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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

特集 肝胆膵術後合併症―その予防のために

門脈枝塞栓術

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.769 - P.774

要旨:近年,肝切除の安全性が確立され,大腸癌多発性肝転移,肝門部胆管癌,肝細胞癌などに対して積極的に拡大肝切除をする傾向にある.しかしながら,根治性のために大量肝切除が必要となる症例では術後の肝不全が危惧される.肝が正常と考えられる症例で,術前の残肝容積が全肝容積の40%以下と予想される場合には術前門脈枝塞栓術を施行する.これにより塞栓葉は萎縮し,非塞栓葉である予定残肝の代償性肥大が期待され,拡大手術後の肝不全のリスクを軽減することができる.門脈枝塞栓術は手技に伴う合併症も少なく,門脈枝塞栓術後に切除可能となった症例の生存率は門脈枝塞栓術非施行の切除例の生存率と変わらず,今日では大量肝切除が必要と考えられる症例では必須の手技となった.

肝実質温存肝切除

著者: 清水宏明 ,   木村文夫 ,   吉留博之 ,   大塚將之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   野沢聡志 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   須田浩介 ,   吉岡伊作 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.775 - P.782

要旨:近年の肝切除手技の向上,周術期管理の進歩などにより,肝胆道悪性疾患に対する手術適応の拡大,および拡大手術の導入がなされてきているが,その一方で術後合併症発生率の問題などいまだ解決すべき問題も残されている.術後合併症,特に術後肝不全の発生は肝予備能・切除肝容量に依存することは明らかであり,その対策として,最近では予定残肝の再生・肥大をはかる選択的門脈枝塞栓術が広く用いられている.一方で,治癒切除が得られる最小限の肝切除にとどめ,可及的に肝実質を温存する肝切除術(parenchyma preserving hepatectomy)も術後肝不全の回避には有用なstrategyの1つとされる.本稿では,肝門部に癌腫が限局し,脈管浸潤を認めない肝門部胆管癌症例,特にハイリスク患者(肝機能不良,合併症をもつ高齢者,肝膵同時切除例)に対して適応とする肝実質温存肝切除術(S1,S1+S4切除),さらには,肝細胞癌が尾状葉paracaval-portionなど肝背側深部に位置し,肝実質切除量が制限されるような肝機能低下症例に対してのtranshepatic anterior approachによる肝切除について概説する.

肝切離法の工夫

著者: 片桐聡 ,   有泉俊一 ,   小寺由人 ,   山本雅一

ページ範囲:P.783 - P.788

要旨:合併症のない肝切除術を行うために今までいくつかの工夫を重ねてきた.その工夫は肝実質切離の工夫のみでなく,肝切離に至るまでの処置も重要である.具体的には開腹法や肝実質切離に先行した脈管処理,出血コントロール法,静脈処理,肝臓の把持などの技術面での工夫と,肝切除に用いる器材の開発に分けることができる.単一の工夫のみではなく,今まで肝臓外科にかかわった諸先輩方の工夫の積み重ねが現在の安全な肝切除に直結している.

閉塞性黄疸の減黄処置(限局性胆管炎を含む)

著者: 平野聡 ,   近藤哲 ,   狭間一明 ,   岡村圭祐 ,   鈴木温 ,   七戸俊明 ,   田中栄一

ページ範囲:P.789 - P.792

要旨:バイパス術などの低侵襲手術や膵頭十二指腸切除術においては胆管炎などの特別な合併症を有しない場合,術前の減黄は不要であると報告されている.肝門部胆管癌など肝切除術を行う症例では,十分な減黄と切除側の術前門脈塞栓術よる温存肝機能の確保によってようやく良好な手術成績が得られるようになった現状を考えると,現時点で術前減黄は全例に行われるべきであると思われる.肝門部胆管閉塞による黄疸に対しては温存予定肝の片葉ドレナージを確実に行い,必要時にのみ切除肝のドレナージを追加する.教室ではドレナージ法として内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)を第一選択としており,ドレナージ前に管腔内超音波検査(IDUS)を行い,必要に応じて経乳頭的biopsyや経口胆道鏡(POCS)を追加して施行している.ただし,経乳頭的にドレナージを行っている場合は限局性胆管炎の発症に十分留意し,発症時にはすみやかに追加ドレナージができる態勢を整えておく必要がある.

胆道癌周術期の胆汁返還

著者: 菅原元 ,   梛野正人 ,   神谷諭 ,   小田高司 ,   西尾秀樹 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   安部哲也 ,   伊神剛 ,   二村雄次

ページ範囲:P.793 - P.797

要旨:教室では,胆道癌術前・術後に外瘻となっている胆汁を腸管内に返還することを,術後感染性合併症対策の一環としている.胆汁返還の意義として,(1)電解質や水分バランスの保持,(2)肝再生の促進,(3)腸管バリアー機能の改善作用,の3つが重要であると考えている.胆道癌術前には,percutaneous transhepatic biliary drainage(PTBD)カテーテルより排出される胆汁を全量内服してもらい,術後は再建胆管を通して外瘻にした胆汁を全量経腸栄養カテーテルより返還している.胆汁返還により胆汁中リン脂質値が上昇し,腸管バリアー機能の改善につながると考えられた.胆道癌術前・術後には,外瘻胆汁を腸管内へ返還すべきである.

膵頭十二指腸切除における二期的膵空腸吻合

著者: 長谷川潔 ,   國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.799 - P.804

要旨:膵頭十二指腸切除における膵管再建の成否は手術全体を左右する.膵液漏は動脈断端の破綻や重症感染症を惹起する危険な合併症だが,腸液などにより活性化された膵液の消化作用に由来する.そこで,われわれは腸管内容と膵液を分離し,その悪影響を除外する二期的膵空腸吻合を積極的に採用している.その結果,右肝切除を伴う膵頭十二指腸切除のような侵襲の大きな手術も含みながら,術死ゼロという良好な成績を得ている.本術式のポイントと短期成績を概説する.

膵尾部切除―膵切離断端の処理

著者: 大村健史 ,   荒井邦佳 ,   井上暁 ,   梅北信孝 ,   北村正次

ページ範囲:P.805 - P.809

要旨:膵尾部切除は胃癌のリンパ節郭清手技の1つとしてかつては積極的に行われてきたが,近年胃癌においては予防的郭清を目的に施行する機会は減少し,明らかな脾動脈幹リンパ節(No. 11)転移のある症例や,膵尾への直接浸潤例に適応が絞られてきている.手技的には,まずToldt筋膜層と腎筋膜前葉を,出血に注意しつつていねいに剝離して膵脾脱転を行う.膵切離法には種々の方法があるが,メスで鋭的に切除し膵管を確実に結紮する方法を紹介した.膵液漏に対しては確実なドレナージが重要で,術後も注意深い観察が必要である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・1【新連載】

腹腔鏡下幽門側胃切除術

著者: 山田英夫 ,   木下敬弘 ,   近藤樹里

ページ範囲:P.753 - P.759

はじめに

 腹腔補助下幽門側胃切除術(以下,LADG)は内視鏡外科の手技のなかで最も関心を持たれている手技の1つである.しかし一方で,その導入に躊躇している施設や長時間の手術時間を要する施設が多くある.このため,その手技は完全に確立されているとは言いがたい.

 われわれは,導入初期はD1+αリンパ節郭清を原則として,必要に応じて少し大きめの小開創を追加して行い,安全性を確保したのちにつぎのステップとして腹腔鏡下にD1+βリンパ節郭清を行った.われわれの手技の特徴は(1)術者が立ち位置を移動しない,(2)一貫して超音波切開凝固装置(LCS)を使う,(3)リンパ節郭清のための胃・十二指腸切離は行わない,(4)小開創器としてマルチフラップゲートを使用する,(5)手術時間が短い,などである.本稿ではその手術手技について述べる.

外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・2

アンスロン門脈カテーテルバイパス法を用いた門脈切除再建術

著者: 中尾昭公 ,   竹田伸 ,   野本周嗣 ,   金住直人 ,   杉本博行 ,   粕谷英樹 ,   藤井努 ,   山田豪 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.761 - P.766

はじめに

 消化器外科,なかでも肝胆膵悪性腫瘍切除術においては門脈合併切除がときとして必要となる.一般に門脈に浸潤を認める癌は切除不能とされてきた.その理由としては,急性門脈遮断時の門脈うっ血や,ときとして肝動脈同時遮断による肝阻血への対処が困難であったこと,消化器外科医が血管外科に十分熟練していないこと,また,切除しても予後不良であろうことなどが挙げられる.

 われわれはこの問題を解決すべく,抗血栓性材料から門脈バイパス用カテーテルを開発した1,2).このカテーテルを用いた門脈カテーテルバイパス法によって急性門脈遮断時の門脈うっ血や3,4),肝動脈同時遮断時の肝阻血も予防され5,6),門脈遮断や肝動脈同時遮断も時間の制約から解放されて安全に施行することが可能となった7).特に膵癌手術においては本バイパス法を用いてnon-touch isolation techniqueによる門脈合併膵頭十二指腸切除術が可能となった8~11).この方法は同所性肝移植術等においても応用することが可能であるが12),本稿では本カテーテルバイパス法を用いた門脈切除と再建を紹介する.

外科学温故知新・21

臓器移植

著者: 福永潔 ,   大河内信弘

ページ範囲:P.811 - P.816

1.移植医療の黎明期

 4世紀に実在した双子の聖人医師コスマスとダミアヌスは数多くの奇跡的治療を行ったと伝えられているが,その奇跡の1つに脚の移植手術がある.壊疽になった助祭ユスティニアヌスの右脚に対して切断手術を行い,事故で死んだ人の脚を移植したというのである.この伝説は15世紀に流行し,フィレンツェ美術においてたびたび描かれている.そのなかでも「助祭ユスティアヌスの夢」(サン・マルコ美術館所蔵)として,フラ・アンジェリコが描いたものが有名である.もちろんこの言い伝えは現実ではなく,助祭ユスティニアヌスが夢に見た出来事なのだそうだが,このように機能廃絶した身体の一部を健常な臓器に入れ替えるという考えは古くからある.中世の医療において脚を移植するというのは文字通り夢物語であったのだが,外科学が進歩し,消毒法や麻酔技術が発達していくなかで,外傷や腫瘍で欠損した組織を動物や死体に由来する組織で置き換える試みは続けられてきた.しかし,成功をみることはなかった.臓器移植には外科的な技術として血管吻合が必要であり,移植後に起こる拒絶反応に対する理解が必要だったのである.

 血管吻合の技術は1902年にエメリッヒ・ウルマンがイヌを用いた移植実験を報告したことに始まる.その後,アレックス・カレル(1873~1944)が今日の移植医療へつながる血管吻合技術を確立し,また,臓器移植について数多くの業績をあげた.カレルはフランスに生まれ,1904年に米国へ移住して研究を行い,移植を成功させるためには短時間で血流を再開させることが大切であると述べた.血管縫合および血管移植,臓器移植への功績に対して1912年に39歳の若さでノーベル医学生理学賞を授与された.

元外科医,スーダン奮闘記・14

村での出産

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.817 - P.819

日本からの学生

 この原稿を書いている今,日本は春休みの時期で,学生さんがわれわれのところにやってくる.徐々にではあるが,ロシナンテスの知名度も上がっていき,学生さんの見学希望も多くなってきている.ただ,人員が少ないため多くの学生さんを受け入れることは不可能で,何人かの学生さんには断りを入れた次第である.もう少しマネジメントできたらよいのであるが,今しばらく状況を見守っていただきたい.

 今春は3名の学生さんがこちらに来られ,あと2名が来る予定である.1名は医学部生ではないが,一橋大学の修士課程で日本のNGOの研究をしている学生であった.シリアに協力隊として勤務した経験があり,アラビア語は堪能である.就職先はもう外資系の大手コンサルタント会社に決まっているが,将来的には日本のNGOを活性化させる方向の職に就きたいそうである.私よりもはるかにNGO関連のことを知っていた.彼が成長していって,ロシナンテスのアドバイザーにでもなってくれないかなと淡い期待を抱いている.

病院めぐり

むつ総合病院外科

著者: 藤田正弘

ページ範囲:P.820 - P.820

 本州の最北端にある下北半島は,日本三大霊場の1つである恐山や,薬研温泉,下風呂温泉,湯野川温泉などの名湯で古くから知られています.ニホンザルや寒立馬の生息地であり,また「大間のマグロ」で全国にその名を馳せており,そして最近では原子力関連施設の集中化で話題になっている土地でもあります。むつ市はその下北半島の交通の要所に位置しています.幕末から明治の初頭にかけて,会津藩ゆかり(斗南藩)の武士らの移住・開懇によって現在のむつ市の基盤が築かれたとされており,釜臥山から見た夜景は「あげは蝶」と称される美観を魅せています.

 当院は明治7年に青森の私立病院済衆社田名部分院として創立されましたが,明治9年に県へ移管・公立化され,以来,いくつもの変遷を経たのち,昭和46年に現名称となって現在に至っています.診療科21科,病床数487床を有し,下北半島の人口約10万人のへき地中核病院として,また臨床研修指定病院という基幹病院として地域住民の医療を担っています。ことに外科は下北半島で唯一,手術の可能な施設として稼動しており,初期診療から終末医療に至るまで,住民の要望に対応すべく努力しています.

北部地区医師会病院外科

著者: 高江洲裕

ページ範囲:P.821 - P.821

 当院は平成3年2月に沖縄県北部地区医師会によって236床の病院として建設されました.当初は4床からのスタートで,全館稼動状態となるまでに数年を要しましたが,現在は内科(循環器,消化器,呼吸器,内分泌代謝,腎臓),外科系(一般外科,心臓血管外科,整形外科,産婦人科),検診センターの常勤医師36名をはじめ,職員数502名で24時間救急診療を行う急性期病院となっています.地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院,管理型臨床研修指定病院,日本医療機能評価機構認定病院です.7:1看護の達成に際し,全国公募で北海道から八重山までの看護師が集まりました.

 沖縄本島北部の名護市近郊の名護湾を見下ろす宇茂佐の丘の上に位置し,病院からの眺望は絶景です.周囲の海は多くのダイビングスポットがあり,山ではゴルフ場が10か所とゴルフが盛んで,女子プロの宮里藍や諸見里しのぶの出身地です.診療圏は名護市をはじめ,本部町,今帰仁村,大宜味村,国頭村,東村,伊江村,伊是名村,伊平屋村,宜野座村,恩納村,金武町の3離島を含む12市町村にまたがり,面積的には沖縄本島の3分の2を占め,その半分は山林です.人口は13万弱と本島中南部の1割程度に過ぎません.自然が多く残っている地域で,ヤンバルクイナやテナガコガネなどの貴重種が生息する森が広がっています.産業はマンゴー,パイン,サトウキビなどの農業,以前はイルカの追い込み漁が有名でしたが,現在は行われず,セイイカ,鰹漁,養殖の鯛,鮪などの漁業,基地,観光,公共事業が挙げられ,就業人口の7割はサービス業です.現在,地域振興か環境保全かの争点で普天間基地の名護市への移設に関して揺れている状態です.100歳超の長寿者が多い宜野座村など高齢化は進んでいますが,過疎化と人口増の混在する地域です.地域医療の問題点として,乳児死亡率が他地域と比べて高いこと,心血管疾患の罹患率が高いこと,産婦人科の医師数不足などがあります.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・42

開胸手術は後側方切開が標準か

著者: 岩田尚 ,   白橋幸洋 ,   松本真介 ,   松井雅史 ,   竹村博文

ページ範囲:P.822 - P.824

はじめに

 胸腔内への手術アプローチにおいては,開胸術の方法は胸腔内で施行すべき手術によって選択されてきた.しかしながら,後側方切開開胸は標準開胸のように先輩方から伝授されてきたような感を持つ.近年は胸腔鏡などの内視鏡の発達とともに多岐にわたるアプローチが発達してきており,本稿では従来の後側方切開の現在における位置づけを考察する.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・16

1940~1950年代の展開(2)―系統的リンパ節郭清と日本

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.825 - P.835

【久留勝,康楽病院,梶谷鐶:新外科治療区分,再発,ミクロの判断】

 この項では古典落語の三題噺のように3つの題目を挙げましたが,ここでは系統的リンパ節郭清への序章を述べるつもりです.

 久留勝は,塩田外科における胃癌症例の総説をまとめたのち1),1934年5月より1941年4月まで,当時の北豊島郡西巣鴨町大字巣鴨に新設された癌研究会附属康楽病院註1に外科医長(当時)として勤務しました.その7年間の久留の活躍,特に癌に向かう姿勢については,その後半(1939~1941年)助手を勤めた梶谷鐶の文章を借りてすでに紹介したところです(本連載第1回参照).そのなかから系統的リンパ節郭清へとつながるいくつかの文章を再掲しておきます.

 “この癌は如何なる性質のものか,また如何なる経路をとって拡がるかなど,確実な病理学的知識が必要なこと,癌の外科には病理との緊密な連携が必要であり,外科医は癌の病理学者でもなければならないことを力説された”・“そして原発臓器の徹底的除去と従来わが国では余り実行されていなかった所属リンパ節の廓清が目の前で展開されていくのである.”2)

臨床報告・1

肝囊胞腺癌と鑑別が困難であった単純性肝囊胞内出血の1例

著者: 寺本仁 ,   越川克己 ,   谷口健次 ,   和田応樹 ,   横山裕之 ,   末永裕之

ページ範囲:P.837 - P.840

はじめに

 単純性肝囊胞は腹部超音波検査,腹部CT検査などにて発見されることが多い.症状,形態上の変化がなければ臨床上問題になることはなく,経過観察される.しかし,囊胞内に出血,感染などを伴う場合には多彩な画像所見の変化を認めるようになり,肝囊胞腺癌,腺腫と鑑別することが困難となることがある1).術前に単純性肝囊胞内出血と診断できたという報告が散見される一方2),肝囊胞性腫瘍と鑑別が困難で肝切除などの外科的治療の対象となることも多い.

 今回われわれは,術前に単純性肝囊胞内出血と肝囊胞腺癌,腺腫との鑑別が困難で肝外側区域切除を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

肺癌術後遅発性肺瘻に対してPTCDチューブによるドレナージとフィブリン糊の使用にて軽快した1例

著者: 齋藤学 ,   高砂敬一郎 ,   吉田和夫

ページ範囲:P.841 - P.844

はじめに

 肺切除後の遅発性肺瘻はときに遭遇する合併症の1つである.肺瘻が長期化すると,膿胸に移行することがあるため,すみやかなドレナージが必要である1)

 しかしながら,術後の癒着などのためドレナージ部位が制限されたり,挿入が困難な場合がある.今回,肺区域切除後,半年が経過して遅発性肺瘻をきたした症例に対し,Percutaneous Transhepatic Cholangiodrainage Set(以下,PTCD)を用いてドレナージ後,フィブリノゲン加第XIII因子(以下,フィブリン糊)を注入し軽快した症例を経験したので報告する.

進行直腸癌穿孔によるFournier's gangreneに対し中央部門での複数科専門医のチーム診療により対応した1例

著者: 森脇義弘 ,   山本俊郎 ,   安瀬正紀 ,   杉山貢

ページ範囲:P.845 - P.848

はじめに

 Fournier's gangreneは,陰囊,会陰の進行性壊死性筋膜炎で1),陰囊限局例には単純なドレナージ,デブリードマンが奏効するが,重症進行例は予後不良で明確な治療戦略もなく2,3),救命後も広範囲デブリードマンに伴う皮膚・組織欠損が残る.今回,直腸癌穿孔によるFournier's gangreneに対し,複数科専門医集合部門の長所を生かし,生存期間や無症候期間の延長など生活の質向上に貢献し得たので報告する.

一期的に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した気腫性胆囊炎の1例

著者: 高倉有二 ,   中谷玉樹 ,   高橋忠照 ,   貞本誠治 ,   豊田和広 ,   池田昌博

ページ範囲:P.849 - P.852

はじめに

 腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)は低侵襲であり,現在の胆囊摘出術の標準術式となっている.最近では急性期の胆囊炎に対しても保存的療法を行うことなく積極的に腹腔鏡下手術が施行されている.しかしながら,急性胆囊炎の特殊型である気腫性胆囊炎においては,全身状態が不安定であること,また,手術手技の困難さなどから開腹手術もしくは緊急回避的な経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous trans-hepatic gall bladder drainage:以下,PTGBD)が選択されることが多い1).今回,われわれは急性期の気腫性胆囊炎に対して一期的にLCを施行した症例を経験したので報告する.

術前に診断された回腸憩室炎の1例

著者: 佃和憲 ,   村岡孝幸 ,   高木章司 ,   池田英二 ,   平井隆二 ,   辻尚志

ページ範囲:P.853 - P.857

はじめに

 Meckel憩室を除く小腸憩室は非常に稀とされている1).今回われわれは繰り返す腹膜炎の原因として,術前診断できた小腸憩室を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

卵巣癌術後乳腺転移の1例

著者: 丸山修一郎 ,   増田紘子 ,   藤井徹也 ,   国末浩範 ,   金谷欣明 ,   横山伸二 ,   市村浩一

ページ範囲:P.859 - P.862

はじめに

 乳腺に発生する悪性腫瘍はほとんどが原発性であり,悪性腫瘍の乳腺転移は約1%である1).われわれは,卵巣癌術後経過観察中,乳腺への転移をきたした症例を経験したので報告する.

肺pleomorphic carcinomaの1切除例

著者: 松田英祐 ,   岡部和倫 ,   松岡隆久 ,   平澤克敏 ,   東俊孝 ,   村上知之 ,   杉和郎

ページ範囲:P.863 - P.866

はじめに

 Pleomorphic carcinomaは1999年にWHO分類で肺癌の組織亜型として分類され1),肺原発悪性腫瘍の0.3%と稀な腫瘍とされている2).今回,pleomorphic carcinomaの1例を経験したので報告する.

右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術後に発症した胆石症に腹鏡下胆囊摘出術を施行した1例

著者: 藤原一郎 ,   山下好人 ,   平川弘聖

ページ範囲:P.867 - P.870

はじめに

 虚血性心疾患に対して行われる冠状動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:以下,CABG)に動脈グラフトとして右胃大網動脈(right gastroepiploic artery:以下,RGEA)が使用され,良好な結果が得られ普及している.人口の高齢化に伴い冠状動脈バイパス術を要する患者は年々増加しており,今後CABG術後に腹部疾患により腹部手術が必要となる症例は増えてくることが予想される.CABG術後の胃癌,胆石症による開腹手術報告は散見されるが,腹腔鏡下手術の報告は少ない.われわれはCABG術後に発症した胆石症,総胆管結石症に対し内視鏡的乳頭切開術(endoscopic sphincterotomy:以下,EST)後に腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)を施行することができた症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

コーヒーブレイク

タバコとアスベスト

著者: 板野聡

ページ範囲:P.782 - P.782

 当院では,数年後に控えた病院評価機構の認定更新に備えて更新対策委員会を立ち上げました.つぎの更新では院内の全面禁煙が必須となりますが,その対策を検討する過程で,職員のなかに喫煙者が多くいることが浮き彫りとなってきました.発癌をはじめとする「煙害」について敏感であるべき医療スタッフとは言え,その習慣を断ちきれない者もいるということですが,これは神ならぬ人間の弱さということでしょうか.

 ところで,最近は報道で目にすることが減ってはきましたが,いまだにアスベスト問題が取り沙汰されています.アスベストに対する長期間の被曝で中皮腫ができるということですが,これまではその良好な断熱性と安価であることから多くの場所で汎用されており,発ガン性の問題が出てくると手のひらを返したように撤去撤去と悪者扱いされ,アスベストにすればこれまた人間の勝手なふるまいと言うことになります.

外科医局の午後・32

病院長受難時代

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.824 - P.824

 最近の病院長という職は,傍で見ているといかにも大変である.昔は「病院長」と言えば,病院内で一番偉くて,大きな部屋におり,皆がたいそう気を使ってくれた.ある意味,勤務医の最終的な目標のような職であった.ところが,最近では「病院長」は責められ役である.

 今時,病院の経営はどこも苦しく,黒字などはとても望めない.また,臨床研修制度のあおりを食って,今までなら医師が辞めてもすぐ大学の医局から補充されていたが,その肝心の大学が医師不足のため,辞めれば空きのままである.医師が不足してくればたちまち病院収入に影響するのは自明の理である.そのため病院長は,あちこちの大学の医局に医師の応援を依頼しに行かねばならない.ところが大学の医局にも医師は不足気味であるから,そう簡単に派遣してくれない.最近では医療ミスあるいは医療事故に対する批判が強く,院長はなにかあればすぐ皆の前で謝らねばならない.自治体病院であれば議会に出向いて業績下降の理由を市長や議員の前で説明しなければならないし,病院に帰れば今度は組合との交渉が待ち構えている.まさに「病院長受難時代」である.

ひとやすみ・21

病室の同級会

著者: 中川国利

ページ範囲:P.862 - P.862

 病院には,社会を構成する様々の人々が病を得ては入院し退院して行く.そして,われわれ医療従事者には病気を単に治療するだけではなく,病に悩む患者さんを精神的にも支えることが要求されている.しかしながら現実は,あまりの多忙に治療だけに明け暮れ,患者さんと心温まる交流する機会は少ない.稀ではあるが,今でも心に残る医者冥利に尽きる出来事を紹介したい.

 同じ時期に同じ病室に入院していた患者さんたちが,病室の同級会を近くの温泉旅館で開催することにした.ついては元主治医を勤めた私に参加を求めてきた.同級会たる宴会は土曜日の夕方に開催されたため,私は万難を排して参加した.

昨日の患者

病気になるのもいいもんだ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.870 - P.870

 病気になると人は歎き悲しみ,落ち込むのが普通である.特に癌に罹患すると落ち込む度合いは深く,人生を悲観する人さえ現れる.しかし,病気をも天が定めた試練と捉え,前向きに思考する人がいる.

 Mさんは3人の子供と7人の孫を持つ80歳代前半の女性であった.食欲不振と著明な体重減少を主訴として来院した.精査を行うと,進行期の胃癌であった.そこでMさんに悪性のため手術が必要なことを説明した.すると,より詳しい説明を求められたため,進行期の癌であり切除しても再発が予測されること,さらに高齢なため種々の合併症が生じる危険性があることを付け加えた.するとMさんは,「この歳まで子供や孫に囲まれ幸せに過ごしてきました.たとえこの先が短くても思い残すことはありません.少しでも可能性があるなら,手術をお願いします」と,動揺することなく手術に同意した.

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あとがき

著者: 炭山嘉伸

ページ範囲:P.876 - P.876

 このあとがきを書いている2月,3月のシーズン,毎週の日曜ごとに,冬のスポーツとしてのマラソン大会が開かれている.

 3月11日には,大阪で8月に開かれる世界陸上選手権の出場選手最終決定競技として,名古屋国際女子マラソンが開かれた.レースは,40km過ぎまで5人のトップ集団が並走し,最後は残り700mで優勝した橋本選手と,ベテラン弘山選手のデッドヒートで決着がつくという,激しいレース内容だった.この日は,風速10m以上の冷たい風が吹く最悪のコンディションで,世界選手権出場内定基準の2時間26分を切ることはできなかったが,悪条件の中での2時間28分49秒は高く評価され,優勝した橋本選手は世界陸上代表選手となった.この名古屋国際女子マラソンで世界陸上女子マラソンの選考レースは全て終了し,1月の大阪国際女子マラソンを制した原選手,2位ながら2時間24分台の小崎選手,そして昨年11月の東京国際女子マラソンで優勝した土佐選手らが,代表として内定している.

 日本の女子マラソンは,オリンピックで有森選手が2大会連続で銀・銅メダルを,そして高橋選手・野口選手がそれぞれ金メダルを獲得するなど,世界レベルからみてもその実力と実績は突出したものがある.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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