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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

特集 安全な消化管器械吻合をめざして

自動吻合器・縫合器の種類と特徴

著者: 前田耕太郎 ,   花井恒一 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   小出欽和 ,   松岡宏 ,   勝野秀稔 ,   船橋益夫

ページ範囲:P.165 - P.170

要旨:消化器手術において自動縫合器・吻合器は欠くことのできない器具となっている.これらの器具の使用により,縫合や吻合はより均一化され,縫合・吻合操作もより簡便・安全になってきており,手術時間や出血量の減少にも寄与している.自動縫合器や吻合器には多くの種類があるため,使用に際しては基本的な使用法を熟知するとともに,それぞれの器具の特徴を把握する必要がある.本稿では,現在多用されている自動縫合器・吻合器の種類と特徴について概説した.重要なことは,器具の特性を把握して使用し,縫合・吻合後はその操作の結果を確認することである.問題があった場合にはそれに対処するための縫合・吻合法を習得しておくことである.

器械吻合のコツとピットフォール

著者: 大野哲郎 ,   持木彫人 ,   桑野博行

ページ範囲:P.171 - P.174

要旨:器械吻合に関しては,適切なサイズの器械の選択,吻合部の血流保持,アンビルシャフトへの確実な巾着縫合,吻合部への周囲組織・腸管壁の狭み込みや吻合部のねじれ防止が重要である.また,その器械の利点・欠点を十分に把握し,その手順を1つひとつ熟知することが肝要である.器械吻合に関して,比較的使用されることの多いサーキュラーステイプラーであるPCEEATMおよびILS/CDHTMのそれぞれの特徴,これらを使用する際のコツとピットフォールについて概説した.

胸部食道癌切除術における高位胸腔内吻合の工夫

著者: 島田英昭 ,   岡住慎一 ,   松原久裕

ページ範囲:P.175 - P.179

要旨:当科で標準としている胸部食道癌切除術における高位胸腔内吻合では,①大網動脈ならびに毛細血管網を温存した大彎側胃管の作成,②胸腔内アプローチによる可及的口側での食道切離,③大網動脈アーケードを温存した食道・胃大彎の器械吻合,④温存した大網による吻合部と気管剝離面の保護を重要なポイントとしている.本稿では,それぞれのポイントについて具体的な工夫を述べる.

食道デルタ吻合の手技とコツ

著者: 奥芝俊一 ,   安孫子剛大 ,   佐々木剛志 ,   海老原裕磨 ,   川原田陽 ,   北城秀司 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.181 - P.187

要旨:われわれはlinear staplerを用いたfunctional end-to-end anastomosisの手技を応用した新しい食道胃管吻合(食道デルタ吻合)を行っているので,その手技とコツを中心に報告する.食道デルタ吻合は,まず頸部食道左断端の小孔と胃管大彎側後壁の小孔からlinear staplerを挿入し,徐々に縦隔側に向けながら食道と胃管の後壁をななめに合わせ,挟み込んでファイアすると,前壁縫合と後壁縫合が同時に完成する.あとはその挿入孔を横方向に2回に分けてlinear staplerで縫合閉鎖する方法である.食道デルタ吻合は簡便であり,かつ吻合口を大きくとることができる内翻縫合と外翻縫合を組み合わせた吻合法である.

腹腔鏡補助下幽門側胃切除術における小開腹Billroth Ⅰ 法器械再建術

著者: 吉川貴己 ,   土田知史 ,   長晴彦 ,   円谷彰 ,   小林理

ページ範囲:P.189 - P.193

要旨:当科では,郭清はすべて腹腔鏡下に行い,小開腹下にBillroth Ⅰ器械吻合を行っている.本再建方法を安全に施行するためには,十二指腸を切離することなく,十二指腸と胃を無理なく安全に上腹部の小開腹創より挙上させることにある.十二指腸周囲の遊離と#6,#5リンパ節の郭清,および十二指腸の血流維持が重要となる.また,胃の挙上においては胃の後側の癒着剝離と短胃動静脈の処理,温存が重要となる.腹腔鏡下で十二指腸切離を先行しないことによる#7,#8a,#9リンパ節郭清における視野は,サージカルアームで固定したスネークリトラクターによる肝臓左葉の圧排,胃膵ヒダの腹側への牽引,胃または膵臓の下側への牽引によって得られる.小開腹創からの器械吻合では,特にサーキュラーステイプラーのサイズと使用方法が重要となる.

腹腔鏡下胃切除術における吻合のポイント

著者: 比企直樹 ,   山口俊晴 ,   福永哲 ,   徳永正則 ,   神田聡 ,   三木明 ,   瀬戸泰之 ,   大山繁和 ,   大矢雅敏 ,   上野雅資 ,   黒柳洋弥 ,   山本順司 ,   齋浦明夫 ,   関誠 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.195 - P.201

要旨:腹腔鏡下胃切除の普及に伴い,術式も多様化している.幽門側胃切除に加えて,噴門側胃切除,胃全摘なども各施設が施行するようになってきているが,腹腔鏡下胃手術におけるアキレス腱として,上部胃癌に対する噴門側胃切除,胃全摘における吻合部の合併症が挙げれる.腹腔鏡下では視野,術野にどうしても制限があり,開腹手術で使われている吻合器や縫合器の取り扱いは難しい.食道へのかがり縫い,自動吻合器のアンビルヘッドの挿入など難渋することも多く,縫合不全の原因となり得る.本稿では,腹腔鏡下胃切除における器械吻合の現況を中心に概説し,さらにわれわれの行っている安全なかがり縫い,自動吻合器のアンビルヘッドの挿入法を紹介する.

胃全摘における安全な器械吻合のポイント

著者: 吉田和弘 ,   山口和也 ,   坂下文夫 ,   田中善宏 ,   檜原淳 ,   田辺和照

ページ範囲:P.203 - P.207

要旨:胃全摘後の再建はRoux-en-Y法を基本としている.その手順として空腸のY脚吻合を21mmのストレートタイプの自動吻合器を用いて吻合する.この際,挙上空腸内に空気を入れてアンビルヘッドの挿入を容易にする.Y脚吻合後の盲端の長さは約2cmとする.空腸の切離の際は直動脈のみを処理し,辺縁動脈は温存することで血流を保つことができる.食道-空腸吻合は25mmのカーブドタイプの自動吻合器を使用する.盲端はできるだけ短くすることがコツである.

低位前方切除術における器械吻合のコツ

著者: 小林昭広 ,   齋藤典男 ,   杉藤正典 ,   伊藤雅昭 ,   西澤雄介

ページ範囲:P.209 - P.213

要旨:近年,手術手技の向上と器械の発達に伴い,より低位の吻合が可能となっている.われわれは,低位前方切除の再建は簡便で汚染機会の少ないDSTを主に行っている.以前は器械吻合が困難であった狭骨盤症例,巨大腫瘍または肛門管内が吻合部となる症例でもContourTM curved cutter staplerや線状縫合器(Powered Multifire Endo GIATM,EchelonTM(gold),Endo GIATM Universalなど)を使用することにより,超低位前方切除が可能となる症例が増加している.しかし,状況に応じた機種の選択が重要で,安易に器械を多用することは慎まなければならない.基本的な器械操作に習熟するのはもちろん,トラブルが生じた場合を想定した手縫い吻合の技術習得も重要である.

直腸低位前方切除術の課題と直腸反転法

著者: 関本貢嗣 ,   山本浩文 ,   池田正孝 ,   野村昌哉 ,   竹政伊知朗 ,   門田守人 ,   伴忠延

ページ範囲:P.215 - P.222

要旨:低位直腸に対する直腸低位前方切除術において,最も大きな課題の1つに直腸離断がある.特に,男性では骨盤が狭く操作が困難な症例が多い.本稿では,視野の確保や自動縫合器の挿入など低位前方切除術の問題点を解剖学的な立場から解説し,対策について述べたい.そして,低位直腸癌の直腸離断を容易に行う方法として最近普及しつつある直腸反転法の手技の要点を紹介する.

腹腔鏡下大腸手術における吻合の工夫

著者: 斉田芳久 ,   中村寧 ,   榎本俊行 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.223 - P.228

要旨:腹腔鏡下大腸手術は切離・吻合において,開腹手術と比較して使用できる器械の種類や挿入角度,視野角度が制限されることから,安全のためにはそれなりの工夫をする必要がある.本稿では,小開腹創からの機能的端々吻合と腹腔内のdouble stapling techniqueについて,実際の手技を中心にわれわれの工夫とコツを供覧した.合併症を起こさない基本的な吻合の注意点は開腹手術と大きく異なる点はないが,開腹手術よりも多少手技が煩雑化するので,できれば大腸手術チームで術者・助手の役割や操作をすべて定型化しておくとより一層ストレスが少なく,安全な手術ができると考える.

大腸手術におけるfunctional end-to-end anastomosisの工夫

著者: 河原秀次郎 ,   小村伸朗 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.229 - P.233

要旨:従来の自動縫合器を用いた機能的端々吻合は,その手技上,左側結腸から直腸の病変に対する手術には用いることができなかった.われわれは,口側および肛側腸管をそれぞれ反対側方向にスライドさせて側々吻合することで,右側結腸だけでなく左側結腸から上部直腸の病変に対しても自動縫合器を用いた機能的端々吻合が行えるSFEEAを考案した.開腹による高位前方切除術74例でSFEEAとDSTを比較すると,SFEEA群がDST群より有意に手術時間が短く,術後合併症,術後吻合部再発はみられなかった.よって,S状結腸から上部直腸の病変に対する手術においてDSTに代わる再建法としてその汎用が期待される.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・10

腹腔鏡下直腸低位前方切除術

著者: 國場幸均 ,   大辻英吾 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.157 - P.163

はじめに

 腹腔鏡下直腸前方切除を安全に施行するためには,限られた骨盤腔内で良好な視野展開のもとに手術操作を進めなければならない.癌部に対しては愛護的に操作しつつ神経を温存して直腸の剝離や切離を行わなくてはならない.特に腸管切離部が低位になればなるほど,骨盤内の外科解剖を熟知している術者でも低位前方切除は難しくなる1~3).一方,腹腔鏡の拡大視効果は骨盤内操作においてきわめて有効である.すなわち腹腔鏡は骨盤内解剖の把握に有用で,視野展開に慣れれば出血なく安全に剝離・授動することができる.

 本稿では,直腸癌の腹腔鏡下低位前方切除術の視野展開から,困難とされる腸管の切離・吻合に至るまでの工夫を紹介する.

外科学温故知新・32

甲状腺外科

著者: 黒木祥司

ページ範囲:P.237 - P.242

1 はじめに

 中国では甲状腺の機能の何たるかもまったく知られていなかった7世紀に,すでに甲状腺腫を甲状腺末で治療していたということであるが,漢方の慧眼には驚くほかない.「東方見聞録」を著したヴェニスのマルコポーロは1270年に中央アジアで甲状腺腫を見たことを記述している.このように古くから知られていた甲状腺腫であるが,科学的に記載されるのには19世紀まで待たねばならなかった.

 意外に思うかも知れないが,甲状腺疾患患者の数は単一臓器の疾患としては世界で最大であり,その大部分はヨード欠乏による甲状腺機能低下症である.わが国は,国民が海草類を好んで摂取するがゆえにヨードを自然に補い,ヨード欠乏症の存在しない例外的な存在である.海外ではヨード摂取量が十分ではなく,なかでもイラン,中国,チリなどでは食事性のヨード摂取量がきわめて少ないため,甲状腺ホルモンが合成できず,甲状腺機能低下症となっている例が著しく多い.

 のちに述べるように,欧米の文明諸国では20世紀中頃から食塩にヨードが添加されるようになって,ヨード不足による甲状腺疾患は激減した.しかしながら,ヨードを正確に供給してヨード欠乏症を克服したイギリスにおいても人口の15%は何らかの甲状腺疾患を持つと報告されている.また,長崎における調査では一般健康成人の17%に甲状腺疾患があったとされている.すなわち,人類の6~7人に1人は甲状腺に何らかの異常を持っているようである.

連載企画「外科学温故知新」によせて・16

肛門外科―ルイ14世の痔瘻手術

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.243 - P.245

1.フランスの「痔瘻の年」(1686年)

 フランスでは1686年を「痔瘻の年」と呼ぶことをご存じであろうか.この年の11月18日に,17世紀フランスにおいて絶対的権力者として君臨した太陽王ルイ14世(図1)が,長年にわたって彼を苦しめていた痔瘻の根治手術を受けたのである(別に意図したわけではないが,11月18日から本稿を書き始めた).現在,ベルサイユ宮殿の前庭には雄々しいルイ14世の騎乗像が建っており,この像は痔瘻の手術の前か後か定かではないが,痔瘻で苦しんでいたということを感じさせないものである(もっとも,絶対権力者の弱々しい姿を写すわけもないのだが).

 このとき,ルイ14世の痔瘻を外科的に治療したのが,国王の主席外科医であったフェリックス(Francois Felix:1635~1703年:図2)であった.巷間,手術を担当することになったフェリックスは,国王の体にメスをあてるので,絶対に失敗の許されない手術を実施する前に多くの痔瘻患者を集めて,そのすべてを自らが執刀することにより安全な手術手技の確立をはかったと言われている.そして,1686年11月18日にベルサイユ宮殿2階の「牛の目のサロン」に設けられた臨時の手術室において,多くの侍医団や家臣が見守るなか無麻酔下にこの手術は行われた.

元外科医,スーダン奮闘記・22

一時帰国―2007年秋

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.247 - P.249

中学校での講演(1)

 群馬大学教育学部附属中学校に行ってきた.2日間にわたる文化祭の最中であった.1日目は劇などの発表で,2日目の午前中は合唱であった.私の講演は2日目の午後に予定されていた.講演の前,校長先生から当中学校の合唱部は先ほど行われた全国大会で金賞を取ったと伺った.プログラムを見ると,1年から3年までの各学年の合唱,そして最後に全校生徒による合唱がプログラムされていた.私は,こんなことなら午前中に附属中学校にきて合唱を見ればよかったなあ,と思った.

 講演を行ったところ,全校生徒が一生懸命に私の話を聞いてくれた.私は講演の最後に中学生にお願いをした.「私はスーダンに向かいます.私のために全員で合唱を行ってください.私にみんなの力を与えてください」.すると,中学生全員が私のためだけに歌ってくれた.まったくプログラムにもなかったことだが,私のわがままである.題名は「大地讃頌」.文字通り大地を讃える歌である.ピアノも中学生が弾いている.全員が一生懸命に大きな声で私のために歌ってくれている.自然と頬を伝わるものを感じた.

外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問・50

手術後の血液検査は必要か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.250 - P.251

【素朴な疑問】

 全身麻酔の手術後にAST・ALTが上昇していれば,麻酔や抗生物質による薬剤性肝障害と診断し,強力ネオミノファーゲンC®を静注する(正しい適応は「慢性肝疾患における肝機能異常の改善」).そんな経験はないだろうか.

 胃癌の胃切除後にアミラーゼが上昇していれば,膵授動やリンパ節郭清に伴う急性膵炎と診断し,メシル酸ガベキサート(商品名エフオーワイ®)を投与する(適応に「術後急性膵炎」はある).そんな外科医はいないだろうか.

病院めぐり

大分中村病院外科

著者: 立花幸人

ページ範囲:P.252 - P.252

 皆さんは大分を御存知ですか?

 南北に伸びた大分県.北には1万円札の福沢諭吉の出生地である中津市を有し,内陸部には観光地の湯布院を,そして南には湯の街,別府市,そのすぐ南に存在するのが猿の山,高崎山です.県庁所在地の大分市は歴史上,大友宗麟が活躍した場所です.現在は新日鉄,昭和電工,旭化成などが進出した工業地帯ともなっています.

臨床外科交見室

(続)清潔・不潔の概念の見直しについて―滅菌・清潔・不潔の3分類の提唱

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.253 - P.253

【はじめに】

 以前に,従来の外科的な清潔・不潔の概念の見直しが必要であるということを述べた1).これは最近になって,従来から言われてきた感染対策が見直されてきたことや創処置の方法が変化してきたことが大きな要因である.具体的には,手術前における手洗い法の変化や創処置の変遷である.すなわち,創傷処置には消毒剤や滅菌ガーゼは不要で,創傷治療の原則は傷を乾かしてなおすのではなく,異物を除去したのちに創傷被覆材を用いて適度な湿潤環境を保つこと,すなわち湿潤療法の広がりである2,3)

 しかし一方では,いまだに医療現場では消毒あるいは滅菌に対して強い信仰があり,現場を混乱させていることも事実である.

臨床研究

術中DICと順行性腹腔鏡下胆囊摘出術を利用した術中胆管損傷回避の工夫

著者: 盛真一郎 ,   實操二 ,   飯野聡 ,   今村博 ,   田辺元 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.255 - P.257

はじめに

 腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)は低侵襲性から胆囊摘出の標準術式になり,その適応は急性胆囊炎,高度の炎症症例まで拡大してきている1~4).しかしながら合併症も多く報告されており,胆管損傷の頻度は0.7%と少なくない2,5).一方,高木ら6~8)は順行性胆囊摘出術(以下,dome down LC)は安全な胆囊管処理が可能であることから,手術困難な症例においても胆道損傷の危険性がきわめて低いと報告している.

 今回,われわれは当院で行われている術中の経静脈胆道造影(drip infusion cholangiography:以下,術中DIC)とdome down LCを組み合わせ,胆囊管を同定・切離する方法が胆管損傷の回避に有用であるか検討した.

臨床報告・1

陥凹型微小浸潤十二指腸癌と早期胃癌の重複癌の1例

著者: 田辺大朗 ,   中野正啓 ,   近藤圭一郎 ,   野田健治

ページ範囲:P.259 - P.263

はじめに

 陥凹型早期十二指腸癌は比較的稀であるが,近年は内視鏡検査の普及,進歩に伴い報告例が増加している1~3)

 今回,われわれは検診にて発見された陥凹型微小浸潤十二指腸癌と早期胃癌を合併した1例を経験したので報告する.

肝囊胞からの発生が示唆された胆管囊胞腺癌の1例

著者: 徳毛誠樹 ,   泉貞言 ,   小野田裕士 ,   鈴鹿伊智雄 ,   塩田邦彦 ,   斎藤守弘

ページ範囲:P.265 - P.269

はじめに

 胆管囊胞腺癌は肝内胆管由来の肝癌に分類されるが,頻度は稀である.その発生素因として単純肝囊胞からの発生が示唆されている1).われわれは,肝囊胞として超音波検査での経過観察中に囊胞径の増大と囊胞内隆起の出現を認め,手術により切除し得た胆管囊胞腺癌の1例を経験したので報告する.

保存的治療で治癒した超高齢者の胃潰瘍穿孔の1例

著者: 境雄大 ,   渡辺健一 ,   佐藤浩一 ,   須藤泰裕 ,   平賀典子 ,   須藤晃司

ページ範囲:P.271 - P.275

はじめに

 胃潰瘍穿孔は高齢者に多く,治癒機転が働きにくく自然閉鎖しにくいとされている1)

 今回,われわれは保存的治療で治癒した超高齢者の胃潰瘍穿孔の1例を報告する.

大腸癌術後小腸転移巣を切除し5年生存を得た1例

著者: 青柳信嘉 ,   坂田宏樹 ,   石田剛

ページ範囲:P.277 - P.280

はじめに

 近年,大腸癌はその遠隔転移巣に対する積極的な外科切除により生存率,生存期間が向上しつつある1).しかしながら,切除対象となる遠隔転移巣のほとんどは肝・肺転移である.

 今回,われわれは大腸癌術後の孤立性小腸転移巣を切除し,5年無再発生存を得た.大腸癌術後の小腸転移巣に対する切除,治癒例はきわめて稀であり,文献的考察を加えて報告する.

同一部位に胃癌とGISTが併存した1例

著者: 竹内聖 ,   花畑哲郎 ,   大橋龍一郎 ,   塩田邦彦

ページ範囲:P.281 - P.285

はじめに

 近年,消化管間葉系腫瘍の大半はgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)と考えられており1),カハールの介在細胞を起源とする腫瘍であることが明らかになった2)

 今回,われわれは同一部位に胃癌とGISTが併存した非常に稀な1例を経験したので報告する.

異時性重複癌を認めたα-fetoprotein産生横行結腸癌の長期生存の1症例

著者: 清水幸雄 ,   平賀理佐子 ,   金原太 ,   佐藤知洋 ,   由良二郎 ,   池田庸子

ページ範囲:P.287 - P.292

はじめに

 α-fetoprotein(以下,AFP)産生大腸癌は比較的少なく,横行結腸癌症例はきわめて稀である.AFP産生腫瘍は悪性度が高くて肝転移しやすく,予後はきわめて不良とされている.

 筆者らが原発巣切除後早期に肝転移したAFP産生横行結腸癌の1例として報告した症例は1),その後に直腸癌と膀胱癌を発症したが,直腸・膀胱いずれの病変部でもAFP陽性細胞は証明されなかった.重複癌を発症したが約8年間生存中であり,肝転移をしたAFP産生横行結腸癌の長期生存例はきわめて稀と思われるので報告する.

手術手技

消化管器械吻合における耐圧能の検討

著者: 川崎健太郎 ,   藤野泰宏 ,   金光聖哲 ,   後藤直大 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.293 - P.297

はじめに

 消化管の器械吻合は1960年代にSteichen1)が報告してから徐々に広がり,現在では各種の吻合方法が用いられている.器械吻合は簡便かつ安全であり,手術時間を短縮したり吻合困難と思われた症例を吻合可能にするなどの様々なメリットをもつ2~5).しかし,器械吻合でも縫合不全が認められ,その頻度は術式によって異なるものの2.1~23%と報告されている6~9).縫合不全はいったん発生すると患者の術後QOLを著しく低下させ,稀に致命的な合併症となることもある.

 器械吻合方法には様々なものがあるが,ただ経験と慣れだけで吻合方法を選択している場合も多く,適切な器械の選択,適正な吻合方法,漿膜筋層縫合の意義などには不明な点も多い.

 われわれはこれらの問題点を明らかにするために器械吻合に関する一連の動物実験を行い,3編にまとめ英文誌に報告した10~12).出版社の許可を得て,本稿ではこれらの実験のうち最も重要と考えられる吻合部強度に関する結果をまとめて報告する.

コーヒーブレイク

医事紛争体験記―ジョーズに学ぶ

著者: 板野聡

ページ範囲:P.234 - P.234

 最近のことですが,医事紛争に巻き込まれ被告席に立たされるかもしれないと慌てることがありました.以前にも書きましたが,頭のなかで例の映画「ジョーズ」のテーマ曲が何度も鳴り響くこととなりました(第61巻12号参照).問題は,直腸癌の術後経過をみるなかで腫瘍マーカーの増加が確認され,胸部での再発が発見された患者さんとの揉め事でした.同じ経験をお持ちの先生方には共感と慰めを,未経験の先生方には教訓と心の準備を,大病院でもっぱら後医となる先生方には注意と抗議を込めて,ここにご紹介します.

 経過観察中に腫瘍マーカーが増加し,当院で検索しましたが再発部位を特定できず,再発部位の検索と治療をお願いして紹介をしたのですが,その紹介先の先生の一言が紛争の発端となりました.胸部に病巣を発見したまではよかったのですが,そのお医者様が得意満面に(私は見てはいませんが)「この胸部の腫瘍は原発性で,早くからあったものを見落としていたのではないか」と仰ったのでした.患者さんのお話では,そのお医者様はその説明を笑いながら行い,「あんたも何を診てもろうてたんや」と付け加えられたそうです.患者さんは,患者さんご自身も馬鹿にされたような気持ちになり,それまでの当院への感謝の気持ち以上に抗議の気持ちが沸いてきたそうです.県医師会の紛争担当の先生に相談したところ,「またですか.そうした後医の無責任な一言で起こるトラブルが一番多いのです」とのご返事で,なるほどこれが「後医の言災」(私の造語,ゲンサイと読みます)なのかと実感することになりました.

書評

国際膵臓学会ワーキンググループ(著),田中雅夫(訳・解説)「IPMN/MCN国際診療ガイドライン日本語版・解説」

著者: 山雄健次

ページ範囲:P.246 - P.246

 IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)は,1982年にわが国の大橋,高木らが世界に先駆けて提唱した“粘液産生膵癌”(後に粘液産生膵腫瘍)とほぼ同一の疾患概念である.一方,MCN(Mucinous Cystic Neoplasms)は,従来から膵囊胞腺腫・腺癌と呼ばれていたものであり,両者の疾患概念は一時その異同をめぐって混乱をきたしていたが,現在では異なった疾患と理解されている.これらはこれまで非常に稀なものとされてきたが,最近では日常臨床において少なからず遭遇し,その取り扱いの理解は研究者,消化器内科医・消化器外科医のみならず一般臨床医や研修医にとっても重要となっている.

 さて,この本は“International Consensus Guidelines for Management of Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms and Mucinous Cystic Neoplasms of the Pancreas”として,2006年の春にPancreatology誌上に報告された論文の日本語版解説書である.その論文があっという間に,わかりやすい日本語の解説文に多数の新たな写真が加えられた一冊のすばらしい本に化けてしまった.さすが田中雅夫教授,見事と言うほかはない.

ひとやすみ・30

はじめての手術

著者: 中川国利

ページ範囲:P.275 - P.275

 外科医として手術を行うようになってから早いもので31年が過ぎた.これまでに私が術者としてメスを握った手術は腹腔鏡下手術を中心に5,000例を超えている.しかし,いくら数をこなしても,手術時にはいつも緊張する.しかし,一番緊張し印象に残っているのはやはり,はじめて行った手術である.

 私の卒業当時はストレート研修であり,最初から外科医として研修を受けた.そして研修1年目の7月頃からは虫垂切除術,ヘルニア修復術,痔核手術などの術者を任せられた.私が最初に執刀した患者さんは70歳代の鼠径ヘルニア症例であった.現在の人工膜を用いたヘルニア修復術と異なり,当時はBassiniやMcVayが標準術式であった.手術に備えて手術書や解剖の本を熟読し,頭のなかで手術のシミュレーションを何度も反芻した.しかし,実際に患者さんの前に立つと,頭のなかは真っ白になった.ただ先輩の指示に従い,手術を黙々とこなした.

外科医局の午後・41

謝罪

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.292 - P.292

 昨年は「謝罪」ということが問題となった1年であったように思う.その代表はボクシングの「亀田問題」である.世界チャンピオン戦で次男がプロレスまがいの反則を繰り返し,神聖な世界戦を汚したというのが主な理由で,それまで一家を持ち上げていたマスコミが一斉にバッシングに転じた.マスコミというのは持ち上げるだけ持ち上げておいて,あとは真っ逆さまに落として踏みつけるという習性があり,持ち上げられ出したら気をつけねばならないらしい.謝罪にまず父親と本人が出席したが,その態度がなっていないと,またさらにバッシングが起こった.収まりがつかないので,つぎに長男が登場して涙をみせて謝罪すると,今度はかわいそうという同情も含め,一気に長男株が上昇した.この問題だけでなく,昨年は食品企業や一流料亭による賞味期限や産地などの隠蔽や改ざんが発覚し,トップが謝罪会見するのをよく見かけた.

 病院をはじめとする医療現場でも最近は特に「謝罪」が大きな問題である.たとえば,術野にガーゼを置き忘れたとか血液型や薬の投与量を間違ったというような明らかな医療ミスはやはり誰が見てもとにかく「謝罪」しかないであろう.しかし,術後に縫合不全を生じて再手術になったとか,感染を生じたとか,また初診時に病気を見落としたとか誤診したとかで謝罪を要求されたら,これはなかなか謝罪する側としても抵抗があるだろうし,謝罪したらミスを認めるという結果になるのではと考えてしまうのも自然である.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.300 - P.300

 第69回日本臨床外科学会(会長・草野満夫:昭和大学教授)が横浜で開催された.そこで,「刑事訴訟と外科系診療」と題する特別企画があった.本誌の編集委員である炭山教授と私が座長を担当したが,主題名に刑事訴訟が入った企画はあまりないこともあり,どのような議論になるのかやや不安であった.広い会場はほぼ満員で,外科医の関心の高さをうかがわせるものであった. 

 そもそも,医療行為に関する議論のなかで刑事訴訟が出てくるのは異常な話である.福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕されたことは,外科医に大きな衝撃を与えた.容疑は,業務上過失致死と医師法第21条違反である.医師法第21条は異状死の届け出の義務に関するものであるが,異状死とはどのようなものかの合意がなされていない時点で,拡大解釈ともとれる運用をしたことの問題は大きいといえる.もともと届け出をするべき異状死とは,目視で体表に事件を疑わせる異状な所見があるものをいうのであろう.すなわち,首に縄の模様があるときや,腹部にナイフが刺さっている場合などである.これを医療行為にまで持ち込むのはどうしても無理がある.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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