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文献詳細

雑誌文献

臨床外科63巻7号

2008年07月発行

文献概要

連載企画「外科学温故知新」によせて・20

乳腺外科

著者: 佐藤裕1

所属機関: 1誠心会井上病院外科

ページ範囲:P.967 - P.971

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1.「腋窩リンパ節郭清」の必要性の認識

 のっけから胸をはだけた女性が今まさに右乳房を切断されようとしている図を掲げたが(図1),これは,ローマ時代にキリスト教を信仰していたアガータという女性が,彼女に横恋慕し棄教を迫ったシチリア総督から乳房を切り取る拷問を受けている場面を描いたものである〔このことから,のちにアガータは「乳房(乳癌患者)」の守護聖人に列せられた〕.まず最初にこの図を提示したのは,近代まで乳癌に対する外科治療がこれと同じような方法で行われていたからである.たとえば,17世紀のスクルテタス(Johannes Scultetus:1595~1645年)や18世紀のハイステル(Lorenz Heister:1683~1758年)の外科学書に載っている乳房切断手術は,それらとあまり差のない方法であった(図2).

 そのような時代に「乳癌はリンパを介して蔓延していくので,腋の下のリンパ節を摘出すべきである」と唱えたのがフランスのラ・ドゥラン(Henri Francois Le Dran:1685~1770年:図3)である.実際は,「癌はリンパ液の自然凝固(腐敗ないし変性)によって生じ,リンパ系を介して拡がっていく」と唱えたようである.しかしながら,時代的に麻酔法や感染制御が導入される以前であったため,この指摘がただちに乳癌の外科治療に取り入れられたわけではなく,図2で示したように,癌に侵された乳房を患者に痛みを感じさせないように一気に切除するようなことが行われていたのである.

参考文献

1)佐藤 裕:「ハルステッド理論」とは(ハルステッドの原典をひもとく).臨外 54:493,1999
1)Moore C:On the influence of inadequate operations on the theory of cancer. R Med Chir Soc Lond 1:244-280, 1867
2)Halsted WS:The results of operations for the cure of cancer of the breast performed at Johns Hopkins Hospital from June, 1889, to January, 1894. Ann Surg 20:497-555, 1984
3)Meyer W:An improved method of the radical operation for carcinoma of the breast. Med Rec 46:746-749, 1894
4)Lewison EF:Recent advances in surgery. The surgical treatment of breast cancer. An historical and collective review. Surg 34:904-954, 1954
5)Robinson JO:Our surgical heritage. Treatment of breast cancer through the ages. Am J Surg 151:317, 33, 1986
6)田島知郎.臓器別に見た外科手術の変遷・歴史4.乳癌.日外会誌 101:833-839,2000
7)安達洋祐.乳癌手術の変遷 外科 68:900-907,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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