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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科63巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

特集 がんの切除範囲を考える―診断法とその妥当性

特集にあたって

著者: 愛甲孝

ページ範囲:P.1172 - P.1173

 癌治療において根治性を規定する最も大きな要因は,適正な癌の切除範囲とリンパ節一括郭清である.前者の切除範囲は癌の局在や大きさ,肉眼型や組織型などによって規定されるが,術前・術中診断と組織学的な浸潤との乖離を考慮しなければならない.これまで,どの領域の癌であっても,多数の症例蓄積のなかから定型術式が確立され,治療成績の向上に大きく貢献してきたことは事実である.しかし今日,診断学の進歩によって小さな癌や早期癌が増加し,その生物学的特性が明らかになるにつれ,癌治療はきわめて多様化してきた.特に内視鏡的治療の進歩・普及は従来の外科の概念を変えるほどのブレーク・スルーの1つである.内視鏡関連のendoscopic mucosal resection(以下,EMR)やendoscopic submucosal dissection(以下,ESD)の登場によって,それらの病変に対する癌の至適切除範囲のあり方が問われている.また,進行癌においても自動吻合器をはじめ様々な医療機器が開発され,従来の進行癌における切除範囲の考え方も再考を求められている.さらに,open手術におけるsurgical marginに関しても上皮内進展・脈管侵襲や副病変に対する術前・術中の診断法のあり方がますます重要となっている.

 切除範囲の妥当性は根治性と機能温存との相反する両者の観点から決定されるが,ただ残存する臓器を大きく残すことが必ずしも機能温存に寄与するとは限らない.術後の生理機能を十分に理解したうえで切除線を決定する必要がある.切除断端の評価は断端に癌の浸潤を認めるか否か,近位断端(proximal margin),遠位断端(distal margin),水平断端(lateral margin),垂直断端(vertical margin)における3次元の観点から診断する必要がある.

食道癌の切除範囲を考える

著者: 加藤広行 ,   中島政信 ,   斉藤加奈 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1175 - P.1181

要旨:食道癌の外科治療において,その至適切除範囲は原発巣を含めた食道および胃上部の切除,リンパ節の郭清および隣接臓器の合併切除の有無によって決定されている.食道の切除範囲は食道壁内の病巣進展範囲とリンパ節の郭清範囲という両方の点から慎重に判断する必要がある.食道の切除範囲には主病変に連続する上皮内進展,壁内転移,脈管侵襲(リンパ管侵襲と静脈侵襲)などの併存病変,および多発癌などを含めることが必要である.手術前に内視鏡や各種画像診断を行ったにもかかわらず,壁内転移や脈管侵襲などの非連続的な上皮下進展のため切除断端が陽性になることが稀ではない.そのため,綿密な手術前検査および切除標本による組織学的評価が重要であり,必要に応じて追加療法を検討することも肝要である.

胃癌の切除範囲を考える―新しい手法とその妥当性

著者: 馬場秀夫 ,   吉田直矢 ,   渡邊雅之

ページ範囲:P.1183 - P.1186

要旨:胃癌の治療は2004年に改訂された「胃癌ガイドライン」により,進行度に応じて内視鏡治療,縮小手術,定型手術の適応が定義された.このため深達度やリンパ節転移については,より正確な術前・術中診断が求められることになった.また,EMRをはじめとする内視鏡治療はガイドラインでは一括切除を行うことが求められており,病巣の範囲診断はきわめて重要である.2000年以降,拡大内視鏡や特殊光観察技術が一般臨床で行えるようになり,従来の色素法と比較して精度の高い診断が行えるようになってきた.また,手術においても,従来の迅速病理診断に加えてRT-PCRやTRCといったmolecularな手法による診断技術が研究されている.

大腸癌の切除範囲を考える

著者: 飯合恒夫 ,   谷達夫 ,   丸山聡 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1187 - P.1191

要旨:化学療法や放射線療法が発展した現在においても,大腸癌治療の原則は切除である.しかし,切除範囲については施設によって異なっているのが現状である.わが国では2005年に大腸癌研究会より「大腸癌治療ガイドライン」が発刊されて標準的治療指針が示され,多くの施設で用いられるようになった.外科医は癌の取り残しのない手術を追及すべきであり,そのためには術前・術中にその進展範囲を正確に診断することが求められる.年齢や全身状態などの患者背景を考慮しつつ,過不足のない切除範囲を決定することが重要である.

肝細胞癌の切除範囲を考える

著者: 島津元秀 ,   粕谷和彦 ,   園田一郎 ,   安田祥浩 ,   野村朋壽

ページ範囲:P.1193 - P.1199

要旨:慢性肝障害を伴う肝細胞癌の切除においては,根治性を高めるための広範切除はしばしば術後肝不全による手術死亡を惹起するため,機能温存はどの臓器よりもクリティカルな問題であり,根治性と安全性のバランスをとる必要がある.根治性という点では広範切除と系統的切除が理論的に優れているが,安全性という点ではlimited resectionが有利である.両者の切除成績に差がない場合もあるが,肝機能良好例では系統的切除は予後に寄与する可能性があり,原則として選択すべき術式である.肝機能不良な小肝癌に対しては肝切除範囲よりも残肝機能の維持を重視したlimited resectionが選択されるが,切除断端の癌遺残を防ぐ工夫が必要である.

肝内胆管癌の切除範囲を考える

著者: 大塚将之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1201 - P.1206

要旨:肝内胆管癌の多くは進行癌であり,葉切除以上の肝切除を要することがほとんどであるが,肝臓の末梢に発生した肝内胆管癌では区域切除以下で治癒切除が得られる症例も存在する.肝門部胆管へ浸潤が及ぶ症例では肝外胆管切除が必要で,特に胆管周囲浸潤を伴うような症例,あるいは胆管内発育型では胆管長軸方向への進展がみられるため,肝外胆管切除が必要となる症例が多く,併施しない場合は胆管断端の術中迅速組織診が重要となる.リンパ節郭清範囲やリンパ節転移を認める症例の手術適応についてはいまだコンセンサスはないが,現段階では切除を優先し,そのリンパ流に基づいた郭清をするほうがよいと考える.門脈・下大静脈浸潤に対しては積極的に切除再建を施行すべきである.

肝外胆管癌の進展度診断と至適切除範囲を考える

著者: 鈴木裕 ,   杉山政則 ,   阿部展次 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1207 - P.1214

要旨:外科的切除は肝外胆管癌の長期生存を期待させる唯一の治療法である.しかし,悪性度も高く切除不能例も少なくないため,術前の的確な進展度診断が治療方針の決定のために重要である.肝外胆管癌の進展度診断は主に水平方向と垂直方向とで評価される.水平方向診断は胆管の切離線を決定するために,垂直方向診断は垂直方向の診断は血管浸潤や神経浸潤などの評価に重要である.診断にはUS,CT,MRI,MRCP,ERCやPTCなどの直接胆道造影などが行われているが,近年は多彩な画像構築が可能なMDCTが有用であり,multi-planar reformation(MPR)やmaximum intensity projection(MIP),volume renderingなどによって低侵襲に詳細な画像診断が可能となった.的確な術前診断のもとに,あらゆる断端を癌陰性としR0となるような根治手術を目指すべきである.しかし,大動脈周囲リンパ節郭清や門脈や肝動脈などの血管合併切除については,いまだ一定のコンセンサスを得られておらず,議論を要するのが現状である.

膵癌およびIPMNの切除範囲を考える

著者: 加藤健太郎 ,   近藤哲 ,   平野聡 ,   土川貴裕 ,   七戸俊明 ,   田中栄一

ページ範囲:P.1215 - P.1220

要旨:膵癌および膵IPMNの切除範囲を決定するうえで有用な診断法は,前者においてはMDCT,後者ではEUSとIDUSである.これらの手段で進展範囲を正確に診断したのち,症例に応じて適正な術式を選択する.膵頭部癌では剝離面を癌陰性にするために後腹膜組織,門脈,上腸間膜動脈神経叢右側の切除を伴う膵頭十二指腸切除を行う.膵体部癌では同様に腹腔動脈合併切除を伴う尾側膵切除を標準手術として行っている.浸潤癌では「包み込む切除」が重要である.IPMNで浸潤癌の所見がない場合,縮小手術としてDPPHRなど膵実質のみの切除が可能である.

肺癌の切除範囲を考える

著者: 金子公一

ページ範囲:P.1221 - P.1225

要旨:肺癌の根治手術は肺門・縦隔リンパ節郭清を伴う肺葉切除術が標準として普及している.しかし最近,診断技術や胸腔鏡下手術などの手術手技,周術期管理の進歩に加え,手術対象患者の高齢化や術後の質的生活(quality of life:QOL)の維持も重視されるようになり,癌の根治性を落とさずに肺切除範囲やリンパ節郭清範囲の縮小が試みられている.進行肺癌の手術では癌の根治を目指す拡大手術もなされている一方,局所進展やリンパ節転移のないことが証明される場合には,根治を前提にQOLも重視した縮小手術の可能性が検討されている.また,TNM病期分類の改訂時期も近くに迫り,標準的な肺癌手術の切除範囲についての考えは徐々に見直しがなされつつある.

甲状腺癌の切除範囲を考える

著者: 阿美弘文 ,   鈴木眞一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.1227 - P.1232

要旨:甲状腺癌は組織型によって診断治療の方針が異なる.甲状腺癌の大部分を占める乳頭癌では甲状腺亜全摘が行われることが多かったが,根治性,合併症の頻度,術後の経過観察,再発時の対応の問題から亜全摘の意義は小さくなった.年齢や病状によって片葉切除または全摘を選択し,同様にリンパ節郭清の範囲を決めている.浸潤型濾胞癌では甲状腺の全摘が必要である.術前診断の困難な被包型濾胞癌ではリンパ節郭清は必須ではないが,術後組織学的に脈管侵襲を認めたものに対しては残存甲状腺全摘術の適応となる.未分化癌では集学的治療を要するが,治療抵抗性できわめて予後が悪く,緩和医療も考慮した治療戦略を立てる必要がある.髄様癌は多発性内分泌腫瘍症2型との関連が治療上も問題となり,治療方針の決定にも家族性腫瘍としての取り扱いが必要である.

乳房温存手術の適切な切除範囲を考える

著者: 紅林淳一

ページ範囲:P.1233 - P.1239

要旨:乳癌の根治的な手術術式は,かつては乳房切除術が主流であり,乳房全体を切除するため切除範囲が問題となることはなかった.最近,乳房を部分切除する乳房温存手術が盛んに行われるようになり,乳房の適切な切除範囲を決める必要が出てきた.切除範囲が不十分な乳房温存手術は局所再発率が高く,局所再発例では再手術(主に乳房切除術)が必要となる.乳房温存手術を行う際は,切除断端を陰性化させる努力が必要である.乳癌は乳管内進展,周囲組織への浸潤,高度なリンパ管侵襲を示す例があり,術前の注意深い画像診断が必要である.本稿では,原発腫瘍の適切な切除範囲を決めるための画像診断や術中迅速病理診断の有用性や問題点を解説する.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・18

低侵襲性小切開甲状腺手術

著者: 高見博

ページ範囲:P.1165 - P.1170

はじめに

 低侵襲性手術といっても,人の体に傷をつけるのであるから,その適応は厳格にし,不必要な手術は避けたい.また,前頸部の切開創が小さい利点はあるが,それによる合併症や,癌では根治性の低下などの可能性もある.普通の患者,特に中高齢者では切開創の瘢痕は術後1~2年でわからなくなる.癌では一部の微小癌が適応になる.しかし,低侵襲性甲状腺手術(minimally invasive thyroidectomy)の利点は大きく,患者の術後の苦痛,愁訴を極力減らし,退院・社会復帰を早くさせ,quality of life(QOL)が高くできることは言うまでもない.

 低侵襲性手術は小切開手術1),内視鏡補助下手術2,3),完全内視鏡手術4)に大別されるが,そのなかでも最も侵襲の小さいのは小切開手術であり,あとの2者は頸部の創がきわめて小さいか,まったくないかという整容上の利点を有するが,侵襲度はやや高い.

臨床外科交見室

癌治療におけるセカンドオピニオン―患者との信頼関係の構築

著者: 仲原正明

ページ範囲:P.1240 - P.1241

 現在,日本人のおよそ2人に1人が癌に罹患し,3人に1人が癌で死亡しています.癌は以前のように「不治の病」としては恐れられなくなったように思いますが,いまだ死因の第一位を占めています.

 医師に「癌です.手術が必要です」と言われたら,患者さんはどう思うでしょうか.「本当に癌?」,「手術は本当に必要?」,「ほかによい方法はないの?」,「この病院で手術して大丈夫?」,「手術の危険性は?」,「入院期間や費用はいくら?」,「仕事をどうしよう」,「家族のことが心配」,「手術後は今までどおり働ける?」など,頭のなかは混乱し不安で一杯になるでしょう.われわれ医師は病状や治療方針,治療成績,合併症,予後などを患者さんや家族に説明し,同意のもとに治療を開始します.決定権は患者さんにありますが,患者さんが判断に迷うことも多々あります.そのようなとき,別の医師にセカンドオピニオンを受けることができれば,病気に対する理解が深まり,また,納得して治療を受けることができます.

病院めぐり

大館市立総合病院外科

著者: 大石晋

ページ範囲:P.1242 - P.1242

 大館市は秋田県の北東部,青森県との県境に位置しており,米代川と長木川の清流沿いに開けた盆地にあります.明治22年に町制が施行され,昭和26年に大館市となり,平成17年には隣町の比内町,田代町と合併して人口8万人を超える北東北の拠点都市として整備が進められています.秋田杉の曲げわっぱや比内地鶏のきりたんぽ鍋,忠犬ハチ公出生の地として当地は広く知れわたっています.

 当院の歴史は古く,明治12年に私立大館病院として創設されてからおよそ120年の歴史を誇っています.平成19年にリニューアルされ,11階建の高層棟が出来上がりました.屋上には県内初のヘリポートが設置され,高次医療が必要な患者の救急搬送に役立つものと期待されます.また,エイズ中核病院,災害拠点病院,周産期医療センター,臨床教育病院などにも指定されており,県北の地域中核病院として「患者さんが安心と満足の得られる医療の展開」を理念として医療の提供に努めている病院です.診療科は22科,病床数493床(精神科100床を含む)で,1日の外来患者数1,200名,常勤医師46名,臨床研修医6名となっています.

宇陀市立病院外科

著者: 瀧順一郎

ページ範囲:P.1243 - P.1243

 宇陀市は,去る平成18年1月1日に奈良県宇陀郡大宇陀町,菟田野町,榛原町,室生村の3町1村が合併した人口約39,000人の市です.奈良県の北東部に位置しており,基幹産業である農林業をはじめ,吉野葛など伝統的な食品の製造や毛皮革産業など特徴ある地場産業が盛んです.また,遥かなる悠久の歴史を紐解けば古事記や日本書紀にさかのぼり,神武天皇による建国説話の舞台となっているとともに,「ひがしの野に かぎろひの立つみえて かえりみすれば 月かたぶきぬ」という柿本人麻呂の句の詠まれた大宇陀町のかぎろひの丘や,女人高野の名で知られる室生寺をはじめ,旧城下町や宿場町の風情を今に伝える歴史街道の町並みなど,数多くの歴史文化資源を有しています.さらには,大和高原と呼ばれる高原地帯と室生・赤目・青山国定公園の一部を形成しており,清流と緑豊かな美しい自然のなかで,四季を通じてふるさとの風景が訪れる人に憩いとやすらぎを与えてくれます.

 当院は昭和29年に6診療科,病床数20床で榛原町立病院として開院しました.平成元年に榛原総合病院に名称変更し,平成16年の創立50周年を経て,平成18年の市町村合併に伴い,現名称に名称変更となりました.現在は病床数13診療科,199床を標榜しています.昨年度,日本医療機能評価機構が実施する病院機能評価を受審し,認定されました.さらにDPCの導入および新病院建設に向けて邁進中ですが,昨今の臨床研修医制度の導入に伴い,連携する奈良県立医科大学からの医師派遣がままならず,泌尿器科,耳鼻科,放射線科,小児科と常勤医師が不在となっており,縮小を余儀なくされています.

元外科医,スーダン奮闘記・29

フォトグラファー内藤順司

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.1245 - P.1247

内藤さんからのメール

 2年前のある日,まったく見知らぬ人から長文のメールが届いた.差出人の名前は内藤順司.

 以下,彼の文面から.

 「私の写真の原点には戦争の写真を撮り続けたロバートキャパや,数々の社会問題と対峙し水俣病を扱ったユージン・スミスなどのジャーナリズム的な視点がつねにあります.そんななか私は30年前の音楽の可能性にストレートなジャーナリズムの表現ではなく音楽写真の可能性を感じ,その世界で26年間携わってきたわけです.これからも当然,音楽写真は続けていきます.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・6

切除,再建,吻合……あれっ!?

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.1249 - P.1252

 外科手術ではひとつひとつの手技を迅速かつ慎重に積み重ねていくことが要求されますので,十分に修練を積んだ外科医による執刀もしくは指導が必要です.しかし,十分に経験を積んで熟練した医師やチームによる手術であっても,ちょっとした注意不足や緊張感の欠如からとんでもない結果につながってしまうことがあります.

 また,近年急速に普及している腹腔鏡下手術は低侵襲の優れた術式として様々な手術に適応が広がり,難易度の高い手術も腹腔鏡下に行われるようになりました.一方で開腹手術と比較すると,その視野確保の難しさや術者の触覚には劣ることから,手術の難易度は高くなり,それに伴って様々な事故も報告されています.

臨床研究

内痔核に対するALTA療法151例の検討―ALTA療法は内痔核に対して標準術式に成り得るか

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1253 - P.1257

はじめに

 内痔核に対する治療法には昔から種々のものがある.現在も広く行われているものとしては(1)保存的治療,(2)硬化療法,(3)手術療法がある.また,手術の方式にも,一般的な結紮切除法やゴム輪結紮法,また最近ではイタリアのLongoが提唱したcircular staplerによる環状粘膜切除術(procedure for prolapse and hemorrhoids:PPH:Longo technique)がある.一方,硬化療法としては出血に対して有用なパオスクレー®(5%フェノールアーモンド油)の注射がわが国では長年,行われてきた.しかし,この方法は内痔核の2大症状の1つである脱肛には効果がなく,また,出血に対しては有用であるが効果の持続は限定的であった.

 一方,中国では1975年頃から消痔霊と称した薬物が内痔核に対して広く使用されており1),わが国でも2005年3月に硫酸アルミニウム・タンニン酸注射(aluminium potassium tannic acid:以下,ALTA.商品名ジオン®)として正式に発売された.しかし,この薬物は特殊な注射法(4段階注射)が必要なうえ,現時点では長期成績を含む臨床成績が蓄積されていない2~5)

 当院では2006年1月からALTA療法を開始し,2008年1月までの約2年間に151症例(157回)に対して行った.本稿ではその臨床成績を検討し,ALTA療法が内痔核に対する標準治療になり得るかを検討した.

70歳未満の上部消化管穿孔症例に対する保存的治療の検討

著者: 高橋雅哉 ,   蜂須賀仁志 ,   中本寿宏 ,   高橋克之 ,   久島昭浩 ,   一沢夏枝 ,   児嶋徹 ,   相河明規 ,   佐々木八千代 ,   川崎紀章

ページ範囲:P.1259 - P.1266

はじめに

 上部消化管穿孔保存治療の最大のメリットは患者に手術のストレスを与えないことと,人的物的医療資源の節約であろう.

 われわれは2000年から70歳未満の上部消化管穿孔症例に対して保存治療を原則とする治療選択基準(以下,本基準)を導入しており,今回,その妥当性を検討した.

急性虫垂炎は気象病なのか?

著者: 間遠一成 ,   増田英樹 ,   石井敬基 ,   間崎武郎 ,   高山忠利

ページ範囲:P.1267 - P.1269

はじめに・目的

 急性虫垂炎と気象の関係は古くから指摘されてきた.1931年にde Rudder1)はリウマチや心筋梗塞などを気象病としたほか,急性虫垂炎と気象との関係を確からしいと述べた(表1)2).虫垂炎と気圧の関係は1993年に福田3)が発表し,以後の文献4~7)とともにテレビや新聞で報道され,ときに定説のように語られてきたが,その後の研究報告はない.本稿ではその再評価を行う.

臨床報告

TS-1単独投与によって著効を得た進行胃癌の1例

著者: 尾﨑知博 ,   福田健治 ,   齊藤博昭 ,   建部茂 ,   辻谷俊一 ,   池口正英

ページ範囲:P.1271 - P.1276

はじめに

 胃癌に対するTS-1単独投与の奏効率は40%以上と高く1,2),進行・再発胃癌胃癌に対する有用な抗癌剤として注目されている.

 今回,われわれは高齢者高度進行胃癌患者に対しTS-1単独投与によって組織学的complete response(以下,CR)を得た症例を経験したので報告する.

腹腔鏡下囊胞天蓋切除術を施行した,囊胞液内CA19-9が高値であった巨大脾囊胞の1例

著者: 川田康誠 ,   木村正美 ,   堀野敬 ,   西村卓祐 ,   松下弘雄 ,   原田洋明

ページ範囲:P.1277 - P.1279

はじめに

 脾囊胞は比較的稀な疾患であるが,画像診断の進歩によって報告例が増えている.脾囊胞は良性疾患が多く,脾摘後の合併症や脾機能温存面から,最近では脾温存手術が推奨されている1).また,近年の腹腔鏡下手術の進歩によって腹腔鏡下囊胞天蓋切除術の報告が散見される.

 今回,われわれは腹腔鏡下囊胞天蓋切除術を施行し,囊胞液中のCA19-9が高値を示した巨大脾囊胞の1例を経験したので報告する.

巨大結腸症を呈した慢性特発性大腸偽性腸閉塞症の1例

著者: 松末亮 ,   浅生義人 ,   松末智

ページ範囲:P.1281 - P.1285

はじめに

 慢性特発性大腸偽性腸閉塞症(chronic idiopathic colonic pseudo-obstruction:以下,CICP)は腸管に明らかな器質的閉塞を認めず,また,原因となる基礎疾患や薬剤使用歴がないにもかかわらず正常な腸管輸送が障害され,腹部膨満,腹痛,便秘などの腸閉塞症状を大腸のみに反復する疾患である1).わが国ではCICPは報告例は少なくないが,その病態や治療法は確立されていない.

 今回,われわれは,巨大結腸を呈し長期間の便秘症状ののち自己排便がまったく不可能になった症例に対して手術を施行し,良好な経過が得られたので報告する.

再発時に高G-CSF血症を呈した肺多形癌の1例

著者: 松田英祐 ,   岡部和倫 ,   八木隆治 ,   田尾裕之 ,   平澤克敏 ,   杉和郎 ,   村上知之

ページ範囲:P.1287 - P.1289

はじめに

 肺多形癌は肺原発悪性腫瘍の0.3%と稀な腫瘍とされている1).また,G-CSF産生腫瘍は治療抵抗性で,その予後は不良とされている2).両者とも比較的稀な疾患である.

 今回われわれは,再発時に高G-CSF血症を呈した肺多形癌の1例を経験したので報告する.

出血性ショックのため緊急胃全摘術を施行したMenetrier病の1例

著者: 竹林正孝 ,   豊田暢彦 ,   野坂仁愛 ,   若月俊郎 ,   鎌迫陽 ,   谷田理

ページ範囲:P.1291 - P.1294

はじめに

 Menetrier病は胃底腺の増殖による巨大皺襞と低蛋白血症を呈する稀な疾患である.本症に貧血を伴った症例は少なくないが,大出血をきたすことはきわめて稀である1,2)

 今回,われわれは出血性ショックをきたし胃全摘術を施行したMenetrier病の1例を経験したので報告する.

肛門から突出する巨大腫瘤を形成し,Paget現象を伴った肛門管癌の1例

著者: 西山明宏 ,   尾藤利憲 ,   下浦真一 ,   池田宏国 ,   山本満雄 ,   勝山栄治

ページ範囲:P.1295 - P.1298

はじめに

 肛門管癌などの腺癌は,経上皮性に連続的に外陰や肛門周囲の表皮に波及するというPaget現象を伴うことがある.平松ら1)はわが国での直腸肛門管癌由来のPaget現象の報告は過去38例としているが,その後も症例は追加され,現在はわれわれが調べ得た限り46例の報告がある.比較的稀な現象であり,見落とされる可能性もある.しかし,臨床的には癌の根治性や乳房外Paget病との鑑別の必要性など重要な意味を持つ病変である.臨床所見のみで皮膚原発Paget病とPaget現象を鑑別することは困難であるが,免疫組織化学染色による検討が有用である.

 今回,Paget現象を伴った肛門管癌の診断と治療について文献的検討を交えて報告する.

潰瘍性大腸炎の寛解期にS状結腸憩室炎穿通による腸腰筋膿瘍を生じた1例

著者: 広田将司 ,   岩瀬和裕 ,   松田宙 ,   伏見博彰 ,   根津理一郎 ,   田中康博

ページ範囲:P.1299 - P.1302

はじめに

 炎症性腸疾患のうちCrohn病ではしばしば膿瘍や瘻孔形成などが認められるが1),潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:以下,UC)ではきわめて少ないとされている2,3)

 今回,われわれは潰瘍性大腸炎の寛解期にS状結腸憩室炎穿通による腸腰筋膿瘍を形成した症例を経験したので報告する.

早期胃癌を併存した透析アミロイドーシスの1例

著者: 松尾俊和 ,   中越享 ,   中村司朗 ,   劉中誠 ,   岸川正大

ページ範囲:P.1303 - P.1308

はじめに

 糖尿病罹患者数の増加や腎臓移植例数の伸び悩みなどを反映し,長期透析症例が増加している.長期透析症例では様々な合併症が問題となるが,アミロイドーシスもその1つである1)

 今回,消化管アミロイドーシスに胃癌が合併し,術前・術後治療に難渋した症例を経験したので報告する.

外傷による血腫との鑑別を要した良性後腹膜神経鞘腫の1例

著者: 伊藤佳之 ,   深谷良 ,   入山拓平 ,   重盛恒彦 ,   毛利智美 ,   加藤俊夫

ページ範囲:P.1309 - P.1312

はじめに

 神経鞘腫が後腹膜に発生することは稀であり,後腹膜原発腫瘍の5.5%を占めるにすぎないと報告されている1).後腹膜神経鞘腫の多くは良性であり,Whiteら2)は自験例2例を含む57症例から得た標本の58検体中9例,15.5%に悪性所見を認めたと報告している.発生頻度が稀であるうえに特異的な症状に乏しく,画像診断でも神経鞘腫に特徴的と言われる所見はあっても特異性に欠けるため,後腹膜神経鞘腫の診断や良・悪性の判定は困難とされている3,4)

 今回,上腹部の打撲を契機として発症し,現病歴,超音波診断,CT,MRなどの画像所見では後腹膜血腫との鑑別が困難であり,血管造影によって腫瘍性病変と診断し得た良性後腹膜神経鞘腫の1例を経験したので報告する.

書評

葛西龍樹(監訳)「クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版」

著者: 津谷喜一郎

ページ範囲:P.1192 - P.1192

 “Clinical Evidence”(CE,クリエビ)は英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が作成している全世界的に定評のあるEBM支援ツールである.以前,他社からフルテキスト版の日本語訳が3回発行されたが,諸事情によりその後発行が途絶えていた.このたび医学書院から,原書第16版の「コンサイス版」が日本語版として発行されたことを,まずは歓迎したい.

 クリエビの原書は,IT技術を駆使して複数のメディアと構成で提供されており,そのことも革新的ではあるのだが,そのなかでの日本語版の本書の位置づけがわかりづらくなっている.ここでは,本書の位置づけを中心に述べよう.

田中和豊(著)「問題解決型救急初期検査」

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.1270 - P.1270

 指導体制が十分ではない救急室(ER)で診療を始めたばかりの研修医の皆さんは,「とりあえず検査をして,異常値あるいは異常所見が見つかったらそこから病気を探していこう」という診療をしているのではないでしょうか? 田中和豊先生はこの診療方法のことを「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」と紹介され,「検査値に異常がない=正常」あるいは「検査値が異常=診断が確定」と短絡的に考えてしまうことに警鐘を鳴らしておられます.

 実際に,「食後に胃の辺りが気持ち悪かった」という訴えでERを受診し,血液検査でγ-GTPが高値であったので腹部エコーをすると胆石が見つかった.それで「ああ,今回の痛みは胆石発作ですね」と安易に診断して帰宅させようとしたところ実は不安定狭心症であった……など恐ろしい事件が全国のERで発生しています.最近の国内外の報告では,歩いてERを受診したのに重篤な疾患(killer disease)である割合が0.3%程度とされており,研修医の皆さんが1回の救急当直で歩いて受診する救急患者を5人診察すると仮定すると,月に5回当直を行った場合,年間に300人の救急患者を診察することになり,年間に1人はそのような症例に遭遇することになります.

ひとやすみ・37

父親の背中

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1199 - P.1199

 息子にとっての父親は最も身近に存在する人生の先輩ではあるが,煙たい存在でもある.しかし,息子は反発しながらも,父親の背中を見ながら成長する.恐縮ながら,今回は自分の3人の愚息について述べたい.

 長男が将来何をしたいかを知らされたのは,高校3年の夏の三者面談であった.理数系の進学コースを選択していたため,医学部受験を予測していなかったわけではなかった.しかし,息子の学力を考慮すると,合格は到底無理と考えていた.だが,息子はこれから頑張れば合格できると決意を述べた.父親として同じ職業を選択する子供を嬉しく感じたが,医学部受験の厳しさを知るだけに子供が挫折することを危惧した.ただ温かく見守るだけであった.一浪はしたが,幸運にも某私立大学医学部に入学できた.そして,相談はされなかったが,外科研修医になった.しかし,後期研修には眼科を選択した.外科医の私は他科と比較して労働環境が過酷であることを熟知しているがゆえに,寂しさを感じながらもあえて反対はしなかった.

コーヒーブレイク

見えてくるもの

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1239 - P.1239

 大学を卒業してもうすぐ30年を迎えようとしていますが,私の個人的な手術記録のナンバーはなんとか6,000番を迎えようとしています.これは,卒後最初の研修病院で出会った先輩から「記録しなさい.記録は大切なことですよ」と教えられたままに始めたことですが,以来,外来小手術やPDまで,自分がかかわった手術すべてを記録してあります.

 最近になって,そうした自分が経験した時間と数が増えてきて,今なお進歩していることにも気付かされ,あわせて色々と思うことがあります.そのなかの1つに,「若い頃には見えていなかったものが見えてくるようになった」ということがあります.自分は凡人ですので,あらかじめ「こうだろう」とか,先輩達が教え残されたことを理解したうえでやってきたことではありませんが,それでも何となく,時にはっきりと(これを「目から鱗」というのでしょう)見えてくることを実感することがあります.手術での剝離層といったものが物理的に「見える」ということもありますし,助手の動きで「まだよくわかっていないな」という形而上学的なことも見えてくることになります.形而上学的と言えば,患者さんやご家族の「気持ち」や「人情の機微」もまた見えてくるものです.

外科医局の午後・48

外科医の待遇

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.1298 - P.1298

 先週,約半年ぶりに外科系の学会に参加した.最近の全国規模の外科系学会では必ずと言ってよいほど,医療崩壊や,わが国の外科系診療科で医師が不足している現状とその対策がテーマのシンポジウムが開かれている.時期を同じくして厚生労働省から大学医学部の定員増加方針が示された.しかし,今から増やしても実際に効果が出るのは10年後であるし,また増やした医師が外科系に進む保証はまったくない.むしろ,今のままならば,外科に進む医師は増加しないのではないだろうか.一方,これからは団塊の世代と言われた人たち(自分を含む)が癌年齢にさしかかり,胃癌,大腸癌,乳癌をはじめとする手術対象の外科疾患は増加することはあっても減少することはない.ますます外科病棟は忙しくなるばかりである.

 私が医師になった頃は若い外科医が多く,みな競って手術症例を奪い合ったものである.大学での研究を終え,また臨床現場に復帰したときは「またこれから手術ができる」と勇んで臨床に復帰したものである.しかし,それから約20年経って現場は一変してしまった.まわりを見渡すと,部長以上の役職を持っている者が常勤医の6割以上を占めるようになり,研修医を含む若い医師は1人しかいない.また,同年代の仲間の多くは開業や転職をした.中堅の医師は疲れ果て,口から出てくるのは愚痴ばかりである.

昨日の患者

俺はまだ生きている

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1308 - P.1308

 生きとし生ける者は必ず死を迎える.しかし,いつ,何が死因で最期を迎えるか,誰も予測することはできない.ただ,人は明日も今日のように続くと信じて生きている.しかし,進行癌という不治の病で死を悟った者は今を大事に生きている.

 風の便りに,高校時代の同級生であるHが腎臓癌になり,腎臓を摘出するとともに転移巣である肝切除も行ったと聞いた.さらには多発性骨転移もきたし,予後が厳しいと伝わってきた.しかし,小康状態を得て日常生活に戻ったとのことで,早速有志で同級会を開いた.

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1316 - P.1316

 最近,ある学会で「外科医と病理医の理想的協調に向けて」というシンポジウムにおいて発表する機会をいただき,このことに関して改めてその重要性を認識し,さらに今日の課題について考えました.

 近年,癌の治療法は拡大手術から縮小手術への方向性とともに抗癌剤や放射線治療など多岐にわたっており,適切な治療方針の選択が患者の予後,さらにはQOLを左右すると考えられます.患者個々に適した治療法の選択,いわゆる「オーダーメード治療」のためには外科医と病理医の双方向的協調が不可欠です.そのためには,外科医が持つ正確な臨床情報が病理医に伝達されることと,また一方で病理診断も含めた病理所見に基づいた病態の理解が臨床へ フィードバック されるという双方向の密な協調システムの構築が望まれます.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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