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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 癌診療ガイドラインの功罪

乳癌診療ガイドラインに対する専門医の評価

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.457 - P.463

要旨:日本乳癌学会の専門医にアンケートを行い,乳癌診療ガイドラインの功罪を調査したところ,「功」のほうが「罪」よりも大きいと高く評価され,標準的な診療指針が示されて患者さんへの病状説明や治療方針の決定がスムースになったというメリットがあるが,ガイドラインが絶対的であると捉える世間の風潮が弊害として指摘された.医療水準が変化する乳房温存療法の判例では,学会のガイドラインや統計が基礎的な判断資料として採用されており,ガイドラインは医師に不可欠の知識である.診療には医師と患者の対話(情報や意見の交換)が大切であり,ガイドラインは「医師と患者の傍らにある意思決定の素材」として上手に活用したい.

肺癌診療ガイドラインに関する考察

著者: 池田徳彦 ,   大平達夫 ,   坪井正博 ,   加藤治文 ,   木下孔明

ページ範囲:P.465 - P.468

要旨:わが国の肺癌に関するガイドラインは,2003年に『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン』が出版され,2005年には改訂版が出版された.この作成過程では文献のエビデンスのレベル,数,結論が最重要視され,これに臨床上の適応性などを勘案して診療行為に推奨グレードが与えられている.ガイドラインを日常臨床に用いることにより,肺癌診療の標準化とレベルの底上げが期待されよう.しかし,ガイドラインはバイブルではなく,あくまで臨床医と患者が適切な医療について決断を行えるよう支援するために作成されたものである.その適応と限界を熟知することが大事である.

食道癌診断・治療ガイドラインの評価

著者: 藤田博正

ページ範囲:P.469 - P.476

要旨:『食道癌治療ガイドライン』(2002年)の評価に関するアンケート結果に基づき,当ガイドラインの有用性と問題点を述べた.特に問題点については総論的批判と各論的批判があり,総論的批判については医療に関する重要な課題であり,専門分野を越えて医師全体が考え行動することが求められる.各論的批判の多くは,改訂版『食道癌診断・治療ガイドライン』(2007年)で解消されている.しかし,食道癌の病態的特性あるいはその治療が外科に偏在してきたためかもしれないが,エビデンスや推奨度において満足できるものではない.食道癌診療に携わる者の課題は大きい.

胃癌治療ガイドラインの制定・評価とその功罪

著者: 吉野肇一

ページ範囲:P.477 - P.483

要旨:総論的に診療ガイドライン(以下,GL)の必要性,マイナス面を述べたのちに,本格的な癌治療GLとしてはわが国初の『胃癌治療GL』について,その成立経緯,エッセンスの紹介,特徴・短所,評価,今後の問題点などについて記載した.『胃癌治療GL』はスタート時点で欧米の診療GLの標準的なレベルにはあり,その普及度に関してはほぼ満足できるものであったが,外部評価機構,改訂時期,公表方法の明示,患者側の考え方,自己評価の記載といった点については改良すべきと思われた.また,欧米とは異なる民族性をもつわが国では独自の診療GL作成の手引き・支援体制づくりが,より国を挙げて行われるべきである.診療GLの公示は,公的機関・学会によるインターネットでのものが望ましい.

大腸癌治療ガイドラインの功罪

著者: 中村隆俊 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.485 - P.489

要旨:大腸癌治療ガイドラインは,大腸癌に携わる医療従事者を対象に,大腸癌の標準的な治療方針を示すこと,大腸癌治療の施設間差をなくすこと,過剰診療・治療,過小診療・治療をなくすこと,一般公開することで医療者と患者の相互理解を深めることなどを目的として2005年7月に作成された.本ガイドラインの功としては,簡潔で明瞭に図示しているため理解しやすいことである.罪については,わが国独自の大腸癌治療方針やそれに基づく治療成績のエビデンスが少ないことである.今後は,功罪を明らかにしながら定期的に改訂していく必要があろう.

アンケート調査からみた肝癌診療ガイドラインに対する一般医(非専門医)の認識とガイドラインの問題点

著者: 佐々木洋 ,   山田晃正 ,   石川治 ,   今岡真義 ,   永野浩昭 ,   中野博史 ,   清水潤三 ,   大里浩樹 ,   國土典宏

ページ範囲:P.491 - P.498

要旨:一般病院診療医(以下,勤務医)と個人診療医(以下,開業医)を対象として,肝癌診療ガイドラインの認識度と有用性に関するアンケート調査を行った.結果は以下のとおりである.(1)ガイドラインの存在を知っている医師は勤務医では74%であったが,開業医では48%に過ぎなかった,(2)ガイドラインは日常の診療において役立っているという意見は,役立っていないという意見を上回った,(3)ガイドラインにより治療方針に変化があったという意見は,変化がなかったという意見を上回ったが,その変化として「推奨をより強く進めるようになった」(開業医40%,勤務医48%)という意見が最も多かった,(4)ガイドラインが医師の裁量を拘束するという意見としないという意見はほぼ同数であったが,医療訴訟が増えるという意見は,増えないという意見を上回った,(5)開業医,勤務医ともにEBMの重要性を十分認識しているが(開業医74%,勤務医86%),日常診療へのEBMの取り入れ方は勤務医のほうが高い(開業医56%,勤務医82%).

膵癌診療ガイドラインに対する感想

著者: 木村理

ページ範囲:P.499 - P.504

要旨:診療ガイドラインは施設間格差をなくし,より質の高い治療を普及することを目的としている.膵癌診療ガイドラインは日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン作成小委員会によって作成され,2006年3月10日に発行された.ほかの疾患のガイドラインに比較して最も新しいものであるため,多くの欠点を克服したものである.診断法,化学療法,放射線療法,外科的治療法,補助療法の5つの分野からなり,それぞれの分野ごとに3つから6つのCQ(clinical question;クリニカルクエスチョン)計22項目を設定している.推奨度については各ガイドラインと同じ定義で推奨度AからDとなっており,外科的治療によるものはすべて推奨度BあるいはCにとどまった.塩酸ゲムシタビンによる治療が推奨度Aを得たのは,今後の膵癌治療に光明を与えるものと考えられる.ほかのガイドラインと比較して,外部評価を行った点,論文の検索式や検索方法が記載されている点,「明日への提言」が書かれている点,すでに見直しを始めている点などが本ガイドラインの特筆すべき特徴と考えられる.

胃癌・大腸癌治療ガイドライン化学療法領域の評価と問題点

著者: 大津敦

ページ範囲:P.507 - P.512

要旨:わが国での消化器癌化学療法において各臓器の治療ガイドラインが果たした役割は大きく,かつて根拠のない化学療法が蔓延していた時代から明らかな改善がみられている.胃癌・大腸癌治療ガイドラインにおける化学療法領域の記述は現時点の国内の化学療法の環境を考えれば妥当であり,高く評価すべき内容と考えられる.一方で化学療法領域に関するガイドライン作成・施行上の問題として,海外データの受け入れ,ガイドライン更新時期,ガイドライン治療施行側の問題なども存在している.多数の有効新薬導入などで世界的に臨床試験の枠組みも大きく変貌する環境のなかで,今後は作成側・施行側それぞれのさらなるレベルアップが求められる.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・16

乳腺疾患

著者: 大野真司 ,   内田陽子 ,   平橋美奈子 ,   西山憲一 ,   角南俊也

ページ範囲:P.445 - P.454

はじめに

 乳腺は乳管と乳腺小葉などの上皮組織と間質,脂肪組織などの間葉系組織から構成される臓器であり,乳腺に発生する腫瘍は,その起源から上皮性と非上皮性,性質からは良性と悪性に分類される.乳腺組織は女性ホルモンの影響を受けることから,その組織像も多岐にわたっている.

 乳腺は体表組織であることから視触診の所見が診断過程に重要であるが,最近は非触知乳癌も増加してきた.わが国でも乳癌検診にマンモグラフィの導入されるようになり,さらに乳房超音波検査の検診における有用性についての検討も行われようとしている.診断ガイドラインも整備され,共通の所見用語の普及が期待されている1,2).マンモグラフィや超音波検査の普及は,より早期の乳癌の発見率を向上させるものであるが,一方で鑑別困難な症例に遭遇する機会が増えてきた.また,質的診断や存在診断だけでなく切除範囲の決定のための広がり診断など,MRIやCTの所見も有用となる.すなわち,正しい診断と適切な治療方針構築には,解剖学と病理学の知識に基づいた「画像と病理組織像の対比」がきわめて重要である.また,質の高い画像や検体の供給は必須であり,乳腺外科医,放射線診断医,病理医,放射線技師,超音波検査技師,細胞診検査技師などの緊密な協力と連携が不可欠である.

 本稿では代表的な乳腺疾患について解説し,触診所見も含めてその画像(マクロ所見)と病理組織像(ミクロ所見)とを対比して示す.なお,筆者らは医用画像データベース構築しているので参考にしていただければ幸いである(http://www.ia-nkcc.jp/,http://breast-tumor.midb.jp/).

病院めぐり

宮崎県立日南病院外科

著者: 峯一彦

ページ範囲:P.514 - P.514

 日南市は宮崎県南部に位置し,宮崎市から車で約1時間日南海岸を南下したところにあります.日南市には九州の小京都と言われる飫肥城下町があり,日南海岸とともに観光名所の1つとなっています.日南海岸のなかでも本当に素晴らしいのは,日南から野生猿で有名な幸島を経て都井の岬への海岸線で,最高のドライブコースです.いくつかのサーフスポットもあり,1年を通して若いサーファーの姿が見られます.また,日南市は広島東洋カープの,お隣の南郷町は西武ライオンズのキャンプ地としても有名です.

 当院の歴史は,昭和23年に病床数40床でスタートし,順次,診療科の増設と増床を行って,平成10年に現在の病院に改築されました.現在は日南市,串間市,北郷町,南郷町を医療圏とした人口約83,000人の中核病院で,病床数280床(平成18年10月に330床より減床),14診療科を有しています.平成15年には「地域がん拠点病院」に指定され,平成16年には日本医療機能評価機構の認定を受けました.平成19年1月現在,常勤医40名,非常勤医2名,研修医2名の計44名が勤務しています.勤務医のほとんどが宮崎大学医学部からの派遣医ですので,多くの診療科で宮崎大学の学生実習の受け入れを行っています.

国保日高総合病院外科

著者: 山口和哉

ページ範囲:P.515 - P.515

 御坊市は紀伊半島の海岸線のほぼ中央部,日高平野に位置しています.東西約8.4km,南北16.3km,総面積43.92km2で,2級河川日高川が東西を貫流し,市域を河北,河南に区分しています.人口は約27,000人で,温暖な気候と自然環境に恵まれた当地方は昔から紀州材の集散・加工が盛んで,肥沃な平野では米,麦,大豆,甘藷,綿などが生産され,江戸時代にはそれらを酒,醤油,酢,砂糖として日高大廻船で大阪,江戸へ移出していました.近隣の日高川町には安珍清姫で有名な道成寺や天文公園が,美浜町には紀州藩主の徳川頼宣が塩害を防ぐため築いた幅500m,長さ6kmにも及ぶ松林で有名な煙樹ヶ浜があります.特産品では金山寺味噌や釣鐘まんじゅうが有名ですが,プラスチック製の麻雀パイの生産が日本一なのはびっくりです.日本一と言えば,もう1つ紀州鉄道があります.御坊駅と西御坊駅を結ぶ紀州鉄道は,営業距離が2.7kmと短い日本有数の超ミニ鉄道です.昭和6年に開業したこのミニ鉄道は平均時速20数キロで,JR御坊駅と西御坊駅の間を8分かけてトコトコ走っています.

 当院は御坊市外五ヶ町病院経営事務組合が経営する病院で,一般病床301床,精神科病床100床,感染症病床4床を有する日高地方の基幹病院で,16診療科,常勤医40名,全職員388名が勤務しています.外科は4名のスタッフがおり,消化管,肝臓,膵臓,肛門および乳腺と幅広く診療に当たっています.外科スタッフ自身が上部・下部消化管内視鏡,消化管造影,内視鏡治療(ESD,EMR,EST)を行っており,手術に際しての患者様の術前評価を確実なものとしています.学会活動も外科スタッフ全員が日本外科学会,日本消化器外科学会,日本消化器病学会および日本消化器内視鏡学会の会員で指導医および専門医などを修得し,質の高い医療を提供しています.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・40

陥入爪に抜爪は必要か

著者: 大島秀男 ,   池井聡

ページ範囲:P.517 - P.519

 陥入爪は日常臨床でしばしば遭遇する有痛性の爪疾患であり,小さな病変にもかかわらず患者を苦しめている疾患の1つである.簡単な爪甲縁の処置や消炎処置によって症状が寛解することもあるが,容易に感染をくり返し,疼痛のため患者自身が根治術を希望することも多い.陥入爪患者の受診する診療科は外科,整形外科,形成外科,皮膚科など多岐にわたっており,治療方法も医師の判断や技量によって異なってくる.また,爪甲の変形が強度で爪床を巻き込んでいる彎曲爪は適切な治療がされずに放置されていることも多い1)

 陥入爪は爪甲先端や側縁が周囲の軟部組織に食い込み,疼痛,圧痛,腫脹など局所の炎症をきたした状態であり,ときに感染して膿瘍,肉芽を形成することがある.母趾に好発するが,ほかの足趾,手指に発症することもある.陥入爪は先天性または後天性爪甲変形,不適切な爪切り・抜爪,白癬菌などの感染症,不適合な靴の着用などが原因で発症する.いったん爪甲が爪溝・爪縁郭にめりこんで外傷が生じると,炎症によって爪縁郭は腫脹し,爪甲のめりこみがさらに強くなって症状は悪化する.したがって,陥入爪の予防にはいわゆる深爪を止めて適切な爪切りによって爪棘をつくらないようにすることと,履物はつま先に余裕にあるものをはくようにし,足趾を圧迫しないように注意することが求められる.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・14

1930年前後―三宅の『胃癌』その後とリンパ流の再検討

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.521 - P.530

【三宅の『胃癌』その後】

 1898年に始まったMikuliczの郭清体系が,その後欧米では大いに広まりをみせたことは前々回述べました.わが国でも三宅速のドイツ留学を契機としてそれが継承されたことは前回解説したとおりであります.しかし,Mikuliczの郭清体系を乗り越えるという意味でのリンパ節郭清の展開は,欧米でも日本でも1940年代に入ってからやっとその胎動をみることができるのです.これまでのMikuliczの郭清体系を超えていくためには,その道標となるべき理論,リンパ流研究が欠落していたからであります.未知の大海へ乗り出して行くための羅針盤がなかったのです.

 1930年を挟んで胃のみならず直腸のリンパ流への関心が高まりをみせ,それぞれの臓器のリンパ流研究では大きな成果が上がりました.直腸のリンパ流ではVillemin(1925年),仙波(1927年)の研究がGerotaの直腸リンパ流研究を超え,はるかに臨床に有効な成果をもたらしたことはすでに述べました(本連載第11回).胃リンパ流ではRouvière(1932年),松本(1933年),井上(1936年)の研究がPoirier,Pólya,Navratilの成果を凌駕し,より臨床的な知見をもたらしました.

外科学温故知新・19

肝臓外科

著者: 松股孝

ページ範囲:P.531 - P.535

1 肝臓外科における軸

 雑誌「消化器外科」の臨時増刊号『手術のための局所解剖アトラス』(へるす出版)は現在でも続版が出ているが,1983年に購入した初版に陣内傳之助氏が「手術野の軸を決めよ」と述べている.「上腹部の手術であれば常に正中線を軸として手術野を眺めるように心掛けている.そのため,私は患者の右側に立ってはいても,顔面を患者の頭側に向けて,努めて患者を縦に眺めるように心掛けている」という.姿勢正しい粛々とした手術の進行が目に浮かぶ.

 ところが,肝臓の手術ではなかなか軸が決まらず,術者のときであれ助手のときであれ腰に随分と負担がかかるのである.おかげで筆者は腰痛が持病になってしまい,今は毎朝欠かさずに腹筋運動50回と背筋運動100回をやって凌いでいる.これをやらないとデスクワークもできない.

元外科医,スーダン奮闘記・12

養護学校その後

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.537 - P.539

三郎丸小学校すみれ教室

 2006年12月,スーダンの小児科医を2人,日本に招待し,北九州の養護教育関連の施設を視察して回った.そのなかの1つに三郎丸小学校の特殊学級である「すみれ教室」があった.そのすみれ教室を舞台とした映画に1977年製作の「春男の翔んだ空」がある.主演は永六輔.あの舌足らずな声で熱血漢の教師を演じている.黒柳徹子なども友情出演しており,豪華キャストである.子供たちと一緒にラグビーをしている場面もあり,熱血教師とラグビーで「太陽がくれた季節」を思い出す.音楽担当はいづみたくである.永六輔が演じるのが「すみれ学級」創設に尽力された野杉春男先生である.実在の人物で,養護教育に情熱を傾けた先生である.不幸にも飛行機事故でこの世を去るのであるが,それまでの子供たちとの触れ合いを描いた映画である.私は恥ずかしながら,この映画や野杉先生のことを知らなかったが,三郎丸小学校を通じてそのことを知った.

 さて,私が日本を旅立つとき,三郎丸小学校「すみれ教室」から「スーダンの人たちへ」と題されたプレゼントを渡された.これを持ってスーダンの養護学校に赴いた.この養護学校はスーダン第2の都市であり,首都のハルツームから南に200キロほど離れたワッドメダニにある.2006年に養護学級を開設したが,そのときは生徒数4名からのスタートだったらしい.そして,学級も普通小学校の間借りであった.普通小学校も生徒が増えてきて,養護学級は別の場所に移されたり,つねに肩身の狭い思いをしているらしい.現在もジプシー状態は変わらず,役所の一部を借りている.ただし,生徒数は100名近くまで増えてきた.今までは家のなかにしかいなかったスーダンの障害児が新しく養護学級ができたことを知り,集まってきたようである.ただし運営はまだ磐石なものでなく,いつまた追い出されるのかわからないという.車は1台しかなく,生徒の送迎に相当な時間がかかるらしいが,辛抱しているらしい.それでもボランティアの先生たちの情熱で成り立っているようである.

臨床報告・1

腸回転異常症に併存した横行結腸癌の1例

著者: 境澤隆夫 ,   中山中 ,   大野康成 ,   竹内信道 ,   伊藤憲雄 ,   辻本和雄

ページ範囲:P.541 - P.544

はじめに

 腸回転異常症は一般的に新生児期から小児期に発症することが多く,高齢者になって発見されることはきわめて稀である.今回われわれは,腸回転異常症に横行結腸癌が併存した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

原発性アミロイドーシスの合併を認めたS状結腸憩室穿孔の1例

著者: 梅田幸生 ,   棚橋俊介 ,   水谷憲威 ,   後藤全宏 ,   飯田辰美

ページ範囲:P.545 - P.548

はじめに

 アミロイドーシスでは高率に消化管病変を合併することが知られているが,その多くは剖検にて証明されており1),臨床的に結腸穿孔として発見されることは比較的少ない.われわれは原発性アミロイドーシスによるS状結腸憩室穿孔を呈した症例を経験したので報告する.

胃型粘液形質を示した原発性空腸癌の1例

著者: 宮澤智徳 ,   田中修二 ,   小向慎太郎 ,   長谷川剛 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.549 - P.551

はじめに

 小腸癌は全消化管癌の0.1~0.3%程度の稀な疾患であるが1),病理組織学的には中~高分化型腺癌を示すものが多い2).一方,最近大腸癌において粘液形質発現の違いによる分類が試みられているが3),小腸癌ではまだ報告がない.われわれは,胃型粘液形質を示し胃上皮化生より発生したと考えられた原発性空腸癌の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

肝原発内分泌細胞癌の1切除例

著者: 尾崎岳 ,   海堀昌樹 ,   小池保志 ,   植村芳子 ,   関寿人 ,   上山泰男

ページ範囲:P.553 - P.557

はじめに

 消化管内分泌細胞腫瘍は,組織学的に低異型度で生物学的に低悪性度のカルチノイドと,高異型度で高悪性度の内分泌細胞癌とに大別される1).そのなかで肝原発神経内分泌細胞癌は稀な疾患であり,予後不良である2).今回われわれは,術前に肝細胞癌と診断し肝切除術を施行したが病理組織学的検査の結果肝原発神経内分泌細胞癌と判明した1症例を経験したので報告する.

胆囊内異所性膵組織の1例

著者: 小村俊博 ,   中川国利 ,   村上泰介

ページ範囲:P.559 - P.562

はじめに

 異所性膵組織は手術時や剖検時に腸管に偶然発見されることがある1,2).しかし,胆囊に異所性膵組織を認めた症例は少なく,本邦ではいまだ20例が報告されているに過ぎない3~10)

 最近われわれは,胆囊結石例に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を行い,術後の組織学的検討で胆囊内に異所性膵組織を認めた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸石を伴ったMeckel憩室出血穿孔の1例

著者: 中塚英樹 ,   小野寺真一 ,   西村淳 ,   河内保之 ,   新国恵也 ,   清水武昭

ページ範囲:P.563 - P.566

はじめに

 Meckel憩室は大部分が無症状で経過するが,ときに憩室炎,穿孔で発症する1,2).また,腸管内の結石(腸石)は稀な病態で,イレウスを発症することがある3).今回われわれは腸石を伴ったMeckel憩室の出血穿孔例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

乳腺matrix-producing carcinomaの1例

著者: 佐藤友威 ,   武藤一朗 ,   長谷川正樹 ,   青野高志 ,   岡田貴幸 ,   酒井剛

ページ範囲:P.567 - P.570

はじめに

 Matrix-producing carcinoma(以下,MPC)は骨・軟骨化生を伴う乳癌の一亜型であり,癌腫と骨・軟骨基質からなる化生癌で,両者の移行部に紡錘形細胞や破骨巨細胞が介在しないものと定義されている1).今回,MPCの1例を経験したので報告する.

コーヒーブレイク

医学と医療

著者: 板野聡

ページ範囲:P.454 - P.454

 以前からの手術や化学療法を中心とした癌の治療に,そのかなり早い時期から緩和ケアを併行して行うことが推奨され始めてきました.確かに,あまりに「医学的」な治療に力を入れ過ぎたために,かえって患者さんやご家族にとって寂しく辛い最期を迎えることになった時代もありました.こうした反省に立って,当院でも緩和ケアを早期から併行して行い,患者さんやご家族と相談しながらの治療を行うことに努めています.

 こうした問題を検討したおり,医学教育の場で模擬患者として活躍中の佐伯晴子さんの「あなたの患者さんになりたい―患者の視点で語る医療コミュニケーション」という本(医学書院刊)に出会いました.このなかで,佐伯さんは「人は必ず死ぬ」ということを前提に話を進めておられ,「その死の場面に居合わせるのも何かのご縁」と続けておられます.そして,そうした「人の死」に対して,「医学では敗北だったとしても,医療は最後まで味方であってもらいたい」と述べておられます.

書評

山雄 健次,須山 正文,真口 宏介(編)「画像所見のよみ方と鑑別診断 胆・膵」

著者: 竜崇正

ページ範囲:P.505 - P.505

 診断を体系づけるのが非常に困難な胆・膵疾患診断に待望の書が出版された.現在最も油ののっている消化器内科医である山雄健次,須山正文,真口宏介三氏の編集によるものである.三氏とも切れ味鋭い論理的な診断を展開している臨床医である.ただ多くの検査を投入して診断を進めるのではなく,必要最小限の診断法を組み合わせていつも患者の身になって親切丁寧に診断を進めていく臨床医である.各種診断法から得られた画像はどのような病理所見によって描かれたのかを常に検証している「画像診断プロ」とも言える存在である.本書はそのような「画像診断プロ」が熱く議論を戦わす場である「日本消化器画像診断研究会」で発表された貴重な症例が満載されている.疾患ごとに診断のポイントを整理してまとめてあるので,読者にとっては非常に参考になると思われる.

 病理所見との徹底的対比の中から得られた診断体系を呈示しているので,病変の形と性状から画像の特徴を整理し,それを根拠に選択すべき検査法を呈示している.

外科医局の午後・30

マンモグラフィ教

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.516 - P.516

 50歳を超えて久しぶりに「試験」に挑戦した.NPO法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会主催の「マンモグラフィ読影資格試験」である.このような資格が認定されるようになったのは,40歳以上の乳癌の検診に触診だけでなくマンモグラフィ検査を併用することが望ましいとした厚生労働省の指針が出されたことによるものであるらしい.私は一時,乳癌診療を準専門的に行っていた時期もあったが,転勤で勤務先も代わり,また別の地でゼロから始めるには歳をとりすぎたという理由でここ5年くらいは乳癌診療にはタッチしていなかった.

 しかし,どこからともなく「マンモグラフィ読影資格試験」というものが存在するということを知り,資格だけは取っておきたいという気軽な気持ちで講習会付きの読影試験を申し込んだ.講習会前に参考となる本をざっと読んで講習に臨んだが,この考えがいかに甘かったかを理解するのにそれほど時間は必要でなかった.7人ずつに分けたグループ別の講習会が始まったとたんに,私は高いお金を払って安易に講習会に参加したことを後悔した.いきなり「構築の乱れ」のコーナーに連れて行かれた.順番に所見を言って,カテゴリーをつけよ! ということであるが,さっぱり「?」である.なんとか恥をかかないように,とそればかりであっという間に2日間にわたる講習は終了し,続いて行われた100症例のマンモグラフィ読影試験を受験した.結果は望むべくもなく「C」判定で不合格.「D」判定でなかったのがわずかの救いであった.

昨日の患者

プロの職業意識

著者: 中川国利

ページ範囲:P.519 - P.519

 人は同じ仕事に永らく勤めていると,非常なるときでもプロ意識が目覚めることがある.術後の精神錯乱のなかでも仕事の話をし,さらに話す内容が正鵠を射ていたため,われわれ医療従事者が大いに反省させられた患者さんを紹介する.

 Kさんは70歳代後半で,老舗の旅館の番頭を永らく務めていた.血便を主訴として来院し,精査をすると直腸に癌を認めた.そこで,直腸前方切除術を施行した.

ひとやすみ・19

印象深い患者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.566 - P.566

 永らく教師を勤めた私の両親によると,「教師にとっての印象深い教え子とは,素直で勉強がよくできた生徒では決してない.手がかからなかった生徒はあまり印象になく,逆に登校拒否,喧嘩,盗み,家出など数々の問題を起こした生徒ほど印象に残るものである.そして,これら問題児ほどいつまでも担任教師を慕ってくれることが多く,優良児ほど恩師を忘れやすい」と.

 外科医にとっての印象深い患者さんとは,いかなる患者さんであろうか.つつがなく手術が終了し,合併症や再発もなく経過した患者さんはほとんど印象に残らない.一方,何時までも印象に残るのは,手術時に重大な偶発症が生じたり,術後に合併症が生じて苦労したり,再発を繰り返して不幸な結末を迎えた患者さん達である.そして,苦労して救命し得た患者さんほど意思が通い合い,いつまでも親しみをたがいに持つものである.ただし,元主治医として忸怩たる気持ちも抱くが.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.576 - P.576

 病院関係者にとって,喫煙の問題はなかなか大変である.4年前に病院機能評価の認定を受けるときにもこの扱いに困った.当時の基準では分煙がしっかりとなされていればよいとのことであった.外来患者の受付前に喫煙室が設けられており排煙シムテムも完備したもので,基準は十分に満たしていた.喫煙室はガラス張りで,椅子がなく立ったままでタバコをくゆらせるのである.この中でいつしか白衣姿の喫煙者がみられるようになり,この数がどんどん増えてしまう.これもまたいささか異様な光景であった.

 また,機能評価の認定状況に関する情報を分析すると完全な禁煙がどうも必要なようであり,とにかく院内ではいっさい喫煙を認めないことになった.この決定後,数か月して各医局や当直室を抜き打ち検査した.何となく秘密警察みたいで嫌な役割であるが,これが結構役に立った.医局の扉を開けたとたんに,タバコを口にくわえた医師がうろたえたりしたものである.ある医局では,私たちはタバコを吸いませんと大きなポスターが張ってあり,感心して見てみると“吸いません”が“吸います”になっていた.喫煙者の抵抗もなかなかのものである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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