現場においてドレナージを必要とする症例に遭遇した際は,その適応を十分に考慮すると同時に,最も適切なタイミングでドレナージを施行し,その後に適切なドレーン管理を行うことが肝要である.

経鼻消化管ドレナージにおける手技の実際とチューブの種類

著者: 野村栄治 ,   馬渕秀明 ,   吉中亮二 ,   渡辺久 ,   伏谷英朗 ,   新田敏勝 ,   土井仁志 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.881 - P.886

 要旨:経鼻消化管ドレナージをインターベンショナルに行う手技は,消化器科の医師が最も多く用いる手法の1つであるが,患者に苦痛を強いる手技でもあり,また,患者の協力なくしては施行は困難である.十分な説明と前処置のもとに,病態にあった適切なチューブを使用し,より迅速に挿入を行うことは患者の苦痛のみならず,透視下でのX線の被曝量を軽減することにもつながる.

超音波ガイド下ドレナージにおける手技の実際

著者: 安森弘太郎 ,   才津秀樹 ,   村中光

ページ範囲:P.887 - P.892

 要旨:超音波ガイド下ドレナージの長所は穿刺中,リアルタイムに針先の位置を確認できることである.そのためには(1)機器側の因子:穿刺用プローブやアタッチメントの使用,外套針・良質な穿刺針の使用,(2)患者側の因子:確実な呼吸停止,(3)術者側の因子:十分な局所麻酔,プローブを皮膚面に垂直に保持すること,最適な穿刺ルートの選択,針先の向きを考え調整すること,を心掛ける.また,目的に応じた適切なカテーテルの選択や術後のカテーテル管理の重要性は言うまでもない.

内視鏡的ドレナージ―適応と方法,手技の実際:肝胆膵手術の周術期における胆管・膵管ドレナージを中心に

著者: 阿部展次 ,   鈴木裕 ,   竹内弘久 ,   松岡弘芳 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.893 - P.900

 要旨:肝胆膵手術の周術期に応用できる内視鏡的ドレナージの適応,方法,手技に焦点をあてて概説した.内視鏡的胆管・膵管ドレナージは胆管・膵管内圧と十二指腸内圧との圧勾配を減少させ,種々の原因による胆汁・膵液漏出に対して有効な治療法となる.胆囊摘出術後や,T-チューブ抜去後の胆汁漏出に対しては内視鏡的経鼻胆管ドレナージによって早期の治癒が期待できる.肝切除後の胆汁漏出に対しては,治癒までに比較的時間を要することが多いので,胆管プラスチックステント留置が適している.これらの内視鏡的胆管ドレナージは肝胆道系外傷による胆汁漏出や,胆管系との交通を有する肝膿瘍に対しても有効である.一方,膵手術周術期における内視鏡的膵管ドレナージの有用性を論じた報告は少ないが,膵手術後に発生する膵液漏出に対しては膵管プラスチックステント留置や内視鏡的経鼻膵管ドレナージが有効な場合も少なくない.

食道―食道周囲膿瘍(特発性食道破裂,食道癌,縫合不全)

著者: 水野義久 ,   小澤壯治

ページ範囲:P.901 - P.905

 要旨:食道周囲膿瘍の原因には特発性食道破裂や食道癌の穿孔,食道手術後の縫合不全などがある.いずれの疾患も致命的合併症につながり,ドレナージを要する.胸部X線,胸部CT,食道造影を行って診断するとともに治療方法を決定する.ドレナージの方法には非観血的ドレナージと手術的ドレナージがあり,非観血的ドレナージには経鼻的胃管と胸腔ドレーンがある.本稿では,特発性食道破裂,食道癌,縫合不全による食道周囲膿瘍に対する非観血的ドレナージを中心に述べる.

胃・十二指腸―穿孔(消化性潰瘍・胃癌),縫合不全に対する非観血的ドレナージの可能性

著者: 今村博司 ,   古河洋 ,   岸本朋乃 ,   山本和義 ,   大城良太 ,   龍田眞行

ページ範囲:P.907 - P.912

 要旨:胃・十二指腸潰瘍や胃癌による穿孔症例は,腹腔内への消化管内容の漏出が認められた場合,腹膜炎の併発を危惧して大網充塡術や広範囲胃切除術などの緊急開腹手術が施行されることが一般的である.一方,抗潰瘍薬の発達や画像診断能の向上によって,腹腔内への消化管内容の漏出がない,または軽度な症例では保存的治療で対応できるという報告が散見されるようになってきた.さらに最近では,明らかな腹腔内への消化管内容の漏出があっても,限局性であれば積極的にUSまたはCTガイド下での非観血的ドレナージ術を併用することで,侵襲の大きい全身麻酔下での緊急開腹手術を回避できる可能性が出てきた.本稿では,このような症例に対する保存的治療,特に非観血的ドレナージ術について概説した.

腸疾患に伴う腹腔・骨盤内膿瘍に対する超音波/CTガイド下ドレナージ

著者: 西堀英樹 ,   長谷川博俊 ,   石井良幸 ,   遠藤高志 ,   北島政樹 ,   中塚誠之

ページ範囲:P.913 - P.918

 要旨:腸疾患に伴う腹腔・骨盤内膿瘍は日常臨床においてしばしば遭遇する.原疾患としては大腸癌,大腸憩室炎,急性虫垂炎,潰瘍性大腸炎,クローン病,外傷・医原性腸穿孔などであるが,最も多いものは術後膿瘍である.特に腸管穿孔や術後縫合不全によるものは可及的迅速なドレナージを要する.膿瘍が限局され経皮的に穿刺できるルートが確保できれば,低侵襲かつ効果的な治療法として第一選択となるのが超音波/CTガイド下ドレナージである.穿刺ルートと穿刺誘導モダリティの決定には,造影CTが有効である.超音波およびCTのそれぞれの利点・欠点を理解し,症例に応じて最適なモダリティを選ぶことが肝要である.最後に当科で経験した症例を検討する.

肝膿瘍

著者: 舩渡治 ,   藤田倫寛 ,   星川浩一 ,   武田雄一郎 ,   新田浩幸 ,   川村英伸 ,   佐々木章 ,   池田健一郎 ,   若林剛

ページ範囲:P.919 - P.922

 要旨:肝膿瘍は細菌性とアメーバ性に分けられるが,その多くは細菌性である.近年の画像診断の進歩によって早期の診断が可能となり,治療方針も外科的ドレナージや肝切除から,より低侵襲な超音波ガイド下経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:PTAD)へと移行し,一般的に広く普及している.しかし,肝膿瘍は適切な処置がなされなければSIRS(systemic inflammatory response syndrome)や敗血症性ショック,DICへと移行して致死的となる.したがって,早急な診断とドレナージ,抗生剤の全身投与が必要である.PTADは安全で有効な治療法であるが,その適応,基本的手技,手順について熟知しておく必要がある.

胆囊―胆囊炎

著者: 中川国利 ,   白相悟 ,   遠藤公人

ページ範囲:P.923 - P.928

 要旨:従来,急性胆囊炎における手術および胆囊ドレナージの適応,時期,方法などに対する診療方針は施設によって大きく異なってきた.しかし,治療標準化の必要性が提唱され,急性胆道炎の診療ガイドライン作成出版委員会によって「急性胆管炎・胆囊炎の診療ガイドライン」が2005年に作成された.急性胆囊炎に対しては早期の手術が推奨され,胆囊ドレナージの適応は従来より限定されている.しかし,何らかの理由によって手術が行えない急性胆囊炎に対しては,胆囊ドレナージは有効な治療法である.今後,胆囊ドレナージの適応を厳密に行うとともに全身状態の改善に努め,ドレナージ後は早期に手術(できれば腹腔鏡下胆囊摘出術)を行うことが望まれる.

胆道―閉塞性黄疸,術後胆汁瘻,術後胆管炎

著者: 稲垣光裕 ,   石崎彰 ,   葛西眞一

ページ範囲:P.929 - P.933

 要旨:急性胆管炎を伴う閉塞性黄疸に対し,内視鏡的経鼻胆道ドレナージが推奨されている.膵・胆道系悪性腫瘍による閉塞性黄疸に対しても内視鏡的胆道ドレナージを施行することが増加しているが,今後は症例ごとに減黄の必要性,期間,方法を再検討する必要がある.術後胆汁瘻・術後胆管炎に関しては,それぞれの病態に対応した治療が必要であり,現在では非観血的治療の手技が向上して良好な成績が報告されている一方で,外科的治療が必要な症例もある.

膵―膵仮性囊胞,膵膿瘍

著者: 三上幸夫 ,   佐藤晃彦 ,   元井冬彦 ,   阿部忠義 ,   福山尚治 ,   江川新一 ,   朝倉徹 ,   下瀬川徹 ,   海野倫明

ページ範囲:P.935 - P.939

 要旨:近年の画像診断や内視鏡的治療技術の進歩によって,膵炎の合併症に対する非観血的治療の報告が増加している.膵仮性囊胞に対する非観血的ドレナージ術としては内視鏡的囊胞ドレナージ術(経胃・十二指腸的囊胞ドレナージ,内視鏡的経乳頭的囊胞ドレナージ)や超音波・CTガイド下経皮的囊胞ドレナージ術が選択されることがあり,症例によっては良好な成績を得ている.また,急性膵炎に合併した膵膿瘍に対しては経皮的囊胞ドレナージ術が第一選択の治療法となる可能性がある.膵仮性囊胞や膵膿瘍に対する非観血的ドレナージ術は外科的治療を選択する前に考慮されるべき治療法ではあるが,その適応や危険性について十分に検討することが重要である.

ドレナージ・チューブの管理と治癒判定

著者: 板本敏行 ,   小橋俊彦 ,   浅原利正

ページ範囲:P.941 - P.944

 要旨:ドレナージ・チューブによって体外に排出される体液の量や性状などから得られる情報は,病態を把握するうえで重要な診断根拠となる.さらに,その管理の良否は治療経過に大きな影響を与える.これらの変化を見逃すことなく,迅速に対応することがドレナージ・チューブ管理の目的である.チューブ排液の急激な減少・停止に腹痛や発熱などの臨床症状を伴う場合には,特に迅速な対応が必要である.ドレナージの治癒判定と抜去時期の決定には排液の量や性状だけでなく,全身状態,血液生化学検査の結果などを総合的に判断して行う.特に,消化液の漏出をドレナージしていた場合には,その排液が消失し,チューブからの造影で消化管,胆管,膵管との交通が消失していることを確認してから抜去する.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・7

肝:良性疾患(炎症,代謝異常など)

著者: 山際健太郎 ,   上本伸二 ,   小塚祐司

ページ範囲:P.863 - P.870

はじめに

 肝臓の炎症や代謝異常などの良性疾患においては血清学的,血液生化学的診断と生検による組織診断が中心であり,内視鏡で容易に観察できる消化管と違って画像は補助診断に過ぎず,肉眼所見も診断学的価値は少ない.一方,近年の画像診断の進歩によって,以前は悪性腫瘍との鑑別診断が難しく外科的に切除された腫瘍類似の肝良性病変に対しても的確な診断のもとに経過観察されることが多くなった.

 本稿では,肝移植の適応となる炎症および代謝異常疾患と,腫瘍類似の肝良性疾患や良性肝腫瘍のなかでわれわれが経験した症例のなかから,特徴的なもの,鑑別診断に役立つものを中心に,その肉眼的および組織学的所見を解説する.

元外科医,スーダン奮闘記・3

巡回診療開始

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.945 - P.948

医薬品を持ってガダーレフ州へ

 横浜市から提供していただいた医薬品を早速,ガダーレフ州の保健大臣のところへ届けに行った.その途中,車のパンクと,以前に水の入った燃料を入れられたために調子の悪くなった車との影響で到着時間が大幅にずれて夕方になった.当初の予定では,保健大臣に挨拶してから,その日のうちにドカ病院へ移動するはずだったが,この日はガダーレフに泊まらなければいけない.適当に安ホテルでも見つけて泊まろうと思っていると,大臣が自分の家で飯を食って,それから親戚の家があるのでそこに泊まれと言ってくれた.そこは「グッティーヤ」と呼ばれる小屋であった.木で枠組みを作り,土に草と水を混ぜてこねて乾燥させたものを壁にしている.屋根は茅葺である.三匹の小ブタの長男が建てた,狼にすぐにぶっ壊される家に似ている.私はこの小屋を単純に気に入っている.いずれは自分のグッティーヤを持ちたいと考えている.

 さて,その小屋のなかで大臣は思いもかけないことを言ってきた.私にドカ病院ではなく,ガランナハル病院に行ってくれと言う.ドカ病院は現在3人の医師体制を整えたが,ガランナハル病院には医師が1人しかいないからサポートしてくれというのである.当初の目論見とは違うが,大臣に頼まれると仕方がない.さらに,この場所は以前,大臣に一度見ておいてくれと言われて行ったことがある.事情も大体つかんでいたので,翌日は行き先を変えて,ガランナハルとなった.

外科学温故知新・12

緩和医療

著者: 濱辺豊

ページ範囲:P.949 - P.954

1 はじめに

 緩和医療について考えているときに,胃癌で術後再発した患者が「再発したら家族にはすべて隠さずに話そうと決めていたし,また,この病院で手術をしてもらったのはホスピスがあるので再発したときには優先して診てくれると考えたから」と言われたのを印象深く思い出した.癌は死亡原因の第一位で,年間30万人以上が死亡しており,最期の時を迎えて肉体的・精神的苦痛から解放するための緩和医療については避けては通れない問題である.最近,緩和ケア病棟で医療を受ける機会が多くなったが,患者は手術を受け,さらに外来で長期に経過を診てきた外科医に信頼を寄せているため,再発後のケアも希望することも多いと思われる.

 1990年,WHOが発行した“Cancer Pain Relief and Palliative Care”1)では,癌医療における終末期医療を含む新しい医療の考えを緩和医療と呼ぶように提言しており,このなかで「緩和医療とは,治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである.痛みやそのほかの症状のコントロール,精神的,社会的,そして霊的問題の解決が最も重要な課題となる.緩和医療の目標は,患者とその家族にとってできる限り可能な最高のquality of life(QOL)を実現することである.末期だけでなく,もっと早い病期の患者に対して治療と同時に運用すべき点がある」と定義している.

 当院にはホスピスが併設されており,新しい考え方や治療法で診療が行われているが,私たち外科医は緩和医療について勉強する機会が一般に少ないのではないかと思われる.本稿では,緩和医療について歴史と現状,身体的・精神的・社会的苦痛の緩和,家族のケアなどについてまとめる機会を得たが,これが緩和医療を考える上の一助になれば幸いである.

連載企画「外科学温故知新」によせて・3

Antisepsis(防腐法)からAsepsis(滅菌,無菌)へ

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.955 - P.958

 医学の面では暗黒時代と言われる中世の理髪外科医が四肢切断手術を行っている様子を描いた絵画を見ても,感染予防策が講じられていた形跡はまったく見あたらない(口絵).もっとも,感染を引き起こすのが細菌という目に見えない微小な生命体であるということがわかっていない時代だったので,当然と言えば当然である.これは近世になっても同様で,開腹手術の嚆矢とされる1809年のMcDowellによる卵巣囊腫の摘出手術や,1846年のボストンでのエーテル麻酔下の公開手術の模様を描いた絵画でも,さらにPeanの公開手術の場面を描いた絵画においても,感染に対する方策が講じられた様子は窺えないのである.

 一方,西洋に「War is the chief training school for surgeons」という言葉があるように,良きにつけ悪しきにつけ外科学が戦争とともに発展する,言い換えれば,戦争が外科学の発展を後押しするという一面があるのも否めない事実である.たとえば,近代外科学の父とも称されるParéは戦傷治療に際して,新機軸の冷膏治療や四肢切断時の血管結紮などを,創管理法や止血法として導入したわけであるが,Paréが戦傷治療を刷新しようと努力していた16世紀頃は,多くの軍陣外科医たちはワインやヴィネガー,バラ油やテルピン油などを受傷に引き続いて起こる致死的な敗血症を阻止すべく,消毒・防腐を兼ねた創の保護・被覆材(wound dressing)として使用していた.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・31

胃全摘術後の吻合部造影は臨床的に有用か

著者: 三吉範克 ,   宮代勲 ,   岸健太郎 ,   高地耕 ,   矢野雅彦 ,   江口英利 ,   能浦真吾 ,   山田晃正 ,   大東弘明 ,   大植雅之 ,   佐々木洋 ,   石川治 ,   今岡真義

ページ範囲:P.959 - P.961

【はじめに】

 消化器外科医にとって,縫合不全はなんとしても避けたい合併症の1つであり,状態によっては緊急手術などの侵襲的な治療を要することもある.そのため,周術期管理に関する書物を紐解くと,胃全摘術後の経口摂取前に行う吻合部造影がルーチン検査として記載されていることが多く1),筆者らも諸先輩から必須の検査として教わってきた.

 縫合不全の発生率は7.2~12.3%と報告されている2,3).胃全摘術後の縫合不全発生の要因としては,食道の漿膜を欠如するという解剖学的な要素,吻合部の血流の問題,吻合における手術手技がそれほど容易ではないことなどが挙げられる.また,縫合不全を起こすと腹腔内膿瘍のみならず,吻合部が後縦隔に近く位置するということから縦隔への感染の広がりを伴った場合は重篤になる危険性があると考えられる4).しかし,最近は各種の医療器具の開発とその精度の向上に伴い,そのような合併症の発生は比較的稀であり,臨床所見に異常がなければ造影検査を行わない場合もある.一方,水溶性造影剤(ガストログラフィン)による下痢の誘発や,これを誤嚥した際の肺水腫,急性肺障害の危険性も報告されている5,6)

 吻合部造影の意義については,縫合不全の有無を確認するのみならず,術後再建臓器の消化管蠕動を評価するという意味合いもある.しかし,胃全摘術後の縫合不全に重点を置き,これを評価すべく吻合部造影をルーチンに行うことにどれほど臨床的有用性があるのだろうか.本稿では,当院における胃全摘術後の経口摂取再開前に行われている吻合部造影の臨床的有用性をレトロスペクティブに検討し,これに文献的考察を加え,臨床医の立場から筆者らの意見を述べたい.

病院めぐり

原町赤十字病院外科

著者: 内田信之

ページ範囲:P.962 - P.962

 当院は昭和27年に診療所として開設され,昭和33年に病院に昇格以来,群馬県北西部の吾妻地域保健医療圏の中核的病院としての役割を担ってきました.群馬県の面積の約20%を占める吾妻郡内の広い地域から数多くの患者が来院しているのみならず,草津温泉や四万温泉などの温泉地のほか,多くのスキー場や観光地を控えていることもあり,郡外や県外からも急患などで多数の方が受診しています.現在,病床数は227床(うち療養病床39)で,診療科は12科を標榜し,常勤医師は23名です.平成13年10月に新病院が完成し,救急医療,地域災害,感染症などへの対応のほか,検診センターやリハビリ施設など多様なニーズに対応できるような病院づくりを進めています.

 外科スタッフは4名と少ないのですが,日本外科学会外科専門医制度修練指定施設,日本消化器外科学会専門医修練関連施設,日本消化器病学会認定施設,日本大腸肛門病学会認定関連施設,日本乳癌学会認定施設になっており,消化器一般外科,乳腺甲状腺外科,肛門外科を中心とした診療を行っています.平成17年の手術件数は282件(全身麻酔196件,腰椎麻酔66件)であり,このうち緊急手術は58件で20%以上を占めています.手術の主な内訳は,食道1件,胃十二指腸24件,小腸7件(外傷を含む),大腸37件,肝胆膵7件,胆石,胆囊ポリープ34件,イレウス17件,虫垂切除29件,乳腺24件,甲状腺5件,肺1件,鼠径ヘルニア47件,肛門疾患22件で,幅広い分野の手術を行っています.また,腹腔鏡下胃癌・大腸癌手術や,RIを用いた乳癌のセンチネル生検など,患者のQOLを考慮した手術を積極的に取り入れています.外来においては,乳腺外来,化学療法外来,肛門外来,ストーマ外来などの専門外来を開設し,患者の要望にきめ細かく対応できるように努めています.

韮崎市立病院外科

著者: 鈴木修

ページ範囲:P.963 - P.963

 韮崎市はわが国のほぼ中央に位置し,東京から中央自動車道で約2時間,山梨県の北西部に存在する.武田信玄・勝頼で有名な甲斐武田氏発祥の地であり,サッカーの中田英寿選手の母校韮崎高校が存在し,サッカーが盛んな町である.甲斐駒ケ岳から連なる雄大な南アルプス,峻厳にそびえる八ヶ岳,優美な霊峰富士と大自然のパノラマが360度に展開し,日本を代表する美しい山岳景観を誇る自然豊かな町でもある.

 当院は昭和23年に韮崎町と近隣の7か村の「国民保険直営峡北組合立病院」として設立され,昭和29年の町村合併によって「韮崎市立病院」と改称し,増改築を行いながら発展した.平成5年からは山梨医科大学(現 山梨大学)から医師を招聘し,同大学と連携しながら医療を行っている.韮崎市の人口は32,240名であるが,近隣する北杜市,小淵沢町,旧 双葉町から構成される峡北地域9万人の中核病院として地域医療を担っており,総病床数は200床で,うち外科系は47床である.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・5

Billroth―1881年―からMikulicz―1898年―まで(1)

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.965 - P.973

【Billroth―1881年―以後の胃癌胃切除】

 1881年1月29日の世界に先駆けた成功以来,Billrothの教室で行われた4例の幽門切除(胃切除)例については,同年4月(?)にWölfler1)によってその手術術式が詳細に報告されています.

 これを糸口とするように,1881年のうちにヨーロッパ中で23例の胃切除がなされています.翌1882年には13例,1879年のPéanの最初の胃切除から数えますと,1882年末までに38例の胃切除が試みられましたが,このうち術死が34例(死亡率89%)で,4例のみが退院できたことになります.

臨床研究

食道癌周術期管理における好中球エラスターゼ阻害剤の有用性についての検討

著者: 三松謙司 ,   加納久雄 ,   小倉道一 ,   久保井洋一 ,   大井田尚継

ページ範囲:P.975 - P.979

はじめに

 食道癌の手術侵襲は大きく,ほかの消化器癌手術と比較して術後の肺合併症の頻度が高い.食道癌術後には血中サイトカインや好中球エラスターゼが高値で推移することが報告されており1),このため,術後の循環動態は不安定で,肺の酸素化能障害が誘発される.これに対して,手術手技を改良して侵襲を軽減しようとする試みや炎症性サイトカインを制御する試みもされている.特に,好中球エラスターゼは組織障害を引き起こすプロテアーゼの代表であり,急性肺障害と密接な関係があるとされている2).近年,好中球エラスターゼ阻害剤であるシベレスタットナトリウム水和物(エラスポール(R))の急性肺障害に対する有効性が示されている3)

 今回,われわれは食道癌手術において術後にエラスポール(R)を投与し,術後循環動態と肺障害の出現に影響を及ぼすか,その有用性を検討した.

臨床報告・1

プロリン(R)・メッシュを用い鼠径法で修復した閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 宮内隆行 ,   余喜多史郎 ,   矢田清吾 ,   倉立真志 ,   山崎誠司

ページ範囲:P.981 - P.984

はじめに

 閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に好発し,腸管の嵌頓による腸閉塞を発症して緊急手術となる症例が多く,救急領域において重要な疾患である1).開腹手術下に嵌頓腸管の切除が施行される症例が多いが,最近では鼠径法による手術の低侵襲化や2),メッシュを用いた修復が報告されている2,3)

 今回,われわれは自然還納された左閉鎖孔ヘルニア症例にプロリン(R)・メッシュを用いた修復術を鼠径法で施行したので報告する.

頸動脈小体腫瘍の2例

著者: 木下真一郎 ,   森田一郎 ,   正木久男 ,   種本和雄 ,   物部泰昌

ページ範囲:P.985 - P.989

はじめに

 頸動脈小体腫瘍は,呼吸・血圧を調節している化学受容器である頸動脈小体より発生する腫瘍である.われわれは比較的稀な本腫瘍2例を経験し,長期にわたり経過良好であるので報告する.

臓側胸膜原発過誤腫の1例

著者: 吉岡啓 ,   森田一郎 ,   木下真一郎 ,   光野正人 ,   物部泰昌

ページ範囲:P.991 - P.993

はじめに

 臓側胸膜原発の過誤腫は非常に稀であり,現在のところ明確に臓側胸膜原発と診断した症例は報告されていない.われわれは臓側胸膜の腫瘍に対して胸腔鏡下手術(VATS)を施行し臓側胸膜原発過誤腫の病理診断を得た症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下摘出術を施行した左側胆囊結石症の1例

著者: 中久保善敬 ,   田中公貴 ,   田本英司 ,   奥芝知郎 ,   川村健 ,   近藤哲

ページ範囲:P.995 - P.997

はじめに

 左側胆囊は胆囊が肝円索より左方に位置する比較的稀な先天性奇形の1つである1).今回,われわれは左側胆囊に発症した胆石症に対し腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1例を経験したので報告する.

解離性大動脈瘤に併存したupside down stomachを呈する傍食道型裂孔ヘルニアの1例

著者: 小林利彦 ,   和田英俊 ,   鈴木浩一 ,   渡辺浩 ,   小倉廣之 ,   小西由樹子

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに

 食道裂孔ヘルニアは比較的頻度が高い疾患であるが,胃の軸捻転を伴い胸腔内へ高度に脱出したupside down stomachを呈することはきわめて稀である1,2).今回,解離性大動脈瘤に併存した傍食道型裂孔ヘルニアの経過観察中にupside down stomachとなり手術を施行した1例について報告する.

臨床報告・2

男性囊胞性乳癌の1例

著者: 北田正博 ,   小澤恵介 ,   梶浦由香 ,   徳差良彦 ,   三代川斉之 ,   笹嶋唯博

ページ範囲:P.1003 - P.1005

はじめに

 男性乳癌は,男性における悪性腫瘍の0.2%~1%程度であり,全乳癌の1%程度と稀な疾患である1).また,囊胞性乳癌も乳癌のなかでは比較的稀な疾患である.今回,男性に発生した囊胞性乳癌を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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