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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻13号

2008年12月発行

雑誌目次

特集 外科におけるadjuvant/neoadjuvant chemotherapy update

特集にあたって

著者: 久保田哲朗

ページ範囲:P.1673 - P.1675

補助化学療法

 日本癌治療学会用語委員会用語集(2007年版)1)によれば,adjuvantおよびneoadjuvant chemotherapyの定義は以下のごとくである.

 補助化学療法(adjuvant chemotherapy)「癌の術後に再発を予防するための抗癌剤治療のこと.代表的なものは乳癌に対する化学療法,ホルモン療法,わが国における大腸癌に対する5-FU,胃癌・肺がんに対するUFTなどがあり,手術単独より有効な方法を多くの試験で検証が進められている.」

乳癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 齊藤光江

ページ範囲:P.1677 - P.1685

要旨:欧米では死亡者数が減り始めている乳癌であるが,罹患者数は世界の女性がかかる悪性疾患中第1位である.原因の究明も重要であるが,早期発見と診断後の有効かつ安全な治療の開発が当面の課題である.治療は,必要最小限の局所療法と最大限の全身療法が現在のスタンダードである.そして予後は,発見時その癌がすでに全身病になっているのか否かと,その最大限の薬物療法に癌がどれくらい反応してくれるかで決まる.乳癌の予後を左右する薬物療法の代表である化学療法について,手術前,手術後,再発後に施行する目的と内容,結果を紹介する.

肺癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 似鳥純一 ,   渡辺俊一 ,   淺村尚生

ページ範囲:P.1687 - P.1692

要旨:肺癌治療において現在まで手術のみで良好な成績が得られているのは早期の非小細胞肺癌であり,従来から外科的切除が最も確実性の高い治療法とされてきた.しかし,進行癌では手術のみでは未だ良好な成績が得られていないのが現状であり,手術成績の向上を目的に術前および術後化学療法の試験が多数行われている.術前化学療法は試験によって結果が異なり,未だ明らかな有効性は証明されていない.一方,術後化学療法では,複数の試験において病理病期ⅠB,Ⅱ,ⅢA期完全切除例に対して術後化学療法を行うことが推奨されるようになった.しかし,どのような病期にどのような化学療法を行うことが最適であるのかは未だ分かっていない.

食道癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 佐藤道夫 ,   戸張正一 ,   安藤暢敏

ページ範囲:P.1693 - P.1700

要旨:T1aを除くStage Ⅰ,Stage Ⅱ,T4を除くStage Ⅲの食道癌は根治手術の適応である.しかし食道癌は比較的早期よりリンパ行性転移や血行性転移を引き起こすため,術後の遠隔成績を向上させるためには補助療法が必要である.近年わが国から,食道癌の補助化学療法に関して2つの大規模RCT(ランダム化比較試験)が報告された.2003年に報告されたJCOG 9204臨床試験では,術後補助化学療法による再発予防効果が立証され,「食道癌診断・治療ガイドライン(2007年4月版)」では術後補助化学療法が推奨されている.続いて今年発表されたJCOG 9907臨床試験では術前化学療法が術後化学療法より有効であることが証明され,食道癌に対する手術補助化学療法の主流は術後から術前へと移行している.

胃癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 長晴彦 ,   小林理 ,   山田貴允 ,   吉川貴己 ,   円谷彰

ページ範囲:P.1701 - P.1706

要旨:胃癌領域では,長年標準的リンパ節郭清のエビデンスが存在しなかったが,D3のsurvival benefitが否定されたことにより,集学的治療としての補助化学療法の重要性が明確になりつつある.ACTS-GC試験では,D2郭清後のTS-1投与の有効性が示され,現時点での標準治療となった.さらに術後補助化学療法については,対象の選択や投与法などに関する新たな方向性も示されそうである.一方,術前補助化学療法はJCOGを中心とした試験が進行中であり,その結果が注目される.

大腸癌に対する補助化学療法―欧米とわが国における現状

著者: 瀧内比呂也

ページ範囲:P.1707 - P.1713

要旨:転移性大腸癌に対する化学療法の進歩に伴い,術後補助化学療法も大きな進歩を遂げている.欧米では,Stage Ⅲ結腸癌に対して,5-FU+leucovorinに新たにオキサリプラチンを併用するレジメンが標準的治療となった.しかし大腸癌の補助療法については,欧米と日本とで比較すると手術内容,予後に違いがあるため,欧米でのエビデンスをそのまま日本にあてはめることには問題がある.わが国は,これまで欧米に比べて臨床試験で大きな遅れをとっていたが,あせらずわが国独自のエビデンスを構築していくことも必要である.幸いいくつかの大規模臨床試験が急ピッチで行われており,その結果によりわが国の大腸癌患者に自信を持って推奨できる治療法が確立されることを期待する.

原発性肝癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 武田裕 ,   永野浩昭 ,   小林省吾 ,   丸橋繁 ,   種村匡弘 ,   北川透 ,   堂野恵三 ,   梅下浩司 ,   門田守人 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.1715 - P.1723

要旨:原発性肝癌の治療法のなかで最も局所制御に優れているのは外科的切除であるが,肉眼的治癒切除が行われても残肝再発をきたすことも多い.肝細胞癌の術後再発形式には,肝内転移再発と多中心性発癌があるが,術後早期の再発は肝内転移再発が多くを占めると考えられ,治療成績向上のためにはこれらの制御が重要である.そこで,肝内転移再発の抑制を目的として,術前肝動脈化学塞栓療法や術後補助化学療法が行われている.

 残念ながら術前TAEに関するRCTでは肝切除後の再発抑制および予後改善効果はないと結論付けられており,また術後補助化学療法に関してもその有効性は示されていない.しかしながら,肝内微小転移を持つあるいは術中散布を引き起こすと考えられる症例を対象として術前肝動脈化学塞栓療法が施行されれば,あるいは残肝再発の高危険群である門脈内腫瘍栓症例や,全肝に多発する肝内転移を対象として術後補助化学療法が施行されれば,再発予防効果が証明される可能性があると考えられる.今後,対象症例を選択した多施設におけるランダム化比較試験が行われ,術前または術後補助療法により肝細胞癌の治療成績が向上することを期待したい.

大腸癌肝転移に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 田中邦哉 ,   高倉秀樹 ,   松山隆生 ,   松尾憲一 ,   武田和永 ,   永野靖彦 ,   遠藤格 ,   市川靖史 ,   嶋田紘

ページ範囲:P.1725 - P.1736

要旨:大腸癌に対する化学療法の進歩に伴い,切除困難な肝転移例に対しても術前化学療法によるreductionで切除適応となる症例が散見されるようになった.その切除率は化学療法の奏効度に依存し,高い奏効率のレジメンでは切除率は向上する.この場合の切除成績は診断時に切除可能であった肝転移の成績に匹敵する.ただし,術前化学療法の肝組織毒性および術後臨床経過に及ぼす影響は無視できない問題である.したがって,切除前化学療法には分子標的治療薬,肝動注化学療法などを積極的に応用して短期間に高い奏効率を獲得し,切除適応となった時点で早急に肝切除に踏み切るべきである.一方,肝切除後の補助化学療法の効果は未だエビデンスに乏しく,対象とすべき肝転移grade,レジメン,投与期間などのさらなる検討が必要である.大腸癌肝転移は依然治癒切除率が低率で,切除後再発も高率な疾患である.このため長期予後の獲得には周術期の効果的な化学療法の併用が重要である.

胆道癌に対する術前・術後補助療法

著者: 古瀬純司

ページ範囲:P.1737 - P.1745

要旨:外科的切除術は胆道癌に対する唯一の根治的治療法であるが,根治術後も多くの場合再発を認め,治癒率の向上には有効な補助療法が必要である.これまで胆道癌の術後補助療法として,大規模なランダム化比較試験は行われていない.現在,切除不能進行胆道癌にはゲムシタビンあるいはTS-1が多く用いられており,術後補助療法としても十分有効性が期待されている.胆道癌の補助療法ではいくつかの克服すべき問題がある.つまり,切除例はそれほど多くない,切除率や予後がまったく異なる胆管癌,胆囊癌,乳頭部癌が含まれる,胆管~空腸,消化管バイパスなどによる食事摂取不良や胆管炎が生じやすい状態にある,など補助療法に不利な条件も少なくない.今後,標準的術後補助療法の確立のためには,これらの困難性を克服しながら質の高い臨床試験を実施することが必要である.

膵癌に対するadjuvant/neoadjuvant chemotherapy

著者: 阪本良弘 ,   小菅智男 ,   奈良聡 ,   江崎稔 ,   島田和明 ,   上野秀樹 ,   奥坂拓志

ページ範囲:P.1747 - P.1751

要旨:膵癌の術後補助療法は有用であるとするエビデンスレベルの高いランダム化比較試験は少ない.米国では化学放射線療法を中心に補助療法が行われている.一方,欧州で行われた大規模な比較試験では化学放射線療法はむしろ弊害であるが,化学療法は有意に予後を改善させると結論づけられた.この結果から,欧州と日本ではgemcitabineによる化学療法を中心にして補助療法が行われている.術前補助療法には切除断端やリンパ節転移をより陰性化するなどの効果があると報告されているが,予後の改善に関するエビデンスはまだ得られていない.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・21

Kugelパッチによるヘルニア修復術

著者: 小山勇

ページ範囲:P.1665 - P.1671

はじめに

 成人の鼠径ヘルニアの再発予防にはtension freeの修復が重要である.そのため,現在ではメッシュを用いた修復術が広く行われるようになってきた.現在,いくつかの種類のメッシュが市販されているが,その選択は術者の好みや慣れによるところが大きい.

 比較的小さな創で,鼠径管を開けずにunderlayパッチを挿入する方法は原理的には腹腔鏡下腹膜外到達法(TEPP)と同様に,最も確実で再発の少ない術式である.腹腔鏡などの特別な器具を用いる必要がなく,いったん慣れるときわめて単純なやさしい手術である.しかし,他の方法に比べて馴染みが薄く,狭い視野で広い剝離を行うため,視野になれていないと逆に難しい手術となり得る.本稿では,本術式のポイントと注意点を述べる.

病院めぐり

雄勝中央病院外科

著者: 中村正明

ページ範囲:P.1752 - P.1752

 当院は秋田県の南,湯沢市にあります.湯沢市は平成17年に旧湯沢市,雄勝町,稲川町,皆瀬村の4市町村の合併の結果,新生湯沢市として誕生しました.

 湯沢市は佐竹南家の城下町として発展してきた古都です.市内にある院内銀山が強盛の頃は秋田県一の人口を抱えていました.城下町として発展したためか,日常生活においても京風のしっとりした人情が感じられます.「七夕絵どうろう」,「大名行列」,「犬っこ祭り」,さらに隣にある羽後町の「西馬音内盆踊り」など風情ある祭りがあります.

赤磐医師会病院外科

著者: 戸田佐登志

ページ範囲:P.1753 - P.1753

 赤磐市は岡山市の東隣に位置しており,桃(白桃)やぶどう(マスカットなど)の生産で果物王国として名を馳せています.また,古墳などの文化遺産も多い自然豊かな町です.

 当院はその赤磐市の中心部に,昭和57年に岡山県下で唯一の医師会病院として開設されました.現在では一般病床166,療養病床30の計196床で,岡山県の県南東部保健医療圏のなかで僻地医療拠点病院として位置づけられています.平成16年には地域医療支援病院の承認を得,平成20年4月には日本医療機能評価機構の認定を受けました.遅ればせながら,IT化に向けて今年度中にPACS・オーダリングシステム(全面電子カルテシステムの前段階として)を導入する予定です.

元外科医,スーダン奮闘記・32

北ダルフール―渡航まで

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1755 - P.1757

国際刑事裁判所

 前回,ダルフールに行ったのは2008年の1月の終わりであった.あれからスーダンやダルフールを取り巻く環境,状況は変わってきた.まず,大統領の側近が2月に日本を訪問した.そして,5月に横浜で開催されたTICAD(アフリカ開発会議)にバシール大統領が参加した.スーダン政府が日本政府に対して何かをしてくれとのメッセージを残したことだと思う.その後,7月に日本からの国会議員団がスーダンを訪問した.まさにその最中に,国際刑事裁判所(International Climinal Court:以下,ICC)が大統領を訴追するための逮捕状を請求したのである.その日に日本からの議員団は大統領に招かれ,対談を行っている.どのようなことが話し合われたのかは不明である.この議員団はダルフールの視察を予定していたが,ICCの逮捕状請求の動きを察して国連がスーダンに制裁措置をとるのではと警戒し,視察は中止となった.

 この議員団は日本からサッカーボールを持参してきてくださり,ロシナンテスを通じて一部はスーダン・ユースチームに,また一部をダルフールのサッカー協会へ手渡すこととなった.ダルフールへは直接,われわれが運ぶことを約束した.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・9

X線でもわからない義歯の誤飲

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.1759 - P.1762

 異物誤飲,特に幼児や高齢者の異物誤飲には救急外来でしばしば遭遇しますが,本当に誤飲している場合もあれば勘違いで誤飲していない場合もあり,その見極めには慎重な対応が求められます.異物は魚骨,義歯,ボタン,針,貨幣,玩具,電池,もち,PTP(press-through-pack),歯科材料など多岐にわたり,PTPについてはPTP異物症が報告されて以降,最近では縦のミシン折り目がなくなって誤飲しにくいように工夫されていますが,それでも完全に誤飲を防ぐことはできません.異物を誤飲しても多くはそのまま排泄されますが,異物の形状や状態によっては生体を傷つけて感染や穿孔につながるケースもありますし,場合によっては窒息事故につながるケースもあります.今回は,X線写真撮影をしたにもかかわらず誤飲した義歯を発見できなかったために,患者が窒息死してしまった深刻なケースについて検討してみます.

総説

大腿ヘルニア―特にその臨床解剖学的考察と外科治療

著者: 三毛牧夫 ,   加納宣康 ,   高賢樹

ページ範囲:P.1763 - P.1769

はじめに

 大腿ヘルニア(以下,本疾患)は,鼠径ヘルニアについで外科医が日常的に治療に携わる腹壁ヘルニアの一種である.そしてその多くは非還納・絞扼の状態のため緊急手術が必要なことが多い1).さらに本疾患においては,手術中の腸管の状態によっては腸管切除も考慮されなくてはならない.したがって,手術戦略を練るうえでも手術前に確定診断がなされることが重要である.この部位は,局所解剖のみならず腹部臨床解剖すべてにとっての基礎となる要素を含んだ部分であることを理解するべきである.そこで今回われわれは,大腿ヘルニアの診断・解剖・治療のエッセンスについて記す.

臨床報告・1

著明な疼痛のためメッシュプラグ除去を要した鼠径ヘルニア術後の1例

著者: 矢島和人 ,   冨田広 ,   小海秀央 ,   佐藤洋樹 ,   佐藤洋

ページ範囲:P.1771 - P.1775

はじめに

 Tension-free修復術は従来法に比べて手技が容易で再発率が低く,短期治療成績が良好なことから,現在成人鼠径ヘルニア手術の主流となっている1).しかしながら,晩期合併症である慢性疼痛やメッシュ感染などの報告例も散見されるようになってきた.今回われわれは,体重減少後に著明な疼痛によりメッシュプラグ除去を余儀なくされた鼠径ヘルニア術後8年を経過した症例を経験したので報告する.

保存的に加療し得た十二指腸憩室穿孔による後腹膜膿瘍の1例

著者: 髙瀬功三 ,   細野雅義 ,   森至弘 ,   阪田和哉 ,   金丸太一 ,   山本正博

ページ範囲:P.1777 - P.1780

はじめに

 十二指腸憩室は消化管憩室のなかで大腸に次いで多くみられ1),通常は無症状に経過する.しかし,ときに出血,閉塞性黄疸,憩室炎,穿孔などの合併症を併発する.なかでも穿孔は重篤な合併症である2,3).今回,われわれは保存的に加療し得た十二指腸憩室穿孔による後腹膜膿瘍の1例を経験したので報告する.

無症候性の膵ガストリノーマの1例

著者: 小竹優範 ,   品川誠 ,   山本大輔 ,   高田宗尚

ページ範囲:P.1781 - P.1784

はじめに

 Zollinger-Ellison症候群はガストリン産生細胞の腫瘍性増殖により生じる症候群であり1,2),胃酸分泌過多,非定型的難治性あるいは再発性消化性潰瘍,膵島非β細胞由来の腫瘍を3徴とする.無症候性のガストリノーマの報告は少なく,今回われわれはその1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

上腰ヘルニアの1例

著者: 丸山智宏 ,   金子和弘 ,   香山誠司 ,   津野吉裕 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1785 - P.1787

はじめに

 腰部の解剖学的な抵抗脆弱部位としては上・下腰三角が知られているが,実際にこの部位にヘルニアを認めることは稀である1).今回われわれは上腰ヘルニアをMarlex meshを用いて修復した1例を経験したので報告する.

巨大褐色細胞腫の1例

著者: 島宏彰 ,   星川剛 ,   亀嶋秀和 ,   黒滝武洋 ,   奥谷浩一 ,   平田公一

ページ範囲:P.1789 - P.1794

はじめに

 褐色細胞腫は代表的な二次性高血圧症の原因疾患であるが,500g以上の巨大な褐色細胞腫は比較的稀である1).われわれは,そのなかでも巨大な褐色細胞腫の1摘除例を経験したので報告する.

食道固有腺由来と考えられたSiewert type Ⅱ食道胃接合部癌の1例

著者: 佐々木勉 ,   篠原尚 ,   稲本道 ,   平田耕司 ,   水野惠文 ,   三村六郎

ページ範囲:P.1795 - P.1798

はじめに

 食道胃接合部癌のうち,腹部食道に発生する腺癌の大部分はBarrett上皮由来である1,2).今回われわれは,Siewert分類(図1)3) type Ⅱに相当しながら固有腺由来と考えられた食道腺癌の1例を経験したので報告する.

臨床報告・2

腋窩郭清中に経験したaxillary archの1例

著者: 山口敏之 ,   花村徹 ,   高田学 ,   小松信男 ,   橋本晋一

ページ範囲:P.1799 - P.1801

はじめに

 Axillary arch(腋窩弓)はヒトの腋窩部にみられる異常筋束の1つである1).乳癌関連のテキストにもその概要が記述されているが2),手術中に確認されたaxillary archの報告例は稀である3).今回われわれは,乳癌手術の腋窩郭清中にaxillary archを認めた1例を経験したので報告する.

ひとやすみ・41

名ばかり管理者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1685 - P.1685

 ハンバーガーチェーンや紳士服販売店などの店長が管理監督者とされ,労働時間規制がないため,長時間にわたる勤務をしても残業代が支払われないことが社会問題になっている.私たちが働く医療界においても同じような名ばかり管理者が多数存在し,事態はより深刻である.

 管理監督者とは経営者と一体的な立場にあり,出退勤の自由度が高く,賃金面で一般の従業員より高い処遇を受けているなどの要件を満たす労働者を指すとされている.確かに私立病院の院長や開業医は給与などの待遇がよく,就労時間も個人の裁量で自由にできる.しかし,公立病院や日赤などの公的病院の院長や副院長などの管理者は,はたして管理監督者と言えるのだろうか.

昨日の患者

入れ墨

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1700 - P.1700

 社会の縮図である病院には,様々の人々が病を治療するために訪れる.時にはあまり関与したくない患者さんも来院する.

 Wさんは50歳代前半で,市内の某基幹病院から胆囊結石症として紹介されてきた.姿格好が厳ついうえ,身長が180cmを越えて体重が100kg近くもあるガッチリとした体格であった.診察すると,背中から臀部にかけて見事な彫り物があった.個室を希望されたので,看護師が「必ずしも個室が用意できない場合があります」と説明した.すると,「人の出入りが多いし,入院中も金を扱わなくてはならないから絶対に個室にしてくれ」と,凄んだ.

外科医局の午後・52

医局制度

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1736 - P.1736

 今,わが国の医療界における大学の医局制度が大きく変わろうとしている.今まで,わが国の主要病院における医師の人事は,ほとんどがその関連の大学の医局に握られていた.したがって,医学部を卒業すると出身大学あるいは自分の故郷の大学に戻って,自分が進みたい科に入局するのがほとんどの医師の道であった.そこで関連病院に出向し,その後は大学に戻って医学博士号を取得し(これは大学しか発行しない),関連病院の医長,部長,副院長,最終的には院長を目指す,あるいは大学に残って教授を目指す,また近辺で開業するというのが大方の医師の道であった.

 ところが最近では,ご存じのように「新臨床研修制度」によって大学の医局に属さなくても有名なあるいは主要な病院に就職できるし,また逆に病院側が「私のところは大学からしか採りません」などと言っていたら,それこそ医師不足になって一変に病院が潰れかねない.病院がそれぞれの特色を打ち出し,研修医や若い医師達に魅力ある医療(学会活動なども含め)を提供しなければ医師が集まらない状態になっている.

書評

小越和栄(著)「消化器内視鏡リスクマネージメント」

著者: 多田正大

ページ範囲:P.1758 - P.1758

 繰り返される医療事故が社会的にも問題視され始めてから久しい.医療従事者が原因究明と事故防止に努めることは責務である.まして合併症や偶発症の危険性が少なくない消化器内視鏡診療において,普段からリスクマネジメントの在り方を考えておくことは重要である.その精神を理解することは正しい診断と安全な治療に直結し,偶発症発生の予防や,不幸にして事故が発生したときには患者の被害を最小限にとどめることにつながる.内視鏡医やコメディカルはリスクマネジメントを知らずして診療に携わることはできないと断言しても過言ではない.

 日本消化器内視鏡学会でも,各種委員会などにおいて安全な内視鏡診療の在り方に関する討論が繰り返され,必然的に様々なガイドラインが提案されてきた.本書の執筆者である小越和栄先生は常にこの方面の議論の中心にいる存在であり,さまざまな提案を行ってきた最大の功労者の1人である.小越先生は海外における内視鏡診療の現況と問題点を熟知し,わが国の医療水準と社会的ニーズなどの事情を考慮しながら,リスクマネジメントの概念の普及に尽力してきた先駆者である.私も学会リスクマネジメント委員会における報告書作成の場で小越先生の博学と篤い情熱を知り,教えられることが少なくなかった.

齋藤中哉(著)Alan T. Lefor(編集協力)「臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z[英語CD付]」

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1788 - P.1788

 このたび,自治医科大学客員教授であり東京医科大学の総合臨床科教授でもある齋藤中哉教授の執筆と,自治医科大学教授のAlan T. Lefor教授の編集協力により,『臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z』が医学書院から出版された.これには英語のCDが付いている.

 本書の内容は,2003年以来,ハワイ大学の医学教育フェローシップ・プログラム・ディレクターをされていた齋藤中哉氏が『週刊医学界新聞』誌上において2004年から1年間,12回にわたって連載した「英語で発信! 臨床症例提示―今こそ世界の潮流に乗ろう」に,大幅な加筆・修正を加えたものだ.連載は,カンファレンスにおける症例呈示(case presentation)の実例を分析し,テキストとして教育的,効率的な症例の提供の仕方を教えてくれる,読者にあたかも米国での症例検討会に出席しているような感を与える記事であった.

コーヒーブレイク

漢字に感じる

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1776 - P.1776

 日頃の臨床現場で多くの患者さん達に接していますと,目の前の仕事に押し流されて,個々の患者さんへの対応が疎かになりかねません.「なるほど忙しいと心が亡くなっていくものだ」と感じさせられ,初心を忘れるものだと反省することになります.また,重症の患者さんがいますと,その方の検査データの動きに右往左往することにもなりますが,検査結果の動きを眺めているうちに,「なるほど,上がって下がれば山を越し,それが峠を越すということか」と納得できることにもなります.

 人は夢を抱き,その実現のために努力をしますが,泡のように消えてしまうことのほうが多いようで,臨床医としては治って欲しいと願ってはみても,病気によっては難しく,また人の寿命には勝てません.「やはり人の夢は儚いものなのだ」と自分を慰めることになります.夢を実現するためには心に願うだけではなく,口に十回も出して願わなければならず,そうすれば叶うこともあるのかもしれません.しかし,口で言ってもそれが成らなければ,やはり誠を尽くしたとは思って貰えないのも医療者の辛いところではあります.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.1812 - P.1812

 インドのニューデリーで開かれた学会に参加してきた.ビザが必要であることから,旅行社を介して申請することにしたが,雲行きが怪しくなった.学会の参加ということでビザ申請に必要な用紙が送られてきた.学会の招待状,大学の推薦状等が必要であり,また申請用紙は父の名前まで記入しなければならないものであった.この歳になって父の名前が必要とは思いもよらなかったが,一応すべての項目を埋めた.招待状はメールによるものを印刷して添付した.書類を作り上げ,旅行社の方に手続きをしてもらう段になって,問題が起きた.招待状は正式な文書でなくては認められないとのことであった.あわてて,インドの学会本部に正式な招待状を依頼したが,なかなか届かない.

 在日インド大使館に電話してみると,ビザは別の部局(よく分からないが,どこかに委託しているのか?)の担当であるとのこと.早速そこに電話をしてみた.やはり正式なものでなくては駄目だという.こちらも感情的になり,「インドは医学会の参加に否定的なのか」などと激しくやり取りをしたが,当然のごとく先に進まない.あきらめざるを得ないかと思い始めたとき,ある会合で某大学の教授に会った.インドのビザの話をしたら,彼は関西にある領事館に直接書類を持っていったという.厄介な書類を出そうとしたら,事務員が「それは大変面倒ですから引っ込めて,観光ビザを申請してください」と言い,あっという間にビザの収得ができたとのことであった.

 早速試してみると,あっという間に観光ビザを得ることができた.インドの学会でアメリカの知人とこの話をすると,彼もまったく同じ体験を披露した.彼は私より10歳年上であり,父親の名前の記入欄について理解することができなかったとのこと.さらに彼は銀行の預金先まで提出させられたらしい.今思うとアメリカの金融危機の先取りであったのだろうか.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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