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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻12号

2008年11月発行

雑誌目次

特集 十二指腸病変に対する外科的アプローチ 〔外科解剖・生理〕

十二指腸領域の支配血流における臨床解剖

著者: 木村理

ページ範囲:P.1497 - P.1503

要旨:十二指腸病変に対する手術に必要な膵頭十二指腸部の血管解剖について概説した.

 〔膵頭十二指腸部の動脈,すなわち胃十二指腸動脈と上腸間膜動脈とのアーケイド〕

 重要なアーケイドを形成する膵十二指腸動脈〔前上膵十二指腸動脈(ASPD),前下膵十二指腸動脈(AIPD),後上膵十二指腸動脈(PSPD),後下膵十二指腸動脈(PIPD)〕とその分枝はその名のとおりすべて膵頭部とともに十二指腸に血流を送る.同様に,同名の静脈はすべて十二指腸からの血液を還流する.膵実質の後面に存在する上述の動静脈はすべてTreitzの癒合筋膜と膵実質との間に存在する.ASPDは胃十二指腸動脈から分岐したのち,Vater乳頭部下方に向かって走行し,ここで膵後面に回ってAIPDに移行する.すなわち,AIPDは一般の通念と異なり膵後面を走行する.PIPDから胆管右縁を走行し,乳頭部に向かうPSPDあるいはPIPDに匹敵する太さの動脈が存在する.その太さと内容の重要性から,われわれはこれを「乳頭動脈」と名付けた.十二指腸第二部およびVater乳頭部を温存するためには,手術中にこの動脈を傷つけないようにしなくてはならない.

 〔膵頭部から膵体部に向かう動脈,すなわち胃十二指腸動脈と総肝動脈とのアーケイド〕

 胃十二指腸動脈と背側膵動脈とはアーケイドを形成しており,そのアーケイドは膵の上縁に沿って存在する.このアーケイドの動脈をsuperior-transpancreatic artery(上横行膵動脈,superior TP)と呼称することをわれわれは提案した.この動脈アーケイドの分枝の一部は十二指腸球部の血流に関係する可能性がある.

 〔膵頭十二指腸部の静脈〕

 前上膵十二指腸静脈(ASPDV)と前下膵十二指腸静脈(AIPDV)はアーケイドを形成しているのに対し,後上膵十二指腸静脈(PSPDV)と後下膵十二指腸静脈(PIPDV)は,ほとんどの症例でアーケイドの形成は認めない.

十二指腸ホルモン分泌と生理作用

著者: 持木彫人 ,   矢内充洋 ,   豊増嘉高 ,   緒方杏一 ,   安藤裕之 ,   大野哲朗 ,   藍原隆介 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1505 - P.1510

要旨:十二指腸はcenter of gutと呼ばれ,多くの消化管ホルモンが存在する.十二指腸から分泌される消化管ホルモンはコレチストキニン,セクレチン,胃抑制ペプチド,モチリンの4種類であり,それぞれ特有な生理活性を有している.消化管ホルモンは脳腸ペプチドとも呼ばれ,その分泌や作用発現は神経系と密接に結びついている.消化管壁に存在する内分泌細胞は直接もしくは感覚神経からの刺激を受けてホルモンが血中または組織中に分泌され,遠隔の臓器に到達し,また神経を介してその作用を発現する.胃内容物の酸度や浸透圧,腸管平滑筋の緊張度,十二指腸内の酸度,栄養素の有無などの変化が感覚神経に伝わり,この神経を介して内分泌系に伝わる.消化器外科手術によって十二指腸が切除されたり,神経系の連続性が遮断されたり,脳神経が切除されたり,標的臓器が切除されれば,消化管機能は大きく障害される.十二指腸病変に対して外科的アプローチを行う際には,このような消化管ホルモンの知識が必要と考えられる.

消化管運動における十二指腸の役割

著者: 田中雅夫

ページ範囲:P.1511 - P.1515

要旨:十二指腸を切除したときの消化管運動への影響はあまり認識されていないが,全胃温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)後に胃内容停滞がみられるようになって話題となった.上部消化管には空腹期に特徴的なmigrating motor complex(MMC)と称する周期的運動サイクルがある.最も特徴的なのがそのphase Ⅲで,強い収縮波の塊を形成し,回腸末端まで伝播していく.十二指腸から分泌される消化管ホルモンであるmotilinは,空腹期に十二指腸にphase Ⅲが到達したとき血中濃度がピークを描く.十二指腸はmotilinを分泌することによって胃やそのほかの運動を協調させ増強する役目を果たしている.

〔外科切除主義の実際〕

十二指腸第Ⅰ部切除術

著者: 高屋敷吏 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1517 - P.1523

要旨:十二指腸第Ⅰ部切除術は十二指腸原発腫瘍などの十二指腸疾患あるいは胆囊癌十二指腸浸潤症例に対して施行される十二指腸機能温存および膵頭十二指腸切除の回避を目的とした縮小手術である.術式のコツとして(1)十二指腸と膵頭部との間の剝離操作を丁寧に行うこと,(2)切除断端と十二指腸乳頭部の位置関係を適切に把握すること,(3)後腹膜への固定状態や腸管断端の距離などから十二指腸吻合が困難なときは挙上空腸を用いて再建することなどが挙げられる.術後合併症としては縫合不全や吻合部狭窄などの腸管の切除吻合に伴うものに加えて,膵頭部の剝離操作による膵液漏などが発症し得る.病変の進展範囲をなるべく正確に術前に評価し,過不足ない切除を行うことが重要である.

経十二指腸的乳頭切除術

著者: 太田岳洋 ,   浜野美枝 ,   竹下信啓 ,   樋口亮太 ,   梶山秀樹 ,   谷澤武久 ,   小貫健一郎 ,   新井田達雄 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1525 - P.1529

要旨:経十二指腸的乳頭切除術はリンパ節転移や周囲進展のない乳頭部腫瘍である乳頭部腺腫や腺腫内癌が対象である.近年では内視鏡的切除術も行われるようになっているが,これと比較して断端の迅速病理による評価を正確に行い得ること,また合併症の危険が小さいことなどの点で優れている.本稿では手術手技を中心に述べるが,ポイントは十二指腸切開の部位と,乳頭部周囲の粘膜に対する適切な支持糸の置き方である.乳頭部周囲粘膜を牽引することで乳頭全体が浮き上がり,良好な視野と組織の適度な緊張を得ることができる.

膵温存十二指腸分節切除術

著者: 天野穂髙 ,   三浦文彦 ,   豊田真之 ,   和田慶太 ,   加藤賢一郎 ,   門脇晋 ,   渋谷誠 ,   長島郁雄 ,   高田忠敬 ,   浅野武秀

ページ範囲:P.1531 - P.1535

要旨:十二指腸乳頭部腺腫や早期癌を経験する頻度の増加や進展度診断の進歩を背景として,近年は様々な縮小手術が施行されるようになってきた.膵温存十二指腸分節切除術(pancreas-sparing duodenectomy:PSD)は膵と十二指腸の間が容易に剝離できるという解剖学的な特徴に基づき,膵切除を行うことなく膵管・胆管(共通管)を十二指腸壁外・膵外で切離し,十二指腸乳頭部を十二指腸とともに完全に切除する術式である.PSDは乳頭切除術より根治性が高く,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術より侵襲の小さい術式と考えられる.症例の集積および長期予後の検討が必要であるが,適応を正しく行えばPSDは機能温存手術として位置づけられる.

膵温存十二指腸第2・3部切除術

著者: 佐田尚宏 ,   笠原尚哉 ,   森嶋計 ,   小泉大 ,   笹沼英紀 ,   佐久間康成 ,   清水敦 ,   俵藤正信 ,   安田是和

ページ範囲:P.1537 - P.1543

要旨:膵温存十二指腸切除術には多彩な術式があり,十二指腸早期癌,十二指腸腺腫症,GIST(gastrointestinal stromal tumor)などの低悪性度腫瘍,他臓器からの癌浸潤,外傷などが適応となる.膵温存十二指腸第2・3部切除術では主乳頭・副乳頭の処理の有無や切除範囲によりその再建方法は異なり,多くの例で空腸空置が必要になる.合併症としては,吻合部狭窄(胃内容停滞),膵瘻,膵炎など膵に起因する病態に注意する必要がある.本術式は十二指腸,膵臓,胆管およびこれらの支配血管系の解剖を熟知すれば安全に施行できる手技であるが,根治性を損なわないことが重要で,症例選定のため十分な術前検討を行う必要がある.

〔治療方針とその治療成績〕

十二指腸乳頭部腺腫の治療方針

著者: 内山周一郎 ,   千々岩一男 ,   大内田次郎 ,   長池幸樹 ,   旭吉雅秀 ,   今村直哉

ページ範囲:P.1545 - P.1549

要旨:十二指腸乳頭部腫瘍に対する乳頭部切除は幽門輪温存膵頭十二指腸切除と比較して侵襲が小さく,適応を選べば完全切除が可能である.しかし,乳頭部腫瘍は術前の良・悪性診断や深達度診断が困難なことが多い.生検で十二指腸乳頭部腺腫と診断された場合にも画像診断や病理組織診断を総合して治療方針を立てる必要がある.また,良性腫瘍や粘膜内癌の場合は完全生検の位置づけとして乳頭部切除を行うこともある.われわれはこれまでに術前診断として,十二指腸乳頭部腺腫あるいはその疑いと診断された6例と臨床的に腫瘍が疑われるが生検標本の病理検査で腫瘍の所見を認めなかった1例に対して乳頭部切除を行った.最終病理診断は4例が腺腫,1例が乳頭炎で,2例が上皮内癌であった.十二指腸乳頭部腺腫と術前診断しても,切除標本による詳細な病理診断が必要である.

各種治療成績からみた十二指腸乳頭部癌の治療方針

著者: 阿部展次 ,   杉山政則 ,   鈴木裕 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1551 - P.1555

要旨:乳頭部癌の標準的治療は外科的切除であり,その術式としては(幽門輪温存)膵頭十二指腸切除術が主軸である.内視鏡的切除や経十二指腸的乳頭切除,膵温存手術などの各種の縮小治療の有用性を論じた報告もあるが,膵頭十二指腸切除術の成績を上回るエビデンスは十分とは言えず,それらの適応には慎重な対応が必要である.これらの縮小治療は,リンパ節転移を伴わない一部の早期癌に対する治療法としては有望であるが,その術前診断は困難であることも少なくなく,現時点では手術ハイリスク例や膵頭十二指腸切除術拒否例などに対するオプションとして位置づけるほうが妥当と思われる.将来的には診断技術の向上がなされ,各種縮小治療の成績が出揃い,それらに基づいて個々の症例における過不足のない根治性とQOLを考慮した切除法が選択できるようになることが望まれる.

十二指腸神経内分泌腫瘍の治療方針とその治療成績

著者: 志田崇 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉冨秀幸 ,   古川勝則 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1557 - P.1563

要旨:消化管神経内分泌腫瘍は大きく内分泌細胞癌とカルチノイドの2群に分けられる,比較的稀な腫瘍である.特に,内分泌細胞癌は症例数こそ少ないものの,きわめて悪性度が高く進行も早いため注意が必要である.また,その特異な発育様式のため,診断に難渋することも少なくない.本稿では,十二指腸を中心とした消化管神経内分泌腫瘍の診断・治療方針,そして今後の展望について述べた.この領域はいまだ症例集積が十分でなく,明確な治療方針が確立していないが,現時点では手術による腫瘍の完全切除が最も長期生存を得る治療法である.今後は新規マーカーによる悪性度分類や分子標的薬の応用などが期待されている.

十二指腸GISTに対する治療方針とその治療成績

著者: 西田俊朗

ページ範囲:P.1565 - P.1570

要旨:十二指腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)は十二指腸粘膜下腫瘍の多くを占め,術前に病理診断がついていることは稀である.胃GISTとは異なり,KIT遺伝子エクソン9変異を伴い,KIT陽性であるがCD34はしばしば陰性を示し,病理遺伝子的には小腸GISTと同じ特徴を有している.ただし,場所の特殊性から発見の動機や手術術式が小腸GISTとは異なっている.有症状例が多く,消化管出血,腹痛,腫瘤の指摘などの症状や所見を伴っており,粘膜下腫瘍として発見された際には積極的な外科治療の対象となる.外科切除においては,肉眼的完全切除が可能であれば,可及的に臓器機能温存をはかって部分切除が推奨されるが,膵臓と一塊をなすものには膵頭十二指腸切除の適応もある.R2症例や切除不能例,再発例にはイマチニブの投与が推奨される.

原発性十二指腸癌に対する外科的治療方針

著者: 高橋遍 ,   小西大 ,   木下平 ,   中郡聡夫 ,   高橋進一郎 ,   後藤田直人

ページ範囲:P.1571 - P.1575

要旨:原発性十二指腸癌は稀な疾患であり,治療方針に関するコンセンサスは得られていない.近年では診断技術の向上によって早期に発見される症例が増加し,治療方針の整理が必要である.われわれの施設において外科的切除を行った原発性十二指腸癌の20例を対象に患者背景,治療因子,腫瘍因子,予後について検討し,諸家の報告を交え至適術式の選択について考察した.進行癌に対しては膵頭十二指腸切除が標準術式であり,No. 6,No. 8,No. 12,No. 13,No. 14,No. 17を含むリンパ節郭清が望ましい.早期癌においては病変近傍のリンパ節サンプリングを行い,転移陰性を確認することにより,縮小手術でも根治性が保つことができる.正確な術前診断に基づき,根治性と侵襲を考慮した術式の選択が必要である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・20

尾状葉付き左葉グラフト

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.1489 - P.1495

はじめに

 成人例における生体肝移植は左葉グラフトで始められたが,一部の施設からグラフトサイズが小さいためレシピエントの代謝要求を満たすことができず,移植成績が不良であることが報告され,最近では右葉グラフトによる移植が優位になっている.2005年までの日本肝移植研究会の集計では,18歳以上の成人例でのグラフトは右葉グラフトが1,348例と最も多く,ついで尾状葉付き左葉グラフトが434例,左葉グラフトが402例であった.

 しかしながら,ドナーの術後合併症の発生率は左葉グラフトが右葉グラフトより低いことが報告されており,生体肝移植ではドナーの安全性が最優先されるべきであることを考慮して,当科ではグラフト肝容積/標準肝容積比(以下,GV/SV比)が30%以上であることを原則とし,すべての症例に左葉グラフトを使用している1).尾状葉は全肝容積の3~4%にしか過ぎないが,尾状葉を含めた左葉であればグラフト重量の8~12%の増加が期待できる2).したがって,GV/SV比が30%に満たない症例に対しては尾状葉付き左葉グラフトを考慮している.

 本稿では,尾状葉付き左葉グラフト採取におけるポイントを解説する.

病院めぐり

キッコーマン総合病院外科

著者: 久保田芳郎

ページ範囲:P.1576 - P.1576

〔キッコーマン総合病院の沿革〕

 当院は,醤油を中心とした総合食品メーカーであるキッコーマン株式会社の直営病院です.企業立ではありますが,社員(家族)はもとより広く一般に開放された病院です.下総の国「野田」,現在の千葉県野田市で醤油醸造が始められたのは17世紀です.野田の醤油は当地の重要な産業として江戸の繁栄とともに発達してきました.

 病院の歴史は古く,文久2年(1862年)に醤油醸造元の一家が養生所を設立したのが起源です.明治40年(1907年)に当時の松戸警察署から病院設立の推奨があり,大正3年(1914年)に大正天皇即位記念事業として醤油醸造組合(現キッコーマン)が養生所を病院として開設しました.以来,伝染病棟や結核病棟なども設備し,当地域の中核病院として地域医療・予防医療に貢献してきました.会社の社名変更に伴って病院名を変更し,昭和57年(1982年)に現在の名称となりました.

十全会心臓病センター榊原病院外科

著者: 榊原敬

ページ範囲:P.1577 - P.1577

 当院は1932年4月1日に故・榊原亨が外科榊原病院を開設したことに始まります.当初から「本院は営利を目的とする世俗の病院にあらず,実際に迂遠なる学説研究を主眼とする病院にもあらず」と述べ,また,病気に苦しむ方々を救うため持てる医療技術を役立てたいと言っています.1936年の心臓外傷に対する纏絡止血術(世界第1例目),1941年の心臓鏡の発明(世界初),内視鏡下僧帽弁閉鎖不全手術(世界第1例目),1951年の故・榊原仟によるボタロ管開存症手術の成功(日本初)など,当院の歴史はそのままわが国の心臓病学発展の歴史でもあります.

 現在は病床数243床(ICU 20床,HCU 16床),看護体制7:1で,心臓血管外科,循環器内科をはじめ循環器疾患に関係のある消化器外科・内科,麻酔科,放射線科,糖尿病内科,人工透析,眼科を開設し,それぞれ専門医が診療に当たっています.当院の特徴は予防から診断,治療,リハビリまで一貫した医療サービスを行うことです.ドクターカー2台を有し,第1線医からの要請で24時間いつでも出動しています.たとえば虚血性心疾患では,予防として血糖コントロール,メタボリックシンドローム対策の保健指導,運動指導(院内に25m,3コースの室内プール,室内運動施設あり)を行い,虚血性心疾患が疑われたら冠動脈CT(64列あるいは320列マルチスライスCT検査),狭窄があれば日帰り心臓カテーテル検査で診断を確定し,病状に合わせてステント治療か冠動脈バイパス手術で治療しています.術後早期から心臓リハビリを開始します.また消化器内視鏡検査(アスピリン潰瘍対策)も行っています.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・8

砕石位での手術後に発生した腓骨神経麻痺

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.1579 - P.1582

 外科領域では直腸癌の開腹手術や腹腔鏡下手術において砕石位で比較的長時間の手術が行われます.婦人科や泌尿器科でも同様に砕石位の手術はごく普通に行われています.術野の確保や手術操作のためには非常に優れた手術体位ではありますが,両下肢を挙上して固定するため,固定が外れて下肢が落下して骨折するなど事故が発生しやすい体位でもあり,十分慎重な体位設定が必要です.さらに,下肢を不自然な形で固定するため,圧迫による神経麻痺のトラブルが報告されていますが,意外にこの神経麻痺について気にとめていない外科系医師が多いようです.

 そこで,今回は直腸癌術後に発生した腓骨神経麻痺についてのトラブルを報告してみます.

元外科医,スーダン奮闘記・31

夏休み

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1583 - P.1585

フランスへ

 私は日本に帰っても,講演活動やあいさつ回りなどで家に帰ることはあまりなく,家内にもなかなか会えない.そのため,家内が夏休みを利用してスーダンに来ると突然言い出した.ちなみに家内は学校の先生をしている.しかし,ビザを取るのにも時間が必要で,このタイミングではアウトである.

 それではと,日本とスーダンの中継地であるドバイで会おうとしたのであるが,夏休みということもあって,日本~ドバイ間が料金が割高になっていた.しかし,幸いにも日本航空のマイレージを調べると,かなりのマイルが貯まっていた.日本~欧州間であれば無料で行くことができる.そこで,パリで会おうということになった.実は,パリは私の大好きな都市である.私はエジプト航空でパリへ向け,4泊5日の小旅行へと旅立った.パリ到着時刻はともに15時30分であり,待ち合わせもちょうどよい.パリの格安ホテルを予約した.モンマルトルの丘にある小さなホテルである.

臨床研究

生体肝移植レシピエント手術のクリニカルパス作成と運用後評価

著者: 海道利実 ,   波多野悦朗 ,   川口義弥 ,   小倉靖弘 ,   江川裕人 ,   上本伸二

ページ範囲:P.1587 - P.1595

はじめに

 現在,外科における主要手術のほとんどにおいてクリニカルパス(以下,パス)が作成され,運用されている1~5).しかし,肝移植レシピエント手術は術後経過に個人差が大きく画一化しにくいため,消化器外科領域では最もパス作成が困難とされてきた.そこで,成人生体肝移植レシピエントにおけるパスを作成・運用し,バリアンス評価を試みたので報告する.

潰瘍性大腸炎に合併したcolitic cancerに対するPET検査所見の検討

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   中村光宏 ,   松岡宏樹 ,   竹末芳生 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.1597 - P.1602

はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:以下,UC)に合併するcolitic cancerに対するサーベイランスは隆起型のdysplasia(dysplasia-associated lesion or mass:DALM)であれば内視鏡的診断が比較的容易であるが,粘膜面に大きな形態変化をきたす前にびまん性に深部浸潤をきたす症例も存在するため,注意を要する.FDG-PET検査は全身の癌の早期発見が可能な検査として開発された検査法ではあるが,炎症性疾患での偽陽性や組織型による集積率の違いなど問題点も多い.

 そこで,UCに合併したhigh grade dysplasia(以下,HGD)または癌のために手術となった症例の術前にFDG-PET検査を行い,術前の臨床的特長,FDG-PET検査所見と術後の病理検査所見を検討し,サーベイランスの検査方法としてFDG-PET検査が有用であるかどうかを検討した.

首都圏における大腸癌の手術記録とデータベースに関する調査―東京大腸セミナーアンケート調査

著者: 斉田芳久 ,   中村寧 ,   高橋慶一 ,   池秀之 ,   板橋道朗 ,   市川靖史 ,   伊藤雅昭 ,   船橋公彦 ,   安野正道 ,   吉松和彦 ,   和田建彦 ,   高尾良彦

ページ範囲:P.1603 - P.1610

はじめに

 全国のがん診療連携拠点病院において院内がん登録の支援が厚生労働省により開始されているが1),いまだ進んでいない状況であり,ましてやそれ以外の病院での癌に関するデータベース(以下,DB)は医局内やグループ内,個人での運用が行われていると思われる.

 そこで,大腸癌のデータベースの現状と問題点を探るために,首都圏を中心とした比較的大腸の治療を専門としている外科医の集団である東京大腸セミナーでDBと手術記録に関するアンケート調査を2006年8~9月に行った.本稿では,その結果を分析し報告するとともに,われわれが開発している手術記録とリンクしたDBの紹介を行う.

臨床報告

Laparoscopy-assisted distal gastrectomy(LADG)後に発症した胃石イレウスの1例

著者: 信久徹治 ,   藤澤真義 ,   松原伸一郎 ,   三森天人 ,   甲斐恭平 ,   佐藤四三

ページ範囲:P.1611 - P.1614

はじめに

 胃石イレウスは比較的稀な疾患であり1),術後イレウスにおいて胃石イレウスと診断するのはきわめて困難である.

 今回,われわれは腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(laparoscopy-assisted distal gastrectomy:以下,LADG)後に発症した胃石イレウスの1例を経験したので報告する.

腸壊死をきたした大腸カンジダ症の1例

著者: 山本隆嗣 ,   福本信介 ,   田中肖吾 ,   上西崇弘 ,   林勝吉 ,   大野耕一

ページ範囲:P.1615 - P.1618

はじめに

 カンジダは消化管の常在菌として知られるが,食道以外の消化管にカンジダが感染症を発症させることは稀で,大腸では特に稀である1~9).われわれはステロイド,メソトレキセート常用患者に発症した壊死性大腸カンジダ症を経験したので,文献的考察を加え,ここに報告する.

特発性副腎血腫の1例

著者: 松田哲朗 ,   四方哲 ,   湊博史 ,   相川一郎

ページ範囲:P.1619 - P.1622

はじめに

 副腎血腫は稀な病態であり1),最近の進歩した各種画像診断を駆使しても正確に診断することは困難である.今回われわれは,術前診断に苦慮した巨大な特発性副腎血腫の1切除例を経験したので報告する.

虫垂切除検体から発見された日本住血吸虫の1例

著者: 三浦和裕 ,   田中一郎 ,   宮崎真澄 ,   戸部直孝 ,   田中圭一 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.1623 - P.1625

はじめに

 日本住血吸虫症は1978年以降,新感染例を認めておらず,過去の寄生虫疾患として認識されている1,2).しかし,現在でも肝,消化管の生検・病理標本中に虫卵が介在した陳旧性症例がしばしば報告され,海外流行地からの輸入症例も報告されている3~14)

 今回,虫垂切除標本に日本住血吸虫虫卵を認めた症例を経験したので報告する.

肝細胞癌と鑑別が困難であった肝血管筋脂肪腫の1例

著者: 前田資雄 ,   千々岩一男 ,   近藤千博 ,   永野元章 ,   長池幸樹 ,   片岡寛章

ページ範囲:P.1627 - P.1632

はじめに

 肝原発の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:以下,AML)は比較的稀とされてきた.1976年にIshak1)がはじめて報告して以来,近年の画像診断の進歩につれ報告例が増加している.画像診断上,多彩な所見を示すことが多く術前診断が難しいとされ,肝細胞癌をはじめとした悪性腫瘍との鑑別が困難な症例2)や悪性のAMLの報告3~6)もあり,外科的に切除されることがある.しかし,基本的には良性の疾患であるため,検査で診断がつけば経過観察が可能なことが多く,特徴的な画像所見の蓄積が必要である.

 今回,術前画像診断で肝細胞癌と鑑別が困難であった肝AMLの1切除例を経験し,切除標本と術前画像所見を詳細に比較検討したので報告する.

術前診断に難渋した内膀胱上窩ヘルニアの1例

著者: 名嘉山一郎 ,   吉田和彦

ページ範囲:P.1633 - P.1637

はじめに

 内膀胱上窩ヘルニアはきわめて稀な疾患で1,2),術前診断が困難なことが多い2~6).今回,鼠径ヘルニア嵌頓の疑いで緊急手術となったのち,再手術を施行して内膀胱上窩ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断された症例を経験した.腹部所見の経過および腹部CT所見が特徴的であり,今後にも有用な知見と考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

甲状腺原発の孤立性線維性腫瘍の1例

著者: 齋藤智和 ,   河野通一 ,   清山和昭 ,   畠山金太 ,   後藤崇 ,   古賀和美

ページ範囲:P.1639 - P.1643

はじめに

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:以下,SFT)は主に胸膜腫瘍として報告され1),localized fibrous mesotheliomaなどと呼ばれてきた腫瘍である.近年,SFTの病態が徐々に明らかとなり,また,胸膜以外の臓器での報告例も散見されはじめたが,甲状腺原発のSFT(以下,甲状腺SFT)は稀であり2),特に臨床的な知見に乏しい.

 今回,われわれは甲状腺SFTの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

100歳の患者に対する大腸癌手術の1例

著者: 信久徹治 ,   二階堂量子 ,   藤澤真義 ,   呉本良雄 ,   甲斐恭平 ,   佐藤四三

ページ範囲:P.1645 - P.1648

はじめに

 2007年9月,100歳以上となる高齢者は全国で3万2295人と,はじめて3万人を突破した1).しかし,100歳以上の超高齢者に対する治療は標準治療に対しても積極的ではないのが現状と考えられる.100歳以上の悪性腫瘍患者に対する待機的開腹手術の本邦報告例は7例のみである.

 今回,われわれは100歳の横行結腸癌症例に対して手術を施行し,術後13日目に退院させ得たので報告する.

虫垂炎術後晩期腹壁膿瘍が腹壁膿瘍切除によって治癒した1例

著者: 梅邑晃 ,   梅邑明子 ,   遠藤義洋 ,   北村道彦

ページ範囲:P.1649 - P.1652

はじめに

 術後縫合糸膿瘍は一般的に非吸収糸に術後感染が成立して発症するが,縫合糸の除去で治癒することが多い.しかし,縫合糸が腹壁深部や腹腔内に存在する場合には膿瘍形成による症状発現が遅れることがあると言われている1)

 今回われわれは,虫垂炎術後10年を経過して再燃と寛解を繰り返したmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(以下,MRSA)感染による深部縫合糸膿瘍に対して腹壁膿瘍切除術を行うことで治癒を得たので報告する.

上行結腸inflammatory fibroid polypの1例

著者: 髙瀬功三 ,   山本隆久 ,   金丸太一 ,   山本正博

ページ範囲:P.1653 - P.1656

はじめに

 Inflammatory fibroid polyp(以下,IFP)は消化管に発生する原因不明の炎症性腫瘤である.その発生は胃や小腸に多く,大腸発生例はきわめて稀とされている1)

 今回,われわれは上行結腸に発生したIFPに対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外科医局の午後・51

真夏の出来事から

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1563 - P.1563

 ここ2年間は真夏に色々な出来事が家族の身に起こった.2年前には私が検診で異常を指摘されて検査入院となり,腰椎麻酔で生検を受けた.昨年は妻が急性腹症で緊急入院をした.今年は大丈夫かなと思っていたら,おやじが急に倒れて救急車で搬送された.救命はできたが,認知症が進んで介護生活となってしまった.他人事と思っていたことが,ついにわが身にも生じてきた.考えれば,人間は誰でもいつかは病に倒れ,いずれは死ぬという当たりまえのことが起こったにすぎないのかもしれない.

 さて先日,以前から非常に注目されてきた福島県立大野病院の産婦人科医の事件の判決がなされた.結果は無罪であり,医療関係者としては当然と思う反面,遺族や他方面の人たちの反応を聞いていると,ことはそう簡単なことではないということが種々の報道から実感させられる.医療という非常に不確実な分野で,しかも患者を救うために懸命になって医療をして,結果がおもわしくないからといって刑事罰的な「裁判」にかけられるようなことはとんでもないし,このようなことが起こるのならば医療の委縮となり,またさらに医療崩壊が進むし,実際に産科の分野ではこの事件をきっかけに崩壊が起こったというのが大方の医療関係者の言い分である.一方,医療分野だけが特殊に保護されるべきというのは医療のおごりであり,過失的なことが生じれば警察が介入するのは当然であるという意見も多い.

ひとやすみ・40

外科医の評価

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1575 - P.1575

 外科医の本来の仕事は手術である.したがって,外科医は手術手技にできるだけ熟達し,患者さんから信頼される手術を行う必要がある.それでは,外科医の腕は何で評価したらよいのであろうか.

 手術手技の熟達度を見極める因子としては,手術時間,出血量,術中および術後偶発症の発症頻度,さらに悪性疾患では予後などがあげられる.しかし,いずれも個々の患者さんの全身状態,対象疾患,病態などによって条件は異なり,外科医の比較評価は困難である.最も単純な因子としては手術時間が最適と思われる.しかも,術者によって手術術式や郭清程度が異なる悪性疾患よりは,手術術式が確立されている良性疾患における手術時間の比較が容易である.

書評

名郷直樹(著)『「人は死ぬ」それでも医師にできること―へき地医療,EBM,医学教育を通して考える』

著者: 山本和利

ページ範囲:P.1578 - P.1578

 本書は,へき地診療所を離れた医師が,人を死なせないことを使命とする都市部の病院の臨床研修センター長になって,日々研修医たちとの間で繰り広げた「こと」を週刊医学界新聞に綴った1年間の実践記録・日記である.

 実在する名郷直樹氏と架空の存在丹谷郷丹谷起(ニャゴウ・ニャオキ)とが主に現在の医療問題について3つの視点から切り込んでゆく.1番目は研修医教育であり,2番目が著者お得意のEBMについてであり,3番目が死ぬこと・生きること等の哲学についてである.

竹原靖明(監修・編集)熊田 卓,桑島 章,竹内和男,田中幸子,遠田栄一,安田秀光(編)「USスクリーニング」

著者: 木村邦夫

ページ範囲:P.1586 - P.1586

 US(超音波法)によるスクリーニング検査に携わる者に求められるのは,診療のニーズに十分に応える診断と情報を提供できる技術と知識である.知識には,USで診断可能な個々の疾患の概念と,画像の成り立ちをもたらすマクロ病理や局所解剖,さらには疾患の診断基準などの要素が含まれよう.しかも,USで診断可能な疾患は多岐にわたり,多彩であり,疾患に付随する所見まで含めるとあまりにも広範である.それゆえ,1冊でそれらの全要素を満たすスクリーニング書の出版が待たれた.

 今回,出版された『USスクリーニング』はまさにそれらの要素を満たす本と言えよう.今後は,この書と同じ竹原靖明氏が監修されマニュアル本として広く読まれている『腹部エコーのABC』とともに,この検査に携わる人々はもとより,診療に関与する多くの人々に読まれるに違いない.

大川清孝,清水誠治(編)中村志郎,井谷智尚,青木哲哉(編集協力)「感染性腸炎A to Z」

著者: 松井敏幸

ページ範囲:P.1596 - P.1596

 『感染性腸炎A to Z』は,大川清孝先生,清水誠治先生の編集による感染性腸炎のすべてを取り上げた著作である.両先生は,数多くの腸疾患を長年にわたり診療し,その中の問題症例を大阪の研究会で取り上げ,取りまとめてきた.関西の議論好きの風土は研究会にも持ち込まれ,ときに議論があまりに長く,紛糾することがある.しかし,饒舌に知識を競い疑問をぶつけ合うも,意外と討論者同士は仲が良い.そうした風土を受け継いで,本書は長年の構想と多数例の症例検討の重厚な積み重ねの結果,生まれたものである.多くの著者が苦労して得た珠玉の症例を,新たに設けた定期的な検討会に持ち寄り編集したものである.

 本書は,感染性腸炎のすべてを,内視鏡所見を中心に据えてまとめたものである.考えてみると,感染性腸炎に関する多くの記載はすでに論文報告として成立しているはずである.しかし,それらの報告を参照しても感染性腸炎の内視鏡診断はvariationが多いためか,どうも記載が不十分との印象があった.例えば,疾患範疇は異なるが,潰瘍性大腸炎の内視鏡分類に関する記載は直達鏡の時代に作成されたもので,今見ても記載が曖昧かつ不正確である.現代の高画素内視鏡には即さないものが多いのであるが,これを修正することは大変難しい.同様に,感染性腸炎に関する内視鏡診断も内視鏡機器あるいは挿入法の進歩に伴い改善されることが望ましい.そうした必要性に応じて生まれたのが本書であろう.

コーヒーブレイク

ホメオスタシス

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1602 - P.1602

 「ホメオスタシス:homeostasis,恒常性」かつて学生の頃,人間には生来ホメオスタシスの能力があり,生命の維持に役立っていると学んだことがあります.それを,今になって外科医として実感することになっていますが,恐らく外科医となって何年かすれば私と同じ経験をされた方も多いと思います.

 先日もそうした経験をすることになりました.患者さんは77歳の女性.過去に子宮筋腫や胃癌の手術を受けており,時々,腹痛があったとのことでした.そうしたある日,激しい腹痛で救急搬送で来院されました.諸検査で腸閉塞と診断されましたが,補液などで小康状態となり,一晩経過を観ることになりました.その後も時々腹痛がみられ,通常の処置の割には鎮痛剤の使用頻度が高く,「これは保存的には無理かな」という感触でした.

昨日の患者

崩れたセーフティネット

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1648 - P.1648

 この世で最も大事なものは何であろうか.人によってそれぞれ見解の相違があるが,突き詰めれば自分の生命と家族の幸せではないだろうか.自己の生命をも省みずに,家族のために働き続ける人も存在する.

 40歳代半ばのSさんが下血を主訴に来院した.精査を行うと直腸癌が周囲臓器に浸潤しており,さらに肝臓にも転移していた.そこで,直腸前方切除を行うとともに,癌化学療法を勧めた.しかし,なぜかSさんは癌化学療法を拒否し,外来にさえ来なくなった.8か月後,腎不全で再び来院した.CT検査を行うと両側の水腎症をきたしていた.そこで,超音波ガイド下に腎外瘻を行い,腎不全は治癒した.再度,癌化学療法を勧めたが,治療を拒否して早期に退院した.

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あとがき

著者: 渡辺聡明

ページ範囲:P.1660 - P.1660

 4年に一度のオリンピックが北京で開催されています.個人的には女子マラソンに期待しておりましたが,少し残念な結果となってしまいました.ほかの競技でも,期待されていた通りのメダル獲得もあれば,そうでないものもあり,毎日が歓喜,落胆の連続です.そんななか,選手達のインタビューを聞いていて,昔のことを思い出しました.

 古い話ですが,あれは1970年代のミュンヘンオリンピックかモントリオールオリンピックの頃だったと思います.メダルが期待されて,残念ながら獲得できなかった日本人選手達が,よくインタビューで「本当に申し訳ありませんでした」という謝罪の言葉を述べていました.これに対して,「全力でやったのだから,謝罪するのはおかしい.外国の選手達は謝罪なんかしていないじゃないか.むしろ自分達の努力に対して敬意を払っているではないか」といった意見がある一方,「公的な経済的援助を得て競技に出場できたのだから,謝罪する気持ちは当然だ」といった意見も出ていたことがあります.公的な経済的援助があって,結果が芳しくない場合には謝罪が必要となると,医学部の学生も国家試験に不合格となったら国民に謝罪が必要ということになるのでしょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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