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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻8号

2007年08月発行

雑誌目次

特集 Surgical Site Infection(SSI)対策

特集にあたって

著者: 炭山嘉伸

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 術後感染症は術後合併症のなかで最も大きな位置を占めており,その発症率によって外科医の技術も評価される時代になってきた.また,SSIの発症は医療費の包括化における病院の利益に大きく関連しており,医療経済の面からもますます重要度を増してきている.

 SSI対策として,従来から日本でもさまざまな対策が行われてきたが,CDC/HICPAC(Healthcare Infection Control Practices Advisory Comittee)から1999年に発表された「SSI予防のための最新CDCガイドライン」(以下,CDCガイドライン)が紹介されてから,日本でも欧米の優れたエビデンスが導入され,それまで経験的,慣習的に行われてきた周術期の感染対策や術前・術中・術後管理が見直され,多くの無駄な診療行為が改善されてきた.

術後感染症におけるSSI対策の位置づけ

著者: 草地信也 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.1023 - P.1027

要旨:SSI(surgical site infection)は術後感染症のなかで最も頻度が高いが,耐性菌の比率は少なく予後も良好である.しかし,SSIが発生すると経済面では大きな損失になる.近年,わが国のSSI対策は欧米,特に米国のガイドラインやエビデンスを手本に見直され,従来の管理方法から無駄な部分がそぎ落とされてずいぶんすっきりしてきた.術前の除毛方法や手術時の手洗い方法,吸収糸の使用,術後の創管理などは欧米のエビデンスがそのまま導入され,大きな効果が得られている.また,周術期の抗菌薬療法では,術後感染予防薬の術直前投与や長時間手術の術中再投与は,今や日本でも標準的に行われている.しかし,一方で米国の利潤最優先のエビデンスには注意が必要である.

SSI対策としての周術期管理ベストプラクティス

著者: 竹末芳生 ,   中嶋一彦 ,   楠正人 ,   小林美奈子 ,   池内浩基 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.1029 - P.1033

要旨:大腸手術を専門とする施設において,欧米のガイドラインなどで推奨されている周手術期管理・手技を行うことによるSSI発生率を検証する目的で,「前向き」に7施設による共同研究(best practice surveillance:BPSグループ)を行った.2002年12月~2005年12月までに,1,601例の大腸疾患に対してSSIサーベイランスを実施した.BPSグループとJapanese Nosocomial Infection Surveillance(JNIS)の比較では,カテゴリー1において各々14.2%,22.0%と有意の差を認めた(p<0.0001)が,カテゴリー0,M,カテゴリー2,3では差はなかった.感染予防のbest practiceを実行することにより,結腸・直腸手術ではSSI率を15%未満にすることが可能で,とくにNational Nosocomial Infections Surveillance(NNIS)のリスク因子を1つのみ有する症例において,その改善効果が期待できることが示された.

新しいSSI対策―周術期の血糖コントロール

著者: 橋爪正 ,   木村憲央 ,   坂本義之 ,   佐藤利行 ,   川嶋啓明 ,   小堀宏康 ,   柴崎至 ,   遠藤正章

ページ範囲:P.1035 - P.1040

要旨:SSI(surgical site infection)発生の要因として,以前から宿主因子としての糖尿病(耐糖能異常)状態は重視されていたが,最近,周術期高血糖の存在自体が問題とされ,注目されている.心臓外科では以前から血糖管理とSSIの重要性が認識されていたが,一般外科領域の結論は得られていない.一方,救急領域では厳密な血糖管理による良好な生命予後が確認され,術後の代謝調節と回復の関連性において血糖管理の重要性がクローズアップされている.外科医は,血糖管理がSSIだけでなく周術期管理の根幹にかかわる重要事項であることを再認識する必要がある.

新しいSSI対策―術中の体温管理

著者: 福島亮治

ページ範囲:P.1041 - P.1046

要旨:手術中は麻酔の影響などで36℃未満となる低体温が生じることが多い.低体温は出血を助長させたり,心筋虚血を招くとされているが,免疫能を低下させ,SSI(surgical site infection)発生の危険因子とも考えられている.大腸癌手術患者を対象とした検討では,術中に積極的に加温すると創感染率が約1/3に減少し,ヘルニアなどの短時間手術では,術前に局所や全身を温めておくと創感染率が低下するとの報告がある.低体温対策としては,室温をなるべく23℃以上にすることや,大量の冷たい輸液を避けること,保温装置を利用することなどが挙げられる.保温装置は,forced air warmingが最も有効であるといわれており,1時間以上の手術では使用が推奨される.

新しいSSI対策―周術期の高濃度酸素投与

著者: 針原康 ,   小西敏郎

ページ範囲:P.1047 - P.1052

要旨:SSI(surgical site infection)を減少させる手段として,術中および術後数時間,高濃度酸素を吸入させる方法が注目を集めている.臨床例の検討では,周術期に80%酸素を投与するとSSIが半分近くに減少したとの報告に対して,逆にSSIが増加したとの報告もある.組織酸素分圧が高くなると,SSIの発生が抑えられることに関しては,十分な理論的根拠がある.周術期高濃度酸素投与は,導入が容易でコストも安く,副作用の心配も少ない方法なので,積極的に臨床に取り入れてよい方法だと考えられる.しかしながら,実際に良好な効果を得るためには,末梢循環を良好に保つ管理の徹底や,無菌操作その他の基本処置を忠実に実施することも合わせて重要である.

SSI対策におけるICTの役割:医師の立場から

著者: 竹山宜典

ページ範囲:P.1053 - P.1059

要旨:SSI(surgical site infection)対策の主役は主治医である外科医であるが,旧来の方法を踏襲することに固執する外科医の意識変革は最も困難である.ICT(infection control team)活動の特色と利点は,組織横断的に病院内の多職種が参加する点である.SSI対策においても,この点を最大限に活用し,看護師や検査技師などの多職種からの働きかけにより,主治医の積極的参加を促すことが重要である.ICTメンバーとしての医師の役割は,これらの活動を計画し,時には潤滑油として両者の調整役として機能することである.このような活動を通じて,感染対策は危機管理であるという意識を主治医に植え付けることがSSI対策を推進する原動力となるであろう.

SSI対策―感染制御部ICNの立場から

著者: 藤田昌久

ページ範囲:P.1061 - P.1066

要旨:近年,CDCによる「Guideline for Prevention of Surgical Site Infection, 1999」をもとに,根拠に基づいた周術期管理が行われている.実際には残された課題も多く,現場で対策を実施するうえで施設の現状を踏まえたSSI(surgical site infection)対策の実践が望まれる.そのなかで,ICN(infection control nurse)の立場から,ケアの一環として介入するSSI対策の視点とその内容について解説する.

医療経済・医療安全からみたSSI

著者: 吉田順一 ,   小柳信洋

ページ範囲:P.1067 - P.1072

要旨:医療安全は医療経済を優先すれば損なわれる一方,潤沢に投資しても成果に限界がある.両者を同時に追求するために,手術部位感染(surgical site infection:SSI)のリスク強度+リスク頻度により,1:高+高(例,耐性菌で患者死亡),2:高+低(例,縫合不全で重篤化),3:低+高(例,汚染手術),および4:低+低(例,滅菌不具合)に分け,レベル1~4の順に対策と費用をあてることを提唱する.その他,過去の教訓例の収集・活用,新法令に基づく感染制御,予防的抗菌薬の使用や,特にリスクコミュニケーションが重要であろう.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・4

遊離空腸を用いた食道再建術

著者: 梶山美明 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.1013 - P.1018

はじめに

 顕微鏡下血管吻合術の進歩によって遊離空腸移植再建術は下咽頭癌や頸部食道癌切除後の再建方法として標準治療法の地位を確立した.しかし,大多数の消化器外科医にとって遊離空腸移植再建術は稀にしか経験しない特殊な手術の 1つであり,不慣れな点も多いと思われる.

 遊離空腸移植再建術には一般消化器外科手術の常識とは異なるポイントがいくつかある.本稿では,これまでのわれわれの臨床経験から遊離空腸移植再建術において特徴的で重要と思われるポイントを手術の手順に従って解説する.なお,本稿ではその主旨から切除法や血管吻合法の詳細については割愛した.

元外科医,スーダン奮闘記・16

中村先生との初対面

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1075 - P.1077

一時帰国

 5月のはじめから一時帰国している.連休だけでも家族とともに過ごさないと家内に離縁されてしまうかもしれない.と言っても,もう私抜きでの生活に慣れ,長男はラグビー,長女はバレーボールに熱中しており,家内は長男のラグビークラブの役員をしていて,私の相手をしてくれるのは5歳になる末娘くらいなものである.そして,あっという間に連休が過ぎ去っていき,日本での怒濤の活動となるのである.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・44

胃全摘で剣状突起切除は必要か

著者: 白石憲男

ページ範囲:P.1078 - P.1079

はじめに

 2003年に学会雑誌であるGastric Cancerに掲載された論文「Xiphoidectomy」1)を読んで少し驚きを覚えたことを思い出す.これは米国のワシントン癌センターのVazquezら1)の報告であり,剣状突起切除の手技の工夫に関するものであった.論文を読んで,つぎのようないくつかの疑問が浮かんできた.「剣状突起切除は手技の工夫を必要とするほど危険なものなのか」,「胃切除術の際にいつも行なうべき有用な手技なのか」.実際,筆者の施設では胃切除術の際に剣状突起切除を行うことは稀であり,術野確保が不十分な際に仕方なく行っている.

 様々な外科的処置は外科侵襲をもたらし,合併症を生ずる危険がある.それゆえ,剣状突起切除の目的は術野確保であるが,剣状突起切除をしなくても胃切除が可能ならば,施行しないほうがよいだろうと思う.逆に,剣状突起切除を施行しても合併症の発生率がきわめて低く,重篤な合併症もなく,胃切除が安全に施行できるのであれば剣状突起切除を推奨することができる.そこで早速,論文を検索してみることとした.しかし残念ながら,剣状突起切除に関する論文はわずか数編しかない.無論,無作為化比較試験などあるはずもない.

 本稿では数少ない論文と筆者の経験から「胃全摘で剣状突起切除は必要か」ということを考えてみたい.

病院めぐり

―医療法人社団福田会―福田記念病院外科

著者: 門馬公経

ページ範囲:P.1080 - P.1080

 当院は栃木県真岡市にある.真岡市は宇都宮市の東南約20kmの地にある人口約6万7千人の静かな農工業都市で,毎週,土・日曜日に運行される真岡鉄道のSLは全国のSLファンを惹きつけている.

 当院は昭和50年に現理事長である福田武隼博士(現真岡市長)によって福田胃腸科医院として開院した.翌年には真岡胃腸病院と名称を変更し,消化器系の内科,外科を中心とした45床の病院が設立された.その後,地域の要望に応えるべく施設,病床が拡張され,平成元年に現名称に変更し,「愛し愛される病院」を病院理念とした186床を有する病院となり,真岡市を中心とした芳賀地区の中核病院として発展してきた.平成17年には日本医療機能評価機構の認定病院にも指定されている.

済生会宇都宮病院外科

著者: 植松繁人

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 東北新幹線の下り列車が宇都宮駅を出るとすぐ,進行方向左手の市街地のはずれに当院を望むことができます.当院は昭和17年開所の恩師財団済生会宇都宮診療所に始まり,現在の病院は平成8年に新築・移転したものです.県立がんセンターのほかに県立・市立病院を持たない宇都宮市にとって病床数644床,医師数130余名の当院は地域の中核病院です.外来患者数は1日1,500名を超え,栃木県救命救急センターを運営し,1日平均約70台の救急車を受け入れています.手術室は10室で,9つの診療科による手術件数は年間6,000件に及びます.急性期重症患者にはICU 11床,CCU 5床を備える一方,最上9階には栃木県初の緩和ケア病棟が設けられて,幅広く地域のニーズに応えています.

 当院では数年前から医師の雇用形態を整備し,スタッフ医師のほかに,臨床経験年数に応じてレジデント,シニアレジデント,臨床フェローの3つの有期雇用枠を設けています.これまで当院の外科の最も重要な人材源は慶應義塾大学一般消化器外科学教室ですが,上記の多様な雇用枠を活用し,幅広く人材を求めています.外科の所属は現在14名で,構成はスタッフ7名(一般消化器5,乳腺1,呼吸器1),臨床フェロー2名,シニアレジデント2名,レジデント3名です.主治医の資格を臨床経験3年以上とし,主治医+副主治医の体制で入院診療を行っており,初期研修医がこれに加わります.

外科学温故知新・23

膵臓外科

著者: 武田和憲

ページ範囲:P.1083 - P.1088

1 はじめに

 膵癌や下部胆管癌に対する膵頭十二指腸切除術は今や消化器外科の標準術式として普通に行われている.膵頭十二指腸切除術は「Whippleの手術」とも呼称されるが,これは,Whippleがはじめて膵頭十二指腸切除術に成功したことを意味するわけではない.Whipple以前にも膵頭十二指腸切除術を成功させた外科医が何人か存在する.しかし,Whippleが膵頭十二指腸切除術の成功例を報告したのち,堰を切ったように次々と膵頭十二指腸切除術とその再建法が報告され,世界中に広まったのは事実である.

 膵臓の手術では,このほかに慢性膵炎に対するPuestowの手術やBegerの手術などそれぞれの術式の創始者の名前をつけて呼ばれる手術も多く,それぞれに歴史があるが,本稿では誌面の都合上,膵の手術として最も代表的な膵頭十二指腸切除術を中心にその端緒を探り,その後の展開を述べたい.

連載企画「外科学温故知新」によせて・12

Crohn病の生い立ち

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1089 - P.1091

 1932年に米国・ニューヨークのMount Sinai病院のBurrill Bernard Crohn(図1)が同僚のGinzburgとOppenheimerとの連名で,アメリカ医師会雑誌(JAMA)誌に発表した「Regional ileitis. A pathologic and clinical entity.」と題した論文が「Crohn病」の淵源となったのは周知のとおりである.Crohnらはこの論文の冒頭で「(今回報告する疾患は)主として若年者の回腸終末部付近に生じるもので,腸管壁に壊死に引き続く結合織の過剰な増生から瘢痕化をきたす,亜急性ないし慢性の経過をたどる炎症性疾患である.このため,高頻度に腸管の内腔狭窄や周辺臓器との間に瘻孔を形成する」と,この疾患の特徴的臨床像を述べている(良性な経過をたどるため,手術的治療を受ければその生命予後は良好であるとも述べている).さらに,病因は不明であるが,これまで報告されてきたどの肉芽腫性疾患や炎症性疾患の概念とも合致しないことに言及している.なお,Crohnらは発表当時,牛(cattle)にみられる「Johne's病」(ヨーネス病:腸管のMycobacterium paratuberculosis感染症)と同じ範疇の病態であろうと考えていたようであるが,どうしてもその菌種を病原体として検出できなかったのであった.

 つぎに,病理学的検索に関しては,「この論文中に提示した14症例のうち13例は同病院のA. A. Berg医師が外科手術で摘出した標本を用いた」としている.この論文では,この疾患の病理組織学所見,臨床像や身体所見(診察時の腹部の徴候)が詳しく述べられているが,これらの記述は現在の「Crohn病」のそれとほとんど変わらないので割愛する.

胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開・18

1960年代以後(2)―郭清の評価,欧米と日本

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.1093 - P.1105

【1940,1950年代の展開の評価,米国】

 1930年代に胃リンパ流の再検討がなされ(Rouvière:1933年,井上:1936年),その成果の実践での展開が胃全摘,大網広範切除,膵脾合併切除および系統的リンパ節郭清の4つの方向に向けられてきました.それが1940,1950年代の胃癌リンパ節郭清の展開であり,これまでのMikuliczの郭清体系が乗り越えられるかと期待されました.4つの展開のうち前3者は米国を中心に実践されてきましたが,そこではリンパ流の再検討の成果を十分に生かしきれなかったことはすでに述べたところです(本連載第16回).そして,1960年代に入るとこれらの展開への批判的論評が現れました.ここでは2つの論文を紹介します.

 1つはNew York Memorial CenterからのLawrence,McNeer論文です1).Memorial Centerといえば,郭清の展開の3つの方向を積極的に推進してきた施設であり,その状況は本連載でもしばしば取り上げて紹介してきたところです.論旨は,1951年に始まるextended total gastrectomy(a vigorous trial of this including an en block resection of both omenta, distal pancreas, and spleen)と,それ以前のsubtotal gastrectomyを術後生存率で比較したものです.結論は,原図を多少修正した図1にみるように,extended total gastrectomyの生存率への寄与を否定するものでした.症例が1930年,1940年,1950年代と3区分されています.1930年代の胃切除は死亡率も20%から10%台に降下しましたが,まだ安定した術式とは言い難く,1940年代になってoperability,resectabilityが上昇し,胃切除術が胃癌の切除術式として確立したとみることができます.そして,1950年代に胃癌に対する胃全摘が導入されました.これによってoperabilityは多少上昇しましたがresectabilityは横ばいで,5年生存率も期待に反して1940年代と同等でした.

臨床報告・1

胸腔鏡下に切除した胸壁神経鞘腫の1例

著者: 松田英祐 ,   岡部和倫 ,   松岡隆久 ,   平澤克敏 ,   東俊孝 ,   杉和郎 ,   村上知之

ページ範囲:P.1107 - P.1110

はじめに

 胸部に発生する神経原性腫瘍は,そのほとんどが後縦隔に発生し,胸壁に発生することは比較的稀である1,2).今回われわれは,胸壁に発生し,胸腔鏡下にて切除した神経鞘腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

腹部鈍的外傷による遅発性小腸狭窄の1例

著者: 中本健太郎 ,   須浪毅 ,   雪本清隆 ,   澤田隆吾 ,   鬼頭秀樹 ,   阪本一次

ページ範囲:P.1111 - P.1115

はじめに

 腹部鈍的外傷による小腸損傷は,破裂・断裂といった急性症状を呈することが多いが,稀に遅発性の狭窄を生じることがある1)

 われわれは,受傷から約40日後に小腸の瘢痕狭窄による腸閉塞をきたし,さらに小腸穿孔,腹腔内膿瘍を形成した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Brunner腺腫の癌化により発生したと考えられた早期十二指腸癌の1例

著者: 小林達則 ,   上川康明 ,   上山聰 ,   里本一剛 ,   池田義博 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.1117 - P.1122

はじめに

 原発性十二指腸癌は比較的稀な疾患であり,その発生母地に関しては議論が多く,十二指腸腺腫の癌化,十二指腸粘膜よりのde novo発生,Brunner腺腫の癌化,迷入膵や迷入胃粘膜の癌化などの説があるが,明らかでない場合が多い1)

 今回,われわれは十二指腸第1部にⅡa+Ⅱc型の低分化早期十二指腸癌の1例を経験し,病理組織学的検討によりBrunner腺腫からの発癌と考えられたので,文献的考察を加えて報告する.

虫垂が嵌頓した男性大腿ヘルニアの1例

著者: 松谷英樹 ,   大石晋 ,   吉崎孝明 ,   池永照史郎一期 ,   舘岡博 ,   黒滝日出一

ページ範囲:P.1123 - P.1126

はじめに

 大腿ヘルニアは中年以降の女性に圧倒的に多く,嵌頓を起こしやすいとされている1).今回,われわれは虫垂が嵌頓した男性大腿ヘルニア症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胆石性胆囊炎に続発した肝鎌状間膜膿瘍の1例

著者: 小川宰司 ,   山本雅明 ,   佐々木賢一 ,   渋谷均 ,   今信一郎 ,   平田公一

ページ範囲:P.1127 - P.1130

はじめに

 肝鎌状間膜は,臍より肝臓に至る2枚の腹膜で形成されたヒダで,肝の前面から腹側面に至り,その後肝冠状間膜,左三角間膜の2葉に分かれる.また,肝鎌状間膜は胎生期の臍静脈の遺残物である肝円索,傍臍静脈や脂肪組織などで構成される1).肝鎌状間膜膿瘍とはこの部位に膿瘍が形成された状態を指し,新生児期や乳幼児期の臍炎に由来する肝膿瘍の原因として多くの症例報告2~4)をみるが,成人発症例の報告は極めて少なく,また報告例での感染経路は明らかではない.

 今回,胆石性胆囊炎を契機に発症したと考えられた肝鎌状間膜膿瘍の稀な成人例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

回盲部に消化管間質腫瘍様の壁内転移をきたした子宮頸癌の1例

著者: 佐久間貴彦 ,   池田公正 ,   畑泰司 ,   賀川義規 ,   島野高志

ページ範囲:P.1131 - P.1134

はじめに

 末期癌を除き,消化管,特に大腸への癌転移は少ないが,そのなかでも悪性黒色腫1,2),肺癌3,4),乳癌5~9)は大腸転移の報告がみられる.他臓器原発癌の消化管転移は稀で,散発的に報告がみられるにすぎない.

 今回,われわれは回盲部に消化管間質腫瘍様の転移をきたした子宮頸癌症例を経験した.子宮頸癌の大腸転移はほかに1例の報告10)がみられるにすぎない.本症例は術前,子宮頸癌の再発・大腸転移の診断に至らず,術後の病理組織検査にて初めて確定診断を得た.子宮頸癌が進行癌ではなかったこと,子宮頸癌の大腸転移は稀であること,消化器症状が術後に施行された全骨盤照射に由来すると判断していたことから,回盲部への子宮頸癌転移を鑑別診断として挙げ得なかった.興味ある症例と考え,文献的考察を加えて報告する.

ITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術後に肺塞栓症をきたした1例

著者: 盛真一郎 ,   川崎雄三 ,   大迫保 ,   野村秀洋 ,   山角健介 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.1135 - P.1138

はじめに

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;以下,ITP)に対する摘脾術は,その有効性から治療の主流となっており,さらに腹腔鏡下手術が導入され,その有用性が多く報告されている1,2).しかしながら,摘脾術後の反応性血小板増加に際しては,血栓症合併の危険性が示唆されており3),欧米における腹腔鏡下脾臓摘出術周術期の下肢深部静脈血栓症(deep venous thrombosis;以下,DVT)発生の報告が散見される2,4).一方,肺塞栓症は種々の塞栓子が肺動脈を閉塞して生じる病態であり,その成因としてのDVTは重要である5,6).わが国では,ITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術後のDVT発生の報告は稀で,肺塞栓症を合併した症例の報告は見当たらない7)

 今回,われわれはITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術後に肺塞栓症をきたした1例を経験したので報告する.

切除可能であった腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術後局所再発の1例

著者: 桐山真典 ,   山本聖一郎 ,   藤田伸 ,   赤須孝之 ,   石黒成治 ,   森谷冝皓

ページ範囲:P.1139 - P.1142

はじめに

 直腸癌に対し,術後の早期回復が期待できる手術術式として腹腔鏡下手術の有用性が報告されている1).しかし,中下部直腸癌に対する腹腔鏡下手術と開腹手術とを比較した研究は少数報告されているのみで,腹腔鏡下手術の安全性は十分に確立しているとはいえない.

 今回,前医にて進行直腸癌に対して術前放射線化学療法後に,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術が施行され,術後18か月後に局所再発をきたし,当院で骨盤内臓全摘術を施行して切除しえた1例を経験したので報告する.

外科医局の午後・34

第107回日本外科学会定期学術集会

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1052 - P.1052

 日本外科学会定期学術集会が大阪で開催された.出身教室の主催としては実に約25年ぶりであり,非常に楽しみにしていた.その前週には同じ場所でやはり母校の主催で4年に一度の日本医学会総会が開催されており,まさに学会漬けの1週間となった.

 最近は大阪にはめったに出なくなったが,大阪駅や元大学病院があった跡地は大きく変貌している途中であり,あちらこちらで工事中である.慣れているはずの大阪駅をうろうろするはめになってしまった.

コーヒーブレイク

ラパ胆の教訓

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1066 - P.1066

 「ラパ胆」と言えば腹腔鏡下胆囊摘出術のことですが,1987年に世界ではじめて行われ,わが国では1990年に第1例が行われて以来,今や胆囊手術の標準術式となっています.

 この術式の出現は,有名なガリレオにまつわる科学史上の逸話を紐解くまでもなく,こうした時代の曲がり角とでも言える節目に起こり得る出来事を私にリアルタイムに経験させることになりました.それは有り体に言えば,過去の権威と新しいものとの確執,あるいは時代が変わる時に生じる軋みとでもいうものでした.しかし,年を取ってはじめてわかるということではありますが,どうやらそれは至し方のないことのようにも感じられます.

書評

Asher Hirshberg/Kenneth L. Mattox(著),行岡 哲男(訳)「トップナイフ 外傷手術の技・腕・巧み」

著者: 重松宏

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 腹腔内出血で腹部は膨満し,意識レベルは既に患者の血圧とともに低下し,呼吸は促迫して脈は微弱,「瘤破裂だ!」,ストレッチャーを駆けるように押して手術場に運ぶ,正中切開とともに血液は噴出して吸引が間に合わない,小網を指で分けて腹腔動脈上で大動脈を把持して遮断鉗子をかける,途端に血圧低下が止まってパンピングする輸血とともに血圧は上昇に転ずる,執刀から遮断までこの間5分,というように診断・治療が容易であればよい.

 が,外傷ではそうはいかない.噴出する出血,裂けた肝臓を助手に把持させても止まらない,「出血部位はどこだ! 肝破裂だけではないぞ!」,後腹膜は血腫でせり上がっている,警告音が頭の芯で鳴り響く,「まずい,どうしよう,間に合うか」,別の自分が語りかけてくる―ここから先は本書を読むのがよい.

ひとやすみ・23

台なしの権威

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1092 - P.1092

 社会においてはその道の権威でも,人は稀に権威者らしからぬ行動をすることがある.特に医療の世界では,家族さらには自分自身の病気になると専門医らしかぬ振る舞いをすることがある.

 消化器内科の開業医から,ご子息の腹腔鏡下胆囊摘出術を依頼された.患者は父親の跡を継ぐべく,三浪中の受験生であった.手術終了後に,摘出した胆石を父親にあげたら,「やっぱり胆石発作でしたか……」.息子は「……」.昨年末から3回の発作があったが,父親は仮病と考えていたらしい.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.1146 - P.1146

 つい最近ワシントンに行ってきた.米国消化器病学会が中心で開催しているDDWに出席するためである.ワシントンはD.C.と略されるが,これはThe District of Columbiaのことで,つまりはコロンビア特別区である.そのため,歴史的にワシントン市民は1961年まで大統領選の投票権をもたず,また,1つの州同等とみなされながら連邦議会の選挙区がない.ワシントン市民を下院で代表するのは,議会本会議での投票権をもたない準議員のみである.最近もこれについての議論が報道されていた.ウィキペディアによると漢字による当て字は「華盛頓」で,「華府」と略すのだそうである.

 以前は犯罪が多く,全米危険地域にも挙げられており,おっかなびっくりでもあったが,街全体はきれいで落ち着いた印象であった.ほとんど落書きを見なかったのは,米国の首都としての取り組みなのであろうか.シーフードの店が多く,味もなかなかであった.予約して行った店はぼろ家であり,われわれが恐れてタクシーから降りないのを見て,運転手は大丈夫とニヤニヤしている.恐る恐る扉を開けると,きれいな空間が広がり,なかはお客であふれていた.なかなかの演出ではあるが,旅行客には少々きついものがある.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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