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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻10号

2008年10月発行

雑誌目次

特集 鼠径ヘルニアの治療NOW―乳幼児から成人まで

乳幼児の外鼠径ヘルニア

著者: 韮澤融司 ,   伊藤泰雄 ,   浮山越史 ,   渡辺佳子 ,   吉田史子 ,   牧野篤司

ページ範囲:P.1333 - P.1336

要旨:乳幼児の外鼠径ヘルニア手術は,小児で行われる手術のなかで最も頻度の高いものである.胎生期に発生した腹膜鞘状突起の開存が原因とされる.診断にはヘルニアの膨隆の確認が必須である.膨隆の確認があやふやなままシルクサインの存在のみで手術を行ってはならない.手術はPotts法などの従来法と腹腔鏡下手術が行われている.いずれもヘルニア囊の高位結紮が行われる.再発率には差がないとする報告が多い.小児外科はヘルニアに始まりヘルニアに終わるという格言がある.合併症を限りなく少なくする努力を継続する必要がある.

年長児の外鼠径ヘルニアの診療

著者: 松藤凡 ,   髙松英夫 ,   村上研一 ,   嶋田元 ,   柵瀨信太郎

ページ範囲:P.1337 - P.1339

要旨:小児鼠径ヘルニアは腹膜鞘状突起の開存に由来するものとされ,ヘルニア囊の高位結紮術が広く行われている.一方,成人鼠径ヘルニアは横筋筋膜の脆弱化が主因とされ,内鼠径輪の縫縮や後壁補強が行われている.本稿ではヘルニア症例数の年齢による推移を調べ,小児鼠径へルニアと成人鼠径ヘルニアの境界年齢について検討を加え,年長児鼠径ヘルニアの手術方法に言及した.小児鼠径ヘルニアでは症例数に男女差はなく,乳幼児期に最も多く成長とともに減少しており,ほとんどが外鼠径ヘルニアであった.成人男性では,内・外鼠径ヘルニアともに症例数は加齢に従って増加し,中高年期にピークを認めた.成人女性外鼠径ヘルニアでは,20~30歳に小さなピークを認めたが,以後ほとんど発症はなかった.成人女性内鼠径ヘルニアは,すべての年齢を通じてほとんど認められなかった.成人鼠径ヘルニア症例数の男女比は,40~50歳以後に有意差が認められた.以上より年長児,思春期の鼠径ヘルニアは小児型ということができ,ヘルニア囊の高位結紮が適切な術式と考えられた.

中学生以上成人未満(思春期)の外鼠径ヘルニアの治療―鼠径管内構造を破壊しない低侵襲性LPEC法の推奨

著者: 嵩原裕夫 ,   徳永卓哉 ,   荒川悠祐

ページ範囲:P.1341 - P.1345

要旨:思春期の外鼠径ヘルニアの発症機序は,腹膜鞘状突起の開存に由来する小児のそれと同じである.当科で過去28年間に手術した20歳以下の外鼠径ヘルニア1,506症例の解析から思春期外鼠径ヘルニア症例に対する適正術式を検討した.12歳以上,20歳以下の39例中5例に鼠径管補強術が行われ,ほかの34例では単純高位結紮術(LPEC法16例を含む)が行われた.術後4年から27年を経過しているが再発例はなく,諸家の報告からも代謝異常などを合併する特殊な症例を除いて思春期症例には単純高位結紮術のみで治療の目的が達せられると思われた.その術式の1つとして,筆者らが考案した「鼠径管内構造を破壊しない低侵襲性LPEC法」について述べた.

鼠径ヘルニア嵌頓時の対処法

著者: 中川国利 ,   藪内伸一 ,   小林照忠 ,   遠藤公人 ,   鈴木幸正 ,   桃野哲

ページ範囲:P.1379 - P.1383

要旨:鼠径ヘルニアで嵌頓が生じると,非嵌頓例と比較して術後に種々の合併症が生じやすく死亡率も高い.また手術時期,術前の徒手整復の可否,皮膚切開部位,メッシュ使用の可否など,未だ解決されていない問題点が多い.原則的には鼠径ヘルニア嵌頓例では,患者の生命に危険を及ぼす絞扼や壊死の治療が急務であり,ヘルニア修復は二の次である.したがって鼠径ヘルニア嵌頓と診断した例ではできるだけ早期に手術を施行し,絞扼や壊死の治療を行う.さらに感染状況や患者の状態に応じてヘルニア修復術を行う.高齢化社会を迎え種々の合併症を有する症例が増加しつつあり,個々の患者に応じた対処を行うことが外科医に求められている.

鼠径ヘルニアに対する日帰り手術

著者: 今津浩喜 ,   増井利彦

ページ範囲:P.1385 - P.1389

要旨:当院の日帰り手術は基本的に外来受診は4回で,初診時に術前検査を行って手術日を決定し,2回目が手術当日,3回目は術後翌日電話にて行い,4回目は術後3週目に再診とし,特に問題がなければその時点を終診としている.術前には現病歴の確認,理学所見,超音波検査所見にて診断および手術適応,術式,麻酔方法を決定する.手術当日は症例に合わせ,除痛を硬膜外麻酔または局所麻酔,鎮静をプロポフォール持続静脈内投与で行い,これに酸素・笑気のマスク麻酔を用いた全身麻酔併用で麻酔を行う.18歳以上で成長が止まっていれば性別や年齢,初発・再発やヘルニアの違いを問わずメッシュを用いるtension free術式を行っている.Kugel法またはDirect Kugel法を基本としているが,術式に固執せず,術中に問題があれば術式変更にも躊躇しないことにしている.術後は2時間以内にほぼ全例が帰宅し,日帰り手術達成率は99.7%である.

鼠径ヘルニア手術のクリニカルパスとコスト

著者: 伊藤契 ,   針原康

ページ範囲:P.1391 - P.1397

要旨:クリニカルパスは,手術をはじめ多くの医療行為において運用されている.その理解と実践に当たって,パスの成り立ち,「標準化」とパスの目指すところ,「医療内容の質」を理解しなければいけない.

 当科では鼠径ヘルニア手術パスとして,患者ニーズに合わせ,入院期間に3つのコースを設けた「お好みメニュー」を電子カルテ上で運用している.内容は無駄を省いた手術集中のパスとなっている.本稿では,パスの注意点についても指摘した.パスはコスト管理と直結している.パスとコストについて考察しつつ,当科でのパスのコストに言及した.

 DPC導入の現実のなかで,パスはコストを意識しつつも,その本来の目的である患者管理と医療の質の管理を課題とすべきであると考えた.

〔成人鼠径ヘルニアの診療〕

鼠径ヘルニア診断困難時の対処法

著者: 坂本昌義 ,   若杉正樹 ,   南村圭亮

ページ範囲:P.1347 - P.1352

要旨:常時突出している鼠径ヘルニアの診断は容易である.しかし,外来診察をしていると,ときどき鼠径部が膨らむ,わずかに膨らんでいるような気がするなどといった主訴で来院する患者がいる.圧倒的に多い男性患者の場合は丁寧な触診が最も有効な診断方法であり,CTやエコーよりはるかに信頼性がある.ただし,診断法にもノウハウがあるので解剖学的に解説する.

鼠径部ヘルニア分類と術式選択

著者: 柵瀨信太郎

ページ範囲:P.1353 - P.1366

要旨:膀胱上ヘルニアは腹腔鏡下手術によりその存在が注目を浴びるようになった.日本ヘルニア学会(旧・日本ヘルニア研究会)はこれを独立した病型に分類し,鼠径部アプローチでも正確に診断・分類しようとの考えから2006年4月,独自の鼠径部ヘルニアの分類(以下,JHS分類)を提唱した.しかし,実際にJHS分類を使用した報告では施設により各病型の頻度に大きなばらつきがあったため,解剖の理解を深め,判定基準をもう一度検討する必要があると考えられた.JHS分類が正しく行われ,術後成績の比較が客観的に行えるようになることで,術式選択の指標ができると期待される.

鼠径部ヘルニアに対するメッシュ法の種類とその適応

著者: 蜂須賀丈博

ページ範囲:P.1367 - P.1371

要旨:1962年にUsherらがポリプロピレンを修復に用いて以来,現在までヘルニア修復術にポリプロピレンが広く用いられている.1970年代初めにpolypropylene meshをヘルニア手術に積極的に導入し,“tension-free repair”という概念を提唱したLichtenstein以来,さまざまな種類のメッシュが開発され現在に至っている.現在主に行われているメッシュ法としては,①Lichtenstein法,②mesh plug法,③Kugel法,④TAPP法,⑤TEPP法,⑥PHS法,⑦direct Kugel法がある.いずれの方法で行うにせよ,ヘルニア手術の歴史,鼠径部の臨床解剖,さまざまな合併症についての文献に目を通し,症例を丁寧に積み重ねる努力が求められている.

術後合併症とその予防法

著者: 佐藤康 ,   中嶋昭 ,   川村徹 ,   松永浩子 ,   大石陽子

ページ範囲:P.1373 - P.1377

要旨:成人鼠径ヘルニアの治療はメッシュを用いたテンションフリー法が標準となっている.従来法と比較して再発率の低さ,術後愁訴の少なさなど優位な点が多い.しかし,従来法にはない合併症や術後愁訴があることも分かってきた.術後神経痛については鼠径部の解剖に精通し,3本の神経(腸骨下腹神経,腸骨鼠径神経,陰部大腿神経陰部枝)を認識し,メッシュ固定時に神経の巻き込みに気をつけることやメッシュのめくれを起こさないようにすることが重要である.漿液腫は自然消退するので経過観察でよい.感染予防には十分に注意を払う.遅発性感染は難治性であることが多く,メッシュの除去,従来法での修復を行う.デバイスの特性を知り,手術を行うことが重要である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・19

生体肝移植における静脈再建術

著者: 菅原寧彦 ,   國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1321 - P.1331

はじめに

 わが国では脳死肝移植が一般的医療としては定着しておらず,生体部分肝移植が盛んに施行されている現状が継続している.生体肝移植に関しては日本肝移植研究会の全国集計によると,2005年末までに3,218例が行われた1).その一方,脳死肝移植は臓器移植法施行以降は40例あまりが行われたにすぎない2).生体肝移植は,はじめての小児成功例が1989年に施行され3),成人症例は世界に先駆けて1993年に信州大学で行われている4).生体部分肝移植の最初の施行から現在まで約20年が経過しており,その歴史のなかで様々な技術面での進展があったと思われる.

 なかでも肝静脈再建は各血管再建のなかでも事実上やり直しのきかない,おそらく最も重要な再建である.なぜならば,肝静脈狭窄の有無は門脈や動脈の再建のあとに気づくことが多いが,動門脈再建後の静脈再建の修正は容易ではないからである.早期の静脈狭窄はグラフトロスに直結するので,広い口径が確保できる再建方法を工夫する必要がある.さらに,術後にグラフトが再生することを考慮し,肥大しても狭窄しにくい吻合を心がけなくてはいけない.

 本稿では,生体部分肝移植でのレシピエント静脈再建術の工夫・進歩について概説する.

病院めぐり

玄々堂君津病院外科

著者: 永嶌嘉嗣

ページ範囲:P.1398 - P.1398

 君津市は東京湾アクアラインにきわめて近く,また,内房線特急も止まることから都心とのアクセスも意外とよいため,最近では東京のベッドタウンとしても開発されてきています.当院はそんな君津市の駅前にある地域密着型の民間中規模病院です.

 当院は昭和47年に東京大学第2外科の有志によって「最先端の医療を地域へ」の理念のもとに立ち上げられ,現在,ICUも含めて175床の病棟を有しています.名称の玄々堂は当地区に江戸時代から伝わる由緒ある医家の豪族の家号を受け継いだもので,地元では玄々堂病院として親しまれています.

健生会土庫病院奈良大腸肛門病センター

著者: 稲次直樹

ページ範囲:P.1399 - P.1399

 当院は奈良県大和高田市にある199床の中小病院である.大和高田市は奈良県の中西部に位置し,西に金剛・葛城・二上山,東に「国のまほろば」と詠われた明日香村や藤原京跡,北に世界文化遺産の日本最古の木造建築である法隆寺などがあり,中和地域の中核都市である.

 当院は1955年の開設以来,内科が主な病院で,草創期から地域医療に力を入れ,往診や訪問看護にも取り組んできた.病院が大きな転機を迎えたのは1988年に当センターを開設したことである.常勤医2名で開始したセンターも,今では8人の常勤医師がチームとして外来診療,内視鏡検査,手術などを積極的に行っている.センターの発展とともに診療圏は大きく広がり,今日に至っている.

元外科医,スーダン奮闘記・30

国連職員配偶者への国外退避命令

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1401 - P.1403

大統領訴追の動き

 スーダンの現職の大統領に逮捕状が請求された.国際刑事裁判所(International Criminal Court:以下,ICC)でのことである.スーダン自体はICCに加盟していないため,もし逮捕状が発行されても無視し続けるであろう.しかし,一国の大統領,それも現職の大統領への逮捕状請求である.驚くよりほかない.スーダンという国を国際社会から抹殺しようするような動きである.

 このような動きを受けて,国連は,スーダン軍が国連をターゲットに攻撃してくる可能性があると警戒を強めている.とりあえずの処置として,国連職員の配偶者を国外退避とした.これには国連職員の反発もあったようだ.なにせ,通達がきて2日後までに国外退避しなければならないのである.幸いなことに夏休みの期間中であったが,それでも子供とともにスーダンに残っていた家族もいたのである.「居座る!」という職員と家族もいたようだが,国連は国連機を使って隣国のウガンダまで強制的にでも連れていくと発表した.スーダンの首都ハルツームが騒然としているならば話は別だが,いたって平穏である.それだけに,家族の方々は納得がいかなかったのであろう.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・7

PEG交換後の腹膜炎

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.1405 - P.1409

 経皮的内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は開腹手術をせずに胃瘻を作製できるため,その安全性,低侵襲性から世界的に急速に広まった手技です1).施設のなかには中心静脈栄養カテーテルの管理が必要な患者は受け入れないが,胃瘻の患者は受け入れるという施設も多く,入所のためというあまり感心しない理由で胃瘻が作製されることも珍しくありません.胃瘻チューブには様々なタイプがありますが,いずれの場合も造設から半年程度で交換が必要になります.作製時と同様に内視鏡で確認しながら交換すればよいのですが,実際には在宅や施設で交換されることも多く,内視鏡や透視を使用せず盲目的に交換されることのほうが多いようです.チューブの交換は単純な手技ではありますが,見えないところへチューブを挿入するわけですから,その先端が胃内にあることを確認する確かな方法がないため,瘻孔を破損してチューブが腹腔内(胃外)に留置されてしまう「チューブ逸脱事故」が高頻度に発生して問題となっています.そのまま栄養剤が注入されると重篤な腹膜炎になってしまいますが,もともと全身状態の悪い患者が多いわけですから患者死亡につながる危険性も高くなります.

 今回は,胃瘻交換に失敗してチューブが腹腔内に留置されてしまった2症例を紹介します.1例目は患者が死亡してしまったケース,2例目は患者を救命できたケースです.その「失敗」と「成功」の分岐点を探ってみることにしましょう.

臨床研究

気管切開併設頸部食道手術後創感染例の気管切開チューブの支持―着脱容易なクリップ法

著者: 森脇義弘 ,   豊田洋 ,   小菅宇之 ,   岩下眞之 ,   鈴木範行 ,   杉山貢

ページ範囲:P.1411 - P.1414

はじめに

 頸部食道の異物嵌頓や医原性損傷で発症から長時間経過した症例では,術前からの食道の損傷や破綻と高度の炎症や感染のため損傷部縫合閉鎖は困難となり,縫合不全や手術創感染,長期呼吸管理の危険が高くなる.気管切開が必要になると,汚染手術創は気管切開チューブ(以下,チューブ)の支持テープ(リボン)の経路上に位置するため,毎日の汚染創処置の際にチューブ支持テープを外す必要が生じる.最近,マジックテープを用いた気管切開チューブ支持装具も製品化されているが1~3),汚染すると洗浄は困難で廃棄せざるを得ない.当センターでは,頸部に頻回の処置を要する創がある症例のチューブ支持固定には,市販の封筒計量用具の小型クリップを応用し,支持テープの着脱を容易にしている4~6).今回,汚染の激しい頸部食道手術後の創感染例での本法の有用性と安全性を検証し,2,3の知見を得たので報告する.

臨床報告

前頸部に生じたエクリンらせん腺癌(eccrine spiradenocarcinoma)の1例

著者: 佐藤裕 ,   井上健 ,   井上朝生

ページ範囲:P.1415 - P.1418

はじめに

 1956年にKerstingとHelwig1)によって報告・提唱された「エクリンらせん腺腫(eccrine spiradenoma)」は,エクリン汗腺の分泌部から生じる稀な良性腫瘍であるが,これが悪性転化した「エクリンらせん腺癌(eccrine spiradenocarci-noma)」はきわめて稀である2~13).今回,前頸部に生じた同一腫瘤内に多発したエクリン腺腫の一部が悪性転化した「エクリンらせん腺癌」の1例を経験したので報告する.

開腹手術後にSchönlein-Henoch紫斑病(SHP)と診断された2例

著者: 長井瑞祥 ,   杉村好彦 ,   畠山元 ,   旭博史 ,   門間信博

ページ範囲:P.1419 - P.1423

はじめに

 Schönlein-Henoch紫斑病(以下,SHP)の本態は全身性の細小血管炎で,病理組織学的に白血球破壊性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)を特徴とする.小児に好発し,紫斑に加えて腹部症状,腎症状,関節症状など多彩な症状がみられることで知られている1).今回われわれは,成人発症で腹部症状が紫斑に先行し,診断に苦慮した2例を経験したので報告する.

肺,膵異時性転移を切除した腎癌の1例

著者: 大野玲 ,   榎本直記 ,   谷口和樹 ,   上田吉宏 ,   石丸神矢 ,   石田孝雄

ページ範囲:P.1425 - P.1428

はじめに

 腎癌の膵転移は腎癌の1~2%に認められ,膵転移発症までの平均期間は約10年と長期にわたる1).他臓器に遠隔転移がない場合には切除によって長期生存が期待できるため,治療は手術が第一選択である.今回われわれは腎癌術後12年目に肺転移巣を切除し,さらに2年後に膵転移を認め切除した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

右乳癌を契機に発見された無症候性左乳頭部腺腫の1例

著者: 松倉史朗 ,   黒木信善 ,   豊島里志

ページ範囲:P.1429 - P.1433

はじめに

 乳腺の乳頭部腺腫(adenoma of the nipple)は,1955年にJones1)によりflorid papillomatosis of the nippleの名称で初めて報告された乳頭部の良性病変である.わが国の乳癌取扱い規約2)では良性上皮性腫瘍に分類され「乳頭内または乳輪直下乳管内に発生する乳頭状ないしは充実性の腺腫」と記載されている.乳頭部腺腫は比較的稀な疾患で,実際に日常の臨床において遭遇する乳腺良性疾患のなかでも頻度は低い3~6).通常は乳頭部のびらん,潰瘍,血性乳頭分泌などの症状を呈することがPaget病と類似しており7,8),病理組織学的にも浸潤性乳管癌との鑑別が問題になる9,10).さらに,乳頭部腺腫が対側乳房の乳癌とともに並存することはきわめて稀である.今回,われわれは右乳癌を契機に発見された無症候性左乳頭部腺腫の1例を経験したので報告する.

肺癌胃転移の1例

著者: 服部正嗣 ,   本田一郎 ,   小林大介 ,   大河内治 ,   坪井賢治 ,   西村正士

ページ範囲:P.1435 - P.1439

はじめに

 原発性肺癌の転移臓器は多彩であり,肺,肝臓,脳,骨,副腎などの頻度が高いが,消化管への転移も報告されている1,2).今回,右肺上葉切除2年後に肺癌胃転移の術前診断にて胃全摘術を施行し,病理検査で肺癌胃転移と確定診断した症例を経験したので報告する.

TS1を用いた放射線化学療法後に施行したmFOLFOX6が奏効し,根治的切除し得た局所進行直腸癌の1例

著者: 山中健也 ,   鍛利幸 ,   嶌原康行 ,   眞島奨 ,   藤井英明 ,   川島雅央

ページ範囲:P.1441 - P.1445

はじめに

 骨盤腔内を占拠する局所進行直腸癌の場合,他臓器合併切除が必要な場合が多いことに加え,手術野が狭くなることによって手術操作が困難になることがある.われわれは放射線治療は無効であったが,mFOLFOX6による化学療法1)が奏効し安全に切除し得た局所進行直腸癌の1例を経験したので報告する.

胆囊原発濾胞性リンパ腫の1例

著者: 深谷良 ,   伊藤智恵子 ,   重盛恒彦 ,   伊藤佳之 ,   加藤俊夫 ,   内田克典

ページ範囲:P.1447 - P.1450

はじめに

 きわめて稀とされる胆囊原発濾胞性リンパ腫の1例を経験した.消化器のなかでもリンパ組織に富む胃・小腸・大腸は悪性リンパ腫の好発部位であるが,リンパ組織を欠く胆囊に悪性リンパ腫の発生をみることは稀であり,特に胆囊原発濾胞性リンパ腫は,検索し得た限りこれまで2例の報告をみるのみであった1,2)

副乳粘液癌の1例

著者: 坂田治人 ,   宮澤幸正 ,   松原久裕 ,   阿久津泰典 ,   村上健太郎 ,   谷澤徹

ページ範囲:P.1451 - P.1455

はじめに

 副乳癌は全乳癌の0.5%の頻度であり,稀な疾患である1).今回,穿刺吸引細胞診で診断し根治術を施行した腋窩副乳粘液癌を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

直腸癌術後に生じた孤立性副腎転移の1切除例

著者: 民上真也 ,   奈良橋喜芳 ,   石井利昌 ,   芦川和広 ,   小森山広幸 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.1457 - P.1461

はじめに

 副腎は癌末期において血行性転移の比較的多い臓器とされている1).今回われわれは,直腸癌術後,異時性肺転移切除後に生じた孤立性副腎転移に対し外科的切除を行った症例を経験したので,自験例を含む本邦報告37例の検討を加えて報告する.

腹腔鏡下観察が有用であった小腸狭窄をきたした原発性回腸癌の1例

著者: 寺石文則 ,   竹馬彰 ,   根津真司 ,   嶋村廣視 ,   瀧上隆夫 ,   竹馬浩

ページ範囲:P.1463 - P.1466

はじめに

 原発性小腸癌は比較的稀な疾患であり,その部位的特徴から早期発見は困難とされている.最近では,ダブルバルーン小腸内視鏡や高解像度マルチスライスCT,カプセル内視鏡が登場し,これらが小腸癌の診断に寄与していることが報告されている1~3).一方,近年の腹部外科手術における腹腔鏡の有用性は,診断から治療まで幅広いものとなっている.今回われわれは,反復するイレウスの原因となった狭窄部位の検索に腹腔鏡検査が有用であった原発性回腸癌の1例を経験したので報告する.

胸腔鏡下に2ポートにて切除した胸壁多発神経鞘腫の1例

著者: 野中誠 ,   畑山年之 ,   桜庭一馬 ,   佐藤純人 ,   幡谷潔 ,   小田切統二

ページ範囲:P.1467 - P.1471

はじめに

 胸郭内に発生する神経原性腫瘍は多くみられるが,胸壁に生じるものは少なく,多発する良性神経原性腫瘍はさらに稀である1,2).また多発胸壁腫瘍に対する胸腔鏡下摘出術は3~4ポートアクセスあるいは小開胸下に行うが3~5),今回われわれは2ポート下に切除した胸壁多発神経鞘腫の1例を経験したので,その手技を含め報告する.

手術手技

完全腹腔鏡下肝後区域切除術

著者: 白部多可史 ,   鶴田雅士 ,   森谷弘之介 ,   今井達郎

ページ範囲:P.1473 - P.1476

はじめに

 近年,内視鏡下手術は目覚ましい器具の進歩に伴い,その適応を急速に拡大してきている.肝臓領域も例外ではなく,当初は部分切除や外側区域切除を中心に一部の施設でのみ行われていた腹腔鏡下肝切除術も,適応が拡大され,最近では腹腔鏡補助下の肝葉切除の報告もみられるようになった1,2).しかし,肝実質切離時の出血コントロールやCO2塞栓の合併に対する懸念から,わが国では部分切除を除きそのほとんどが腹腔鏡補助下の手術であり,外側区域切除以外の定型的肝切除を完全腹腔鏡下に施行した報告はほとんどないというのが現状である.われわれは腹腔鏡下肝切除導入時より完全腹腔鏡下に肝切除を行うことを原則としているが,今回,転移性肝臓癌の2例に対して完全腹腔鏡下に肝後区域切除を施行し良好な成績を得たので,その手術手技について報告する.

ひとやすみ・38

院内保育所

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1433 - P.1433

 看護師の労働条件の改善と看護師確保のため,従来より国からの補助を受けて院内保育所が設置されてきた.しかし,利用者の保育料と補助金を合わせても病院の持ち出しが多く,設置する病院はごく稀であった.しかしながら,昨今の看護師不足の対策として,さらに女性医師の増加に伴う医師確保の目的で院内保育所を開設する病院が増えつつある.当院でも昨年から24時間の院内保育を行っている.

 当初は子供の数が少なく,預ける看護師にも気恥ずかしさが見受けられた.しかし,子供と一緒に出勤し,休憩時間には子供の様子を見てあやしたり食事を与えたりすることができる.そして,終業時には子供とともに家路に着き,臨時に病院に呼ばれても子供連れで勤務することができる.子供と手をつないで出勤する姿は微笑ましく,最近はある種の誇りさえ感じられ,院内保育所を利用する職員は増えつつある.さらには,育児に忙しい奥さんの負担を減らすために週1回ながら子供を預ける外科医も現れた.

外科医局の午後・49

冷や汗学会紀行

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 「8時発のJAL千歳行きはただ今,整備不良が発見され,出発が延期されます.誠に申し訳ありませんが,今しばらくお待ちください」というアナウンスが突然飛び込んできた.朝の神戸空港である.「えー,何? こんなことははじめてや」そのうちにまた放送があった.「これから部品を交換いたしますので,出発は10時半とさせていただきます.誠に御迷惑をおかけしますが,それまで空港ロビー内でのお食事券をお渡しますので,ご希望のお客様は出発受付までお越しください」

 「うーん,お食事券はいいけど,その飛行機は大丈夫かいな.今日の日本消化器外科学会の総会は8時に出発,10時前に札幌に着く予定で,自分の発表は2時前からだ.これはえらいこっちゃ!」ということで,すぐ学会本部に連絡をとった.「わかりました.お着きになりましたらすぐ本部へいらしてください」という返事をいただいた.出発までの2時間半はぶらぶら空港内で過ごすしかなく,これ以上遅れたらもう発表は断念である.もうこれ以上遅れないでくれ,という願望とともに,飛行機に対する不信感が拭えない.「家内と二人で来なくてよかった.二人ともやられたら,子供たちが困るし」とか余計なことを考えながら時を過ごした.

コーヒーブレイク

沈黙は金か―喋らない医者

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1461 - P.1461

 私は,どちらかというとよく喋る医者のようです.「ようです」というのは,医者になって以来,自分で意識したことはありませんでしたし,患者さんを前にすると自然にそうなっているので自分ではわからないということです.それに,ほかの先生方と比べてみても詮無きことには違いないでしょう.ただ,「それだけ喋ると疲れるでしょう」とからかい気味に言われたこともありましたし,最近では「あんなに必死に喋らなくても」と言われたこともあり,時には確かに熱くなっている自分に気づき,「やっぱりそうか」と自覚することにはなります.いずれにせよ,詰まるところ自分の性分ですから,これからも今まで通りで仕方ないと諦めてはいます.

 それではほかの先生方はどうか,と周りを見渡すと,勤務医の先生方やご開業の先生方,あるいは若い頃勤めた病院での先輩方で,確かに喋らない(静かな?)先生方が何人かはおられることに気が付きます.それにしても,よく考えてみると,喋らないで患者さんを集め,そのうえ,きちんと間違いなく診療を行うとなると,よほどの名医でいらっしゃるのだろうと感心させられることになります.ただし,なかには「説明がよくわからなかった」とか,はじめから「聞いてもだめなので」と患者さんに割り切られた通院をされているという噂も聞こえてはきますので,名医ばかりではなさそうで,よく喋る医者としてはちょっとだけ安心することにもなっています.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1484 - P.1484

 今回は鼠径ヘルニアの外科治療の特集であるが,最近,投稿論文が増加してきている感がある.その背景には色々な領域での専門医資格などの問題もあるのであろうが,外科医が論文を書くということは大変よいことである.症例報告にしろ,研究論文にしろ,著者の外科医自身にとって自分自身の成長を促進するためのきわめて重要な,必須の行為といってよいであろう.経験した症例の1つ1つについてしっかり文献をあたり,その症例の問題点,意義を明らかにしていかないと決してよい症例報告にはならない.臨床研究ならば,日頃1例1例の外科手術およびその術前・術後管理に追われているだけでは,それらの症例群を俯瞰してみるという客観的な視点は生まれてこない.論文を書く際には日頃経験した多くの症例群をある目的を持った視点から解析していくことが多いのであるから,その時点での考え方が妥当であったか否か,自己検証することになるわけである.これは外科医にとって最も大切な行為であり,自身の臨床判断や臨床成績が国際的,あるいは一般的なレベルからみて妥当なものか,新たな発信となり得るものか,はたまた自己反省を要するものか,といった点が明らかにされてくるであろう.このような検証をしたうえで初めて解析結果の意義が評価出来る.そうした意義のある成果のみが臨床論文として発信されるべきであるから,日頃常にこのような姿勢を持って臨床を行っていくことの重要性がよく理解できるであろう.

 「論文を書くことの重要性」をしばしば若い人に話すのは,数多くの論文実績を持つという目的のために論文を書くのではなく,論文を書くための過程における自身の臨床経験の自己検証を常に怠らずにしていくことが,臨床医の姿勢としていかに重要かを指摘したいからである.そのことを多くの医師が理解していれば,自分自身を臨床医として成長させるため学会発表・論文発表,さらには各々の施設におけるカンファレンスでの発表といったものの意義が明確にみえてくるであろうし,それらがより活発で愉しいものになってくるであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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