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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

特集 外科診療上知っておきたい新たな予後予測因子・スコア 〔癌における新たな予後予測因子〕

乳癌の予後予測因子―The Nottingham prognostic index

著者: 酒村智子 ,   井本滋

ページ範囲:P.11 - P.14

要旨:乳癌患者の予後予測因子としては古くから腫瘍径,リンパ節転移数,組織学的グレードなどが用いられ,それら因子の組み合わせによるNottingham prognostic index(NPI)というスコアが代表的である.現在は遺伝子プロファイルによる治療効果予測および予後予測の研究が盛んであるが,コストや検査の簡便性などを考慮すると,NPIはいまだ実地臨床に有用な指標として評価されている.本稿では,NPIを中心に予後予測ツールの実地臨床への活用について述べる.

肝癌の予後予測因子―CLIP score & JIS score

著者: 青木琢 ,   國土典宏

ページ範囲:P.15 - P.20

要旨:肝細胞癌患者の予後は腫瘍条件と肝予備能の両者で規定される点が特異的であり,(1)患者の予後を予測するため,あるいは(2)各国,各施設間の治療成績を比較するために腫瘍条件と肝予備能の両者を包含した統合的ステージングシステムが提唱されてきた.現在用いられている代表的な統合的ステージングシステムはイタリアから提唱されたCLIP(Cancer of the Liver Italian Program)scoreと,わが国から発信されたJIS(Japan Integrated Staging)scoreである.CLIP scoreは簡便で,幅広い患者群に適用することが可能であるが,層別化が均等でなく,真に予後のよい群,逆に不良である群が同定しにくい欠点がある.JIS scoreはCLIP scoreよりも層別化能に優れ,治療法の選択にも有用であるが,いまだworldwideな評価は受けておらず,今後の普及が期待される.

胆道癌の予後予測因子・スコア

著者: 神谷尚彦 ,   宮﨑耕治

ページ範囲:P.21 - P.29

要旨:胆道癌は早期診断が困難なため切除が不能な症例も多いが,長期生存が望める唯一の治療法は外科切除である.しかし,切除後の成績は必ずしも一定でなく,胆道癌においても数多くの臨床病理学的および分子生物学的な研究がなされ,いくつかの予後規定因子が報告されている.臨床病理学的因子ではリンパ節転移が最も重要な独立予後規定因子である.分子生物学的予後規定因子については様々な報告があるものの,エビデンスレベルの高いものは少ない.細胞周期関連遺伝子の報告が最も多いが,DNA修復遺伝子や細胞接着遺伝子も予後と関連する.そのほかに新規遺伝子もいくつか予後との相関が報告されており,今後の検討が必要である.また,抗癌剤関連遺伝子に関しても新しい知見が蓄積しつつあり,これらについても概説した.

膵癌切除例における予後規定因子

著者: 阿部展次 ,   杉山政則 ,   鈴木裕 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.31 - P.35

要旨:最近の膵癌切除例における予後因子に関する報告を血液マーカー,治療因子,臨床病理学的因子,分子マーカーに分けてレビューした.血液マーカーでは血小板数-リンパ球数の比率(platelet-lymphocyte ratio:P/L ratio)とCA19-9値が予後因子として重要であり,高P/L ratio,高CA19-9値はそれぞれ独立した予後不良因子と報告されている.治療因子では,術後補助療法の付加が予後を改善させ得る最も重要な因子である.R0切除の有無と予後との関連に関しては結論が出ていない.また,(1)術後に主要合併症があること,(2)非teaching hospitalでの手術,(3)3単位以上の輸血は独立した予後不良因子とする報告がある.臨床病理学的因子では,最近の多数例での検討から,年齢,腫瘍径,組織型,郭清リンパ節個数,腫瘍存在部位,リンパ節転移の有無,静脈侵襲の有無などが独立した予後因子として報告されている.また,検索リンパ節個数,lymph node ratio(転移個数/検索個数),腫瘍存在部位,傍大動脈リンパ節転移の有無,リンパ節微小転移の有無,門脈浸潤度,膵切離断端におけるK-ras変異の有無なども予後因子として有望であろう.分子マーカーではp16,MMP7,VEGFなどが予後因子として臨床に応用できることが示唆されている.

食道癌の予後予測因子

著者: 宗田真 ,   加藤広行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.37 - P.42

要旨:食道癌は手術手技や周術期管理の向上,抗癌剤治療の進歩にもかかわらず予後不良な悪性疾患の1つであり,より精度の高い予後予測因子の確立が治療成績の向上に大きく貢献することが期待される.臨床病理学的にみる予後予測因子としてリンパ節転移と壁内転移があり,画像診断ではFDG-PETでの集積,内視鏡的壁深達度診断や内視鏡的肉眼形態(tumor budding),さらには血中のSCC値などが報告されている.分子生物学的にもEGFRやcyclin D1などをはじめ多くの報告が認められるが,現在まで臨床応用されるには至っていない.今後,マイクロアレイによる多くの遺伝子解析が進められ,分子生物学的アプローチによる治療法の新たな飛躍が期待される.

胃癌の予後予測因子

著者: 深川剛生 ,   阪真 ,   田中則光 ,   藤田剛 ,   三森功士 ,   佐々木博巳 ,   森田信司 ,   片井均

ページ範囲:P.43 - P.48

要旨:胃癌の予後は病理学的因子に基づいたステージによって統計的に予測される.血清腫瘍マーカーではCA19-9の高値が予後に反映する.リンパ節中の微量癌細胞(ITC)の存在は予後不良因子ではない.骨髄・末梢血液中の微量癌細胞もその存在だけでは予後不良因子ではなく,その転移能や宿主との相互作用についてさらに研究が必要である.現在行われている腹腔洗浄液の細胞診(Cy)は腹膜播種再発を予測する明らかな予後不良因子であるが,複数の遺伝子を検出できるチップは微量癌細胞を検出し,より感度の高い予後不良因子となり得る.

大腸癌の予後因子

著者: 飯合恒夫 ,   谷達夫 ,   丸山聡 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.49 - P.53

要旨:大腸癌の治療はTNM分類に基づいた進行度によって決められることが多い.しかし,大腸癌の悪性度や予後にはT因子,N因子,M因子以外にも様々な因子が関与していることが明らかになりつつある.有効な新規抗癌剤や分子標的薬剤が開発され,大腸癌の治療が多様化しつつある現在,様々な予後因子を用いて患者の予後をより細かく予測することで,過剰治療や縮小治療をなくすることが期待される.このことは個々の患者に優しいテーラーメード治療につながり,医療経済的にも大きな意義がある.

〔非腫瘍性疾患における新たな予後予測因子〕

Sequential organ failure assessment(SOFA)score

著者: 貞広智仁 ,   織田成人 ,   仲村将高 ,   平山陽 ,   安部隆三 ,   立石順久 ,   平澤博之

ページ範囲:P.55 - P.59

要旨:敗血症の重症化に対して有効な対策を講じるには,その時点での重症度を正確に把握するとともに,的確な予後予測を行うことが重要となる.重症度の評価法として,各評価項目が臓器特異的であり,かつ評価の簡便性を高め,どの施設でも評価可能な項目を採用して作成されたsequential organ failure assessment(SOFA)スコアは,経時的に変化する臓器障害/不全を容易に評価することができ,かつ病態の推移を的確に表すことができる.その有用性から現在,各種臨床試験の症例の層別化や効果判定などに汎用されており,これからも用いられ続けるであろう重要な評価法である.

慢性肝障害予後予測因子―MELD score

著者: 河地茂行 ,   田辺稔 ,   尾原秀明 ,   篠田昌宏 ,   日比泰造 ,   島津元秀 ,   北川雄光

ページ範囲:P.61 - P.66

要旨:MELD scoreはもともとTIPSを施行する患者の予後予測因子として紹介された指標であるが,あらゆる慢性肝障害の予後予測因子として有用であることが示され,2002年2月に米国における移植肝配分の基準として採用された.MELD scoreの採用によって,移植成績自体を変えることなく待機期間中の患者死亡が減少し,平均待機時間も短縮された.一般的にMELD≧15がよい移植の適応と考えられ,わが国における生体肝移植適応の判断にも不可欠の指標となっている.術前MELD scoreが術後移植成績と相関するか否かはcontroversialであるが,MELD≧30のレシピエントに対する肝移植適応は慎重に判断すべきである.最近,MELDNaが紹介され,MELD以上に精度の高い肝疾患予後予測因子として期待が集まっている.

急性胆道炎における予後予測因子

著者: 真弓俊彦

ページ範囲:P.67 - P.71

要旨:急性胆管炎や急性胆囊炎の重症度判定基準は最近まで存在しなかったが,2005年10月にはじめて「科学的根拠に基づく急性胆管炎,胆囊炎の診療ガイドライン」が発行された.また,国際ガイドラインである「Tokyo Guidelines for the management of acute cholangitis and cholecystitis」でもこれとは異なる重症度判定基準が示されることとなった.今後の実際の臨床例での評価によって,これらの重症度判定基準の整合性,有用性を評価することや,これらの重症度判定基準間での相違を整合していくことが必要である.

急性膵炎の重症化予測因子―Ranson, Glasgow score & APACHEⅡ score

著者: 篠崎広一郎 ,   織田成人 ,   貞広智仁 ,   仲村将高 ,   平山陽 ,   安部隆三

ページ範囲:P.73 - P.80

要旨:重症急性膵炎は厚生労働省難病対策事業の1つに取り上げられており,その対策が講じられてきた.わが国では2003年に厚生労働省の研究班と関連学会が合同でガイドラインを作成し,2007年に改訂第2版を出版している.このガイドラインでは厚生労働省の急性膵炎の重症度判定基準に従って急性膵炎の重症度判定を行うことを推奨している.このように,わが国では独自のガイドラインに則った重症化予測因子を用いている.本稿では,欧米諸国で主に用いられているRanson score,Glasgow score,acute physiology and chronic health evaluation(APACHE)Ⅱ scoreの有用性および今後の展望について解説し,また今後注目されると予想される新たな予後予測因子に関して紹介する.

膵頭十二指腸切除術後における合併症発生のリスク因子

著者: 山田豪 ,   藤井努 ,   杉本博行 ,   金住直人 ,   粕谷英樹 ,   野本周嗣 ,   竹田伸 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.81 - P.85

要旨:膵頭部領域の腫瘍性疾患に対しては,一般的には膵頭十二指腸切除術もしくは幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が適応とされる.その術後mortalityは近年は数%にまで改善してきたものの,morbidityはいまだに40%前後と高率である.そこで,当教室において経験した症例から術後合併症発生のリスク因子を解析するとともに,海外からの文献的報告を加えて検証した.その結果,“soft pancreas”であることが膵液瘻発生の最重要因子であった.しかしながら,morbidityをゼロにすることは不可能であり,合併症が発生した際に,いかに迅速・適切に対処できるかが重要である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・1【新連載】

剪刀,鑷子,鉗子類

著者: 尾形佳郎

ページ範囲:P.5 - P.10

はじめに

 剪刀,鑷子,鉗子類,これらの手術器具は外科手術を行う際の基本中の基本であり,古くから先人による各種の考案・改良がなされて使用されている.そのため,各施設で異なった呼称で使われている状況であると推察されるが,本稿ではわれわれが通常使用している名称を使用した.掲載した写真から実際の器具を確認していただきたい.

 基本の手術器具であるため,外科医になった当初から慣れ親しみ,その使用頻度は高い.それだけに,チーム医療である手術においては互いに共通した使用法が求められ,そのためには外科医として最初に教育されるときにその取り扱いを正しく学習することが重要である.

 本稿では,筆者が常々,消化器外科手術で使用している器具を紹介し,研修医も含めた若い外科医を教育する立場でその使用法を概説する.

病院めぐり

五ヶ瀬町国民健康保険病院外科

著者: 松岡由紀夫

ページ範囲:P.86 - P.86

 当院がある宮崎県五ヶ瀬町は九州のほぼ真ん中,熊本県との県境に位置しており,人口約4,700人の典型的な山村僻地です.県庁所在地の宮崎市まで3時間半かかりますが,隣県の熊本市まではわずか1時間半です.ですから,行政的には宮崎県ですが,文化,経済的には熊本圏という変な(?)ところです.買い物や勉強会,研究会は熊本に行きますが,会議類は宮崎に行きます.

 このような町の唯一の医療機関として当院(町立)はあります.昭和30年に国保病院として開設され,以後は熊本大学第2外科から歴代院長を輩出して維持されてきました.現在は病床数54床(一般36床,介護病床18床)で常勤医師は4名(外科2,内科2)です.内科の1名は自治医科大学卒ですが,あとは熊本大学の出身です.土日祝日は熊本大学からの当直医に依頼しています.整形外科医がどうしても欲しいところですが,今日の状況ではなかなか見つからず困っています.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・10

良性腫瘍に乳癌手術

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.87 - P.90

 乳癌は急激に増加している癌の1つであり,それに伴って乳癌診療に関するトラブルも増加しています.男性乳癌もわずかながら存在しますが,主として女性に特有な疾患であり,その特殊性から検査,診断においても様々な配慮が必要です.

 乳癌の診断は非常に難しい場合もありますが,「見落とし」は生命にかかわる深刻な事態になりますので慎重な診療が期待されます.ところがその逆に,乳腺の良性疾患を癌と誤診して乳房切除が行われてしまうという,にわかには信じがたい事故も実は多数報告されています.

元外科医,スーダン奮闘記・33

北ダルフール(2)

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.91 - P.94

バドラディーン医師

 空港に降り立ってテレビ取材を受けたのち,州知事が用意してくれた車に乗り込んだ.向かう先は知事公舎である.ここがダルフールでの宿泊場所となる.スーダンの州知事の権限は大きく,もちろん大変な権力を持っている.その権力の通りに公舎も立派なものである.ダルフール紛争で多くの難民がいるなか,単純にギャップを感じてしまう.

 今回,すべてのアテンドを行ってくれるのはダルフールのバドラディーン医師である.彼は,日本にも招聘したことのあるイブン・シーナ病院の内科医のアドデルムネイムの友人であり,そのアドデルムネイルが紹介してくれた.知事とも親しいようで,一医師がここまで行政のトップと親しいのは,まあスーダンではよくあることであるが,日本では珍しい.彼を通じてダルフールでの行動予定を立てた.難民キャンプ,教育病院,大学,各省庁,国連関係,国際NGO訪問などを組み入れようとした.

臨床報告・1

腹部CT検査によって術前診断し得た大網裂孔ヘルニアの1例

著者: 村松友義 ,   戸田耕太郎 ,   小林和也 ,   上田祐造

ページ範囲:P.95 - P.99

はじめに

 大網裂孔ヘルニアは比較的稀な疾患であるが,近年,高齢化が進む一方で診断技術の向上もあいまって報告例が増加している1)

 今回,当科において術前腹部造影CT検査によって大網裂孔ヘルニアの嵌頓と診断し,手術を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

敗血症とdissemination intravascular coagulation syndrome(DIC)を呈した非穿孔性急性虫垂炎の1例

著者: 西尾公利 ,   山本悟 ,   竹内賢 ,   石原和浩 ,   高橋治海 ,   森川あけみ

ページ範囲:P.101 - P.105

はじめに

 敗血症は重症の感染症が全身に影響を及ぼしている状態とされ,消化器外科領域においては汎発性腹膜炎や急性閉塞性化膿性胆管炎,急性胆囊炎などが原因となり得るが1),通常,われわれ外科医が目にする非穿孔性の急性虫垂炎ではきわめて稀である.

 今回,われわれは敗血症と播種性血管内凝固症候群(dissemination intravascular coagulation syndrome:以下,DIC)を呈した非穿孔性急性虫垂炎の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

ABO不適合生体肝移植術後にサイトメガロウイルス感染症を発症し,経過中に多形紅斑を認めた1例

著者: 吉松正憲 ,   副島雄二 ,   吉住朋晴 ,   内山秀昭 ,   武冨紹信 ,   前原喜彦

ページ範囲:P.107 - P.111

はじめに

 ABO不適合肝移植後は,抗原抗体反応による超急性拒絶反応と移植後に通常認められるT細胞による急性拒絶反応を抑制するために十分な量の免疫抑制剤が投与される1,2).その結果として,しばしばサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:以下,CMV),ヘルペスウイルス,EBウイルスなどのウイルス感染を臨床経過上認め3~5),いったん発症すると重篤な合併症を引き起こすこととなる.

 今回,ABO不適合生体肝移植術後にCMV感染症を発症し,経過中にCMV感染もしくは治療剤であるガンシクロビル(ganciclovir:以下,GCV)が原因と考えられる多形紅斑を認めた症例を経験したので報告する.

食道癌術後乳び胸の保存的治療後にリピオドールリンパ管造影と胸腔鏡補助下手術が有効であった1例

著者: 山岡延樹 ,   宮川公治 ,   矢田善弘 ,   相良幸彦

ページ範囲:P.113 - P.117

はじめに

 食道癌切除後の乳び胸の発生頻度はわが国では1~2%程度と報告されており1,2),比較的稀な合併症である.保存的治療が奏効しない場合,ソマトスタチンやそのアナログであるオクトレチオドの投与3,4)やリピオドールによるリンパ管造影での治癒例が報告5,6)されている.また,胸管結紮が最も確実な方法であるが,術後の炎症性変化によって再手術で漏出部位の確認が容易でない場合もある.

 今回,われわれは保存的治療に加えてオクトレチオド投与とリピオドールリンパ管造影を施行したが軽快せず,リンパ管造影後CTと胸腔鏡下に漏出部位を確認し,胸腔鏡補助小開胸下に横隔膜上胸管結紮を行って治癒に至った症例を経験したので報告する.

胃癌胃全摘術後5年目の挙上腸管再発に対して再切除を施行した1例

著者: 中本博之 ,   箕浦俊之 ,   向出裕美 ,   四方伸明

ページ範囲:P.119 - P.123

はじめに

 胃癌に対する胃切除後の残胃再発に対する再切除の報告は数多くある一方,胃癌胃全摘術を行ったあとに局所再発をきたす症例は多くあるにもかかわらず,これに対する再切除の報告は少ない1)

 今回,われわれは胃癌全摘術後5年目の挙上腸管再発に対して再切除が可能であった1例を経験したので報告する.

薬剤溶出性冠動脈ステント(DES)挿入術後,早期に発症した急性出血性無石胆囊炎の1例

著者: 大谷裕 ,   太田徹哉 ,   国末浩範 ,   野村修一

ページ範囲:P.125 - P.128

はじめに

 日常臨床において経験される消化管出血の原因臓器は食道,胃,大腸が主であり,胆囊出血が原因であることはきわめて稀である1).種々の原因が報告されているが,胆囊炎を原因として発症した胆囊出血に限定すると,その死亡率はきわめて高いと報告されており2),診断が遅れると最悪の転帰をとる可能性を秘めた病態であると考えられる.

 今回われわれは,急性心筋梗塞に対して薬剤溶出性冠動脈ステント(drug eluting stent:以下,DES)挿入術を施行された患者の術後早期に突然発症した急性出血性無石胆囊を経験した.若干の文献的考察とともにその概要を報告する.

繰り返す放射線性心囊液貯留に対する低侵襲的横隔膜開窓術の1例

著者: 大野英昭 ,   東舘雅文

ページ範囲:P.129 - P.132

はじめに

 縦隔への放射線照射の副作用として6~29%の確率で心囊液貯留が起こり,1年以内の発症が多い1).本報告では,放射線療法後に心囊液貯留を繰り返す片肺低肺機能患者に対して局所麻酔下に心囊腹腔間交通を作成し,quality of life(QOL)が改善した症例を呈示する.

腹腔鏡下に診断・切除した虫垂憩室穿孔の1例

著者: 多田明博 ,   高木章司 ,   辻尚志 ,   田中健大 ,   國友忠義

ページ範囲:P.133 - P.136

はじめに

 虫垂憩室はわが国では比較的稀な疾患である.術前診断は困難であるが,穿孔率が高く1),臨床上注意が必要である.今回われわれは,腹腔鏡下に診断・切除を行った虫垂憩室穿孔の1例を経験したので,若干の文献学的考察を加えて報告する.

乳癌の脾転移を疑った脾炎症性偽腫瘍の1例

著者: 須浪毅 ,   澤田隆吾 ,   雪本清隆 ,   阪本一次 ,   山下隆史

ページ範囲:P.137 - P.140

はじめに

 脾臓の占拠性病変に対する鑑別診断は難しく,腫瘍性病変が疑われた場合は診断と治療を兼ねて脾臓摘出術が行われることが多い1)

 今回われわれは,乳癌患者の脾臓に生じた占拠性病変に対して脾転移を疑い,用手補助腹腔鏡下手術(hand-assisted laparoscopic surgery:以下,HALS)で脾摘術を行って炎症性偽腫瘍と診断した症例を経験したので報告する.

ひとやすみ・42

学会出張における営業努力

著者: 中川国利

ページ範囲:P.53 - P.53

 医師は日々進歩する医学を学ぶために,種々の講習会や学会に参加する必要がある.さらに,昨今の専門医制度では専門医を取得・維持するために学会参加が義務づけられている.しかしながら,多くの病院は医師の学会出張に年間の回数や総額に制限を設けている.私が勤める病院でも学会出張は年間2回まで,しかも出張期間は合計6日以内と規定している.また,規定を超えた学会出張では,演者や座長を務める場合にのみ片道の交通費が支給される.学会に出張すると,会場費や講習会費が必要である.全額の出張旅費を支払われても,学会に参加すると懐を痛めるのが実情である.

 通常,旅費は出張先までの鉄道会社や航空会社の正規運賃が支払われる.一方,昨今の各種割引制度を利用すると,正規運賃より割安に出張することができる.さらに,各運送会社やカード会社は顧客の囲い込みを目的に,利用するとポイントが貯まる種々の制度を設けている.したがって,よほど差し迫った出張でなければ,格安旅行券や宿がセットになったパックツアー券を取得するのが常である.しかしながら昨今,公務員が出張における正規運賃との差額を取得することが問題にされている.そこで,みなし公務員である当院でも,旅費ではなく病院の手配による旅行券が直接支給されるようになった.

コーヒーブレイク

医者は皆ヤブ医者です

著者: 板野聡

ページ範囲:P.80 - P.80

 私が現在の病院に来てから早21年目に入りました.そうした経験のなかで,10数年前に胃癌で手術をさせていただき,その後は元気に過ごされていた方が,最近になって老衰で亡くなられるということがありました.ふと自分がした手術は何だったのかと虚しくもなり,少し遅れて10数年の時間を過ごしていただけたことに,それでよかったのだと自分を慰めている自分に気づくことにもなりました.

 一か所に長くいるということはそういうことなのだと納得させられはしますが,そんなことから,外科医はせめて3,4年は同じ所に勤めるべきではないかと考えています.つまり,同じ所に3,4年いれば,自分がかかわった手術の顛末,うまくいくにせよ悪く経過するにせよ,そのおおよその経過を目にすることができるからです.

外科医局の午後・53

最終回

著者: 岡崎誠

ページ範囲:P.94 - P.94

 2005年の第60巻1号で本コラムをスタートした.あしかけ4年になる.主に手術を中心とした外科医療を題材に,今まで約28年の臨床経験から感じたことや思ったことを軸に色々な文章を書いてきた.

 28年目の秋に手術を中心とした臨床からは手を引き,あるクリニックの院長として再出発することとした.そこでいったん「外科医局の午後」は終了とし,また姿を変えて皆様の前に出てきたいと思う.

書評

福井次矢(編)「臨床研究マスターブック」

著者: 堀内成子

ページ範囲:P.100 - P.100

 コクラン共同計画が,国民保健サービスの一環として始まりEBMが浸透していった英国でこの原稿を書いている.ICM(国際助産師連盟)評議会への出張で会議漬けだが,気がかりなものをカバンに入れてきた.一つは締め切り迫っているこの書評であり,もう一つは戻ってきたばかりの英文論文の査読結果である.指摘事項は,予測していなかった内容なので返答に時間が必要で少し憂うつな気分だ.

 『臨床研究マスターブック』の著者7人のうち5人が所属している聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センターは,聖路加国際病院のグループ施設である.提供する医療の質を高めるために設置され,スタッフは自ら臨床研究を行うだけでなく,医療にかかわるすべての人々が行う研究をサポートする体制がとられている.本書は,日常診療の中にEBMの手法を取り入れ,世界中の研究成果を手中に入れながらベスト・プラクティスは何かを追い求めている著者らの力強い言葉が詰まっている.忙しい診療業務の合間をぬっての研究活動は容易ではないが,世界中の医療者に引用され日常診療やケアに活用される研究成果を発信してほしいという研究者マインドを持った医療者である著者らの熱い思いが伝わってくる.

Amanda Tompson,相川直樹(著)「日本人のための医学英語論文執筆ガイド[CD-ROM付]」

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.124 - P.124

 畏友相川教授が書かれた本ということに大きな期待を抱きつつ,手元に届いた本書を早速読み始めた.親切なことに,本書の冒頭には,「本書の使い方」という章があり,そこには「使用法の実際」という読み方のガイドが書かれている.そこにある「一般的な使い方」という方の読み方の指示に従って,ざっと読んでみることにした.このガイドによれば,まずは英文の方は読まずに日本語の部分だけを読むこと,となっており,そうすれば45分間で読了するはずなのだが,ガイドの中では,本書を読む上での禁忌としている英文の部分までも熟読してしまったために,一応目を通すのには結構な時間がかかってしまった.それというのも,英文の部分も,読み飛ばすにはあまりにも面白かったからである.特に,Part Ⅱに紹介されている英文の文章は,大変面白い.ここには,日本人の間違いやすい表現で書かれた文例が100件掲載され,その間違いの解説と,修正されたより正しい文章が示されている.間違いのある文章の中には,一見どこが不適切なのか判明しがたいものも少なくないのだが,修正された文章とその解説を読むと,ははーなるほどと納得したり,思わず苦笑してしまったりする.やっぱり自分は日本人であることを改めて認識すると同時に,言葉の勉強の面白さに引き込まれてしまうのである.

 順番が前後してしまったが,もちろんPart Ⅰの内容は極めて重要である.ここには,単に英文の書き方といった瑣末なことだけでなく,論文というものを作成するための基本的な注意が,こと細かに述べられており,まさに本書は論文執筆の作法の書なのだということが分かる.特に,原稿の準備やその構築に関する基本的な注意事項や,タイトルの書き方など,いかなる言語の論文の場合であろうとも,これから論文を書く人にはぜひとも読んでおいてもらいたいことが,大変親切に書かれている.また,投稿時の編集長への書簡,すなわちCovering Letterの意味や,その書き方に関する注意も,論文を投稿する人にとっては大変有用な情報であろう.

昨日の患者

持つべきは信頼し合える友

著者: 中川国利

ページ範囲:P.136 - P.136

 社会の縮図である病院における人間模様は時代とともに変遷する.特に手術や最期のときに付き添う関係者は少子高齢化や結婚率低下などに伴って急速に変わりつつある.

 Nさんは60歳代前半で,かつてはともに働いたこともある有能で優しい元看護師であった.生涯独身を貫き,退職後は待望の自由時間を気ままに使い,忙しく動き回っていた.下血が生じたが,痔からの出血と思って検査を控えていた.しかし,下血が続くため精査を行うと,直腸癌であった.そこで直腸前方切除術を行ったが,癌はすでに周囲リンパ節にも転移していた.術後の癌化学療法にもかかわらず多発性肝転移が生じた.そして,全身倦怠と食欲不振を訴えて再入院した.

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あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.144 - P.144

 2006年の第61巻第8号のこの欄で「野生復帰への弾み」として,新潟県佐渡市におけるトキ(朱鷺.学名:Nipponia nippon)の人工繁殖を紹介した.また,第2弾として,2008年の第63巻第8号では試験放鳥のための訓練などについて紹介した.したがって,今回はトキに関しての第3回目の紹介となる.

 前回は,15羽のトキが自然の山野に野生復帰できるように訓練を受けていると紹介したが,このうちの10羽だけが2008年9月25日に試験的に放鳥された.当日は秋篠宮殿下が第1羽目を,妃殿下が第2羽目を放鳥され,その後,次々に合計で10羽が大空に放たれた.このときの状況はテレビでも放映したので,目にした読者もいると思われる.トキには全地球測位システム(GPS)での位置確認のための電波発信機が6羽に取り付けられており,その個体の位置確認を行っているという.また,個体の識別のため,付着させた塗料の色からそれぞれを識別している.試験放鳥の半月後には10羽のうち8羽が確認されており,この8羽は群れを作らずにバラバラに行動しているという.しかしながら,生存が確認された8羽はいずれも自然のエサをよく摂っているし,必要以上に人を恐れる様子もないという.また,放鳥場所から30kmも離れた小木地区で「2歳オス」のトキ1羽が確認されている.放鳥後1か月が経過した現在も,生存が確認されているトキは8羽である.しかしながら,残りの2羽が死亡したという証拠も今のところ見つかっていない.この2羽はケージ内ではペアを形成していた「3歳メス」と「2歳オス」とのことで,自然環境でもケージ内と同様にペアを組んで生活し,来年の春には自然環境のなかで雛を育てて欲しいものである.これから冬場の季節を迎えるため,エサ場が限定されてくると行動範囲も限定され,群れを形成する可能性もあることが指摘されている.この雑誌が発刊される頃には,群れを形成して元気に生きているトキをみたいものである.

 トキが放鳥される少し前の2008年の8月6日には,佐渡において野生のコウノトリが確認されている.このコウノトリもわが国では一度は絶滅したもので,中国から譲り受けて人工繁殖させ,1992年に兵庫県で野生復帰計画を開始し,その結果,佐渡にも飛来したものである.このコウノトリはコウノトリ目コウノトリ科に属し,トキはコウノトリ目トキ科に属している.同じコウノトリ目の仲間としてトキの野生復帰をお祝いするための来島であったのだろうか.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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