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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻12号

2007年11月発行

雑誌目次

特集 Up-to-Date外科医のための創傷治癒

特集に寄せて

著者: 北島政樹

ページ範囲:P.1478 - P.1479

 今回,「Up-to-Date外科医のための創傷治癒」と題して特集を組み,この分野におけるエキスパートである9名の先生方を執筆者として,創傷治癒に関連する基礎的・臨床的分野における最新の知見を綴っていただいた.

 創傷治癒研究の概念は単に外傷・手術による損傷の治癒過程の研究を意味するわけでなく,個体への内外からのストレスによる損傷を修復する巧妙な生体反応のすべてを包括し,生物の恒常性維持にかかわるきわめて重要な研究テーマである.医学分野としては外科,整形外科,形成外科,皮膚科,歯科・口腔外科,眼科など外科系臨床医に加えて,内科のすべての科,さらには基礎系の解剖学,生理学,生化学,病理学,分子生物学などをも含んだ研究内容であり,膨大な知識のもと,現在でも発展し続けている分野である.

創傷治癒の分子生物学的側面と,その臨床応用としての慢性(難治性)潰瘍治療

著者: 小野一郎

ページ範囲:P.1481 - P.1495

要旨:最近の研究で,創傷治癒の機転は増殖因子やサイトカインの制御の下,進行していることが明らかとなっている.その反面,褥瘡や下腿潰瘍,糖尿病性潰瘍で代表される皮膚の慢性(難治性)潰瘍では創傷治癒の機転が低下していることに加え,全身状態が良好でない場合が多く,外科的な治療にも困難が伴う場合が多い.そのため,辺縁からの表皮化と潰瘍底からの肉芽組織の増殖,創の収縮の機序が相俟って進行して創を閉鎖させる,いわゆる保存的治療が選択される.この場合,消毒薬や抗生物質含有軟膏などで感染を抑制し,保存的壊死組織除去術を行いながら治療する,いわゆる古典的な治療が主体であった.それに対し,前述のように創傷治癒の分子生物学的側面が明らかとなり,増殖因子製剤と創傷治癒を促進する軟膏,コラーゲンスポンジや種々の被覆材を併用して治療する治療法の導入によって比較的短時間で良好な肉芽組織で被われた創とすることができるようになってきている.このように増殖因子と種々の外用剤や被覆材,コラーゲンスポンジを併用することで短時間で良好な創底(wound bed)を形成し,辺縁からの表皮化で創を縮小させ,比較的大きな創ではover-skin graftingすることで確実・短期間に閉鎖・治癒させることも可能となってきている.本稿では,この手法を中心に創傷治癒の分子生物学的側面とその臨床応用としての慢性(難治性)潰瘍の治療法を述べる.

再生誘導バイオマテリアルと創傷治癒

著者: 田畑泰彦

ページ範囲:P.1497 - P.1506

要旨:現在の外科・内科治療においては多くのバイオマテリアルが治療に用いられ,患者の命を救っている.細胞や組織に悪い影響を与えず,体とうまく融合する性質を追い求めてきたバイオマテリアルが近年,体に積極的に働きかける機能を持つようになってきた.たとえば,細胞を呼び込み,細胞による創傷治癒を促すような3次元足場,生体シグナル因子の生物作用を増強させるドラッグデリバリーシステム(DDS),細胞の生物機能を改変する技術など,バイオマテリアルが生体組織の再生誘導治療を実現するための必要不可欠な存在になっている.本稿では創傷治癒促進の観点から再生誘導能を持つバイオマテリアルの最近の流れについて述べる.

創傷の管理

著者: 炭山嘉伸 ,   有馬陽一

ページ範囲:P.1507 - P.1514

要旨:外科の歴史は感染との闘いの歴史である.人類は消毒・滅菌による無菌法や抗菌化学療法という強力な「武器」を手にしてきたが,近年誤った使用法による弊害が指摘されている.慣習的に行われてきた,術後の創に対する毎日の消毒・ガーゼ交換といった根拠のない無駄な処置や,創の内部を消毒薬で洗うなどの創傷治癒にとって有害無益な処置は見直しが必要である.術後48時間以上が経過すれば創被覆や消毒は不要で,抜糸が終わるまでシャワーや入浴を禁止する根拠はない.縫合せずに開放されたままの創や,術後の創感染で開放ドレナージされた創の内部には生理食塩水あるいは流水での洗浄と,ウェットドレッシングを原則とする.「本来,キズは放っておいても自然に治るものだ」と認識し,正常な治癒過程を円滑に進ませるべく患者を治療・ケアするように心がけなければならない.

人工皮膚を応用した創傷治療

著者: 副島一孝 ,   野崎幹弘

ページ範囲:P.1515 - P.1520

要旨:本稿では培養手技を用いた創傷治療について概説する.創傷治療では,培養に時間のかかる自家培養表皮よりも,あらかじめ大量に培養して凍結保存して使用する同種培養表皮に利便性がある.その創傷治癒促進の機序は培養表皮が産生する様々な増殖因子によるものと考えられ,適応は外傷性分層皮膚欠損,分層皮膚採取創,難治性潰瘍などである.外傷性皮膚欠損のうち新鮮Ⅱ度熱傷に関しては,熱による真皮毛細血管の損傷を同種培養表皮によって回復させる目的で使用し,良好な結果を得ている.本学が開発した熱応答性培養皿を用いると,酵素処理することなく培養表皮の剝離・回収することが可能であり,基底膜を温存した培養表皮の作成が可能である.今後,創傷治療への応用を検討している.

皮膚の創傷治癒―熱傷創を中心に

著者: 佐々木淳一

ページ範囲:P.1521 - P.1527

要旨:熱傷創の創傷治癒過程における重要な要素として,創面の乾燥を防止して湿潤環境を維持すること,新生表皮の損傷をもたらす物理的刺激を防止すること,創感染を防止することが挙げられる.さらに,熱傷創を中心とした皮膚の創傷治癒は,その機序の面から表皮化と創収縮を分けて考える必要があり,いかに表皮化を促進して創収縮を抑制するかが質の高い創傷治癒には重要な点である.現在では湿潤環境の提供を目的に臨床の現場で多くの創傷被覆材を使用することが可能になったが,創傷治癒の機序やその複雑な過程を考えると,創傷の種類や程度によって創傷被覆材を選択するべきである.本稿で取り上げたup-to-dateな項目である湿潤環境の保持,細胞増殖因子製剤の使用,持続陰圧吸引閉鎖療法は理想的な創傷治癒環境を作り上げ,いずれも創傷治癒の質の向上に非常に有効な方策であることが明らかになりつつあり,今後のさらなる臨床応用が期待される.

消化管吻合と創傷治癒

著者: 加藤広行 ,   斉藤加奈 ,   安藤裕之 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1529 - P.1533

要旨:消化器外科領域における消化管吻合は大変重要な手術手技であり,術後縫合不全,吻合部狭窄などの術後早期の合併症や,消化管吻合に起因する摂食障害や便通障害などの長期にわたるquality of life(QOL)の低下に影響を及ぼすことがある.最適な消化管吻合法を選択・実践しなくてはならないことは周知のことであり,そのためには消化管吻合の創傷治癒過程を熟知することも必須である.近年は自動縫合器・吻合器などの手術器具の開発が著しく,様々な器械吻合が臨床の場で実施されており,手術時間の短縮などに有用であるが,その利点および欠点を十分に把握し,吻合法の手順を十分に熟知することも重要である.本稿では消化管吻合の種類,消化管吻合の創傷治癒過程,および器械吻合の実際について概説する.

血管外科と創傷治癒―重症虚血肢に対する最新の治療戦略

著者: 古森公浩

ページ範囲:P.1535 - P.1544

要旨:血管外科領域における創傷治癒と言えば,閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:以下,ASO)の重症虚血肢における虚血性潰瘍の治癒が重要である.食生活や生活様式の欧米化,ならびに高齢化によってASOが増加し,末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:以下,PAD)患者の90%以上を占め,欧米と同様にPAD=ASOと考えてよい時代となった.PADに対する治療は運動療法や薬物による内科的治療と,血行再建術として血管内治療および外科的バイパス術があり,Fontaineの分類に沿って治療方針を決定するのが原則である.FontaineⅡ度で運動療法や薬物療法で症状改善がみられず,また血管内治療の適応がなく,手術を希望する症例や,Fontaine Ⅲ,Ⅳ度の耐術可能な重症虚血肢(CLI)が外科的バイパス術の適応である.一方,血行再建術の適応とならないCLI症例に対して,近年,新しい治療法として血管新生を誘導することによって血流改善を促す血管新生療法(therapeutic angiogenesis)が試みられている.本稿では重症虚血肢に対する診断,外科的バイパス術,血管内治療,血管新生療法について解説する.

創傷治癒とsurgical site infection(SSI)

著者: 針原康 ,   小西敏郎

ページ範囲:P.1545 - P.1551

要旨:Surgical site infection(SSI)が発症すると創傷治癒は遅延し,その結果として入院期間の延長や医療費の増大をもたらし,患者の手術治療に対する満足度は著しく低下する.手術創の創傷治癒が順調に進むための条件はSSIを起こさないことである.SSIは術中の腸内細菌による汚染が原因となる場合が多いので,術野を汚染させない確実な手術操作が最も重要である.エビデンスに基づいたSSI防止対策を積極的に取り入れる必要がある.以前に行われていた皮下組織への消毒薬の塗布は創傷治癒を妨げる危険があるので行うべきではない.創感染が起こった場合には創の開放ドレナージ,デブリードマンと洗浄,タイミングのよい創の縫合閉鎖が創傷治癒のために重要である.

褥瘡の管理とNST

著者: 大村健二

ページ範囲:P.1553 - P.1558

要旨:褥瘡症例のほとんどは何らかの栄養学的問題を有する.さらに,低栄養や各種栄養素の欠乏は創傷治癒を妨げる主たる全身的因子である.したがって,褥瘡の治療に早期から栄養サポートチーム(NST)が参画する意義は大きい.NSTは褥瘡症例に対して適切な栄養アセスメントを施行し,低栄養の存在とその質的評価を行うことができる.ついで,個々の症例に適した栄養管理のプランニングを行い,至適な栄養投与量と栄養投与ルートを提案する.栄養管理中のモニタリングや合併症の対策についてもNSTは医療チームとしての威力を発揮する.さらに,褥瘡予防の観点から栄養学的リスクを有する症例へのNSTの適切な介入は効果的と考えられる.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・7

Hanging maneuverによる肝切離術

著者: 高槻光寿 ,   兼松隆之

ページ範囲:P.1469 - P.1476

はじめに

 Hanging maneuver(以下,HM)はフランスのBelghitiら1)によって2001年に発表された手術手技であり,inferior vena cava(以下,IVC)と肝の間に盲目的にテープを通すことによって,肝を授動することなく肝右葉切除を安全に行える方法として報告された.多くの肝臓外科医は目からウロコが落ちる思いをするのと同時に,「そんなことが本当に可能なのか」という疑問を抱いたはずである.やがて,肝部IVCにおいて右肝静脈と中肝静脈流入部の間には長軸方向に幅約1cmの無血管野が大多数の症例で存在することが解剖学的に検証され2,3),その有用性から肝臓外科の重要な手術手技の1つとして一般化されつつある.

米国での移植外科の現場から・2

脳死肝移植の実際

著者: 十川博

ページ範囲:P.1559 - P.1562

はじめに

 米国では,臓器移植と言えば脳死後の移植(腎移植を除く)がメインである.生体肝移植は,われわれマウントサイナイ医科大学で肝ドナーが死亡した2001年以降,かなり慎重になってしまった.また,心停止後のドナー(donor after cardiac death:DCD)を使うこともかなり日常的になってきている.

 米国では昨年,生体肝移植は287例,脳死肝移植は6,362例行われており,脳死肝移植の数は年々微増しているにもかかわらず生体肝移植の数は2001年の501例を最高に減少し,現在のレベルを維持している.米国での生体肝移植についてはのちに回を改めて述べることとし,今回は脳死肝移植について報告させていただく.

外科学温故知新・27

心臓外科(心臓移植)

著者: 川内基裕

ページ範囲:P.1563 - P.1570

はじめに

 この30年弱の間に心臓移植は終末期における心臓疾患治療の選択肢として確固たる地位を築き上げてきた.さらに,1980年代以降の心臓移植成績の向上は終末期の心不全に様々な治療の光を当て,種々の薬物療法や人工心臓などの治療法が開発されてきた.

 心臓移植には,血管吻合技術に始まる血管外科,体外循環技術,心臓外科,臓器の保存法,移植免疫抑制法などを集学的に必要とする.20世紀初頭から始まった数知れない実験や研究開発が1つずつ実を結ぶことによって心臓移植が普遍的医療の地位にたどり着いたのである.本稿では,心臓移植を成就させるに至った多くの研究者のなかから特に突出した2人を紹介するとともに,臨床心臓移植の開始と現況,さらに将来に向かう実験的研究として異種心臓移植についても言及する.

外科学温故知新・28

胆道外科―Calotの三角

著者: 山口幸二 ,   家永淳 ,   田邊麗子 ,   佐藤典宏 ,   高畑俊一 ,   当間宏樹 ,   中村雅史 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1571 - P.1574

はじめに

 「53の会」(昭和53年に医学部を卒業したのち外科医を目指したものの集まり.会長は群馬大学大学院医学研究科病態総合外科学の桑野博行教授)で本連載を行うことになり,筆者らは「胆道外科」について書かせていただくこととなった.

 最初は何から書こうかと迷っていたが,大学で肝胆膵の講義を受け持つことが多く,学生にCalotの三角を「肝下縁,胆囊管,総肝管で囲まれる三角」と教えていたし,試験問題にも出したことがある.ふとしたことから,医学史に詳しい同級生の佐藤裕先生(誠心会井上病院)より,Calotの三角は「胆囊動脈,胆囊管,総肝管で囲まれる三角」だと言われ,愕然とした.そうしたこともあり,今回は筆者なりにCalotの三角について調べ書くことで「外科学温故知新」の責務を果たしたい.

連載企画「外科学温故知新」によせて・13

医学の守護聖人:コーム・ダミアン兄弟による下肢移植伝承

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1575 - P.1577

 キリスト教,特にカトリックには様々な職業,事象や地域に(ちなみに日本の守護聖人は1549年に日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルである),それぞれにゆかりのある守護聖人(patron saint)というものが定められており,これらはキリスト教徒の伝統的な信心の表れの1つである.また,キリスト教を信仰する国々では1年365日の日ごとにその日の守護聖人が定まっており,敬虔なカトリック信者は生まれた子供の誕生日の守護聖人の名をいただいてその子の洗礼名を決めることが多い.

 医学・医療関係での守護聖人を数例挙げると,両側の乳房を抉られて殉教した聖アガタは乳房疾患や看護師の,殉教時の拷問で歯を抜かれた聖アポロニアは歯科医師の,医業を生業としていた福音教者聖ルカは医師(東京の聖路加病院はこれに由来する)の守護聖人である.そして,今回取り上げるのが外科医の守護聖人として信仰されている「聖コームとダミアン兄弟」であり(図1),彼らが行ったとされる下肢移植に関する逸話である.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・47

人工肛門は後腹膜経路が標準か

著者: 高橋孝夫 ,   杉山保幸

ページ範囲:P.1578 - P.1580

 わが国においては腹会陰式直腸切断術を施行する際,S状結腸を用いた永久的単孔式人工肛門を造設する場合には腸管を後腹膜経路(腹膜外経路)で誘導することが当然とされてきた.ところが,患者の体型や腸管の切除範囲,腸間膜の長さによっては後腹膜を通すのは容易ではなく,腸管のねじれや腸間膜の圧迫が問題になることがある.

 わが国においては直腸癌に対する腹会陰式直腸切断術あるいは人工肛門造設術に関する論文には,S状結腸永久的単孔式人工肛門を作成するとき,ほとんどといってよいほど後腹膜経路で結腸を誘導し,人工肛門を造設すると記載してある1~6).筆者らが調べ得たかぎりでは最初にこの方法を報告したのは1958年のGoligherであり,その後は欧米の教科書にも腹会陰式直腸切断術時人工肛門を造設するときには“extraperitoneal colostomy”(後腹膜経路)で造設すると記載してある7,8).筆者らも以前に指導医からS状結腸での単孔式人工肛門造設を行う場合,後腹膜経路で行うべきであるという指導を受けた.そのときの印象では,後腹膜経路で行う場合,腹膜トンネルがなかなかうまく作成できない,あるいは結腸の剝離がたくさん必要であり,手術手技が複雑で,手術経験が必要であると感じていた.また,術後ストーマ狭窄を認め,排便困難例を経験したこともあった.以上のようなことから,本稿ではこの方法が本当にgolden standardであるのかどうか検証してみる.

元外科医,スーダン奮闘記・19

医療工学技師

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1581 - P.1583

医療工学技師のスーダン招聘

 日本から2名の医療工学技師さんがスーダンに来られた.この事業は,私が大使館勤務時代から構想していたことである.日本は多くの医療機器をスーダンなどの発展途上国に寄贈しているが,そのフォローアップは十分でないとの認識があった.特にスーダンは内戦のため長い間日本からのODAが停止しており,このようなフォローアップがまったくなされていなかった状況だったからである.さらに,私には大使館勤務を終えたのち,NGOの活動として中古の医療機器をスーダンに送った経験がある.医療機器は送るだけではだめで,その使用方法や管理方法をきっちりと教えねばならない.

 その思いから,私は日本に帰った際に,医療工学技師さんにスーダンに来てもらいたいと適当な人物を探していた.ある先生から名古屋にある東海医療科学専門学校の廣浦先生を紹介され,名古屋までご挨拶とスーダン渡航のお願いをしに行ったのである.先生は1986年のチェルノブイリの原発事故ののち,医療支援でロシアに行った経験があり,ぜひともアフリカにも行って医療支援を行いたいとの思いがおありであった.そこで,今回のスーダンでの技術支援となった運びである.先生は今年になってご自身が代表を務めるNPO日本医療機器技術支援協会を設立され,スーダン渡航がその第一の活動となったのである.さらに先生は透析の専門家を連れてこられた.

病院めぐり

石心会狭山病院外科

著者: 菅野壮太郎

ページ範囲:P.1584 - P.1584

 狭山茶,狭山七夕祭り,航空自衛隊入間基地……埼玉県狭山市は東京の西側にあり,入間川と武蔵野台地で形成された人口約15万人のベッドタウンの1つです.狭山茶は今から800年前,鎌倉時代に栽培が始まり,当時から山城,大和,伊勢,駿河と並んで銘園五場に数えられていました.狭山茶は日本における経済的北限産地となっています.狭山七夕祭りは江戸時代の中頃から行われていたと言われています.現在,全国で行われている七夕祭りのなかでは,仙台に続いて歴史があるといわれています.航空自衛隊入間基地は昭和13年に旧陸軍の航空士官学校が開設された場所です.昭和48年に米国から全面返還され,平成19年にはPAC3(パトリオット)が配備されました.

 昭和62年,石心会グループはこの地に当院を開設しました.当初から医学と医療技術の進歩に対応した急性期医療を実施し得る設備を備えて出発しました.平成15年に外来部門を分離し,さやま総合クリニックを開院しました.平成16年には緩和医療ケア病床を開設し,外科のみならず癌末期の患者さんをゆったりとケアのできる病床を確保しました.現在では病床数349床を有し,狭山市,入間市を中心に所沢市,飯能市,日高市など埼玉県西部地域の約70万人を診療圏人口とする急性期医療の拠点として機能しています.

兵庫県立柏原病院外科

著者: 嶋田安秀

ページ範囲:P.1585 - P.1585

 兵庫県は行政上10の圏域に分けられています.当院は瀬戸内海と日本海の中央部に位置する丹波圏域にあり,丹波市と篠山市で構成され,人口は約12万人で,ほかの地域と比べて高齢・過疎化が顕著です.交通機関はJR福知山線柏原駅または高速舞鶴若狭道で,地名の柏原は「かいばら」と読み,古くは織田氏柏原藩の城下町です.最近の当地の話題は白亜紀前期(1億3000万年前)の篠山地層群から大型草食恐竜の関節のつながった脊椎骨化石が発見されたことで,全身骨格の発掘が期待されており,丹波市の名前が全国的にクローズアップされました.

 このような山間部の町に昭和28年,当院の前身である兵庫県立療養所柏原荘が神戸大学の関連病院として内科,外科,放射線科を標榜し,300床の結核病院として発足しました.昭和59年に現名称の総合病院となり,準三次救急病院の指定を受けました.平成5年には初期臨床研修指定病院となり,平成17年には日本医療機能評価認定を受けて地域の中核病院として急性期,救急医療を担うようになり,結核病床は使命を終えました.

臨床研究

縦隔腫瘍に対する外科的生検

著者: 櫻井裕幸 ,   宮下義啓

ページ範囲:P.1587 - P.1591

はじめに

 日常臨床において縦隔腫瘍に遭遇した際,どのような診断的アプローチが必要であるかをまず考えねばならない1).年齢や性別などの臨床情報やCTなどの非侵襲的な画像所見によって,ある程度診断することが可能な場合もあるが2),確定診断には病理学的裏づけが必要となる.その確定診断を得るための生検方法には針生検や手術的生検などによる腫瘍切開生検法や,診断・治療を兼ねて外科的に腫瘍を摘出する方法がある.境界明瞭な非浸潤性の腫瘍であれば,アプローチとして事前の生検なしに診断と治療を兼ねて手術的に切除する治療方針を立てることも可能であるが,浸潤性に発育する腫瘍に関しては,手術的切除にも過大な侵襲(大血管などの合併切除など)を要する可能性がある.また,確定診断によっては外科的切除の適応にならない疾患も想定しなくてはならず,事前の確定診断が必須である.

 今回,われわれが経験した縦隔腫瘍に対すして手術的アプローチ(生検または摘出)を行った症例を調査し,縦隔腫瘍に対する外科的生検の適応に関して臨床病理学的に検討した.

悪性腫瘍を伴った胸部・腹部大動脈瘤症例の検討

著者: 小林利彦 ,   山下克司 ,   和田英俊 ,   渡辺浩 ,   小倉廣之 ,   小西由樹子

ページ範囲:P.1593 - P.1597

はじめに

 近年の高齢化ならびに食生活の欧米化に伴い,心大血管疾患と悪性腫瘍の併存例に遭遇する機会が増えている.しかし,その治療方針に関してはいまだ統一した見解が得られていない1~11)

 今回,胸部・腹部大動脈瘤と悪性腫瘍の併存症例に関する臨床学的検討を行ったので報告する.

臨床報告・1

十二指腸印環細胞癌の1例

著者: 多田耕輔 ,   兼清信介 ,   渡辺裕策 ,   久保秀文 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.1599 - P.1601

はじめに

 十二指腸癌は稀な疾患であるが,その大部分は高分化型腺癌で印環細胞癌の報告はきわめて少ない1).今回,われわれは貧血・黄疸で発症した十二指腸印環細胞癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

経皮内視鏡的胃瘻造設後の胃結腸皮膚瘻に対して胃内視鏡下クリッピング術を行い,保存的に改善した1例

著者: 冨澤勇貴 ,   畠山元 ,   杉村好彦 ,   細井義行 ,   星川浩一 ,   旭博史

ページ範囲:P.1603 - P.1607

はじめに

 経皮内視鏡的胃瘻造設(以下,PEG)後の胃瘻カテーテル交換後に胃結腸皮膚瘻が認められた稀な症例を経験した.PEGの施行および交換時の注意すべき合併症の1つと考えられたので報告する1)

多発結腸癌を合併したvon Recklinghausen病の1例

著者: 丸山晴司 ,   森恵美子 ,   前田貴司 ,   松隈哲人 ,   松田裕之

ページ範囲:P.1609 - P.1613

はじめに

 von Recklinghausen病(以下,R病)は全身の末梢神経に発生する神経線維腫と,café au lait spotと称する皮膚の色素斑を特徴とする常染色体優性遺伝の疾患である.R病は非上皮性悪性腫瘍を比較的高頻度に合併し,上皮性腫瘍の合併は稀と考えられてきた1~3)

 今回,われわれはR病に合併した多発結腸癌の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

黄疸の消退と肝内胆管腫瘍栓を伴った末梢小型肝細胞癌の1切除例

著者: 長沼志興 ,   千々岩一男 ,   近藤千博 ,   大内田次郎 ,   永野元章 ,   長池幸樹

ページ範囲:P.1615 - P.1619

はじめに

 肝細胞癌(以下,HCC)は,しばしば門脈や肝静脈に浸潤して血管内腫瘍塞栓を形成するが,胆管内に浸潤・発育することは稀である1).HCCが胆管内に発育すると,腫瘍そのものや出血による凝血塊などで胆管を閉塞し,黄疸を併発することがある.これらの胆管内病変の診断には超音波検査(以下,US),CT,および内視鏡的逆行性胆道造影(以下,ERC)による直接造影や胆管内超音波検査(以下,IDUS)などが有用である.

 今回,肝前区域末梢に存在する比較的小さいHCC(1.4cm)を有し一過性の黄疸を示した患者で,術前のERC,IDUSによって腫瘍塞栓が右肝管根部まで長く伸びているのが観察できた切除症例を報告する.

一期的に腹腔鏡補助下に切除した横行結腸癌・胃癌重複の1例

著者: 中島真也 ,   大谷和広 ,   南史朗 ,   日高秀樹 ,   佛坂正幸 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.1621 - P.1625

はじめに

 近年は腹腔鏡下手術が普及し,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術や腹腔鏡補助下大腸切除術を行う施設が増加してきている1).今回,われわれは腹腔鏡補助下に一期的に切除し得た横行結腸癌と胃癌の同時性重複癌症例を経験したので報告する.

小腸造影検査が手術適応の決定に有効であった大網裂孔ヘルニアの1例

著者: 増子毅 ,   前田正光 ,   新妻義文 ,   石橋敦 ,   三島英行 ,   津久井一

ページ範囲:P.1627 - P.1630

はじめに

 大網裂孔ヘルニアは比較的稀ながら,これまでに200例近い報告がある1).しかし,術前診断に特異的なものはなく,手術適応の決定も容易ではない.今回,小腸造影検査で手術適応を決定し腸管切除を回避できた大網裂孔ヘルニアの手術を経験したので報告する.

外科医局の午後・38

ソフトランディング

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1520 - P.1520

 つい3か月ほど前に82歳になる叔母が亡くなった.

 幼少のときから私のことを非常にかわいがってくれた叔母で,私のなかではせいぜい50歳くらいのイメージしかない.最近はほとんど会わなかったが,1年ほど前に私の娘が京都で下宿するようになって,その準備のおり,たまたま京都に住む叔母に電話をかけた.昔ながらのやさしい声で「○○ちゃんおめでとう.ようきばりはったなあ.私は年がいって骨粗鬆症になってねえ」などととりとめのない話をした.それが結局,最後の会話になった.

書評

岡田 正,馬場忠雄,山城雄一郎(編)「新臨床栄養学」

著者: 武藤泰敏

ページ範囲:P.1544 - P.1544

 かつて,『栄養化学概論』〔芦田淳(著),養賢堂〕という名著があり,多くの人々が正しい栄養学を学ぶことができた.しかし,現在「食物や食品に含まれる栄養成分のみをテーマとするのではなく,同時に,それを受け入れる人間の側に立って考察していく」風潮が大きな支持を得つつあります.さらに,高齢者の栄養を考える時,“人間の尊厳”を重視した「人間栄養学」をめざした努力も推し進められています.

 このような視点に立った栄養学の名著が次々に上梓され,わが国に輸入されています.特に,Garrowらによる“Human Nutrition and Dietetics”(邦訳:『ヒューマン・ニュートリション―基準・食事・臨床』医歯薬出版),Allisonの“Nutrition in Medicine A Physician's Views”(邦訳:『医師のための栄養学』ダノン健康栄養普及協会)などは真に味わいのある栄養学の指導書といってよいと思います.

国立がんセンター内科レジデント(編)「がん診療レジデントマニュアル(第4版)」

著者: 石岡千加史

ページ範囲:P.1597 - P.1597

 今,日本の医療には,がんの専門医が必要です.日本人の2人に1人はがんに罹患し,3人に1人はがんで死亡する時代を迎え,不足するがん専門医の育成の必要性が社会や国に認識されるようになりました.がん薬物療法専門医,放射線腫瘍認定医,婦人科腫瘍学会専門医,がん治療認定医など学会が主導するがん治療に特化した専門医・認定医制度がスタートしたほか,早期医学教育における系統的な臨床腫瘍学講義がモデル・コアカリキュラムに取り入れられるなど,専門医を育成するための基盤整備が急ピッチで進められています.また,がん看護専門看護師やがん関連の認定看護師制度,がん専門薬剤師制度など,質の高いコメディカルのがん専門医療者の育成も軌道に乗り,将来,がん医療の標準化とその向上を支える人材養成はようやく目処が立ったところです.このような背景から,最近,全国で学会やNPO等が主催する教育セミナーや講演会が数多く開催されていることは,がん治療に携わりながら専門医を育成する立場から大変喜ばしいことです.

 本書は現場ですぐに役に立つマニュアルとして版を重ね,早10年の月日が経ちました.この間,コンパクトながら系統的にまとめられた内容が好評で,主に腫瘍内科をめざす若い研修医やレジデントに愛読されてきました.がん専門医療者に求められる知識は,各臓器別,治療法別の知識に留まらず,がんの疫学,臨床試験,がん薬物療法の基礎知識,緩和医療など臨床腫瘍学の幅広い領域にわたります.今回の第4版は,前版までの読みやすくかつ系統的な内容・書式を継承しつつも,疫学データや標準治療などを最新の内容にアップデートしたもので,腫瘍内科医はもとより,がん専門医療者をめざすすべての医師,コメディカルの入門書として大変有用だと思います.さらに若い医療者や学生を育成する指導者のための参考書としても役に立つはずです.

コーヒーブレイク

文書が文書を呼ぶ

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1558 - P.1558

 当院でも数年前からオーダリングシステムを採用し,検査や処方のオーダをコンピュータ入力で行っています.以前にも厚生労働省の肝入りで電子カルテ化の話もありはしましたが,一気にそこまで踏み切れなかったのが本音です.電子化に対する補助金目当てで導入したものの,結局それが裏目に出て経営破綻に陥った自治体病院もあるやに聞くと,これでよかったかと思ってもいます.

 ところで,オーダリングシステムを導入すれば処方箋や検査の依頼書などの紙類は要らなくなると思っていましたが,これはまったく当てが外れました.完全な電子カルテ化を行っていないからでもあるのでしょうが,カルテに貼るシールが山と出てきて,それから生ずる紙くずも膨大で,シールやインクの経費だけでも年間数百万円に及んでいます.これでは,こうしたシステムを支える資材屋さんに投資しているように思えて,なにか腑に落ちないものを感じることとなっています.

ひとやすみ・27

手術手技の習得

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1607 - P.1607

 外科医は患者さんに対して障害を与え,患部を切除したり損傷した部位を修復したりする.人体にメスを入れるだけに国のライセンスが必要であり,施行する外科医には熟達した術が要求される.

 昔から手術手技は,卓越した先輩の手技を見て盗み取るものとされてきた.しかし,いくら先輩の手術助手をしても,実際にやってみると上手くできないものである.やはり,そつなくできるためには練習が必要である.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.1636 - P.1636

 がんの診療を巡って様々な動きがある.特に,本年4月からがん対策基本法が施行され,がん診療の均てん化を含めた診療体制の整備がなされようとしている.そもそもわが国における死因の第1位はがんによるものであり,国民的関心はきわめて高く,当然ながら立法府も積極的に動くことになった.

 がん対策基本法は厚生労働省であるが,文部科学省も負けてはいない.がんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)を立ち上げた.がん診療に関する専門家の養成をどのように行うのか.文科省の意図することは,がん医療の担い手となる高度な知識・技術を持つがん専門医師およびがん医療に携わるコメディカルなど,がんに特化した医療人材の養成を行うため,大学病院などとの有機的かつ円滑な連携のもとに行われる大学院のプログラムを支援することである.質の高い専門医の養成と大学院教育のハイブリッドな組み合わせは,これこそ「法科大学院」を思わせるものであり,従来の医学部大学院ではなく,「医療(医務)大学院」を作ったほうがすっきりするような気がする.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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