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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻5号

2008年05月発行

雑誌目次

特集 胆道癌外科診療を支えるエキスパートテクニック

体外式超音波のコツ

著者: 山口高史 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   森秀明 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.595 - P.600

要旨:「エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン」では,体外式超音波の位置づけを診断のファーストステップになり得るとしている.胆道癌を疑った場合は,画像診断として最初に腹部超音波検査を行うとされているが,スクリーニング検査としての有効性は確立されていない.外科領域における三次元的進展度を正確に捉えることにおいては,multidetecter-row CT(MD-CT)などのテクノロジーの進歩が著しいが,一般にはいまだ普及していない.しかし,体外式超音波での性状診断や深達度診断において様々な手法が開発されてきており,有用性も報告されている.本稿では日常診療において体外式超音波を有効に用いるために,それらの手法や疾患における特徴を述べた.

超音波内視鏡(EUS)診断のコツ

著者: 安野慶 ,   須山正文

ページ範囲:P.601 - P.606

要旨:EUSは体外式超音波検査の拾い上げ診断として有用である.しかし,EUSでは内視鏡の扱いに習熟することと,超音波画像を詳細に検討することを要求される.そこで,本稿では,胆道癌の診断に至るべく,EUS検査時のコツおよび注意点を中心に述べる.検査時の内視鏡操作やわずかなアングルで描出される画像は大きく変わる.病変描出を正確に行うことで深達度などの診断へ至ることが可能となる.また,乳頭部癌においては,普段から乳頭部の描出を心がけることが大切である.

経皮経肝胆道内視鏡診断のコツ

著者: 三好広尚 ,   乾和郎 ,   芳野純治 ,   若林貴夫 ,   奥嶋一武 ,   小林隆 ,   中村雄太 ,   渡邉真也 ,   内藤岳人 ,   中井喜貴 ,   塩田國人

ページ範囲:P.607 - P.612

要旨:経皮経肝胆道内視鏡検査は経皮経肝胆道ドレナージ瘻孔を介して肝内胆管内からファイバースコープを挿入し,内視鏡診断および生検,内視鏡治療を行う検査法で,胆管狭窄の鑑別診断や胆管癌の粘膜表層進展の診断に有用である.悪性胆管狭窄の内視鏡所見は発赤所見,結節状・乳頭状隆起の増殖所見,新生血管(蛇行および広狭不整)である.胆管癌の粘膜表層進展の内視鏡所見は主病巣から連続性に広がる顆粒状粘膜,乳頭状粘膜,退色調粘膜であり,これらの所見に留意して直視下生検を行い,正確に診断する必要がある.しかしながら,直視下生検でもfalse negativeが認められる場合があるため,さらに胆造影像やMD-CT,管腔内超音波検査も加味して総合的に診断する必要がある.

経口胆道内視鏡診断のコツ

著者: 露口利夫 ,   杉山晴俊 ,   宮川薫 ,   太和田勝之 ,   松山眞人 ,   石原武 ,   横須賀收

ページ範囲:P.613 - P.618

要旨:経口胆道鏡はビデオスコープ化されてから従来のファイバースコープとは比較にならない高解像度の画像が得られるようになった.経皮経肝胆道鏡と比べると瘻孔作成の必要がなく安全かつ短期間に検査を行えるなど,その非侵襲性が大きな利点として挙げられる.経口胆道鏡による胆管内腔観察は胆道疾患の良悪性・進展度診断,肝移植後の胆管病変診断などに用いられ,臨床的有用性が支持されている.しかし,経口胆道鏡は今なお一般的な検査法には成り得ていない.スコープの脆弱性や鉗子口が狭いことがその理由であり,今後の普及には胆道鏡の耐久性と処置能力の向上が必須と考えられる.

MDCTによる胆管癌術前診断のコツ―減黄前MDCTの重要性

著者: 上坂克彦 ,   前田敦行 ,   松永和哉 ,   金本秀行 ,   岡村行泰 ,   石井博道 ,   栃久保順平 ,   古川敬芳 ,   坂東悦郎 ,   齋藤修治

ページ範囲:P.619 - P.624

要旨:胆管癌の術前診断には従来多くの診断方法が用いられ,たいへん複雑であった.MDCTの出現によって良質な断層画像とCT angiograpgyが容易に得られるようになり,胆管癌の術前診断・管理体系が変わろうとしている.MDCTによって胆管癌の進展度診断を行うには,減黄処置の前にMDCTを撮影することが重要である.水平方向の進展度診断は「造影効果を有する胆管壁の肥厚像」と「壁肥厚部分とその上流の胆管内腔径の変化」を診断基準として,横断像と冠状断像で丁寧に読影する.垂直方向の進展度および主要脈管の立体解剖も基本的には横断像で把握できる.減黄前MDCTを用いた術前進展度診断は胆管癌手術における高い根治切除率に結びつく.

胆道癌におけるMRI診断のコツ

著者: 糸井隆夫 ,   山岸哲也 ,   祖父尼淳 ,   糸川文英 ,   栗原俊夫 ,   土屋貴愛 ,   石井健太郎 ,   辻修二郎 ,   池内信人 ,   劉廣健 ,   森安史典

ページ範囲:P.625 - P.631

要旨:近年のMRIの進歩は著しく,その低侵襲性と優れた濃度分解能,さらには再現性や優れた客観性によって必須の断層画像検査の1つとなっている.従来の蛇腹式の計測器を用いた体外センサーに代わり,横隔膜の位置情報をナビゲータ・エコーを用いて直接検知するPACE(prospective acquisition correction)呼吸同期法による高分解3D-MRCPはMRCPの役割をさらに拡げるものとなるであろう.また,肝臓を中心に行われているSPIO造影MRIや拡散強調像による腫瘤の存在および質的診断も胆道癌領域において有用であり,今後の可能性が多いに期待される.

PTBD挿入留置のコツ

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   野沢聡志 ,   吉富秀幸 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.633 - P.640

要旨:PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage)は閉塞性黄疸症例に対する減黄処置とともに,胆道疾患において診断と治療に有用な手技の1つである.施行前にMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)やMDCT(multidetector CT)を行い,閉塞の原因や部位を同定して適切な胆道ドレナージを行うことが必要となる.近年,PTBDは器具の進歩や手技の標準化などによって合併症も少なくなってきているものの,いまだに致死的な合併症も起こり得るため,細心の注意が必要である.胆道疾患に対する理解を深めるとともに,胆管を含めた肝臓の解剖や生理を十分に理解したうえで,適切で確実な手技を習得することが重要である.さらに,PTBDの手技における「コツ」を理解し,合併症の早期発見および合併症率の低下に努める必要がある.

胆管造影診断のコツ

著者: 江畑智希 ,   西尾秀樹 ,   伊神剛 ,   横山幸浩 ,   安部哲也 ,   上原圭介 ,   梛野正人

ページ範囲:P.641 - P.647

要旨:胆管造影は胆管内腔の充盈像である.その本質は,ある程度の圧で注入することで胆管壁の線維化の差を胆管拡張の差として(段階的に)描出する動的な点にある.さらに,腫瘍表面と胆管内腔面の性状を空間分解能が高く描出し得る検査でもある.胆管像の読影には胆管の解剖,撮影技術,腫瘍の所見の3点の理解が必要である.肝内胆管の合流様式には変異が多く認められるので,これらの知識を十分に蓄える.そして,肝内胆管の立体構造を理解しながら腫瘍進展の範囲について,その肉眼型とともに胆管予定切離線を美麗に写真撮影する必要がある.腫瘍の所見は肉眼型に基づき浸潤型と限局型に分けて解析すると実用的である.

肝門部胆管癌に対する拡大肝葉切除時の術前門脈枝塞栓術の適応と手技

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.649 - P.654

要旨:肝門部胆管癌の根治的治療には,その解剖学的特徴から尾状葉を含む肝葉切除が必須である.このため,通常は浸潤の優位な胆管のある肝葉に対する拡大肝葉切除が選択される.近年,肝切除は安全に施行されるようになり,術後死亡率も低下しているが,拡大肝葉切除後の残肝容積は術後肝不全の発生と密接な関係があるとされる.術前門脈枝塞栓術を肝切除前に施行することによって非塞栓葉は代償性に肥大し,術後肝不全が回避される.最近の報告では,切除例における拡大肝葉切除の割合が増加し,治癒切除率の向上にも寄与している.門脈枝塞栓術に伴う合併症は少なく,安全な手技であるため,拡大肝葉切除の術前処置としてきわめて有用である.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・13

末梢血単核球細胞移植と動脈再建のハイブリッド治療

著者: 石田厚 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.585 - P.593

はじめに

 動脈再建(distal bypass)は,すでに確立した手術手技と言ってよいが,一方,末梢血単核球細胞移植は2002年に重症下肢虚血患者に対する血管再生治療の成績がわが国から世界ではじめて報告され(TACT試験)1),新しい概念に基づいた,新しい治療である.したがって,その双方を用いたハイブリッド治療は新しい治療法と思われる.

米国での移植外科の現場から・5

小腸移植および多臓器移植の実際

著者: 十川博

ページ範囲:P.655 - P.657

1 はじめに

 前回までは主に肝移植についての米国の現状をレポートしてきた.今回は,米国でも限定した施設でしか行われていない小腸移植および多臓器移植についての現状を報告する.

 小腸移植はmedicare(メディケア:米国での高齢者に対する公的保険)でも認められている医療である.しかしながら,これが確立された移植であるというにはいささか違和感が感じられる.それは,移植臓器の生着率をほかの臓器と比較すればわかりやすい.肝移植では,移植患者の5年生存率は約75%である.臓器の生着率もそれに近いものがあろう.しかしながら,小腸移植の3年生存率(5年ではない)は約50%である.さらに,このような患者がどのようなクオリティの生活を行っているのかは表に出てこない.拒絶反応で治療中であるとか,PTLD(post-transplant lymphoproliferative disease)で治療中であることなどは数字の上には出てこない.

 さて,小腸移植は確立された移植なのだろうか.これらに対する答えは,数字上はThe Intestinal Transplant Registryに詳しい1).このレジストリは1994年の国際小腸移植シンポジウムからスタートしていて,全世界での小腸移植のデータが蓄積されている.今回は,小腸移植を実際に行ううえでの実感というものをこれに加えてレポートしていく.

病院めぐり

徳島県立海部病院外科

著者: 大田憲一

ページ範囲:P.658 - P.658

 当院の診療圏は徳島県海部郡の3町および高知県東洋町にまたがる地域である.人口は約2万5千人で,救急患者の大半が当院へ搬送されてくる.病床数は110床で,常勤医は内科4,外科3,整形外科2,脳外科1の計10名である.耳鼻科,産婦人科,小児科,泌尿器科,皮膚科はパートで診療を行っている.最近,徳島大学に地域医療研究センターが発足し,その実践施設として内科医1名が配属された.これは久々の朗報であった.

 最近は常勤医の確保が一層厳しくなっている.2004年に開始された初期臨床研修制度の影響がストレートにわれわれ僻地・地方の小規模病院を直撃したからである.県内で一番大きな影響を受けたのが当院であった.「さあ報道の機会到来!」と,ここ1~2年はマスコミ各社が大挙して来院し,取材合戦となった.「海部病院から医師が大量退職」,「危ぶまれる救急医療の存続」とセンセーショナルにたびたび報じられた.現に当院は「勤務医の地域偏在」のダメージをダイレクトに受けた代表的な病院である.2005年には17から11と6名減となり,とりわけ内科医は一気に4名減の2名となった.それも中堅の一斉退職であった.

阿南医師会中央病院外科

著者: 田中隆

ページ範囲:P.659 - P.659

 徳島県と言えば阿波踊りを思い浮かべますが,実は地理的には水量の豊富な河川が多いことでも知られています.特に,日本三大暴れ川の1つとして「四国三郎」の異名を持つ吉野川が県の中央をどうどうと流れ,また県の南部には清流四国一とも言われる那賀川が美しく流れています.阿南市はこの美しい那賀川の河口域にあり,四国で最も東に位置する市です.周辺には竹林が多く,タケノコの生産は全国一を誇っています.

 当院はその名のとおり阿南市医師会が運営している病院です.医師会員の先生方の声を反映しながら運営されてきましたから,今で言う病診連携は開院当時からすでに十分機能していたわけです.この医師会病院という特徴を活かして2001年には地域医療支援病院の認定を取得しました.また,病院の質の向上に努めて2004年には日本医療機能評価機構の認定を取得しています.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・2

RFA後に発生した結腸穿孔の事例

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.661 - P.664

 ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:以下,RFA)は肝細胞癌の治療方法として近年急速に広まっている治療方法であり,その有効性が証明されています.その一方で出血,他臓器損傷,感染など治療に伴う合併症の報告も増加し,深刻な結果も報告されつつあります.新しく効果的な治療方法は普及に伴いさまざまなトラブルが発生することがありますが,その対策や対処方法を繰り返し検証しながら発展,定着していくことが多いようです.

 そのような状況を踏まえて,今回はRFA後に横行結腸に穿孔が生じ,診断と治療が後手に回ってしまった事例について近年の判例と合わせて紹介します.

元外科医,スーダン奮闘記・25

ダルフール(2)

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.665 - P.668

ダルフール問題の概要

 ダルフール問題に関して概略を説明しておく.もともと,この地区はフール族の地を指してダルフールと名付けられており,フール王国であった.欧州の植民地化政策によってスーダン全土が英国の植民地になった際に,このフール王国も英国により滅亡させられた.そして,英国によるスーダンの植民地化が始まった.19世紀の終わりにスーダンは救世主マフディの出現によって英国の追い出しに成功する.しかし,その直後にマフディは死去した.死の直前にマフディはダルフール出身者を彼の後継者として指名するが,彼の死後,マフディの遺族とその後継者とで内紛を演じた.そして,再びやってきた英国軍にマフディ軍は滅ぼされてしまう.英国軍はその戦闘の際に南部人を用い,北部のマフディ軍と対立させている.そして,英国統治時代に南北の分断を行い,そのことが,その後に続く南北内戦の原因となる.

 一般に20年以上続く南北内戦と言われるが,その歴史はもっと古いことがわかる.その内戦も21世紀に入って和平交渉が続き,2005年1月に包括的和平合意が締結された.しかし,これを面白く思わない連中もおり,2003年からダルフール問題が激化したのであった.

外科学温故知新・34

乳腺外科

著者: 綿谷正弘

ページ範囲:P.669 - P.677

1 はじめに

 罹患数と死亡数の増加から,今や乳癌は社会的関心事となって,2007年4月に施行された「がん対策基本法」のなかで乳癌対策が重要事項として取り上げられた.過去には乳癌治療の主体は手術にあり,外科医が中心になされてきた.しかし現在では,外科医だけでなく,腫瘍内科医,放射線科医,形成外科医,病理医など様々な領域の医師および臨床検査・放射線技師,看護師,薬剤師からなる多職種医療チームで,情報を共有しながら乳癌治療がなされるようになってきている.

 本稿では乳癌外科治療の変遷をたどりながら,現在行われているエビデンスに基づいた標準的治療のなかで個々の患者に適した個別化治療について述べ,そして乳癌治療の今後の展望について触れてみたい.

境界領域

NPO医局 ザ・ファーストの設立と運営,その目指すところ

著者: 松岡順治 ,   猶本良夫 ,   田中紀章

ページ範囲:P.679 - P.687

はじめに

 2004年から卒後臨床研修が必修化された.これにより,大部分の卒業生が医局に入り,その後関連病院に派遣されるという従来の研修の図式が大きく変化することになった.研修医と病院のマッチングで研修先が決まることになり,大都市の大病院に人気が集中し,多くの地方病院は研修医が集まらない.研修医の集まる病院と集まらない病院の差がきわめて大きくなってきた.卒後臨床研修が終了した際も,労働条件の劣る大学病院に帰還する研修医,すなわち入局する医師は従来に比して減少したことが報道されている.このため,大学病院は労働力不足となり,今まで関連病院に派遣していた医師を大学病院の医局に戻すことで対応し,このため地方の中小病院はさらなる医師不足となっている.

 一方,研修医は情報を集めて後期研修の病院を選ぶことになるが,その際に病院選択に関する情報が少ないことが指摘されている.病院により情報発信力に差があり,これがさらなる病院格差を生む原因となっている.医局という組織が否定されたことにより,研修医はすべて自分で決定することを求められるようになったわけである.しかしながら,医局制度の弊害を正そうとして切り捨てられた医局にあるべき調整機能,すなわち「研修医の希望,研修実績を客観的・総合的に評価し,理想的な研修を支援する」という機能,および地域医療に対する調整機能は何らかの組織によって担われなければならないと考えられる.

臨床研究

頸部刺創による気管損傷―当院における緊急気道確保と緊急手術に関する検討

著者: 森脇義弘 ,   山本俊郎 ,   豊田洋 ,   小菅宇之 ,   鈴木範行 ,   杉山貢

ページ範囲:P.689 - P.693

はじめに

 頸部の鋭的切刺創は自損や他害行為によって生じる,日常的に経験される外傷形態である.自損行為の増加に伴って,前腕切創と並んで診療機会も増加しているが,そのほとんどが前頸筋や胸鎖乳突筋の損傷にとどまり,頸部大血管や喉頭,気管,食道などの臓器損傷,致命的損傷は稀である.喉頭・頸部気管損傷は開放性気道損傷で,呼吸不能や血液の気管内垂れ込みから気道緊急に陥ることも多い.この場合,気道確保が緊急となるが,院外や初期治療室(emergency department:以下,ED)など悪条件下での緊急気管挿管の危険性や困難性もよく知られている1,2).損傷という既存病変のある気管挿管では危険性はさらに増加する.

 今回,自験の頸部鋭的気管損傷症例の気道確保法を含めた診療法について検討し,2,3の知見を得たので報告する.

臨床報告

胃癌術後大腸転移の1例

著者: 小野田敏尚 ,   槙野好成 ,   橘球 ,   中島裕一 ,   山口恵実 ,   内田正昭

ページ範囲:P.695 - P.699

はじめに

 他臓器を原発巣として発生した悪性腫瘍が大腸に転移した,いわゆる転移性大腸癌は稀であり,その頻度は大腸癌全体の0.1~1%と報告されている1)

 われわれは,胃癌術後1年8か月で横行結腸に孤立性転移をきたした症例を経験した.本稿では,わが国で報告された胃癌大腸転移症例の特徴をまとめ,若干の文献的考察を加えて報告する.

経肛門的針生検による免疫組織学検索によって術前に診断した直腸GISTの1例

著者: 蓮田慶太郎 ,   蓮田晶一

ページ範囲:P.701 - P.705

はじめに

 Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)は消化管間葉系腫瘍に近年導入された概念であり,直腸原発のGISTは比較的稀である1).今回,われわれは術前に針生検による免疫組織学的検索によって直腸GISTと診断した1例を経験したので報告する.

下血によって発症し,血管腫を併存した空腸GISTの1例

著者: 多田耕輔 ,   兼清信介 ,   北原正博 ,   久保秀文 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.707 - P.710

はじめに

 小腸出血は全消化管出血の2~5%の頻度と低く1),原因診断に難渋することが多い.今回,われわれは,下血で発症した空腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)に血管腫を併存した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

術前診断において悪性を否定できなかった巨大肝囊胞内出血の1例

著者: 御供真吾 ,   肥田圭介 ,   細井義行 ,   畠山元 ,   杉村好彦 ,   若林剛

ページ範囲:P.711 - P.716

はじめに

 囊胞内出血をきたした肝囊胞の画像診断は多彩な像を呈し,診断が困難である1,2).また,良性疾患である肝囊胞において血中CA19-9が高値を示す症例は比較的稀であり,悪性との鑑別を要する場合がある3~5)

 今回,われわれは血中CA19-9高値を示し,画像上,肝囊胞腺癌や腺腫を否定できず肝切除術を施行した巨大肝囊胞内出血の1例を経験したので報告する.

胸郭出口症侯群を併存した鎖骨下動脈閉塞症にステント留置を施行した1例

著者: 雑賀太郎 ,   森田一郎 ,   木下真一郎 ,   光野正人

ページ範囲:P.717 - P.720

はじめに

 鎖骨下動脈閉塞症の血管内治療は1980年にBachmanら1)によってはじめてpercutaneous transluminal angiography(以下,PTA)が施行されて以来,数多くの症例が報告されている.PTA後の再狭窄に対しては近年ステント留置術が施行されるようになり,治療成績が向上した.

 今回,われわれは鎖骨下動脈閉塞症によって引き起こされた鎖骨下動脈盗血症侯群と,胸郭出口症候群の両方の病態を有する稀な症例を経験したので報告する.

腹腔鏡下に摘出し得た後腹膜神経鞘腫の1例

著者: 安田貴志 ,   川崎健太郎 ,   山本将士 ,   神垣隆 ,   黒田大介 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.721 - P.725

はじめに

 神経鞘腫は末梢神経のSchwann細胞から発生する境界明瞭で被膜を持つ孤立性腫瘍であり1),頭頸部や四肢に好発し,後腹膜から発生するのは0.7~1.7%と比較的稀である2)

 今回,われわれは腹腔鏡下に摘出し得た後腹膜神経鞘腫の1例を経験したので報告する.

脱分化型後腹膜脂肪肉腫の1例

著者: 勝田絵里子 ,   関屋亮 ,   内野広文 ,   帖佐英一 ,   河野文彰 ,   鬼塚敏男

ページ範囲:P.727 - P.731

はじめに

 後腹膜悪性腫瘍のうち脂肪肉腫の頻度は10~20%とされるが1~5),脱分化型後腹膜脂肪肉腫はその約5%以下であり1),比較的稀な疾患とされている.また,その予後は不良である.

 本稿では,われわれの経験した脱分化型後腹膜脂肪肉腫の1例を報告し,わが国における報告例を集計し検討した.

胃壁に刺入した爪楊枝を内視鏡で摘出し得た1例

著者: 板野聡 ,   寺田紀彦 ,   堀木貞幸 ,   遠藤彰 ,   浦上正弘 ,   池田祐貴子

ページ範囲:P.733 - P.735

はじめに

 消化管内異物については様々な異物の報告がみられるが1),今回,われわれは胃幽門部小彎に刺入した爪楊枝を内視鏡的に摘出し,良好に経過した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

魚骨穿通による腹壁膿瘍に対して腹腔鏡補助下異物除去術を施行した1例

著者: 熊野公束 ,   佐藤功 ,   水谷真 ,   松田高幸 ,   高尾信行 ,   藤村昌樹

ページ範囲:P.737 - P.740

はじめに

 誤飲された魚骨の多くは自然に排泄され,消化管穿孔などの合併症を起こす頻度は1%以下とされている1).しかし,有症状化すると消化管穿孔や腹腔内膿瘍をきたし,多くは外科的治療を必要とする.

 今回,われわれは誤飲された魚骨が小腸間膜に穿通して腹壁膿瘍をきたした症例に対し腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.

ひとやすみ・33

人生は出会い

著者: 中川国利

ページ範囲:P.668 - P.668

 長い人生においては,数多くの人と出会う.そして,出会った人達の影響を受け,自己の人生を切り開いて行く.私自身の人生においても多くの出会いがあり,その出会いによって今の自分が存在する.

 ある研究会の懇親会で,市内の中堅外科医から話しかけられた.彼が中学生のとき,父親が胃癌で胃全摘術を受けた.術後に縫合不全が生じ,さらに吻合部狭窄が生じた.半年ほど経口摂取が満足にできず,体重も激減した.そのときに大学から若い先生が来て,内視鏡で狭窄部の切開拡張術をしてくれた.その直後から,経口摂取が可能となり,父親は職場復帰ができた.主治医が大変苦労し,再手術さえ覚悟していたのに,短時間で簡単に症状を治してしまう医療技術に大変驚愕したこと,そして,それが動機となって,医師となり病気に悩んでいる患者さんを治してあげたいと思ったこと,そして今は外科医として診療に従事していることを話してくれた.

コーヒーブレイク

外科医とQOL

著者: 板野聡

ページ範囲:P.688 - P.688

 いくつかの病院での外科研修ののち,外科を辞めて,いわゆるマイナーの科に移った先生がおられます.何人かの先生の話では,彼の適性から,その先生にとっても,またその先生に診てもらう患者さんにとってもよかったのだということで落ち着きはしましたが,もともと人との会話が苦手な先生でしたので,結局外科を辞めた理由がわからないままでした.

 ところが,彼が外科を辞めてからしばらくしたある日,かつての外科の指導医に,「今は外科よりずっとQOLがいいですわ」と太ってきた身体で口も滑らかに話しかけてきたそうです.そう言われた先生は,「しばらくは何のQOLのことかわからなかったが,彼自身のQOLのことだと気がついて少し寂しい思いをした」と語ってくれましたが,彼が外科を辞めた理由がわかることにはなりました.

外科医局の午後・44

老いることの試練

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.726 - P.726

 最近,ふと気がつくと50歳代半ばがすぐ近くである.ついこの前まで50歳を超えるのはまだまだ先と思っていたが,最早こんな年である.なるほど「光陰矢のごとし」である.

 50歳を超えてから体の色々な変調に気がつくようになった.急に腰痛を起こしたり,血圧が高くなって降圧剤を飲みだしたり,健診で引っかかって検査入院をしたりした.また,夜は妙に早く寝て,そのおかげで朝は早く目が覚めたりする.休日でも昼間近くまで寝ているといったことはなくなった.と言うか,昼まで寝ることができないのである.また,もの忘れが時々起こり,特に人の名前などは最初からあまり覚えようとしなくなった.

書評

坪田紀明(著)「イラストレイテッド肺癌手術―手技の基本とアドバンスト・テクニック[DVD付]第2版」

著者: 淺村尚生

ページ範囲:P.732 - P.732

 坪田紀明先生は,肺癌外科の世界では皆に広く知られている外科医であり,私にとっても尊敬する大先輩である.肺癌外科手術の技術面に深くこだわり,精度の高い,安全な手術を真摯に希求されてきたことは夙に有名である.道を同じくする私が先生を尊敬する所以でもある.管理職になって手術から遠ざかり,外科技術には関心がなくなってしまう人も多いなか,これは大変なことであると思う.

 その坪田先生の『イラストレイテッド肺癌手術』が改訂された.学会の書籍展示販売コーナーでこの本を手にしたとき,私は正直「やられた!」と思った.私も,今まで蓄積してきた技術や工夫をまとめてみたいという希望をもっているが,この本のような詳細かつ組織だった技術の解説は到底無理であり,その気力や根気もなさそうに思ったからである.この本の中で,坪田先生は特に気管支形成術と区域切除術に力点を置いて執筆をされたのではないかと思う.兵庫県立成人病センター(現,兵庫県立がんセンター)でのキャリア後半では,特に区域切除の改良と工夫に取り組まれ,その間に蓄積されたノウハウが十分本書には記載されている.

内富庸介,藤森麻衣子(編)「がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか[DVD付]」

著者: 垣添忠生

ページ範囲:P.736 - P.736

 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか』が医学書院から刊行された.編集は内富庸介,藤森麻衣子の両氏で,執筆は国立がんセンター東病院,同中央病院,聖隷三方原病院,癌研有明病院,静岡県立静岡がんセンターなど,いずれも日々がん患者や家族と濃密に接するベテラン揃いである.

 患者,家族と,医療従事者との関係,特に患者と医師の間の意思疎通,コミュニケーションは医療の原点である.最近の診療現場の多忙さは危機的である.限られた時間の中で患者と医師がコミュニケーションをはかることは至難になりつつある.とは言え,患者-医師関係を構築するうえでコミュニケーションは避けて通れない.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.744 - P.744

 今回の特集企画である「胆道癌外科診療を支えるエキスパートテクニック」では,胆道外科の実地診療上の術前・術中・術後において必要となる処置における様々な手技上のコツやその判断方法を,実際に臨床現場で活躍されている専門家の方々に執筆していただいた.胆道疾患の診断・治療はしばしば大変に手間のかかることが多く,その診断・治療においてはエキスパートのいわゆる経験からくる「技」に頼ることが多いものである.若い外科医にとっては,しっかりと修練を行って経験を積まないと到達し得ないエキスパート領域であるからこそ,やりがいを感じてもらえるのではないだろうか.

 昨今,外科志望の若い医師が減少傾向にあると言われているが,胆道外科のみならず様々の外科領域にはこうした「技」が重要なものであり,scienceとartの十分な習熟のうえに成り立っているこの外科学の面白さ,難しさを先輩医師が自信を持って示していくことが大切なことであると私は考えている.外科に興味を持つ若い医師達も,何のために医師になったかを自分自身にあらためて問うことによって,その答えは自ずと導かれてくるのではないかという気がする.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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