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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

特集 内視鏡下手術―もう一歩のステップアップのために

手術台ローテーションを利用したhybrid胸腔鏡下食道切除術―縦隔リンパ節郭清のコツ

著者: 竹内裕也 ,   大山隆史 ,   才川義朗 ,   和田則仁 ,   高橋常浩 ,   中村理恵子 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1647 - P.1653

要旨:慶應義塾大学外科ではこれまで胸部食道癌に対して左側臥位胸腔鏡下手術を行ってきたが,腹臥位胸腔鏡下手術の導入にあたり手術台ローテーションを利用して,上縦隔郭清操作は従来の左側臥位で行い,中下縦隔郭清操作を人工気胸下腹臥位で行う“hybrid”胸腔鏡下食道切除術を考案した.この術式は左側臥位,腹臥位のそれぞれの利点を取り入れた新しい術式であり,徹底した縦隔リンパ節郭清が安全に施行可能であると考えている.本稿ではその要点とリンパ節郭清のコツにつき紹介する.

腹腔鏡下胃切除術の基本手技

著者: 白石憲男 ,   上田貴威 ,   衛藤剛 ,   安田一弘 ,   猪股雅史 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1655 - P.1660

要旨:日本内視鏡外科学会(JSES)の第9回アンケート調査によると,腹腔鏡下胃切除術は急速に増加しており,2007年には年間4,700例が行われている.なかでも腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)の普及は著しい.LADGにはlearning curveが存在するといわれており,手術チームの効率のよいスキルアップが望まれている.カメラ助手による「良好な画像」の作り方,助手による「術者が操作しやすい局所環境」の整え方,そして術者による「組織の愛護的操作」,などの技術の習得が期待される.本稿では,LADGのスキルアップのための基本手技について述べたい.

十二指腸疾患に対する腹腔鏡下手術

著者: 加藤敬二 ,   小嶋一幸 ,   山田博之 ,   井ノ口幹人 ,   大槻将 ,   藤森善毅 ,   河野辰幸 ,   杉原健一

ページ範囲:P.1661 - P.1665

要旨:十二指腸疾患に対する腹腔鏡下手術は,十二指腸潰瘍穿孔や十二指腸良性腫瘍に対して施行されている.十二指腸潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下手術では,穿孔部の確実な閉鎖と,腹腔内の十分な洗浄・ドレナージが必要である.十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡下手術では,自動縫合器使用のための腫瘍の局在に応じたポート位置の選択が重要である.腫瘍の位置により自動縫合器が使用できない場合には,縫合・結紮手技も必要となる.本稿では当科で行っている十二指腸疾患に対する腹腔鏡下手術について述べる.

腹腔鏡下虫垂切除術

著者: 渡井有 ,   加納宣康

ページ範囲:P.1667 - P.1673

要旨:腹腔鏡下虫垂切除術は,超音波凝固切開装置(USAD)などの器具の開発・普及に伴いもはや標準化された術式といえる.全身麻酔が可能なすべての症例が適応となるが,施行するにあたっては症例により,前処置・体位・ポートの設定位置と入れ替え・ピットフォール・偶発症・合併症を理解することでより安全な手術が可能となる.習熟すれば視野も良好で開腹手術に比べて手術時間が延長することもない.現在の腹腔鏡下虫垂切除術普及の最大の問題点は,不十分な保険診療点数によって普及が妨げられていることにある.

大腸癌に対する腹腔鏡下手術―さらなるステップアップのために

著者: 福永正氣 ,   杉山和義 ,   菅野雅彦 ,   李慶文 ,   永仮邦彦 ,   須田健 ,   飯田義人 ,   吉川征一郎 ,   伊藤嘉智 ,   勝野剛太郎 ,   大内昌和 ,   平崎憲範 ,   津村秀憲

ページ範囲:P.1675 - P.1682

要旨:大腸癌に対する腹腔鏡下手術は標準手術の1つとしてより安全な運用が望まれ,技術認定医の取得は手技のさらなるレベルアップを目指すうえで具体的なよい目標となる.本稿では,筆者の評価基準をクリアできると考える手技を概説する.この内容は技術審査委員会にかかわり評価基準の統一化をすすめてきたもので,多くの審査員の見解とほぼ乖離のない手技と考えている.腹腔鏡下手術の安全性の向上と技術認定医の取得に本稿が役立つことを期待したい.

腹腔鏡下肝切除における手術手技のステップアップ

著者: 前田徹也 ,   大塚由一郎 ,   金子弘真

ページ範囲:P.1683 - P.1688

要旨:肝腫瘍に対し,今後の標準的治療の1つとして役割が期待される腹腔鏡下手術を安全に導入する際のファーストステップとして重要な点は,まず適応を好ましいものに厳選することである.出血制御の良好な肝実質切離をするため熱凝固機種を用いて切離線の前凝固を行うこと,大きな脈管に対しては腹腔鏡用の自動縫合器を用いることなどが基本的手技である.完全腹腔鏡下手技のみならず,腫瘍の局在や術式によってはhand assistや腹腔鏡補助下手技を併用することも腹腔鏡下肝切除の安全性の確保につながる.そして,症例の積み重ねによりステップアップした段階で適応拡大を目指す.

胆道疾患に対する腹腔鏡下手術

著者: 森俊幸 ,   青木久恵 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1689 - P.1695

要旨:比較的炎症の少ない胆囊に対して胆摘が必要な際には,腹腔鏡下胆囊摘出術(以下,ラパコレ)が第一選択の術式であることに異論は少ない.従来,急性・慢性胆囊炎は技術的難度の高さから,本術式の相対・絶対禁忌とする論調も過去にはあったが,現在では,これらの胆囊炎もすべてラパコレでよいと考えられるようになった.特に急性胆囊炎では,発症後早期の手術が勧められている.肥満や妊娠・高齢者などもラパコレの禁忌とはならないが,Mirizzi症候群に対しては,ラパコレを行わないとする見解が多い.炎症の少ない胆囊では,単一創から器械で手術を行うsingle port surgeryが普及してきている.

膵疾患に対する内視鏡下手術

著者: 中村雅史 ,   河野博 ,   高畑俊一 ,   上田純二 ,   清水周次 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1697 - P.1701

要旨:腹腔鏡を用いた膵臓手術の分野で,比較的よく行われている膵体尾部切除の手術手技に関して概説した.膵は長い後腹膜臓器であり,場の展開や各種膜の切離法で手術手技の容易性が大きく変わる.また,短くクリップで処理しにくいが大量出血の原因となりうる脾動静脈枝が多く分枝しており,術後は膵液瘻が発生する危険性がある.このように,腹腔鏡下膵体尾部切除術は単純であるがハイリスクな手術である.今回は,これらのリスクを解決するためにわれわれが行っている工夫を含めて解説した.

腹腔鏡下脾臓摘出術

著者: 佐々木章 ,   新田浩幸 ,   中嶋潤 ,   大渕徹 ,   馬場誠朗 ,   若林剛

ページ範囲:P.1703 - P.1707

要旨:脾腫を伴った患者に対する腹腔鏡下脾臓摘出術は,偶発症や開腹移行が高率である.標準的な脾臓摘出術に習熟した施設が,今後,脾腫例に適応を拡大するうえで必要な手術手技,偶発症への対処法と周術期管理での注意点を概説する.

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)における高難度症例に対する手技のコツ

著者: 三好康敬 ,   鈴江ひとみ ,   坂東儀昭

ページ範囲:P.1709 - P.1715

要旨:筆者は2009年3月までに437例の腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)を経験し,ほぼ定型的な手技を完成させたと考えている.TAPP法は手技の完成度と病変の診断能が最も高いが,指導者不足と手技が難しいとの誤解があり十分には広まっていない.さらに,TAPP法を導入したものの手技に慣れる前の早い段階で難しい症例に出会いTAPP法を断念した外科医も多い.しかし高難度手術症例においても,熟練した指導医の下でいくつかの要点を押さえて行えばその手技は複雑ではなく,比較的容易で安全に行えると考えている.筆者の経験をもとにそのコツを述べた.そして,初回手術が腹膜前腔に操作の及ぶ再発症例などの難しい症例は,手技に習熟するまでは熟練した指導者とともに行うことを原則とするべきことを付け加えて強調した.

呼吸器胸腔鏡下手術の最適化

著者: 森川利昭

ページ範囲:P.1717 - P.1722

要旨:胸腔鏡下手術はその低侵襲性から,いまや肺癌手術を含めた呼吸器手術の1つの標準となっており,今後なおいっそうの発展が期待される.胸腔鏡下手術のステップアップのためには,基本に返った見直しと改良による最適化を目指すことが重要と思われる.われわれは外科手術の基本原理に返り,アプローチの決定や手術器具の開発を含め,一から胸腔鏡下手術を作り上げてきた.本稿では,われわれの手術を通して胸腔鏡下手術のステップアップのためのポイントを紹介した.

内視鏡下系統的乳腺切除術・内視鏡下腋窩リンパ節手術の理論と実際

著者: 山形基夫 ,   松田年 ,   杉山順子 ,   加茂知久 ,   森下友起恵 ,   佐藤一雄 ,   林成興 ,   藤井雅志 ,   高山忠利

ページ範囲:P.1723 - P.1731

要旨:近年,乳癌に対する低侵襲治療やoncoplastic surgeryの概念が普及し,乳房の整容性について注目されている.われわれは乳輪アプローチによる内視鏡下乳房温存手術の有用性と術後遠隔成績について,通常法と遜色がないことを報告してきた.乳癌のような長期生存が可能な疾患においては長期的侵襲の軽減,すなわち整容性とともに上肢の機能をいかに温存するかが術後のQOLを確保するうえで重要である.現在われわれは,乳房の整容性保持のため乳腺部分切除から皮下乳腺全摘術までを同一の手術創から一期的に施行できる内視鏡下系統的乳腺切除術を施行している.また内視鏡下腋窩リンパ節郭清術の長期成績から上腕の浮腫や機能障害はほとんどみられず,長期的な侵襲の低下と十分な整容性が認められており,この2つの術式を用いた乳房温存術式の理論と実際について述べた.現在種々の低侵襲治療が開発されているが,本法は腫瘍の大きさにかかわらず施行できるため有用であると考えられる.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・12

肝切除に愛用の手術器具・材料

著者: 有田淳一 ,   國土典宏

ページ範囲:P.1637 - P.1643

はじめに

 肝切除は最近の20年間で世界的に進歩し,安全性も格段に向上したが,いうまでもなく手術器械の開発・改良もその一翼を担っている.肝切除を確実・安全に行うために注意する点を手術の進行順に挙げると,①皮膚切開や開腹(胸)法の選択あるいは肝授動により目的とする肝離断のために必要十分な視野を得ること,②肝離断面を離断前に正確に把握し,予定したラインで肝離断を進めること,③よい視野で脈管損傷なく肝実質を離断すること,④露出した各脈管を確実に処理すること,⑤離断面に肝離断中の出血量を減らす工夫が重要である.いずれの手順においても手術器具の選択は重要な要素である.

 本稿では,われわれが使用している手術器具を紹介・説明する.

病院めぐり

東芝林間病院乳腺外科

著者: 竹中晴幸

ページ範囲:P.1732 - P.1732

 当院は東京のベッドタウンである神奈川県相模原市にあります.当市は東京都と県境を接する人口約60万の街で,近年は政令都市の候補に挙がっています.この都会の住宅地で,東京ドームがすっぽり入る広大な敷地のなかに樹木約1千本に囲まれて当院は建っています.一歩病院に入って院庭に足を入れると,小鳥のさえずる森林のなかにいる錯覚さえ覚えます.特に3,4月の桜の季節は市内でも有数の桜の名所として知られており,病院でありながら花見客が訪れる次第です.

 当院は字のように(株)東芝と深い関わりがあります.当病院は昭和28年に東芝職員の結核療養を目的として東芝健保組合の病院として生まれました.当時は結核が不治の病と言われていた時代で,呼吸器疾患の療養には身体によいマイナスイオンの空気が必要でした.このため院庭には四季折々の草花や樹木が植えられ,結核患者の療養と心の支えになったものと思われます.この先人たちの業績が今の当院の庭に受け継がれています.

社会福祉法人聖テレジア会聖ヨゼフ病院外科

著者: 前田長生

ページ範囲:P.1733 - P.1733

 当病院は昭和14年に横須賀海仁会病院として開設され,旧海軍士官とその家族の診療にあたっていました.終戦後の昭和21年にフランス人のブルトン司教によって現名称に改名され,以来,カトリック精神を基盤に一般急性期病院として横須賀中央で地域住民の診療を行ってきました.現在は一般急性期146床,療養36床のケアミックス型病院として地域に密着した診療を継続しています.

 横須賀市はご承知のように原子力空母ジョージ・ワシントン率いるアメリカ第7艦隊の母港地です.隣り合わせて日本の海上自衛隊が駐屯し,市内に通じる高架道路からは潜水艦から空母まで壮大な艦隊群が見渡せます.また,市内の臨海公園には日露戦争当時に世界最強とされたバルチック艦隊を撃破したイギリス製の旗艦三笠が係留・固定されてあり,海軍の歴史が色濃く残る街です.ここ三浦半島は鎌倉幕府の頃に源氏の水軍として名を馳せた三浦氏勃興の地でもあり,元より海とは深い関係にあった土地柄のようです.実は日本人には馴染み深いカレーライスも海軍と深い関係があり,旧帝国海軍では長い洋上生活で曜日を忘れないように金曜の昼食は決まってカレーライスを食べたそうです.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・7

ラパロを制する縫合・結紮トレーニング

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1734 - P.1739

「深イイ」話

 先日,JSES主催の縫合・結紮講習会を受講された香川県の先生から「お忙しいところ,突然のお問い合わせ」なるお手紙を頂戴しました.内容はドライボックスのことでした.この先生は熱心にも自作のドライボックスでトレーニングをされているそうで,写真が同封されていました(図1a).この手作り感,たまりません! 段ボールをガムテープで貼り合わせ,大腸外科専門だけあって,みるからにホームセンターで入手したであろう土管で骨盤内を表現…素晴らしい!! この熱意と発想があれば,必ずや先生はラパロの達人となるに違いありません(図1b).

 私としましては,この写真を見て1つだけ気になったことがあります.それはドライボックスを置いている台.白黒で分かりにくいかもしれませんが,ところどころすり切れて穴のあいたピンクの丸椅子です.おそらく,長年にわたる椅子としてのお勤めを果たしてボロボロになり,まさに粗大ごみとしてリストラされる間際だったのでしょう.そんなとき先生に拾われ,ドライボックスの台として第二の人生を与えられた丸椅子….「深イイ」話ではありますが,トレーニングにお金がかけられない現実を如実に物語る写真です(図1c).

医学生一日一歩・6

卵たちはスタートラインでその瞬間を待つ―マッチング奮闘記・2

著者: 新里陽

ページ範囲:P.1741 - P.1743

光陰矢のごとし

 いつの間にかマッチング希望先の登録も終わり,東京大学医学部は卒業試験シーズンを迎えています.すべての診療科が試験を行うため,計36個の試験が怒涛のごとく襲ってきます.この原稿を書いている時点では試験はまだ半分しか終わっておらず,甚だ不安定な心境ですが,気を取り直して今回は前回に引き続きマッチングの話を少々いたします.

臨床報告

腸管狭窄をきたしたS状結腸憩室炎の1例

著者: 高久秀哉 ,   鈴木俊繁 ,   及川明奈 ,   長倉成憲 ,   齊藤英俊 ,   岡邦行

ページ範囲:P.1745 - P.1748

はじめに

 近年,わが国において大腸憩室症が増加してきているが1),腸管狭窄を呈し手術となった症例の報告は比較的稀である1~4).今回,腸管狭窄により手術を行ったS状結腸憩室炎の1例を経験したので報告する.

十二指腸-横行結腸吻合後,長期生存した上腸間膜動脈塞栓症の1例

著者: 西村卓祐 ,   木村正美 ,   井上光弘 ,   松下弘雄 ,   原田洋明 ,   堀野敬

ページ範囲:P.1749 - P.1753

はじめに

 上腸間膜動脈塞栓症は,初診時には特異的な症状に乏しく,急激に全身状態の悪化をきたすためその予後は不良とされている.また,救命に成功した後にも,短腸症候群(short bowel syndrome:以下,SBS)となることが多く,栄養管理に難渋することが多い.特に残存小腸の長さが50cm以下の症例では高カロリー輸液(以下,TPN)投与下を離脱することは一般的に困難であるとされており,長期生存例の報告も少ない1~5)

 今回われわれは,上腸間膜動脈塞栓症にて手術を行い,残存小腸が0cmとなった症例の長期生存を経験したので報告する.

重篤な閉塞性大腸炎を発症したS状結腸癌の1例

著者: 森山秀樹 ,   北村祥貴 ,   竹原朗 ,   芝原一繁 ,   佐々木正寿 ,   小西孝司

ページ範囲:P.1755 - P.1758

要旨:症例は72歳,男性.S状結腸癌による大腸イレウスと診断され,緊急入院となった.保存的加療を行ったが腹痛および炎症所見の悪化を認め,腹部造影CTを施行した.結腸周囲の脂肪組織濃度が上昇しており,閉塞性大腸炎と診断した.腸管減圧目的に人工肛門造設術を施行した.術後11日目の内視鏡検査で結腸粘膜はpseudopolyposisの状態であった.また,上行結腸-横行結腸瘻および結腸穿孔を認めた.S状結腸切除および回腸瘻造設術を施行した.術後6か月目の検査で結腸粘膜は正常化し,穿孔および瘻孔の自然閉鎖を認めた.多彩な病態を示した重篤な閉塞性大腸炎の経験を,その画像所見とともに報告する.

胆囊結石症,急性胆囊炎を契機に発見されたcholedochoceleの1例―本邦報告例からの考察

著者: 花井雅志 ,   加藤万事 ,   山口洋介 ,   佐々木英二 ,   杉浦友則 ,   雄谷純子

ページ範囲:P.1759 - P.1763

はじめに

 胆管拡張症はAlonso-Lejら1)が3つの型に分類した比較的稀な疾患だが,Ⅰ型が多くⅢ型(choledochocele)は稀である.今回,胆囊結石症,急性胆囊炎を契機に発見されたcholedochoceleの1例を経験した.胆囊摘出ののち,内視鏡的乳頭括約筋切開術(以下,EST)を施行し,良好な経過を得ることができた.Choledochoceleの本邦報告例についても集積し,文献的考察を加えて報告する.

S状結腸癌術後2年目に肺内リンパ節に転移をきたした1例

著者: 北川美智子 ,   蔦幸治 ,   栃木直文 ,   関根茂樹 ,   渡邉俊一

ページ範囲:P.1765 - P.1768

はじめに

 大腸癌(結腸および直腸癌)術後の肺転移は全大腸癌の10%程度に認められているが1),肺内リンパ節への転移を伴う症例の報告は認められない.今回われわれは,肺実質転移とともに,肺内リンパ節に大腸癌転移をきたした症例を経験したため,若干の考察を加えて報告する.

98歳超高齢者に生じた盲腸捻転症の1例

著者: 松尾篤 ,   宮喜一 ,   安藤暢洋 ,   瀬古章

ページ範囲:P.1769 - P.1772

要旨:患者は生来健康で日常生活は自立している98歳男性であり,突然の腹痛,嘔吐をきたし近医よりイレウス疑いで紹介され受診した.腹部CTで右側結腸閉塞によるイレウスが疑われ,全身状態が安定していたため大腸内視鏡検査を施行したところ肝彎曲を越えた直後で上行結腸が狭窄し,ガストログラフィン造影でbird's beak signと拡張腸管への造影剤流入を認めたため盲腸捻転による絞扼性イレウスと診断した.同日緊急手術を施行したところ右側結腸の後腹膜固定不全を伴う盲腸捻転を認め,回盲部切除術を施行した.術後経過は良好であった.高齢者のイレウスに遭遇した際は本疾患も念頭においた迅速な診断治療が必要であると思われた.

短報

進行直腸癌の治療経過中に皮下埋め込み型中心静脈カテーテルが断裂した1例

著者: 神藤修 ,   鈴木昌八 ,   宇野彰晋 ,   落合秀人 ,   中村昌樹 ,   北村宏

ページ範囲:P.1773 - P.1775

はじめに

 再発大腸癌に対して皮下埋め込み型ポートシステムによる多剤併用化学療法を行う機会が増加してきている.われわれは進行直腸癌の治療中に,特別な誘因なく皮下埋め込み型中心静脈(以下,CV)カテーテルが断裂した症例を経験した.癌化学療法を行ううえで注意すべき合併症と考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

1200字通信・8

歯車

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1674 - P.1674

 本連載の第2回は「おくりびと」と題して書かせていただきましたが(64巻7号),私自身,今年になって3人のおじを見送ることになりました.普段は患者さんの最期を看取り,ご家族に挨拶をしてお見送りを済ませれば終わりとなるのですが,いつもとは逆の立場で,病院のあとに続く葬送の儀式を経験することになりました.

 仕事柄,通夜や告別式のすべてに列席できずに失礼をすることもありましたが,それでも仕事を済ませてから車で走り,深夜に駆けつけることもありました.そうした場所では,いつも同じ顔ぶれが揃うことになりますが,ときに新しい親族の登場があり,辛い場面にわずかな安堵と親族縁者の新たな希望を見い出せることになります.

書評

宮崎 仁,尾藤誠司,大生定義(編)「白衣のポケットの中 医師のプロフェッショナリズムを考える」

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.1702 - P.1702

 JIMに連載されていたときから注目していた記事が,連載時より格段にバージョンアップして,1冊の本にまとめられた.タイトルは「白衣のポケットの中」,副題が「医師のプロフェッショナリズムを考える」である.そして,本書のコンセプトは,裏表紙の次のフレーズに凝縮されている.

霞 富士雄(著)「乳がん視・触診アトラス」

著者: 坂元吾偉

ページ範囲:P.1708 - P.1708

 敬愛する著者,霞富士雄先生の『乳がん視・触診アトラス』を手にしたとき,その圧倒的な症例の多さと写真の出来栄えの見事さに息をのんでしまい著者の執念を感じた.

 著者と小生は乳腺外科と乳腺病理と部署は分かれていても,30年以上も癌研で共に乳腺疾患の診療と研究に携わってきた.小生も乳腺疾患のすべての組織型の病理組織標本の収集を心がけてきたので,これだけの症例の写真をそろえることは日々の努力以外の何ものでもないことを身に染みて知っている.著者もはしがきに述べているように,「本書のような乳がんを中心とした多彩で徹底的な乳腺疾患のカラーアトラスを内外ともに私は知らない.待っていても将来,同じようなものができあがることはないであろう」.

多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治(著)「内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管(第2版)」

著者: 日比紀文

ページ範囲:P.1776 - P.1777

 大腸内視鏡診断に関する書籍はこれまでにも数多く出版されており,その中には私自身が監修したものもある.多田正大先生らが著わされた本書はこれらの類書とは一線を画する大腸内視鏡診断の分野におけるバイブルといっても過言ではない.本書は評判が高かった7年前の初版本から改版されたものであるが,基本的な執筆方針は保ちつつも最新の消化器診断学,病理学,検査機器の進歩に基づいて各項目をリファインした結果,初版より100頁以上ボリュームが増加して下部消化管内視鏡診断に必要不可欠な内容がこの一冊に網羅されている.初版に掲載された提示症例の内視鏡写真も素晴らしいものであったが,今回ほとんどの項目で症例・内視鏡写真を新たに選ばれて,「眺めるだけでも感動する」ような美麗な内容の本に仕上がっている.

 本書の根幹を成すこれら多数の症例,精選された内視鏡写真を執筆者らはいかにして集積されたのであろうか.私が類書を企画した際に,その構成とともに最も頭を悩ましたのがこの点であった.ある項目の記述を例示する症例を,と思っても読者にわかりやすくかつクオリティの高い内視鏡写真がなかなか無いのである.聞くところによると本書は大阪で定期的に開催されている「大腸疾患研究会」の例会で検討された膨大な症例が基礎となっているということである.私は「大腸疾患研究会」なるものの存在を知らなかったが,多田正大先生らが昭和49年(私は医者になってまだ2年目である)に設立し,年に5回,世話人をはじめとする施設の先生方が大腸の症例を持ち寄って熱いディスカッションを交わすという歴史あるかつレベルの高い研究会で,いわば東京で開催されている「早期胃癌研究会」の関西地域版,大腸特化版とでもいうものであろうか.「胃と腸」誌の素晴らしい内容が「早期胃癌研究会」で検討された膨大な症例に裏打ちされたものであるように,「大腸疾患研究会」でのディスカッションの熱さも予想されよう.

ひとやすみ・54

置かれた環境

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1758 - P.1758

 絶壁の岩肌に,へばり付くように植生している木々に眼が止まる.風当たりが強く土壌がほとんどないため,大地に根を張って大きく生長することはできない.このような過酷な環境においても,木々は置かれた環境に順応して生き続けている.そして,風雪に耐え抜いた姿は小さいながらも整い,感動さえ覚える.

 植物が生育するためには,水,太陽,そして適度な温度が必要である.土壌が肥沃であれば,植物は大きく成長することができる.しかし,植物は動物と異なり,みずから場所を移動することはできない.蒔かれた場所ですべてを享受し,生長して行かざるを得ない宿命にある.

昨日の患者

末期の酒

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1763 - P.1763

 死に逝く者に対して家族が枕元で口許を水で潤すことを「末期の水」と称する.死者の命が蘇ることを願って行うものとされ,かつては臨終の間際に行われていたが,昨今は息を引き取ったあとに行うことが多い.病院では飲酒は厳禁であるが,患者さんのたっての希望によって酒で別れを告げる人もいる.

 90歳代のSさんが癌の再発で入院した.Sさんは若い頃からお酒が大好きで,酒がない戦後の混乱期でも「どぶろく」と称される密造酒を飲んでいた.さらに「どぶろく」に関する逸話や作り方を講演したり種々の雑誌に紹介し,民俗学研究者としても活躍した.

勤務医コラム・7

化学療法数え唄

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1764 - P.1764

 われわれの本職である手術の成否はとても明からさまなものであり,うまくいけばいったなりの,うまくいかなかったらいかなかったなりの理由というものがあり,それを自覚できます.それに引きかえ化学療法は不思議です.化学療法というものはどうしてあんなに効かないのでしょうか.そしてたまに,どうしてあんなに効くのでしょうか.その理由を自覚できないのです.私は外科医になって27年になります.手術も化学療法もたくさんやらせてもらいました.手術のほうはそれなりに見通しがつくのですが,勉強不足のためか,化学療法は全く見通しがつきません.暗中模索ながらいろいろやってきて,化学療法の経験則みたいなものを綴ってみました.

 ①本に書いてあっても,先輩が言ったことでも,実際にやってみなけりゃわからない.②副作用を出したら負け.患者がついてこなくなる.③Doseの適量は患者によって大違い.④PRを喜ぶなかれ,そのあとが大事.癌を治療しすぎるな.⑤副作用のないlong NCがbest.⑥PR・CRなのに短命とはこれいかに? ⑦PDなら何もしないか薬を変える.⑧無用な検査をしない.顔色をよくみること.⑨経口剤で戦うのは,現時点では難しい.もしも効いたら大ラッキー.⑩痛い検査は×.⑪面到なレジメンも×.⑫夜間投与はよさそうだ.⑬患者からの信頼はプラセボ効果を生む.⑭小利口な人には薬が効かぬ.⑮糖尿は化学療法の敵.⑯外来で細く長く,入院で太く短く.⑰腫瘍マーカーも大事だが,リンパ球/単球比も大事.⑱たまに保険認可の枠からはみ出してしまうこともやむなし.⑲窓口負担を月1~2万円に抑えたい.抑えきれないときは説明を.⑳はやりものには落とし穴あり.一昔前のやり方もエエもんや.

 偉そうなことを書きましたが,私と同年代の外科の先生方なら誰でもこのくらいのことは考えているのではないでしょうか.

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あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1782 - P.1782

 北京で開催された第19回International Association of Surgeons,Gastroenterologist,and Oncologists(IASGO)に出席してきました.学会は,昨年の北京オリンピックのメインスタジアムのすぐそばにあるconvention centerで開催されました.北京オリンピックに因んだのか,今回は“International Surgical Olympics”ということで,ビデオセッションで様々な手術が提示されていました.印象深かったのは,腹腔鏡下手術の提示が非常に多く,さらにrobotic surgeryが広く扱われていた点です.中国で開催されたために,特にアジアから多くのrobotic surgeryの発表がありました.今後開始される予定の腹腔鏡下手術とrobotic surgeryとを比較する臨床試験も紹介され,日本の現状とは大分違うと感じました.

 わが国ではこの段階まで至っていないのが現状ですが,このような状況のなか,腹腔鏡下手術はよりその重要性が増していくものと考えられます.今号ではそんな腹腔鏡下手術に関して,「もう一歩のステップアップのために」と題して特集を組みました.これまで,腹腔鏡手術に関しては様々な特集が組まれています.しかし本特集では,「ある程度腹腔鏡下手術は施行してきている外科医が,もう一歩上達するコツ・ポイントは何か」という点に焦点をあて,各分野のご専門の先生方に執筆していただきました.アプローチの仕方は各執筆者によって異なっていますが,術者,助手,スコピストがどうすればステップアップできるのかを解説していただいています.さらには技術認定試験の対処法についてもご執筆いただいた分野もあります.今後の腹腔鏡下手術の上達のために,本特集がお役に立てることを期待しております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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