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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科62巻9号

2007年09月発行

雑誌目次

特集 多発肝転移をめぐって

多発肝転移の発生機序

著者: 山本浩文 ,   竹政伊知朗 ,   池田正孝 ,   関本貢嗣 ,   門田守人

ページ範囲:P.1159 - P.1165

要旨:肝転移の発生機序としては,Pagetが提唱したseed and soil説と,Ewingが唱えたmechanical-anatomical theoryが有名である.近年,前者においては癌と転移臓器が発現・分泌する受容体とサイトカインの適合性が重要ということがわかってきた.肝転移が形成されるまでに癌細胞は多くのステップを乗り越えなければならず,そのなかで最終段階とも言える転移臓器での腫瘍増殖に必要な血管新生を阻害する戦略が臨床的に効果を上げている.最近の転移研究の成果は,まさしく転移が単に癌細胞のみならず,血管内皮細胞,線維芽細胞,骨髄細胞などの宿主細胞をも巻き込んだダイナミックな現象であることを示している.

多発肝転移を見つける画像診断

著者: 鈴木裕 ,   阿部展次 ,   松岡弘芳 ,   柳田修 ,   生形之男 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   谷忠伸 ,   杉山政則 ,   尾形正方 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1167 - P.1171

要旨:転移性肝腫瘍の取り扱いは「非切除」から「根治可能であれば切除」まで様々である.治療方針の決定のためには質的診断に加え,その部位や数などの存在診断が重要である.USやCTはスクリーニング検査として多くの施設で可能である.しかしながら,その描出能は決して高くはない.現在,非侵襲的で描出能の高いモダリティはSPIO造影MRIやFDG-PETであると思われる.SPIO造影MRIは存在診断には長けているが,質的診断は高くないという欠点もある.また,FDG-PETは検出能が高く,一度に全身を検索できるという利点があるが,高いコストと,試行可能な施設がいまだ少ないという問題点がある.効率的に多発肝転移を検出するには多くの施設で施行することが可能なUSや造影CT,造影MRIなどに適宜,SPIO造影MRIやFDG-PETなどを加えて確診を得るべきと思われる.

根治的肝切除の適応と治療成績

著者: 橋本拓哉 ,   國土典宏

ページ範囲:P.1173 - P.1179

要旨:肝臓は悪性腫瘍の血行性転移の主な転移先の臓器の1つであり,発見時にすでに多発転移をきたしていることも稀ではない.手術以外の根治的治療法はなく,これらの転移性肝腫瘍に対して肝切除が試みられてきた.特に大腸癌肝転移に対しては,多発肝転移症例に対しても積極的に肝切除が行われており,遠隔成績を含めた様々なエビデンスが報告されている.肝切除そのものの進歩やそれに伴う安全性の向上によって技術的な切除限界はなくなりつつあるが,転移個数を含めた根治的手術の適応に関しては一定の見解が得られていない.多発肝転移の肝切除後の遠隔成績に関しては,いまだ満足できるものとは言えず,肝切除を中心に据えたうえで,化学療法併用なども含めた治療戦略を模索していく必要がある.

大腸癌肝転移に対する局所凝固療法の方法と治療成績

著者: 高橋正浩 ,   新田浩幸 ,   佐々木章 ,   板橋英教 ,   藤田倫寛 ,   星川浩一 ,   武田雄一郎 ,   舩渡治 ,   川村英伸 ,   若林剛

ページ範囲:P.1181 - P.1184

要旨:大腸癌肝転移に対する治療法の第1選択が肝切除であることに異論はない.しかし,腫瘍条件や全身状態,併存疾患などから切除不能である症例に対してラジオ波焼灼療法などの局所療法が選択される場合がある.ラジオ波焼灼療法は優れた局所治療法ではあるが,リスクもある.現状における大腸癌肝転移に対するラジオ波焼灼療法の位置づけは,肝外転移がなく,比較的小さな肝転移巣が何らかの理由で切除不能である場合に考慮する治療法と考えられる.

大腸癌多発肝転移に対する肝動注療法の現状と治療成績

著者: 渡會伸治 ,   田中邦哉 ,   松尾憲一 ,   松本千鶴 ,   高倉秀樹 ,   永野靖彦 ,   遠藤挌 ,   市川靖史 ,   嶋田紘

ページ範囲:P.1185 - P.1195

要旨:大腸癌の予後を改善させるには,従来は切除することが不能とされた両葉・多発肝転移,いわゆるH3肝転移の予後を改善させる必要がある.肝動注療法は欧米では評価は低い.その理由は,全身化学療法と比べ奏効率は高いが生存期間に寄与せず,むしろ胆管狭窄や胃十二指腸潰瘍といった副作用が懸念されるためである.しかし,肝切除が唯一根治を望める治療法であることを考慮すると,H3肝転移に対して,まずneoadjuvant chemotherapyとして奏効率の高い肝動注療法を行い,さらに全身化学療法を加えdown stagingをはかってから肝切除を行うべきと考えられる.さらに,術後も残肝再発予防として全身化学療法を含めた肝動注療法を行い,治療成績の向上を目指さなければならない.

多発肝転移に対する経皮的肝灌流化学療法の適応と治療成績

著者: 木戸正浩 ,   富永正寛 ,   福本巧 ,   岩崎武 ,   具英成

ページ範囲:P.1197 - P.1203

要旨:通常,多発肝転移については全身化学療法が主に選択されている.しかし,多発例であっても大腸癌の肝転移では外科的切除が可能な場合,筆者らは個数や手術回数に関係なく切除を第1選択としている.他方,胃癌や膵癌では切除することが不可能な両葉多発病変やリンパ節転移などの要因で肝切除の対象となる例は数少ないのが実情である.近年,大腸癌肝転移例についてはFOLFOXをはじめ有望な全身化学療法のレジメンが登場し,生存期間の延長が得られているが,有効率やQOL,予後などで限界がある.筆者らは経皮的肝灌流化学療法(PIHP)を開発し,これまで進行肝細胞癌を主な対象として治験を重ね,その成績を報告してきた.本稿では転移性肝癌に対するPIHPの治験成績を紹介し,今後に残された課題と展望について述べる.

大腸癌肝転移に対する全身化学療法の役割

著者: 山崎健太郎 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.1205 - P.1209

要旨:遠隔転移を伴う消化器癌の多くは根治切除が不能であり,全身化学療法の適応である.しかし,大腸癌肝転移の切除後の5年生存率は30~50%で,転移巣切除によって治癒を期待できる.したがって,現在の大腸癌肝転移に対する標準治療は切除可能であれば外科的切除,切除不能であれば全身化学療法である.ただし,初回診断時に切除不能な場合でも,化学療法の奏効後に治癒切除が可能となり,長期生存が期待できる症例も存在する.新しい試みとして,治癒切除率の向上を目的とした術前化学療法や術後補助療法,周術期化学療法などがある.本稿では大腸癌肝転移症例に対する全身化学療法の意義について海外の報告をもとに概説する.

大腸癌肝転移に対するnew strategy

著者: 馬場秀夫 ,   別府透 ,   石河隆敏 ,   本田志延 ,   外山栄一郎 ,   堀野敬 ,   林尚子 ,   宮成信友 ,   高森啓史 ,   広田昌彦

ページ範囲:P.1211 - P.1217

要旨:大腸癌肝転移に対しては従来から肝切除が最も予後良好な治療法であるが,診断時にすでに多発肝転移があるため,切除不能であることもしばしばある.近年,FOLFOXやFOLFIRIなどの全身化学療法や分子標的治療薬などの治療法が進歩し,高い奏効率に加え,生存期間の延長が認められるようになってきた.しかし,臨床的にCRと考えられる症例でも組織学的CRは一般に10未満であるため,さらなる予後向上のためには,術前化学療法によって肝転移巣が縮小した場合,肝切除を行うことが望ましい.われわれの教室では2005年から切除不能大腸癌肝転移症例に対してFOLFOXによる術前化学療法を行い,腫瘍が縮小し切除可能となった時点で肝切除を行っている.本稿では大腸癌肝転移に対する治療法とその成績を概説し,術前化学療法と肝切除による新しい治療戦略について述べる.

転移性肝癌に対する肝移植

著者: 池上俊彦 ,   宮川眞一

ページ範囲:P.1219 - P.1224

要旨:肝悪性腫瘍に対する究極の肝切除として,理論的には肝全摘および肝移植という方法があり,初期には肝切除が不可能な様々な転移性肝癌に対しても肝移植が行われた.しかし,現時点では成績が不良であるために,原発が神経内分泌腫瘍の肝転移例を除いては肝移植の適応はないと考えられている.本稿では,神経内分泌腫瘍による転移性肝癌に対する肝移植を中心に,文献的考察を加えながら概説した.

大腸癌多発肝転移に対する合理的治療体系

著者: 吉留博之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   野沢聡志 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   須田浩介 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1225 - P.1230

要旨:大腸癌多発肝転移に対する合理的治療戦略においては肝切除を中心に置き,その適応を考慮することが重要である.肝予備能の評価と癌の進展度から切除適応を決定し,残肝容積増大のための門脈塞栓術やラジオ波などのablation治療や,FOLFOX,FOLFIRIなどの抗癌剤治療を組み合わせて切除例数を増加させ,予後の向上をはかることが重要である.そのほかの胃癌などにおける多発肝転移例では厳格な患者選択が重要である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・5

腹腔鏡下胃全摘術

著者: 川平洋 ,   林秀樹 ,   鍋谷圭宏 ,   中島光一 ,   山崎将人 ,   牧野治文 ,   赤井崇 ,   上里昌也 ,   西森孝典 ,   林春幸 ,   落合武徳

ページ範囲:P.1151 - P.1158

はじめに

 腹腔鏡下胃癌手術はKitanoら1)による腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(以下,LADG)の報告から13年が経過し,様々な議論を経て内視鏡下の胃癌リンパ節郭清手技がほぼ確立されたことや,2002年に腹腔鏡(補助)下胃癌手術が保険収載されたことなどから,わが国において広く受け入れられることとなった.また,LADGの低侵襲性のメリットが科学的に明らかにされたことや1,2)自動吻合器の使用方法が工夫されるようになったこと,内視鏡下体内縫合・結紮手技の普及に伴い内視鏡下に安全に施行することが可能な種々の新しい消化管吻合法が開発されたことなどから3~5),LADGばかりでなく腹腔鏡(補助)下の噴門側胃切除や胃全摘術などの施行症例数も増加し,良好な結果が報告されつつある6,7).これらの新しい術式も早期胃癌の割合が高いわが国においては広く普及する可能性があると考えられる.

 本稿では,われわれが標準的に行っている早期胃癌に対する腹腔鏡補助下胃全摘術(以下,LATG)の術式の詳細を述べる.

米国での移植外科の現場から・1【新連載】

移植フェローの教育

著者: 十川博

ページ範囲:P.1231 - P.1234

1 はじめに

 筆者は1995年に滋賀医科大学を卒業後,在沖縄米海軍病院インターンを経て,東京女子医科大学消化器病センター外科で医療錬士を3年間務め,ハーバード大学マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital:MGH)の移植外科で研究留学した.さらにニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(The State University of New York Stony Brook)の5年間の一般外科レジデントを終えたのち,現在はマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)で移植外科の臨床フェローとして米国留学中である.以前に日米のレジデント外科教育について連載していたが(59巻7号~60巻6号),今回は移植外科についての米国の現状を報告させていただく.

元外科医,スーダン奮闘記・17

父の日絵画コンクール

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1235 - P.1237

父の日絵画コンクール

 今回の帰国は約50日に及ぶものであった.講演は高校,大学,病院,そして地域のセンターなど合計25か所で行った.最終講演の地は大阪である.本来は,そのまま関西空港から飛び立つ予定であったが,家族の顔が見たいこともあり,日帰りで大阪から北九州に戻ってきて,その翌日,再び大阪へ行って日本を旅立つようにした.

 講演は6月17日の日曜日.まったく気がついていなかったが,父の日である.その前日に5歳の末娘の通う保育園から連絡があった.近くのスーパーで父の日絵画コンクールがあり,末娘が描いた絵が金賞になったとのことである.表彰式があるとのことだが,上記の講演のため出られない.そのために,家族で前日にそのスーパーに行き,展示されている絵を見に行った.顔の下が丸く膨れて描かれ,三角の鼻,ちょぼちょぼのヒゲ,家族は「どことなく似てるね」と言う.私に似て,とても絵心があるとは思えないが,金賞はどうであれ,娘が私の顔を一生懸命に描いてくれたこと自体がとても嬉しい.翌日,最後の講演会でこの絵のことを話そうとすると,不思議と気持ちが高ぶり,言葉に詰まってしまった.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・45

直腸保護ストマは結腸が標準か

著者: 猪股雅史 ,   二宮繁生 ,   安田一弘 ,   野口剛 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1239 - P.1241

【直腸保護ストマとは】

 直腸癌に対して低位前方切除術を行う場合,直腸切離ラインが低くなると縫合不全のリスクが増加する.特に全直腸間膜切除(total mesorectal excision:以下,TME)では血行の乏しい直腸がかなりの長さで残るため,術後に縫合不全が高率に生じる(10~20%以上)1).TMEや超低位前方切除術では術後の縫合不全を避けるため,口側腸管に一時的な直腸保護ストマ(diverting stoma,covering stoma,protective stoma)の必要性が生じてくる2).結腸の穿孔性腹膜炎に対する緊急手術においても縫合不全の発生率が高いため,直腸保護ストマの必要な場合が多い.直腸保護ストマ造設の目的は,吻合部の安静をはかり,縫合不全などの合併症を最小限に抑えることにある.したがって,初期治療における合併症の危険性がなくなり次第,安全に閉鎖され,速やかに患者の社会復帰が遂げられなくてはならない.患者のquality of life(QOL)を良好に保つために,ストマ自体の合併症は極力少なくあるべきである.

 さて,この直腸保護ストマの造設は,以前は横行結腸ストマ(colostomy)が一般的に作られてきたが,最近は回腸ストマ(ileostomy)を選択する外科医も少なくない.直腸保護ストマとして,はたしてどちらがよいのだろうか?

病院めぐり

住友別子病院外科

著者: 花岡俊仁

ページ範囲:P.1242 - P.1242

 当院のある新居浜市は愛媛県東部(東予地方)に位置しており,人口は約13万人です.当院は明治16(1883)年に別子山村において住友家事業の従事者とその家族の診療を目的として開設されました.昭和41年から一般保険診療を開始し,現在では新居浜市のみならず東予地域の診療を担う,19診療科からなる401床(一般368床,療養33床)の総合病院です.平成17年1月から地域がん診療連携拠点病院に指定され,ほかには臨床研修指定,地域周産期母子医療センター認定,病院機能評価機構認定(Ver. 5.0)を受けています.

 現在,外科の医師は佐伯診療部長(昭和49年卒)を筆頭に筆者(昭和61年卒),小林(平成3年卒),福原(平成4年卒),中川(平成6年卒),鈴木(平成9年卒)の6名です.全員が岡山大学第2外科の出身で,呼吸器,消化器,乳腺内分泌,血管と幅広い分野を専門としています.

市立宇和島病院外科

著者: 梶原伸介

ページ範囲:P.1243 - P.1243

 当院は四国の西南地方に位置しており,1910年に町立宇和島病院として設立されました.以後,徐々に病棟,診療科が整備され,現在は21科,一般病棟470床,救命救急センター20床,療養病床60床,感染病床4床,結核病床4床,計559床の総合病院です.当地は以前より交通の便が悪く,県都の松山から100km離れており高速道路もないため,当地方の最終病院として機能してきました.救命救急センターを併設し,災害拠点病院,地域癌拠点病院,臨床研修病院に指定され,日本医療機能評価機構の認定も受けています.田舎ですが対象人口が多く,当院しか総合病院がないため,24時間,365日いつでも診察,入院ができる体制を敷いているため多忙な毎日です.現在,病院全体では1日外来数1,161人,1日入院患者数538人,病棟利用率96.3%,在院日数14.2日です(平均).

 外科は一般外科6名,心臓血管外科3名,シニアレジデント2名で診療を行っており,2006年の実績は全症例1,093例でした.心臓血管外科135例,胸部外科76例で,そのうち冠動脈バイパス術が27例,肺癌手術が48例(胸腔鏡下手術27例)でした.一般外科手術例は888例で,胃癌手術が74例(LADG 6例),結腸・直腸癌121例(LAC 27例),肛門疾患81例,虫垂炎79例,胆石・総胆管結石165例(腹腔鏡下143例),肝胆膵悪性腫瘍20例,ヘルニア87例,乳癌50例でした.腹腔鏡下手術は1991年から開始してLSCの累積は1,990例となっており,本年中に2,000例を突破すると思われます.そのほか肺癌,胃癌,結腸,直腸癌に対しても積極的に内視鏡下手術を行っています.しかし,レジデントの教育もあって開腹手術も大切であり,これだけの手術件数をこなすためには手術時間も重要な要素となるため,内視鏡下手術の適応を吟味して手術を施行しているのが現状です.

外科学温故知新・24

内視鏡下手術

著者: 田中淳一

ページ範囲:P.1245 - P.1257

1 はじめに

 内視鏡下手術では主として硬性鏡を用いて,炭酸ガスで気腹された腹腔内や胸腔内でモニター画面を見ながら,特殊な鉗子,鋏,電気メスあるいは超音波凝固切開装置などを駆使して臓器の剝離,授動,切除や吻合・再建などの外科的手技が行われる.内視鏡下手術は低侵襲性であることや手術手技の技術的向上,術後のquality of life(QOL)改善によって,そして何よりも患者の満足度に支えられ,マスコミ報道を通じて社会的にも認知され,近年その手術件数が急激に増えている(図1)1).本稿では内視鏡下手術の歴史を振り返りながら,内視鏡下手術が従来の外科手術に及ぼした影響と内視鏡下手術の現況を述べてみたい.

外科学温故知新・25

脾・門脈外科

著者: 近藤哲

ページ範囲:P.1259 - P.1263

1 はじめに

 門脈圧亢進症(以下,門亢症)に伴う食道・胃静脈瘤に対しては,今日では硬化療法(EIS)や静脈瘤結紮術(EVL)などの内視鏡的治療によってほぼ出血をコントロールできるようになり,脾・門脈外科の出番は極端に少なくなった.しかし,内視鏡的治療が未発達であった往時は外科治療が主流で,様々な方法が試行された.なかでも,わが教室の加藤紘之名誉教授が完成された選択的シャント手術はきわめて合理的な手術であり,その理論的背景から筆者が学んだ門亢症の理解は今日でも活きている.

 本稿では加藤名誉教授の総説1,2)を引用して選択的シャント手術を代表とする脾・門脈外科の流れを知り,その理念が現在どのように活きているかを最近経験した手術例で検証する.

臨床報告・1

イレウス管が誘因となった術後腸重積症の1例―本邦報告例64例の検討

著者: 鈴木俊二 ,   多森靖洋 ,   細瀧喜代志 ,   田平洋一 ,   島本正人

ページ範囲:P.1265 - P.1268

はじめに

 成人の腸重積症は比較的稀な疾患であり1),器質的疾患に基づくことが多い.しかし,術後性の腸重積では稀にイレウス管が原因となることが報告されている.

 今回,われわれはイレウス管留置中に生じた腸重積症を経験したので報告する.

転移性肺癌との鑑別に苦慮した結節性珪肺症の1例

著者: 寺石文則 ,   宇野太 ,   香川俊輔 ,   藤原俊義 ,   松岡順治 ,   田中紀章

ページ範囲:P.1269 - P.1271

はじめに

 珪肺症(silicosis)は最も古くからある職業性肺疾患として知られており,シリカに曝露され,長期にわたって吸入すると発症する.最近では珪肺症に合併した肺癌の報告もみられ1),悪性疾患との鑑別診断が重要である.

 今回,われわれは甲状腺乳頭癌の肺転移との鑑別に苦慮した結節性珪肺症の1例を経験したので報告する.

肺原発悪性黒色腫の1例―本邦報告例についての検討

著者: 山本昌幸 ,   森田一郎 ,   木下真一郎 ,   光野正人 ,   物部泰昌

ページ範囲:P.1273 - P.1277

はじめに

 今回,非常に稀で,わが国では文献的に14例の報告しかない1~14),肺原発悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.

脳性麻痺患者に生じた盲腸軸捻転症の2例

著者: 長誠司 ,   草間昭夫 ,   島影尚弘 ,   内田克之 ,   岡村直孝 ,   田島健三

ページ範囲:P.1279 - P.1282

はじめに

 盲腸軸捻転症は結腸軸捻転症の5.9%と比較的稀な疾患である1,2).今回,われわれは脳性小児麻痺患者に生じた盲腸軸捻転症を2例経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

成人腸重積症を合併した横行結腸脂肪腫の1例

著者: 江藤孝史 ,   御手洗義信 ,   御手洗東洋 ,   二宮繁生 ,   猪股雅史 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1283 - P.1286

はじめに

 大腸脂肪腫は比較的稀な疾患であるが,近年の内視鏡検査の普及に伴って発見される頻度が高くなっている1).今回,われわれは成人腸重積症を合併した横行結腸脂肪腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

保存的治療後に緊急手術を施行した門脈ガス血症の1例

著者: 野田顕義 ,   櫻井丈 ,   諏訪敏之 ,   榎本武治 ,   中野浩 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.1287 - P.1290

はじめに

 門脈ガス血症(portal venous gas:以下,PVG)の多くは腸管壊死に合併し,予後不良の病態とされている1).最近では保存的治療によって軽快する症例も報告されており,初期治療の判断が必要とされる.

 今回,保存的治療後に緊急手術を施行した門脈ガス血症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

臨床報告・2

Press-through packageの誤飲後,長期経過して発症した十二指腸穿通の1例

著者: 後藤直大 ,   森光樹 ,   金光聖哲 ,   裏川公章 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.1291 - P.1293

はじめに

 1960年代から薬剤の包装にpress-through package(以下,PTP)が使用されるようになり,その耐久性や簡便さから広く用いられている1).その一方で,PTPの普及に伴い,その誤飲による消化管異物症や穿孔例の報告も増加している2)

 今回,われわれはPTPの誤飲後,約1か月経過してから症状が出現した十二指腸穿通例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

手術手技

フック型超音波凝固切開装置を用いた腹腔鏡下肝切除術

著者: 今西築 ,   植野望 ,   佐野勝洋 ,   一井重利 ,   黒田浩光

ページ範囲:P.1295 - P.1299

はじめに

 内視鏡下手術では出血をさせないように操作を進める必要があり,術中に多量出血が生じた場合には視野が極端に悪くなって,手術が停滞する.また,気腹下の手術ではCO2塞栓が危惧されることもあって腹腔鏡下での肝切除術は普遍的な手技とは言いがたく,「内視鏡外科手術に関する第8回アンケート調査」1)からも肝切除術は全施設の合計で年間100例前後と胃や大腸などのほかの消化器疾患と比べて手術症例は少なく,広くは普及していないのが現状である.

 今回,われわれは超音波凝固切開装置(ultrasonically activated device:以下,USAD)を用いて通常の気腹下で腹腔鏡下肝部分切除術を行い,良好に経過した2例を経験した.特殊な装置を必要としないため,多くの施設で対応が可能と思われたので,肝切離の手技などについて報告する.

ひとやすみ・24

実力と職場環境

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1171 - P.1171

 一般に外科医は自信家であり,患者さんが集まってくるのは自分が有能であるからだと思っている人が多い.確かに自信を持つことは大切であり,手術という修羅場をくぐり抜けるためには強靭なる精神が必要である.しかし,在職する病院の環境があるからこそ実力以上の能力を発揮できるということも自覚する必要がある.

 今から20数年前,医局の人事で某私立病院に勤めていたことがある.病院は整形外科を主体とし,リハビリテーションの患者さんが大多数を占めていた.また,消化器内科の医師が不在なこともあり,手術件数は少なく暇であった.そこで,みずから内視鏡検査や超音波検査を積極的に行った.検査によって胃癌や胆石などが見つかると,手術を勧めた.多くの患者さんは手術に同意してくれた.そしてみずから麻酔をかけ,看護師さんを相手に手術を施行した.

コーヒーブレイク

携帯電話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1217 - P.1217

 携帯電話は,すでに日本国民に1人に1台の勢いで普及しています.その使用目的は定かではありませんが,中には1人で数台を使い分けている猛者もいると聞いています.

 私が中学生の頃,と言えばもう40年近くも前になりますが,白黒テレビのなかでエンタープライズ号のスポック船長が瞬間移動で艦を離れたあとに小型無線機を手にするのを見て,格好いいなあと感心したことを思い出します.そして,その「双方向性小型無線機」が今や目の前に氾濫し,通話範囲も同じ携帯で外国までカバーされ,さらにそうした通話以外でも多くの機能を備え,最近では小型のパソコン並みの機能も備えている機種もあるようで(私には付いていけません),まさに隔世の感があります.

外科医局の午後・35

外科医の減少

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1263 - P.1263

 昨今,医師不足が大いに話題になっている.産婦人科や小児科をはじめとしてリスクの大きい外科系,麻酔科などが中心である.この話題は本年度の日本外科学会定期学術集会でも大きく取り上げられた.このまま移行すれば,あと10年くらいのうちには新たに外科医になろうとするものが限りなくゼロに近くになってしまうのではないかという危惧があるらしい.このようにリスクの大きい科を中心に医師不足が進む背景には,3年前から開始された新臨床研修制度が原因の1つであるということもすでにあちらこちらで指摘されている.医師不足は地方の病院から始まり,現在では都会でも一部の人気のある病院を除く自治体病院や個人病院でも急速に医師不足が進行している.新臨床研修制度に参加した研修医達が外科の厳しい現状を直接体験して,よけいに外科には行きたくないという人達が多いそうである.

 今まで病院は○○大学系列あるいは○○医局系列などと決められ,同じ大学,同じ科(特に内科や外科などの所帯が大きい科)でも第1や第2と称して区別してきた.私の出身大学では昔から第1が主に心臓血管外科,第2が消化器外科および内分泌外科が主であったが,ともに関連病院へ出張すれば消化器・乳腺が疾患の中心になり,同じ疾患を違う科が取り扱うといった不合理なことが生じていたのである.

昨日の患者

夫婦仲を取り持つエンジェル

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1293 - P.1293

 たがいに最良の人と思って結婚するが,時の経過とともに心の間には隙間風が吹く.特に昨今は熟年離婚が増えつつあり,人生を歩む伴侶間の意思疎通が問題となっている.たまたま主治医を務めたことから,夫婦から大いに感謝された事例を紹介する.

 50歳代後半のSさんが激烈な腹痛を主訴に入院した.精査を行うと急性胆囊炎であり,緊急に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.突然の入院に奥さんは大いに心配したが,良性疾患であることに安堵した.

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1302 - P.1302

 臨床実習で外科をローテートしてくる学生と質疑応答など行う際にしばしば感じることであるが,ドイツ語による臓器名はMagenをはじめとするごく一般的であるもの以外は,これらを知る者はほとんどいないということである.もちろん筆者もドイツ語に長けている筈もなく高邁なことを述べる資格もないが,何か物足りなさを感じることも事実である.医学教育のなかでは当然,医学知識,倫理観,コミニュケーション・スキル,さらには医療技術といった医師となるにあたって必要欠くべからざる分野の充実がはかられ,それぞれの内容の質とともに学ぶべき量も増大していることは確かである.今後もさらに医学教育の現場では社会的ニーズにも対応すべく,その充実を求めなければならない.また,これらの評価の多くはそれぞれ何らかのかたちで数値化がなされているが,その結果として医学にとどまらず多くの分野で数値目標の達成にのみ全力を傾注する傾向が顕著となってきているように思われてならない.

 前述したドイツ語に限らず,文学や哲学をはじめとした医療の実務には必ずしも直接かかわらないような分野における,いわゆる数値化で評価されないuncountableな一般的教養が今こそ問われているようにも思われる.単なる実務的,実用主義的側面にのみ片寄ることなくこのような教養も重要視することがひいては医師の責任感,社会性,存在感,そして誇りにつながっていくのではないだろうか.医療人としての知識,技術そして倫理観に加え,人間としての幅と教養がよりよき医師の育成の両輪と考える.私自身もいまだ未熟ではあるが,さらに精進していきたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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