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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻10号

2009年10月発行

雑誌目次

特集 消化器外科における経腸栄養の意義と役割

生体における腸管免疫の重要性

著者: 福島亮治

ページ範囲:P.1333 - P.1338

要旨:腸管は食物を消化し吸収するだけでなく,免疫臓器としてきわめて重要な役割を担っている.腸管容積の25%は免疫組織で占められ,全身の免疫組織の50%以上が腸管に存在する.腸管の免疫と全身の免疫は深く関連しており,腸管免疫の維持・活性化は全身の生体防御に大きな影響を与えると考えられる.したがって栄養管理を行う際も,消化・吸収のみならず,免疫臓器としての腸管機能を十分に認識することが重要である.

侵襲による腸管機能への影響―腸管免疫の点から

著者: 深柄和彦 ,   安原洋

ページ範囲:P.1339 - P.1344

要旨:侵襲時には,腸管への栄養投与が困難になったり,腸管血流の著しい低下,抗生物質の長期投与による腸内細菌叢の変化,重症感染症に伴うエンドトキシン曝露などが生じる.これらは,いずれも腸管リンパ装置の機能低下・萎縮を引き起こし,その結果,腸管免疫・全身の粘膜免疫が低下する.また,消化器外科領域で頻用される抗癌剤治療も腸管免疫を低下させる.腸管の免疫学的バリアの破綻は,全身性の炎症反応を増悪させ重症感染症の原因となり得る.侵襲時の腸管免疫維持には,その病態に応じて,早期経腸栄養・グルタミン投与・ニューロペプチド投与・interleukin-7投与やω-3脂肪酸投与が有用であることが動物実験で報告されている.しかし臨床的なエビデンスに乏しく,今後のさらなる研究が必要である.

消化器外科周術期合併症の予防と合併症発症後の治療における経腸栄養の役割

著者: 櫻井洋一 ,   稲葉一樹 ,   礒垣淳 ,   谷口桂三 ,   金谷誠一郎 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.1345 - P.1351

要旨:近年,消化器外科手術における周術期栄養管理に関するエビデンスが蓄積されている.消化器外科患者の周術期においては術前に栄養状態不良の症例も認められ,中等度以上の侵襲を伴う手術を施行した場合には術後合併症が発生するリスクが高い.消化器外科術後合併症の予防には術前の栄養状態の改善と適切な周術期栄養管理が重要であり,合併症発症のハイリスク症例に対しては,適切な栄養素を含有した経腸栄養管理が有用である.術後合併症をきたした場合でも,適切な栄養投与ルートを用いた経腸栄養管理により合併症からの早期回復を促すことが可能である.すなわち適切な周術期栄養管理とは,①早期経口摂取の促進と合併症発症のハイリスク症例の選択,②適切な経腸栄養投与ルートの選択,③経腸栄養剤の適切な選択と投与量の決定であり,栄養状態改善によるQOLの向上が可能となると考えられる.

食道手術におけるimmunonutrition

著者: 猪瀬崇徳 ,   加藤広行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1353 - P.1358

要旨:経腸栄養剤(enteral diet:ED)のうち,アルギニン,ω-3系脂肪酸,核酸などの特殊栄養成分が強化された栄養剤はimmune enhancing diet(IED)と呼ばれ,IEDを用いた免疫栄養“immunonutrition”の臨床治験が欧米を中心に広く行われ,従来の栄養法に比べて,合併症の発生を減少させるなどの利点が明らかになってきた.食道手術においても,特に侵襲の大きな食道癌手術の周術期管理法として,今後の発展が期待されている.

大腸手術におけるimmunonutrition

著者: 小山諭 ,   長谷川美樹 ,   五十嵐麻由子 ,   坂田英子 ,   萬羽尚子 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1359 - P.1363

要旨:手術などの侵襲に対するimmunonutritionは,周術期投与により感染性合併症を減少させることが示されている.しかしわが国では未だに食道癌手術以外の消化器手術においてimmunonutritionはあまり用いられていない.近年,国内でも大腸/下部消化管手術においてもimmunonutritionは感染予防やSSI防止に有用であることが報告されてきている.大腸/下部消化管手術でimmunonutritionを普及させていくためには,適応や投与方法などを確立し,手術症例での効果を検証していく必要がある.

肝硬変に対する肝切除術におけるimmunonutrition

著者: 土師誠二

ページ範囲:P.1365 - P.1370

要旨:免疫増強栄養法(immunonutrition)は,外科感染症に対する最も有望な栄養学的介入アプローチの1つである.待機外科手術患者に対しては術前の投与が最も優れているが,肝硬変を含めた肝切除105例を対象にしたわれわれのRCTにおいても,術前immunonutritionは良好なコンプライアンスとともに,術後早期にみられるヘルパーT細胞亜分画を始めとした免疫機能低下を軽減し,外科感染症の発生を抑制した.さらに肝組織中脂肪酸構成の検討から術前の必要最低総摂取量は50ml/kg以上と推測され,この量を超える免疫増強経腸栄養剤の摂取によりEPA/AA比を対照群に比べて有意に上昇させることが明らかとなった.待機手術例に対するこのような栄養学的アプローチは“immunological and metabolic preconditioning”という概念として捉えられ,preconditioningを行うための最適な栄養素,至適な組み合わせの確立のためにさらなる検討が望まれる.

膵頭十二指腸切除術におけるimmunonutrition

著者: 古川勝規 ,   鈴木大亮 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1371 - P.1376

要旨:Immunonutritionの待機手術に対する効果は胃,大腸,食道手術などで示されているが,より病態が複雑な膵頭十二指腸切除例に対する効果の報告は欧米も含めて少なく,その効果の発現機序についての報告はほとんどない.現在,わが国においては膵頭十二指腸切除術の術後栄養管理は中心静脈栄養管理が主流で,欧米に比べ経腸栄養の導入は遅れているといわざるを得ない.われわれの膵頭十二指腸切除術に対するランダム化比較試験では,術前後のimmunonutritionはTPN管理に比べ,感染性合併症を減少させた.その効果発現の機序には侵襲反応の軽減と細胞性免疫能の低下を抑えることが関与していると考えられた.膵頭十二指腸切除術は侵襲度も高く,合併症も少なくないためimmunonutritionのよい適応であると考えられる.今後,わが国からの大規模臨床試験でさらなるエビデンスが示されることが期待される.

閉塞性黄疸を伴った胆道癌手術におけるsynbioticsの効果

著者: 菅原元 ,   西尾秀樹 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   角田伸行 ,   深谷昌秀 ,   上原圭介 ,   梛野正人

ページ範囲:P.1377 - P.1381

要旨:胆道癌術後に生じうる感染性合併症の原因の1つに,腸内細菌のbacterial translocationが挙げられる.当教室ではこの予防を目的として,①周術期の腸管内への外瘻胆汁の返還,②周術期のsynbiotics投与,③術後早期からの経腸栄養の開始を胆道癌手術症例に対する栄養管理対策としている.synbiotics投与には①免疫力を増強する効果,②炎症反応を軽減する効果,③腸内環境を良好に保つ効果がみられることが確認された.当教室では,術前にはsynbioticsを食品として内服してもらい,術後は経腸栄養として投与している.上述の栄養管理対策が確立したのちの胆道癌に対する肝切除例の術後感染性合併症発生は減少している.

重症救急患者における早期経腸栄養法

著者: 小谷穣治 ,   橋本篤徳 ,   寺嶋真理子 ,   山田大平 ,   上田敬博

ページ範囲:P.1383 - P.1395

要旨:重症病態では生体のエネルギー代謝が亢進するが,急性期にはむしろunderfeedingであることが病態の改善に有効である.重症病態では静脈栄養に比べ経腸栄養が感染性合併症の軽減やICU・入院日数の軽減の点で有効であるが,最終転機を改善した報告は少ない.しかし重症病態とは様々な病態を含んでいるので,今後,病態別に検証すべきである.

 経腸栄養の早期導入は,栄養投与をしない場合に比べてむしろ病態を悪化させるとの報告が続いたが,急性期に消費カロリーに見合う栄養量を投与したことがその理由であった可能性がある.事実,栄養管理の条件をつけない後ろ向き研究では経腸栄養が静脈栄養より生存率を改善している.一方で,近年,アルギニンが外傷症例,ω-3系多価不飽和脂肪酸がARDSの病態を改善するなど,各種の免疫栄養素が重症病態の改善に著しい効果を持つ報告が相次ぎ,これらの多くが経腸的に投与される点で経腸栄養法・剤が注目されている.また,アルギニンは重症感染症では逆に予後を悪化させるなど,重症病態の中でも病態が異なれば効果も異なることも明らかにされ,病態別に免疫栄養素を使い分ける時代がやってきたといえる.

胆道閉鎖症周術期における緑茶カテキンによる抗酸化療法

著者: 田中芳明 ,   朝川貴博

ページ範囲:P.1397 - P.1403

要旨:周術期の酸化ストレスに対する緑茶カテキンの投与効果を検討する目的で,胆道閉鎖症(以下,本症)術直後の13例(以下,投与群)を対象にカテキンを6か月間投与した.術前から術後6か月目までの肝機能,黄疸消失日数,ならびに血中superoxide dismutase(SOD)活性,尿中8-isoprostane,8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)濃度を非投与群11例(SOD活性,8-isoprostane,8-OHdGの測定は5例)と比較した.

 その結果,投与群では術後1か月目のT. Bil,D. Bilが有意に低値を呈し,また黄疸消失が有意に速やかであった.酸化ストレスの指標では,両群間に有意差は認められなかったが,術後6か月時点の血中SOD活性,尿中8-isoprostane,8-OHdG濃度は非投与群が高い傾向を呈した.また,投与群では術後6か月目にはすべての酸化ストレスマーカーが術前値より有意に改善し,酸化ストレスの軽減が示唆された.しかしながら,すべてが基準値以上で,黄疸消失時においても未だ強い酸化ストレスが存在しており,引き続き長期にわたる酸化ストレスの制御を行っていくことが本症の予後に少なからず影響を与えるものと考えられた.

癌化学療法・放射線療法時の経腸栄養の効果

著者: 宇佐美眞 ,   濱田康弘 ,   戸田明代 ,   新関亮 ,   上野公彦 ,   河野裕一

ページ範囲:P.1405 - P.1411

要旨:癌化学療法・放射線療法時の経腸栄養の意義と役割に関して,ESPENガイドラインに準じたreviewを行った.すべての癌患者は診断と同時に栄養評価を行い,全身状態が悪化する前に栄養介入することが重要である.基本的なゴールは癌患者の機能と予後の改善であり,「低栄養の予防と治療」「抗腫瘍効果の増強」「抗腫瘍療法の副作用軽減」「QOLの改善」である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・10

直腸低位前方切除術に愛用の手術器具・材料

著者: 野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1325 - P.1329

はじめに

 前方切除術とは腹腔側から直腸を切除することであり,直腸の切離・吻合が腹膜翻転部以下で行われることである.男性では前壁に前立腺,精囊が,女性では子宮頸部,腟後壁が存在しているため,視野の展開が大変重要となる.骨盤内手術の難易度が高いのは,手術野が狭く,神経や血管を含めた重要な臓器が近接しているためである.また,機能温存の観点から括約筋や神経の温存手術が不可欠であるため,十分な視野の確保が手術の安全性を向上させ,確実な手術操作を行ううえで重要となる.

 本稿では,視野の展開に必要な器具を中心に,その使用方法を解説する.

病院めぐり

特定医療法人北楡会札幌北楡病院外科

著者: 米川元樹

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 当院は昭和60年に川村明夫現会長が人工臓器や移植などの高度医療を一般の医療にという理念のもとに開設した.病院の規模は231床で,ICUの8床を除いて全室が無料の個室(バス・トイレ付き)である.外科の病床は約60床で,外科医は会長を含めて12名である.平成20年の手術件数は1,219件(全身麻酔症例595件)で,扱う症例は腹部一般外科を中心に,自然気胸や肺癌などの胸部外科,甲状腺や副甲状腺などの内分泌外科,腎不全透析など非常にバラエティに富んでいる.近年,他院からの依頼で特に増加しているのは透析バスキュラーアクセス関連の手術で,昨年は470件に達した.また,堀江卓部長が中心となって行っている四肢末梢動脈閉塞症例に対する細胞治療は本年の5月末で166例に及び,治療症例数は全国一多い.

 外科の1日は担当医の病室回診で始まる.8時半に外科と麻酔科の全員が医局に集まって朝のカンファレンス(朝カン)が行われる.週番外科医長の司会で検討症例が次々と紹介されるが,ディスカッションが白熱することもしばしばある.その間,誰かのPHSに他院からの患者紹介が入ることも多々ある.そうこうしているうちに消化器科や内科の医師がやって来て,症例の依頼が割り込む.3割くらいは外科がすぐに引き取らなければならない症例である.朝カンもホームストレッチに入ると,ここからが外科医長の腕の見せ所.臨時のバスキュラーアクセストラブルがあると血管造影や術者の手当てが必要になる.また,他科からの依頼患者が緊急手術にでもなると,さあ大変.手術予定表を囲んで麻酔科と折衝し,術者は?助っ人は?手術の順番は?などを早急に決めなくてはならない.何とかこれが一段落すると,それぞれ外来,病棟やICUの回診,透析患者回診へと散っていく.しかし,外科医長のPHSは休む暇なく午前中も鳴り続ける.多くの手術は午後に行われるが,臨時手術の頻度も高い.この毎日が続くと外科医長は1週間でくたびれ果てるので,4名で1週間交代としている.

滝上町国民健康保険病院外科

著者: 桂巻正

ページ範囲:P.1413 - P.1413

 当院がある滝上町は北海道のオホーツクに位置しており,紋別市から内陸に約35km入ったところにある人口約3,300人の町です.典型的な僻地の町であり,医療機関は当院しかありません.町の主要な産業は主に農業,酪農,林業です.観光資源としては5月中旬頃から満開になる滝上公園の芝さくらが有名です.満開になるとピンクの絨毯を敷き詰めたように公園全体がピンク一色に染まり,芝さくら特有の甘い香りが漂います.また,町内を流れる渚滑川はニジマスが釣れることで全国的に有名ですが,キャッチアンドリリースで資源を保護しています.昨年,私も30cmぐらいのニジマスを釣り,もちろんリリースしました.

 当院は昭和31年に国民健康保険病院として開設され,歴代の病院長は札幌医科大学第1外科から輩出されてきました.私は第7代の院長になります.現在は病床数54床(一般26床,療養28床)で,常勤医は2名(外科1名,内科1名)です.常勤医は2人だけですので,月に10回ずつ当直しています.しかし,金曜日の夕方から日曜日の夕方までは札幌医科大学第1外科から当直医を派遣していただいており,週末は自宅でのんびりしています.僻地の病院にしては入院患者が多く,病床稼働率は97%ぐらいで,秋から冬にかけてはオーバーベッドになることもあります.外来患者は1日に約150名で,私は毎日約40名の患者さんを診察しており,外科疾患だけでなく高血圧や高脂血症,糖尿病などの内科疾患の患者さんも診ています.午後は病棟回診と処置を行っています.また,在宅医療も行っており,月,木,金曜日の午後に約10名の患者さんのお宅を訪問しています.毎朝7時30分には病院に行って仕事を始めることにしており,多忙な毎日です.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・5

セットアップということ

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1415 - P.1421

 先日,京都のJSES縫合結紮セミナーを受講して下さったある先生に「トレーニングルーム読みましたよ」っていわれました.残念ながら講習会も終わり間際だったもので,もっと早く教えていただければ,伝説の縫合・結紮奥儀「みず結紮」をご披露できたのに….この奥儀は危険すぎて自らあえて封印した技です.その名の通り「みず結紮(見ず結紮)」,すなわち,眼をつぶって結ぶという荒業で臨床上はとても危険な手技です.絶対に真似しないで下さい.まあ,いずれにしてもこんな拙い文章を読んで下さっている先生がいらっしゃるということが判明しましたので,これからは「襟を正して」少しでも皆様のお役に立てるよう,また,締め切りに遅れないよう努力していく所存であります.

 では早速,襟を…あっ,オペ着には襟がない(!)

 今回はparallelな場面での結紮についてお話しします.この話にはまず,縫合・結紮といいますか,内視鏡下手術自体の基本的set upを理解しておく必要があります.

臨床研究

腎移植患者におけるbiapenemの安全性および有用性の検討

著者: 土井篤 ,   北田秀久 ,   井上重隆 ,   錦建宏 ,   三浦敬史 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1423 - P.1427

はじめに

 近年,わが国の腎移植は生存率・生着率ともに著明に改善している.これは安定した手術手技の確立や,術前・術後管理の進歩,より強力な免疫抑制剤による急性拒絶反応の抑制などによるものが大きいと考えられる.

 しかし,それに伴う感染症や非免疫学的移植腎症に対する治療が重要となり,これらに苦慮することも少なくない.腎移植患者は,免疫抑制剤内服によるcompromised hostの状態であることから,いったん感染症を発症すると重篤化しやすく,早期の診断・治療が非常に重要となってくる.同時に,感染症治療においても移植腎機能保持を考えた薬剤選択が必要となる.

 多くの薬剤は腎排泄型であるため,治療効果と腎保護の両面を考慮しなければならない.現在,腎移植患者の感染症に対し確立した治療プロトコールは存在せず,薬剤の選択や投与量に苦慮することも多い.

 カルバペネム系抗生物質であるビアペネム(biapenem:以下,BIPM)はグラム陽性菌・陰性菌および嫌気性菌に幅広い抗菌スペクトラムを有し,強力な抗菌活性を示している1).また,腎dehydropeptidase-Ⅰ(以下,DHP-Ⅰ)に対して安定であるため,単剤での使用が可能となっていること2),中枢神経系への副作用が少ないことから3),腎機能の低下した患者4)や透析患者5)に対しても使用しやすいことが報告されている.

 しかし,腎移植後患者に対する使用について検討した報告は未だなされていない.そこで今回われわれは,腎移植後患者に対するBIPM投与の安全性・有用性について検討を行った.

臨床報告

術後再発した腸間膜デスモイド腫瘍の1例

著者: 丸山昌伸 ,   稲葉基高 ,   木村臣一 ,   三村哲重

ページ範囲:P.1429 - P.1433

はじめに

 デスモイド腫瘍は増殖した線維芽細胞を主体とする軟部腫瘍である.遠隔転移はしないが,浸潤性に増殖して周囲臓器の圧迫や閉塞をきたし,外科切除後にも再発を繰り返すなど治療に難渋することが多い1).今回われわれは,腸間膜に発生したデスモイド腫瘍の切除後再発症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

原発性胆囊管癌の1例

著者: 鹿股宏之 ,   小林健二 ,   加瀬建一 ,   篠崎浩治 ,   河野勲 ,   真杉洋平

ページ範囲:P.1435 - P.1439

はじめに

 原発性胆囊管癌は稀な疾患であり,術前診断は比較的困難とされている1).今回われわれは術前に診断し得たFarrarの診断基準2)を満たす原発性胆囊管癌の1例を経験したので報告する.

肝切除シミュレーションによる肝静脈ドレナージ領域確認が切除範囲決定に有用であったS7肝細胞癌の1例

著者: 杉本貴昭 ,   山中潤一 ,   平野公通 ,   斉藤慎一 ,   中井紀博 ,   藤元治朗

ページ範囲:P.1441 - P.1445

はじめに

 肝切除は,肝癌に対する標準治療法の1つとして広く認識されている.肝細胞癌が右肝静脈付近に存在する場合,右肝静脈切除を含めた肝切除を検討する必要がある.

 従来,肝内の静脈間には交通がみられるため,主肝静脈を結紮切離してうっ血があっても臨床的にあまり問題はないとされてきた1).しかし,肝移植におけるグラフト肝や肝切除後の残肝の肝静脈うっ血は残肝再生を障害し,うっ血領域は萎縮することが報告され2,3),残肝容積のみならず,うっ血領域の予測が術後の機能的残肝容積評価に重要と考えられている.

 今回筆者らは,術前肝切除シミュレーションによる肝静脈ドレナージ領域の確認が切除範囲決定に有用であったS7肝細胞癌の1例を経験したので報告する.

FDG-PETで陰性所見の脾原発炎症性偽腫瘍の1例

著者: 渡辺伸和 ,   白戸博志 ,   伊藤卓 ,   大石孝 ,   田中昭宏

ページ範囲:P.1447 - P.1450

はじめに

 脾原発炎症性偽腫瘍(脾原発inflammatory pseudotumor:以下,脾原発IPT)は比較的稀な疾患で,炎症の時期や程度により画像所見が一定でない1).よって,超音波検査,CT,MRI,ガリウムシンチグラフィ,血管造影などの検査が施行されることが多い.近年,脾原発IPTに対しても18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography(以下,FDG-PET)を施行した症例が報告されるようになった2~5)

 今回われわれは,FDG-PETにて陰性所見の症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

残胃癌による輸入脚症候群の1例

著者: 箕畑順也 ,   萩野真 ,   吉田彰 ,   石川靖二 ,   眞鍋信也 ,   湧谷純

ページ範囲:P.1451 - P.1455

はじめに

 輸入脚症候群とは,胃切除後のBillroth-Ⅱ法再建やRoux-en-Y再建ののち,種々の原因によって輸入脚が通過障害をきたし伸展拡張する病態を総称したもので,胃切除術後の合併症としては比較的稀なものとされる1,2).今回われわれが経験した胃切除後30年目に輸入脚症候群を発症した輸入脚症候群の1例について,文献的考察を加え報告する.

心臓原発血管肉腫の1例

著者: 平野智康 ,   大内浩 ,   谷津尚吾 ,   三浦真梨子 ,   石丸新 ,   忽滑谷通夫

ページ範囲:P.1457 - P.1461

はじめに

 心臓原発血管肉腫は非常に稀かつ予後不良な腫瘍であり1~3),治療法が確立していない.今回われわれは心機能を温存した手術を行い,QOLを確保しながら術後の集学的治療を行い,良好な結果を得たので報告する.

1200字通信・5

帰属しない医師達

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 今年の5月,私が所属する岡山大学第1外科学教室を主宰する教授の定年退官記念式典が行われ,私も出席してきました.

 岡山大学医学部は明治3年(1870年)に岡山藩医学館として創設されたもので,東京大学医学部に次ぐ歴史がありますが,第1外科学教室もその開講記念会が今年10月で75回を数える歴史を持っています.会員数は2008年版の会員名簿では900名近く,2004年以後のNPOザ・ファーストへの新入社員を加えると900名を超す規模になります.今回の記念式典では400名を超える参加があったということで,その半数近くが出席したことになりました.さらに,来賓として他科の先生方も出席しておられ,私も研修先で一緒だった先生と20数年ぶりにお会いするなど,いたるところでミニ同窓会が開かれることになりました.

勤務医コラム・5

術後鎮痛

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1456 - P.1456

 皆さんは術後の痛み止めをどうしていますか? 外科医は誰でもそうですが,手術手技のことばかり考えて,痛み止めのことまではつきつめて考えないものです.私も長い間無頓着でした.大きい病院にいたときは,麻酔科の先生がEpi(硬膜外チューブ)を入れてくれていればそれを適当に使ってお茶を濁し,Epiがなければないでボルタレンやペンタジンを使い,これまたお茶を濁す.「おなかの中のことがちゃんとできていれば,患者は数日で元気になる」と高を括り,ダラダラ年月が流れるに任せてきました.しかし,中小の病院でgood reputationを得たい場合には術後鎮痛についてまじめに考えなければなりません.

 Epiでは術場搬入から執刀までの時間が長くなるし,片効きだったり,効きすぎて血圧が下がったりすることもあって監視が必要となり,採用できません.手間がかかりすぎるしトラブルの元です.

書評

安達洋祐(編)『外科の「常識」―素朴な疑問50』

著者: 馬場秀夫

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 かねてから『臨床外科』(医学書院)誌上で連載中であった「外科の常識・非常識」がついに書籍として発刊された.ついに,と書いたのは,以前よりこの連載企画には興味があり,一度まとめて読んでみたいと思っていたからである.

 本書はわが国の外科医が日常診療を行うにあたり,一般的に常識化(もしくは非常識化)している内容を,最新の知見を交えた上で改めて検討し,その真偽を問い直すことに主眼を置いている.誌上掲載時には「人に聞けない素朴な疑問」というサブタイトルをもっていたが,もはや同僚外科医師の間では論議にならないほど当然のことになっている外科診療上の一種の決まりごとを今一度分析し,その「常識」にメスを入れているのである.おそらく私もそうであったように,ここで取り上げられている「常識」には,外科の新人研修医時代から先輩医師を通じて,臨床の現場で経験的に身につけてきたものが多数あり,外科医として一人前になる過程で必要不可欠な事項ともいえる.だからこそ,今さら「人には聞けない」ということなのだが,逆にある程度臨床経験が豊富になるとともに,時には本当にそうなのかと感じる外科の慣行が含まれることも事実である.

坂井建雄,河田光博(監訳)「プロメテウス解剖学アトラス 頭部/神経解剖」

著者: 仲嶋一範

ページ範囲:P.1434 - P.1434

 書評を書くに当たり,まずは解剖学実習を終えたばかりの現役の医学生たち数名に率直な感想を聞いてみた.いずれもとても高い評価であり,「こういう本を読みながら実習を進めれば,自分の解剖学の勉強もより効率的で奥深いものになっていたに違いない」という感想であった.そろってそのような感想が出てくるに足るユニークな特徴を,この本は有している.

 古典的で著名な複数のアトラスを含め,解剖学のアトラスは数多く出版されているが,本書は,単なる「地図帳」的なアトラスというよりは「図鑑」的であり,子どものころに夢中になって読んだ図鑑のように,いつの間にか引き込まれていろいろなページをめくり,熱中してしまうような面白さがある.医学生にとって必要かつ重要な情報が,コンピューターグラフィックスによる洗練されたわかりやすい画像情報に乗って快適に展開される.情報量は大量であるにもかかわらず,楽しみながら読み進めるうちに知らず知らずのうちにさまざまな知識が身についていくものと思う.

ひとやすみ・51

より安全な医療機器を求めて

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1411 - P.1411

 医療器具の製造・販売の許認可は,国の機関である厚生労働省によってなされる.さらに,医療器具を使用する際には,明示された使用方法に従って行う義務がある.しかしながら,現場では安全で使いやすいように,しばしば細工をしたり使用法を変えたりしている.

 本誌の69巻4号(2009年4月号)の「カラーグラフ」欄に,愛用の手術器具として「電気メス」を紹介させていただいた.電気メスのブレード先端が長いため,当院では先端に絶縁体であるゴムのネラトンを被せて使用している.この工夫によってブレードの基部が周囲臓器に接触しても熱損傷を及ぼさないため,電気メスを安全に使用できるようになった.そこで,ほかの医師にも推奨したくて,1つの工夫として紹介した.

昨日の患者

羅生門

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1427 - P.1427

 古今東西,真実は1つであるが,人はそれぞれ自分なりの解釈で自己の行為を肯定する.芥川龍之介に「羅生門」という作品がある.1人の侍が殺害された事件を,殺害された侍,殺害した盗賊,侍の妻,目撃者がそれぞれの立場で自己の行為を肯定して証言する.

 80歳代半ばのS先生は,かつて医学部教授を務めた恩師である.ある日突然,奥様から電話がかかってきた.「夫が急に左半身に力が入らなくなったのですが,どうしたらよいでしょう」.電話では詳細がわからないため,まずは病院に来ていただいた.S先生の症状から頭部疾患が疑われたため,頭部CT検査を施行した.すると,外傷などの既往はなかったが,右慢性硬膜下血腫であった.当院には脳外科がないため,同級生が院長を務める脳疾患専門病院に治療を依頼した.S先生の教え子でもある同級生は快諾し,即転院手続きが行われた.そして転院の直後に緊急ドレナージ手術が行われた.術後の経過は良好で,手術の翌日から経口摂取や歩行が可能となった.そして術後2日目にはドレナージチューブを抜去して退院した.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1468 - P.1468

 消化器外科における経腸栄養の意義と役割という特集が今回のテーマである.外科,特に消化器外科における栄養管理の進歩は,これまで外科治療成績の向上に,特に術後合併症を軽減するための方策として大きな貢献をしてきた.私が医学部を卒業して間もない頃,中心静脈栄養法が欧米からわが国にも導入されてこれまでの一般輸液のみの術後管理が一変し,実地臨床にきわめて大きなインパクトを与えたものである.当時,この新たに導入された中心静脈栄養について活発に多くの研究がなされ,ますますの発展がみられた.その後,中心静脈栄養法による多くの臨床経験を踏まえてその問題点も明らかにされ,経腸栄養法が主流となってきた.もちろん,現在のように経腸栄養が国際的にも主流の時代にあっても,症例によっては中心静脈栄養法に頼らざるを得ないときもありその意義が失われたわけではないが,外科栄養の研究・進歩の中心が明らかに経腸栄養に移ってきているのは間違いない.

 このように私が医学部を卒業して間もない時代,わずか30年で臨床医学も大きく変動し進歩しているわけである.このことから,今現在ある教科書はもちろん,様々なガイドラインにおいて書かれている内容の多くが10年単位のレベルで変わっていくであろうことは容易に予想がつくことである.日々行われる今現在の最新(?)医療と思われている内容の問題点,限界などを常に意識してこそ新たな医療の開発に向けた医学研究の必要性の高さや意義が理解できる.若い外科医も自らがこのような臨床医学の進歩を支えているということを常に十分に意識して自らの臨床外科研修を行い,scientific mindを持ち続けて勉強をしていってほしいものである.すなわち単に知識を増やすだけでなく,今学んでいる最新医療の限界,問題点を認識し,研究心を持って創造的な姿勢で日々の研修を行い,目の前の患者さんのみでなく,さらに多くのこれからの患者さんのためにも貢献してもらいたい.今は若い医師でも,これから20年後,30年後にも今教わっている医療の常識のままに臨床を続けていては,そのときにはすでに「旧い臨床医」となってしまうことを忘れないでいて欲しいのである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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