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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻13号

2007年12月発行

雑誌目次

特集 膵臓外科の新たな展開

急性膵炎における外科治療の現況

著者: 杉山政則 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1649 - P.1654

要旨:急性膵炎の治療の原則は保存的治療であり,軽症膵炎(浮腫性膵炎)ではほとんどが軽快する.重症膵炎(壊死性膵炎)では臓器不全や重症感染症を伴いやすく,死亡率が高い.従来行われていた壊死性膵炎(非感染性)に対する早期手術は治療成績が不良であり,保存的集中治療が適応となる.後期にみられる感染性膵壊死はnecrosectomyの適応であり,壊死巣摘除後にドレナージ(閉鎖式持続洗浄またはopen drainage)を行う.感染性膵壊死の診断には経皮的穿刺吸引による細菌培養が有用である.膵膿瘍や症状・合併症を有する膵仮性囊胞はドレナージの適応であり,経皮的あるいは内視鏡的ドレナージが困難または無効な場合は手術的ドレナージを行う.胆石性膵炎例の胆囊結石に対しては膵炎消退後の同一入院期間中に胆囊摘出術を行う.

慢性膵炎に対する外科的治療の現況

著者: 武田和憲

ページ範囲:P.1655 - P.1660

要旨:慢性膵炎に対する治療は内視鏡的治療の進歩により大きく変化している.以前は日常生活指導や消化酵素薬投与などの保存的治療で疼痛が改善しない場合に外科的治療が選択されていた.現在では保存的治療が無効な場合には内視鏡的治療が第1選択とされ,疼痛が消失する例も多い.しかし,内視鏡的治療が困難あるいは無効例,難治性の貯留囊胞や膵性胸水・腹水,胆管狭窄,十二指腸狭窄などの合併症を伴う症例,膵癌を否定しきれない症例などに対しては依然として外科的治療が必要とされている.外科的治療による慢性膵炎の疼痛消失効果は高く,内視鏡的治療の効果が少ない場合には患者のquality of lifeや社会復帰の観点から早期に外科的治療を考慮するべきである.

IPMNの手術適応と治療成績

著者: 山口幸二 ,   家永淳 ,   堤宏介 ,   大内田研宙 ,   外園幸司 ,   田邊麗子 ,   佐藤典宏 ,   当間宏樹 ,   高畑俊一 ,   中村雅史 ,   伊藤鉄英 ,   石神康生 ,   恒吉正澄 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1661 - P.1664

要旨:膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は,腺腫より境界病変,粘膜内癌,微小浸潤癌,IPMN由来の浸潤癌へと連続する病変と考えられている.境界病変(粘膜内癌)以上が手術適応で,腺腫は経過観察とする.術前異型度診断が粘膜内癌の診断では膵頭十二指腸第2部切除や膵分節切除などの膵縮小手術の適応となる.浸潤癌の診断ではD2リンパ節郭清を伴う膵切除の適応となる.IPMNでは周辺の膵管に異型上皮の進展を認めるので,膵断端の術中迅速診断での検索は必要で,高度以上の異型上皮では追加切除の適応となる.異時性,同時性の他臓器癌や浸潤性膵管癌の併存にはIPMN診断時や経過観察などで注意する必要がある.

IPMN以外の囊胞性膵病変の手術適応と治療成績

著者: 森谷敏幸 ,   木村理

ページ範囲:P.1665 - P.1669

要旨:膵囊胞性腫瘍は病理組織学的には多種類の腫瘍に分類されている.それぞれの腫瘍において悪性度や予後に大きな差があるため術前診断が重要であり,それに則した治療を行わなければならない.本稿ではIPMN以外の囊胞性病変としてMCN(mucinous cystic neoplasm)とSCN(serous cystic neoplasm)の手術適応と治療成績について述べた.MCNは良・悪性の術前診断が困難であり,診断がつけばすべて手術適応になる.5年生存率は腺腫~非浸潤癌でほぼ100%であり,浸潤癌で約17~50%である.卵巣様間質のないもののほうが悪性度が高い.SCNはほとんどが良性と考えられており,わが国では術前に診断がつけば経過観察が可能であると考えられている.しかし,欧米では切除の傾向が強く,また悪性例の報告もあることから,今後は経過観察の妥当性を検討していく必要がある.なお,SCNは3亜型に分類されている.Microcystic typeは典型的な蜂巣状の画像を呈し,術前診断が可能と思われる.Macrocystic typeはMCNとの鑑別が難しい場合は手術適応になる.Solid typeはislet cell carcinomaとの鑑別が困難な場合は手術適応となる.完全切除ができれば術後生存率はほぼ100%に近い.

膵内分泌腫瘍の手術適応と治療成績

著者: 土井隆一郎 ,   塚田俊彦

ページ範囲:P.1671 - P.1676

要旨:症候性消化管膵内分泌腫瘍は症状治療のために切除手術が必要であり,遠隔転移が存在しても減量手術によって治療効果が期待できる.非症候性腫瘍の場合,WHO分類のwell-differentiated neuroendocrine tumorであっても十二指腸腫瘍で直径1cm以上,膵腫瘍で2cm以上であれば悪性の可能性が高いことを考慮すると,時期を逃さず切除を考慮する必要がある.

膵癌の手術適応の変遷

著者: 杉本博行 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.1677 - P.1682

要旨:膵癌は難治性の癌で,外科切除のみが唯一長期生存が期待できる治療法とされてきた.1898年にCodivillaが施行した手術が今日の膵頭十二指腸切除術(以下,PD)の原型とされており,膵頭部癌に対する最初のPDは1937年にBrunschwigにより行われた.その後,膵頭部癌に対する術式として確立したが切除成績は不良であり,切除術そのものを否定する報告もみられた.1973年にFortnerがregional pancreatectomyを報告し,拡大手術による根治性追求の時代へと変遷した.これらの術式の確立により膵癌切除率は向上したが成績は依然不良であり,20世紀末にはQOLを重視した術式へと変遷した.近年では画像診断の進歩や有効な化学療法の開発に伴い,過不足なく安全な切除を行ってすみやかに補助療法を開始することが重要とされ,外科切除は長期生存を得るための唯一の治療法ではなく,集学的治療の中心として重要な位置を占めている.

門脈浸潤膵癌の手術適応と治療成績

著者: 宮崎勝 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   野沢聡志 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   須田浩介 ,   高屋敷吏 ,   高野重紹

ページ範囲:P.1683 - P.1689

要旨:浸潤性膵管癌の門脈浸潤例に対する外科切除の適応については,近年その外科切除および血行再建手技の確立によって安全性が確立されてきたことを踏まえて治療成績に向上がみられてきている.そのため,必ずしも非切除とすべきでないといった報告も多くみられるようになってきている.もちろん,門脈浸潤をきたした症例すべてが切除適応になるわけではなく,どのような症例が積極的な門脈合併切除再建にて予後の改善が期待できるのかを明らかにする必要がある.われわれの施設におけるT3,M0ステージの膵頭部癌の外科切除例99例において,門脈切除51例と門脈非切除48例の成績を比較検討した.門脈合併切除は術後合併症の増加をきたすことなく安全に施行でき,予後向上に寄与し得ることが示唆された.ただし,根治切除が期待できる症例においてその適応とするのが望ましく,かつ術後adjuvant chemotherapyの投与がその有効性を確保し得るものとなるといえる.

動脈浸潤膵癌の手術適応と治療成績

著者: 佐川憲明 ,   近藤哲 ,   平野聡 ,   市村龍之介 ,   橋田秀明 ,   鈴置真人 ,   鈴木温 ,   七戸俊明 ,   田中栄一

ページ範囲:P.1691 - P.1696

要旨:局所進行膵癌は早期から動脈周囲神経叢に浸潤し,非切除とされることがある.膵体尾部癌においては総肝動脈,腹腔動脈浸潤があっても腹腔動脈合併切除,尾側膵切除で切除可能な症例がある.術前にIVRの手技で総肝動脈塞栓術を行い,上腸間膜動脈から肝臓への血流に変更し,肝虚血による臓器障害を予防している.自験例の手術成績からは,根治切除率,安全性の高い手術が可能であった.難治性癌性疼痛も完全に取り除くことができ,QOLも満足な状態に維持されている.長期成績に関して,Stage Ⅳbの症例に対しては予後不良であるが,stage Ⅲ症例に対しては良好な成績が得られている.今後,動脈浸潤がない症例に適応を拡大し,長期成績を明らかにしていく必要があると考えている.

膵癌術前化学療法の意義

著者: 林和彦 ,   羽鳥隆 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1697 - P.1701

要旨:膵癌は診断時にすでに手術不能な高度進行癌が多く,非常に予後不良な疾患である.唯一手術のみが根治の可能性のある治療法だが,切除可能と思われるような症例でも顕在化しない微小転移巣を有することが多い.治療成績向上のためには手術や放射線治療などの局所治療に加えて全身治療である化学療法に期待が寄せられているが,いまだ膵癌の術前化学療法に関してはRCTによるエビデンスがなく,その有用性は明らかではない.術後のRCTで予後延長効果がみられたgemcitabineや新規薬剤であるTS-1®などを基幹薬剤とした術前化学療法のRCTを早期に施行すべきである.

膵癌術後補助療法の意義―化学療法

著者: 清水泰博 ,   佐野力 ,   安藤公隆 ,   山雄健次 ,   澤木明 ,   水野伸匡 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1703 - P.1707

要旨:膵癌治癒切除症例に対する術後補助化学療法の有用性を検証した無作為化比較試験(RCT)および現在進行中のRCTについて概説した.これまで術後補助化学療法の有効性については明確なエビデンスがなく,また標準治療法も存在しなかった.最近報告されたCONKO-001の結果では,塩酸ゲムシタビン(GEM)による術後補助療法で無病生存期間の延長が確認され,GEMによる術後補助療法はコンセンサスが得られつつある.しかしながら生存期間の延長は統計学的有意差を認めておらず,術後生存に関する術後補助療法の意義は今後報告される他のRCTの結果を併せて検討すべきであろう.

膵癌に対する補助療法の意義―放射線治療

著者: 馬屋原博 ,   伊藤芳紀 ,   小菅智男

ページ範囲:P.1709 - P.1718

要旨:切除可能膵癌の治療成績向上のため,臨床試験としてさまざまなスケジュールや総線量,同時併用化学療法を用いた術後化学放射線療法が試みられてきた.しかしながらその有用性を検証する無作為化比較試験は少ないうえ,その結果に関しても解釈が分かれており,コンセンサスの得られた標準的治療はまだ存在しない.従来の5-FU併用術後化学放射線療法の成績は満足すべきものではなく,近年では他の化学療法を加えた術後化学放射線療法やgemcitabine単独による術後化学療法,gemcitabine同時併用術後化学放射線療法が試みられている.本稿では最新の報告までを踏まえ,膵癌切除術後の放射線治療の意義を考察する.

膵臓移植の最近の動向

著者: 剣持敬

ページ範囲:P.1719 - P.1726

要旨:膵臓移植は1967年に米国で臨床例が開始され,現在では23,000例以上が施行されている.わが国では臓器移植法の施行後,40例の脳死・心停止膵臓移植,12例の生体膵臓移植が施行されている.膵臓移植の成績は,最近は他の臓器移植と同等に良好である.わが国では膵臓移植を移植施設+National Teamで行い,40例に死亡例はなく良好な成績を得ている.脳死ドナー不足を背景に,当院では生体膵腎同時移植(SPK)を7例に施行した.ドナーは合併症もなく退院し,レシピエントは全例インスリン離脱が可能であった.膵島移植は成績が向上し,わが国でも臨床で開始された.全例で低血糖発作の消失・減少,血糖の安定化が得られ膵島移植の有効性が臨床的に示されたが,長期成績の改善が必須である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・8

腹腔鏡下肝切除術

著者: 寺本研一 ,   落合高徳 ,   川村徹 ,   高松督 ,   工藤篤 ,   中村典明 ,   伊東浩次 ,   田中真二 ,   有井滋樹

ページ範囲:P.1641 - P.1647

はじめに

 われわれは1997年から腹腔鏡下肝切除術を臨床に導入してきた1).本術式は低侵襲であり,肝機能の比較的悪い患者にも適応できると考えている.本術式の適応となる肝腫瘍は限られているが,われわれの施設で肝細胞癌に限って言えば切除全症例の約10%を占めている.

 本稿では,その手術手技の詳細を述べる.

外科学温故知新・29

心臓外科(弁膜症)

著者: 三澤吉雄

ページ範囲:P.1729 - P.1734

1 はじめに

 Gibbonによる人工心肺装置の開発後,はじめて開心術が成功裏に臨床応用されたのは1953年のことである.それ以前の弁膜症の外科治療は人工心肺装置を使用せずに行われていたことは言うまでもない.そもそも心臓は神聖な臓器とされ,ヒトが外科的に治療すべきではないとされていた.やがて心臓にも外科的な治療が可能であることが臨床上確認されると,その臨床応用は徐々に拡大した.弁疾患の病理学的な研究や心臓外傷の外科治療が有効であることが証明された点などから,弁膜症のなかでも僧帽弁狭窄症などの外科治療については19世紀末から外科的治療の可能性が論じられていた.臨床応用が開始されてからは人工心肺装置の開発,人工弁の開発,病態の解明,手術手技の開発・向上などから,今日の弁膜症外科治療に至るまで大きく様変わりしてきている.

 本稿では主として後天性弁膜症に的を絞って話を進める.

連載企画「外科学温故知新」によせて・14

腹腔鏡の開発と実用化に関わったKellingとJacobeaus

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1735 - P.1738

 ドイツ・ドレスデンの外科医ゲオルグ・ケリング(Georg Kelling:1866~1945年:図1)は1901年にハンブルグでの学会において,イヌを用いた実験に基づき「腹腔内に濾過した空気を送り込んで腹腔内を覗き見る」という新しい内視鏡検査のアイデアを発表した.ついで,翌年の1902年にミュンヘン医事週報誌(Munch Med Wochenschr 1:21-24, 1902)上に「Ueber Oesophagoskopie, Gastroskopie und Kölioskopie」と題した論文が掲載された1).このときから腹腔鏡(Kölioskopie)という言葉が医学界に登場することになった.

 今日「腹腔鏡」と訳されている「laparoscopy」はスウェーデンのヤコビウス(Hans Christian Jacobaeus:1879~1937年:図2)によって名付けられたものであるが2,3),「laparo」の意味するところは「(たるんで柔らかい)脇腹」ないし「腰」である.Kellingは「おなか(腹)」を表す言葉が「koilia」であることから,「腹の中を覗き見る内視鏡」ということを表すために「Kölioskopie」(ケリオスコピー)と呼んだのである1,4).ただし,歴史的には1911年にヤコビウスが実際に人間の胸腔内疾患や腹腔内疾患の診療に臨床応用してこれを「laparoskopie=laparoscopy」と呼んで発表したことから,「ラパロスコピー」イコール「腹腔鏡」に定着していった5).ヤコビウスは主に胸部疾患の胸腔鏡的診療を推進していった医師であり6,7),ステッドマン医学大辞典においては,胸膜癒着を胸腔鏡下に電気焼灼で剝離する手術を「Jacobaeus's operation」という冠名で呼ぶと記述されている.

元外科医,スーダン奮闘記・20

中古救急車

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1739 - P.1741

草の根リサイクル無償

 日本の外務省の援助スキームのなかに「草の根リサイクル無償」というのがある.日本で十分に使用されて廃棄処分になるものを途上国に寄贈する制度である.私が大使館に勤務していた時代には,この制度を利用して2台の中古救急車をイブン・シーナ病院に寄贈した.

 その経験から,私が巡回診療を始めた際に,日本から中古救急車をもらえたらよいと考えていた.今から2年前のことである.私は外務省へと向かった.通常では2年間の活動実績を経ないと外務省への助成金を申請できない.しかし,外務省の担当官は私の活動をとてもよく理解してくれ,私が直接申請はできないが,日本外交協会を助成金の受け皿とし,申請はスーダンの地方政府(ガダーレフ州政府)から行えば問題はないと言われ,大変ありがたく感じて外務省を後にした.そしてスーダンへと渡ってガダーレフ州保健大臣と協議を行い,私の団体のロシナンテスはまだ申請できないので,ガダーレフ州からロシナンテスと協同して救急車を使用するという計画で日本外交協会に申請するように依頼した.保健大臣とは懇意の仲で,快く引き受けてもらった.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・48

小児虫垂炎に夜間手術は必要か

著者: 廣瀬龍一郎

ページ範囲:P.1742 - P.1743

【小児虫垂炎手術のタイミングについての固定観念】
 急性虫垂炎は小児の急性腹症の原因として最も手術頻度が高い疾患である.従来,外科医の常識としては,小児の虫垂壁は薄く病変の進行が速くて穿孔しやすいうえ,大網の発達が十分でなく汎発性腹膜炎になりやすいなどの理由から,虫垂炎が疑われる場合は「できるだけ早く」,「夜中でも」,「緊急に」手術すべきであるとされてきた.ところが実際の現場では手術室や麻酔,人員のセッティングのための待機時間を余儀なくされる.その長さは施設によって大きな違いがあり,定期手術の終了まで数時間から半日近くを待機させられることもある.また,夜間の緊急手術は病院スタッフの睡眠を妨げ,生活を損ない,有限である医療資源の疲弊を助長するという社会的な観点からも,虫垂切除術を夜中でも行うべきかどうかは大きな問題である.はたして,小児の虫垂炎は真夜中に大急ぎで手術しなければならないのだろうか.

病院めぐり

綾部市立病院外科

著者: 鴻巣寛

ページ範囲:P.1744 - P.1744

 綾部市は京都駅から山陰特急に乗ること約1時間,京都府北部の丹波と呼ばれる地域にあります.人口は約4万人で,四季折々に美しく様変わりする山並み,ゆったりと流れる由良川,心なごむ田園風景など豊かな自然に恵まれた大変静かな街です.

 平成2年8月に地域住民が長年待ち望んでいた市立病院が誕生しました.いわゆる第3セクターの財団法人綾部市医療公社が管理・運営する新しいタイプの自治体立病院です.「患者さま本位の医療を」という病院理念に基づき,プライマリケアとしての救急医療はもちろん専門的医療や高度先進医療に至るまで,地域の中核病院としての使命を担い大きく発展してきました.急性期型の病院ですが,無医地区公設診療所への医師派遣や訪問看護ステーションの併設,また老人保健施設や地域医師会との連携を行い,地域に根ざした病院として親しまれています.病床数は一般206床で18診療科を有し,常勤医師数は36名,研修医が4名です.平成18年度の1日平均患者数は外来620人,入院185人です.時間外受診患者数は10,301人で,救急車搬入件数は1,246人と近年,急速に増大しています.また,手術件数が1,782件,分娩件数が410件と,ベッド数の割に手術・分娩件数が多いのが特徴です.

市立福知山市民病院外科

著者: 趙秀之

ページ範囲:P.1745 - P.1745

 福知山市は京都府北部に位置し,京都市から北西に約80kmの距離にあります.大江山をはじめとする山々に囲まれた盆地の中心に位置し,中央を流れる由良川が日本海に続いています.市の中心部には明智光秀ゆかりの福知山城が町のシンボルとしてそびえています.

 当院の歴史は古く,今から109年前,明治31年の陸軍衛戌病院としての創設に遡ります.陸軍病院として役割を終えたのち,昭和20年に厚生省に移管されて国立福知山病院となり,平成5年には国から福知山市に経営移譲され,病床数300床,診療科18科で開設されました.その後,医療の進歩や病棟の老朽化に伴い,新病院として全面改築工事が行われ,平成18年6月には電子カルテシステムを含む新病院での診療が開始されました.平成19年6月には駐車場などの周辺整備も終了し,グランドオープンを迎えたばかりです.

臨床報告・1

冠動脈バイパス術および腹部大動脈瘤手術を施行した特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の1例

著者: 岩橋和彦 ,   趙千佳 ,   岩崎倫明 ,   神田裕史

ページ範囲:P.1747 - P.1750

はじめに

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)患者においては,出血に対する危惧からmajor surgeryは敬遠されがちであり,特に心大血管手術は出血傾向となりやすいためにその報告は少ない.

 今回,われわれはITP患者において狭心症に対し冠動脈バイパス術を施行し,ついで腹部大動脈瘤に対し人工血管置換術を行って良好な結果を得たので報告する.

乳腺matrix-producing carcinoma(基質産生癌)の1例

著者: 上沖修三 ,   及川公生 ,   星野彰 ,   玉橋信彰

ページ範囲:P.1751 - P.1756

はじめに

 乳腺matrix-producing carcinoma(MPC)はWargotzら1)によって提唱されたきわめて稀な病型であるが,今回その1例を経験したので報告する.

左鎖骨上リンパ節に単独再発した胸部下部早期(m3)食道癌の1例

著者: 大久保涼子 ,   矢島和人 ,   武者信行 ,   木戸知紀 ,   坪野俊広 ,   酒井靖夫

ページ範囲:P.1757 - P.1760

はじめに

 食道癌は局所浸潤の早期の段階からリンパ節転移が発生し,深達度がm3であっても10%程度のリンパ節転移を認める1).しかしながら,通常リンパ節転移部位は原発部位の近傍リンパ節であり,原発部位から遠隔のリンパ節に単独で転移をきたすことは稀である.

 今回,われわれは胸部下部早期食道癌の根治切除後に左鎖骨上リンパ節に単独再発した1治療例を経験したので報告する.

Gastrointestinal stromal tumorと術前診断した胃glomus腫瘍の腹腔鏡補助下1切除例

著者: 鬼頭靖 ,   神谷里明 ,   山中秀高 ,   松永宏之 ,   川井覚 ,   松崎安孝

ページ範囲:P.1761 - P.1764

はじめに

 Glomus腫瘍は四肢末端の皮下に発生する腫瘍であるが,胃に発生するものは比較的稀である1)

 今回,われわれはgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)と術前診断し,腹腔鏡補助下胃部分切除術をした胃glomus腫瘍の1例を経験したので報告する.

鼠径ヘルニアに伴う続発性大網捻転症の1例

著者: 池添清彦 ,   小林知恵 ,   川口晃 ,   佐野晴夫 ,   長谷川正人

ページ範囲:P.1765 - P.1768

はじめに

 大網捻転症は比較的稀な疾患で,特異的な症状もなく術前診断が困難とされている1,2).しかし,昨今のCT検査の普及と画質の向上,また本疾患に対する認知度が高くなったことによって術前診断が可能となってきた.

 今回,われわれは右鼠径ヘルニアに続発する大網捻転症を腹部CT検査で診断し開腹手術した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

右傍十二指腸ヘルニアの1例

著者: 谷口和樹 ,   大野玲 ,   吉田謙 ,   上田吉宏 ,   石丸神矢 ,   石田孝雄

ページ範囲:P.1769 - P.1771

はじめに

 内ヘルニアはイレウスをきたす稀な疾患であり,その頻度は全イレウスの0.2~0.9%とされている1,2).内ヘルニアのなかで傍十二指腸ヘルニアはほぼ半数を占めるといわれている3).本疾患はイレウス症状を呈することが多いとされているが診断に苦慮することも多く,急性腹症にて緊急手術となり術中に診断されることもある.

 今回,われわれは右傍十二指腸ヘルニアを経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大腸内視鏡にて診断し得た限局型悪性腹膜中皮腫の1例

著者: 白潟義晴 ,   篠原尚 ,   佐々木直也 ,   澤田尚 ,   福山学 ,   水野恵文

ページ範囲:P.1773 - P.1776

はじめに

 腹膜悪性中皮腫は腹膜の漿膜上皮由来の比較的稀な疾患である1).報告例の多くはびまん型であり,外科的切除が可能な限局型のものは少ない2,3).今回われわれは術前に大腸内視鏡で診断でき,外科的切除が可能であった限局型悪性腹膜中皮腫の1切除例を経験したので報告する.

手術手技

重症肥満に対する腹腔鏡下袖状胃切除術

著者: 笠間和典 ,   金平永二 ,   梅沢昭子 ,   黒崎哲也 ,   大城崇司 ,   黒川良望

ページ範囲:P.1777 - P.1782

はじめに

 近代社会における肥満・超過体重人口の増加は著しく,全世界で17億人が肥満(BMI>25)の状態と考えられている1).肥満大国である米国では約2/3がBMI 25以上であり,約半数がBMI 30以上といわれている2).これら肥満人口の増加は2型糖尿病,高脂血症,高血圧,睡眠時無呼吸,心疾患,喘息,関節炎,ある種の癌,うつ病などの肥満に起因する合併症の増加をもたらしている3).これらの合併疾患により世界中で毎年250万人以上が死亡していると考えられている4).しかしながら残念なことに,食事療法に代表される内科的治療は,長期的にみれば無効に終わることが多い.また,薬物療法も現在のところ肥満患者,特に重度肥満患者に真に有効といえるものはない5,6)

 1991年に米国国立衛生研究所(NIH)が病的肥満に対する外科治療のガイドラインを作成した7).NIHにより定められた手術適応はBMI 40以上,またはBMI 35以上かつ肥満に起因する合併症をもつ者とされている.アジアでは,アジア太平洋肥満外科学会(APBSS)がアジア人に対して①BMI 37以上,または②BMI 32以上で糖尿病をもつ者,あるいは肥満に起因する疾病を2つ以上もつ者,という適応を出している8).アジア人は欧米人に比して低い肥満度でも合併疾患を生じやすいため,合併疾患を治療するという観点から出された指針である.近年,わが国でも肥満患者の増加は著しく,それに伴い糖尿病などの肥満に起因する合併症も増加している9)

 世界中で最も多く行われている肥満外科治療は胃バイパス術であり,腹腔鏡下胃バイパス術は最も高い対肥満効果が期待できるが,腹腔鏡下手術のなかで最も高い技術が必要とされる手術ともいわれており,手術リスクも高くなる.そのため,リスク回避のために超重症肥満などに対して腹腔鏡下袖状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)を行うことも推奨され始めている.

 今回,われわれはハイリスク肥満患者を中心にLSGを7例施行したので,その手術手技を中心に報告する.なお,当手術は当院の倫理委員会の承認を得て,十分なインフォームド・コンセントを行ったのちに施行している.

 本術式の適応は,先に述べたアジア太平洋肥満外科学会(APBSS)で定められた①BMI 37以上 または②BMI 32以上で糖尿病をもつ者,あるいは肥満に起因する疾病を2つ以上もつ者という適応基準に則って行っている.

ひとやすみ・28

神から与えられた体

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1647 - P.1647

 両親から生を受け,私は存在する.そして,健康な体を与えてくれたことに感謝している.しかし,体も長い間使用していると,車と同じくいたるところに故障が生じるようになった.

 持って生まれた能力(機械では性能)によって人間は活躍することができる.運動機能が優れていれば運動会では注目され,プロとしても活躍できる.姿格好がよければ異性から好意を寄せられ,モデルにもなれる.さらに画才があれば画家に,文学的表現が豊かであれば作家に,音楽的素質があれば音楽家として活躍できる.しかし,与えられた能力が開花するためには,各人が自分の能力を自覚し,能力を磨くべく努力し,そして能力を発揮できる機会に出会う必要がある.

書評

徳田 安春,岸本 暢将,森 雅紀(著)「メディカルポケットカード プライマリケア」

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.1654 - P.1654

 アメリカの研修医はアンチョコが大好きである.サンフォードガイドやワシントンマニュアルに代表されるマニュアル類.VINDICATE-P,CAGE,PECOといったアクロニム(頭字語).「A型肝炎だけがウイルス性肝炎でspiking feverを起こす」,なんていう含蓄に満ちたメディカルパール(箴言).そしてPalm PilotなどのPDA.アメリカの研修医のポケットにはたくさんの知識の元が詰まっている.

 ポケットカードも彼らのお気に入りの1つである.1枚のカードの表裏にびっしりと情報が記してあり,その科をローテートしているときにポケットに携えておけば,パッと取り出してさっと読める.破れないし,濡れても大丈夫.ちょっと長めで,少しポケットからはみ出すくらいの方が取り出しやすい.と,効能の多いポケットカードであるが,ついに日本でもデビューである.それが,「メディカルポケットカードプライマリケア」である.

J. W. Rohen,横地 千仭,E. Lutjen-Drecoll(著)「解剖学カラーアトラス 第6版」

著者: 松村讓兒

ページ範囲:P.1784 - P.1784

 本書は1985年を初版とする解剖学カラーアトラスの第6版である.実に23年もの間,人体解剖学を学ぶ人たちの傍らで人体構造の道案内を果たしてきたことになる.一般には「ローエン・横地」と呼ばれる本書がいかに多くの学徒に受け入れられてきたかは「医・歯学生の間で単にアトラスといえば本書を指す」ということからも知ることができる.

 本書はイラストや細密画による解剖学図譜ではなく,写真アトラスの範疇に属する.周知の通り,写真アトラスの優劣は写真自体の精度もさることながら,もとになる剖出標本の質と種類に依存するため,標本作成技術とその保存管理がきわめて重要である.その点からみれば本書は単なるアトラスではなく,きわめて質の高い人体剖出標本の存在を世に知らしめるアーカイブということができよう.将来にわたってかくも繊細に剖出された人体標本を一堂に提示することは不可能であるといっても過言ではない.

コーヒーブレイク

夜と朝の狭間

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1756 - P.1756

 私たちのような民間の病院では,毎晩の当直や休日の日直を役職に関係なく交代で受け持つこととなります.そんなに何度も起こされることはないとはいえ,やはり50歳を越えての当直は結構きついものです.

 ある夜の当直のことです.夕食を終えてデスクワークを済ませ,詰め所で入院患者さんの報告を受けたのち,明日に備えて早々に布団に潜り込みました.最近は眠ることが私の健康法とばかりに,寝られるときには寝ることに決めていますが,疲れに誘われてすぐに眠りにつくことができました.ところで,私は若い頃から(名前のせいか)耳には自信があり,電話のコールがあると2回目には電話に出ることできるのが自慢です.そうは言っても,やはり当直の夜は眠りが浅いという証しなのかもしれません.

外科医局の午後・39

運命の1球

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1772 - P.1772

 早くも年末を迎えるが,今年の夏は猛暑であった.甲子園の高校野球大会を思い出すと,つい昨日のことのようである.決勝戦では8回の裏に満塁逆転ホームランという劇的で信じられないようなことが起こって決着した.しかしよく見ると,その前に運命の1球が投じられていた.1アウト満塁,1-3から投じられた真ん中低めの球がボールと判定されて押し出し四球となり,その後,次打者にほぼ真ん中の球を逆転満塁ホームランされたのである.私もテレビを観ていて,思わずあれはストライクだろうと思った(テレビではストライクに見えるが,すぐ後ろの審判側からはボールであったという話も伝わっている).

 しかし,話はこれからである.「高校野球では試合後に負けたチームの監督が審判の判定に文句をつけてはいけないないことはわかっている.選手にもそういう教育をしてきた.しかし,自分は馘になってもかまわない,あえて言う.あれがボールなら投げる球はど真ん中しかない」と猛抗議をしたという話であり,それが当然報道され,賛否両論が起こった.負けたチームの選手や監督にとってはあれほど苦しい練習をし,やっとここまで苦労をして勝ち上がってきて,納得のいかない判定によって栄光の目前で打ち砕かれてしまった.これほど理不尽なことはないであろう.しかし,ここで少し考えて欲しい.高校野球は生活のためにしているのではない.あくまで教育ということを考えると,あれほどの最高の教育現場はなかったのではないだろうか.

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あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.1788 - P.1788

 本誌のあとがきを初めて書くに当たって,編集室から過去の見本が送られてきたので数編読ませていただいた.経験談あり,雑感あり,社会情勢あり,専門的な話あり,テーマはいろいろだが皆すばらしい文章である.いや,正確に言うならすばらしい文章に思える.若い後輩への教訓,これからの医療への提言,もっと広く人間としての在り方への示唆など,いずれも主張があり,説得力がある.

 もちろん以前,編集委員という立場になかったときも読んではいたが,毎号欠かさずというわけではなく,自分の執筆した論文が掲載されたときなどに何気なく目を通す程度である.今執筆する立場になって,その気で読んでみると初めてこれは大変な仕事だと思い知らされた.とてもこんな立派な文章は書けない.テーマはいくつか頭に浮かぶが今ひとつ決めかねる.どれも先人の書いたものに思える.こんなことなら何も参考にしないほうがよかった.かくして,最も安易に本号の特集に関連して,「膵臓外科」と「新たな展開」をキーワードにして筆を執ることにした.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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