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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

特集 外科領域におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

食道外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 宇田川晴司 ,   堤謙二 ,   木ノ下義宏 ,   上野正紀 ,   峯真司 ,   江原一尚

ページ範囲:P.169 - P.173

要旨:食道癌治療には,食道癌手術の合併症の発生率の高さ,手術関連死亡率の高さ,術後QOLの障害の大きさ,多様な治療方法の存在とエビデンスの欠如などの特徴があり,生命予後としての治療成績のみをもって手術方針を決定することが一概に妥当とは言えず,また異なった治療戦略間の成績の比較もきわめて困難である.そのため,ほかの疾患にも増してインフォームド・コンセントの重要性が高い.本稿ではこれら各点について概説を加え,さらに当院におけるインフォームド・コンセントの取得手順,セカンドオピニオンに対する対応,医療安全に対する基本姿勢などを示した.

胃外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 中根恭司 ,   井上健太郎 ,   道浦拓 ,   桜本和人 ,   神原達也 ,   中井宏治 ,   山道啓吾

ページ範囲:P.175 - P.179

要旨:近年,医療事故訴訟は急増していると言われ,その背景には医療の高度化や複雑化,医療現場の多忙化,危険管理の不備,さらに患者・家族の権利意識の向上などがあると指摘されている.胃癌治療ガイドラインの出現により,医療者側とっては標準的治療の説明や実践が容易となり,また患者・家族側にとっても透明度が増し自己決定がしやすくなった.十分なインフォームド・コンセントに基づいた治療は,患者・家族の積極的な協力が得られ,よりよい医療環境の構築が可能となり,より安全で質の高い医療が達成できるものと考える.

大腸外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 斉田芳久 ,   長尾二郎 ,   中村寧 ,   榎本俊行 ,   金井亮太 ,   中村陽一 ,   片桐美和 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.181 - P.186

要旨:外科手術は適切な医療を行っていても一定の確率で合併症が発生する.そのため,医療安全上と患者選択権行使のための情報提供の意味合いからも十分なインフォームド・コンセント(以下,IC)は不可欠である.当科ではICに,手術説明書,手術同意承諾書,輸血同意書,大腸癌術前用小冊子を作成して使用している.医療スタッフの同席のもと,IC所要時間は40分以上にするように指導している.アプローチ法の選択に関するICについては,各種エビデンスのある論文を参照した小冊子を用意して患者への十分な情報提供とともにICを行っている.できるだけ理解しやすい材料を用意しながら,患者個々の情報量と理解力を的確に把握しつつICを行うことが肝要である.

肝臓外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 井上和人 ,   高山忠利 ,   木村友紀 ,   山崎慎太郎 ,   森口正倫 ,   檜垣時夫

ページ範囲:P.187 - P.192

要旨:肝臓外科のインフォームド・コンセントは,複雑な疾患・治療概念を分かりやすく説明することが最も重要なポイントである.特に肝移植では,レシピエントだけでなくドナーの家族にも参加を促し,面談の機会を3回以上つくり,説明には文書を渡し,説明から同意の間には適切なインターバルをおく.治療の選択基準はガイドラインに従う.得意でない治療法や当該施設で不可能な治療法も等しく説明し,状況によっては他施設に紹介する.従来に比べ安全となったが侵襲は大きく危険性が高いため,治療後の合併症の説明も慎重に行う.医療安全のためには,技術集積性を高めプロトコールやクリニカルパスを用いたリスク回避策を積極的に導入することが肝要である.

胆道外科(胆囊摘出術)におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 吉利賢治 ,   吉川達也

ページ範囲:P.193 - P.199

要旨:胆囊摘出術は胆道外科で最も基本的かつ容易な術式であり,近年は腹腔鏡下胆囊摘出述が主流だが,胆道損傷などの合併症に陥る危険性もあり十分なインフォームド・コンセントのもと施行すべきである.胆石症,胆囊腺筋症,急性胆囊炎,胆囊ポリープなどが適応症だが,無症候例や癌の予防的適応の意義は低い.胆管結石治療は,開腹,腹腔鏡,そのほかの処置を組み合わせ選択されている.胆囊摘出術のおもな合併症は術中胆道損傷,消化管損傷,出血,肺塞栓症などであり,それぞれ術前の病態,解剖の把握と予防対策を行い,手術操作上および術後管理上の留意が重要である.術前のインフォームド・コンセントは,診断,病態,手術の必要性,治療法の選択肢,合併症について簡潔明瞭に行い,患者側が同意のうえ選択すべきである.合併症発生時には迅速な説明対応をすべきである.

膵臓外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 山崎将人 ,   安田秀喜 ,   幸田圭史 ,   手塚徹 ,   小杉千弘 ,   杉本真樹 ,   済陽義久 ,   大瀧怜子 ,   仲秀司

ページ範囲:P.201 - P.206

要旨:社会的変化のなかで,医師が最適と考える治療を推薦する時代から患者がインフォームド・コンセント(以下,IC)ののちに治療法を選択する(自己決定権)時代になった.質の高いICと医療安全対策は必要不可欠であるが,問題点も多い.膵臓外科におけるICの注意点としては,術前質的診断に迷う症例が存在すること,術後に致命的合併症があること,予後が不良であることが挙げられ,注意を払う必要がある.一方,医療安全対策を順調に進めるためにはスタッフ間での協力や意識の共感,一致した思いが重要である.多くの対策がとられているが,その実効性に対する検証も必要であろう.

乳腺外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 大野真司 ,   秦陽子 ,   内田陽子 ,   山口博志 ,   石田真弓 ,   中村吉昭 ,   片岡明美 ,   小野菊世 ,   阿比留衣子 ,   大島彰

ページ範囲:P.207 - P.212

要旨:これからの医療として,生物学的側面のみならず,心理的・社会的・倫理的・経済的側面を含めた「病を患う患者をまるごと診る」全人的医療が注目されている.この全人的医療の根幹をなすものは,良好なコミュニケーションによる患者と医療者の信頼関係にほかならない.インフォームド・コンセントは信頼関係を構築する出発点であるが,一方で医療側と患者・家族側の双方にとって安全な医療が遂行されるうえでの重要な柱となる.

呼吸器外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 佐治久 ,   加藤治文

ページ範囲:P.213 - P.218

要旨:呼吸器外科領域で最も代表的な疾患は原発性肺癌であり,その罹患率は過去20年にわたり増加の一途をたどっている.根治的治療である外科手術に関しては,現在わが国では年間30,000件以上が行われていると推測される.そのつど,患者とわれわれ呼吸器外科医は多大なるリスクに直面しており,その有効なリスクマネジメントの確立はわれわれ外科医のコミュニティーだけの問題ではなく,社会的にも喫緊の課題であると言える.本稿では,最も重要な対策の1つである術前インフォームド・コンセントの詳細と,さらに医療事故予防と予測の観点から,当教室で実際に行われている術前,術中,術後の患者安全管理を紹介しつつ述べる.

心臓血管外科におけるインフォームド・コンセントと医療安全対策

著者: 許俊鋭

ページ範囲:P.219 - P.224

要旨:インフォームド・コンセント(以下,IC)で説明する短期・長期の心臓血管外科の手術成績はあくまで平均であり,個々の症例のリスクを十分説明するものではないし,手術結果がよくなかった場合の言い訳にもならない.必要なことは,それまでの治療歴も含めて十分に検討したうえで手術治療の選択を患者・家族にしてもらい,治療法の選択における自己責任を十分に認識してもらうことである.医事紛争を回避するには,ICを繰り返すことによって手術死亡や合併症による後遺症の可能性を十二分に理解してもらったうえで手術することが唯一の方法である.しかし,それでもなお患者や家族が手術結果に不満を持った場合にICが免罪符にならないことをわれわれは銘記すべきである.逆にICが不十分な場合は,不十分なICを理由に訴訟となり得る.ICが十分に行われたとしてもマスメディアを巻き込んだ医事紛争を回避する決定的手段に何らなり得ないのが今日の日本の嘆かわしい現状である.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・14

縦隔腫瘍

著者: 田中司玄文 ,   佐野孝昭 ,   八巻英 ,   斉藤加奈 ,   桑野博行

ページ範囲:P.158 - P.164

はじめに

 縦隔は胸壁と両胸腔に囲まれ,心大血管,気管,横隔神経,迷走神経などが密集している.マクロ所見が得られるのは開胸や胸腔鏡,縦隔鏡などの機会に限られる.最近は内視鏡下手術の普及によって,手術開始時にまず胸腔鏡で観察することが多い.

 本稿では,縦隔病変,特に縦隔腫瘍について,術前の画像診断と術中の胸腔鏡所見から得られる情報と切除標本の実際との比較について概説した.

病院めぐり

宮城県立こども病院外科

著者: 田中拡

ページ範囲:P.226 - P.226

 当院は平成15年11月に開院しました.16年4月,17年4月と段階的に診療科を整備してフルオープンし,現在に至っています.仙台市にありながら緑豊かな仙台市郊外に位置しており,静かな環境です.病床数は160床,21診療科(非常勤を含む)を有しており,外科は9床のベッド数で,現在は院長を含めた4人で診療にあたっています.外科に関しては開院当初から診療を行っており,平成16年度の外来新患数は186人,再来患者数は1,089人,入院患者数は222人に及びます.

 平成17年度の外科手術件数は259件で,新生児手術は32件となっています.主な内容は,正中頸囊胞根治術3件,喉頭気管分離術3例,先天性食道閉鎖症手術1例,腹腔鏡下噴門形成術13例,先天性十二指腸閉鎖症根治手術2例,ラムステッド手術4例,先天性空腸閉鎖症根治術1例,腹腔鏡下虫垂切除術12例,ヒルシュスプルング病に対する手術3例,直腸肛門奇形に対する手術4例,横隔膜ヘルニア修復術3例,胆道閉鎖症根治術3例,鼠径ヘルニア修復術91件などバラエティに富んでいるのが特徴的です.また,内視鏡下手術も積極的に行っており,腹腔鏡下手術は33件,胸腔鏡下手術は3件行われました.

茨城西南医療センター病院外科

著者: 小川功

ページ範囲:P.227 - P.227

 茨城県西部で関東平野のほぼ中心に位置し,埼玉,千葉,栃木それぞれの県境に近い茨城県猿島郡境町に本院はあります.境町はかつて利根川と江戸川の水運で栄え,現在でも往事の面影を残す商業の町です.また,古くは坂東武者の祖,平将門が新皇と称して駆け巡った土地柄のせいか,気骨あふれる人が多いようです.

 本院は終戦間もない昭和21年に組合病院として開設され,昭和23年に茨城県厚生連に移管されて現在に至っています.平成12年4月には大学付属病院以外では全国初の都市部以外での救命救急センター(第3次救急医療施設)の認可,平成13年11月には日本医療機能評価機構の認定,平成15年10月には臨床研修指定病院の指定も受けました.現在,一般病床323床,感染病床2床の計325床を有し,診療科は精神科を除く全科を標榜しています.平成17年度の1日平均外来患者数は1,062人,1日平均入院患者数は291人で,平均在院日数は13.0日でした.常勤医師は52名で,外科医は5名です.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・38

半抜糸(間抜糸)は必要か

著者: 鎌倉達郎 ,   松下博明

ページ範囲:P.229 - P.231

 皮膚縫合は外科手術に必要不可欠な手技であり,外傷や手術などによって離開した創縁をきちんと接着させることを目的としている.皮膚表面が非吸収性の糸で縫合されれば抜糸が必要になるが,この抜糸という手技に関しては,その時期や抜く本数において各施設,医師の信念(?)などによって若干の違いがあると思われる.時期に関しては「抜糸はなぜ7日目か」で報告したが1),抜く本数については全抜糸,半抜糸(間抜糸)がある.そのなかでも,半抜糸が本当に必要かを外科に携わっている医師ならば一度は考えたことがあるかもしれない.本稿では,あらためて半抜糸の意義について考えてみたので,何かの参考にしていただければ幸いである.

 筆者自身の記憶では,外科の研修医時代に手術後の患者は2日に分けて半分ずつ抜糸していた.そのころは「半抜糸しておいて」という先輩医師の言葉に従い,何も考えずに半抜糸をしていた.その後,一般外科における手術において形成外科的な縫合法を取り入れるようになったため,半抜糸することは少なくなったが,半抜糸がなくなったわけではなかった.糖尿病に併発した足壊疽の下腿切断や皮弁,筋皮弁などを起こしてその皮膚が血行不良(阻血,鬱血)になった場合など早めに半抜糸を行うこともあった.美容外科領域での診療を主とするようになってからは患者の質が変化したため,半抜糸することはなくなり,ほとんどは全抜糸をしてテープ固定を行っている.

元外科医,スーダン奮闘記・10

11月,日本

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.233 - P.235

看護学生に感心

 前回,帰国した際に久留米大学医学部看護学科で講義を行った.その直後,何人かの学生さんが「私もスーダンに行きたい」と言ってきた.一見してチャラチャラした感じの女学生であった.私はある程度,来る者拒まずの精神であるが,事務局の者などは,このような格好,態度の学生がスーダンに来るとかえって迷惑になるのではとまで考えたようである.何人かの希望があったが,両親まで説得してスーダンに来ることができたのは1人であった.事務局の不安は消えないままであったが,スーダンでは驚くほどの順応性を見せてくれた.基本的に,女性の訪問は,男性ばかりのロシナンテスの棲家ではなく,ホームステイ先を選んで滞在してもらっている.ホームステイ先の家族ともうまく暮らしていた.現場での勉強も少しさせた.

 彼女が帰国したのち,大学の学園祭に私を呼んでくれた.彼女が前座で話をして,そのあとに私が講演を行った.企画も彼女を中心に行っており,こちらでは何の手伝いもしてないのにポスター展示も行っていた.驚いたことに,私の次の日の講演はかの有名な中村哲先生であり,講演会場,ポスター展示ともに私と並列に扱われており,大変恐縮した.講演会後は大勢の友達を連れて募金活動を行ってくれた.私自身も募金のお願いをして回ったが,自分のことなのに妙に照れくさかった.彼女は,来年には英国で看護修行を行うことを望んでいるらしく,担当の教授もスーダン行き前後で人が変わったようであると述べていた.スーダンの場を踏み台にして大きく羽ばたいてもらいたいと私も望んでいる.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・12

1910年前後から1930年代まで(1)―欧米での展開

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.237 - P.247

【世界史の流れと胃癌外科の流れ】

 胃癌外科におけるリンパ節郭清の展開の軌跡をたどる本連載も,1881年のBillrothの胃癌胃切除から30年を経た1910年前後までたどり着きました.この間,Mikuliczのリンパ節を見る「まなざし」に基調をおいて諸事項を考えてきましたが,絶えず,いつ誰がこの「まなざし」を超えることができるかに焦点を当ててきました.しかしながら,1910年前後まではMikuliczの「まなざし」(これを仮にMikuliczの郭清体系と呼んでおきます)は広く実践に生かされることはあっても,これが超えられることはありませんでした.

 本章からはつぎの30数年間(1940年代まで)を追っていくのですが,この間を概観してみてもMikuliczの郭清体系にはまったく揺るぎがなく,これが連綿と引き継がれていることが分かります.ということは1940年代までの30年間の胃癌リンパ節郭清に関しては,Mikuliczの郭清体系の普及という意味での量的広まりはあっても,癌根治を指向してリンパ節を見る「まなざし」を深め,郭清の実践を深めていくという意味での質的変化はみられていません

外科学温故知新・17

胃癌外科

著者: 太田惠一朗

ページ範囲:P.249 - P.253

1 はじめに

 論語には,「故きを温ねて新しきを知る,もって師となるべし」とある.師(指導者)となるべき必須条件に古典を学ぶことと歴史を学ぶことの重要性を説いているのである.胃癌の外科治療の歴史を知り1),現況を素直に反省し,将来の道しるべとしたい.

連載企画「外科学温故知新」によせて・10

器械吻合の発展史

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.255 - P.258

 本誌の第61巻6号(2006年6月号,808~809頁)でゼンメルワイスの事績について書いた際(本コラム「手術管理・感染対策―産褥熱の制圧に挑んだSemmelweisの悲劇」1)),文末に「ブダペストを訪れる機会があれば,是非ともゼンメルワイス医学史博物館に足を伸ばしてほしい」という一節を入れたが,ひょんなことから筆者自身が中欧(チェコ,オーストリア,ハンガリー)に旅行することになった.

 さて,「日本において最も有名なハンガリー人外科医は誰か?」といえば,ペッツ胃腸吻合器にその名を残すペッツ(Aladár von Petz)であろう.また,以前に外国のある外科学雑誌で,ブダペストの王宮の近くにあるゼンメルワイス医学史博物館(Semmelweis Orvostörténeti Múzeum)にペッツを中心にした器械吻合の変遷がわかる展示があることを見かけたことがあったので,ブダペストを訪れることがあれば是非とも見学しようと考えていたところであった.そして,本年の9月にこの博物館を訪れた際に運よくこの展示コーナーを撮影することができたので,今回はHültlとPetzの顕彰コーナーの紹介を含めて,器械吻合の発展過程を述べる.

臨床研究

術後創感染症の管理に関するエビデンス

著者: 堀野敬 ,   木村正美 ,   西村卓祐 ,   松下弘雄 ,   平田貴文 ,   川田康誠

ページ範囲:P.259 - P.262

はじめに

 術後合併症のなかで最も頻度の高い創感染症の対策がコスト削減の面からも重要視されている.米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)が1999年に発表した「手術部位感染防止ガイドライン」は手術部位感染を防止するために数多くの文献のエビデンスから導かれたガイドラインであり,わが国でもこのガイドラインに準じて外科臨床における感染制御の手法が経験的なものからエビデンスに基づいた対策へと大きく変革するに至った.

 創感染とは,手術創と手術操作が直接及ぶ部位(切開創,臓器,体腔)における感染であり,CDCで定義されている手術部位感染(surgical site infection;以下,SSI)がこれに該当する1).SSIの発生率は各サーベイランスの報告で特に消化器系手術に高いことが指摘されており2),一般外科手術でも最も症例数の多い消化器外科手術後の感染創対策が急務と思われる.CDC勧告に基づき術前剃毛の廃止,鼻腔MRSA監視培養の実施,禁煙徹底,術前シャワー浴の奨励などの創感染予防対策は各施設で積極的に導入され,ランダム化比較試験(randomized controlled trial;以下,RCT)での結果報告も多いが,実際に術後感染が生じた場合(特に創離開にまで至った場合)の創管理や創処置法に関しての文献をエビデンスレベルに基づき考察した報告はない.術後創感染症対策として感染創の管理や処置に関する論文からエビデンスを解析し,治療方針を導きだすことが本研究の目的である.

臨床報告・1

遊離空腸採取後の吻合部を先進部とする腸重積の1例

著者: 川崎健太郎 ,   黒田大介 ,   白川幸代 ,   山本将士 ,   神垣隆 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.263 - P.266

はじめに

 腸重積のほとんどは幼少期に発症し,成人発症例は全腸重積の4~16%で比較的稀とされる1).成人の発症原因の80%は腫瘍,憩室,炎症などの器質的疾患であるが2),稀に術後の吻合部が原因になることがあり,成人腸重積の1.2~4.0%と報告されている3)

 今回,遊離空腸採取後の空腸空腸吻合部を先進部とする腸重積を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

副腎に接して後腹膜に存在した異所性膵solid-pseudopapillary tumorの1例

著者: 加茂直子 ,   丸橋和弘

ページ範囲:P.267 - P.270

はじめに

 膵のsolid-pseudopapillary tumor(以下,SPT)は若年女性に発症する比較的稀な疾患である1).また,異所性膵組織は消化管壁内に偶然発見されることが多いが,肝臓や胆道系に関係なく後腹膜腔内,特に副腎近傍に発生することはきわめて少ない.今回,われわれはSPTとして発見された後腹膜異所性膵を経験したので,若干の文献的考察を交えて報告する.

側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor:LST)様の形態を呈した回腸早期癌の1例

著者: 福岡秀敏 ,   竹下浩明 ,   澤井照光 ,   安武亨 ,   永安武 ,   安倍邦子

ページ範囲:P.271 - P.273

はじめに

 丈の低い隆起性病変で側方への発育を主体とした腫瘍径10mm以上の病変は側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor;以下,LST)として総称されている1).今回,われわれは回腸末端部に発生したLST様の形態を呈した回腸早期癌の1例を経験したので報告する.

原発性大網膿瘍の1例

著者: 小高雅人 ,   川村明廣 ,   岡上豊猛 ,   山本拓

ページ範囲:P.275 - P.277

はじめに

 胆囊炎や大腸憩室炎など腹腔内の感染が原因で生じる大網膿瘍はしばしば経験するところであるが1),本症例のように腹腔内に原因となり得る感染を認めない原発性大網膿瘍はきわめて稀である.今回,われわれは原発性大網膿瘍を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Implantationが原因と考えられた胃癌再発に対して再手術を施行して根治できた1例

著者: 松田俊太郎 ,   米井彰洋 ,   河野文彰 ,   種子田優司 ,   市成秀樹 ,   峯一彦

ページ範囲:P.279 - P.281

はじめに

 横行結腸狭窄による便秘と皮下腫瘤を主訴として精査加療を行った結果,4年6か月前に手術した胃癌の局所再発が原因と考えられた稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

臨床経験

MDCTによる非閉塞性腸間膜梗塞症(NOMI)の早期診断

著者: 光吉明 ,   小濵和貴 ,   竹山治 ,   新藏信彦 ,   財間正純

ページ範囲:P.283 - P.288

はじめに

 非閉塞性腸間膜梗塞症(non-occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)では治療開始のわずかな遅れが致命的な結果となる.早期診断と早期治療がきわめて重要であるがその初期症状は不明瞭で特徴的なものはなく,診断がついた頃にはしばしば非可逆的な病状へ進展していることが多い1~3).NOMIを疑った時点で腹部造影multidetector-row CT(以下,MDCT)を施行し,主幹動脈の3次元画像およびその異常所見を得ることにより早期の確定診断,治療の開始が可能となり,良好な治療成績を収めつつあるので報告する.

ひとやすみ・17

手術での格言

著者: 中川国利

ページ範囲:P.199 - P.199

 外科における最大のイベントは手術である.多くのスタッフと協調しながら,的確にそして迅速に手術を完遂するために,種々の格言が生まれる.

 まず,手術に臨む態度としては,「腹が減っては戦はできない.食事を摂り,トイレを済まし,手術に集中できる体勢を整えておく必要がある.自分の健康のためにも暴飲暴食は控えるべし」.「慣れた手術でも解剖学書や手術書を紐解くと,新たな知識が得られることがある.はじめて手術に臨んだときの初心を,忘れてはいけない」.「手術は外科医が行うアートであり,単に知識だけではなく技術やセンスも要求される.常日頃から手技の習熟に努め,他人の手術を見学し,そして術前にはイメージトレーニングしておく必要がある.備えよつねに,日々の研鑽を忘れるな」.

書評

大野博司(著)「感染症入門レクチャーノーツ」

著者: 松村理司

ページ範囲:P.236 - P.236

 卒後2年目の研修医の大野博司君が,私の前任地の市立舞鶴市民病院を訪ねてきたのは,2002年の夏であった.“大リーガー医”の見学のためである.医学生時代に,来日中であったカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の一般内科の泰斗であるローレンス・ティアニー先生の鑑別診断力に接し,痺れてしまったとの由であった.「心臓外科医の道は辞めました.ともかくティアニー先生に追いつき,追い越したい」との青雲の志も耳にした.

 そのときに大野君は,ティアニー先生共著の『Essentials of Diagnosis & Treatment』を持ち合わせていたが,それへの実にびっしりとした書き込みを覗いた私は,彼の「医学書読破力」を確信した.「書く力」は未知数だったが,2003年春に舞鶴に異動してきた彼は,書く機会も欲しいという.私たちの共著『診察エッセンシャルズ』(日経メディカル開発)の骨子は,その後の約半年に及ぶ大野君の不眠不休の持続力に負うところが大きいが,「医学書執筆力」もかなりは実証されたといえる.「スーパーレジデント」の呼び声は,偽りではなかったようだ.

コーヒーブレイク

ガンダム医師達よ,どこへ行く?

著者: 板野聡

ページ範囲:P.248 - P.248

 先日出席した大学の同窓会でのことです.卒後30年近くにもなり,それぞれ開業したり地域の基幹病院での院長職に就いたりとその立場は色々でしたが,そこではそうした社会的な立場を取り払った学生時代そのままの会話が飛び交いました.そして,話題は次第に現在の医療情勢,とりわけ平成16年春から始まった新臨床研修制度の問題になっていきました.このことは,その問題が現在の指導的立場にある医師達にとって最大の関心事である証だと思われましたが,それぞれ立場は違っても,一様に「この制度には困っている」と意見が一致することになりました.

 そうした議論のなかで,病院に勤務する1人から,「新しい研修医はガンダム化している」という考えが披露されました.「ガンダム」とはアニメに出てくるロボット戦士ですが,今の若い研修医達は,「この病院ではこのパーツを身につける.つぎのパーツは別の病院で」という風に,「自分が身につけたい技術をいろいろな病院を渡り歩くことで身につけていこうとしている」というもので,いずれはパーツが揃って一人前のガンダム医師が完成するという心積もりのようです.

外科医局の午後・28

臓器移植

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.266 - P.266

 北朝鮮核実験のニュースにやや隠れた感じはするが,昨年,わが国における腎移植手術で臓器売買が発覚し,臓器提供者および受容者がともに臓器移植法違反の疑いで逮捕された.移植を担当した医師は腎移植手術のカリスマで,手術の承諾書を取っていなかったと批判を受けている.また一時は,暗に臓器売買に関与したのではないかと疑われた.本来,生体腎移植は親族間だけと定められているが,これはあくまで患者の申告であり,今回のように提供者が患者の「妻の妹」と言われれば,信じざるを得ないであろう.生体移植は医師も患者もお互いの信頼関係と提供者の「善意」によって成り立つ医療である.あくまで人間の「性善説」を前提にしており,疑いだすと,とてもこの種の医療は成り立たない.

 しかし,これはあくまで建前論である.「移植医療」は単純でなない.移植後進国と言われたわが国で臓器移植法が制定され,生体の移植手術が再開されてから,それほど多くの日は経過していない.提供臓器の圧倒的な数不足は当初から指摘されていた.実際,腎移植でも移植希望者が腎臓に恵まれる確率は1/70程度らしく,これでは別の方法を考えねばほぼ無理ということである.小児の移植をアメリカやオーストラリアで受けるため,多くの寄付を集めて外国人の臓器を移植される(ある意味,金銭で買う)のは自国の臓器を他国の人が金銭で買ったとも受け取られ,臓器売買の「金銭授受」と倫理的にどの程度変わりがあるかはいささか疑問である.

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あとがき

著者: 北島政樹

ページ範囲:P.296 - P.296

 最近は国内,国際学会の数も増え,以前は年末年始などは学会開催はなかったが,今では時期にお構いもなく開催される.11月の初旬にローマで国際センチネルリンパ節学会が開催されたが,何と会長は94歳,乳腺外科医と同時に元イタリア厚生大臣のB教授であった.前回は2年前に私が会長として横浜で開催したが,気合を入れて準備をしたわれわれの学会に比べて,今回の学会は規模や内容をとってみても多少愕然とした面もあった.理事会で次々回の会長として指名を受けたが,自分はすでに一度やっているし年齢的にも問題があるのでとお断りしたところ,前回会長で本会の大御所, 76歳のM教授に,「何を言っている.B教授を見てみなさい.あなたはつぎの人生の始まりの年齢だ」と一蹴されてしまった.2人の大御所がいる間は,この学会では私は永久に子ども扱いなのかと感じさせられた.また,イタリアの教授連がいとも簡単に学会をキャンセルすることにも驚かされた.

 さて,11月下旬には国際消化器外科学会が開催された.開催前日になってもプログラムの変更がE-mailで送信されてきて,几帳面な日本人はてんやわんやである.案の定,前日の理事会では開会式のプログラムも明らかではなく,すべてがfuzzyである.会長招宴の場所も明らかでなく,分かったのは集合時間のみで,指定の場所に行ってみたらバスも来ていない.学会の会長招宴で初めてPresidentとSecretary Generalの区別が分かる始末で,いつも理事会に出ていたのはSecretary Generalであったことが判明した.名前がBassoとBasoliniと似ていたことが混乱の理由であったのかもしれない.しかし,これらの様々なミステイクにめげることもなく,笑顔で明るくもてなし続けるイタリア人のスタッフ.これも国民性の違いか.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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