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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻3号

2007年03月発行

雑誌目次

特集 術後呼吸器合併症―予防と対策の最新知識

―呼吸器合併症を起こしやすいのは?―患者側の危険因子

著者: 唐國公男 ,   中浦寛 ,   生形之男 ,   西平哲郎 ,   尾形正方

ページ範囲:P.307 - P.311

要旨:周術期の合併症において術後呼吸器合併症は最も頻度が高く,ひとたび起これば術後死亡の大きな要因となり得る.術後の呼吸器合併症としては,(1)無気肺,(2)肺炎,(3)肺水腫,(4)気胸,(5)胸水貯留,(6)肺塞栓症が挙げられる.これらの合併症の病態および原因を考え,患者側の危険因子となり得る要因を考察した.その結果,術前に(1)呼吸器疾患の既往,(2)ほかの基礎疾患の併存,(3)喫煙,(4)高齢者,(5)栄養障害を認める患者では術後呼吸器合併症を発症する危険性が高く,術後管理を行ううえで重要であることがわかった.

―呼吸器合併症を起こしやすいのは?―術式と呼吸器合併症

著者: 田中司玄文 ,   桑野博行

ページ範囲:P.313 - P.317

要旨:外科手術後に起こる呼吸器合併症は臓器によってその内容や重症度に違いがある.本稿では各臓器の術式と注意すべき合併症について概説した.呼吸器手術では肺合併症や胸腔内合併症,気管支瘻など様々な合併症が発生し得る.消化器手術では特に食道癌根治術で呼吸器合併症の発生率が高い.心臓手術では心肺負荷と密接な関係がある.内分泌外科では気管や胸壁の合併切除例に注意が必要である.移植外科は早期では主に感染や拒絶反応が,長期では主に免疫抑制剤による感染,腫瘍,薬物毒性が呼吸器合併症の原因となる.それぞれの臓器で呼吸器合併症を起こしやすい術式を理解することで,合併症を減らす工夫をすることが大切である.

消化器手術における術後呼吸器合併症の予防対策

著者: 木戸正浩 ,   岩崎武 ,   具英成

ページ範囲:P.318 - P.321

要旨:術後呼吸器合併症は手術死亡原因のなかでも頻度が高く,とりわけハイリスク例では周術期に予防対策を留意する必要がある.喫煙,高度肥満,慢性閉塞性肺疾患(COPD),活動性肺感染症,高齢,全身運動能力の低下,認知障害などの危険因子を有する例では,十分な問診を含め,正確な術前評価を行い,術前管理を尽くして手術に臨むべきである.また,丁寧な患者指導によって呼吸訓練や術前後の対策が重要になるとの理解を深め,機能訓練への前向きな姿勢を引き出すことが大切になる.高齢者社会の到来によってハイリスク手術が増えることが予想され,患者個々の呼吸障害の病態にチーム医療によるきめ細かな呼吸や全身運動のリハビリテーションを取り入れることが肝要と考える.

術中管理と術後呼吸器合併症

著者: 青木寛明 ,   高橋直人 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.323 - P.328

要旨:慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器合併症を持つ患者や高齢者に対する手術の増加によって,術後呼吸器合併症のリスクの高い症例が増加している.呼吸器合併症はときに致命的であり,医療の包括化が進む今日,術後入院期間を長期化し,医療経済への影響も大きい.このため,全身麻酔手術に際しては術前から患者のリスクを十分に把握し,手術侵襲を最小限にとどめる努力が必要である.術後肺合併症を防ぐうえで術中に留意すべき点として,患者背景と予定手術手技の性格を十分に把握し,呼吸器合併症の予防ならびに早期発見,および迅速に対応することが挙げられる.

術後管理の要点

著者: 大平達夫 ,   佐治久 ,   加藤治文

ページ範囲:P.329 - P.332

要旨:今後,高齢者の増加に伴い,高齢者に対する手術が増えることが予想される.高齢者では合併症が増加するため,その対策が重要と考えられる.近年は安全性の確立が求められているが,術後呼吸器合併症は重大な合併症の1つと考えられる.術後合併症を重症化させずに防ぐには,術中の管理のみならず,術前後の管理が重要である.本稿では術後管理の要点について述べた.呼吸器合併症を防ぐには,術後の水分管理を基本的にdry sideに管理することが必要である.喀痰排出を促すためにも疼痛管理は重要で,硬膜外カテーテルなどで管理を行い,早期離床が重要と考えられる.

外科手術後の気胸の診断と治療

著者: 三浦世樹 ,   加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   吉富秀幸 ,   野沢聡志 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   須田浩介 ,   吉岡伊作 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.333 - P.338

要旨:気胸は特発性に発症することが最も多いが,術後肺合併症として医原性に発症することも多く,われわれ外科医もしばしば遭遇する疾患の1つである.特に自覚症状の訴えがない全身麻酔中に発生した場合は診断が遅れ,かつ致命的にもなり得るので注意が必要である.このため,胸・腹部手術や中心静脈血管確保,ブラやブレブを有する症例の陽圧換気による全身麻酔などにおいては術後の気胸の発生を念頭に置き,理学所見や胸部X線などの検査によって早期に発見・診断するとともに,胸腔穿刺や持続胸腔ドレナージなどの迅速で適切な治療を行うことが重要である.

肺水腫―急性肺傷害の病態と対策

著者: 小野聡 ,   辻本広紀 ,   望月英隆

ページ範囲:P.339 - P.344

要旨:術後急性肺傷害の病態と対策について概説した.手術侵襲後の急性肺傷害の病態には,高度な手術侵襲によって引き起こされる全身性炎症反応症候群(SIRS)に伴う炎症担当細胞の活性化が深く関与している.したがって,術後急性肺傷害対策の基本はSIRS対策と適切な輸液管理が重要である.具体的には,輸液管理ではoverhydrationにならないように厳密な投与量の設定をするとともに,術前から栄養状態の改善を目指すことが重要であり,また,SIRS対策ならびに術後の急性肺傷害対策としてプロテアーゼインヒビターの投与が有用である.

肺炎

著者: 炭山嘉伸 ,   草地信也

ページ範囲:P.345 - P.348

要旨:術後肺炎は術野外感染に分類され,術後の呼吸不全からVAP(人工呼吸器関連性感染)として発症し,MRSAや多剤耐性菌が多いことや院内感染の源となることからその対処が難しい.米国のATS/IDSAガイドラインやCDC/HICPACガイドライン,わが国の呼吸器学会によるガイドラインなどが公表されており,患者の体位,吸引方法,抗菌薬の予防投与などが多くのエビデンスをもとに推奨した対処方法が示されているが,その予防には呼吸不全そのものを予防することが重要である.また,患者の配置はきわめて重要であり,われわれは気管切開,気管内挿管を行っている患者は個室・集団管理が必要と考え,実施している.

無気肺

著者: 苅田真 ,   輿石義彦 ,   呉屋朝幸

ページ範囲:P.349 - P.352

要旨:術後無気肺は気道内分泌物や血液,誤嚥物などによって発生し,特に重喫煙者や高齢者においては閉塞性肺炎を起こすことがあるので注意が必要である.患者の状態をよく把握して術後肺合併症の発生リスクを評価し,術前からネブライザーや理学療法を導入する.無気肺の早期発見のため,術後は胸部X線写真の些細な変化にも注意し,必要に応じて動脈血ガス検査を行う.治療は十分な鎮痛を施したうえで理学療法および痰の喀出を行うが,肺炎の発症が懸念される場合には抗生物質の多剤併用投与も考慮する.

術後胸水貯留

著者: 木村吉成 ,   小林紘一

ページ範囲:P.353 - P.359

要旨:健常人において,胸膜腔にはごく少量の胸水が貯留しているが,外科手術後には手術侵襲に伴う体液の移動や代謝異化に伴う血漿膠質浸透圧の低下などによって高率にその増加がみられる.術後胸水は,そのほとんどが無症候性であり格別治療を要するものではないが,ときに治療を要する症例にも遭遇する.胸水貯留の病態は複雑であり,かつそれぞれの症例で多様であるため,手術後に胸水の貯留がみられた場合には,臨床症状や身体所見および画像所見などによってその量や性状を確認し,必要により胸腔穿刺を行ったうえで各症例における病態を把握して,それに沿った治療方針を立てることが肝要である.

肺血栓塞栓症

著者: 大久保憲一 ,   和田洋巳

ページ範囲:P.361 - P.365

要旨:手術に関連した肺血栓塞栓症の多くは,術後安静時に下肢の深部静脈血栓症に伴って形成された血栓が遊離することによって発症する.わが国の合併症発生率は5%以下で,欧米の1/10~1/20であるが,近年は増加傾向にあるとされる.周術期肺血栓塞栓症予防としては早期離床,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法,抗凝固療法などが推奨されており,リスクに応じた予防と対策が求められる.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・15

心臓腫瘍

著者: 新浪博 ,   田畑美弥子 ,   梶本完 ,   蒔苗永 ,   天野篤

ページ範囲:P.301 - P.305

はじめに

 心臓に発生する腫瘍はきわめて稀であり,発生頻度は剖検例全体の0.002%,開心術症例中の0.038%と報告されている1).一方,続発性心臓腫瘍は原発性心臓腫瘍の約30~40倍と多い.心エコー法やCT,MRIなど,画像診断技術の進歩によって臨床上,遭遇する機会が多くなってきた.

 本稿では,心臓に比較的特異的であり,心臓外科医が手術する機会の最も多い粘液腫を中心に簡潔に概説する.

臨床外科交見室

内痔核に対する新しい硬化剤(ジオン®)による硬化療法は痔の治療法を変えるか―「ジオンセンター」設立の提言

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.366 - P.366

 2005年3月から,内痔核に対する新しい硬化剤であるジオン®の使用がわが国も開始された.長年にわたってわが国で使用されている硬化剤のフェノールアーモンド油(パオスクレー®)は出血には非常に有効であったが,脱肛に対しては効果がなく,また,有効期間も6か月から1年と限定的であった.ジオン®は中国において消痔霊という名前で,Shiら1)によって内痔核根治の目的で開発された薬液を日本人に合うように,成分に一部改良を加えた痔核に対する硬化剤である.主成分は硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸で,前者が収瞼作用,止血作用,起炎作用を有し,後者は硫酸アルミニウムカリウムの働きを調節する作用がある.ジオン®は出血・脱肛ともに有効であり,また効果もパオスクレーよりは永続性があり,手術とほぼ同等の効果があるとされている.非常な期待を背負って発売され,現在(2006年8月末)まで約2万例の症例に対して使用されている.厚生労働省の指導のもと,使用にあたっては重篤な副作用を回避するために,医師であれば誰でも無作為に使用できる制度ではなく,内痔核治療法研究会が中心になって使用できる医師を選定し,肛門疾患に精通した医師で,かつ講習を受けた者にのみ許可されている.

 実際に使用を開始してみると,脱肛を伴う内痔核には非常に効き目がよく,特に手術と比較すると術後の患者の苦痛は比較にならないほど軽度である.局所麻酔で十分に施行が可能であり,患者に対する負担は軽く,入院期間も2~3日で,費用も通常の手術と比較すると1/3程度である.また,高齢者に多く,治療が困難である直腸脱にも有効である.

元外科医,スーダン奮闘記・11

クリスマス,正月はスーダンで

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.367 - P.369

日本出国

 私が帰国してからの一番の寒さだったであろう.みぞれまじりのなか,息子(中学2年生)の所属するラグビーチームの福岡県新人戦の決勝戦があった.このあとには大学選手権の1回戦があり,中学生の試合はその前座試合となっている.しかし,当日は中学生の試合をメインに,大学生のを前座にしてもよいほど白熱した試合であった.息子の所属するチームが辛うじて逃げ切り,優勝となった.アフリカでの生活が6年以上あり,日本に戻ってきてもうすぐ2年,もう完全に日本の生活になじんでいる.優勝の瞬間,私の胸に熱いものがこみ上げてきた.

 この優勝を見届け,日本をあとにした.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・39

乳房切除にリハビリは必要か

著者: 筒井信一

ページ範囲:P.370 - P.371

【はじめに】

 乳房切除術後のリハビリの目的は,術中や術後の一定期間の運動制限や創痛によって起こる肩関節の拘縮,上肢の挙上障害を改善させることである.以前行われていた胸筋合併乳房切除術後には本格的なリハビリを必要とした.現在,主に行われている胸筋温存乳房切除術や腋窩リンパ節郭清を伴う乳房部分切除術は胸筋合併乳房切除術に比べ手術侵襲は軽いが,肩関節の拘縮や上肢の挙上障害を起こす可能性がある.

 本稿では,時代とともに乳癌に対する手術の術式も変わり,手術侵襲も軽くなってきたなかで,乳房切除にリハビリは必要かについて文献を中心に考察する.

病院めぐり

友愛記念病院外科

著者: 加藤奨一

ページ範囲:P.372 - P.372

 当院は昭和56年1月に茨城県西南端の古河市(平成17年8月までは総和町)に157床の総合病院として茨城県民生活協同組合が設立した病院です(各都道府県にある生活協同組合で病院を持っているのは茨城県だけです).昭和57年4月より故片柳照雄先生(昭和37年信州大学卒,昭和38年東京大学第3外科入局)が都立駒込病院外科から院長に招かれ,消化器外科を病院の中心に据えて発展し,昭和61年に233床に,昭和63年に267床に増床されました.平成14年4月には筆者(昭和59年東京医科歯科大学卒)が院長に就任し,平成18年2月には316床に増床し,病院を移転・新築しました.

 診療実績では外来患者数平均655人/日,紹介患者数平均494人/月,救急車搬入台数平均166台/月(平成18年4~9月)の活気ある病院で,宇都宮線の古河駅から車で約10分の地に位置し,茨城,栃木,埼玉,群馬各県の県境近くのため,古河市などの茨城県内からだけでなく,栃木,群馬,埼玉各県からも受診される患者さんも多く,診療圏も広範囲となっています.

神戸市立西市民病院外科

著者: 池田宏国

ページ範囲:P.373 - P.373

 本院は異国情緒あふれる神戸市の西部にあり,北を望めば六甲山の自然に囲まれ,絶好の夜景を有するハーバーランド,近年開港した神戸空港,全国に有名な神戸牛など,日常臨床に疲れた心身を癒すには十分な立地環境にあります.

 昭和28年に神戸市中央市民病院長田分院として発足し,昭和45年に神戸市立西市民病院として開院以来,神戸市西部の地域中核病院として重要な役割を果たしてきました.平成7年の阪神・淡路大震災によって本館が全壊する大惨事に見舞われましたが,災害に強く,高度医療を提供する病院として平成12年に新たなスタートを切りました.現在は病院としては病床数358床,14診療科で,平成16年に日本医療機能評価認定を受けています.

外科学温故知新・18

炎症性腸疾患の外科

著者: 二見喜太郎

ページ範囲:P.375 - P.381

1 はじめに

 近年,わが国における炎症性腸疾患〔inflammatory bowel disease(以下,IBD),潰瘍性大腸炎,Crohn病〕の増加は顕著である.治療の主体である内科的治療の進歩は,この数年著しいものがある.しかし,内科的治療の進歩によって手術例が減少したという報告は現状ではなく,外科治療が1つの柱であることに変わりはない.

 IBDに対する外科治療は外科医にとっては受け身のことが多く,しかも根治できない疾患だけに厄介な手術の対象である.当施設におけるIBDに対する治療体制は,まず消化器内科医がしっかりと治療を行い,その限界となったものを外科治療の適応としている.

 本稿では,IBDの外科治療の現状を自験例を交えて解説するとともに,IBDに対する外科治療の歴史的変遷も紹介して私の務めとしたい.

連載企画「外科学温故知新」によせて・11

食道外科:ブールハーヴェ(Boerhaave)症候群

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.383 - P.385

 特発性食道破裂(idiopathic esophageal perforation)は,その病態の最初の報告者であるオランダのハーマン・ブールハーヴェに因んで「ブールハーヴェ症候群(Boerhaave's syndrome)」という冠名で呼ばれている.すなわち,1724年にブールハーヴェが,大食後に嘔吐してすぐに激しい胸痛を訴え,さらに呼吸困難や皮下気腫を併発してショック状態に陥って死に至った患者の解剖を行ったところ,食道下部に新鮮な裂創を認めたことを報告したのであった.この「ブールハーヴェ症候群」は,食道外科を専門にする者にとっては多分に聞き慣れた病名であろうと思われるが,その名祖(なおや)となったHerman Boerhaave(1668~1738:図1)が18世紀の前半にオランダのライデン大学にあって当代随一の名医と詠われた臨床医兼医育者であったということは知られていないようである.そこで,今回はこのブールハーヴェについて,彼のなした業績とその人物像を紹介する.

 Herman Boerhaaveは1668年にライデン近郊の街で牧師の子として生まれた.1684年に地元のライデン大学(1575年創立)で神学や哲学を学んだのち,医学を志してハイデルワイク(Harderwijk)大学に転出し,そこで学位を取得している.1701年にライデン大学講師となり,1709年には同大学の植物学教授となった.さらに化学の講義も担当するようになり,1714年には内科学教授に任ぜられ,そののちは「天性の臨床家(診断家)」という名声を得た(1717年には理論医学の教授に推されている).

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・13

1910年前後から1930年代まで(2)―わが国での展開

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.387 - P.398

【Mikuliczと三宅速】

 いよいよMikuliczの郭清体系のわが国での展開の話へと進みます.欧米でのMikulicz体系の展開が1903年のMikuliczの訪米を契機としたことは前回述べたとおりであります.これに対比すると,日本でのMikulicz体系の展開の萌芽となったものが三宅速のドイツ留学であったことは,すでに本連載第1回概説で述べたところです.

 三宅速のBreslauのMikuliczのもとへの留学は1898年8月から1900年4月までの1年8か月,1903年7月から1904年7月までの1年間の2回です.この間のMikulicz側の出来事としては,本連載ではすでにお伝えした1898年4月の第27回ドイツ外科学会における胃癌外科の特別講演であり,1903年3月の米国訪問であります.前者はMikuliczの郭清体系の確立が公にされた記念碑的演説であり,後者はそれが米英に伝播される契機となった訪問です.

臨床研究

早期の縫合糸の抜糸およびテープ固定による手術創の整容的効果―prospective randomized study

著者: 伊藤重彦 ,   持永浩史 ,   木戸川秀生

ページ範囲:P.399 - P.403

はじめに

 近年,手術における皮膚の一次閉鎖後の疼痛軽減および整容的観点から様々な閉鎖方法が工夫されている1,2).また,手術創自体を小さくする目的で内視鏡下手術も積極的に行われている.

 今回,待機開腹手術創の整容性の向上を目指し,一次閉鎖創の縫合糸の早期抜糸とその後のテープ固定がもたらす創の整容的効果についてprospective randomized studyを行ったので報告する.

臨床報告・1

腹腔鏡下に切除した尿膜管遺残症の2例

著者: 河野文彰 ,   松田俊太郎 ,   種子田優司 ,   市成秀樹 ,   峯一彦 ,   木佐貫篤

ページ範囲:P.405 - P.409

はじめに

 尿膜管遺残症は難治性臍炎や尿膜管囊胞のほか,稀ではあるが尿膜管癌をきたすこともあり,多くは手術適応とされている1).従来は下腹部正中切開による開腹術が施行され,術後疼痛や術創が大きいことが少なからず問題となっていた.しかし,近年の内視鏡下手術の普及に伴い1998年に大森ら2)が本疾患に対する内視鏡下手術の有用性を報告し,それ以降,本疾患に対する適応例の報告が散見されるようになってきた.

 本稿では,当科で施行された腹腔鏡下によって切除した尿膜管遺残症の2例を報告する.

術前診断が困難であった表層拡大型早期胃癌の1例

著者: 丸森健司 ,   福田禎治 ,   只野惣介 ,   今村史人 ,   間瀬憲多朗

ページ範囲:P.411 - P.414

はじめに

 表層拡大型癌の概念はStout1)の提唱に始まり,安井ら2)が側方浸潤主体とする癌として長径×短径が25cm2以上の早期癌と定義した.以来,わが国では,この定義に準じて長径5cm以上の病変を表層拡大型と扱っている.もともと表層拡大型の概念はあくまで腫瘍径のみに着眼したものであり,腫瘍の本質を捉えた独立した概念ではない.しかし,正確な術前診断をするうえで通常の早期胃癌とは別個に扱うべき対象疾患として重要と考えられている3)

早期盲腸癌による成人腸重積症の1例

著者: 平下禎二郎 ,   石川浩一 ,   新木健一郎 ,   岸原文明 ,   松股孝 ,   北野元生

ページ範囲:P.415 - P.418

はじめに

 成人腸重積症は比較的稀な疾患であり,器質的疾患,特に腫瘍性病変に起因することが多いとされている1,2).今回,われわれは早期盲腸癌による成人腸重積症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

腹腔鏡下手術が有用であった,消化管との瘻孔を認めない魚骨の横行結腸穿孔による腹腔内膿瘍の1例

著者: 原隆志 ,   高梨節二

ページ範囲:P.419 - P.421

はじめに

 通常,誤嚥された魚骨の多くは何ら障害を与えずに消化されるか,自然に排泄されるが,稀に消化管穿孔を引き起こして臨床的に問題となることがある.

 今回,われわれは腹部CT検査で術前診断して腹腔鏡下手術を施行したが,瘻孔の確認ができなかった魚骨の横行結腸穿孔による腹腔内膿瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

臍ヘルニア9例の臨床的検討―嵌頓症例を含めて

著者: 奥村和子 ,   池田宏国 ,   古川公之 ,   木川雄一郎 ,   小縣正明 ,   山本満雄

ページ範囲:P.423 - P.426

はじめに

 成人臍ヘルニアは,腹部の瘢痕組織が伸展されて脆弱化したところに妊娠,肥満,腹腔内腫瘤,腹水などによる腹腔内圧上昇因子が作用して発生するものとされており,わが国では比較的稀な疾患である1,2)

 今回,われわれは嵌頓症例を含めた9例の臍ヘルニアを経験したので,臨床的検討を行い報告する.

プロテインC欠損症に合併した上腸間膜動脈回腸枝閉塞症の1例

著者: 古川公之 ,   池田宏国 ,   木川雄一郎 ,   仲本嘉彦 ,   原田武尚 ,   山本満雄

ページ範囲:P.427 - P.429

はじめに

 プロテインC欠損症は先天性凝固亢進症の1つであり,血栓塞栓症の原因として知られている1~3).今回,われわれはプロテインC欠損症に合併した上腸間膜動脈回腸枝閉塞症を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

卵巣成熟囊胞性奇形腫に伴う多量の腹水で発症した成人臍ヘルニア嵌頓の1例

著者: 長尾知哉 ,   日比優一 ,   大久保浩毅 ,   結城敬 ,   清水義雄 ,   大井悦弥

ページ範囲:P.431 - P.433

はじめに

 成人臍ヘルニアは比較的稀な疾患とされている.腹部瘢痕組織が伸展され脆弱化したところに,妊娠,肥満,腹水などの腹腔内圧上昇が加わって発症するとされている1).そのほとんどは肝硬変,多産,高度肥満などの基礎疾患に合併しているが2),婦人科疾患を基礎とするものはほとんどない.

 今回,卵巣成熟囊胞性奇形腫とそれに伴う多量の腹水によって発症した臍ヘルニア嵌頓の1例を経験したので報告する.

外科医局の午後・29

不思議な縁

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.344 - P.344

 人間50年以上も生きてくると「不思議な縁」というのを感じることがある.最近,特に感じたのは私の同窓で先輩のM医師とのことである.われわれは基本的には医局の人事によって転勤を繰り返している.したがって,ある医師とどこかで会って一緒に仕事をし,また別れてどこか出会うのを繰り返すのは日常茶飯事である.しかしこれが,以下のようなことを伴うとどうだろう.不思議な縁というのを感じざるを得ない.

 私がM医師と初めて会ったのは研修医の大学病院である.その後,初期研修のためにある病院に赴任したが,その病院はM医師がやはり研修医で以前に勤務していたところであり,OB会のゴルフ大会や宴会でよく一緒にさせていただいた.

書評

日本フットケア学会(編)「フットケア―基礎的知識から専門的技術まで」

著者: 吉原広和

ページ範囲:P.348 - P.348

 「人間の生活において『歩く』ことは単なる日常生活動作の範疇ではなく,より高度な文化的活動の維持・向上に不可欠な身体活動である」.このように考えると歩行を支える足機能の維持・ケアはないがしろにはできず,足病変のアプローチがいかに人の営みに影響を与えるかが窺える.

 フットケアの分野は特に欧米において進歩・発展してきた診療分野ではあるが,日本ではやっと取り組みが始まった段階でしかない.欧米とは違った文化を持つわが国では「フットケア」技術の発展にも生活習慣の違いが影を落とす状況にあったことは否めないが,今後足病変に対する集学的治療分野としての「フットケア」が日本でも確立されることを望む医療者は多いのではないだろうか.

コーヒーブレイク

問題点は別にある

著者: 板野聡

ページ範囲:P.404 - P.404

 当院でも,数年前からオーダリングシステムを導入しています.この導入の結果,スタッフから最も喜ばれたことは,患者さんの待ち時間短縮でも書類を運ぶ労力の軽減でもありませんでした.それは,われわれ医師が書いた字を読むという誠に基本的なところでの労力軽減ということであり,これには正直言って驚かされました.しかし,改めてカルテや処方箋に書かれた字を見てみると,かなりの悪筆があり,なるほどと納得した次第です.

 そんなおり,「こんな医者が嫌われる」という特集の医学雑誌が届けられました.取り上げられる問題は時代や洋の東西を問わず同じようで,その内容の主たるものは,悪筆の問題と患者さんへの説明不足の問題であり,結果としてスタッフや患者さんへのストレスと時間の無駄が生じ,ときとしてトラブルにまで発展することもあるようです.

ひとやすみ・18

たかが胆石,されど胆石

著者: 中川国利

ページ範囲:P.426 - P.426

 従来から「外科は虫垂切除に始まり,虫垂切除に終わる」とされてきた.その理由は,急性虫垂炎は一般外科医が経験する最も頻度の高い疾患であり,手術手技が比較的容易なため,外科医として最初に経験する手術術式だからである.しかしながら,炎症が著明な例では手術手技が困難であり,虫垂切除では済まずに回盲部切除などのより高度の手技を要することがある.さらに,術前診断が急性虫垂炎でも大腸憩室炎や大腸癌,子宮外妊娠などの他疾患であることがあるため,これらの疾患に対する手術にも習熟しておく必要がある.要するに,「虫垂切除は初心者でもできる容易な手術ではあるが,ときに手術に難渋することがある.虫垂切除といえども決して侮ることなく,全力を尽くして手術に臨むべし」との戒めでもある.

 腹腔鏡下手術は従来の開腹手術と比較して手術侵襲が小さいことから,種々の疾患に応用されつつある.特に,胆囊結石例に対しては腹腔鏡下胆囊摘出術がいまや標準術式とされ,開腹下に行うことはなくなった.確かに炎症のない胆囊結石例では手技は容易であり,短時間で手術は終了する.しかし,炎症がない症例でも,オリエンテーションを間違うと胆囊壁や動脈を損傷する危険性がある.動脈を損傷すると術野は血液で覆われ,手術は途端に困難となる.いわんや炎症が著明な例では周囲臓器と著明に癒着しているため,総胆管や腸管を損傷する危険性が高まる.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.440 - P.440

 昨年から「臨床外科」の編集委員を担当させてもらい,早くも3度目の『あとがき』です.現在の大学での診療と違い,久しぶりに若い外科医になりたての頃のように外科一般の様々な外科疾患を論文を通じて改めて経験でき,大変新鮮な気持ちを感じるものです.最近の外科学は私が大学を卒業した頃と比較して目覚ましい発展とともに細分化がなされてきています.このような外科学の細分化は学問の進歩・発展において必然的な当然の結果であるとは思われます.臨床医として診療を行う際には分化・専門化した高度な知識や技術は多くの患者さん方に恩恵をもたらしていることは異論のないところですが,しかしながら,ときに全般的な,特に専門外における臨床医として患者さんを診るうえでの基本的な知識や技術が欠如していると,きわめて大きな見落としやら誤った方向での診療行為を行ってしまうこともあるわけであり,このことは患者さん側からみると専門医ならびに医療そのものへの信頼を大きく裏切る結果となってしまい,臨床医としてはきわめて注意を要することと考えています.

 私自身,日頃の教授回診や症例カンファレンスにおいてこのことをつねに意識して,教室員と医学生に対して臨床医としての姿勢を学んでもらうようにしています.もちろん,このような臨床医を育成していくためには,外科医になりたての時期から患者さんを診るうえで,いかに全身を診れる知識・技術が専門医となったうえでも重要なことであるかを実際の症例においてつねに問題呈示して示していくしかないと思われます.基礎医学の重要性を再認識し,専門以外の領域の臨床的な知識・技術をしっかりと学びながら専門医としての修練を積んでいくことを決して忘れてはならないのは,臨床医としての最も重要な姿勢でしょう.科学的に臨床事象を考えていくことなしに診療を行うくらい臨床医としての仕事をつまらなくするものはなく,かつまた患者さんに対して真に優しい質の高い医療を提供することはできません.さらに,臨床外科学そのものの進歩をきたさない結果にもなるでしょう.そのように根幹的かつ科学的な姿勢を臨床外科医が生涯,維持し続けることがきわめて大変なエネルギーを要求するものであることは,そうした価値観で臨床外科医を長く続けてきたものであれば,もちろん容易に想像できます.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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