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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻11号

2007年10月発行

雑誌目次

特集 癌診療に役立つ最新データ2007-2008 Ⅰ.総論

癌疫学データと外科治療の現況

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.7 - P.30

 要旨:わが国では年間の癌新患者数が約66万人と推定され,男性の2人に1人,女性の3人に1人が癌に罹患する運命で,男女あわせて1分38秒ごとに1人が癌死している.2005年(平成17年)度の総人口は1億2,776万人で年間死亡者数が108万4,012人,うち癌死亡者数が32万5,885人で,死亡総数に占める癌死の割合は30.1%であった.人口の高齢化に伴い,ほとんどの部位で癌罹患数が増加し,2020年の年間の癌新患者数は男女合計で85万人に達すると予測されている.増加が著しいのは男女とも大腸癌,肺癌で,男性では前立腺癌,女性では乳癌である.現時点での癌罹患は多い順に,男女合計では胃癌,大腸癌,肺癌,肝癌,乳癌で,男性では胃癌,大腸癌,肺癌,前立腺癌,肝癌,女性では大腸癌,乳癌,胃癌,子宮癌,肺癌の順と推測される.巷間では女性の首位が乳癌になっているが,結腸癌と直腸癌とを区分けしなければ大腸癌が第1位になる.なお,癌罹患に関して正確な数が把握されないのは,わが国には国全体の癌登録制度がないからである.

 最近,手術療法は機能温存,低侵襲,切除規模縮小の傾向によって,内視鏡下あるいは内視鏡補助下手術などの適応も拡大され,また,総合的な癌治療戦略のなかに程よく収まるかたちが熟成されつつある.多くの癌手術で死亡率は1%以下であるが,数%を超える亜群もあり,慎重なアプローチが求められるものの,平均寿命が男性78.53歳,女性85.49歳と世界有数の長寿国になっているわが国では,高齢者というだけで積極的な治療方針を断念する理由にならない.5年相対生存率は1993年の診療例で50.4%と推測され,この治療成績をさらに向上させるには,院内での各専門医の協調による総合的な標準診療によって個々の患者での完遂を目標にして,癌診療の格差を減らすための診療の均てん化が大切である.また,早期癌の発見数を増やす必要があるが,これまでの癌検診は効率が悪く,受診率の増加とquality control(QC)が課題である.

 死因統計で癌は1981年から全体で第1位であり,また,年齢階層別には男性では45~89歳,女性では35~84歳の年齢層で第1位になっている.最も多いのは男女あわせて肺癌の59,922人で,続いて胃癌50,562人,大腸癌40,042人,肝癌34,510人,膵癌22,260人の順である.男性では肺癌43,921名,胃癌32,851名,肝癌23,421名,大腸癌21,835名,膵癌11,933人,女性では大腸癌18,207名,胃癌17,711名,肺癌16,001名,肝癌11,089名,乳癌10,524名の順である.すなわち,男性では60歳代まで死亡の半数弱を占める消化器癌(胃癌,大腸癌,肝癌)が70歳以降ではその割合がやや減少して肺癌と前立腺癌が増加し,女性では40歳代で死亡の約半分を占める乳癌,子宮癌,卵巣癌がその後の年齢層で減少し,消化器癌(胃癌,大腸癌,肝癌)と肺癌が増加する.国を挙げての癌対策が叫ばれるなかでタバコ規制はもっと進められるべきである.最近の厚労省研究班の調査で,40歳での喫煙者の寿命は男性で3年半,女性で2年弱短いことが検証され,またWHOのデータでは両親が喫煙者の場合,乳幼児突然死症候群が10倍になる.なお,男女別の5大死因を含めて概観して注目されるのは,男性で20~44歳,女性で15~34歳の年齢層で死因第1位になっている自殺で,自殺者の数は9年連続で3万人を超えている.また,5~9歳の女児での死因第4位は他殺である.

癌治療成績の算出と解析

著者: 名川弘一

ページ範囲:P.31 - P.36

はじめに

 ここ20年ほどのパソコンの進歩と普及により,医療データの統計学的解析が容易となってきた.しかし,医学研究者にとって,その解析法の選択や意味するところ,ならびに解析結果の解釈については,必ずしも完全な理解が得られていないのが現状であろう.

 統計学の専門家を目指すのであれば,それぞれの統計解析手法について数式を用いた算出法を知っておくべきであろう.しかし,現在では便利なソフトが統計パッケージとして市販されているため,具体的な算出法よりもその統計解析の意味するところ,ならびに解釈を把握することのほうが重要である.このような背景から,本稿では医学研究者として知っておくべき統計学的事項の概念を中心に述べることとする.

 なお,統計パッケージとして市販されているものに株式会社ヒューリンクスのSYSTAT®,スタットソフトジャパン株式会社のSTATISTICA®などがある.いずれも各種検定から生存率解析まで手軽に使用できる.STATISTICA®,SYSTAT®のいずれもWindows対応である.

Ⅱ.甲状腺癌

甲状腺癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 岩崎博幸

ページ範囲:P.39 - P.46

 要旨:甲状腺癌の発生数は健康診断や集団検診などの頻度,病院での初診や手術例の頻度,剖検例での頻度によってばらつきがあるが,剖検例で10%前後,集団検診で0.4~0.88%である.組織型別の頻度では乳頭癌が92.5%,濾胞癌が4.8%,髄様癌が1.3%,未分化癌が1.4%である.2002年における頻度よりも濾胞癌の頻度が2%減少し,乳頭癌がその分増加している.分化癌ではT2N0が多く,未分化癌ではT4N1が多かった.初発症状別頻度では頸部腫瘤などの症状が認められることは1/3程度である.年間の甲状腺癌罹患数は2004年に7,888人で,男女比は1:3.80と女性に多く,年間死亡数は1,431人であった.いずれも5年前の統計より罹患数で1,000人以上,死亡数でも100人以上増加している.家族性甲状腺癌はMEN IIに代表される甲状腺髄様癌がよく研究されている.家族性甲状腺髄様癌はほとんど全例に遺伝子変異を認め,散発性の甲状腺髄様癌では約1/5の症例に変異を認める.一般的には顕性癌となる前のラテント癌や微小癌の予後がよいのは当然であるが,進行癌でも未分化癌以外は担癌状態でもかなりの生存期間が見込まれる.

甲状腺癌の診断に関する最新のデータ

著者: 杉谷巌 ,   山田恵子 ,   池永素子

ページ範囲:P.47 - P.53

 要旨:わが国において甲状腺癌全体の90%以上を占める乳頭癌の診断は超音波,細胞診により容易であり,診断率は95%を超える.CT,MRIやシンチグラフィは腺外浸潤や遠隔転移の診断にのみ有用である.転移のない被包型の濾胞癌の術前診断は困難である.髄様癌は血中カルシトニン高値により診断できるが,最近では遺伝性の診断に遺伝子検査が行われるようになってきている.未分化癌,悪性リンパ腫の診断には生検を要する場合もある.

甲状腺癌の治療に関する最新のデータ

著者: 清水一雄 ,   北川亘

ページ範囲:P.55 - P.60

 要旨:甲状腺癌は組織学的に濾胞細胞由来の分化癌(乳頭癌,濾胞癌),低分化癌,未分化癌と傍濾胞細胞由来の髄様癌に分類される.治療方法は手術療法および内分泌療法,外照射や内照射(131Iなど)による放射線療法,化学療法があり,それぞれの病理組織型や進行度によって異なる.甲状腺乳頭癌,濾胞癌,髄様癌は手術療法が第1選択となる.他方,未分化癌では手術療法は気道閉塞などを防ぐ一時的な局所コントロールとしての意味を持つにすぎず,放射線療法,化学療法が選択されるが,予後は不良である.

甲状腺癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 吉田明

ページ範囲:P.61 - P.69

 要旨:甲状腺癌の分化癌の再発を局所再発と遠隔転移再発に分けた場合,乳頭癌では局所再発が多い.局所リンパ節転移は再手術により大半が治癒するが,再発を繰り返し,遠隔転移や縦隔リンパ節再発を伴い難治性となるものも認められる.また進行した分化癌では気管や食道壁などに再発し,拡大手術が必要となることも多いが,進行が緩慢な分化癌では手術療法の有効性を直接証明することは困難である.遠隔転移再発は乳頭癌では肺転移が多く,濾胞癌では骨転移が多い.遠隔転移の治療はRI治療(131内用療法)が主体となる.肺転移はRI治療に反応するものが多く,転移巣に131I(治療量)の取り込みのみられたものは有意に生存率がよく,RI治療の著効例の10年生存率は90%以上である.骨転移の場合はRI治療の反応性が悪く,患者のQOLを上げるためには転移巣の手術や放射線外照射を併用する必要がある.既存の化学療法は無効であることが多く,分子標的阻害剤など新たな薬剤の開発が望まれる.

Ⅲ.肺癌

肺癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 坪井正博 ,   佐治久 ,   加藤治文

ページ範囲:P.73 - P.80

 要旨:わが国における肺癌死亡数は1960年以降,男女とも一貫して増加している.2004年における肺癌死亡数は男性が43,921人,女性が16,001人であり,過去40年間に男性では8.1倍,女性では6.8倍に増加した.また,人口10万対肺癌粗死亡率も1960年以降,男女とも一貫して増加し,1960年の男性7.9,女性3.2から,2004年には男性71.3,女性24.8とそれぞれ40年間で9.0倍,7.8倍に増加している.このような大幅な肺癌死亡数の増加の主要因は人口の高齢化であるが,年齢分布の影響を除外した年齢調整死亡率で比較した場合でも男性で1.6倍,女性で1.4倍になっている.一方,1990年以降,男女とも80歳以上で増加し,60~79歳で頭打ちから減少,60歳未満で増加傾向にある.わが国の肺癌は男性の70%,女性の15~25%は喫煙が原因と推定されている.肺癌死亡を減少させるには現状では自衛策として喫煙率を下げることが最も確実な手段であり,禁煙対策を徹底・推進させる必要がある.

肺癌の診断に関する最新のデータ

著者: 田中司玄文 ,   桑野博行

ページ範囲:P.81 - P.86

 要旨:肺癌の予後向上には早期発見が重要であるが,検診には効果とコスト面で問題が残る.肺癌の治療は正確な病理診断と病期診断(staging)で治療方針が決まる.治療開始前における腫瘍の質的診断,および肺門・縦隔リンパ節の質的診断がきわめて重要である.画像診断における従来の胸部単純写真やCTにPETが加わることでsensitivityは上がるが,偽陽性も増える.縦隔リンパ節の低侵襲な検査としての超音波気管支鏡(EBUS-TBNA)に期待がかかる.

肺癌の治療に関する最新のデータ

著者: 南谷佳弘 ,   小川純一

ページ範囲:P.87 - P.95

 要旨:肺癌に対する外科治療の標準術式は開胸下肺葉切除であるが,画像診断や工学系の進歩とともにStageⅠAを中心に胸腔鏡下肺葉切除や積極的縮小手術が行われるようになってきた.局所進行肺癌に対して術前導入化学(放射線)療法が試みられているが,未だ標準治療にはなっていない.術後治療に関しては放射線照射は禁忌であるが,シスプラチンベースの多剤併用化学療法やUFT経口投与は一定の効果が期待できる.

肺癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 多田弘人

ページ範囲:P.97 - P.100

 要旨:肺癌は完全切除されたとしても再発することが多い.そのため,術後に定期的検査が行われている.しかし,再発頻度が高いのは術後2年以内であり,また,病期によって再発頻度は異なる.さらに,再発部位によれば再発診断がなされても有効な治療方法がない.一般的に術後1年までは半年ごとに,その後は1年ごとに胸部CTを行うようにNCCNのガイドラインには書かれているが,エビデンスはない.少数個の脳転移に対するradiosurgeryは推奨されている.また,単発の肺腫瘤は切除可能であれば切除することが望ましい.切除不能である場合は,進行肺癌に準じた治療が行われる.緩和治療として放射線治療やレーザー・ステントによる治療が行われている.

Ⅳ.乳癌

乳癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 岡﨑邦泰 ,   森本忠興

ページ範囲:P.103 - P.108

 要旨:近年,欧米諸国での乳癌の罹患数は上昇しているが,死亡数は低下している.日本では罹患数,死亡数ともに上昇している.日本における乳癌罹患数はここ25年で3.36倍,死亡数は55年間で7.46倍となり,今後の大幅な増加が懸念される.乳癌の救命に対して検診は重要であるが,乳癌発見の動機を岡山県でみると検診で発見されたものは約20%以下で,大多数の患者は検診を利用していない.検診未受診者をいかにして受診させるかが今後の大きな課題である.乳癌の危険因子は種々のものが拳げられるが,近年の日本人女性のライフスタイルの変化が高エストロゲン環境を作り出し,乳癌発生を増加させていることが推定される.

乳癌の診断に関する最新のデータ

著者: 佐野宗明

ページ範囲:P.109 - P.115

 要旨:わが国の乳癌は着実に早期化に向かっており,小腫瘤を対象とする診断の機会が多くなってきた.各種の電子機器を駆使する診断と同時に視触診も軽視できず,つぎのステップへの指針ともなる.本稿では乳癌の診断時に必要となる各因子について日本乳癌学会の全国乳癌登録から,その頻度と成績を概説した.最新のデータとして症例頻度は2004年の集計,成績は1992年の10年粗生存率を用いた.

乳癌の治療に関する最新のデータ

著者: 緒方晴樹 ,   福田護

ページ範囲:P.117 - P.126

 要旨:乳癌の治療は局所療法(手術療法,放射線療法)と全身療法(化学療法,内分泌療法)の組み合わせで行われる.手術療法は乳房温存手術が50%まで増加している.センチネルリンパ節生検は標準治療となった.術後の補助療法に,ここ数年大きな変化があった.ホルモン感受性陽性患者に対する補助内分泌療法は閉経前ではGn-RHアナログとタモキシフェンが,閉経後ではアロマターゼ阻害剤が第1選択である.補助化学療法は術前化学療法を含むアンスラサイクリン系中心のレジメンに症例を選択してタキサン系を追加する方向にある.また,術後補助療法でのtrastuzumabの有効性が示された.

乳癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 神野浩光 ,   麻賀創太 ,   坂田道生 ,   菅家大介 ,   高橋洋子 ,   大西達也 ,   北川雄光 ,   池田正

ページ範囲:P.127 - P.136

 要旨:乳癌全体の約1/4にみられる再発において根治を求めることは困難であるが,手術や放射線,抗癌剤,ホルモン剤などによって長期の生存期間が得られることも多い.術後フォローアップの方法としてエビデンスがあるのは問診,診察およびマンモグラフィのみであるが,実際には超音波,CT,骨シンチグラム,腫瘍マーカーなどを用いることが多い.再発部位としては局所,肺,肝,骨が多く,局所および骨転移の予後は比較的良好であり,肝転移は最も予後不良である.再発に対する治療方針は個々の症例のリスク,ホルモン感受性およびHER2を検討し,QOLも考慮しながら決定する.

Ⅴ.食道癌

食道癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 畠山優一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.139 - P.143

 要旨:食道癌は他の癌に比べて症状の出現が受診動機となるため進行癌が多く,課題の多い悪性疾患である.本邦では毎年10,000人以上が罹患し,男性で約9,400人,女性で約1,700人が死亡している(男女比5.5:1).男女とも85歳以上に死亡率のピークがあり,高齢者の癌という特徴を有している.国内では秋田県,宮城県,東京都などで死亡率が高く,国際的には中国郡部で著明に多い.食道癌の発生には喫煙や頭頸部癌の既往が強く関与すると報告されている.将来的には女性で微増し,男性では増加すると試算されている.

食道癌の診断に関する最新のデータ

著者: 廣野靖夫 ,   山口明夫

ページ範囲:P.145 - P.151

 要旨:表在癌の診断には従来のX線検査や内視鏡検査に加えて超音波内視鏡(EUS)の果たす役割が大きい.また,近年広がりつつある拡大内視鏡も異型度診断や深達度診断に有用である.リンパ節転移検出には従来のCTに加えてEUSやFDG-PETの有用性が報告されており,FDG-PETは遠隔転移や術前治療の評価にも優れている.MRIは病変の局所の評価に適している.これらの検査の利点や限界を考慮し,複数の組み合わせによって診断することが大切である.「1998-1999年全国食道がん登録調査報告」では表在癌は約3割を占めるが,依然として高度進行例も多い.cT3以上は全体の半数で,StageⅣは約14%であった.

食道癌の治療に関する最新のデータ

著者: 竹内裕也 ,   才川義朗 ,   須田康一 ,   北川雄光

ページ範囲:P.153 - P.161

 要旨:早期食道癌発見率の上昇によって内視鏡的粘膜切除術の適応症例は増加している.リンパ節転移のないT1aでは深達度m2までが適応となるが,耐術能不良例などを中心にm3~sm1まで適応を拡大する試みもなされている.従来,cT1bN0例では根治手術が選択されてきたが,化学放射線療法による高いCR率が明らかとなり,今後,手術療法との比較試験の結果が注目される.T4ないしM1 Lym症例を対象に始められた化学放射線療法は,従来は外科治療が中心であったT2,T3食道癌にも適応が拡大しており,その是非に関しても臨床試験による検証が必要となろう.また今後,化学放射線療法後の腫瘍遺残,再発例に対するsalvage治療の適応決定とその臨床的意義の評価,根治性と安全性を重視したsalvage手術手技の確立などが求められる.無作為化比較試験の結果,術前化学療群の術後生存率は術後化学療群よりも有意に良好であることが明らかとなった.この結果から,今後わが国では手術療法に際し,術前化学療法が標準治療として組み込まれることが予想される.

食道癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 北村道彦 ,   斉藤礼次郎 ,   本山悟 ,   小川純一

ページ範囲:P.163 - P.167

 要旨:食道癌の再発は80~90%が2年以内に発症し,この期間の厳重なフォローアップが重要である.再発形式ではリンパ節(特に頸部・上縦隔)と遠隔臓器(肺,肝,骨,脳など)が多くを占める.再発癌の50%生存期間は6か月前後と予後は不良で,積極的治療が行われない場合は一層不良である.再発病巣切除により予後が良好な場合がある.頸部リンパ節など1領域限局再発例では放射線療法の効果がある程度期待できる.化学療法はCDDPと5-FUの併用が主流であるが,長期予後が得られる例は少ない.定期的フォローアップの徹底により,再発例の予後改善が示唆されている.

Ⅵ.胃癌

胃癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 谷川允彦

ページ範囲:P.171 - P.176

 要旨:胃癌の罹患率は男性においては第1位であり,女性では第3位に位置している.2000年のわが国における胃癌の推計罹患患者数は男女合計102,785人であり,同年の全癌罹患数の19.1%を占めていた.一方,胃癌死亡数については同年(2000年)は50,650人,2003年では49,535人であり,これは全癌死亡の16%であった.世界各国の胃癌死亡率の年次推移をみると,わが国も諸外国と同様に低下傾向を示しているが,低下の開始時期は遅く,その影響もあって現在もなお諸外国に比べて高率である.この世界的な一様な低下傾向はおそらく食生活,特に食品の保存方法が塩蔵,燻製から冷蔵や冷凍保存に変わったことにより,塩辛い食品の摂取量が減少して,逆に果物や生野菜類の摂取量が増加したことが大きく関与していると考えられている.

胃癌の診断に関する最新のデータ

著者: 下山省二 ,   上西紀夫

ページ範囲:P.177 - P.188

 要旨:2002年の本特集において,胃癌の診断・治療に関しては早期発見・早期治療の傾向があることを示したが,その後,診断面では胃癌発生のハイリスクグループの絞り込みを行い,より費用対効果を上げようとする試みと,新たな診断法の開発の知見が集積しつつある.本稿では胃癌の臨床病理学的特徴を示した文献をアップデートした.胃癌の治療成績の向上には早期胃癌の段階での診断が必要であるが,早期胃癌の治療法の選択・決定に重要な情報を提供する潰瘍(瘢痕)の存在が早期胃癌の約半数以上にみられることを念頭におきつつ診断すべきである.一方,噴門部胃癌の頻度が今後増加することが予想され,死角になりやすいこの領域を注意深く観察し診断するように努めるべきである.

胃癌の治療に関する最新のデータ

著者: 山下好人 ,   澤田鉄二 ,   大平雅一 ,   平川弘聖

ページ範囲:P.189 - P.198

 要旨:胃癌の治療はD2郭清+胃切除術が長い間標準術式として定着していた.しかし,近年では早期胃癌に対する標準的治療としてEMRが行われるようになり,ESDの登場によってさらに内視鏡的治療の適応は拡大されている.一方,早期胃癌に対する外科的治療として腹腔鏡下胃切除術などの縮小手術が開発され,急速に普及してきている.また,進行胃癌に対しては化学療法の有用性が明らかにされており,多くのレジメンが開発されるとともに,現在,第Ⅲ相試験が進行中である.このように胃癌の治療法はますます多様化している.2001年に作成され,2004年に改定された「胃癌治療ガイドライン」には現時点で推奨される治療法とその適応が示されており,日常診療上の参考になると思われる.

胃癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 荒井邦佳 ,   井上暁 ,   大村健史 ,   梅北信孝 ,   北村正次

ページ範囲:P.199 - P.206

 要旨:胃癌再発は術後2年以内が多く,再発形式は腹膜,肝,局所の順である.欧米と日本とではフォローアップにおいて相違があり,わが国ではルーチン検査の意義を認めているが,欧米では意義はないとの報告がみられている.再発に対する外科治療の多くはquality of life(QOL)改善などを目的とした姑息手術であり,現時点では外科的治療だけで根治が望める症例はきわめて稀と考えるべきである.根治的切除が可能で,かつ全身状態が良好な症例においてのみ外科的完全切除を治療の選択肢の1つと考えてよいが,多くの場合,再発治療の中心は化学療法に移っている.一方,新規薬剤を用いたregimenのphaseⅡ studyによって安全性と有用性が数多く検討されている.これまでのところ19%~74%の奏効率と8~15か月までのMSTを示しているものの,いまだ標準的な化学療法を呈示できていない.生存期間の延長においてはsecond line化学療法の意義が重要視されつつある.

Ⅶ.肝癌

肝癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 新谷隆 ,   青木武士 ,   安田大輔 ,   大平正典 ,   清水喜徳 ,   草野満夫

ページ範囲:P.209 - P.217

 要旨:第17回全国原発性肝癌追跡調査報告によると,肝癌の主要病理組織型は肝細胞癌と胆管細胞癌でそれぞれ94.2%,4.1%を占める.肝細胞癌においてはHCV抗体陽性率が69.6%,HBs抗原およびHBs抗体陽性率がそれぞれ15.5%,19.0%であり,C型肝炎に起因する肝癌が多いことにわが国の肝癌の特徴がある.本稿では,気管・気管支および肺癌,胃癌につぎ,わが国の悪性新生物死亡原因第3位に位置する原発性肝癌の疫学に関する最新のデータおよび統計を供覧する.

肝癌の診断に関する最新のデータ

著者: 波多野悦朗 ,   猪飼伊和夫 ,   上本伸二

ページ範囲:P.219 - P.225

 要旨:肝癌の診断には,主に腫瘍マーカー,CT,超音波検査が有用である.原発性肝癌のうち94.2%が肝細胞癌で,4.1%の胆管細胞癌がこれに続く.肝細胞癌は胆管細胞癌に比べ障害肝に発生するが,今後早期肝細胞癌の診断が増加するものと予想される.胆管細胞癌切除例の約4割の症例がリンパ節転移を伴っている.再発時の肝外病変として,肝細胞癌では肺,骨,リンパ節,腹膜,副腎が,胆管細胞癌ではリンパ節,肺,骨,腹膜が多い.

肝癌の治療に関する最新のデータ

著者: 青木琢 ,   今村宏 ,   國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.227 - P.243

 要旨:肝細胞癌(HCC)に対しては,肝切除,肝移植,局所療法,肝動脈化学塞栓療法(TACE)などのさまざまな治療が行われてきた.治療法を比較するrandomized controlled trial(RCT)の報告はまだ少数であるが,従来の各療法の治療成績に基づき2005年には肝癌診療ガイドラインが作成され,治療方針の指針が示された.指針に沿い,肝機能良好かつ3個までの腫瘍数であれば,現在は外科切除が第一選択の治療となっている.しかしながら,術後補助療法はいまだ確立されておらず,切除後高頻度に認められる異時性多中心性再発の問題は未解決である.HCCに対する肝移植はミラノ基準(単発5cm以下,または3個以内・各3cm以下)を満たす症例で保険適応となり,今後も増加が予想される.現状では大部分が生体肝移植であるが,脳死移植症例の普及とともに,わが国におけるHCC治療のストラテジーも移植治療の占める位置が大きい欧米の治療方針に近づいていく可能性がある.局所療法ではラジオ波焼灼療法(RFA)が主流となり,最近では長期成績の報告がみられるようになっている.

 肝内胆管癌(ICC)の発生率は近年増加傾向にある.ICCに対する唯一の根治治療は外科切除であり,切除後の成績は徐々に向上しているが,累積5年生存率はまだ32%程度であり満足できるものとはいえない.ハイリスクグループの同定,早期発見へのストラテジーの確立が求められる.

肝癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 阪本良弘 ,   島田和明 ,   江崎稔 ,   小菅智男

ページ範囲:P.245 - P.248

 要旨:肝細胞癌の肝切除治療後の5年以内の再発率は70~90%と高率であり,再発に対する治療法の選択は重要である.わが国の全国集計によれば,肝細胞癌に対する初回治療では肝切除やRFAなどの局所療法が選択される割合が65%なのに対して,再発肝癌に対してはTACEが選択される割合が60%である.しかし,腫瘍条件と肝機能条件を満たせば再発巣に対する肝切除の成績は良好であり,再発の時期や様式を考慮したうえで,TACEのみならず局所療法も積極的に行っていくべきであると考えられる.

Ⅷ.胆管癌

胆管癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 向谷充宏 ,   信岡隆幸 ,   木村康利 ,   水口徹 ,   古畑智久 ,   平田公一

ページ範囲:P.251 - P.256

 要旨:わが国における胆管癌疫学的研究についてのデータを検索し得る範囲で最新のものに更新し,その特徴を紹介した.厚生労働省の人口動態統計によれば,2004年の胆道癌死亡者数は約1万6,000人で,全悪性新生物中の5%を占めている.癌死亡数の将来予測によると,2000年の胆道癌死亡数に対する2020年のその比率は,増加率が2.16倍になると予測されている.胆管癌のリスク要因としては,膵管胆道合流異常症,原発性硬化性胆管炎が認められており,分子生物学的因子におけるリスク要因は確定されていない.これまで統計上,胆管癌とともに胆囊癌および十二指腸乳頭部癌などが一括されてきたが,今後は細分類を基礎とした統計資料の公表と分析により,疫学的研究のいっそうの進歩・発展が望まれる.

胆管癌の診断に関する最新のデータ

著者: 高畑俊一 ,   佐藤典宏 ,   渡部雅人 ,   当間宏樹 ,   中村雅史 ,   植木隆 ,   水元一博 ,   清水周次 ,   山口幸二 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.257 - P.266

 要旨:胆管癌の多くは黄疸などの症状を契機に発見される.有効なスクリーニング法がない現状では早期癌の割合は10%程度で,周囲組織および大血管への浸潤などをきたしたpT3,pT4症例が50%以上,stage Ⅲ以上が70%を占める.治療方針の決定には癌の局在診断,水平進展,垂直進展および遠隔転移の診断が重要であり多くの診断法があるが,近年では特にMDCTの進歩によりこれの果たす役割が大きくなっている.包括医療の導入もあり,肉眼形態による進展形式の違いを考慮した効率的な診断が望ましい.

胆管癌の治療に関する最新のデータ

著者: 上坂克彦 ,   二村雄次

ページ範囲:P.267 - P.271

 要旨:胆管癌に対する根治的な治療法は外科的切除のみである.このうち,中・下部胆管癌に対する標準術式は膵頭十二指腸切除であり,20~40%台の合併症率,2~3%台の在院死亡率,30%台の5年生存率が報告されている.肝門部胆管癌に対しては肝区域切除+尾状葉切除+肝外胆管切除が標準術式として行われており,従来は30~80%台の合併症率,10%前後の在院死亡率,20~30%台の5年生存率が報告されてきたが,2001年以降は0~10%以下の在院死亡率,30~40%台の5年生存率が報告されている.非切除症例に対しては減黄処置に加えて放射線治療や化学療法が行われる.

胆管癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 谷澤武久 ,   新井田達雄 ,   山本雅一

ページ範囲:P.273 - P.275

 要旨:胆管癌の再発診療と治療に関して文献的考察を中心に述べた.再発診断に関しては,CT,MRCPやPTCDなどの画像診断が普及した現在,さほど困難ではなくなったが,再発治療に関しては抗癌剤や放射線療法の有効性を示唆するevidenceとなる文献がなく,これといった標準的治療法さえも定まっていないのが現状である.今後,抗癌剤の多剤併用療法や放射線療法との併用療法などの新たな治療法の確立が望まれる.

Ⅸ.胆囊癌

胆囊癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 阿部秀樹

ページ範囲:P.279 - P.282

 要旨:女性の胆囊癌を含む胆道癌死亡率は膵癌と同程度であり,無症候性閉塞性黄疸の鑑別診断にあたって考慮しなければならない.胆囊癌検診の効率化を目的に,胆囊結石の存在自体をハイリスクグループとして規定しうるが,早期胆囊癌発見には貢献が少ない.また,無症状の胆囊結石を発見する方法は超音波検査による検診以外にない.

胆囊癌の診断に関する最新のデータ

著者: 三宅秀則 ,   和田大助 ,   小笠原卓 ,   大浦涼子 ,   山本洋太 ,   日野直樹 ,   山崎眞一 ,   惣中康秀 ,   露口勝 ,   森理保 ,   居村暁 ,   森根裕二 ,   島田光生 ,   田代征記

ページ範囲:P.283 - P.288

 要旨:胆囊癌の深達度診断法とその正診率,および進展様式・組織型の頻度を検討した.壁深達度に関しては超音波内視鏡検査が最も信頼性があると思われた.組織学的検索では乳頭腺癌と管状腺癌が大部分を占めており,tub 2以上の分化度が比較的高い癌の頻度が高かった.深達度が進むに伴い,ly,v,pn因子のすべての陽性率が高くなるが,特にly因子の陽性率が高率であった.リンパ節転移頻度も進行癌,特にse/si癌になると約7割に転移を認めた.stage別では約6割がstgae Ⅲまでの症例であった.

胆囊癌の治療に関する最新のデータ

著者: 清水宏明 ,   木村文夫 ,   吉留博之 ,   大塚將之 ,   加藤厚 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.289 - P.293

 要旨:近年,胆囊癌は術前門脈枝塞栓術の導入や血管合併切除・再建などの手術手技の向上により外科切除率は向上してきたが,その予後は他の消化器癌に比していまだ不良である.2003年に胆道癌取扱い規約(第5版)が改訂されたが,本稿では取扱い規約に基づいた胆囊癌の進行度別外科治療法とその成績を中心に最近の諸家の胆囊癌治療に関する報告について概説し,さらに胆囊癌の放射線・化学療法についても言及した.

胆囊癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 石橋敏光 ,   安田是和 ,   永井秀雄

ページ範囲:P.295 - P.299

 要旨:再発胆囊癌に関する集学的データは見当たらないため,わが国での報告例を個々に集積し,検討した.胆囊癌切除例の5年再発死亡率は全体で58%,Stage別でStageⅠ 23%,StageⅡ 47%,Stage Ⅲ 69%,Stage Ⅳ 91%と類推された.主な再発様式は肝転移,腹膜播種,リンパ節転移および局所再発で,大部分は術後1年半以内に再発するものの,晩期再発例もみられた.多くの再発胆囊癌症例の予後は悲観的であるが,再切除例,化学療法施行例に長期生存例も散見された.長期生存が期待できる症例を特定することはできないが,個々の再発症例においてこれらの抗腫瘍療法を検討することが必要である.

Ⅹ.膵癌

膵癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 徳原真 ,   寺島裕夫 ,   跡見裕

ページ範囲:P.303 - P.313

 要旨:膵癌は予後の悪い癌として知られている.わが国における推定罹患数(2000年)は20,045人(男性10,967人,女性9,078人)であり,近年の死亡者数(2005年)は22,927人(男性12,284人,女性10,643人)で,癌の死亡部位別にみると第5位となっている.罹患率,死亡数・率ともに増加傾向を認める.女性より男性に多くみられ,年齢分布では60~70歳代がピークである.初発症状は腹痛が最も多く,ほとんどが有症状で発見される.危険因子としてエビデンスがあるとされているのは,喫煙,膵癌の家族歴,遺伝性膵癌症候群,糖尿病,慢性膵炎,遺伝性膵炎などである.

膵癌の診断に関する最新のデータ

著者: 若林久男 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.315 - P.319

 要旨:日本膵臓学会膵癌登録の20年(1981~2002年)の総括によると,膵癌切除例の平均生存期間は11.7か月,5年生存率は13.4%で,管状腺癌に限ると10.7%と,膵癌は最も予後不良の消化器癌の1つである.しかし,直径2cm以下の小膵癌では5年生存率は45.8%で,やはり他臓器の癌と同様に早期発見が予後向上に重要である.また,予後規定因子として腫瘍径(2cm以下),リンパ節転移がないなどの腫瘍側因子のほかに,治癒切除や化学療法などの治療因子が重要視されており,正確な進行度,すなわち病期(staging)診断が治療方針の決定や予後推定に必須である.近年の診断機器の進歩により膵癌の診断体系も変化してきており,本稿では最近発刊されたガイドラインに沿い,診断に関するデータを紹介する.

膵癌の治療に関する最新のデータ

著者: 天野穂高 ,   浅野武秀 ,   吉田雅博 ,   三浦文彦 ,   豊田真之 ,   和田慶太 ,   加藤賢一郎 ,   高田忠敬

ページ範囲:P.321 - P.325

 要旨:今日の膵癌診療における課題としては,①膵癌の早期診断,②手術適応および適切な術式選択,③補助療法の開発などが挙げられる.2006年に膵癌診療ガイドラインが発刊され,膵癌の治療における基本的な指針が示された.外科治療では拡大手術と標準手術を比較したRCTが報告され,拡大手術の意義は少ないとされた.膵癌化学療法では2001年に塩酸ゲムシタビン(GEM)が認可され,化学療法のfirst lineとして用いられているが,術後補助療法を含めた膵癌化学療法の新たな展開が期待されている.

膵癌の再発診療に関する最新のデータ

著者: 中森正二 ,   辻江正徳 ,   宮本敦史 ,   安井昌義 ,   池永雅一 ,   宮崎道彦 ,   平尾素宏 ,   藤谷和正 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.327 - P.335

 要旨:膵癌切除例の再発率は高く,再発の診断・治療は重要であるが,いまだ標準的な診断・治療法は確立されていない.塩酸ゲムシタビンの出現以来,再発膵癌の治療の中心は塩酸ゲムシタビンであり,それを陵駕する治療薬は現れていない.再発膵癌の標準的診断法や治療のエビデンスを確立していくためには,実地臨床として施設ごとに異なった診断や治療を行って経験のみを蓄積していくよりも,多施設で共通したプロトコールに基づき大規模な臨床試験を行い,科学的根拠を作り上げていくことが必要であろう.

Ⅺ.大腸癌

大腸癌の疫学に関する最新のデータ

著者: 井上靖浩 ,   三木誓雄 ,   楠正人

ページ範囲:P.339 - P.344

 要旨:わが国の大腸癌は死亡数,罹患数とも上昇しており,死亡数では肺癌,胃癌についで癌死因の第3位(2004年)を占め,癌罹患数では胃癌についで第2位(2000年)となっている.今回,大腸癌に関する死亡・罹患の推移および現況,地域・年齢分布,初発症状別頻度,関連要因について最新の疫学統計を供覧した.

大腸癌の診断に関する最新のデータ

著者: 丸田守人 ,   佐藤美信 ,   前田耕太郎 ,   固武健二郎

ページ範囲:P.345 - P.348

 要旨:わが国の大腸癌の実態を最新のデータから,大腸癌の占拠部位別,結腸と直腸の占める比率とその変遷,早期大腸癌部位別肉眼型,大腸癌部位別病理組織学進行度,病期分類別の割合などについて述べた.

大腸癌の治療に関する最新のデータ

著者: 植竹宏之 ,   榎本雅之 ,   樋口哲郎 ,   安野正道 ,   飯田聡 ,   小林宏寿 ,   石川敏昭 ,   石黒めぐみ ,   杉原健一

ページ範囲:P.349 - P.353

 要旨:『大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版』によりわが国における大腸癌治療の基本指針が示された.大腸癌の手術は,肛門の温存などQOLを考慮した術式が増えている.5年生存率は向上しており,これは診断学の向上や手術手技の改善,術前・術後の補助療法が寄与していると考えられる.近年,早期癌に対する手術が増えており,今後は内視鏡的切除や腹腔鏡下手術の普及と増加が予測される.

Ⅻ.小児癌

小児癌に関する最新のデータ

著者: 上野滋 ,   平川均 ,   檜友也

ページ範囲:P.357 - P.372

 要旨:1985年以降,主に欧米におけるグループスタディの成果により小児癌の治療成績は著しく向上し,各小児癌に対する標準的な治療は確立されたが,なお難治例は存在する.わが国では,神経芽腫マススクリーニングはその有効性への疑問と過剰診断が明らかとなって中止される一方,治療成績の一層の向上を目指して,神経芽腫,小児肝癌,腎芽腫,横紋筋肉腫,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍に対する医師主導型のグループスタディが行われるようになった.また,患者およびその家族に対するトータル・ケアの考え方が浸透しつつあり,そのための支援活動,支援団体が増加している.

ひとやすみ・26

メタボリックシンドローム

著者: 中川国利

ページ範囲:P.69 - P.69

 現代の日本は飽食の時代であり,食べ物はいつも身近に溢れ,食する機会が多い.また,テレビを見れば「食」と「旅」が定番であり,「食」をテーマとした雑誌は本屋における最大の売れ筋でもある.しかし,人類400万年の歴史を紐解くと,つねに飢餓との戦いであった.人類は食べることに汲々とし,少ない食事摂取量でも生命を維持できるDNAを優性遺伝して受け継いできた.一方,いくら食べても太らない遺伝子は種の維持が困難なため劣性遺伝子とされてきた.しかしながら,この劣性遺伝子はいまや糖尿病や高脂血症に罹患しがたい優良遺伝子でさえある.

 そもそも人類には飢餓に備え,食べられるときに食べておく摂食行動がセッティングされている.バイキングではここぞとばかりに皿に食べ物を盛る.デパートの地下では試供品の食べ物に舌鼓みを打ち,スーパーマーケットでは目玉商品を見つけては籠に入れる.そして,賞味期限が切れそうになると,もったいないと思ってはゴミ箱代わりに口に入れる.かくしてご先祖様から受け継いだ優良遺伝子(現在の日本では不良遺伝子)の働きにより,内臓や皮下に脂肪が蓄積することになる.そして今や40歳以上の日本人の1割が糖尿病もしくは糖尿病予備軍である.

外科医局の午後・37

医者の不養生

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.243 - P.243

 昔から「医者の不養生」という言葉がある.本来,医療や医学の目的は病気を治療し,また病気の原因を研究して病める人を救うことであり,究極の目的としては人間の寿命を延ばすことであろう.医者はその最も先端にあり,一般人に指導すべき立場の人間であるから,理屈から言えば医者の平均寿命はほかの人々よりずっと長くて当然である.病気のプロであるからだ.ところが実際はその逆であり,むしろ一般人より寿命は短いらしい.理由としては過剰勤務やストレスが言われている.しかし原因はこればかりでなく,「医者の不養生」が原因ではないかということもしばしば見聞きする.

 循環器専門の医者が妙に肥満であったり,「自分のライフワークは癌」と公言している医者が3時間も手術していると「けむり,けむり!」と言ってタバコを吸いに外にあわてて出て行ったりするのを見ると,思わず首をかしげたくなる.かくいう私も妻に指摘され,恥ずかしながら,メタボリックシンドロームと闘っている.

コーヒーブレイク

患者様は神様です

著者: 板野聡

ページ範囲:P.313 - P.313

 外科医を長くやっていると,思いもよらぬことに出くわすことがあります.十分な術前検討と周到な準備をし,慎重に事を運んで予定通りにできたはずの手術でも,術後に思わぬことが起きることがあります.「運が悪い」で済むことではないにせよ,医学的にあり得ることと納得できはしますが,そんなことは落ち着いたときになって言えることで,その当事者や事が起こった直後にはそんな余裕があるはずもありません.とにかく,助かる側と助からない側の間にある高くまた極めて狭い塀の上を歩かされることとなります.

 幸いにもしばらくはそんな武勇伝(?)になるようなこともなく過ごしていましたが,災いは忘れた頃にやってきました.事の詳細は読者の皆さんの経験の程度に合わせたご想像にお任せするとして,私も狭い塀の上を歩くことになりました.事が起こった当初はまさに五里霧中.とにかく夢中で手当たり次第に知識の引き出しを開き,また足りないところを聞きまくり,とにかく「あちら」に落ちることだけを防ぎました.そのうち霧も晴れ,次第に塀の行く先が見えてきますが,はたしてこれから狭くなるのやら広がるのやら,はたまた右へ行くのか左へ行くのか,見極めが求められることとなります.落ち着くまでは,ほかの仕事中はもちろん,夢のなかでもそのことを考えており,寝ても醒めても処置や処方を考え,「よくなった」と思ったら目が醒めて夢だったということにもなります.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.376 - P.376

 今回の特集は『癌診療に役立つ最新データ2007-2008』というタイトルでお送りした.これは,いわゆるevidence-based-medicine(EBM)を実施するうえで知っておかねばならない癌診療上の最新情報の必須マニュアルに値するものであろう.特に患者さんおよびその家族の方への説明,すなわちインフォームド・コンセントを行っていくうえで欠かせない情報である.また,セカンド・オピニオンを希望する患者さんへのアドバイスにおいても担当医師はこのような最新情報を手元においておくと有用であろう. 癌診療における年々の進歩をつねに多くの領域でフォローするのは忙しい勤務医にとってはなかなか大変なことである.各領域のエキスパートが要領よくまとめてくれるこのようなデータ集は臨床医にとって大変ありがたいものであろう.

 ところで,最近は臨床医のあり方がしばしば取り上げられ,総合臨床医的なものがもてはやされているが,臨床医というのはまずは卒後しっかりと全身を診れるような総合医的なトレーニングをしたうえで各領域の専門医になり,さらにそのなかからhigh-volumeで診療するエキスパートも生まれるものである.専門医を目指していく場合にも,卒後早い時期から専門領域のみを研修して短い時間で専門医に到達させるような教育プログラムを組むことが真に適切な専門医を育てるとは考えにくい.総合臨床医と専門医を卒後の早い時期から分けて育成するような方向性も間違ったものであり,不適切な専門医を育成しかねないし,また一方,総合臨床医を目指すものにもよい環境とは言えないであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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