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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 実践に必要な術後創の管理

〔特集にあたって〕術後創管理をめぐる最近の話題―正常創・感染創管理の臨床的,社会的,経済的意義

著者: 炭山嘉伸

ページ範囲:P.911 - P.914

 近年の医療保険の包括化に伴って,術後の創管理,感染創管理のあり方も大きく変化しようとしている.本特集では,創感染の予防,対策とともに,医療背景をも考慮した総合的な管理について述べていただく.はじめにあたって,まず術後創管理をめぐる最近の話題,特に正常創,感染創管理の臨床的,社会的,経済的意義について述べたい.

創傷治癒の基本理論

著者: 夏井睦

ページ範囲:P.915 - P.919

要旨:科学的根拠に基づく創傷の治療とは創面の消毒の廃止と湿潤環境の維持であり,従来からの創傷治療,すなわち消毒と乾燥の維持は19世紀の誤った医学知識による治療だったのである.本稿ではその具体的な治療法と治療例を供覧する.さらに,創感染の発生メカニズムからその治療法を探り,さらに皮膚常在菌の生態から創感染という現象を見直し,皮膚や創面を生態系とみなす新しい概念を提案する.

表層/深層SSIの管理―ドレッシング材の選択と局所治療

著者: 小野寺久 ,   嶋田元

ページ範囲:P.921 - P.927

要旨:Surgical site infection(SSI)が発生すると,入院期間と医療費が増大するばかりか,患者の手術に対する満足度を著しく損なう.とりわけその2/3を占める表層/深層SSIの適切な管理と治療は重要である.創傷治癒の促進には湿潤環境を保つ必要があり,適切な創傷被覆材が有用なことが多い.また,患者自身が創傷治癒の理論を理解し,みずからシャワー浴などを行うことも医療経済上,有用である.創傷管理の概念が大きく変化している昨今,外科チームがその基本を理解し,個々の患者に応じた治療を適切に行うことが求められている.

臓器/体腔SSIの管理

著者: 小林美奈子 ,   大北喜基 ,   毛利靖彦 ,   楠正人

ページ範囲:P.929 - P.933

要旨:Organ/space SSI(臓器・体腔感染)は縫合不全や遺残膿瘍などの手術操作を加えた部位に発生した腹腔内感染で,surgical site infection(SSI)のなかでは最も重症な合併症である.Organ/space SSIでは早期診断,早期治療が重要であり,診断には超音波検査やCT検査が有用である.治療としては,適切なドレナージ術と抗菌薬投与が重要であり,症例によって超音波ガイド下ドレナージやCTガイド下ドレナージ,手術的ドレナージが選択される.

SSI予防と感染創の全身管理

著者: 福島亮治 ,   岩崎晃太 ,   小出泰平 ,   山崎江里子 ,   飯沼久恵 ,   稲葉毅

ページ範囲:P.935 - P.941

要旨:Surgical site infection(SSI)をはじめとする術後感染の成立は病原微生物(細菌)と,感染を起こす環境および宿主の防御能によって決定される.宿主側における全身管理はSSIの発生を予防するための重要な方策の1つである.具体的には(1)侵襲後の早い時期から経腸栄養を開始する早期経腸栄養法,(2)アルギニンやω-3系不飽和脂肪酸など,免疫を高めるとされる栄養素を豊富に含む免疫増強栄養剤の使用(特に術前から投与することが重要であるとされる),(3)術後48時間以内の厳密な血糖管理(150~160mg/dl以内),(4)手術中の体温低下の防止,(5)術中から術後早期にかけて80%程度の高濃度酸素を投与すること,などが注目されている.

予防抗菌薬の最近の話題―有効性と耐性化予防の観点から

著者: 大毛宏喜 ,   首藤毅 ,   島筒和史 ,   曽我祐一郎 ,   林谷康生 ,   上村健一郎 ,   村上義昭 ,   末田泰二郎

ページ範囲:P.943 - P.949

要旨:従来,推奨されてきた予防抗菌薬の薬剤選択の妥当性について疑問を呈する知見が最近,出てきている.まず,膵頭十二指腸切除術で術前に胆道ドレナージを要する症例では胆汁中の菌種が変化しており,第一世代セファロスポリンの有効率は約30%にすぎない.術前ドレナージの有無もしくは胆汁培養結果を元にした薬剤選択によって良好な術後感染予防効果が得られる.また,大腸外科手術におけるターゲットの1つである嫌気性菌は,頻用されているセファマイシン系薬剤に耐性が進んでいる.カルバペネム系薬であるertapenemを使用した報告は薬剤選択に一石を投じるものである.耐性菌予防の観点からは腸内嫌気性菌の重要性が増している.耐性菌リザーバーとしての役割が指摘されており,嫌気性菌温存のための予防抗菌薬投与期間の短縮が望ましい.

感染創の交差感染対策―手指消毒,手袋・ガウン・マスクの適応,個室管理

著者: 有馬陽一 ,   炭山嘉伸

ページ範囲:P.951 - P.956

要旨:感染創の処置にあたっては交差感染防止に努める必要がある.病棟処置時における院内感染対策のうえで重要なポイントは「無菌法・清潔操作の徹底」と「スタンダード・プリコーションの遵守」で,なかでも特に重要視したいのは,手洗いの励行と手袋の使用である.また,スタッフの「清潔側」と「不潔側」の分離が重要である.隔離は交差感染対策上,有効な手段であるが,必ずしも隔離=個室収容ではない.感染源や廃棄物の部分隔離,すなわちカーテンで仕切ったり,あるいは血液・体液・分泌物・排泄物のしぶきや飛沫が生じるケアや処置のときにはガウンやマスクを着用したりすることも有効である.さらに,病棟における処置手順は具体的なマニュアル化で教育効果を高めることができる.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・16

RFAを用いた乳癌手術

著者: 尾浦正二

ページ範囲:P.905 - P.910

はじめに

 癌細胞をメスで1つ残らず切除することが乳癌の根治に必須であるという概念のもとに乳癌治療の教育を受けてきた外科医が乳房温存療法の治療概念を許容するには比較的長時間を要した.しかしながら,原発性乳癌の局所療法として乳房温存手術が最も高頻度に施行されるようになった現在,この概念に異議を唱える臨床医は存在せず,長期成績は存在しないものの,早期乳癌に対する標準的局所治療は乳房温存手術とセンチネルリンパ節生検に基づく腋窩温存へと変化しつつある.

 一方,術前化学療法によって一定の頻度で病理学的完全効果が得られるようになるとともに,マンモグラフィ検診の普及によって超早期乳癌が数多く発見されるようになってきたため,「乳癌を切らずに治す」という治療概念が現実味を帯びつつある.前者のアプローチでは,化学療法にトラスツズマブを併用することでより現実味が増すことが示唆され1),後者のアプローチでは凍結凝固や熱凝固といった,いわゆるnon-surgical ablationの有用性が基礎的・臨床的検討から明らかになりつつある.

 本稿では,当科で行っている乳癌に対するラジオ波熱凝固療法(radiofrequency ablation:以下,RFA)の基本的考え方と手技について概説する.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・4

腰椎麻酔による膀胱直腸障害―もうマーカイン®を使ってますか?

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.957 - P.960

 外科医にとってアッペ,ヘモ,ヘルニアと言えば手術の基礎となる代表的疾患です.これらの疾患では小児を除いて腰椎麻酔下で手術が行われることが多く,執刀する新人外科医が麻酔を担当する場合も多いようです.血圧低下や呼吸抑制などの合併症も起こり得ますので,腰椎麻酔は決して簡単な麻酔ではありませんが,少し前までは外科医は皆当然のように腰椎麻酔をかけていました.近年は麻酔の危険性も認知されてきて腰椎麻酔も麻酔科専門医に依頼する傾向にありますが,深刻な麻酔医不足も影響して,最近では外科医が腰椎麻酔をかける機会が再び増えているような気もします.

 現在,日本国内で脊椎麻酔に使用できる麻酔薬は数種類ありますが,多くの外科医が新人の頃に教わって,今なお使用し続けている代表的な薬剤が塩酸ジブカイン(ネオペルカミンS®)です.インターネット上で公開されている多くの施設のクリニカルパスや症例報告をみても,塩酸ジブカインが今なお広く使用されていることも確認できます.麻酔専門医や麻酔薬についての知識が深い方々からは「今さら何を言ってるの」と言われるかもしれませんが,薬剤情報を十分に知らないまま,使い慣れている塩酸ジブカインを使用し続けている外科医が多数いるのも事実のようです.わが国では塩酸ジブカインの使用が禁止されているわけではありませんので,使用すること自体に問題はありませんが,塩酸ジブカインの薬剤特性や毒性を十分に認識したうえで使用することは非常に重要なことと思います.

元外科医,スーダン奮闘記・27

ロシナンテス・スタッフの結婚

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.961 - P.963

デモグラフィー調査

 本来ならば,われわれが活動を開始する前に調査をしておかねばならなかったが,1年後にデモグラフィー調査を行うことにした.要は,この村のどこに問題があって,どういう風に解決策を講じれば改善していくかのめどを立てるのである.素人かつ弱小集団であるわれわれは,その調査をも行わずに1年あまり活動を行ってきた.今後の活動体制のこともあるので,時期が遅れても,この際,一度きちんと調査を行うことにした.

 当初は,ガダーレフの町から英語のできる大学生を20名くらい雇い入れて村の調査を行うこととしたが,(1)大学生が村に1週間も滞在してくれない,(2)ガダーレフの町から毎日,村まで通う交通手段の確保が難しい,(3)大学生に支払う人件費などの問題があった.上記のような問題があり,大学生をあきらめて,村人を教育して調査員にすることとした.あまり教育水準の高くない村人にできるかな,という不安はあったが,村人たちも関心を示してくれ,3日間の集中講義で調査の内容や仕方を学習してくれた.また,村人は自分の村のことであるので真剣になり,調査はことのほか順調にいった.

病院めぐり

北海道立子ども総合医療・療育センター小児外科

著者: 平間敏憲

ページ範囲:P.964 - P.964

 当センターは2007年9月1日に北海道立小児総合保健センター(旧道立小児センター)と道立札幌肢体不自由児総合療育センターが統合し,札幌市手稲区金山の地に新たにスタートしました.旧道立小児センターは1977年に全国7番目の小児病院として開設されましたが,当時の石油ショックの影響によって設立規模は大幅に縮小され,小児科,小児外科,麻酔科,放射線科の4科のみでのスタートでした.一方,札幌肢体不自由児総合療育センターは1953年に脊髄性小児麻痺や脳性麻痺による手足や体幹の機能が冒された肢体不自由児の訓練・療育を目的として設立されました.

 両施設は長年の経過のなかでそれぞれが機能の充実を求めてきましたが,昨今の医療環境の激変や行財政改革の荒波のなか,小児医療も効率化・近代化が求められるようになり,小児医療および障害児療育機能の一体的整備が知事公約として謳われ,2004年度に本工事が着手となり,100億円の巨費をかけて新センターの設立に至りました.

北杜市立甲陽病院外科

著者: 飯塚秀彦

ページ範囲:P.965 - P.965

 北杜市は山梨県の北西部にあり,長野県に接していて,山梨県で最も面積の広い自治体です.八ヶ岳,甲斐駒ケ岳の麓に広がる秩父多摩甲斐国立公園,南アルプス国立公園,八ヶ岳中信高原国定公園を含む自然豊かな地域です.人口は約5万人ですが,最近では四季折々の美しい自然景観を求めて都会から移り住んでこられる方も大変多くなっています.

 平成17年から18年にかけて8町村が合併し,北杜市が生まれました.私たちの甲陽病院もそれに伴い組合立から市立病院へ移行しました.前身から数えると今年で60周年になります.平成7年に新築され,病床数は126床で,うち36床が療養病床です.北杜市にはもう1つ塩川病院がありますが約10km離れており,高齢者が多いこの地域には当院はなくてはならない病院となっています.

連載企画「外科学温故知新」によせて・20

乳腺外科

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.967 - P.971

1.「腋窩リンパ節郭清」の必要性の認識

 のっけから胸をはだけた女性が今まさに右乳房を切断されようとしている図を掲げたが(図1),これは,ローマ時代にキリスト教を信仰していたアガータという女性が,彼女に横恋慕し棄教を迫ったシチリア総督から乳房を切り取る拷問を受けている場面を描いたものである〔このことから,のちにアガータは「乳房(乳癌患者)」の守護聖人に列せられた〕.まず最初にこの図を提示したのは,近代まで乳癌に対する外科治療がこれと同じような方法で行われていたからである.たとえば,17世紀のスクルテタス(Johannes Scultetus:1595~1645年)や18世紀のハイステル(Lorenz Heister:1683~1758年)の外科学書に載っている乳房切断手術は,それらとあまり差のない方法であった(図2).

 そのような時代に「乳癌はリンパを介して蔓延していくので,腋の下のリンパ節を摘出すべきである」と唱えたのがフランスのラ・ドゥラン(Henri Francois Le Dran:1685~1770年:図3)である.実際は,「癌はリンパ液の自然凝固(腐敗ないし変性)によって生じ,リンパ系を介して拡がっていく」と唱えたようである.しかしながら,時代的に麻酔法や感染制御が導入される以前であったため,この指摘がただちに乳癌の外科治療に取り入れられたわけではなく,図2で示したように,癌に侵された乳房を患者に痛みを感じさせないように一気に切除するようなことが行われていたのである.

連載企画「外科学温故知新」によせて

「外科学温故知新」連載終了にあたって

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.972 - P.973

 本誌60巻9号(2005年9月号)に掲載された「外科学の生い立ちとその進展」という拙筆から連載企画「外科学温故知新」がスタートし,先月の63巻6号(2008年6月号)が最終回となった.思い返すと,群馬大学の桑野博行教授が「53の会」(全国の昭和53年卒の外科医の集まり)の席上,「外科学の魅力を若い人たちにアピールすべく,また,1人でも多くの若者に外科学に興味を持ってもらうために,外科学の歴史的発展の過程を専門分野別に分担して書いてはどうか」と提案したことから始まった足掛け3年の連載であった.そして,この連載が始まるに際して「53の会」のなかで多分唯一の医史学会員である不肖佐藤が,医学全般の歴史にも詳しいであろうということから,歴史的な事項を補足すべくコラムを書くという役目を仰せつかった次第である.

 そこで,どのような締めの文にしようかと思案していたところ,文藝春秋社刊行の「すごい言葉―実践的名句323選(春山陽一著)」という新書にめぐり合った.この本には,著者曰く“隠れた”古今東西の名句が収められているのであるが,その「歴史について」の項に紀元前一世紀頃のギリシャの歴史家ディオニュソスの言葉として,「歴史は実例によって教える哲学である(History is philosophy teaching by examples)」という一言が挙げられていたのである.この言葉を目にして,本連載のタイトルに取り入れられている「温故知新」という言葉に相通じるものを感じた.ご存知の方も多いと思うが,「温故知新」という文言は孔子の「論語(為政篇)」のなかにある一節で,通常は「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知れば,以って師と為るべし」と訓読され,その意味するところは「歴史や昔の思想や文献・古典籍などを知って研究することにより,新しい知識や見解を得ることができ,将来にむけての展望が開ける」ということである.

米国での移植外科の現場から・6

米国移植医療の問題点

著者: 十川博

ページ範囲:P.974 - P.975

1 はじめに

 前回までは,米国における移植外科の優れた点について主に言及してきた.今回は本連載の最終回にあたるため,米国移植医療の問題点についても言及させていただく.

臨床研究

下肢急性血栓塞栓症患者の来院時CK(creatine kinase)値と予後に関する検討

著者: 保科克行 ,   大島哲

ページ範囲:P.977 - P.982

はじめに

 急性下肢血栓塞栓症の治療についてはTransAtlantic Inter-Society Consensus(TASC)における分類とアルゴリズムが提示されているが1),現実には重症度の評価と迅速な治療法決定が困難であることが多い.全身状態や合併症の有無,社会的適応によって治療方針も大きく変わる.われわれが指標とする検査値のうちcreatine kinase(以下,CK)値は虚血の急性期反応を反映し,スクリーニング緊急検査項目に入っていることが多い.しかし,CK値は閉塞の時間経過や病態,心疾患の有無,筋量などによって大きく左右されるため,治療指針の参考程度にされているのも現状である.

 本稿では,下肢急性血栓塞栓症患者の64症例を発症からの時間で比較し,体重で補正したCK値で予後を比較・検討した.

臨床報告

下血および腸重積をきたした回腸inflammatory fibroid polypの1例

著者: 下沖収 ,   皆川幸洋 ,   箱崎将規 ,   伊藤直子 ,   阿部正 ,   上杉憲幸

ページ範囲:P.983 - P.986

はじめに

 Inflammatory fibroid polyp(以下,IFP)は消化管に発生する好酸球浸潤を伴う炎症性腫瘤であるが,小腸に発生するものは稀である1).今回,クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage:以下,SAH)手術後に下血を伴う腸重積で発症した回腸IFPの1例を経験したので報告する.

FDG-PETによって発見され,腹腔鏡下手術を行った小腸GISTの1例

著者: 富安真二朗 ,   菊池暢之 ,   箕田誠司 ,   荒井光広 ,   志垣信行 ,   金光敬一郎

ページ範囲:P.987 - P.990

はじめに

 小腸腫瘍の発見や診断は困難であり,多くの小腸悪性腫瘍は進行した状態で発見・診断されることが多い1).今回,われわれは18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography(以下,FDG-PET)によって発見された小腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)を腹腔鏡補助下に切除した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Caroli病診断の30年後に肝内胆管細胞癌を発症した1例

著者: 池永直樹 ,   千々岩一男 ,   甲斐真弘 ,   佐野浩一郎 ,   大谷和広 ,   内山周一郎

ページ範囲:P.991 - P.997

はじめに

 Caroli病は先天的に肝内胆管が多発性囊胞状拡張を示す非常に稀な疾患である1).繰り返す胆管炎や肝内結石症の合併を認め,約7~8%に胆管細胞癌が発生すると言われる2,3)

 今回,われわれはCaroli病診断の30年後に肝内胆管細胞癌を発症した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下に摘出し得た大網原発Castlemanリンパ腫の1例

著者: 小濱和貴 ,   中村健一 ,   伊藤孝司 ,   瀬尾智 ,   新蔵信彦 ,   光吉明

ページ範囲:P.999 - P.1003

はじめに

 Castlemanリンパ腫は1954年にCastlemanら1,2)によって胸腺腫類似の縦隔リンパ節過形成として最初に報告されたリンパ増殖性疾患である.わが国では20~40歳代の比較的若年者に多く,縦隔や頸部,後腹膜が好発部位とされ3),大網における発生は稀である.

 今回,われわれは,きわめて稀な大網由来Castlemanリンパ腫に対し,腹腔鏡下に摘出し得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

完全内臓逆位症における腹腔鏡下胆囊摘出術の1例

著者: 森田圭介 ,   井原司 ,   中本充洋 ,   児玉孝仁 ,   野口純也 ,   岡部正之

ページ範囲:P.1005 - P.1008

はじめに

 完全内臓逆位症は胸腹部の内臓が正常位に対して左右反転し,鏡面関係をとる稀な発生異常であり,頻度は5,000~10,000人に1人と言われている1)

 今回,われわれは完全内臓逆位症における腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LSC)を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胸腔内結腸穿孔をきたした成人Bochdalek孔ヘルニアの1例

著者: 松谷泰男 ,   間中大 ,   平田義弘 ,   清水正樹 ,   上原正弘 ,   王子裕東

ページ範囲:P.1009 - P.1013

はじめに

 Bochdalek孔ヘルニアは新生児期にその90%が発症し,成人に発症するのは比較的稀な先天性疾患である1,2).通常,特徴的な症状はないが,胸腔内穿孔を生じると死に至る救急疾患となり得る.

 今回,われわれは胸腔内結腸穿孔を伴う成人Bochdalek孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.

悪性関節リウマチによる血管炎を原因とする虚血性小腸狭窄の1例

著者: 岡田洋介 ,   亀岡伸樹 ,   小川明男 ,   杢野泰司 ,   千木良晴ひこ ,   岩淵英人

ページ範囲:P.1015 - P.1019

はじめに

 慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:以下,RA)は関節症状以外にも様々な全身症状を合併することが知られている.血管炎をはじめとする関節外症状を認め,難治性もしくは重篤な臨床病態を伴うRAは特に悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis:以下,MRA)と言われている1)

 今回,MRA性血管炎が原因と考えられる虚血性小腸狭窄によるイレウスの1例を経験したので報告する.

無症状で検診で発見された縦隔偏位を伴う巨大肺囊胞の1例

著者: 野中誠 ,   畑山年之 ,   岡田一郎 ,   佐藤純人 ,   石田康男 ,   幡谷潔

ページ範囲:P.1021 - P.1023

はじめに

 縦隔偏位は主に緊張性気胸などで起こって不安定な呼吸循環動態を示し,激しい臨床症状を呈する1).しかし,緩序に進行した場合は症状を呈さないことも少なくない2)

 今回,われわれは右気胸術後の遠隔期に検診発見された,自覚症状のまったくない右巨大肺囊胞に伴う縦隔偏位を認め,手術を施行し得た症例を経験したので報告する.

上腰ヘルニアの1例

著者: 高久秀哉 ,   鈴木俊繁 ,   長倉成憲 ,   大原佑介 ,   池田直哉 ,   齋藤英俊

ページ範囲:P.1025 - P.1027

はじめに

 腰部には解剖学的に脆弱な部位が上腰三角,下腰三角の2か所あり,稀にここからヘルニアが発生する1~17).今回,上腰三角から発生した上腰ヘルニアの1例を経験したので報告する.

外科医局の午後・46

救急医療の闇

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.941 - P.941

 昨今,わが国の救急医療の崩壊がしきりにマスコミに登場し,論じられている.この問題に関しては,なるべくしてなっていると思われ,少し私見を述べてみたい.

 今,救急医療で特に問題になっているのは救急患者の受け入れ拒否,また,患者が搬送されるまでに多大の時間を要し,その結果,搬送までに患者の死亡などが報告されている.救急を担当する医師が減少し,その結果として残る医師の過重労働や,リスクの高い救急患者の処置に関する訴訟の増加でさらなる救急医を目指す医師や救急病院の減少したことが原因である.

書評

石川雅彦(著)「RCA根本原因分析法実践マニュアル―再発防止と医療安全教育への活用」

著者: 大滝純司

ページ範囲:P.963 - P.963

 多くの医療従事者と同様に,私もインシデント・アクシデント事例の報告書を書いた経験が何回かある.それぞれの事例でどのようなことが起き,どのように対処したかを記入して提出するのだが,ちょっと書きにくいと感じるときがある.その事例が生じた原因について記入する欄で,私はいつも少し考えてしまう.疲れていたのか? 急いでいたのか? それとも……まあ,その時々でそれなりに考えて記入してきた.本当にそこで記入したことが原因だったのかなぁ,と少し引っかかりながら.

 インシデント・アクシデント事例をもとに,医療のプロセスやシステムに注目し,その問題点を具体的に見つけ出し,対策を立てる.そのような分析を可能にする方法として,米国ではRCA(root cause analysis:根本原因分析法)というのが用いられているのだそうだ.本書は,そのRCAについて詳細に解説したものである.全体で4つの章からなり,最初の「基礎編」ではRCAの概要を,次の第2章「実践編その1」では臨床で実際にRCAを行うやり方について書かれている.

茨木 保(著)「まんが 医学の歴史」

著者: 山田貴敏

ページ範囲:P.982 - P.982

 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが 医学の歴史』の著者茨木保という人,その範疇にはないようです.

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう.

芳野 純治,浜田 勉,川口 実(編)「内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―上部消化管(第2版)」

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 芳野純治,浜田勉,川口実の3氏によって編集された「内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―上部消化管 第2版」がこのたび出版された.破格の売れ行きを示した初版の上梓から早くも6年が経ち,企画の意図は初版のまま,内視鏡写真の変更・追加,新しい項目や症例の追加など内容の充実が図られている.その結果,初版より頁数が約1.3倍に増加したそうであるが,日常臨床の現場で常に手元に置いておくのに適したサイズは維持されており,初版以上に好評を博することは間違いないと考える.

 消化管の形態診断学は,内視鏡,X線,病理,それぞれの所見を厳密に対比検討することによって進歩してきた.毎月第3水曜日の夜に東京で開催される早期胃癌研究会は,毎回5例の消化管疾患症例が提示され,1例1例のX線・内視鏡所見と病理所見との対比が徹底的に討論されており,消化管形態診断学の原点とも言える研究会である.この研究会の運営委員およびその機関誌である雑誌「胃と腸」の編集委員を兼務している本書の編集者3氏は,いずれもわが国を代表する消化管診断学のエキスパートである.本書は,“消化管の形態診断学を実証主義の立場から徹底的に追求していく”という「胃と腸」誌の基本方針に準じて編集されているため,掲載された内視鏡写真はいずれも良質なものが厳選されている.また,内視鏡所見の成り立ちを説明すべく適宜加えられたX線写真や病理写真も美麗かつシャープなものばかりである.

ひとやすみ・35

自己の健康管理

著者: 中川国利

ページ範囲:P.997 - P.997

 患者さんには聖人君子のごとく健康管理の重要性を説いていても,いざ自分のことになると自分が垂れている高説を守れる医師は少ない.しかも,医師という職業は因果なもので,少々体調が悪くても休むことができない.したがって,休まないためにも日頃から自己による健康管理が大切である.

 活力の源は食事であり,健康管理の基本である.食事は三度三度,定まった時間にゆっくり時間をかけて摂取すべきである.とは言っても,職業柄,患者さんが急変したり手術や検査が長引いたりすると昼食などは不規則になる.さらに,食事する時間が取れたとしても短時間であり,いわんや「30回咀嚼すべき」とか「食後30分間くらいは安静にすべきである」など,常日頃垂れている口上を実際に行うことは困難である.しかし,少なくとも朝食は必ず摂るべきである.朝食を摂るためには,排便を含めた朝のセレモニーを行う時間的余裕がないといけない.そのためには1日の始まりである起床時間を一定にする必要がある.始まりが規則正しければ,順調に1日は回り始める.

コーヒーブレイク

気管切開

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1013 - P.1013

 外科医,いえ医師であれば気管切開は必須の技術でありましょう.私はそんなに経験がないとは言うものの,気管切開でもいくつかの修羅場をくぐってはいます.それは「ジョーズ」と同様に忘れた頃にやってきますが,麻酔での気管挿管困難例では本当に困ります.最近の経験からご紹介します.

 いつもの待機手術の日,手術室に入ると若手の担当医がマスクを当てて麻酔をかけ始めていました.当院では,全身麻酔では担当医以外に医師が1人以上立ち会うことにしていますが,虫の知らせか,そういうときには私も含め複数の医師が集まってきます.いつもの手順で担当医が喉頭鏡を持ち挿管を開始しますが,なにやらやりにくそうです.そして,何度かやり直しをしますが,言葉も少なくなり,やがて「先生,交代していただけますか」の声.中堅医師が交代して行っても入らず.その頃には酸素飽和度が少しずつ下がってきています.私は側にいるナースに「気管切開の準備を」と指示.案外そうした準備をし始めると入ることもあるし,と考えながらも患者の顔色が心なしか悪くなりはじめ,中堅医師に「どう?」と一言.「いや,難しいです.そちらも始めてください」の声.ここまで来ると,それまでの雰囲気が一変し修羅場が見え始めますが,それは自分の胸の内に収めておき,粛々と処置を進めます.

昨日の患者

高齢者の癌は天寿癌

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 生を受けた人間は必ず死を迎える.人は死を悟ったとき,大いに落胆し歎き悲しむのがつねである.しかし,死を従容として受け入れ,身近な人々との別れを惜しみながら死に逝く人も稀ながら存在する.

 80歳代後半のSさんは7年前に大腸癌の手術を受けた.進行癌ではあったが術後の経過は良好で,好きなゴルフを夫婦で楽しんでいた.久しぶりに来院したので胸部X線写真を撮ると,肺に腫瘍を認めた.そこで,呼吸器内科に紹介した.しかし,肺癌はすでに転移し,また高齢のため,単に対症療法が行われることになった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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