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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻1号

2008年01月発行

雑誌目次

特集 機能温存手術のメリット・デメリット

咽頭癌に対する機能温存手術のメリット・デメリット―術後合併症,QOL,根治度

著者: 甲能直幸

ページ範囲:P.13 - P.16

要旨:咽頭は口腔から食道につながる食物の通り道であるとともに,鼻・口腔から肺につながる空気の通り道でもある.咽頭癌における機能温存治療のためには喉頭の温存が基本となる.咽頭癌において機能温存手術によって喉頭が温存されると発声が可能となり,外見的にも正常に近い呼吸・嚥下が行える.審美的にも大きなメリットがある.喉頭を喪失すると前頸部に開いた永久気管孔から空気を吸うため,発声も困難となる.デメリットは,機能温存手術によって喉頭が温存されても,ただちに従来の機能が使用できるわけではなく,辛く過酷なリハビリテーションを経てはじめて可能となることであり,大きな努力が必要である.また,現状では,ごく限られた早期癌にしか適応はないので,これらが機能温存手術の限界であり,今後の課題でもある.

食道癌に対する機能温存手術のメリット・デメリット―迷走神経温存・下部食道切除・有茎空腸間置術の手技と術後機能評価

著者: 猶本良夫 ,   白川靖博 ,   田辺俊介 ,   藤原康宏 ,   山辻知樹 ,   羽井佐実 ,   田中紀章

ページ範囲:P.17 - P.23

要旨:胃癌,大腸癌手術に対する機能温存手術とともに,食道癌手術においても機能温存手術の開発が望まれている.本稿で報告する迷走神経温存・経食道裂孔的下部食道噴門切除・有茎空腸間置再建術は,明らかなリンパ節転移のないLt Aeのほぼ全周に及ぶバレット食道表在癌で切除が必要な症例,さらに,多発癌を有する症例を適応とした.また,Lt,Aeの表在型扁平上皮癌で明らかなリンパ節転移のないハイリスク症例や高齢者症例も対象とした.本術式迷走神経温存・下部食道切除・有茎空腸間置術(Gastric-function Preserving Esophagectomy:GPE)は根治性という点から適応は限られるが,今回の術後機能評価によって術後長期的なquality of life(QOL)に貢献し得る術式であると考えられた.特に,GPEはEMR(ESD)症例と通常のリンパ節郭清を伴った食道切除再建術症例の術後QOLにおけるギャップを埋める治療法として位置づけられる可能性が示唆された.

胃癌(幽門側胃切除)に対する機能温存手術のメリット・デメリット

著者: 長尾二郎 ,   炭山嘉伸 ,   中村陽一

ページ範囲:P.25 - P.28

要旨:幽門側胃切除に伴う胃切後障害にはダンピング症候群,術後貧血,胆石形成,残胃炎,逆流性食道炎などがある.これらの合併症対策として,M,L領域の限局性の早期胃癌症例に対しては幽門輪保存胃切除術(PPG)が行われる.また,進行癌や早期癌でも幽門輪に近いPPGの適応外症例に対しては定型的な幽門側胃切除術が行われるが,その再建法として一般的なBillroth-Ⅰ法のほか,機能温存目的にRoux-Y再建法,空腸間置法,double-tract法などが行われている.われわれは(1)より生理的な十二指腸経路,(2)胆汁逆流対策としての空腸間置,(3)食物貯留能の確保を目的として,空腸囊作製を兼ね備えた空腸囊間置法(DPI法)を機能温存再建法として行っており,本稿ではそのメリット・デメリットについて述べる.

下部直腸癌に対する術前化学放射線療法併用の縮小手術のメリット・デメリット

著者: 井上靖浩 ,   三木誓雄 ,   楠正人

ページ範囲:P.29 - P.34

要旨:下部進行直腸癌の治療においては根治性と機能温存をバランスよく保つことが理想的である.最近では手術技術の進歩で根治性,自然肛門温存率ともに著しく向上した.さらに欧米では,局所再発を抑え予後を向上させる目的で補助療法としての放射線療法が標準治療として確立している.なかでも術前化学放射線療法にはダウンステージングによって自然肛門温存率を向上させる可能性があり,患者QOLの観点からも一段と注目されている.本稿では特に,下部進行直腸癌に対する術前化学放射線療法併用の縮小手術について概説した.直腸癌に対する術前化学放射線療法は放射線スケジュールや,併用する化学療法などの点でいまだ過渡期にあり,今後もさらなる効果ならびに安全性の向上が期待できることから,根治性のみならず機能温存にとっても大きな将来性を担っている.

下部直腸癌に対する肛門機能温存手術のメリット・デメリット

著者: 奥田準二 ,   田中慶太朗 ,   近藤圭策 ,   加藤哲也 ,   茅野新 ,   田代圭太郎 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.35 - P.43

要旨:下部直腸癌に対しては,癌手術としての根治性を落とさずに肛門機能を温存する肛門機能温存手術が広く求められている.近年,従来の低位前方切除術に加えて経肛門的操作を併用した超低位直腸切除術による肛門機能温存の有用性が報告されるようになってきた.特に,経肛門的括約筋部分切除を併用した超低位直腸切除術は最先端の肛門機能温存手術として期待されている.この術式においても不用意な合併症(特に縫合不全)や予期せぬ再発(特に局所)を回避して良好な肛門機能を温存することが最も重要である.そのためには,適応選択と術中判断を適切に行って的確な切除と安全な吻合を完了することが要求される.一方で,肛門機能温存が十分でない場合などには,直腸切断術よりQOLが悪くなることなども含めて術前に十分なインフォームド・コンセントを得ておくことも必要不可欠と考えられる.

肝腫瘍に対する機能温存手術のメリット・デメリット

著者: 小寺由人 ,   片桐聡 ,   山本雅一

ページ範囲:P.45 - P.49

要旨:慢性肝炎やアルコール性肝炎,肝硬変合併の肝細胞癌に対して残肝機能を温存するためには,区画単位の切除術(亜区域より小さな系統的肝切除術)や静脈還流不全による肝機能低下を防ぐため静脈走行に留意することなどの工夫が必要である.残肝機能の予測にはICG 3点法によるICG R 15値と予想残肝体積値を用いて残肝ICG値を予想することで許容肝切除量を求めることができる.背景肝が正常肝の場合は,残肝ICG R 15値が50%を,硬変肝の場合は40%を超えなければ切除することが可能と判断できる.しかし,肝細胞癌の転移様式が経門脈的経路をたどることを考慮すると,根治性を高めるうえでは確実な系統的切除が必要となり,背景肝の肝機能および残肝機能を予測し,切除術式を工夫することで肝機能を温存しつつ根治性を高めた手術を行うことができる.

胆囊癌に対する機能温存手術のメリット・デメリット

著者: 大塚将之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   加藤厚 ,   野沢聡志 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.51 - P.55

要旨:進行胆囊癌の手術で機能温存となり得る可能性があるのは肝外胆管切除,肝切除,膵頭十二指腸切除(PD)であろうが,いずれも標準化されていない.胆管切除は乳頭機能の消失と根治性から議論されるが,その併施の必要性についていまだ結論は出ていない.肝切除範囲については,残肝機能温存のためにできるだけ肝実質の温存が必要となる.しかし,根治性の面から拡大肝右葉切除以上が避けられない症例も多く,術前門脈塞栓術などの処置が必要となる.一方,膵頭十二指腸切除は予防的リンパ節郭清のために施行される場合があるが,高い合併症発生率や失われる機能を考慮すると適応は慎重であるべきと考える.また,同時に施行する肝切除の量を極力減らすことも肝要である.

膵管内乳頭粘液性腫瘍に対する機能温存手術のメリット・デメリット

著者: 樋口亮太 ,   安田秀喜 ,   幸田圭史 ,   鈴木正人 ,   山崎将人 ,   手塚徹 ,   小杉千弘 ,   杉本真樹 ,   矢川陽介

ページ範囲:P.57 - P.64

要旨:近年,膵小病変に対する様々な機能温存手術が開発され導入されている.しかし,技術的困難性があることや膵液瘻などの合併症が多いといった問題を有するため,その施行においては慎重な判断が求められている.また,進展度診断が不正確な場合には癌遺残による再発の問題が残される.しかし一方では,術後の膵機能温存やQOLの向上をはかれるといった利点も有する.術前の正確な進展度診断能の向上を目指し,適切な手術適応の決定を行うことで膵機能温存手術における問題を解決していくべきである.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・9

グリソン一括肝亜区域切除術

著者: 片桐聡 ,   山本雅一

ページ範囲:P.5 - P.11

はじめに

 肝癌,特に肝細胞癌に対する肝切除においては,その根底に存在する肝障害の程度によって切除許容量が限られる.肝区域切除よりも小さな単位での切除が要求される症例は多く,いわゆる肝亜区域切除がこれにあたる.

 亜区域切除においても肝葉切除や区域切除と同様に根治性と安全性の両面から系統切除は有効とされている.基本的な亜区域切除は肝内の3次分枝グリソン処理を先行し,その肝表面の色調変化に沿って腫瘍の当該領域を確認して切除していく.

 本稿ではグリソン一括肝亜区域切除の概念と,亜区域切除のなかで代表的な中区域下領域(S5)切除,中区域上領域(S8)切除,右区域下領域(S6)切除,右区域上領域(S7)切除,および応用編のS4下S5,S6切除について述べる.

元外科医,スーダン奮闘記・21

フランス,そしてタンザニア

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.67 - P.69

フランス行き

 突然の話であった.フランス・パリへやって来いと言われた.外務省勤務時代は何度となく欧州へと足を運んでいて,パリへも数度行ったことがあり,私の一番好きな都市である.外務省時代は航空券の手配からホテルの予約,空港送迎まで付いていたが,もう一介の市民である私には,そんなものはない.バックパッカー経験のある霜田君にお願いして,パリの安宿を予約してもらった.一番安い航空券(エジプト航空であった)を手配してパリへとやってきた.西日本高速道路を主体とする高速道路のサービスエリアなどに出店している企業のパートナーズ・クラブがロシナンテスにCSR(社会貢献)の一環として,協力をしてくれるとのことで,その贈呈式に招かれたのである.ちょうどその時期に「世界道路会議」というものがあり,西日本高速道路,そしてパートナーズ・クラブから多くの方が参加されたために,贈呈式がパリで行われる運びとなった.私には大変好都合で,こうでもないとパリまで行く機会はない.

 ロシナンテスの活動は3年目に入ってきているが,実は財政難であり,資金ショート寸前のところまできていただけに,本当にありがたい支援であった.私はこの支援を利用してスーダンでの母子保健プロジェクトを行う予定である.スーダンでは妊産婦死亡率,周産期死亡率,乳幼児死亡率のすべてが大変悪いとのデータがある.感染症の蔓延や安全な水の確保ができないこと,教育を受けた助産婦の絶対的な不足,医療施設の不備,女性性器割礼などの多くの原因がある.これらを一気に改善というわけにはいかないが,この支援を利用して,できることから始めようと考えている.たとえば,日本で使用されている母子手帳をスーダン版にアレンジして,この手帳を利用して妊婦管理,周産期管理,そして乳幼児の健康管理を行っていこうと思う.すでに,日本語で書かれた母子手帳をアラビア語に翻訳してある.これをスーダンの現状に合ったものに改善して使用していきたいと思う.パートナーズ・クラブは,ロシナンテスへの支援のほか,日本国内での産科医師の不足を補うために産科医を目指す医学生の支援を行う予定だそうである.まだまだ日本の企業のなかでCSRを行っているところは少ないが,日本の文化として企業のCSRという概念が出来上がるように私自身も頑張りたいと思う.

私の工夫 手術・処置・手順

成人鼠径ヘルニア修復術における局所麻酔を使用した超音波ガイド下区域麻酔の変法

著者: 小熊信 ,   伊在井淳子 ,   佐澤由郎 ,   小宮裕文 ,   太田智之 ,   山本一郎

ページ範囲:P.70 - P.71

【はじめに】

 日帰り手術を前提とした成人鼠径ヘルニア修復術(以下,ヘルニア修復術)の麻酔法として最近,侵襲や副作用が小さい局所麻酔法の一種である超音波ガイド下区域麻酔法が開発された.しかし,本手技では,腸骨鼠径神経と腸骨下腹神経の2本の神経を同定し,局所麻酔剤(以下,局麻剤)を正確に注入することが求められることから,一定の熟練を要することや,両神経の同定が困難な症例が存在することが問題となっている.

 今回,われわれはヘルニア修復術で行われる区域麻酔の変法として,より簡便な方法を考案したので報告する.

臨床外科交見室

テレビ取材の裏側とその影響

著者: 加納宣康

ページ範囲:P.72 - P.73

 私はこれまでに何度かテレビ番組の取材の対象になったことがあります.取材の申しこみはすべて亀田メディカルセンターの広報課を通じてのものです.広報課が病院の倫理規定に照らしあわせて問題ないと判断した番組だけが取材を許されるわけです.私個人がテレビ局に取材を申し入れたり,出演を希望したりしたことはありません.

 テレビ局の取材目的が,病院を対象にする場合と私個人を対象にする場合がありますが,すべて広報課が管理しています.取材中もすべて広報課の職員が監視しています.テレビ局の取材班が取材中に患者さんに接することもありますが,それも事前に患者さんの了解を得て,取材中も広報課の職員が立ち会い,個人情報上の問題点がないように厳しくチェックしています.手術中の収録もすべて患者さんの事前了解を得たうえで行われます.

病院めぐり

国東市民病院外科

著者: 籾井眞二

ページ範囲:P.74 - P.74

 当院は大分県北部の国東半島にある国東市にあります.昭和32年に開設された安岐町立病院を前身としており,昭和51年に大分県東国東郡の5つの町村による広域行政圏立の東国東地域広域国保総合病院として生まれ変わりました.さらに約30年が経過した平成18年3月31日に5町村のうちの姫島村を除く4町が合併して国東市が誕生した際に,当院も国東市民病院と名称を改めました.以上のような変遷を経て,昨年の平成19年5月に創立50周年を迎えることができました.

 国東半島は仏の里として全国的に知られており,風光明媚な土地柄で農業,漁業を産業の中心としていますが,大分空港が国東市にあるため,ソニーやキャノンなどの工場も誘致されています.大まかに言って国東市は過疎化が進む北部地域と,空港や工場があって過疎化が抑制されている南部地域とに分けられますが,市全体の高齢化率は上昇して35%に及ぼうとしています.

外科学温故知新・30

血管外科―腹部大動脈瘤治療の歴史

著者: 笹栗志朗 ,   西森秀明 ,   福冨敬 ,   割石精一郎 ,   山本正樹

ページ範囲:P.75 - P.80

1 はじめに

 腹部大動脈瘤は加齢や動脈硬化を原因とした大動脈の変性疾患である.大動脈壁には動脈圧に対抗するためにエラスティンやコラーゲン,平滑筋細胞などが含まれているが,これらが加齢とともに減少・変性することが大動脈の拡張に関連していると考えられている.その自然予後は不良で,動脈瘤は進行性に拡大し,ついには破裂に至る.わが国では司馬遼太郎らが,海外ではAlbert EinsteinやJoseph Pulitzerらが腹部大動脈瘤破裂のために亡くなっている.日本血管外科学会による血管外科手術例数調査によると,2005年には6,099例の腹部大動脈瘤手術(うち774例は破裂例)が行われている.現在,腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術は標準術式として確立されているが,ほかの疾患の治療法と同じく,偉大なる先達の挑戦と努力の下に改良を重ね,成熟してきたものである.

 本稿では,腹部大動脈瘤治療法の今日までの発展の経過を述べる.

外科学温故知新・31

心臓外科(一般)―体外循環事始め―多くの先達,John Gibbon,John KirklinそしてWalton Lillehei

著者: 大北裕

ページ範囲:P.81 - P.89

1 心臓外科,胎動

 紀元前350年,Aritotelは「身体の器官のうちで心臓だけは傷をつけてはいけない」と思索した.以来,1883年かのTheodore Billorth(図1)が“Let no man who hopes to retain the respect of his medical brethren dare to operate on the human heart”と警告したことに代表されるように,19世紀末まで心臓手術は非現実的であった.しかし,このウィーンの大外科医が亡くなるとき(1894年)に呼応するかのように,1896年にRhen,1902年にHillらによる心臓刺傷の救命例が相次いで報告された.また,1902年にはBrauerによって収縮性心膜炎に対する心膜剝離術の成功が報告され,これ以後,2000年来,外科手術において聖域・タブー視されていた心臓外科手術への挑戦が堰を切ったように溢れ出た.

連載企画「外科学温故知新」によせて・15

鼠径ヘルニアにまつわる冠名にその名を残す外科医Scarpa,CooperとBassini

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.91 - P.94

1.スカルパの三角(Scarpa's femoral triangle)

 鼠径部において,「鼠径靱帯と縫工筋と長内転筋で囲まれた三角形状のくぼみ」を「スカルパの大腿三角」と呼ぶが,これを解剖学的に詳述したのがパヴィア(Pavia)大学の解剖学兼外科学教授のスカルパ(Antonio Scarpa:1752~1832年:図1)である(余談になるが,イタリアの大学では伝統的に解剖学教授は外科教授を兼ねており,かのヴェザリウスやファブリキウスも然りである).また,スカルパは剖検から「滑脱ヘルニア」を最初に詳しく記載している.スカルパは18世紀に器官病理学を打ち立てたボノーニャ大学の病理学者モルガーニ(Giovanni Battisita Morgagni:1682~1771年)の一番弟子であり,非常に熱心に,かつ厳しくパヴィア大学の医学部教育の近代化に取り組んだことでも知られている.

 ヨーロッパの大学医学部では歴代教授の骨格標本や頭蓋骨が遺されているというようなことがままみられるが(図2),驚くべきことに,パヴィア大学にはこのスカルパの頭部・生首が標本として遺っているのである(図3).その点に関して,解剖標本の不足(この頃のイタリアでは人体由来の解剖標本が不足していたため,盛んに蝋性の解剖標本,いわゆるワックス・モデルが造られていた)を補うために保存したものと思われるが,医学教育の近代化に尽力した偉大な教授の顔を後世に遺すためとも,はたまた,前述したように非常に厳しい教授であったことから,弟子や学生たちが恨みを込めて保存したとも言われている.耳鼻科領域では前庭神経節(ganglion of vestibular nerve)や第二鼓室を発見しており,特に前者の神経節は「スカルパ神経節」という冠名で呼ばれている.

米国での移植外科の現場から・3

DCDドナーの実際

著者: 十川博

ページ範囲:P.95 - P.97

1 はじめに

 前回,脳死肝移植に関連して心停止後ドナー(donation after cardiac death:以下,DCD)について簡単に書いた.今回は,このDCD肝移植の実際について述べる.

 近年,DCDドナーであっても,肝移植において比較的良好な成績が得られるとのことで,かなりポピュラーになってきている.私の勤めるマウントサイナイ病院においても,5~10%程度はDCDドナーを用いている.これは,特にここ2~3年の話である.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・49

内痔核に結紮切除は必要か

著者: 佐藤浩一

ページ範囲:P.99 - P.101

 Goligher分類でⅢ,Ⅳ度の内痔核治療における中心が結紮切除であるということは異論のないところであろう.しかし,低侵襲治療への世論の高まりに加えて,procedure for prolapse and hemorrhoids(以下,PPH)やジオン注(R)(以下,ALTA)の出現によって,結紮切除の位置づけも変わりつつある.

 本稿では硬化療法,ALTA,ゴム輪結紮,PPHの特徴を整理し,結紮切除との使い分け方を明確にする.

臨床研究

大腸癌術前評価におけるPET/CTの有用性とその役割

著者: 加藤宏之 ,   飯澤祐介 ,   北川真人 ,   田中穣 ,   長沼達史 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.103 - P.110

はじめに

 FDG-PET/CT(以下,PET/CT)は非侵襲的な検査であり,その性能の向上と装置の普及は著しく,大腸癌診断においてもその有用性が注目されるようになってきた1,2).また,肺癌や食道癌においてFDGの集積が生存率や再発率に相関し予後因子と成り得るとの報告も散見される3,4).しかし,大腸癌においてFDGの集積と予後因子との相関関係を示唆する報告はなく,PET/CTを用いた大腸癌進展度診断について詳細に検討した報告もまだない.

 今回,われわれはPET/CT(Discovery ST,GE社製)を用いて大腸癌における原発巣やリンパ節転移巣を含めた病巣の描出率およびSUV(standardized uptake value)値とほかの予後因子との相関を分析して,大腸癌におけるPET/CTの診断能およびその有用性について検討したので報告する.

臨床報告・1

急性骨髄性白血病に合併した微小肝脾膿瘍の起因菌同定に腹腔鏡下肝部分切除術が有用であった1例

著者: 瀬尾智 ,   波多野悦朗 ,   松井道志 ,   石川隆之 ,   猪飼伊和夫 ,   上本伸二

ページ範囲:P.111 - P.115

はじめに

 急性白血病に対する治療は化学療法の進歩に伴い,よりよい延命効果をもたらしつつある反面,真菌性肝脾膿瘍を合併する症例が増加傾向にある.超音波検査やCTなどの画像診断の進歩は微小肝脾膿瘍の診断能の向上をもたらしたが,真菌同定の困難な症例はいまだ多く,その予後は不良である1)

 今回,われわれは急性骨髄性白血病に合併した微小肝脾膿瘍の起因菌同定に腹腔鏡下肝部分切除術が有用であった1例を経験したので報告する.

Intraperitoneal typeと考えられた膀胱ヘルニアの1治験例

著者: 丸山晴司 ,   森恵美子 ,   前田貴司 ,   松隈哲人 ,   松田裕之

ページ範囲:P.117 - P.120

はじめに

 鼠径部の膀胱ヘルニアはわが国においては稀な疾患である1~3).今回,われわれは約6か月間の夜間頻尿および不眠症状を伴い右鼠径部腫瘤を主訴とした,きわめて稀なintraperitoneal typeと考えられた膀胱ヘルニアに対し手術を施行した1例を経験したので4,5),文献的考察を加え報告する.

TS-1(R)/CDDP併用療法が著効し根治手術が可能となった切除不能進行胃癌の1例

著者: 片岡庸子 ,   河村史朗 ,   長田勇気 ,   島田悦司 ,   奥村修一 ,   藤田昌幸

ページ範囲:P.121 - P.125

はじめに

 TS-1(R)/CDDP(シスプラチン)併用療法は臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験において切除不能進行再発胃癌に対し76.2%という高い奏効率を示すため1),現在,術前化学療法として最も注目されている.

 今回,われわれは高度リンパ節転移を伴った切除不能進行胃癌に対してTS-1(R)/CDDP併用療法が著効し,根治手術が可能となった1例を経験したので報告する.

食道癌肉腫に胃癌,直腸癌を合併した同時性3重複癌の1手術例

著者: 白石治 ,   石川真平 ,   北野義徳 ,   亀山雅男

ページ範囲:P.127 - P.130

はじめに

 近年,高齢化による癌患者の増加と診断・治療成績の向上によって重複癌症例は増加している.とは言え,食道,胃,直腸同時性3重複癌は比較的稀である.

 今回,全食道癌の約0.2~0.3%と稀な食道癌肉腫を含む同時性3重複癌を経験したので1),文献的考察を加え報告する.

胃癌術後にたこつぼ心筋障害を併発した1例

著者: 中野雅人 ,   林達彦 ,   渡辺直純 ,   村山裕一 ,   畑田勝治 ,   清水武昭

ページ範囲:P.133 - P.137

はじめに

 たこつぼ心筋障害は1990年に佐藤ら1)によって提唱された,突然の胸痛などの急性心筋梗塞に類似する症状で発症し,左室心尖部を中心とした広範な可逆性の収縮低下像を呈する症候群である.精神的・身体的ストレスを誘引として発症することが多く,消化器外科手術後に発症した症例も散見する2).近年では急性心筋梗塞と判断し心カテーテル検査を行った症例の0.9~1.3%がたこつぼ心筋障害である可能性が示唆されており3),消化器外科手術後の併発例の報告は少ないものの,実際数はより多い可能性も考えられる.

 今回,われわれは胃癌術後に併発した,たこつぼ心筋障害の1例を経験したので報告する.

超高齢者大腸穿孔の1例

著者: 永生高広 ,   高橋学 ,   小笠原和宏 ,   真鍋邦彦 ,   岡野正裕 ,   湯浅憲章

ページ範囲:P.139 - P.141

はじめに

 大腸穿孔は糞便性の腹膜炎を起こすことからその病態は重篤で,死亡に至る場合も少なくない.また,高齢者に多く発生し1),その場合は臨床症状が軽微なために診断が遅れる場合があり,予後不良である要因となっている.

 今回,われわれは超高齢者に発生じた大腸穿孔を救命し得た1例を経験したので報告する.

マンモトーム生検を行った乳腺石灰乳石灰化の1例

著者: 山口敏之 ,   山下重幸 ,   花村徹 ,   高田学 ,   小松信男 ,   橋本晋一

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに

 乳腺石灰乳石灰化とは乳腺囊胞内に析出・沈澱したカルシウムによる石灰化である1).マンモグラフィ上で石灰乳石灰化を正確に認識することの意義は,生検を含めたそれ以上の不必要な検査や経過観察を省略できることにあるが2),典型的なX線所見を示さない石灰乳も少なくない3)

 今回,われわれは乳腺石灰乳石灰化症例に対して吸引式乳房組織生検(vacuum-assisted core needle biopsy:以下,マンモトーム生検)を行う機会を得たので,若干の考察を加え報告する.

手術手技

用手圧迫法が有用であった腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術の1例

著者: 有吉朋丈 ,   普光江嘉広 ,   李雨元 ,   大塚耕司 ,   村上雅彦 ,   草野満夫

ページ範囲:P.147 - P.149

はじめに

 内視鏡下手術における技術の発展に伴い,腹壁瘢痕ヘルニアに対して腹腔鏡下手術が施行される症例が散見されるようになってきた.今回,われわれは上腹部正中切開創に生じた18×14cmのヘルニア門を有する腹壁瘢痕ヘルニアに対して腹腔鏡下修復術に用手圧迫法を併用し,有用であったので報告する.

外科医局の午後・40

鈍感力

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.64 - P.64

 昨年は猛暑であった.その猛暑の時期に,その道のトップの2人が日本中の批判を浴びることとなった.ひとりは大相撲界における最高峰の横綱,朝青龍と政界のトップ,すなわち日本国内閣総理大臣である安倍元首相である.

 朝青龍は優勝した場所後に疲労骨折との理由で地方巡業の休場届けを提出し,祖国に帰ってサッカーに興じていたことがばれた.そのまま帰国して「すみません」と謝って治療に専念していれば,これほど騒ぎは広がらなかったであろうが,「うつ病手前」や「精神障害」などと診断されて自宅に引きこもり,挙句は治療のためにまたモンゴルに帰国してしまった.一方,安倍首相は参議院選挙で大敗したのち,すぐ辞任せずに続投宣言し,国会で所信表明演説をしたのに,各党の代表質問直前に「私が身を引くことによって局面を打開する」として突然に辞任してしまった.その後,入院し,あとで辞任の理由は「体調の悪化」と訂正された.病名は機能的胃腸障害であった.

昨日の患者

ほろ苦い思い出

著者: 中川国利

ページ範囲:P.80 - P.80

 大学を卒業して,早いもので31年が過ぎた.外科医として日々の診療を行っているが,今振り返ってみても冷や汗が出ることがいくらでもある.それは権威ある臨床医として活躍している医師でも必ずあることであり,すべての医師はそれらの積み重ねで診療を行っていると言っても過言ではない.

 20年以上前のことであるが,50歳代後半のYさんが嚥下障害で入院してきた.精査を行うと進行食道癌であり,大動脈周囲のリンパ節にも転移を認めた.そこで根治手術は不可能と判断し,内視鏡的に食道内にチューブを挿入することにした.当時は食道癌に対する放射線化学療法はいまだ確立されてなく,嚥下困難な例では経鼻胃管留置か開腹下胃瘻造設術しかなかった.姑息的な治療とは言え,チューブ留置は嚥下障害を除去し,経口摂取を可能とする当時としては画期的な治療法であった.

ひとやすみ・29

答えなき悩み

著者: 中川国利

ページ範囲:P.125 - P.125

 「命は地球より重い」とされ,われわれ医療従事者はいついかなるときにもすべての患者さんに対して全力を尽くして医療を行ってきた.そして,ときに自分の無力さに嘆くこともあるが,崇高なる仕事に携わる幸せを感じてきた.しかし,最近は少子高齢化社会を迎え,医療従事者としては不遜なる疑問を抱くようになった.

 80歳代後半で痴呆のため施設に入所している患者さんが,大腸癌穿孔による汎発性腹膜炎で入院してきたとする.種々の合併症があっても,命を救うためには癌を含めた穿孔部を切除せざるを得ない.そこで,意思疎通ができない患者さんに代わって家族に種々の偶発症を含めたインフォームド・コンセントを行う.突然呼び出された家族は困惑しながらも救命のために手術に同意する.かくして休日の深夜にもかかわらず,日常の診療に疲れきったスタッフが呼び出されて緊急手術が敢行される.

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あとがき

著者: 炭山嘉伸

ページ範囲:P.152 - P.152

 この原稿を書いているのは10月30日で,間もなく11月の声を聞く時期である.本日の気温は一昨日,昨日と同じで24℃を超えている.例年ならば山は紅葉のシーズンのはずが,いまだその便りがない.

 日本の美しい四季は,けじめのない四季へと変化してしまった感がある.2007年の夏は異常に暑く,日本全国で熱中症が多発した.熱中症によって救急車で運ばれた患者数は全国で3,000人を超え,70人以上の死者が出ている.また,各地では観測史上例のない最高気温を記録し,記録的な大雨による洪水の被害もいたる所で発生した.これらはすべて地球温暖化の一現象であろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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