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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

特集 外来がん化学療法と外科

はじめに

著者: 久保田哲朗

ページ範囲:P.599 - P.601

 近年,患者の在宅治療によるQOL(quality of life)の改善や病床の効率的稼動など種々の要因に基づいて,がん化学療法の外来への移行が行われるようになってきた.特にわが国においては,2003年4月から全国特定機能病院の82施設に導入された包括医療評価制度diagnosis procedure combination(以下,DPC)が,がん化学療法の外来移行への大きな誘因となった.DPCは米国におけるDrug Related Group/Prospective Payment System(DRG/PPS)の日本版として導入されたが,DRG/PPSが主に米国の保険会社の要求によって成立した一疾患に月いくらの「まるめ請求」であるのに対して,DPCは疾患の組み合わせ(combination)について入院期間につき請求額を1日いくらと定め,そのうえで施設ごとに係数を乗ずる方式である.現在のところDPCの適応は入院治療に限られており,外来は従来どおり出来高払い請求であることから抗がん剤外来投与が広く行われるようになった.

 FOLFOX4(FOLate+Fluorouracil+OXaliplatin)は現在,大腸がんに対する標準的なレジメンである.図1は5-fluorouracil(5-FU)+leucovorin(LV)とFOLFOX4レジメンを入院(DPC)と外来で比較した請求額である1).入院では5-FU/LVで3,044円/日,FOLFOX4で88,140円/日の請求となるため,通常の月4日あるいは6日入院では外来の出来高収入を上回ることはできず,入院FOLFOX4で出来高収入を上回るには月8日の入院が必要となる.これでは患者に日常生活に著しい負担をかけることになり,QOLの改善を期待することはできない.すなわち,FOLFOX4はDPC下では外来を原則にせざるを得ず,当院でも初回ポート挿入時に入院で1回目の投与を行い,以降は外来治療へ移行して約半数が自己抜針,残りの半数は外来で抜針を行っている.外来化学療法は患者のQOLのみならず病院の収益上も大きな意義を有しており,病院の収益向上が患者サービス向上の基本であることから,病院収益・患者サービスの向上の面からも重要な意味がある.

外来化学療法センターのシステム構築―東北大学病院化学療法センターの例

著者: 加藤俊介 ,   吉岡孝志 ,   石岡千加史

ページ範囲:P.603 - P.611

要旨:最近の化学療法および支持療法の発展,および社会情勢の変化により,多くの患者が外来で化学療法を受ける機会が多くなってきている.欧米ではすでに外来化学療法は一般に普及しているが,わが国における外来化学療法の歴史は浅く,安全かつ効率的な化学療法を行うためのシステム構築は重要である.東北大学病院では多職種からなるワーキンググループによって運用マニュアル(フローチャート)を作成し,その過程で浮き彫りにされた問題点の対処からシステムを構築していった.この作業から,厳正なプロトコール管理と運用,さらに起こり得る事態を想定したリスクマネージメント,さらにそれらを支える診療支援システムの構築が重要であると考えられた.

外来がん化学療法のリスクマネジメント

著者: 堤荘一 ,   浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.613 - P.617

要旨:群馬大学医学部附属病院の外来がん化学療法は2003年1月に外来点滴センターが開設されてスタートした.その後,利用件数が増加し,2006年12月からは新中央診療棟移転に伴って外来化学療法センターとして再スタートした.これまで,安全対策として院内の化学療法を標準化するために抗癌剤治療プロトコール審査・登録委員会発足させ,活動を行ってきた.外来がん化学療法はハイリスクであり,利用患者増加に対応すべくリスクマネジメント活動について組織として取り組む必要がある.

外来化学療法におけるチーム医療

著者: 大野真司 ,   山口博志 ,   内田陽子 ,   中村吉昭 ,   片岡明美 ,   江崎泰斗 ,   大島彰

ページ範囲:P.619 - P.625

要旨:近年,医療ニーズが「急性期疾患」から「慢性疾患」へ移行し,「患者中心の医療」へ大きく変貌するなかで「チーム医療」が注目されている.外来化学療法では患者の身体面だけでなく,心理的・社会的・倫理的・経済的側面にも配慮した全人的医療が行われる必要があり,患者の満足を目的とした多職種によるチームアプローチが求められている.よりよいチーム医療(multidisciplinary care and treatment)の構築には患者-医療者間および医療者間の良好なコミュニケーションが基本となる.

医療経済からみた外来化学療法

著者: 長尾二郎 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.627 - P.630

要旨:近年,わが国の医療を取り巻く環境は政策的な医療費抑制の流れを避けて通ることはできない状況にある.各医療機関においてはDPCによる入院医療の包括化などの医療保険改革を視野においた在院日数の短縮化による入院治療費の削減対策に迫られている.その一方で,年間総死亡の約31%は悪性新生物であり,年々,増加傾向を示している.今後,がん化学療法の適応となる患者は増加の一途が見込まれる.本稿では,最近の医療経済の観点から外来がん化学療法の現状と問題点について概観する.

―日本のスタンダード―食道癌に対する外来化学療法

著者: 堤謙二 ,   宇田川晴司

ページ範囲:P.631 - P.636

要旨:食道癌に対する化学療法はこれまで入院治療が原則であったが,患者のニーズや医療状況の変化から外来化学療法の必然性が認識されており,さらに診療報酬の改定によって外来化学療法加算が算定可能となったことから,今後は外来治療へ徐々にシフトしていくものと考えられる.しかし,進行食道癌患者は必ずしも良好なPSとは言えず,外来通院治療の適用は十分な全身状態評価と社会的背景も考慮のうえ,決定しなければならない.また,地域・施設間格差のない医療環境の整備も必要である.食道癌化学療法の現在の標準治療である5-FU+cisplatin療法をはじめ,多くの治療法が入院を要するため,外来化学療法が可能である治療法の開発が急務であるが,わが国では保険適応となっている抗癌剤は少なく,今後,海外で有効性が示唆されている新規抗がん剤の早期承認や,5-FUに代わる経口フッ化ピリミジン剤(TS-1,capecitabine)の導入が待たれる.

―日本のスタンダード―進行・再発胃癌に対する新規抗癌剤を用いた外来化学療法

著者: 大橋学 ,   神田達夫 ,   金子耕司 ,   小杉伸一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.637 - P.646

要旨:進行・再発胃癌に対する標準治療はなく,臨床試験や実地医療として様々なレジメが存在している.本稿では新規抗癌剤を用いて外来を中心とした治療が可能で,臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われ,論文発表が行われているレジメについて概説した.S-1においては単剤,S-1+CDDP,S-1+low dose CDDP,S-1+CPT-11,S-1+paclitaxel,S-1+docetaxel,そのほか,CTP-11単剤,CPT-11+CDDP,CPT-11+MMC,paclitaxel単剤,paclitaxelウイークリー投与,paclitaxel+5-FU,docetaxel単剤について,それぞれの用法,用量,効果,毒性について述べた.

―日本のスタンダード―外科医にとって必要な大腸癌化学療法

著者: 三嶋秀行

ページ範囲:P.647 - P.652

要旨:オキサリプラチンが導入され,5FU,irinotecanとともに大腸癌に有効な3種類の薬剤が使用できるようになった.FOLFOX,FOLFIRIが切除不能転移再発大腸癌に対する標準化学療法である.国内での標準補助化学療法は5FU/LVであるが,UFT/LVも普及している.いずれも大半は外来化学療法として行われている.FOLFOXの肝転移に対する術前化学療法には,肝障害による合併症増加という問題が並存している.腫瘍内科医が不足している状況では,外科医は手術の達人であるだけでなく,急速に変化する化学療法も習得し,副作用のマネジメントに精通して安全に治療を行うスーパーマンでなければならない.

―日本のスタンダード―肝癌に対する外来化学療法

著者: 吉留博之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.653 - P.657

要旨:現在のところ,肝細胞癌に対して,わが国におけるgolden standardと考えられる化学療法は存在していないのが実情である.単剤で効果を認める薬剤はcisplatin,epirubicin,mitoxantroneなどであり,主に肝動注化学療法の有効性が報告されており,low dose FP療法やインターフェロン併用化学療法がその代表的なものである.今後,大規模無作為比較試験によってその有効性が明らかとなると考えられる.外科的には,腫瘍栓併存などの高度進行例におけるdownstagingによる切除例数の増加や術後補助療法などが今後の外科治療戦略のなかで重要になっていくと考えられる.

―日本のスタンダード―非小細胞肺癌の外来化学療法

著者: 清水淳市 ,   光冨徹哉

ページ範囲:P.659 - P.667

要旨:DPCの導入や医療経済的な理由によって,わが国においてもがんの化学療法を外来で行うことが多くなった.肺がんに対するカルボプラチン併用療法や非プラチナレジメンは一般に有害事象の程度も軽く,外来で施行しやすい.嘔吐や白血球減少などに対する補助療法の進歩など,より外来化学療法を施行しやすい環境が整いつつある.しかし,外来化学療法では有害事象のチェックを患者自身でも行う必要があり,安全性の担保のためには患者教育がより重要である.一方,シスプラチン併用療法は水分負荷の必要性や有害事象が一般に強いことから,わが国では入院で行われることが多い.米国ではシスプラチン併用療法であってもほとんど外来で行われており,体制が整っていれば問題なく施行できることが示されている.外来化学療法において最も重要なことは利便性のために安全性が犠牲にならないことである.本稿では,そのために知っておきたい留意点について解説した.

―日本のスタンダード―乳癌に対する外来化学療法

著者: 柳田康弘 ,   木下照彦 ,   藤澤知巳

ページ範囲:P.669 - P.676

要旨:乳がんの生命予後を改善するには,全身治療としての補助療法を適応基準に従って適切に行うことが重要である.現在,補助療法としてエビデンスのあるレジメンはアントラサイクリン系薬剤を含むレジメンとタキサン系薬剤のレジメン,およびその併用とCMF療法である.化学療法が必要な症例に対して手術前に化学療法を行う術前化学療法は,個々の乳がんに対する薬剤感受性を知ることおよび乳房温存率の向上に有用である.転移・再発を起こしてしまった患者においてはquality of life(QOL)と延命を考慮した治療戦略が必要で,ホルモン療法剤や化学療法剤の特性を理解し,順次投与していく.

外来化学療法の今後

著者: 坂本純一 ,   森田智視

ページ範囲:P.677 - P.686

要旨:癌に対する化学療法による治療は長期間遂行する必要があるが,医療費の負担が大きいため入院加療期間をできるだけ短くし,外来における治療を中心にシフトさせる必要が出てきた.外来化学療法加算など経営的に収益性を担保する施策も実施されたことから,癌に対する外来化学療法は今後,多くの医療機関で広く行われるようになるものと思われる.外来化学療法を行っていくうえでは,きっちりとしたクリニカルパスを策定し,外来治療時また帰宅後の在宅時の副作用に対する対策を万全にするために専門家を育成し,医師,外来看護師,専門薬剤師などによるチーム医療を充実させ,入院治療と同等の安全性だけでなく,より優れたQOLの達成を目的としなければならない.また,病診連携を密接にし,診療所における治療やフォローアップも充実させる必要があり,今後こういった問題を解決するためのセンター施設と関連診療所の間における情報交換や,合同診療会議による意見のすりあわせなどがより頻回に行われるべきであろう.今後,注意しなければならないことは,外来化学療法が広く行われるようになったあとで政策が変換され,DPCだけでなく入院・外来を併せた包括医療制度が実施されるリスクが残っていることであり,この観点からみると,病院経営を安定させ,患者の利益を守っていくために,医療行政の動向に注意しながら外来化学療法を注意深く充実させていくことが必要になってくるものと思われる.

カラーグラフ 診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・17

肺悪性腫瘍

著者: 武井秀史 ,   呉屋朝幸

ページ範囲:P.581 - P.587

はじめに

 高分解能CTやマルチスライスCTに代表される画像検査機器の進歩によって,近年の肺癌の画像診断,特に存在診断,質的診断,病期診断は飛躍的に進歩した.また,CT画像を用いたスクリーニングが実施されるようになり,胸部単純X線写真では捉えることのできなかった小型の肺癌に遭遇する機会が増えている.

 本稿では,CT画像所見と病理所見との対比を中心に代表的な肺悪性腫瘍について述べる.

診療に役立つ肉眼像と組織像の理解―マクロからミクロ像を読む・18

大腸良性疾患―炎症性腸疾患

著者: 杉田昭 ,   小金井一隆 ,   木村英明 ,   山田恭子 ,   二木了 ,   福島恒男 ,   鬼頭文彦

ページ範囲:P.589 - P.597

はじめに

 大腸良性疾患には腫瘍性病変と非腫瘍性病変がある.後者では炎症性腸疾患が多くを占めることから,本稿では近年,増加傾向のある炎症性腸疾患について述べる.

 炎症性腸疾患には感染性腸炎,薬剤,膠原病,血流障害による腸炎,非特異性腸炎などが含まれる.本稿では非特異性腸炎のうち,近年,増加して日常診療で診察する機会の増えた潰瘍性大腸炎,Crohn病をはじめとして,単純性潰瘍,直腸粘膜脱症候群,鑑別診断として重要なアメーバ性大腸炎について肉眼所見と組織所見を検討する.

外科学温故知新・20

小児外科

著者: 松尾進

ページ範囲:P.687 - P.694

1.はじめに

 小児外科(pediatric surgery, Kinderchirurgie)は小児の先天性疾患に対して外科的治療を行う分野である.子どもは大人のミニチュアではないと言われるが,小児外科が成人外科から独立した理由は,新生児・乳児の解剖学的・生理学的特徴を理解したうえでの小児特有の術前・術中・術後管理の必要性によるものである.本稿では,欧米で始まった小児外科の歴史とわが国の小児外科の歩み,未来への展望を述べる.

元外科医,スーダン奮闘記・13

巡回から拠点診療所へ

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.695 - P.697

助っ人ドクター

 今年はじめから,日本から3か月の予定で助っ人の女医さんが来てくださっている.矢野和美先生である.矢野先生は「国境なき医師団」での経験を有し,現在はHUMAのメンバーで,ネパールやパキスタン,インドネシアでの活動の経験がある.もともと欧米系のNGOの一員としてスーダン南部で活動予定であったが,治安の悪化などの状況によってこの団体が男性医師を要求してきたために,南部での活動から,ロシナンテスの参加となった.ある意味,この治安悪化がロシナンテスに幸運をもたらしたのかもしれない.矢野先生のお父様が私の高校の大先輩であり,ロシナンテスを応援してくださっている関係上,われわれの団体に関心を持ってくださったとのことである.

 さて,彼女が来たのはよいが,スーダンでの事務所兼住居は男所帯であり,何しろ汚い.最初の日に,この布団で寝てくださいと渡したものが,どうも臭くて寝られなかったらしい.次の日,臭いと言われるので,私と霜田,それに竹友が匂ってみると,誰も臭いとは言わない.何せ自分たちの匂いだからである.それでは,外に干しましょうと私が言い,外に持ってかけてみた.すると,何とその布団にハエがたかっているではないか.やはり,われわれに汚物が染み込んでいたに違いない.霜田は「ラグビー部の部室エキスですよ」と言う.その通りかもしれない.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・41

外傷治療後に抗生剤投与は必要か

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.698 - P.699

【素朴な疑問】

 一口に外傷の処置と言っても多種多様である.われわれ外科医はほとんどの外傷あるいは熱傷,膿瘍の処置などのあと,必ずと言ってよいほど経口の抗生剤を投与してきた.多くは抗生剤,鎮痛剤,胃薬がセットで,3日間投与が平均的である.

 はたして本当に,ほぼ外傷症例の全例に投与は必要なのであろうか.あるいは創の感染あるいは化膿防止に役に立っているのであろうか.

病院めぐり

橋本市民病院外科

著者: 青木洋三

ページ範囲:P.700 - P.700

 和歌山県の東北端,紀伊半島のほぼ中央に位置する橋本市は人口約7万5千人で,北は大阪府,東は奈良県,南は九度山町と世界遺産で有名な高野山を擁する高野町,西はかつらぎ町に接し,面積約130平方キロメートルの林間田園都市である.市の中心部でJR和歌山線と南海高野線,国道24号線と国道371号線がそれぞれ交差する交通の要であり,市の中央部を東西に「母なる川」紀ノ川が流れ,北岸に沿って市街地,集落が発達して今日に至っている.

 当院は昭和22年,伊都郡橋本町大字妻に一町六ヶ村組合立国保病院として設立された.その後,類焼による病院の全焼や台風による水害といった災害を蒙りながら3回の改築・移転を繰り返し,平成16年11月に昭和38年以来市民に親しまれてきた旧病院から現在地に移転した.現在は橋本医療圏の急性期医療を担う300床を有する基幹病院として位置づけられるに至っている.

仁生会細木病院外科

著者: 上地一平

ページ範囲:P.701 - P.701

 高知市は四国山脈を背に太平洋に面した高知県の中央部に位置しており,人口は約32万人です.約400年前に長宗我部元親が施政するに至ってのち,政治・経済・文化の中心都市として発展を続けてきました.幕末には坂本龍馬や武市瑞山などの勤王の志士を輩出し,維新の基礎を築いた土地です.最近ではNHK大河ドラマ「巧名が辻」の山内一豊・千代でも話題になりました.

 当院は高知市の中心部に位置し,病床数320床(一般病床184床,医療療養病床82床,看護療養病床54床)の総合病院です.2006年に創立60周年を迎え,戦後高知の地域医療を支えてきた民間病院です.2001年に日本病院機能評価機構の審査に合格し,2005年には2度目の審査にも合格しました.救急を標榜していないこともあり,内科,整形外科,リハビリテーション科を中心に慢性疾患の患者さんが多く,外科では主に消化器外科,肛門外科,乳腺外科を行っています.2003年には14床の緩和ケア病棟を開設し,末期癌患者さんの紹介も増えてきています.常勤の外科医は私と副院長の北村宗生先生の2人ですが,当院が日本外科学会の関連施設ということもあって,週1回,高知大学医学部附属病院1外科から花崎和弘教授と3年目のドクターにお手伝いに来ていただいています.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・15

1940~50年代の展開(1)―展開の方向と米国での実践

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.703 - P.715

【展開の方向と樹幹論文】

 1898年,第27回ドイツ外科学会における演説から始まるMikuliczのリンパ節郭清体系は,その後30年以上にわたって欧米,そしてわが国における胃癌外科の基本として引き継がれてきました.1930年代に入り,胃癌切除術死率の低下に伴う切除成績の向上への希求の高まりを背景に,Mikuliczの郭清体系を乗り越える気運が洋の東西にみなぎってきたことが本連載のこれまでの要旨です.そして前回ではRouvière,井上の胃リンパ流の再検討を紹介し,その気運が一段と嵩じてきたことを述べました.しかし,このリンパ流の再検討が胃癌郭清術式の展開へとつながりMikuliczの郭清体系を越えるまでには,まだいくつかの課題が検討を待っていました.

 1898年のMikulicz演説以来,胃癌には4つの進展様式があることはすでに知られていました.その病理知見・所見の術中での同定が確実性を増し一般化してくると,それぞれの進展様式への対処法にも多くの関心がもたれるようになったからです.4つの進展様式は互いに関連し合っているのですから,1つの進展様式への対応のみを考えることは実際的でなく,4つの進展様式を同時進行的に考慮しながらそのなかで個々の進展への対処を考えることが実践的であります.

臨床研究

StageⅡ結腸癌治癒切除後再発高リスク因子の検討

著者: 入山拓平 ,   加藤俊夫 ,   重盛恒彦 ,   深谷良 ,   毛利智美 ,   伊藤佳之 ,   矢谷隆一

ページ範囲:P.717 - P.720

はじめに

 Stage Ⅲ結腸癌では術後補助化学療法によって再発が抑制され,癌による死亡率が有意に低下することが明らかにされている1,2).これに対してStageⅡ結腸癌では術後補助療法の有効性が検証されておらず,術後の補助療法には消極的な見解が一般的である3).大腸癌研究会編のガイドライン4)でも「StageⅡ結腸癌に対する術後補助療法の有用性は検証されていない.一方,再発リスクの高いStageⅡ結腸癌には術後補助療法を行う場合もある」と記載されており,stageⅡ結腸癌では再発高リスク因子を有する症例に限って治癒切除術後補助療法を行うというコンセンサスはある.しかし,再発高リスク因子の検討はまだ進んでいないのが現状である.

 今回,筆者らはstageⅡ結腸癌治癒切除後の再発高リスク因子について臨床的検討を行い,いくつかの知見を得ることができたので報告する.

臨床報告・1

破骨細胞様巨細胞を伴う乳癌の1例

著者: 岡田健一 ,   佐藤宏喜 ,   佐藤知美 ,   玉田智之 ,   佐久間正祥 ,   堀眞佐男

ページ範囲:P.721 - P.724

はじめに

 破骨細胞様巨細胞(osteoclast-like giant cells:以下,OCGC)を伴う乳腺悪性腫瘍は乳癌全体の0.5~1.2%と非常に稀である1).今回,筆者らはその1切除例を経験したので報告する.

回盲部に発生した黄色肉芽腫の1例

著者: 山口由美 ,   池田光之 ,   西土井英昭

ページ範囲:P.725 - P.728

はじめに

 黄色肉芽腫は脂質を含む泡沫状の組織球を伴う肉芽組織の増生を特徴とし,胆囊や腎が好発部位とされている1).今回,回盲部腫瘤として発症したきわめて稀な黄色肉芽腫の1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

甲状腺乳頭癌の内頸静脈と腕頭静脈内腫瘍塞栓症の1手術例

著者: 高野歊 ,   久保田穣 ,   平間公昭 ,   楠美智巳

ページ範囲:P.729 - P.734

はじめに

 わが国において乳頭癌は甲状腺癌のなかで大部分を占め,その予後は比較的良好とされているが,年齢や性別,遠隔転移の有無,腫瘍の大きさ・浸潤の程度によって予後に相違がみられる1)

 今回われわれは甲状腺乳頭癌が左内頸静脈と左腕頭静脈内へ進展した腫瘍塞栓症の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

肛門管癌術後8年目に心臓腫瘍および多発肺梗塞をきたした1例

著者: 露木茂 ,   西澤弘泰 ,   菅野元喜

ページ範囲:P.735 - P.739

はじめに

 心臓腫瘍の多くは転移性であり,原発性心臓腫瘍の20~40倍の頻度である1).しかし,大腸癌,胃癌からの心臓転移は10%前後と頻度が低い.

 今回,われわれは肛門管癌術後7年目の骨盤内再発の症例で,加療中に血小板減少を契機に心臓腫瘍および多発性肺梗塞を認め,肛門管癌の心臓転移と推測された1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

特異な進展を呈した左肺扁平上皮癌の1例

著者: 関みな子 ,   金井歳雄 ,   中川基人 ,   松本圭五 ,   小柳和夫 ,   岡林剛史

ページ範囲:P.741 - P.744

はじめに

 肺癌の原発巣および転移巣の腹腔内臓器への直接浸潤は稀であり,なかでも胃壁に浸潤して消化管出血をきたした症例は,わが国では2例の報告をみるに過ぎない1,2).また,肺癌症例において血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2 rec)が高値を示すものは予後不良との報告がある3,4)

 今回,肺膿瘍との鑑別が困難な左肺尖部扁平上皮癌の症例を経験した.sIL-2 recが高値を示し,切除後ごく早期の局所再発や再発巣の胃への直接浸潤という稀な進展形式を呈した症例であった.本稿では,この症例につき文献的考察を加えて報告する.

外科医局の午後・31

私が医者になった理由(わけ)

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.625 - P.625

 人生50年を超え,とうに折り返し地点を過ぎた.ふと自分の人生を振り返ってみて,自分はなぜ医者になったのだろうかと考えてみた.また今度生まれ変わっても,医者を志すだろうか.医者という職業を選択していなかったら私の人生は大きく変わっていただろうと思われる.

 私が医学部受験を決めたのは高校3年の夏休みであった.私の家は親が医者でもなく,それまではまったくその気はなかった.ただ母親の親戚に長年続いた医者の家系があり,そのうちの1人から「今,親戚で医者になれそうなのは君くらいだから,ぜひ医学部を受験したら」と勧められた.親からの勧めもあり,その気にさせられて医学部受験に変更した.あれがなかったら今はまったく違う人生を歩んでいたと思うと,人生とはいかに簡単に変わるものかとつくづく思う.18歳で医者を志し,幾多の紆余曲折を経て26歳で晴れて医者になった.なぜ外科を選択したかは別稿にゆずるとして,今から考えると「なぜ医者になったか」と問われると,進路を決めた時の一瞬の気持ちとしか言いようがない.

コーヒーブレイク

時の流れと神様

著者: 板野聡

ページ範囲:P.686 - P.686

 数か月前,通常の手順で無事に終了したはずの患者さんで,数日後に再手術を行う事態が発生しました.なんとか再手術は成功してことなきを得ましたが,栄養状態の悪化から腹壁創部に感染が起こり,しばらくの間,傷の処置に努めることとなりました.医学的には起こり得ることと自分を慰めてはみても,毎朝夕の回診に加え,ご本人やご家族への説明にかなりのストレスを感じる日々が続くこととなりました.

 そんな必死な日々が一段落し,あれこれと考える余裕が出てきた頃になって,「私が処置し,神が治し賜う」という,パレ先生のあの有名な言葉が頭に浮かんできました.そして,「確かに,毎日私が傷の処置をして,そのたびに早く治ってくれと祈っているよな」と納得したとき,ずいぶん前に先輩から教えられた言葉が思い出されました.

ひとやすみ・20

手術と職人技

著者: 中川国利

ページ範囲:P.734 - P.734

 和菓子職人は,握った感覚で皮や餡の分量を瞬時に決め,いちいち秤を用いて測定したりはしない.しかしながら,造られた和菓子の大きさは一定であり,個々の重量もほぼ同じである.また,某牛丼屋のマニュアルでは,丼に盛り付ける牛肉の量は85gが適量であり,90gを超えても80g以下でもいけない.杓子を回すことによって,肉の量を一定に保つ技が要求される.どの世界でも達人と称される職人は,永年にわたる努力によってのみ会得できる巧みな技を持っているものである.

 ところで,外科医の仕事は何であろうか.日本では単に手術するだけではなく,術前検査,周術期の全身管理,術後の癌化学寮法など,種々の仕事が外科医には要求されている.しかし,外科医本来の仕事はやはり手術である.すなわち,病巣を切除してquality of lifeの高い生活を過ごせるように努めることが最大の職務である.さらに,個々の患者さんにエビデンスに基づいた最適な手術を的確に,そして素早く行う必要がある.そのためにはつねに最新の知識を取り入れるとともに,技術の習熟に努める必要がある.

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.748 - P.748

 2006年6月に成立した「がん対策基本法」によって,がん対策においてはより一層の充実を図ることが示され,様々な事業が推進されているが,「腫瘍専門医」の養成も急ピッチで展開されている.この腫瘍専門医の数的,質的向上に対する関連学会および行政などの精力的貢献には目を見張るものがあるが,一方,現状に目を移すと腫瘍内科医が比較的広く確立している欧米と異なり,日本における固形癌に対する化学療法は,その善し悪しは別として,かなりの部分を外科医が担っていることもまた現実である.また,以前の気休め的な化学療法の時代を脱し,有効性の高い薬剤の開発が進むなか,多くの外科化学療法医はその膨大な情報量と急速な進歩にとまどいを隠せないことも多い.DPCの導入とともに急速に広がった外来における化学療法は,チーム医療という医療の形態を基盤に進化し続けている.

 しかし考えてみると,手術室で仕事をするとき,決まった手順に沿った「手術の流れ」や,麻酔医,介助看護師,ME,事務などとの協力関係の善し悪しが成功の鍵を握っていることは多くの外科医の実感であろう.そして,そのようなチーム内において互いを尊重,理解し,またそれぞれの知識,技術,そして意欲を高める努力が多くの現場で展開されている.つまり,チームで行う医療の重要性を一番理解しているのも外科医と言っても過言ではないのではないだろうか.言い換えれば,決まった手順に沿った医療やチーム医療の重要性,有効性を最も理解し応用できるのも麻酔医を含めた外科系医師なのかもしれない.「腫瘍内科医」に多くのご助力,ご教示をいただきながら,チーム内の密な連携のもと,がん化学療法における外科医の果たすべき役割はさらに大きくなっているものと思われる.外科医が主たる読者である「臨床外科」で「外来がん化学療法」を特集として取り上げる意味はまさにそこにあるのではないかと考えている.本特集が,化学療法を実践している多くの外科医に新たな展開をもたらすことを期待してやまない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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