臨床外科63巻3号

2008年03月発行

臨床報告・1

開腹術によって病悩期間が短縮できた，Yersinia感染症に合致する腸間膜リンパ節炎の1例

著者： 遠藤秀彦¹ 松田望¹ 遠野千尋¹ 佐藤一¹ 中村眞一²

所属機関： ¹岩手県立千厩病院外科 ²岩手医科大学中央臨床検査部臨床病理部門

ページ範囲：P.443 - P.446

はじめに

　Yersiniaはグラム陰性桿菌で腸内細菌科に属しており，Yersinia感染症はY. pseudo-tuberculosisとY. enterocoliticaの2種類によるものに分類されている．小児急性胃腸炎におけるYersinia感染症の割合は10％以下とされており^1,2）．多くの症例は軽症で経過するが，ときに腸重積症や血管炎症状などの重篤な症状を呈する場合があるので注意を要する^1,3～5）．また，急性虫垂炎との鑑別にも苦慮することがある^6～9）．

　今回，われわれは開腹術により良好な経過を得られた，Yersinia感染症が示唆された腸間膜リンパ節炎の1例を経験したので報告する．

参考文献

1）松下竹次，山口正司：腸重積とYersinia enterocolitica感染．小児科 22：709-715，1981

2）松澤幸恵，細田和孝，五十嵐宏三，他：当院におけるエルシニア腸炎の変遷．鶴岡荘内病医誌 12：43-47，2001

3）大坪庸子，佐藤幸一郎，笠　則義：腸重積を合併したYersinia pseudotuberculosis感染症の2例．小児科臨 36：209-212，1983

4）梶　俊策，三浦真澄，杉本守治，他：超音波検査を機に虫垂炎を否定できたpseudotuberculosisによる回腸末端炎および腸間膜リンパ節炎の一例．津山中病医誌 14：117-122，2002

5）大畠雅之，黒崎伸子，芦塚修一，他：急性虫垂炎の診断で開腹されたYersinia pseudotuberculosis感染症の1例．小児外科 26：101-104，1994

6）Seigel MJ：Pediatric Sonography. 2nd ed. New York, Raven Press, 1995, pp282-283

7）野坂俊介，早川美奈子，宮崎　治，他：小児右下腹部痛に対する超音波診断―虫垂炎以外と診断し緊急手術を回避ができた症例を中心に．日腹部救急医会誌 16：493-500，1996

8）中田雅弘，中田幸之介，藤岡照裕，他：腸間膜リンパ節炎の画像診断．小児外科 27：97-101，1995

9）内田正志，立石　浩，藤田京子，他：急性虫垂炎のエコー診断はなぜ難しいのか？―90例の手術例の検討から．日小児救急医会誌 1：83，2002

10）Olinde AJ, Lucas JF, Miller RC：Acute yersiniosis and its surgical significance. South Med J 77：1539-1540, 1984

11）内田正志：腸間膜リンパ節炎と急性腸炎．小児診療 63：111-116，2000

12）宮本康二，山本哲也，清水幸雄，他：Yersinia腸炎により腫大した腸間膜リンパ節炎を先進部とした腸重積症の1例．臨外 52：413-416，1997

13）Jelloul L, Fremond B, Dyon JF, et al：Mesentic adenitis caused by Yersinia pseudotuberculosis presentig as an abdominal mass. Eur J Pediatr Surg 7：180-183, 1997

14）笠　真一，秋場伴晴，池田博行，他：腸重積症とエルシニア感染症の合併を繰り返した1小児例．山形済生館医誌 29：79-82，2004

15）十河　剛，藤澤知雄，乾あやの，他：Yersinia enterocoliticaによる腸間膜リンパ節炎の腹部画像所見．日小児放線会誌 21：59-61，2005

16）武田修明，吉村真一郎，木元康生，他：エルシニア感染症における回盲部病変と腸重積症．小児科 42：1779-1783，2001

17）飯島宗一：組織病理アトラス．文光堂，1982，pp92，pp436

18）吉川朱実，瀬戸泰之，林　香織，他：Yersinia enterocoliticaによる腸間膜リンパ節膿瘍の2例．日消外会誌 36：1311-1315，2003