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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科61巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

特集 消化器外科医に必要な低侵襲治療の知識

消化管狭窄に対するステント留置

著者: 前田清 ,   井上透 ,   西原承浩 ,   八代正和 ,   野田英児 ,   福永真也 ,   岡崎博俊 ,   杉森聖司 ,   山下好人 ,   大平雅一 ,   平川弘聖

ページ範囲:P.1159 - P.1164

 要旨:現在,ステント治療は胆道系や血管系,気管や消化管まで広い範囲で使用されているが,わが国においては消化管では悪性疾患による食道狭窄のみが保険適用となっている.近年,一部の施設においては食道のみならず胃,十二指腸,大腸の狭窄に対してもステント留置を試み,良好な結果が得られたと報告している.しかし,一方では致命的な合併症の発生やcost benefitなど,様々な問題点も報告されている.本稿では,消化管で施行されているステント治療の現況と問題点,今後の展望について述べた.

Percutaneous endoscopic gastrostomy―手技のポイントと偶発症の予防

著者: 川崎成郎 ,   鈴木裕 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.1165 - P.1174

 要旨:経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は,開腹での胃瘻造設術に比べて簡便で経済性が高いことから,胃瘻造設の標準術式となった.しかし,PEGの普及とともに,これに関与した医療事故が散見されるようになり,正しい手技の習得と偶発症への対応が急務となっている.本稿では,PEGの手技のポイントと偶発症への対応・予防策について記載した.

上部消化管出血に対する低侵襲性治療―内視鏡的止血法の実際

著者: 熊井浩一郎 ,   相浦浩一

ページ範囲:P.1175 - P.1181

 要旨:消化管出血は臨床医にとって遭遇する機会の多い病態であるが,最近は非手術的な低侵襲治療である内視鏡的止血法が止血治療の第一選択となっている.内視鏡的止血法には止血機序の異なる種々の方法があり,出血源や出血状況に応じて選択する.噴出性出血や露出血管などがよい適応であり,90%前後の良好な止血効果が報告されている.消化管出血患者の診療において最も重要なことは,一連の流れのなかでのdecision makingである.Primary careとして全身状態の把握と管理を行いつつ,緊急内視鏡の適応を判断する.緊急内視鏡の目的は,出血源の探索,出血状況の診断,それに引き続いての内視鏡的止血法の選択と実施である.多数例ではないが存在する止血不能例や再出血例に対しては,施設の体制を踏まえた緊急IVRや緊急外科手術の選択において,消化器外科医によるdecision makingが必要となる.

早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術―適応と実際の手技を中心に

著者: 阿部展次 ,   竹内弘久 ,   松岡弘芳 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1183 - P.1192

 要旨:早期胃癌に対する内視鏡的治療の適応と,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)の実際および問題点を中心に概説した.「2cm以下の粘膜癌,組織型が分化型,陥凹型ではUL(-)」を満たす病変は内視鏡的一括切除が標準的治療である.これらに対しては,一括切除が可能であれば従来法の内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)でもよいが,それが困難と予想された場合はESDを適用すべきであろう.現行の「胃癌治療ガイドライン」に記載されたEMRの適応拡大可能病変に対して内視鏡的治療を適用するならば,大型の切除や潰瘍の切離が必要になることから,一括切除が得られる内視鏡的切除の手技としてはESD以外に選択肢はない.しかし,これらのEMR適応拡大病変は,あくまで外科手術例における「リンパ節転移をほとんど認めない病変」であって,たとえESDで一括切除がなされたからと言って即,外科手術と同等な長期的根治性が得られるかどうかは現時点では不明であることに注意が必要である.ESDは,病変周囲の粘膜・粘膜下層を全周切開し,病変下の粘膜下層を切離・剝離する方法の総称であり,様々な方法がある.ESDの最大の利点は,従来法のEMRでは困難であった大型の一括切除が得られることであるが,高い穿孔・後出血率など,解決すべき多くの問題点を抱えている.しかし,その低い遺残再発率や,報告されつつある良好な中期遠隔成績から,ESDは将来的にも早期胃癌治療体系のなかで主力的・標準的な位置を担っていく可能性が高いと推察される.

肝腫瘍に対するRF療法の成績とその現状

著者: 南康範 ,   鄭浩柄 ,   高橋俊介 ,   井上達夫 ,   上嶋一臣 ,   福永豊和 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.1193 - P.1199

 要旨:ラジオ波焼灼術(RFA)は高い局所制御能から肝細胞癌の局所治療として用いられており,外科治療とともに根治性の高い治療法として位置づけられている.肝癌治療には外科切除,RFA,経カテーテル的治療などが挙げられ,また,それらを組み合わせた治療も合わせると複数の治療法の選択肢がある.その治療法選択には病期や肝予備能に基づいて内科,外科,放射線科など各科を横断したトータル・マネージメントが必要である.臨床の場では,各科の意見交換からコンセンサスを築くことが大切である.

肝悪性腫瘍に対する凍結治療

著者: 田辺稔 ,   若林剛 ,   上田政和 ,   島津元秀 ,   河地茂行 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1201 - P.1208

 要旨:現在,肝癌の治療分野ではラジオ波やマイクロ波など局所治療としての焼灼術が重要な役割を果たしている.しかし,肝内胆管の熱損傷や局所麻酔下焼灼時の疼痛などの短所があるほか,焼灼可能な腫瘍の大きさは3~4cm程度までが一般的な限界である.近年開発された高圧アルゴンガスを冷媒とした凍結治療装置は強力かつ迅速な組織凍結を実現したばかりでなく,プローブの加温や複数のプローブの同時使用,細かな出力設定が可能であり,液体窒素を冷媒とした従来の機種と比較して格段に治療装置としての能力が向上している.凍結治療は肝内胆管を損傷するリスクが少なく,大きなサイズの腫瘍も一期的に治療ができる.また,局所麻酔下手術では凍結時の疼痛が皆無であるなど,焼灼術にはない様々な特徴を有する.本稿では,肝癌に対する凍結治療の新たな可能性について触れた.

Endoscopic sphincterotomy(EST)およびendoscopic papillary balloon dilation(EPBD)の適応と偶発症の予防

著者: 田邊麗子 ,   家永淳 ,   外園幸司 ,   高畑俊一 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1209 - P.1216

 要旨:内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)と内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)とではその特性が微妙に異なる.ESTは深部挿管が困難でも可能であることと膵炎の発症率が低いことが,また,EPBDは出血のリスクが低いことと,Billroth-II法などの胃切除術後の場合でも比較的容易であることが挙げられる.両者の主な偶発症には出血と膵炎があり,出血の予防としては,一般的な外科手術の際の予防措置に加え,11~12時方向への切開を心掛けることと,内視鏡用高周波制御装置の使用などがある.出血の際にはクリッピングなどの止血処置が行われる.膵炎の予防として,膵管ステントの留置に加え,EPBDの場合は硝酸イソソルビド(ISDN)の使用が行われている.

PTBDおよびPTGBDの適応と手技

著者: 堀口明彦 ,   伊東昌広 ,   石原慎 ,   永田英生 ,   浅野之夫 ,   清水朋宏 ,   宮川秀一

ページ範囲:P.1217 - P.1221

 要旨:急性胆管炎と診断した場合,まずは抗菌薬投与などの保存的治療を施行したのち,治療が奏効しないときや,血圧低下,意識障害を伴う重症例では緊急胆道減圧が必要となる.最近は内視鏡の技術が進歩し,中下部胆管閉塞(胆石,腫瘍)ではまずendoscopic retrograde biliary drainage(ERBD)が最も非侵襲的であり第1選択となっている.ERBD不能例や肝門部狭窄による区域性胆管炎の症例はpercutaneous transhepatic biliary drainage(PTBD)が必要となる.一方,急性胆囊炎に対するpercutaneous transhepatic gallbladder drainage(PTGBD)は広く普及しており,ハイリスク患者のみならず,本法で胆囊炎をいったん改善させたのち,あるいは全身状態を評価したのちに手術を行うという治療法を採用している施設も多い.急性胆道炎の治療は各施設において最も安全で最適な治療法を選択することが重要である.

胆管ステント―適応と手技の工夫

著者: 大谷泰雄 ,   石井正紀 ,   伊東英輔 ,   三朝博仁 ,   伊東功 ,   中崎久雄 ,   堂脇昌一 ,   矢澤直樹 ,   種田靖久 ,   松山正浩 ,   三好玲 ,   杉尾芳紀 ,   飛田浩輔 ,   生越喬二 ,   今泉俊秀 ,   幕内博康

ページ範囲:P.1223 - P.1228

 要旨:閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージの方法としては,経皮経肝的ルートと経乳頭的ルートがある.したがって,胆管ステントのルートも2つのルートがある.閉塞性黄疸が胆管炎を併発している場合には早急な診断を行い,迅速な減黄処置が第一選択として要求される.減黄後には,原因疾患に対する治療法の選択が必要である.原因疾患に応じて切石や手術やステント挿入などの治療手技を行う.アプローチの方法に関しては,施設によって選択が多少異なる.経乳頭的アプローチは治療後のQOLや合併症の頻度,播種の危険性,胆汁の生理的排出などの利点を有しており,第一選択と考える.経皮経肝的アプローチでは,多量の腹水貯留時や出血傾向を認める場合には合併症が増加する危険性がある.一方,経乳頭的アプローチが困難な症例では,PTCSを用いた切石や悪性腫瘍のステント留置などの応用が可能である.胆道および膵臓疾患において,この2つの手技を熟知しておくことが必要である.

Interventional radiology(IVR)の最近の進歩―TAEと止血について

著者: 南哲弥 ,   宮山士朗 ,   眞田順一郎 ,   寺山昇 ,   松井修

ページ範囲:P.1229 - P.1236

 要旨:Interventional radiology(IVR)は低侵襲治療の代表的なものの1つであり,transcatheter arterial embolization(TAE)はそのなかでも中心的位置を占めてきた.すでに確立された治療法ではあるが,近年の技術革新に伴うデバイスの急速な進歩はTAEをさらに進化・変貌させている.まず,わが国では肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓術によって発展し,今日ではカテーテルの細径化により肝動脈末梢からの超選択的塞栓術や肝外細枝の選択治療が可能となっている.また,外傷出血や術後出血のようなきわめて一般状態不良の患者に対しても非侵襲的に診断を行うことができ,様々な用途に応じた塞栓物質の適正な選択によって止血術が可能となってきている.しかしながら,TAEは万能の方法ではなく,その限界を十分に把握することによってこそ集学的治療法の有力な手段となり得る.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・9

著者: 横山直行 ,   白井良夫 ,   永橋昌幸 ,   若井俊文 ,   味岡洋一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1151 - P.1158

はじめに

 胆道病変の治療方針決定に際しては,良・悪性の鑑別と質的診断が,悪性疾患においては原発部位,局在,進展度(stage)の診断が不可欠である.しかし,内視鏡による直視下観察・生検が困難であり,かつ胆石や炎症による修飾などの特殊性から,胆道病変の術前画像診断には限界がある.したがって,胆道病変の外科手術に際しては,外科医および病理医による術中所見や切除標本の肉眼所見に基づく術中診断が重要となる.

 本稿では,胆道病変の肉眼像(マクロ所見)と組織像(ミクロ所見)とを対比して示す.外科医が術中の肉眼像から組織像を推測するのに役立てば幸いである.

元外科医,スーダン奮闘記・5

ロシナンテス,再びスーダンへ

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1237 - P.1239

ロシナンテスの由来

 このたび,われわれの団体であるロシナンテスが内閣府に特定非営利活動法人として正式に認証された.内閣府のホームページを見ると,ご丁寧に「内閣府がお墨付きを与えたわけではありません」との文言があるが,認証されたのには変わらない.さて,ロシナンテスという名前はどこから来たのかを説明したい.

 私が外務省を辞め,スーダンに向かう準備をしているときに,私の高校時代のラグビー部の2つ下の後輩と出会った.彼は,今まで日本で働いて金を貯めては海外で過ごす(彼が言うには遊学)という生活をしてきた.先年には,イラクにアメリカ軍が侵攻し,バグダッドが陥落した直後にNGOの一員としてボランティア活動をした経験もあるという.その彼がもう40歳近くにもなり,安定した就職先を見つけ,かわいい嫁さんでももらい,幸せな家庭を築く予定で帰国してきたところを,運が良いのか悪いのか,私と出くわした.彼に「スーダンに一緒に行くか」と優しく聞いたところ,彼も「はい」と答えたので,彼をスーダンへ連れて行くことにした.また,同時期に福岡の宝珠山という山に囲まれた村から中古車を提供するという話をいただいた.資金のまったくない状況での物資の提供はとてもありがたかった.19万kmの走行済みであるが,まだまだ走るとのことである.その車を宝珠山まで取りに行ってきた.

私の工夫 手術・処置・手順

S状結腸・直腸癌に対する腹腔鏡下切除時の左結腸動脈温存への工夫―腹腔鏡下手術用超音波ドプラプローブの利用

著者: 實操二 ,   盛真一郎 ,   中島三郎 ,   下田仁志 ,   田辺元 ,   小代正隆

ページ範囲:P.1240 - P.1241

はじめに

 腹腔鏡下大腸・直腸癌手術の適応は拡大しつつあるが,同時に個々の症例に応じた過不足ない血管処理を伴う系統的なリンパ節郭清が必要とされる.しかし,腹腔鏡下手術では触診が行えないうえに,二次元モニター下の拡大視・近接視効果のため全体像が捉えにくく,血管の局所解剖を理解するのに難渋することが多い.特に肥満症例では血管の同定が困難であり,不意な出血などの合併症に遭遇することがある.そのため,術前に3D-CT血管画像を用いて血管の局所解剖を把握することにより,過不足のない血管処理を伴うリンパ節郭清が報告されている1)

 われわれはS状結腸癌・直腸癌(Rs・Ra)のD2リンパ節郭清適応症例に対して,術前の3D-CT血管画像診断に加え,術中に腹腔鏡下手術用超音波ドプラを用いることによって,より安全・的確な血管処理が行われるように工夫しているので解説する.

病院めぐり

市立敦賀病院外科

著者: 飯田茂穂

ページ範囲:P.1244 - P.1244

 天然の良港を擁する敦賀は古代から朝鮮半島や中国大陸との交流が盛んで,海陸交通の要地でした.中世から近世にかけては北前船で賑わう貿易港として発達し,西の舞鶴や小浜からの街道と北陸道の交わる陸路の要所としても栄えてきました.古くは都を去った足利義昭が滞在した金ヶ崎の地も,今では桜の名所として市民に親しまれています.

 当院の揺籃は明治15年に県立敦賀病院として開設され,以来120年余りにわたって地域住民に信頼される中核病院としてその役割を担ってきました.昭和30年に市立敦賀病院と改称され,現在に至っています(診療科17科,病床341床).平成15年から第3次整備事業に着工しており,平成17年4月には新病棟(北病棟)が完成し,救急室,血管造影室,手術室が一新され,HCUが新設されました.11月にはリニアックが,本年4月からはESWLが稼動しています.本館棟も順次改築に入っており,従来の6人部屋の病室はすべて4人部屋に改善されました.

国立病院機構 香川小児病院小児外科

著者: 石橋広樹

ページ範囲:P.1245 - P.1245

 当院は香川県の善通寺市にあり,弘法大師(空海)の誕生の地として有名な真言宗善通寺派の総本山で,四国霊場第75番札所の善通寺の近くに位置しています.1975年4月に国立療養所香川小児病院として,国立では東京についで全国2番目に小児医療専門施設としてスタートし,さらに2004年4月からは独立行政法人国立病院機構香川小児病院となっています.現在でも,中国・四国地区唯一の小児病院として,周産期医療,小児救急医療,成育医療を中心に小児総合医療施設(19診療科)として高度な小児医療を目指しています.また,当院は地理的に四国のほぼ中心部に位置しており,近隣のみならず愛媛県,高知県,徳島県から来院される方も多く,特に新生児は24時間体制でドクターズ・カーでの新生児搬送を行い,2003年には香川県総合周産期母子医療センターに指定されています.病床数は405床で,一般病床186床,NICU 9床,MFICU 6床,ICU 4床,重心病棟200床となっています.

 現在,小児外科は4名のスタッフで,小児外科指導医1名(徳島大学),専門医1名(徳島大学),研修医2名(鳥取大学,久留米大学)の体制で診療にあたっています.それぞれの大学の考えを持った医師の集まりで,お互いのよい点を積極的に取り入れています.外科医はチームで診療する必要があり,つねに良好な信頼関係を保つことに努めています.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・33

虫垂の病理学的検査は必要か

著者: 八尾隆史

ページ範囲:P.1247 - P.1249

【はじめに】

 外科的に切除された様々な臓器の組織学的検索は日常的に行われているが,病理組織学的検索が不要ではないかと思われる臓器が臨床から提出されることもある.これまでは,虫垂には癌やカルチノイドなどの悪性腫瘍を併存することがあるため,外科的に切除された虫垂の病理学的検索は当然のように必須であると考えられてきた.しかしながら,急性虫垂炎で虫垂切除術が施行された場合,症状や白血球値などの検査値や肉眼像などの臨床的所見で十分であり,必ずしもすべての虫垂切除材料の病理学的検査は必要ではないのではないかという意見も聞かれる.また,ほかの手術の際に肉眼的に正常な虫垂が切除される場合もしばしばあるが,少なくともこれらの虫垂の病理学的検索は不要かもしれない.そして,今日の包括医療制度においては不必要と思われることは極力省略される傾向があり,改めて切除虫垂の病理学的検査の必要性が問われている.

 本稿では,虫垂にはどのような病変が存在するか,それらの臨床病理学的意義について概説し,虫垂の病理学的検査の必要性について考えてみたい.

連載企画「外科学温故知新」によせて・5

創傷管理(2)―デブリードマン(Débridement)とは

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 わが国で創縁切除と訳されている「Débridement(フランス語の発音表記でデブリードマン,英語表記ではデブリドメント)」は「debrider」に由来しており,本来はフランス語起源の医学用語である.その語源を英々辞典で繙くと,「de」は否定を表す接頭語の「un」と同じであり,「bride」は本来は「bridle(拘束する,轡をかませる)」であることから,「débridement」はすなわち「unbridle」のことで,その意味するところは「to remove a bridle」ないし「to remove a constraint」である.ゆえに日本語では「拘束を解く,手綱を緩める,解放する」ことを表す.つまるところ,その名詞形である「débridement」が意味するのは,外科的見地からすると単に「創を開放すること」である.現在でもフランス(語圏)の外科医は「デブリードマン:débridement」という言葉の由来に忠実に「切開して締めつけを解くこと(removal of constriction by incision)」という意味で使っているようである.このことは現在においても「膿瘍を切開する」ことを「debrider un abces」すなわち「incise an abscess」と言うことからも窺える.

 その後,特に英語圏では「創を切除すること=wound excision」や「挫滅して活力のない組織を切除すること=removal of all obviously devitalized tissue, removal of nonviable tissue」という意味に変化してきて,今日一般的に理解されているような「デブリードマン」の概念が定着してきた.また今日,化学薬剤や酵素剤を用いたデブリードマンも行われるようになってきているが,最近になって,糖尿病性壊疽患者の難治性潰瘍にウジを這わせることで壊死組織を蚕食させて,創傷治癒を促進しようとする「医療用無菌ウジ療法(maggot débridement therapy:以下,MDT)」が脚光を浴びつつある.このMDTは「biodebridement」ないし「biosurgery」とも呼ばれて,その有用性から欧米諸国において「世界最小の外科医」と評価されるようになっている.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・7

Mikuliczの胃癌外科とその時代(1)―理論の始まり

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.1253 - P.1258

【Mikuliczのリンパ節を見る「まなざし」とSappeyのリンパ流研究】

 ここで言う「まなざし」とは「癌の根治の意思を念頭において“もの”を見ること」を意味します.Mikuliczは限られた術野内でどのような「まなざし」をもってリンパ節を見ていたのでしょうか.いや術中だけではありません.前回われわれはすでに,Mikuliczが肉眼癌型の重要性を把握し,それを動的に実践していたことをみてきました.術前に患者の訴えの内容を聞き腹部を触診したときから,Mikuliczの「まなざし」は胃周囲のリンパ節に注がれていたものと思います.今日われわれは,本連載第5回目に参照した103例の胃手術報告論文(1896年),本連載第6回目に挙げた1898年の外科学会講演,および1900年の外科全書中の著書によって,Mikuliczのリンパ節を見る「まなざし」を知ることができます.ほぼ2年おきの3論文からMikuliczの「まなざし」とその変化をみていきましょう.

 3つの論文はそれぞれ異なった観点からリンパ節をみています.1896年論文は,胃切除か胃腸吻合かの判断に際してのリンパ節転移の重要性を述べるもので,そこにみられる根治への意思はきわめて薄いと言わざるを得ません.したがって,リンパ節を見る目は,大彎・小彎のリンパ節と胃壁外(ausserhalb der nächsten Umgebung des Magens)のリンパ節群を見分けるだけであり,それらがただそこに存在しているだけで,互いの関連性や周囲とのつながりは考慮の外におかれていました.

臨床報告・1

腹腔鏡下胆囊摘出術後の胆汁瘻に対し,早期内視鏡的経鼻胆管ドレナージおよび間歇吸引が有効であった3例

著者: 和田伸介 ,   唐原和秀 ,   柴田智隆 ,   内田雄三

ページ範囲:P.1259 - P.1262

はじめに

 腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)は,胆石症に対する標準術式として広く普及している1).しかしながら,内鏡視下手術であるため,手術操作において開腹手術とは視野や操作性が異なることから,合併症の種類や頻度も開腹手術とは異なることが報告されている2)

 LCの合併症の1つに術後胆汁瘻が挙げられる.われわれはLC術後の胆汁瘻に対して内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:以下,ENBD)が有用であった3例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

術後経鼻持続陽圧呼吸療法を施行した重症閉塞型睡眠時無呼吸症候群併存結腸癌の1例

著者: 本間英之 ,   中村茂樹

ページ範囲:P.1263 - P.1265

はじめに

 今回,われわれは結腸癌に併存した閉塞型睡眠時無呼吸症候群を術前に診断し,経鼻持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive airway pressure:以下,NCPAP)を導入し,全身麻酔による回盲部切除後,良好に経過した症例を経験した.

 睡眠時無呼吸症候群は,睡眠中の無呼吸や低換気とともに,日中の傾眠傾向や,倦怠感,集中力の欠如などを特徴とした症候群である.40歳以上の男性に多く,有病率は男性で約4%,女性で約2%と推測され決して稀な疾患ではない1,2).また低換気による症状として低酸素血症や高炭酸ガス血症などを認める.高血圧,冠動脈疾患,脳血管障害,糖尿病などを合併することも多い3).これらの症状や合併症は全身麻酔による開腹手術後の合併症とも関連が深い.しかし,睡眠時無呼吸症候群と術周術期管理について,一般外科からの報告はほとんどない.自験例に文献的考察を加え報告する.

盲腸窩ヘルニアの1例

著者: 石川忠則 ,   松﨑圭祐 ,   三浦修 ,   岡本史樹 ,   川野豊一 ,   長崎進

ページ範囲:P.1267 - P.1270

はじめに

 内ヘルニアである盲腸窩ヘルニアはきわめて稀な疾患で,絞扼性イレウスを呈するため緊急手術を必要とすることが多いが,術前診断が困難であるため術中に正診されることが多い1).今回,われわれは盲腸窩ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

右腎周囲腔を含む多臓器に転移をきたした下行結腸癌の1例

著者: 小高雅人 ,   杉藤正典 ,   小林昭広 ,   小畠誉也 ,   矢野匡亮 ,   斉藤典男

ページ範囲:P.1271 - P.1275

はじめに

 大腸癌の転移部位としては肝や肺などが一般的であり,腎周囲腔や皮膚,膵,への転移はきわめて稀である.今回,われわれは下行結腸癌から右側腎周囲腔,皮膚,膵への転移をきたした症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Meckel憩室に発生し,CA125が高値であった小腸GISTの1例

著者: 宮平工 ,   阿嘉裕之 ,   友利健彦 ,   西原実 ,   奥島憲彦 ,   戸田隆義

ページ範囲:P.1277 - P.1281

はじめに

 GIST(gastrointestinal stromal tumor)は,平滑筋層ないし粘膜筋板のあるすべての消化管に発生する腫瘍で,近年はその分子生物学的研究によって1つの新しい疾患概念として確立されている1).また,Meckel憩室は卵黄腸管が憩室状に遺残したものであり,最もよくみられる消化管奇形の1つである2)

 今回,われわれはMeckel憩室に発生し,CA125が高値であった小腸GISTの1切除例を経験したので報告する.

Linear staplerによるfunctional end-to-end anastomosis後に吻合部再発をきたした結腸癌の2例

著者: 盛口佳宏 ,   上原圭介 ,   藤田伸 ,   山本聖一郎 ,   赤須孝之 ,   森谷冝皓

ページ範囲:P.1283 - P.1286

はじめに

 結腸癌切除後のlinear staplerを用いた機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis:以下,FEEA)はSteichen1)によって1968年に報告され,1990年代には手術手技の簡便性と手術時間の短縮効果のため欧米を中心に広く普及し,現在では標準的吻合手技として確立されている.一方,わが国では直腸癌手術と異なり,結腸癌手術では吻合器の使用が保険で認められていなかったことから,手縫いによる吻合再建が一般的であった.しかし,2000年4月に結腸癌手術に対しても4個を限度に縫合器の使用が保険で認められてから,FEEAによる吻合再建は急速に普及しつつある2).当院でも1999年から結腸癌手術の吻合にFEEAを部分的に導入し,現在では主にcircular staplerを用いるS状結腸を除き,吻合再建は原則的にFEEAで行っている.

 一方,結腸癌では直腸癌と比較して術後吻合部再発の頻度は低いが,近年,学会や論文でのFEEA後吻合部再発の報告が散見されるようになっている2,3).今回,FEEAで再建を行った結腸癌術後に吻合部再発をきたした2症例を経験したので報告する.

臨床経験

一般外科外来で遭遇する皮膚外傷に対する針・糸を用いた縫合処置

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1287 - P.1289

はじめに

 通常,一般外科外来で遭遇する皮膚外傷の処置について,従来,施行していた方法が適切ではなかったことが最近になって指摘されている.特に,傷を消毒して毎日ガーゼ交換を行う方法はむしろ生体がみずから治癒するのを妨げ,患者にも疼痛を与えているだけでメリットはまったくない.すでにこの点に関しては論文1)や書籍2)で発表され,また最近では新聞やテレビなどのマスコミにもしばしば登場するようになった3)

 本稿ではこの点には触れず,傷に対して針と糸を用いた縫合処置についての見解を最近の経験をもとに述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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