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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

特集 乳癌の治療戦略―エビデンスとガイドラインの使い方

補助化学療法

著者: 多田寛 ,   石田孝宣 ,   大内憲明

ページ範囲:P.887 - P.891

要旨:エビデンスに基づいた医療を実践するに際し,その時点での最良の医療を効率的かつ効果的に提供することを支援する目的で診療ガイドラインの存在は重要である.乳癌の術後化学療法においてもSt. Gallenコンセンサスや日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン 薬物療法」,NCCNの乳癌ガイドラインなどの診療ガイドラインが多く活用されている.実際の医療現場では,これらのガイドラインを十分に理解したうえで,それぞれの治療法のベネフィットとハーム,患者個々のライフスタイルや希望を考慮した治療方針の選択が望まれる.

補助内分泌療法

著者: 井本滋

ページ範囲:P.893 - P.896

要旨:乳癌の標準的な治療を調べる際に,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)に代表されるような臨床試験のエビデンスに基づいたきめの細かいガイドラインがネット上で閲覧できるようになった.乳癌術後の補助内分泌療法はホルモン感受性乳癌の治療の大原則である.様々な作用機序と薬物動態を有する薬剤を組み合わせた臨床試験の結果から日々エビデンスは蓄積されている.しかし,その結果を実地臨床にそのまま外挿してもよいか判断に困る場合もある.また,海外で推奨された治療法について,アジア人女性あるいは日本人女性のデータが乏しい点も気になるところであり,逐次更新されるガイドラインに振り回されている嫌いもある.本稿では最近の内分泌療法の知見を整理して,実地臨床における補助内分泌療法の現在を考えた.

手術療法におけるガイドラインとエビデンスの検証

著者: 神野浩光 ,   麻賀創太 ,   坂田道生 ,   北川雄光 ,   中原理紀 ,   北村直人 ,   久保敦 ,   向井萬起男 ,   北島政樹

ページ範囲:P.897 - P.901

要旨:ガイドラインとはその時点でのエビデンスをある基準を設定することによって吟味し,医療従事者および患者の双方にとって治療方針決定に役立つことを目的に作られたものである.乳房温存手術の適応は,基本的には整容性と根治性が確保される症例である.Skin-sparing mastectomyも適応を選べば安全性と有用性は高い.乳房温存療法後の乳房内再発に対しては乳房切除術で臨むべきである.熟練したチームによって施行されればN0症例におけるセンチネルリンパ節生検による腋窩郭清の省略は推奨される.また,センチネルリンパ節に転移を認めた場合は腋窩郭清を行うことが推奨されている.現在のところ,術前化学療法後および非浸潤癌に対するセンチネルリンパ節生検や内胸センチネルリンパ節に関してはデータが不十分である.

乳房再建術

著者: 岡崎睦 ,   波利井清紀 ,   辻直子 ,   大浦紀彦

ページ範囲:P.903 - P.909

要旨:乳房再建法には乳癌切除術と同時に行う一次再建と,乳癌切除術から期間をおいたのちに行う二次再建がある.再建材料では,人工物を用いる方法(シリコンバッグが一般的.自費診療)と自家組織を用いる方法(有茎や遊離皮弁の移植.保険診療)がある.乳房再建の適応決定は患者主導で行うべきであり,乳癌切除術の術前に乳癌の進展度や予後,可能な治療法を説明するのと同時に,乳房再建の可能性と諸方法について説明したうえ,患者からの要望があれば再建を行う.シリコンバッグを用いた再建は,以前に言われていた膠原病様疾患や発癌との関係は現在では否定されてはいるが,破損や露出,被膜拘縮などの合併症を生じることがあるので,術後長期の経過観察が必要である.わが国では,乳房インプラントの使用状況と予後を研究すべくNPO日本乳房インプラント研究会が設立され,2006年10月以降,インプラントによる再建後の予後調査のための登録(JAMP study)が始められている.

乳癌に対する放射線治療

著者: 山内智香子 ,   光森通英 ,   平岡眞寛

ページ範囲:P.911 - P.916

要旨:乳癌に対する放射線治療は,早期乳癌の術後照射,進行癌に対する根治的・姑息的照射,再発や遠隔転移に対する照射など様々な局面において多くの役割を担っている.この20年間で乳癌に対して放射線治療が行われる頻度は急速に増加し,欧米を中心としたランダム化比較試験などによってレベルの高いエビデンスが次々と報告されている.また,これらをまとめたガイドラインが国内外で発行されている.氾濫する情報のなかから効率よくエビデンスを理解し実践するために,ガイドラインを利用していただきたい.

再発乳癌に対する化学療法

著者: 稲治英生

ページ範囲:P.917 - P.922

要旨:乳癌は再発後も化学療法などの薬物療法が奏効することが多く,再発後も長期生存が期待できる.しかし,術後補助療法の場合と異なり,化学療法によって治癒が得られるわけではなく,たえずquality of life(QOL)とのバランスを考慮した治療法選択が求められる.また,周術期薬物療法の内容や再発の部位・腫瘍量,患者のperformans status(PS)などによっても微妙に異なるので,必ずしもエビデンスに基づいた治療がアルゴリズムどおり行えるとは限らない.そこに再発乳癌治療の難しさがある.

再発乳癌に対する内分泌療法

著者: 岩瀬弘敬 ,   山本豊

ページ範囲:P.923 - P.930

要旨:再発乳癌の治療においては全身療法で完治を目指すことは困難であり,効果に大きな差がなければ生活の質を第一に考えた治療法を選択するべきである.内分泌療法は副作用が軽微で,化学療法と比べて奏効率は低いものの奏効期間は長い.閉経前においてはLHRHアゴニスト+タモキシフェンが一次治療として推奨され,二次治療としては卵巣機能抑制+アロマターゼ阻害剤が有用である.閉経後ではアロマターゼ阻害剤が一時治療として推奨されるが,患者背景から抗エストロゲン剤も候補に挙がる.黄体ホルモン剤は三次治療以降に用いられる.内分泌療法の適応となる症例については内分泌療法から開始し,できるだけ本療法を長期間継続することが予後を延長せしめていると考えられる.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・3

十二指腸温存膵頭切除術

著者: 原田信比古 ,   今泉俊秀

ページ範囲:P.881 - P.885

はじめに

 十二指腸温存膵頭切除術(duodenum preserving pancreas head resection:以下,DpPHR)が膵外科に取り入れられて20年余りが経った.この間,術式と適応に改良が加えられ,近年ではほぼ確立された術式となっている.十二指腸温存膵頭切除術は1980年にBegerら1)によって報告され,わが国では1990年代に,主に膵頭部の膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下,IPMN)や良性疾患に対する機能温存手術として種々の工夫がなされ普及してきた2).筆者ら3)は1990年に,十二指腸内側縁に膵組織を残さずに膵頭部の全組織を切除する十二指腸温存膵頭全切除術を報告し,本術式を切除を必要とする膵頭部疾患に対して行ってきた.

 本稿では,筆者らが現在行っているDpPHRの手術手技のポイントについて述べる.

元外科医,スーダン奮闘記・15

高校ラグビーの後輩

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.931 - P.933

矢野先生の帰国

 約3か月間お世話になった矢野和美先生が帰国された.帰国早々に日本医学会総会での発表をされるそうで,目まぐるしい限りのご活躍である.矢野先生が指摘してくれたことは,「ロシナンテスは人材不足だから,早急に人の確保を行うこと」ということであった.大変な作業になるだろうが,今後はリクルート活動も行わなければならない.矢野先生は帰国後もアドバイスを送ってくださっている.本当に感謝の念でいっぱいである.この誌面を借りて再度お礼を申し上げたい.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・43

腹部手術の腹腔洗浄は必要か

著者: 安田一弘

ページ範囲:P.934 - P.935

 腹部手術の終了時には腹腔内汚染の有無や良性/悪性疾患にかかわらず,腹腔洗浄が行われる.通常は温生理食塩水を用いて洗浄し,手術時の汚染や凝血が除かれ洗浄液がきれいになるまで洗う.汚染物質を除くのは重要であるが,習慣的に行われていることもあり,その有用性を評価した検討は少ない.腹腔洗浄にはどのような効果があるのだろうか.腹腔洗浄によるデメリットはないのだろうか.これまでの代表的な論文を紹介しながら,腹部手術における腹腔洗浄について考える.

 2005年に英国の腹部手術時の腹腔洗浄に関する現状調査が報告された.153人の一般外科医に対してアンケートを行ったところ118人(77%)から返答があり,そのうちの115人(97%)が腹腔洗浄を行っていた.洗浄の程度は,洗浄液がきれいになるまでが61%,1l以上が20%,0.5~1lが17%であった.手術の清浄度別の洗浄頻度は,汚染手術で97%,不潔手術で96%,準清潔手術で77%,清潔手術で34%,癌手術で74%であった.洗浄液の種類は,汚染手術では生理食塩水が47%,ポビドンヨード水が38%,水が9%,抗生剤入りの洗浄液が3%で,癌手術では水が36%,生理食塩水が21%,ポビドンヨード水が17%であった.また,癌手術での腹腔洗浄は上級専門医(consultant)に比べて後期研修医(registrar)で行う頻度が高かった(29% vs. 47%,p<0.05).このように,ほとんどの外科医は腹腔洗浄を行っており,洗浄の程度や洗浄液の種類は様々であった.

外科学温故知新・22

ヘルニアの外科

著者: 柏木秀幸

ページ範囲:P.937 - P.943

1 はじめに

 ヘルニア〔hernia,hernie(hernia),bruch〕は,広義には臓器または組織の全体あるいは一部が体壁や体腔内の裂隙,陥凹部,組織の欠損部を通じて,その正常の位置から逸脱した状態と定義されている.ヘルニアと言えば鼠径ヘルニアが思い浮かべられるが,腹部臓器以外の臓器でもヘルニア状態を呈することがある.

 本稿では誌面の関係もあるので,ヘルニアの代表的な疾患である鼠径ヘルニアの外科治療の歴史を振り返ってみる.ただし,鼠径ヘルニアの歴史は非常に古く,外科学の歴史そのものに近いものであるので,外科治療そのもののあり方を求める旅となるのかもしれない.

病院めぐり

岩手県立北上病院外科

著者: 上沖修三

ページ範囲:P.944 - P.944

 北上市は東北の大河である北上川と奥羽山脈を源とする和賀川の合流地で,北上川の東岸には1万本の桜を誇る展勝地,市を見下ろす国見山があり,まさに山紫水明の地である.古くから交通の要所であったが,現在も東北新幹線と東北高速道が市内を走り,花巻空港までは車で20分程度の距離で,大変交通の便もよい.

 当院は岩手県に27ある県立病院の1つである.病床数は260床,医師数34名(うち研修医6名)の総合病院であり,臨床研修指定病院に指定されている.外科のスタッフは後藤院長をはじめ8名で,そのほかに研修医が常時1~2名ローテートしている.専門領域は甲状腺,乳腺,食道,消化器,移植,小児外科,血管外科など広範囲である.手術は一般外科領域のほとんどの疾患を取り扱っている.内視鏡下手術も多い.平成18年の手術数は515例(うち全麻は378例)であった.呼吸器外科の手術の助手や,他科の麻酔も依頼されることが多く,近隣の病院への診療応援も行っている.手術ばかりでなく,緩和医療や救急医療にも力をいれている.日本外科学会の専門医制度修練施設および日本乳癌学会の認定施設になっており,研修医の教育にも力を入れている.

永井病院外科

著者: 永井盛太

ページ範囲:P.945 - P.945

 三重県は東西80km,南北170kmの細長い県土で,東に伊勢湾,西には700~800m級の山脈が連なり,総面積の約65%が森林である緑豊かな土地です.伊勢エビ,鮑,松阪牛と食の分野でも全国的に有名で住みやすい土地でありますが,その一方で,この地域の医療状況はと言うと,最近問題となっている医療制度改革によって医師不足をはじめとして地域医療が崩壊しているのが現実です.

 当院は三重県の県庁所在地である津市の中央に位置しています.昭和22年に創設された60年の歴史を持つ総合病院で,外科,内科,整形外科を中心に,婦人科,眼科,耳鼻科,皮膚科,泌尿器科の診療を行っている二次救急指定病院です.常勤医師15名と三重大学病院から派遣していただいている非常勤医師で,消化器,循環器,整形外科を中心とした地域に密着した医療を行っています.2007年には常勤医師の交代もあり,消化器疾患はさらに充実した医療が行えるようになりましたが,それに加え,心筋梗塞などの循環器疾患にも救急対応が可能となりました.大病院のように大所帯ではありませんが,各科の医師とパラメディカルとのコミュニケーションはよくとれており,チームワークのよい病院です.また,2007年度から以前からのCTや血管造影などの設備をリニューアルし,さらに,最近の医療情勢に対応して,近々,医療の電子化に向けて準備中です.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・17

1960年代以降(1)―腸リンパ本幹,大動脈周囲リンパ節

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.947 - P.961

【リンパ流理論の展開,木田(1958年)】

 本連載の第14回では,1930年代の胃リンパ流の再検討としてRouvière,井上の研究を紹介しました.そこでは,これまでのMikuliczの郭清体系の膵上縁リンパ節群のなかから腹腔動脈リンパ節群が区別され,これが胃所属リンパ流の最中枢であると考えられるようになりました.Rouvièreと井上の理解する腹腔リンパ節群の同定,そこへの輸入リンパ管,そこからの輸出リンパ管にはかなりの相違があるのですが,両者の研究成果はほどなく1940~1950年代の系統的リンパ節郭清につながったことは前回述べたとおりです.そこで,1960年代以降では,理論の展開としてのさらなる胃リンパ流の研究・腹腔動脈リンパ節群よりさらに中枢に向うリンパ流の研究を見ていくことになります.ここでのキーワードは「腰リンパ本幹」「腸リンパ本幹」,そして「胸管」です.

 Rouvièreと井上の腹腔動脈リンパ節群の同定とそこからの輸出管の様態はすでに,筆者の理解の範囲で図示しておきました(本連載第14回図7).そこでは胃リンパ流の検索法,リンパ管・リンパ節の描出法に2つの方向があったことを思い出してください.1つは後腹壁からの描出法であり,鬱滞した大動脈周囲リンパ管・リンパ節に色素液・水銀液を注入し,内臓器(胃・腸)からのリンパ管を染め出そうとするものです.もう1つは胃壁内から注入しそこからのリンパ管・リンパ節を描出しようとするものです.前者は中枢から逆行性の描出法であり,後者は末梢からの順行性の描出です.

臨床研究

結腸癌に対する腹腔内アプローチ法の評価

著者: 高山哲郎 ,   天田憲利 ,   大江洋文 ,   菊地廣行 ,   福森龍也 ,   芳賀泉

ページ範囲:P.963 - P.967

はじめに

 近年,結腸癌に対する腹腔鏡補助下結腸切除術(laparoscopy assisted colectomy:以下,LAC)が全国的に普及しつつあるが,2次元画像下で,かつ触覚の乏しい環境での特殊な手術手技の習得が必要とされるため,一般市中病院での幅広い普及はいまだ遅れている感が否めない.また,ディスポーザブル製品を多用するために材料コストや医療廃棄物が増大傾向であり,消化器外科を志す研修医への教育問題もつねに学会などで議論されている.一方,sliding window(高砂医科工業)を用いた小開腹での結腸癌手術(以下,SW手術)は内視鏡下手術のトレーニングを必要とせず,従来の開腹手術とほぼ同等の手技,コストで手術を行える利点がある1)

 今回,われわれは結腸癌に対し,従来どおりの開腹手術とSW手術,およびLACを比較検討したので報告する.

臨床報告・1

鈍的腹部外傷による遅発性小腸狭窄を生じ穿孔性腹膜炎を呈した1例

著者: 丸山晴司 ,   森恵美子 ,   前田貴司 ,   松隈哲人 ,   松田裕之

ページ範囲:P.969 - P.974

はじめに

 腹部外傷による小腸損傷を呈した場合,小腸の破裂や断裂を伴う腹膜炎として一般的に受傷後早期に症状が出現する1~3).ごく稀に受傷後数日から数年を経過して小腸狭窄を発症する場合もあるが1~5),わが国ではこのような外傷性の遅発性小腸狭窄の報告例は少ない.

 今回,われわれは鈍的腹部外傷から6か月が経過したのちに穿孔性腹膜炎を伴って発症した遅発性小腸狭窄に対し手術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

総胆管結石を合併した先天性胆囊欠損症の1例

著者: 広瀬敏幸 ,   阪田章聖 ,   木村秀 ,   長尾妙子 ,   須見高尚 ,   梶川愛一郎

ページ範囲:P.975 - P.978

はじめに

 先天性胆囊欠損症のわが国における報告例は検索し得た限り132例と比較的稀な疾患である1~17).以前は術前診断が困難で開腹で診断されることが多かったが,近年の画像診断の進歩によって術前に診断されることが多くなってきている15,16)

 今回,われわれは総胆管結石を合併した先天性胆囊欠損症の1例を経験したので報告する.

空腸GISTが誘因となった続発性小腸軸捻転症の1例

著者: 卯月ゆたか ,   中川国利 ,   鈴木幸正

ページ範囲:P.979 - P.982

はじめに

 小腸軸捻転症は比較的稀な疾患である1).また,先天性や原発性が多く,腫瘍による続発性小腸軸捻転は非常に稀である2~8)

 今回われわれは,空腸に発生したgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)が誘因となった続発性小腸軸捻転症例に対して腹腔鏡補助下に空腸部分切除術を施行したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外科的治療によって猪瀬型肝性脳症,食道静脈瘤,耐糖能障害が改善した肝硬変症の1例

著者: 川崎誠康 ,   仲成幸 ,   塩見尚礼 ,   来見良誠 ,   亀山雅男 ,   谷徹

ページ範囲:P.983 - P.986

はじめに

 猪瀬型肝性脳症1)に対し,門脈-胃静脈-食道静脈瘤経路の短絡路を外科的に結紮した結果,血中アンモニア値が正常化し,肝性脳症の消失・食道静脈瘤の軽減ならびに耐糖能障害の改善を認めた症例を経験した.本稿では,外科的治療の有用性を考察し報告する.

胃癌に併存した胃gastrointestinal stromal tumorの1例

著者: 多田耕輔 ,   兼清信介 ,   渡辺裕策 ,   久保秀文 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.987 - P.989

はじめに

 Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)は広義には消化管に発生する間葉系腫瘍のなかで紡錘型細胞を主体とする充実性の腫瘍を総称したもので1),最近はその報告例も散見されるようになったが,ほかの腫瘍性病変との合併は稀である2)

 今回,われわれは胃癌に併存した胃GISTの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

FDG-PETによって腹膜播種病変の一部を診断でき,FOLFOX4療法が奏効した大腸癌癌性腹膜炎の1症例

著者: 久保秀文 ,   兼清信介 ,   渡邊裕策 ,   多田耕輔 ,   長谷川博康

ページ範囲:P.991 - P.997

はじめに

 大腸癌癌性腹膜炎の診断は比較的困難であり,その予後はきわめて不良である1,2).最近,われわれはPETによって腹膜播種病変の一部を指摘でき,FOLFOX4療法3,4)で臨床症状が良好に維持されている大腸癌癌性腹膜炎の1症例を経験したので報告する.

胃囊胞吻合後に吐血を繰り返し,治療に難渋した仮性膵囊胞の1例

著者: 古澤徳彦 ,   花崎和弘 ,   浦川雅巳 ,   池野龍雄 ,   宮本英雄 ,   市川英幸

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに

 仮性膵囊胞は,線維や肉芽組織などの結合織の壁で被包化されたなかに膵液や滲出液が貯留すると定義されている1).自然消退しない仮性膵囊胞についてはドレナージ術や膵切除術が必要になるが,治療手段は多彩であり,病態に応じた選択が重要である.

 われわれは胃囊胞吻合後に吐血を繰り返し,治療に難渋した仮性膵囊胞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

直腸癌術後の直腸腟瘻に対しエストリオール腟錠が有効と考えられた1例

著者: 川崎健太郎 ,   山崎峰夫 ,   中村哲 ,   神垣隆 ,   黒田大介 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.1003 - P.1005

はじめに

 直腸腟瘻は直腸癌術後に稀に認められる合併症の1つで,しばしば治療に難渋することがある1~4)

 今回,直腸癌術後の直腸腟瘻に対してエストリオール腟錠が有用であった症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

外科医局の午後・33

夜のジョギング

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.930 - P.930

 最近,妻や娘と一緒に夜のジョギングを始めた.実は3年近く前に急に腰痛(腰椎の疲労骨折)を患い,1か月間も病院を休んで自宅療養をしたことがあった.腰痛自体は1年ほどで気にならなくなったが,それまで好きであったゴルフにも行く気力がなくなった.気がつけばこの3年近くは病院と家の往復だけで,運動らしいことは一切しなくなっていた.病院への通勤以外の外出と言えば家族との外食ぐらいで,このままでは「メタボリックシンドローム」の温床となることは明白であった.

 そこで,妻と娘がジョギングを始めたことがきっかけで仲間に入れてもらうことにした.病院から帰って夕食をとり,一時間ほど休憩したのちに近くのグラウンドまで歩き,最初はゆっくりと開始した.体力の衰えは予想通りと言うか予想以上であった.最初は妻や娘に追い抜かれると「なにくそ!」と思ったが,まずは自分のペースを見出すことから開始した.1周400mのグランドを1周走っては1周を歩き,これを5回ほど繰り返す.傍らをすごいスピードで走りぬけていく人たちもあれば,ゆっくり歩いている老人達もいる.

コーヒーブレイク

「かかりつけ医」って何?

著者: 板野聡

ページ範囲:P.967 - P.967

 最近の医療崩壊の現実が私の病院にも押し寄せ始めています.24時間対応の救急医療を標榜する公立病院が医師不足を理由に救急患者を断ることが増え,私の病院へと患者さんが流れてきています.これまでも当院で普段診せていただいている患者さんの救急受け入れはしてきましたが,当院は救急の標榜はしておらず,このままでは当院の医師達も燃え尽きるのではないかと心配しています.

 ところで,こうした現状を見るにつけ,日本医師会が常日頃推奨する「かかりつけ医」とは何なのだろうと思い調べてみたところ,「かかりつけ医を選ぶポイント」という記事を見つけました.これは,あるクリニックのホームページにあったものですが,その一番最初には「近くにいつもいてくれるのが一番!診療所は近くにあっても夜間や休日は連絡が取れないようでは困ります」とありました.なるほどそうなのだと感心しましたが,この意見を是とすると,私の周りには「かかりつけ医」がほとんどいないことに気づかされます.

ひとやすみ・22

市民外交

著者: 中川国利

ページ範囲:P.997 - P.997

 大学の医局で学んでいた20数年前,ドイツで留学生活を送る機会があった.ドイツでも英語が通じるが,一般市民に溶け込むためにはドイツ語が話せたほうがよいと考え,語学学校に入った.語学学校は南ドイツにあり,オーストリアのチロル地方に接していた.山と湖に囲まれた静かな田舎町であった.朝から晩までドイツ語漬けではあったが,暇を見つけては近くの山に登り,湖で泳いだ.また,バス旅行に参加しては,イタリアやオーストリアまで足を伸ばした.

 2か月間の速成語学勉強ののち,留学先であるハイデルベルク大学マンハイム病院に赴いた.病院の建物は,かつての東北大学医学部の建物とよく似ており,親近感を覚えた.病院は朝7時から始まり,午後3時には終了した.2,000床を超す大きな病院ではあったが,日本人は誰もいなかった.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1008 - P.1008

 本号では「乳癌の治療戦略―エビデンスとガイドラインの使い方」と題した特集をお送りした.近年,evidence-based-medicineとガイドラインとが多くの診療分野において取り上げられ,国内においても出版されるようになってきた.このガイドラインの作成において中心の考え方になるのがevidence-based-medicineであり,多くの文献のなかからいわゆるevidence levelの高いとされるものを抽出してガイドラインは作成されている.これは大変重要な情報提供であり,その内容を医療関係者は十分に知っておく必要があろう.また,その情報は患者さんにとっても自身の病態からどのような診断・治療が適切であるかをある程度理解するうえで役立ち,主治医と相談する際にその知識があることでスムーズな話し合いに役立ってくるであろう.

 しかし,外科診療での日常においてはいまだ高いエビデンスが構築されたものばかりではなく,多くの臨床医のこれまでの経験からコンセンサスが得られて施行されているものもきわめて多いのである.また,特に手術術式に関しては,どのような手術をどのような対象患者さんに行うかについての,evidence levelの高いデータとしてのいわゆるrandomized control trialを行うことはこれまでもそうであったが,今後もなかなか困難な問題が存在するであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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