カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・17
MRI navigation下の乳房手術
著者:
榊原雅裕
,
長嶋健
,
三階貴史
,
中村力也
,
風間俊基
,
宮崎勝
ページ範囲:P.1037 - P.1043
はじめに
乳房温存手術は腫瘤性の乳癌に対する標準治療となり,外科医はこのなかで根治性(断端の陰性)と整容性の両立を求められるようになってきた.さらに最近では,これまで適応とならなかった非腫瘤性の乳癌に対してもその応用が期待されている.しかし,病変範囲の同定が難しい非浸潤性乳癌(ductal carcinoma in situ:以下,DCIS)を代表とする非腫瘤性の乳癌に対しての乳房温存手術において根治性と整容性を両立させることは容易でない.非腫瘤性乳癌は乳管内病変を多く含んでおり,乳房温存手術においてはこの同定が重要な鍵となる.世界的なコンセンサス会議においても,従来の乳房温存手術のガイドとして用いられてきたマンモグラフィや超音波よりも乳癌の乳管内病変の描出に優れた乳房MRI(magnetic resonance imaging)を用いた次世代の外科的アプローチが切望されていた1).ところが,従来の乳房MRIの撮像は腹臥位で行われるため,体位を異にする手術への直接的な応用が困難であった.
そこで,われわれは進化する画像診断と乳癌手術とを直接的にリンクさせ,切除範囲の同定が困難な非腫瘤性乳癌病変に対する正確な乳房温存手術の確立を目的として,仰臥位斜位MRI(サージカルポジションMRI)撮像法を新規に開発し,さらに,この画像情報の乳房皮膚上への投影法を用いた乳癌手術(MRI navigation下の乳房手術)を考案した.われわれのアプローチの特筆すべき点は①乳房温存手術の適応の決定や切除ラインの設定が手術体位と同一のイメージで可能となったこと,②非腫瘤性病変に対して腫瘤性病変と同等のアプローチが可能となったこと,③MRI画像診断と病理が直接的に対比可能となったことなどが挙げられる.さらに,われわれのアプローチでは病変の情報を記憶し,手術前に投射することから,④術前化学療法によって完全奏効(complete response:以下,CR)となった症例の加療前の病変範囲を復元することも可能となった.
当科では2005年1月より現在まで乳房温存手術が困難であったDCISや術前化学療法後CR症例に対して本アプローチを臨床応用しており,本稿では,これによる乳房温存手術とその手術成績を報告する.