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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻2号

2009年02月発行

雑誌目次

特集 最近のGIST診療―診療ガイドラインの理解と実践

診療ガイドラインの理解と実践

著者: 西田俊朗

ページ範囲:P.155 - P.160

要旨:消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)の概念の変革とその治療の変遷に伴い,米国,欧州,カナダならびにわが国からGISTの診療・治療ガイドラインが提示されている.これらのガイドラインも,新しいエビデンスや治療法の確立に伴いすでに改訂が行われた.本稿では,わが国に多い検診で見つかる上部消化管の無症状の粘膜下腫瘍(GISTを含む)の診断と治療指針,これら小さいGISTないし粘膜下腫瘍への腹腔鏡下手術の適応と意義,進行GISTの予後改善を目指したアジュバント治療を含む集学的治療の現状,そして,イマチニブが導入され数年が経過した今,進行GIST患者を悩ますイマチニブ耐性GISTの診断と治療に関して,ガイドラインの理解を深めるとともに,最新の情報を紹介したい.

GISTの病理組織診断と遺伝子診断

著者: 櫻井信司 ,   坂元一葉

ページ範囲:P.161 - P.166

要旨:GISTは消化管に発生するKITを発現し,c-Kit遺伝子変異ないしはPDGFRA遺伝子変異を示す特殊な腫瘍である.大部分は肉眼的,組織学的および免疫組織化学的な病理組織診断によって容易に診断することができる.しかし,10%程度のGISTにKIT陰性ないし弱陽性を示す症例があり,このような症例では診断に苦慮する場合がある.また,稀にNF1や小児,傍神経節腫に合併するGISTの亜型が存在し,このようなGISTではc-KitPDGFRA遺伝子変異は存在しない.病理組織学的な診断だけでなく,患者背景,遺伝子診断を併用してGISTの組織亜型を正確に分類しておくことは,予後の推測,正しい治療の選択をするためにも重要と考えられる.

GISTからみた粘膜下腫瘍の治療方針

著者: 菅沼和弘 ,   才川義朗 ,   竹内裕也 ,   久保田哲朗 ,   北川雄光

ページ範囲:P.167 - P.170

要旨:GIST診療ガイドラインが出版され,胃粘膜下腫瘍の治療方針も示された.現状ではFNABの普及率が低く,日常診療において粘膜下腫瘍の正確な病理学的診断が困難であるため,常にGISTを念頭に入れた治療方針を立てる必要がある.これを踏まえたうえで今回のガイドラインを理解し,実践する一助としてその特徴を解説する.さらに今後,日本発のエビデンスを示していく可能性についても考えたい.

GISTの外科治療

著者: 掛地吉弘 ,   増田隆伸 ,   岡田敏子 ,   佐伯浩司 ,   遠藤和也 ,   森田勝 ,   江見泰徳 ,   前原喜彦

ページ範囲:P.171 - P.178

要旨:外科的完全切除がGIST治療の第一選択であり,原発GISTの治療原則でもある.粘膜下腫瘍で腫瘍径が5cmを超えると悪性化の頻度が高く,手術の絶対的適応となる.5cm未満の腫瘍に対しては,増大傾向,超音波内視鏡で悪性を疑う所見,穿刺細胞診でGISTの診断確定のいずれかがあれば手術の適応となる.GISTの切除は肉眼的断端陰性を確保した局所切除でよく,リンパ節郭清の必要はない.偽被膜の損傷に注意し,術中操作によるruptureを避ける.切除後は腫瘍の悪性度を病理学的に評価し,5年以上のフォローアップを行う必要がある.切除不能例にはイマチニブの投与を検討する.

転移・再発GISTに対するイマチニブ治療

著者: 澤木明 ,   山雄健次

ページ範囲:P.179 - P.183

要旨:転移・再発GISTに対するイマチニブ治療は,欧米の臨床試験の結果から80%を超える病勢コントロール(有効+不変)が得られること,病勢コントロールが得られれば予後が改善されることが示された.また,その後の検討により全生存期間の中央値が約5年であることが示された.一方,わが国で行われた74例を対象とした臨床試験においても欧米と同様の結果が得られており,人種間差がないことが示された.また,イマチニブ治療中断で早期に増悪することが報告され,治療の継続が推奨されている.副作用はわが国の試験でも同様の結果であったが,骨髄抑制が高い傾向がみられた.本稿ではイマチニブ特有の副作用について解説し,その対処法を紹介した.

イマチニブによる術前・術後補助化学療法

著者: 平井敏弘

ページ範囲:P.185 - P.192

要旨:GISTに対するグリベック®を使用した術前補助療法には問題点も多い.有効でない場合,逆に外科的切除の機会を失う可能性もある.なによりも,術前化学療法による効果や安全性は未だ直接的には証明されていない.術後補助療法の臨床試験としてはAmerican College of Surgical Oncology Group(ACOSOG)がZ9000とZ9001を行い,その結果が公表され,様々な議論を呼んでいる.Z9000試験の結果から,clinical malignant GISTに対しては術後補助療法に同意が得られるのではないかと思われる.Z9001試験の結果からは,腫瘍径6cm以上のGISTで,特にエクソン11変異のある症例では術後補助療法に意味があるといえそうであるが,これらの見解は傍証に基づくものであり,現時点では根拠に乏しいといわざるを得ない.

イマチニブ耐性に対する局所療法

著者: 神田達夫 ,   松木淳 ,   小杉伸一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.193 - P.198

要旨:GISTのイマチニブ治療では,一部の奏効病変だけが増悪するものも多く,これは本治療の特徴ともいえる.このような限局性の増悪には,外科切除をはじめとする局所療法が有効な場合がある.エビデンス・レベルは低いものの,国内外の診療ガイドラインにもイマチニブ耐性の治療選択肢の1つとして示されている.耐性腫瘍の完全切除を行うことができれば,8か月程度の術後無増悪期間が期待できる.広範性の増悪は無増悪期間がきわめて短く,手術適応にならない.二次耐性腫瘍切除では長期無増悪が少ないことから,患者QOLを損ねる手術は推奨できない.耐性腫瘍切除後もイマチニブ投与が必要であり,術後合併症を作らないことが特に重要となる.

イマチニブ耐性に対する薬物療法

著者: 小松嘉人

ページ範囲:P.199 - P.206

要旨:イマチニブが手術不能再発GISTの1st lineとなり数年が過ぎた.今現在,その耐性が多数出現し,その治療に注目が集まっている.現実的には2008年6月にわが国で施設限定ではあるがやっとスニチニブが使えるようになったばかりである.それ以外はすべてASCOなどで報告がなされているだけで,海外でも臨床試験中のものばかりである.ニロチニブ,ソラフェニブ,エベロリムス,モテサニブ,バタラニブなどであるが,これらについて簡単に解説する.また,わが国では未だ承認されていないイマチニブ増量法についても紹介する.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・2

超音波外科吸引装置(CUSA)―肝実質離断操作の基本操作とそのコツ

著者: 寺嶋宏明 ,   山岡義生

ページ範囲:P.149 - P.154

CUSAの基礎知識と原理

 CUSAはCavitron社製のultrasonic surgical aspirator(超音波外科吸引装置)の略であり,本来は最初に販売した社名に由来する商標名であるが,現在は超音波外科吸引装置の通称となっている.開発当初は白内障に対する乳化吸引装置として使用され1),その後,様々な領域で応用されるようになった.肝切除での応用は1984年が最初で2),それ以降1990年代にかけて出血量の減少や手術時間短縮などの有用性が報告された3,4)

 CUSAの使用に際しては,その作用原理を理解しておかなければ十分に使いこなせないばかりか,不必要な組織傷害を引き起こすことになる.超音波吸引とは,超音波の組織選択性を利用し,脆弱組織のみを超音波振動で叩き,破砕・乳化・吸引する技術である.超音波発生装置で発生させた電気エネルギーをハンドピースに内蔵されているトランスデューサーによって超音波振動に変換し,ハンドピース先端に取り付けたチップを縦方向に振動させる.チップは発振周波数23~38kHzで0~300μmの振幅で振動し,先端に接触する水分含量の多い組織を選択して破砕・乳化させる.生理食塩水がハンドピースのチップとプラスチックのカバーの間を流れるようになっており,この生食が術野を洗浄することで破砕組織が浮遊し,血液を洗い流して操作域を見やすくする.破砕組織や血液はチップ先端より吸引される(図1).

臨床外科交見室

地方の私立総合病院小児外科の小さな挑戦―患者と医師の立場

著者: 末浩司

ページ範囲:P.207 - P.207

 しばらくぶりに投稿させていただきました.前回の投稿で「小児外科」の名称の存亡を論じましたが1),「小児外科」消滅の前に私が倒れてしまいました.2008年5月の外来診療後に倒れ,現在,リハビリと外来診療を続けながら再起を目指しています.退院して今度は,患者の立場から書いてみたくなりました.

 突然の入院は青天の霹靂で,絶対に味わいたくないことです.しかし,医療従事者としてもっと早くに味わっていたら患者の気持ちがもっとわかっていたのかもしれません.姉からは「これで医者として一人前になれたね」と言われ,「そうかもね」と素直に返事をしました.いや,それでもやはり二度と味わいたくない経験だったのです.われわれ医療従事者は日常,患者さんの気持ちなど無視して仕事をしていたのかもしれません.「CT検査を行えば,もっとはっきりします」と言いながら,患者さんには一大決心をさせていたのです.残酷な判決を自慢げに,さもよかったかのように告げていたかもしれません.誰もが手術が成功することを願ってはいますが,患者さんがうまくいかないときを考えるのは当然です.こんなことになるなら患者にもっと優しくすればよかったと深く反省しているこの頃です.特に自己主張のできない患者の子供たちには,治療がどこか虐待のように捉えられた場面もあったかもしれません.

病院めぐり

川内市医師会立市民病院外科

著者: 北薗巌

ページ範囲:P.208 - P.208

 当院は地域医療支援病院として1993年に設立された,急性期疾患を中心とした病院です.現在は病床数224床,常勤医師24名であり,川薩医療圏(人口10万人)の中核病院として機能しています.薩摩半島の北西部に位置しており,九州三大河川の1つである川内川を中心とした薩摩川内市にあります.薩摩川内市は,東シナ海に面した変化に富む白砂青松の海岸線,藺牟田池をはじめとするみどり豊かな山々や湖,地形の変化の美しい甑島,各地の温泉など多種多様な自然環境を有しており,年中行事も九州屈指の規模を誇る「川内川花火大会」や四百年を超える歴史のある「川内大綱引」,約5,000人の踊り手が練り歩く「川内はんやまつり」など,夏から秋にかけて多くの祭りが開催されています.特産品の1つである焼酎では,全国的に話題になりなかなか入手できないという「村尾」や,広く親しまれている「五代」,「蔵の神」,「鉄幹」の蔵元があります.

 当院の外科は院長を中心とした常勤5名,非常勤2名の体制で診療を行っています.外来,手術,病棟,救急対応など,忙しくともうまく仕事を分担して日々の診療をこなしています.手術日以外の午後には術前カンファランスや回診などを行っていますが,なぜか待機手術とは別に緊急処置を要することが多く,なかなかゆっくりできません.

国立病院機構鹿児島医療センター外科

著者: 福枝幹雄

ページ範囲:P.209 - P.209

 当センターは鹿児島市のほぼ中央部に位置しており,世界有数の活火山である桜島と雄大な錦江湾を望む城山の南麓にあります.城山は西南戦争の最後の激戦地となった場所で,司令部の置かれた洞窟や西郷隆盛終焉の地など,西南戦争にまつわる史跡が多く残されています.当センターは,西郷隆盛が若き薩摩士族を教育する目的で設立した私学校跡地に建設され,敷地を囲む石垣には今も西南戦争時の多数の銃弾跡が生々しく残っています.また,正門前には,NHK大河ドラマで一躍脚光を浴びた第13代将軍・徳川家定の正室,篤姫が島津斉彬公の養女として過ごした鶴丸城の本丸跡地があります.周辺を散策すると,幕末から明治にかけての激動する日本にかかわってきた薩摩の歴史に触れることができます.

 当センターは明治34年に鹿児島陸軍衛戍病院として創設されました.その後,鹿児島陸軍病院,国立鹿児島病院,昭和56年には地域の循環器疾患を中心に診療を行う目的で国立南九州中央病院となりました.平成16年に国立病院機構九州循環器病センターと名称を変更し,名実ともに循環器疾患の拠点病院となりました.そして平成18年4月,循環器病のみならず癌疾患にも重点をおいた「がん拠点病院」と位置づけられ,現名称で再スタートしました(ベッド数は370床).

英語による外科カンファランス・1【新連載】

基本的なプレゼンテーションの方法

著者: 小西文雄 ,  

ページ範囲:P.211 - P.216

はじめに

 自治医科大学さいたま医療センター外科では,4年前から術前症例カンファランスにおいてレジデントによる英語でのプレセンテーションを導入しており,2007年4月からは筆者の1人であるAlan Leforの指導のもと,毎週月曜日の朝に英語でのプレゼンテーションを行っている.最近は国際学会において英語で発表し,英語で討論をする機会が増えており,このようなトレーニングは将来役に立つことと思われる.

 英語によるプレゼンテーションのキーポイントは,プレゼンテーションの標準的スタイルを熟知することと,英語に自信がなくとも十分に準備をして自分の英語力に応じた表現を用いることである.もちろん,英語力を向上させるための努力も必要である.また,プレゼンテーションの内容は,英語であれ日本語であれ患者の治療方針を決定するうえで重要であるので,レジデントは上級医の指導のもとに綿密に準備することが必要である.症例呈示は十分な病歴聴取と理学的所見,検査所見の検討に基づいて行われなければならない.特に病歴聴取と理学的所見は診断や治療上重要であり,これらの所見によって多くの疾患は診断され得るとも考えられる.実際のカンファランスにおいては,プレゼンテーションに必要とされる事項を簡潔にまとめ,さらには質問に答えられるように準備しなければならない.プレゼンテーションの内容によって,レジデントがいかに的確に患者の病態を理解しているかを評価できる.

 本連載では,第1回で基本的なプレゼンテーションの方法を述べ,第2回では誤って使われる傾向がある英語の字句や言い回しについて解説し,第3回において英語のプレゼンテーションを導入して成功させるためのノウハウについて述べる.

元外科医,スーダン奮闘記・34

ずっとずっとコンティニュー

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.217 - P.219

リーシュマニア症に罹患

 話は2008年7月まで遡る.左手中指がチクリとした痛みに襲われた.しかし,何かに刺されたな,というくらいの軽い感じで放っておいた.その後,その部分に炎症が起こったが,それは次第に引いていった.8月になって右下腿に3つの潰瘍性病変が生じた.これも,虫などに刺されてよくあることなので,放置しておいた.完治するまで3週間くらいかかったであろうか,9月になって左手背部に同じく潰瘍性病変を生じた.今度は抗生剤の服用を行ってみたが,治癒の方向へは向かっていかなかった.これはおかしいと思い,もしかしてリーシュマニア症ではないかという疑念が浮かび上がってきた.そこで,知人のハルツーム大学医学部のマオウイア教授のところへ行った.彼は私の病変を見るなり,「You became a real Sudanese!」と言われ,間違いなくリーシュマニア症だろうと述べた.皮膚生検を行い,確定診断に至った.

 さて,リーシュマニア症のことである.スーダンを含むアフリカ東部,パキスタン・インドなどの南アジア,そして南アメリカなどに多く分布しており,sandfly(サシチョウバエ)に刺されて感染する寄生虫疾患である.皮膚型,皮膚粘膜型,内臓型とある.内臓型になると予後不良の疾患である.5価のアンチモンが治療薬とされるが副作用が強く,腎不全や肝不全を引き起こすケースも多い.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・11

絞扼性イレウスは術前に確定診断できる!…???

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.221 - P.224

 イレウスは機械的イレウスと機能的イレウスに分類され,機械的イレウスはさらに癒着や閉塞に起因する単純性イレウスと,絞扼・重積・捻転・嵌頓などによって血流障害をきたし,放置すれば腸管壊死に陥ってしまう複雑性イレウスとに分類されます(表1).臨床の現場では,保存的治療が可能な単純性イレウスなのか,緊急手術が必要な複雑性イレウスなのか,その鑑別がきわめて重要になりますが,絞扼性イレウスを含めてその診断は簡単ではありません.

 今回は,絞扼性イレウスの診断が遅れて患者が死亡してしまったケースと,絞扼性イレウスに関するいくつかの判例を紹介します.

臨床研究

抗凝固療法中の患者に対する痔核手術と後出血に関して

著者: 矢野孝明 ,   松田保秀 ,   中井勝彦 ,   浅野道雄 ,   野中雅彦 ,   木村浩三

ページ範囲:P.225 - P.228

はじめに

 近年,心血管病変の予防や治療を目的とした抗凝固療法,抗血小板療法は日常診療のなかで一般的となっており,その治療中に薬剤の中断なしに外科的治療を行うと重大な出血を惹起する危険性が考えられる.一方,その危険を回避するために処置の前に抗凝固療法・抗血小板療法を中断したところ,血栓塞栓症が誘発された症例も報告されている1).したがって,最大の問題は血栓症の発症を予防しつつ,かつ出血性合併症を増加させないことである.しかし,抗凝固療法の中断の可否,またその時期や合併症の頻度などに関する報告は少なく2,3),肛門手術に関しては皆無である.

 そこで今回,肛門手術のなかでも最もポピュラーな痔核結紮切除術を行った患者を対象とし,抗凝固療法の症例を中心に後出血の頻度などを検討した.

術後愁訴からみた小切開法による甲状腺手術の有用性について

著者: 小笠原豊 ,   藤田武郎 ,   池田宏国 ,   高橋三奈 ,   平成人 ,   土井原博義

ページ範囲:P.229 - P.233

はじめに

 甲状腺術後には,手術時の剝離操作,その後の癒着などが原因で,しびれ,つっぱり,飲み込みにくさなどの頸部愁訴を訴えられることがある1).これらの愁訴は日常生活においてあまり大きな障害とはならないため軽視されがちで,甲状腺術後愁訴に関する報告もあまりないのが現状である.しかし近年,低侵襲手術の普及とともに,患者の生活の質(QOL)に直結する術後愁訴に対する配慮もなされるようになってきた.今回,通常頸部襟状切開および小切開による甲状腺手術後の愁訴についてアンケート調査し,甲状腺術後愁訴について明らかにしたのち,術後愁訴からみた小切開法による甲状腺手術の有用性について検討した.

当院で経験した腹腔鏡補助下大腸切除術術後腸閉塞の検討

著者: 石黒要 ,   伴登宏行 ,   小竹優範 ,   山本道宏 ,   山田哲司

ページ範囲:P.235 - P.239

はじめに

 腹腔鏡下手術の利点として,術後の癒着が起こりにくく,また,腸閉塞も起こりにくいことがあるといわれている1).今回当院で経験した腹腔鏡補助下大腸切除術(laparoscopic assisted colectomy:以下,LAC)術後の腸閉塞について検討してみることとした.

臨床報告・1

浸潤性乳管癌と術前診断された乳腺腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)の1例

著者: 館花明彦 ,   河原正樹 ,   大野烈士 ,   國又肇 ,   山田清勝 ,   岡輝明

ページ範囲:P.241 - P.245

はじめに

 乳管上皮と筋上皮の2種類の上皮細胞が腫瘍性増殖を示す腺筋上皮腫は,稀な乳腺良性腫瘍とされる.浸潤性乳管癌と術前診断された本疾患の1例を経験し,示唆に富む症例と考えられたので報告する.

梗塞壊死をきたした乳腺充実腺管癌の1例

著者: 小林達則 ,   池田義弘 ,   上山聰 ,   里本一剛 ,   末光一三 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.247 - P.251

はじめに

 乳腺の梗塞は,線維腺腫や乳管内乳頭腫あるいは妊娠中や授乳期の乳腺に発生することが報告されている1,2).しかし,乳癌症例においては腫瘍が自然に梗塞をきたすことはきわめて稀で,報告は少ない.

 今回われわれは,広範な梗塞壊死を伴った乳管癌の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

腹腔鏡下摘出術を施行した後腹膜原発Castleman病の1例

著者: 大橋浩一郎 ,   谷口英治 ,   吉川正人 ,   太田喜久子 ,   栗原陽次郎 ,   大橋秀一

ページ範囲:P.253 - P.257

はじめに

 Castleman病は,1954年に限局性のリンパ節腫脹をきたす予後良好な疾患として初めて報告されたリンパ増殖性疾患である1).主に縦隔もしくは頸部に発生するが,後腹膜発生は比較的稀である.今回,後腹膜発生のCastleman病に対して腹腔鏡下手術にて摘出した1例を経験したので報告する.

術前診断し腹腔鏡補助下切除を施行した胃神経鞘腫の1例

著者: 亀井滝士 ,   山本達人 ,   北村義則 ,   安藤静一郎 ,   都志見久令男 ,   齋藤哲朗

ページ範囲:P.259 - P.262

はじめに

 胃神経鞘腫は比較的稀な疾患で術前診断が困難とされているが1),免疫組織染色によって診断可能な症例2,3)も散見されるようになった.今回,われわれは術前生検によって胃神経鞘腫と診断し,腹腔鏡補助下切除を施行した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脊髄損傷に伴う重度便秘に対して腹腔鏡下盲腸瘻造設による順行性浣腸が奏効した1例

著者: 溝尾妙子 ,   山川俊紀 ,   鈴鹿伊智雄 ,   岡智 ,   徳毛誠樹 ,   塩田邦彦

ページ範囲:P.263 - P.266

はじめに

 脊髄損傷による直腸機能障害患者はしばしば薬剤抵抗性の難治性便秘をきたし,診療に苦慮することが多い.かかる患者に対し,盲腸瘻による順行性浣腸が有用であるとの報告がある1).一般的に盲腸瘻造設術は開腹手術で行われており,腹腔鏡下手術の報告例はわが国では少ない.今回われわれは,脊髄損傷の直腸機能障害による高度便秘患者に対して,腹腔鏡下盲腸瘻造設術を施行し,順行性浣腸が奏効した症例を経験したので報告する.

弓部大動脈置換術後のMRSA縦隔炎に対してゲンチアナ・バイオレット塗布と大網被覆によりグラフト温存ができた1例

著者: 丸山俊之 ,   松倉一郎

ページ範囲:P.267 - P.270

はじめに

 胸部大動脈人工血管置換術後の縦隔炎,人工血管感染は死亡率の高い重篤な合併症である1).しかも起炎菌がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:以下,MRSA)の場合には,その強い病原性と組織破壊性から救命はさらに困難と考えられる.今回われわれは,ゲンチアナ・バイオレット(ピオクタニン®)を感染人工血管に塗布して使用し,有用と考えられたため文献的考察を加えて報告する.

臨床報告・2

副交通胆管枝の1例

著者: 中川国利 ,   小村俊博 ,   藪内伸一 ,   小林照忠 ,   遠藤公人 ,   鈴木幸正

ページ範囲:P.271 - P.274

はじめに

 胆道系には様々な走行異常がみられるが,副交通胆管枝(communicating accessory bile duct)はきわめて稀である1).今回われわれは,術前検査にて副交通胆管枝と診断し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した胆囊結石例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

コーヒーブレイク

EBM,EBM,EBM

著者: 板野聡

ページ範囲:P.184 - P.184

 EBMといえば“evidence based medicine”のことですが,日本大学医学部公衆衛生学教室のホームページによると,その哲学的起源は19世紀中期頃のパリやそれ以前に遡ることができ,医学の“art & science”の“science”の部分を担っているものと解説してありました.

 不勉強で古い頭の私は,最近のEBMの流行には確かにそうだと思う一方で,あまりにもEBMに振り回されることにはいささか閉口することもあります.以前にも書きましたが,あまりにこの“evidence”を優先するがゆえに,“evidence”がないことは正しくないことのように考える先生方が出現しているようで,そろそろ古い世代に分類されはじめた私には不満が募ることになります.先の“art & science”で言えば,“art”は一体どこへ行き,どう扱われているのかと言いたくなってしまうのです.

昨日の患者

娘を偲ぶ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.216 - P.216

 嬉しいこと悲しいこと,様々な経験を積み重ねて人生は形成される.楽しい思い出だけで人生を過ごせれば最高の幸せであるが,ときに悶えるような辛いこともある.最も耐えがたい悲しいことは,やはり身近な人との別れだと思う.年長者である祖父母の死に接し,そして両親を見送り,最後に自分自身が子供や孫に看取られるのが世の常である.しかし,見送られる順番が異なると,残された遺族の悲しみは増す.

 Iさんは集団検診での便潜血反応陽性を契機に大腸癌が発見され,手術を目的に紹介されてきた.いつものように手術の必要性を説明し,術前検査を受けることを勧めた.しかし,Iさんは早期に手術することを躊躇し,1か月半ほどの猶予を願い出た.癌のために手術が必要だと説明すると,少しでも早期の手術を望むのが常である.

書評

坂本穆彦,北川昌伸,菅野 純(著)「組織病理カラーアトラス」

著者: 本山悌一

ページ範囲:P.234 - P.234

 病理学は,病気の原因およびその成り立ちを究めようとする学問である.医学生たちは,昔も今も,そして将来も,まず病理学の講義と実習を通して,多くの病気の概念やそれらの原因や成り立ちを理解するために必要な医学用語に向き合うことになる.医学用語を知り,使えるようになる過程で重要なことは,できるだけ普通の人が普通に話す言葉でも説明できるものであるということを意識させるということである.これを怠ってきた医師は,真のインフォームド・コンセントを患者から得ることなど望むべくもない.しかし,当然のことながら,平易な言葉で述べても正確さを欠いては本末転倒になりかねない.また,大部分の病気は,必ず細胞,組織あるいは臓器の形態的変化を伴う.それらにおいては,形態が示す意味を正しく解釈することなしに病気の正確な解釈を行うことはありえない.つまり,平易な言葉を使って正確に書かれた文章と形態変化を適切に示す写真とからなる手引書は,病理学の教育にはぜひとも必要なものである.この度刊行された『組織病理カラーアトラス』は,現時点でそういった理想にもっとも近い書の1冊である.

 本書は,上述したように平易な言葉で正確に書かれているうえに,どこを読んでも落ち着いた気持ちで読むことができる.これは,経験豊富で教育熱心な病理医が3人ですべてを書き上げているということが大きいであろう.3人の筆者,坂本穆彦杏林大学教授,北川昌伸東京医科歯科大学教授,菅野純国立医薬品食品衛生研究所部長は東京医科歯科大学病理学教室の同門である.十分に話し合い協力しながら作られたせいか,内容に凸凹がなく,いずれの頁も高水準であり,自ら経験された症例から選ばれたであろう写真もきわめて適切である.これは分担執筆者が多過ぎたり,洋書の翻訳だったりする類書とは決定的に違うところである.

光島 徹,田辺 聡(監修)松本雄三,木下千万子(編)「消化器内視鏡スタッフマニュアル」

著者: 田中信治

ページ範囲:P.246 - P.246

 このたび,消化器内視鏡の大家である光島徹先生と田辺聡先生の監修のもと,松本雄三氏,木下千万子氏の両氏の編集により『消化器内視鏡スタッフマニュアル』が発刊された.

 これまでにも消化器内視鏡診療に携わるスタッフのためのマニュアルは発刊されているが,その多くが医師あるいはコメディカルのいずれかを対象としたものである.本書の最大の特徴は,医師・コメディカル全体を対象としたマニュアルであり,医師が読んでもコメディカルが読んでも非常に参考になるガイドブックであることである.しかもその内容が素晴らしい.一般に,医師の興味は内視鏡診療の実際に,コメディカルの興味は診療のサポート面に傾きがちであるが,本書は,内視鏡検査室の環境整備,医師とコメディカルのコミュニケーション,患者の心情・プライバシーを含めて,リスクマネジメント,最先端の内視鏡診療の実際まで細部にわたって分かりやすく記述されている.

ひとやすみ・43

出前講座

著者: 中川国利

ページ範囲:P.257 - P.257

 地方自治体や企業が職員を講師として地域に派遣し,住民に各市町村の行政や企業の説明を行う出前講座が盛んに行われている.医療においても市民を対象に種々の講演会が行われているが,私が行っている一風変わった出前講座を紹介する.

 私の同級生が某教育大学の教授をしている縁で,年に1回ながら講演をする機会がある.演題名は「外科学一般」であるが,講演内容はすべて私に任せてくれている.消化器疾患の病態や手術を含めた治療を中心に講義をしているが,学生は身近な健康に関するため,興味を示してくれる.さらに関心を引く工夫として,手術のビデオを上映し,糸や持針器などの手術道具を持参し,体内から摘出した胆石などに直接触れさせている.

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.284 - P.284

 「臨床外科」の編集委員の1人として編集作業に携わる一方,本誌の読者の1人として毎号楽しみに読ませていただいている連載シリーズの1つが,川原尚行氏による「元外科医,スーダン奮闘記」である.

 いささか個人的なことであるが,川原氏は私の大学および教室の後輩である.彼は以前外務省の医務官としてアフリカで勤務していたときの衝撃が脳裏を離れず,日本における安定した医師としての生活,そして社会生活を投げうってNPO法人「ロシナンテス」を設立し,スーダンで外科をはじめとした医療はもとより農業,インフラ整備等の環境対策を行うなど,幅広く活動している.そのような意味では「元外科医」ではなく,「現役アフリカ在住外科医」でもある.連載が開始され3年になろうとしているが,毎号リアルタイムに彼の,またNPOの活動がうかがえることに興味を持って下さっている読者も少なくないと聞いている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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