icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

特集 術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

甲状腺癌手術における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 菊森豊根 ,   今井常夫

ページ範囲:P.311 - P.316

要旨:甲状腺癌,特に乳頭癌は高頻度にリンパ節転移をきたすが,リンパ節転移が高度であることが必ずしも生命予後が悪いということにはならず,この点はほかの癌腫と大きく異なる.しかし,生命予後は良好でも,中央区域リンパ節の腫大をきたすと反回神経麻痺などQOLを著しく損ねる転帰をとることがある.術前画像検査によるリンパ節診断の精度は中央区域において低いため,画像診断の結果のいかんにかかわらず中央区域の予防的郭清をすべきであると考えられるが,一方,外側区域では術前画像検査の精度は比較的高く,特に超音波断層撮影を参考に郭清範囲を決定することが勧められる.術中のリンパ節転移診断の試みの1つであるセンチネルリンパ節生検は感度が低く,有用性は乏しいと考える.

乳癌のリンパ節転移診断とセンチネルリンパ節生検の有用性

著者: 野口昌邦 ,   井口雅史

ページ範囲:P.317 - P.323

要旨:乳癌の腋窩リンパ節郭清は臨床試験によって生存率の向上には寄与しないことが明らかとなり,stagingおよび局所制御を主な目的として行われている.しかし,腋窩リンパ節郭清はリンパ節転移を認める症例のみに有用である.そのため,様々な画像検査を用いてリンパ節の転移診断が行われているが,微小転移の診断には限界がある.一方,センチネルリンパ節生検はmicroscopicな診断法であり,現在,それによってリンパ節転移を認めない症例には腋窩リンパ節郭清が省略されている.しかし,術前の画像診断によってリンパ節転移を認める症例にはセンチネルリンパ節生検の適応がなく,腋窩リンパ節郭清を行うため,その点で画像診断は有用性があると考えられる.

肺癌における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 坪井正博 ,   佐治久 ,   井上達哉 ,   嶋田善久 ,   加藤治文

ページ範囲:P.325 - P.335

要旨:非小細胞肺癌(NSCLC)の疑い例/確診例のstagingにあたって臨床医が検討すべき要素は多岐にわたるが,病理学的にリンパ節転移(N2)がある否かは治療戦略や予後を大きく左右するため,その同定は特に重要である.最近の研究から,このような患者に対する補助療法または術前補助療法の適応が標準化されつつあることから,臨床的早期の患者ならびに臨床的N2に分類され術前療法を施行した患者に対しては特にリンパ節転移の状況を正確に評価することが臨床上肝要であることは論を俟たない.一体型陽電子放射断層撮影・コンピュータ断層撮影装置(PET-CT)や経食道または経気管支の超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA,EBUS-TBNA)といった新しい検査法は低侵襲性で,これまで縦隔鏡のみにゆだねられてきた細胞組織学的な縦隔リンパ節転移の正診率の向上に役立つ可能性がある.このような新たな検査法は,その普及に伴ってstagingおよび治療において重要な位置を占めるようになることが予想される.術中リンパ節郭清については安全性を示唆するエビデンスが集積されており,予期しない縦隔リンパ節転移を同定する,より有効な方法としてリンパ節サンプリングに代わっていくものと思われる.

食道癌の術前・術中のリンパ節転移診断の方法と有用性

著者: 幕内博康 ,   島田英雄 ,   千野修 ,   山本壮一郎 ,   原正 ,   西隆之 ,   木勢佳史 ,   葉梨智子 ,   剣持孝弘 ,   三朝博仁 ,   伊東英輔 ,   名久井実 ,   河島俊文 ,   星川竜彦 ,   石井明子

ページ範囲:P.337 - P.345

要旨:食道癌の術前リンパ節転移診断は,頸部は超音波検査で,胸部はEUSとCT・MRIで,腹部はCTと超音波でなされている.診断能も向上しているが,正診率は60~70%にすぎない.しかし,治療方針の決定には有用となっている.術中リンパ節転移診断は迅速病理診断だけでなく,RT-PCR法も一部で施行されており微小転移診断に威力を発揮しているが,臨床的意義については未知数の部分もある.センチネルリンパ節診断法の確立と簡便化が行われることで,さらに普及が待たれる.臨床的に意味のあるリンパ節転移の有無診断および転移リンパ節の存在部位診断の確立がなされれば,その臨床的効果は大きく,患者への福音となると思われる.

胃癌における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 竹内裕也 ,   才川義朗 ,   和田則仁 ,   須田康一 ,   北川雄光

ページ範囲:P.347 - P.352

要旨:現在,早期胃癌では腫瘍径や肉眼型,組織型などから深達度診断やリンパ節転移頻度予測が可能となっている.しかし,CT,US,EUS,MRIなどの術前画像によるリンパ節転移診断はいまだ不完全と言わざるを得ず,実際に郭清範囲を決めるのは術中のリンパ節の視触診や迅速病理診断に委ねられることが多いのが現状である.センチネルリンパ節(SN)生検は,SNに集中した病理学的あるいは分子生物学的転移診断を行うことによって,時間的,経済的に効率よいリンパ節微小転移診断を行うことができる.またSN転移陰性早期胃癌に対する胃局所切除術や分節切除術は新しい機能温存・個別化縮小手術として注目されている.

胆道癌における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   野沢聡志 ,   吉富秀幸 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.353 - P.359

要旨:胆道癌は悪性度が高く進行も早いため,きわめて予後不良な疾患である.また,リンパ節転移を高率に認め,予後規定因子の1つとしても重要である.このため,胆道癌の術前・術中リンパ節転移診断を正確に行うことは,術式や至適リンパ節郭清範囲を決定するためにきわめて有用である.近年,各種画像診断能力の向上はめざましいものがあり,MDCTやFDG-PETなどの新規の画像診断方法も応用されるようになってきた.しかしながら,各種の画像診断における胆道癌転移リンパ節の正診率は低く,術前の正確なリンパ節転移診断は容易ではない.今後も各種画像検査の描出能および検出能の向上をはかるとともに,新しい検査法の開発など,さらなる検討が必要であると思われる.

膵癌のリンパ節転移と治療戦略

著者: 石川治 ,   大東弘明 ,   江口英利 ,   山田晃正 ,   後藤邦仁 ,   矢野雅彦 ,   今岡真義

ページ範囲:P.361 - P.366

要旨:難治癌と言われるもののなかでも,膵癌の切除成績は不良である.膵癌切除例の半数以上がリンパ節転移を伴っており,リンパ節転移の程度は膵癌切除後における重要な予後因子である.したがって,リンパ節転移高度例(N2~3,⑯リンパ節転移,転移個数≧4など)に対しては潔く放射線・化学療法に委ねるべきである.一方,軽度または陰性(N0~1,転移個数≦3)のように厳選された症例に対しては集学的治療を積極的に併用し,切除成績の向上をはかるべきである.そのための併用治療法の1つとして術前化学放射線治療があり,高い完遂率と確実な効果が期待できる.

結腸癌手術における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 石黒めぐみ ,   杉原健一

ページ範囲:P.367 - P.373

要旨:結腸癌は直腸癌とは異なってリンパ流が単純であり,郭清範囲による侵襲の程度および術後機能の変化が少ないことから,D3郭清を行うことに抵抗はない.しかし,術前・術中の病期診断および必要かつ十分な郭清が行われているかの確認のために,リンパ節転移診断が必須である.近年,画像診断は驚異的に進歩しており,マルチスライスCTの登場やFDG-PETの急速な普及によって,より精度の高い術前診断が可能となった.また,分子生物学的マーカーを用いた微小転移診断の研究も進んでいる.本稿では,それぞれの検査法による結腸癌の術前リンパ節転移診断とその臨床的意義について概説する.

直腸癌における術前・術中のリンパ節転移診断の方法とその有用性

著者: 小川真平 ,   板橋道朗 ,   廣澤知一郎 ,   番場嘉子 ,   亀岡信悟

ページ範囲:P.375 - P.382

要旨:直腸癌の治療方針決定におけるリンパ節転移診断の意義,診断法の実際とポイント,新しい診断法であるFDG-PETによるリンパ節転移診断の現状などについて報告した.横断像では診断能が劣る下腸間膜幹リンパ節および側方リンパ節の存在診断能向上にCT thin slice+MPR画像,MRI骨盤側壁矢状断像が有用であった.現在行われているリンパ節サイズからの転移診断には限界があり,false positive例を少なくした精度の高い診断には質的要素からの診断が必要である.現在のところ,機能的画像診断法であるFDG-PETによるリンパ節転移診断は低い空間分解能や描出リンパ節サイズの限界などの問題があるが,ハード面の改良によって精度の高い診断法となることが期待される.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・11

大伏在静脈を用いた肝動脈再建術

著者: 錦見尚道 ,   伊神剛 ,   梛野正人 ,   二村雄次

ページ範囲:P.305 - P.310

グラフトの選択

 肝動脈合併切除を行う際,肝動脈の直接吻合を行える場合はよいが,代用血管の間置が必要になる場合がある.代用血管として人工血管,自家動脈,自家静脈の選択肢があるが,肝動脈再建を必要とする手術では準無菌術野である場合が多いため,感染源となり得る人工血管の使用を避けたい.また,市販されている細口径人工血管で肝動脈再建に適当なサイズのものがないことから,自家動脈か自家静脈が選択される.

 冠動脈血行再建術では自家動脈は自家静脈と比較して長期開存率が良好であることが知られ,内胸動脈,胃大網動脈をin situで,また橈骨動脈がフリーグラフトとして広く使用されている.しかし,冠動脈血行は血管床への還流が拡張期に生じる血管抵抗がある心筋組織へのバイパスであり,肝動脈血行は収縮期に還流する生理的に血管抵抗が低い肝臓へのバイパスで,両者の開存成績を同等に論じることは不適切と思われる.

元外科医,スーダン奮闘記・23

生と死

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.385 - P.387

医療システム

 どこの国や地域においても医療システム作りは重要な課題である.単にNGOの負担やシステムで診療所を運営していくことは簡単である.災害,あるいは戦災による難民キャンプでの緊急医療支援の場では,もちろん上記のシステムが適応されるであろう.しかし,それら以外の場では当地の文化や習慣に沿った医療システム作りが必要であると思う.

 まずは診療費である.私が立ち上げた診療所では,以前は完全に無料の体制で行っていたが,これは患者が殺到し,重症でない人までわれ先にと診療所に駆けつけ,重症の人が後回しにされたりといったことが続発した.また,住民のモラルハザードを招くことも感じられた.無料であることによる罪の部分を考慮しなければならない.そこで,現在は有料診療体系にしている.これが,なかなか大変な作業である.もちろん,本当にお金がない患者に診療が必要な場合には無料診療をすることにしているが,村人がお金がない振りをするなどといったことが起こり出した.これには,なぜ診療所で有料診療を行うのか,ということを住民に対して何度となく説明し,ほぼ有料化を理解してくれるようになった.ただし,一般的に外国人であるわれわれの診療には無料が当たり前とする風潮がある.私達はそれを一新するのに時間を要した.

臨床外科交見室

脱ワーキングプア―外科医も闘う覚悟を

著者: 加納宣康

ページ範囲:P.388 - P.388

 われわれ医療従事者にとって,最近は政治・経済の問題が大変大きな関心事となりました.私は医療従事者であるのみならず,長年,患者として生きてきた立場から,新しく自民党総裁および総理大臣になった福田康夫さんには「医療崩壊を避けるために低医療費政策を止めて,福祉目的に消費税も大幅に上げる」と勇気を持って言って欲しいと思っているのですが,もうひとつ歯切れが悪いです.

 先日,亀田メディカルセンターを見学に来られた舛添要一大臣も「消費税を上げるというと選挙に落ちちゃう」と冗談めかして言っておられましたが,ここはひとつ,あらゆる政治家に国家百年の計に立って,「医療崩壊を避けるため,国民の真の幸せのため医療費を上げる」と勇気を持って宣言してもらいたいものです.先日の大臣との質疑応答の場で,私は舛添さんに「舛添さんが医療崩壊を避けるため,落選を怖れずに勇気を持って『消費税を上げ,医療費も上げる』とおっしゃれば総理大臣への道が開けますよ」と申し上げました.

米国での移植外科の現場から・4

生体肝移植およびsplit liver transplantationの実際

著者: 十川博

ページ範囲:P.389 - P.391

1 はじめに

 生体肝移植については,わが国が質および量においてトップを走っているのは間違いないであろう.しかしながら,肝移植の先進国である米国における生体肝移植医療のジレンマを知っておくのは,損ではないと考える.また,米国で日常的に行われているsplit liver transplantについても本稿にて触れる.

病院めぐり

公立松任石川中央病院外科

著者: 八木雅夫

ページ範囲:P.392 - P.392

 当院は白山市とその周辺の2町で構成される白山石川医療施設組合立の病院です.白山市は金沢市の南郊に位置し,南部は自然豊かな山々に囲まれ,日本三名山の1つに数えられる白山を有します.市域に沿うように手取川が流れ,北部は金沢市のベッドタウンとして人口が急増し,住宅都市化が進んでいます.

 当院の信条は「心身一如」(心も身体もまったく1つのものとして医療に努めよ)で,病床規模は19診療科,一般275床,精神30床です.病棟は3棟で,床面を三角形として各病棟が採光や風通しを十分に得られるように工夫されています.日本病院評価機構の認定を更新し,一般病床は7:1看護です.医師数は46名で,PACSを含む全面電子カルテシステムを導入しています.

沖縄協同病院外科

著者: 有銘一朗

ページ範囲:P.393 - P.393

 沖縄本島南部の豊見城(とみぐすく)市と県庁所在地の那覇市にまたがる干潟である漫湖(まんこ)はラムサール条約の登録湿地になっていますが,当院はそのほとりの豊見城市側に位置します.車で那覇空港より15分,国際通りから15分,沖縄自動車道那覇ICまで10分の距離と交通の便は良好で,その分,ほかの医療機関との競争を含め,患者様からの選別を受けやすい状況にあると思います.

 設立は1976年で,沖縄医療生活協同組合のセンター病院として病床数139床,沖縄県内初の24時間救急診療体制で開設されました.現在では病床数365床,診療科28科目,職員数700人,医師数100人(うち研修医20人),1日外来患者数680人となっています.母体の沖縄医療生活協同組合では当院を含め2病院,5診療所,1老人保健施設,7通所リハビリなどのネットワークが構築されています.最近では機能評価認定や臨床研修指定を経て,2009年には漫湖の対岸に新病院が完成することもあり,活気づいているところです.

外科学温故知新・33

副腎外科

著者: 今井常夫

ページ範囲:P.395 - P.402

1 はじめに

 副腎外科の対象となる疾患にはクッシング症候群や褐色細胞腫のようにダイナミックなホルモン変化を伴うものがある.全身状態の急性・慢性の変化に対応できる全身管理が必須であり,上腹部の深部に存在するため外科的な手術手技を含めて筆者が学生時代であった30年前にはまだまだ危険な疾患であった.その後の外科手技および全身管理の進歩とともに副腎外科は1889年の副腎摘出術の開始から1世紀を経て,術前・術後を通じて安全に行えるようになった.これは外科のみならず医学そのものの進歩のたまものである.

連載企画「外科学温故知新」によせて・17

心電図の発達史―動物電気から心電図へ

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.403 - P.408

1.動物電流を発見したLuigi Galvani

 1786年,イタリアボローニャ大学解剖学教授のGalvani(1737~1798年:図1)は,あるとき解剖したカエルの脚(カエルの下肢に脊柱の断端からむき出しになった座骨神経がつながった標本:図2)を用いて実験を行っていた(その後,この神経がつながったままのカエルの筋肉は微弱な生体電流を検出する検流器として使用されるようになった).まず,「偶然に」助手の1人の持ったメスがカエルの神経に触るとカエルの筋肉が収縮し,またもう1人の助手が摩擦起電機から電気火花を飛ばすと,これもまた「偶然に」カエルの筋肉が収縮した.当初,Galvaniはこの現象を合理的に説明できずにいたが,雷光によってもこのような反応が起こるのではないかと考えて,雷がありそうな日に実験を行おうと考えていた.そして,カエルの脚を真鍮製の鉤で鉄柵に吊るしていたところ,雷光がなくてもその下部が鉄柵の部分にふれただけでカエルの脚が収縮することを,また「偶然に」見出したのである.Galvaniは偶然に観察したこれらの事象から,「異なる種類の金属に接した場合にカエルの脚(筋肉)が収縮する」ということに思い至り,1791年に「筋肉運動における電気の作用に関する覚え書き」(De Viribus Electricitates in Motu Musculari Commentarius)を発表した.

 Galvaniは「動物の体内には電気が宿っている」と考え,さらに「この内部電気〔以後しばらくの間はガルヴァーニ電流(galvanic current)と呼ばれた〕によって筋肉の収縮が起きる」とした.これがGalvaniの唱えた動物電気(animal electricity)説である.その後,研究は同世代のイタリア人科学者アレッサンドロ・ヴォルタ(Alessandro Volta:1745~1827年:図3)に引き継がれるところとなり,1792年にVoltaにより生体電気説に換わって金属電気説が提唱されるに至った.つまり,Galvaniの発見したカエルの筋肉収縮は生体電気によるものではなく,「異なる金属が接触したときに生じる直流電気によるものである」ことが示された.異種金属の接触によって電気が流れることを確信したVoltaはその後も色々と改良を加えながら実験を重ねていき,1880年にいわゆる「ヴォルタの電堆」を作成することになるが,これが現在我々が使っている電池(battery)の原型となった.

臨床研究

肝細胞癌に対する肝移植における臨床試験の現状と方向性

著者: 海道利実 ,   上本伸二

ページ範囲:P.409 - P.412

はじめに

 肝移植は肝硬変をはじめとする非可逆性慢性肝不全や劇症肝炎などの急性肝不全,代謝性肝疾患など種々の良性肝疾患に対する究極的治療法として世界中で広く行われてきた.当初,肝細胞癌に対する肝移植は進行肝細胞癌に対して行われたため成績不良であったが,1996年にMazzaferroら1)によって提唱されたミラノ基準により,5cm以下・単発,あるいは3cm以下,3か所以下の症例に限定すれば良性肝疾患と同等の移植成績が得られることが報告されて以降,症例を選択すれば肝移植のよい適応であると考えられるようになった.しかし,肝細胞癌に対する肝移植症例数の増加に伴い,種々の課題や問題点が明らかになってきている.

 近年,あらゆる臨床領域においてevidence-based medicine(以下,EBM)の概念が導入され,なかでも最もエビデンスレベルが高いとされるランダム化比較試験はEBMの実践において重要な役割を果たしている.肝移植の分野においても例外ではなく,諸問題を解決するべく精力的に臨床試験が行われてきた2).肝細胞癌に対する肝移植に関する臨床試験の現状と方向性について文献的検討を行ったので報告する.

臨床報告・1

穿孔性腹膜炎で発症したCrohn病の1例

著者: 山田千寿 ,   滝口伸浩 ,   早田浩明 ,   永田松夫 ,   山本宏 ,   浅野武秀

ページ範囲:P.413 - P.416

はじめに

 Crohn病の合併症には狭窄,瘻孔形成,出血などがあるが,消化管穿孔は比較的稀である1~5).今回われわれは,穿孔による腹腔内膿瘍および汎発性腹膜炎で発症したCrohn病を経験したので,報告する.

膵腫瘍との鑑別を要した後腹膜原発炎症型悪性線維性組織球腫の1例

著者: 田中浩史 ,   山本譲司 ,   前田清貴

ページ範囲:P.417 - P.421

はじめに

 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histio-cytoma:以下,MFH)は四肢軟部組織に好発する予後不良の肉腫であり,後腹膜原発はMFH全体の10%程度である1)

 今回,われわれは膵尾部への浸潤を示した後腹膜原発の炎症型悪性線維性組織球腫の1例を経験したので報告する.

甲状腺機能亢進症の治療中に発症した左房粘液腫の1手術例

著者: 佐伯宗弘 ,   浦田康久 ,   浜崎尚文 ,   石黒清介 ,   西村元延

ページ範囲:P.423 - P.425

はじめに

 甲状腺機能亢進症を有する患者の周術期管理では,甲状腺クリーゼの発症が危惧されるため厳重な注意が必要である1~3).今回,甲状腺機能亢進症を併存する左房内腫瘍患者に対し,凖緊急的に左房内腫瘍摘出術を施行した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

鼠径ヘルニア術後の神経因性疼痛に鎮痛補助薬が有効であると考えられた1例

著者: 成田匡大 ,   山本俊二 ,   岡本正吾 ,   坂野茂 ,   山本正之

ページ範囲:P.427 - P.429

はじめに

 近年,メッシュを用いたヘルニア修復術は鼠径ヘルニア手術の標準術式となっている1).一般に,メッシュを用いたヘルニア修復術の術後創部痛は非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)が有効であり,通常1~2週間で軽快する.しかし,術後ある程度の期間を経ても疼痛が治まらない,鼠径部のいわゆる慢性疼痛をきたす症例が報告されている.

 今回,われわれは鎮痛補助薬が有効であった鼠径ヘルニア術後神経因性慢性疼痛の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

アメーバ感染を伴ったS状結腸癌の1例

著者: 小濱圭祐 ,   池永雅一 ,   安井昌義 ,   宮﨑道彦 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.431 - P.436

はじめに

 赤痢アメーバ性大腸炎は一般的に全身状態の悪化を伴わず,臨床的に軽症であることが多い1).画像診断上も炎症性腸疾患や大腸癌との鑑別が困難な場合も存在し2),早期の診断と治療方針の決定が必要である.

 今回,われわれは進行大腸癌に合併したアメーバ性大腸炎の1例を経験したので報告する.

術後24年目に前縦隔転移再発をきたした乳癌の1例

著者: 村田透 ,   寺崎正起 ,   坂口憲史 ,   大久保雅之 ,   深見保之 ,   西前香寿

ページ範囲:P.437 - P.442

はじめに

 乳癌の再発は手術例の約20~25%にみられ1,2),そのうち術後5年間に約90%が発症するとされている3).しかし,術後20年以上を経てからでも再発する症例の報告もみられる.今回,われわれは乳癌術後24年目に前縦隔転移をきたした症例を経験したので報告する.

開腹術によって病悩期間が短縮できた,Yersinia感染症に合致する腸間膜リンパ節炎の1例

著者: 遠藤秀彦 ,   松田望 ,   遠野千尋 ,   佐藤一 ,   中村眞一

ページ範囲:P.443 - P.446

はじめに

 Yersiniaはグラム陰性桿菌で腸内細菌科に属しており,Yersinia感染症はY. pseudo-tuberculosisY. enterocoliticaの2種類によるものに分類されている.小児急性胃腸炎におけるYersinia感染症の割合は10%以下とされており1,2).多くの症例は軽症で経過するが,ときに腸重積症や血管炎症状などの重篤な症状を呈する場合があるので注意を要する1,3~5).また,急性虫垂炎との鑑別にも苦慮することがある6~9)

 今回,われわれは開腹術により良好な経過を得られた,Yersinia感染症が示唆された腸間膜リンパ節炎の1例を経験したので報告する.

外科医局の午後・42

外科医と家庭生活

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.335 - P.335

 今までの話は病院での話題が中心であったが,ここらあたりで家庭生活について少し振り返ってみよう.

 外科医の毎日の生活は患者中心である.特に術後患者を受け持つ機会が多い若いときや,自分が主に手術を執刀する壮年期は特にそうである.振り返ってみると,私も結婚当時は大学での実験生活が中心であったため患者にかまいきりになることはほとんどなかったが,地方でのおつとめ勤務が終了して都会に戻り,手術を執刀し出すと,それこそ術後患者のことばかり考えていた.1年中,手術を執刀しているから,1年中,術後患者がいた.

昨日の患者

父親と娘

著者: 中川国利

ページ範囲:P.352 - P.352

 手術室の看護師さんであるEさんから相談を持ちかけられた.聞くと,父親が10日前から近くの病院に急性胆囊炎で入院しているとのことであった.腹痛や発熱があり,絶食が続いており,大変心配である.父親に付き添いたいが,仕事があり満足に付き添うこともできないため,当院に転院させたい.しかし,熱心に治療してくれている担当医に遠慮して,転院を切り出せなくて悩んでいるとのことであった.

 たまたまその病院の副院長が私の同級生であったため,彼に事情を話した.彼は快諾し,主治医に転院についての話をしてくれるとともに,Eさんのお父さんを見舞ってもくれた.早速,転院手続きがなされ,転院当日に緊急手術を行った.手術室には看護師であるEさんが付き添い,本来の業務である点滴ラインの確保,挿管の助手,導尿を行った.さらに手術での器械出しを希望し,手を洗い手術衣を着服した.手術は炎症のため苦労はしたが,Eさんは取り乱すこともなくそつなく業務をこなした.そして,手術終了後は病室で娘としての介護に勤しんだ.

コーヒーブレイク

規矩不可行尽

著者: 板野聡

ページ範囲:P.382 - P.382

 規矩不可行尽(キクヲオコナイツクスベカラズ):規矩とは手本や規律の意味.宋代の僧,仏鑑慧懃(えごん)が寺の住職になる際に,師の法演が与えた四戒の第三の戒め.

 不肖の身ながら,2007年4月に院長職を拝命しました.なってみてはじめて,単に「副」が取れただけではないことに気づかされ,以前に岡崎誠先生が「外科医局の午後」に書かれていた文章を読み直しています(第62巻6号参照).

ひとやすみ・31

手術と音楽

著者: 中川国利

ページ範囲:P.416 - P.416

 音楽には色々な働きがある.特に心を和らげる効果があるため,医療の世界にも音楽が取り入れられつつある.

 私が勤める病院では麻酔導入時に音楽を流し,患者さんの不安を和らげている.用いる曲は,クラシック,演歌,童謡,民謡など種々あり,高校野球などのラジオ放送をも流している.さらにはカラオケで吹き込んだ自慢のオリジナルテープを持ち込んだり,母国の歌謡曲のカセットを持参した留学生もいた.これらの選曲は,手術室看護師の術前訪問時に,患者さんの希望を聞いて決定している.

書評

松村真司,箕輪良行(編)「コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度の向上と効果的な診療のために」

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.422 - P.422

 今回,医学書院から『コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度と効果的な診療のために』が発刊されることとなった.編集者の松村真司,箕輪良行の両氏をはじめ,本書の執筆に当たられた方々は,従来からコミュニケーションスキル・患者満足度訓練(CST)コースを開発し,かつ具体的に実施されてこられた方々であり,現在CSTコースを定期的に開催しておられる.本書はこれらの人たちによってCSTコースのテキストとして利用することを想定して編集されたものであり,その内容は「コミュニケーションスキルと患者満足度」,「患者に選ばれるために必要なコミュニケーションスキルとは」,「コミュニケーションスキルの実際」,「コミュニケーションスキル・トレーニングの実際」,の4章から成り立っており,医師が患者と良好なコミュニケーションを持つのに必要なさまざまな調査のデータ,具体的な表現法,ノウハウ等が詳細に示されている.また,模擬患者のシナリオ,CSTの実際について例示されているのも本書の特徴の1つである.

 私が現在勤務している自治医科大学にはUCLAで長年教鞭をとられ,2007年4月から常勤の教授として学生の教育に当たっておられるアメリカ人の方,米国の病院で8年以上働いたのち,本学に来られた准教授の方などがおられるが,これらの教員が異口同音に言われることは,日本の医学教育のなかで最も欠けているのはコミュニケーションの技術と理学的所見を正確にとる技術の2つであるということである.特に前者のコミュニケーション技術に関しては,欧米では小学生の時代から訓練を受けているとのことであり,コミュニケーションに関する教育を大学入学前に受けたことがないわが国の医学生や臨床研修医が,目前の患者とのコミュニケーションを保つのに苦労するのは当然の結果とも言えるであろう.しかしコミュニケーションの能力が医師にとって最も重要な能力の1つであることは疑いの余地がない.患者からの不満の中でいちばん多いのは,医師が十分に言うことをよく聞いてくれないということである.この様な不満が出るのは医師が忙し過ぎるだけでなく,本来持っているべき患者とのコミュニケーションの技術を医師が身に付けていないことも関係していると考えられる.

--------------------

あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.452 - P.452

 私が新潟大学医歯学総合病院長を拝命して3か月半後の2007年7月16日に中越沖地震が発生し,新潟県の柏崎市を中心に大きな被害を受けました.今回は原子力発電所に近い震源地であり,その原子力発電所にも被害がありました.地震の被害に放射能漏れによる放射線障害が加わったならば,さらに大きな被害が発生しただろうと推測されますが,重大な放射能漏れはなかったようで,不幸中の幸いと言えるかもしれません.

 新潟県にとっては前の地震(中越地震:2004年10月23日発生)から3年も経たないうちでの大きな地震でありました.地震発生の約2か月半後の10月5日には新潟大学主催の中越沖地震報告会があり,私は病院長の立場から医療支援活動の報告をしましたが,そのときの地震の専門家(理学部)の報告によりますと,日本海東縁では1964年(新潟地震の年)から2007年の間に11回もの大きな地震が発生していたとのことでした.これはおよそ4年に1回という頻度になります.このデータからみても「地震大国・日本」のなかでも「地震県・新潟」と言えそうです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?