特集 癌診療に役立つ最新データ2007-2008
Ⅰ.総論
癌疫学データと外科治療の現況
著者:
田島知郎
ページ範囲:P.7 - P.30
要旨:わが国では年間の癌新患者数が約66万人と推定され,男性の2人に1人,女性の3人に1人が癌に罹患する運命で,男女あわせて1分38秒ごとに1人が癌死している.2005年(平成17年)度の総人口は1億2,776万人で年間死亡者数が108万4,012人,うち癌死亡者数が32万5,885人で,死亡総数に占める癌死の割合は30.1%であった.人口の高齢化に伴い,ほとんどの部位で癌罹患数が増加し,2020年の年間の癌新患者数は男女合計で85万人に達すると予測されている.増加が著しいのは男女とも大腸癌,肺癌で,男性では前立腺癌,女性では乳癌である.現時点での癌罹患は多い順に,男女合計では胃癌,大腸癌,肺癌,肝癌,乳癌で,男性では胃癌,大腸癌,肺癌,前立腺癌,肝癌,女性では大腸癌,乳癌,胃癌,子宮癌,肺癌の順と推測される.巷間では女性の首位が乳癌になっているが,結腸癌と直腸癌とを区分けしなければ大腸癌が第1位になる.なお,癌罹患に関して正確な数が把握されないのは,わが国には国全体の癌登録制度がないからである.
最近,手術療法は機能温存,低侵襲,切除規模縮小の傾向によって,内視鏡下あるいは内視鏡補助下手術などの適応も拡大され,また,総合的な癌治療戦略のなかに程よく収まるかたちが熟成されつつある.多くの癌手術で死亡率は1%以下であるが,数%を超える亜群もあり,慎重なアプローチが求められるものの,平均寿命が男性78.53歳,女性85.49歳と世界有数の長寿国になっているわが国では,高齢者というだけで積極的な治療方針を断念する理由にならない.5年相対生存率は1993年の診療例で50.4%と推測され,この治療成績をさらに向上させるには,院内での各専門医の協調による総合的な標準診療によって個々の患者での完遂を目標にして,癌診療の格差を減らすための診療の均てん化が大切である.また,早期癌の発見数を増やす必要があるが,これまでの癌検診は効率が悪く,受診率の増加とquality control(QC)が課題である.
死因統計で癌は1981年から全体で第1位であり,また,年齢階層別には男性では45~89歳,女性では35~84歳の年齢層で第1位になっている.最も多いのは男女あわせて肺癌の59,922人で,続いて胃癌50,562人,大腸癌40,042人,肝癌34,510人,膵癌22,260人の順である.男性では肺癌43,921名,胃癌32,851名,肝癌23,421名,大腸癌21,835名,膵癌11,933人,女性では大腸癌18,207名,胃癌17,711名,肺癌16,001名,肝癌11,089名,乳癌10,524名の順である.すなわち,男性では60歳代まで死亡の半数弱を占める消化器癌(胃癌,大腸癌,肝癌)が70歳以降ではその割合がやや減少して肺癌と前立腺癌が増加し,女性では40歳代で死亡の約半分を占める乳癌,子宮癌,卵巣癌がその後の年齢層で減少し,消化器癌(胃癌,大腸癌,肝癌)と肺癌が増加する.国を挙げての癌対策が叫ばれるなかでタバコ規制はもっと進められるべきである.最近の厚労省研究班の調査で,40歳での喫煙者の寿命は男性で3年半,女性で2年弱短いことが検証され,またWHOのデータでは両親が喫煙者の場合,乳幼児突然死症候群が10倍になる.なお,男女別の5大死因を含めて概観して注目されるのは,男性で20~44歳,女性で15~34歳の年齢層で死因第1位になっている自殺で,自殺者の数は9年連続で3万人を超えている.また,5~9歳の女児での死因第4位は他殺である.