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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

特集 直腸癌治療―最近の進歩と動向

特集によせて

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.294 - P.294

 結腸癌の手術治療とは異なり,直腸癌の手術治療は骨盤内に位置しているという解剖学的特異性から,機能温存(肛門機能,排尿機能,性機能)やquality of life(以下,QOL),局所再発,長期予後などの様々な問題が取り上げられ,最近の消化器外科系の学術集会では必ずと言ってよいほどテーマとして取り上げられている.さらに,直腸癌の治療ほど欧米とわが国の間で,またわが国においても施設間で治療方針が大きく異なっている疾患もほかにないように思われる.これは,わが国の外科手術の優位性に基づくものであろうが,一方では放射線腫瘍学に携わる医師や腫瘍内科医の絶対数の不足なども背景にあるように思われる.そして,肛門機能温存や排尿・性機能温存をはじめとしたQOL改善の観点と治療の根治性および長期予後の観点から様々な立場での治療が行われているのが現状である.

 そこで本特集では,直腸癌治療の最近の進歩と動向をテーマに取り上げた.近年の進歩としては,第1に手術手技的進歩が挙げられよう.Internal anal sphincter resection(以下,ISR),さらにはexternal and internal anal sphincter resection(以下,ESR)を施行し,かつ肛門機能を温存しようとする術式である.第2には化学療法や放射線療法の進歩・向上がある.

直腸癌に対する化学放射線療法―最近の動向

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.295 - P.302

要旨:直腸癌に対する放射線療法は術後の局所再発率を低下させることが示されている.また,化学放射線療法は放射線単独療法に比べて,より局所再発率を低下させると報告されている.一方,生存率に対する放射線療法の効果に関しては,効果があるとするもの,否定的なものと報告によって異なる.術前照射後の術後補助化学療法の有無に関しては,照射効果の高い症例に限った検討では術後補助化学療法を行ったほうが生存率が向上すると報告されている.また,わが国で行われている側方郭清と術後化学放射線療法とを比較した近年の検討では,術後化学放射線療法のほうが局所再発率を低下させるためにより有用であると報告されている.

進行下部直腸癌を対象とした化学放射線療法の照射方法

著者: 室伏景子 ,   小口正彦 ,   大矢雅敏 ,   橋井晴子 ,   水本斉志 ,   中山秀次 ,   菅原信二 ,   奥村敏之 ,   坪井康治 ,   櫻井英幸

ページ範囲:P.303 - P.309

要旨:進行下部直腸癌に対する放射線療法は術前または術後に行われるが,最近では化学療法を併用した術前化学放射線療法が主体となっている.この治療法の目的は第一に局所再発の抑制である.Quality of life(QOL)の向上すなわち肛門温存率の向上の可否については明らかな結論は乏しく,今後の臨床試験の結果が待たれる.臨床試験の多くは原発巣,領域リンパ節および直腸傍組織や仙骨前など,局所再発の高率な領域を照射野としている.最も簡便な前後対向2門法での照射は有害事象が増加するため,現在では3または4門照射法が推奨される.消化管への有害事象を低減するため,リスクに応じて照射野の上縁を制限することや,腹臥位での照射法,または強度変調照射(intensity modulated radiation therapy:IMRT)の導入などが期待される.

下部直腸・肛門管癌に対する術前化学放射線療法併用腹腔鏡下手術

著者: 西岡将規 ,   島田光生 ,   栗田信浩 ,   岩田貴 ,   吉川幸造 ,   東島潤 ,   宮谷知彦 ,   近清素也 ,   宮本英典

ページ範囲:P.311 - P.316

要旨:下部直腸・肛門管癌に対する術前化学放射線療法は局所再発を抑制し,肛門温存率を向上させ,側方リンパ節郭清を省略できるなどのメリットがある反面,排便,排尿,性機能を障害するといったデメリットもある.そのデメリットは側方リンパ節郭清に関しても同様である.進行下部直腸・肛門管癌に対する腹腔鏡下手術は欧米では積極的に行われている一方,わが国では各施設で適応や治療方針が異なるのが現状である.本稿では,肛門温存や局所再発抑制などの術前化学放射線療法の特徴と,骨盤内の良好な視野によって完全神経温存を可能とする腹腔鏡下手術の利点を活かした下部直腸・肛門管癌に対する術前化学放射線療法併用腹腔鏡下手術についてわれわれの成績を示す.また,大きな課題である化学放射線療法の効果予測についても言及し,今後の展望について述べる.

下部直腸進行癌に対する術前照射療法の治療成績

著者: 齋藤典男 ,   伊藤雅昭 ,   杉藤正典 ,   小林昭広 ,   西澤雄介 ,   米山泰生 ,   西澤祐吏 ,   皆川のぞみ

ページ範囲:P.317 - P.324

要旨:下部直腸癌に対する補助療法としての術前化学放射線療法の近年の動向から,本治療法の現状と問題点について検討した.また,最近の究極的肛門温存手術(intersphincteric resection:ISR)に補助療法として用いた術前化学放射線併用例について,その成績を紹介した.これらの結果から,いずれの補助療法群でも局所コントロールの改善を認めたが,解決すべき様々な問題点も明らかとなった.

Intersphincteric resection(ISR)手術の成績

著者: 前田耕太郎 ,   小出欣和 ,   花井恒一 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   松岡宏 ,   勝野秀稔 ,   船橋益夫

ページ範囲:P.325 - P.329

要旨:超低位の直腸癌に対するintersphincteric resection(ISR)の手技と成績について概説した.本術式の手術時間や出血量は従来の超低位前方切除術と遜色ない.術後合併症では縫合不全率がやや高率であるが,一時的なストーマを造設するため全身的には大きな問題とならない.術後の肛門機能は内肛門括約筋の切除の程度によって異なるが,歯状線までの切除であるpartialもしくはsubtotal ISRではほぼ良好な肛門機能が温存され,術後の再発も従来の術式と遜色ない.長期の成績が十分に評価されていないため,現時点では本術式は超低位の直腸癌に対する標準術式とは言えないが,適応を厳密にして,緻密な手術手技で本領域や直腸肛門機能に経験のある医師が施行すれば,従来の低位前方切除術と同等な成績が得られると考えられる.

温熱化学放射線療法を併用した進行直腸癌に対する内括約筋切除術―肛門機能温存のポイント

著者: 浅尾高行 ,   桑野博行 ,   堤荘一 ,   櫻井英幸 ,   塩谷真理子 ,   中野隆史

ページ範囲:P.331 - P.337

要旨:進行下部直腸癌に対して術前温熱併用化学放射線療法を行い,19.3%に組織学的complete response(CR)を,50%に臨床的CRを得た.治療前にT3以上の症例の53%で内括約筋切除術(intersphincteric resection:ISR)の適応となるT2以下にdown stageされたことから,直腸切断術の約半数は術前治療併用ISRによって肛門温存が可能になると予想される.肛門管の持つ肛門静止圧,肛門知覚,粘膜脱防止機構がISRによって損なわれるが,肛門管組織の部分的な温存や肛門吻合時の運針の工夫により機能障害を最小限に抑えることが重要である.術前放射線化学療法においては,局所再発予防に加えて,腫瘍縮小による肛門温存の可能性の拡大と切除範囲を小さくすることによる温存術後の機能保持に期待が寄せられている.直腸進行癌の治療において,肛門外科で蓄積されてきた機能再建技術と術前放射線化学療法の応用は根治性と機能温存を両立させるために不可欠であり,放射線科,腫瘍内科,骨盤外科,肛門外科を含めた集学的な協力関係が求められる.

下部直腸癌に対する肛門機能温存手術としてのESR―その理論的根拠

著者: 森眞二郎 ,   石橋生哉 ,   赤木由人 ,   緒方裕 ,   白水和雄

ページ範囲:P.339 - P.343

要旨:肛門にきわめて近い下部直腸・肛門管癌に対し,浅・深外肛門括約筋を切除して皮下の外肛門括約筋のみを温存することによって肛門を温存する術式であるESR(external and internal anal sphincter resection)について検討した.今までに切除されたAPR(abdominoperineal resection)症例の病理所見から術式の理論的根拠を明らかにし,現在まで行ったESR症例の治療成績を検討した.根治性に関しては従来の術式と比較しても遜色なく,肛門機能に関しては今後の長期的な経過観察が必要であるが,現在のところ患者アンケートではおおむね満足しているという結果であった.ESRの新しい標準術式としての可能性が示唆された.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・3

超音波凝固切開装置―SonoSurg X®

著者: 金谷誠一郎 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.289 - P.293

はじめに

 Amaral1)によって開発された超音波凝固切開装置は1992年にわが国へ導入されて以来急速に普及し,現在,腹腔鏡下手術に必要不可欠なデバイスとなっている.凝固・止血と切開が同時にできる一方,周囲組織への熱損傷が軽微であるのが特徴で,創傷治癒のパターンが通常のメスと大差ないとされている1)

 本稿では,筆者ら自身が改良に関与した愛用のデバイスである内視鏡下手術用新型ソノサージ(SonoSurg X®:オリンパス メディカル システムズ)の特徴と,腹腔鏡下胃癌根治術での使用の実際,そのコツを紹介する.

病院めぐり

マリーゴールドクリニック

著者: 山口トキコ

ページ範囲:P.344 - P.344

 当クリニックは2000年2月に開業し,今年で9年が経ちます.私が女性医師であること,肛門という日陰者のイメージを払拭する明るいクリニックであること,肛門疾患の手術を日帰りで行うということをセールスポイントに始めたわけですが,1日の患者さんの数が30人を超えるようになるまでには2年くらいかかりました.その後,「人に言えない恥ずかしい病気」の専門医として雑誌掲載,講演活動,テレビ出演などのチャンスに恵まれたおかげで名前を知っていただけるようになりました.初診患者の半数以上がインターネットを通じて来院されますが,患者さんの口コミや,最近では開業医の先生方から患者さんを紹介していただくことも多くなりました.

 当クリニックの患者さんの8割ほどが女性であり,20~40歳代が約7割と若い方が多いため,男性の患者さんから「女性専門ですか?」と聞かれたこともありました.マリーゴールドはキク科のお花で,肛門をイメージして名づけたわけですが,当初はよく美容外科に間違えられました.診療科目は胃腸科,肛門科,内科,外科ですが,最も患者さんが多いのは言うまでもなく肛門科です.胃腸科を先頭に持ってきたのは患者さんが入りやすいようにという配慮からで,内科,外科については患者さんの全身を診ることを大事にしたかったからです.

医療法人社団香明会草間かほるクリニック

著者: 草間香

ページ範囲:P.345 - P.345

 私が開業する場所として選んだ麻布十番は港区の中心にありますが,まだまだ懐かしいたたずまいや古い商店街が残っている素敵な街です.そんな商店街から歩いて5分の少し外れた場所にある肛門疾患や胃腸疾患を専門とするクリニックです.肛門疾患は以前とは違い,最近はテレビや雑誌などのマスコミが色々なかたちで取り上げてくださるようになり,とてもかかりやすくなったようにも思われますが,いまだ「誰にも言えずに悩んでいる方」が多いのが現状です.そんな方々が安心して受診から検査,治療までをしていただけるような優しい場所をと思い,少し路地を入ったマンション内の一室に,あたかもお友達のところへ気軽に遊びに行くような入り口にこだわり,2007年6月9日に当クリニックを開業いたしました.

 当クリニックは,入り口を入ると清潔感を感じてもらえるよう,真っ白な空間に真っ赤なソファーが映える受付・待合室があり,その奥に診察室,処置室,心電図(点滴など)室が並んでいます.その反対にはトイレが2つ並び,右奥に進むと回復室,手術室,ロッカー室(患者用),そして大腸検査の前処置や手術時のニーズに応えるため,さらにもう2つのトイレが備えられています.大切な患者さまのデータは電子カルテや内視鏡の画像ファイリングシステムを取り入れ,保存・管理をしています.患者さまのプライバシーを守るため,診察時は名前でなく番号で呼ぶことにしています.また,診察を終了された患者さまの率直なご意見を聞かせていただくために専用のノートが用意されています.誰でもが自由に記載・閲覧できるようにしてあり,これからの診療に活かせていけるようにしています.

元外科医,スーダン奮闘記・35【最終回】

また逢う日まで

著者: 川原尚行

ページ範囲:P.347 - P.350

情熱大陸

 2008年12月1日にスーダンに帰任してきました.今回は「情熱大陸」(毎日放送)の取材陣3名が一緒です.実は,以前から「情熱大陸」そのほかの全国ネットの番組から撮影をさせてくれという依頼は多くありましたが,それを拒み続けた経緯があります.まず,まだ活動を始めたばかりということがありました.全国ネットで放映されれば認知度は上がるでしょうが,一時のブームが持ち上がって身の程知らずになってしまっては,根気のいる作業はできないと考えていました.ただし,地元の九州に関しては多くのメディアに出ようと考えていました.これは,困難なときにはきっと地元の方々が救ってくれると思ってのことでした.

 今回は,テレビ制作の担当者がわざわざ東京から九州まで足を運んで依頼をしてくれたので,彼のまさに「情熱」に負けて番組出演をお受けしました.この文章を書いている時点では,どんな番組なるのかわかりません(2009年1月11日に放送される予定です).しかし,取材陣の3名はそれぞれロシナンテスのこと,そしてスーダンの国情を理解してくれました.そのうえでの製作ですから,よいものを作ってくれるものと期待しています.日本に帰っても観たいようなテレビ番組がほとんどないなか,良質の番組が今後残っていって欲しいです.

英語による外科カンファランス・2

Common problems with case presentations in English

著者: 小西文雄 ,   ,  

ページ範囲:P.351 - P.355

はじめに

 前回(第64巻2号)は,病歴や現症の取り方とそのプレゼンテーションの方法について詳しく説明した.原病歴や現症の内容は本来,英語であっても日本語であっても同様である.今回は,英語でプレゼンテーションを行う際の英語の使い方について,特に日本人が英語でプレゼンテーションの行う際に気をつけなければならない語学上の問題点について説明する.われわれの日常の症例検討カンファランスにおいては日本人を相手にしてプレゼンテーションを行うので,用いられる英語は(特に用語や省略後などにおいて)アメリカやイギリスにおいて用いられるものとは異なった使い方をせざるを得ないこともあるかと思われる.しかし,本稿では原則として米国におけるプレゼンテーションで用いられる言葉を標準として,日本人が陥りやすい英語の誤った使い方に焦点をおいて説明する.

 誤った英語の使い方を以下の3点にまとめて説明する.

 (1)Language usage(grammar)and pronunciation:文法上の誤り,発音の誤り

 (2)Phrases that are correct grammatically, but not commonly used by your target audience:文法上は正しいが,通常は使われない文章

 (3)Words and abbreviations that your target audience will not understand:日本では使われるが英語圏では通用しない省略語

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・12

CF挿入時の大腸穿孔は医療過誤ですか?

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.357 - P.360

 大腸内視鏡(CF)検査は全国的に件数が急増しており,検査予約がなかなか取れない施設も増えています.その一方で様々な事故も報告されており,なかでも穿孔事故は深刻な経過をたどることも多く,慎重な対応が要求されます.

 最終回となる今回は,大腸内視鏡検査における穿孔事故について検証し,同時に感染症チェックにまつわる問題点に触れてみたいと思います.

臨床研究

人工肛門造設術を行ったクローン病患者の要因と予後の検討

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   中村光宏 ,   松岡宏樹 ,   竹末芳生 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.361 - P.364

はじめに

 クローン病(以下,CD)の経過中には,しばしば人工肛門造設術を余儀なくされることがある.直腸肛門病変に癌を合併して直腸切断術を行った症例のように永久的な人工肛門造設となった症例もあるが,一時的な人工肛門の予定で造設術を行った症例も多く存在する.一時的な人工肛門造設術の要因として最も多い要因は直腸肛門病変の悪化である1).そのほか,腹腔内膿瘍合併や高度の低栄養のために,病変部位の切除は行ったが,腸管の浮腫が著明で吻合を行うことができなかった症例や,術後の縫合不全のために人工肛門造設術を行った症例などが当てはまる.これらのCD患者で一時的な人工肛門の予定で造設術を行った症例の予後についての報告は少ない.

 そこで本稿では,当科で手術を行ったCD患者のうち人工肛門造設術が必要であった症例の要因および造設後の予後について検討する.

臨床報告

術後,急速に増大する卵巣再発をきたした原発性虫垂癌の1剖検例

著者: 小林由夏 ,   杉谷想一 ,   蛭川浩史 ,   藤原真一 ,   飯利孝雄 ,   多田哲也

ページ範囲:P.365 - P.371

はじめに

 原発性虫垂癌は比較的稀な疾患であり,特徴的な画像所見に欠けるため早期診断が困難とされる.また,虫垂は筋層が薄くリンパ組織に富むため,他臓器への直接浸潤やリンパ節転移をきたしやすく,発見時にはすでに進行癌であることが多い.このため,原発巣を切除してもその予後は不良とされる1)

 今回われわれは,外科切除の9か月後に卵巣転移再発をきたした進行原発性虫垂癌の1例を経験した.最終的には失ったが,原発性虫垂癌の術後経過と治療に関して示唆に富む症例であったため,剖検の結果を加えて報告する.

回盲部が嵌頓した鼠径ヘルニアの1例

著者: 澤田俊哉 ,   小棚木均 ,   若林俊樹 ,   最上希一郎 ,   佐藤勤 ,   大内慎一郎

ページ範囲:P.373 - P.377

はじめに

 鼠径ヘルニアの嵌頓では小腸が嵌頓することが多い1).今回,われわれは回盲部が嵌頓した稀な鼠径ヘルニアを経験したので報告する.

血栓閉塞した腹部大動脈瘤の1例

著者: 江口大彦 ,   三井信介

ページ範囲:P.379 - P.381

はじめに

 腹部大動脈瘤の血栓閉塞は比較的稀な病態で,その頻度は0.7~2.8%と報告されている1,2).今回,われわれは腹部大動脈瘤急性血栓閉塞例が慢性期に移行したと想われる症例を経験したので報告する.

Meigs症候群を呈した上行結腸癌異時性卵巣転移の1例

著者: 猪狩公宏 ,   落合高徳 ,   東海林裕 ,   熊谷洋一 ,   飯田道夫 ,   山崎繁

ページ範囲:P.383 - P.386

はじめに

 1937年にMeigsら1)が卵巣線維腫の患者に胸腹水を伴い,腫瘍摘出術後に胸腹水が消失した症例を報告して以来,このような症例はMeigs症候群と呼ばれている.今回われわれは,Meigs症候群で発症した結腸癌異時性卵巣転移の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

関節リウマチに伴い脾破裂に至った脾原発性悪性リンパ腫の1例

著者: 関川小百合 ,   原隆志

ページ範囲:P.387 - P.390

はじめに

 脾原発性悪性リンパ腫は悪性リンパ腫のなかでも比較的稀であり,脾破裂に至る症例はさらに少ない.一方,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:以下,RA)において悪性リンパ腫を伴う確率は一般人口の約2~7倍とされ1),その要因に治療薬の1つであるメトトレキサート(methotrexate:以下,MTX)が関与するという報告もある.

 今回われわれは,RAに対するMTX投与中に脾原発性悪性リンパ腫を伴い脾破裂に至った1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

セプラフィルム®使用後に発症した癒着性イレウスの1例

著者: 北薗巌 ,   宮崎俊明 ,   重久喜哉 ,   福枝幹雄

ページ範囲:P.391 - P.396

はじめに

 開腹術後に発生する癒着はイレウスの原因となり,再開腹手術を困難とするうえ,慢性の腹痛や不妊症などの多くの後遺症の原因となる1).当科ではヒアルロン酸ナトリウム/カルボキシメチルセルロース合成吸収性癒着防止剤であるセプラフィルム®(以下,SF)を使用して術後癒着性イレウスの予防を行い,良好な結果を得ているが,最近,合成吸収性癒着防止剤を使用した症例で開腹創の癒着とは異なる,開腹手術を要した難治性イレウスの1手術例を経験したので本邦報告例を含め報告する.

術前に診断し得たpress through package(PTP)誤飲による小腸穿孔の1例

著者: 武居友子 ,   大司俊郎 ,   長野裕人 ,   高松督 ,   嘉和知靖之

ページ範囲:P.397 - P.400

はじめに

 Press through package(以下,PTP)は現在最も広く使用されている薬剤形態である.しかし一方で,急速な高齢化社会へと移行している背景もあり,PTPの誤飲が報告されている1)

 今回われわれは,認知症のある高齢の腹痛患者に対して家族への詳細な問診とmulti-detector computed tomography(以下,MD-CT)により,PTP誤飲による限局性腹膜炎と術前に診断できた1例を経験したので報告する.

巨大後腹膜傍神経節腫の1例

著者: 嶋田仁 ,   田中一郎 ,   田中圭一 ,   伊藤弘昭 ,   戸部直孝 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.403 - P.406

はじめに

 傍神経節腫(paraganglioma)は胎生期のneural creastに由来する傍神経節系神経内分泌腫瘍であり,広く全身に生じ得る1).今回,われわれは20cmを超える後腹膜傍神経節腫を経験したので報告する.

多発外傷を合併した外傷性胸部大動脈損傷の1例

著者: 岡田昌彦 ,   亀崎真 ,   松本順彦 ,   大倉淑寛 ,   三上学 ,   濱邉祐一

ページ範囲:P.407 - P.411

はじめに

 鈍的多発外傷に伴う外傷性胸部大動脈損傷は受傷後24時間以内に大半が死亡するという非常に重篤な病態である1).今回われわれは,墜落外傷による外傷性胸部大動脈破裂と肝損傷,骨盤骨折の多発外傷によるショック状態で受診した患者に対してダメージコントロールを取り入れた緊急手術を行い救命した1例を経験したので報告する.

S状結腸腺腫内癌に起因した成人逆行性大腸腸重積症の1例

著者: 山崎泰源 ,   板野聡 ,   寺田紀彦 ,   堀木貞幸 ,   遠藤彰

ページ範囲:P.413 - P.417

はじめに

 成人の腸重積症は小児と比べて稀な疾患であり,全腸重積症の5~10%とされ,その多くは器質的病変に起因した順行性の腸重積症である1~3).今回われわれは,稀なS状結腸腺腫内癌に起因した成人逆行性腸重積症を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.

ひとやすみ・44

立場が思想を決める

著者: 中川国利

ページ範囲:P.337 - P.337

 さる高名な経済学者の言葉に「思想が立場を決めるのではなく,立場が思想を決める」がある.確かに,恵まれた環境にもかかわらず,劣悪な環境下に置かれた人々のために尽くす高徳な人も稀ながら存在する.しかしながら,人は自分の立場で物事を考え,自分に有利な行動をするのが古今東西の習いである.

 私が医師になり立ての頃には,診療能力を早く身に付けるため,より多くの患者さんを診たいと思った.そこで時間外でも病院内に待機し,救急患者の治療を積極的に行った.そして,急性虫垂炎と診断しては深夜でも先輩医師を呼び出し,消極的な先輩には「患者さんが痛がっているのに放置するのですか」と批判さえした.確かに若い時代は臨床に従事することが大好きで,働きずくめでもあまり苦にはならなかった.しかし,50歳代も半ばを過ぎると疲れが出てきた.特に当直では,明日の通常業務を考えると救急を受け入れるのが億劫にさえなった.そこで,手に余る救急依頼患者さんには「今は救急対応のため」とか「専門外のため」などと,何かと理由をつけては収容を断りがちになった.

コーヒーブレイク

友人の病院が閉院した話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.356 - P.356

 私の医局の同期生に,父親から引き継いだ病院を経営していた友人がいました.その病院は,私が入局した当時には大きな手術も行っており,私の友人の父親である当時の院長は大学医局の重鎮としても活躍されていたものでした.

 友人は私と同期で,父親と同じ医局に入り,やがてその跡を継いで院長となったのでした.私とは,お互いに忙しいこともあって年に数回会うくらいでしたが,最近まで頑張って経営していると聞いており,安心していたものでした.ただ,同期会などでたまに会った折りに,時代の流れのなかで手術はできなくなり,お年寄りを中心とした療養型の施設に切り替えざるを得なくなったと自嘲気味に話していたのが印象に残っていました.

書評

齋藤中哉(著)Alan T. Lefor(編集協力)「臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z[英語CD付]」

著者: 岸田明博

ページ範囲:P.378 - P.378

 新医師臨床研究制度が発足して5年目を迎えています.マッチングをはじめその制度は定着し,また,その研修指導者を養成する講座や研修会が各地で盛んに開催されています.そのような講習会でよく出てくる質問のひとつに,「1か月や2か月ごとに回ってくる研修医に何を教えたらいいのか」というものがあります.医師の研修に無頓着であった日本医学界の実情からすれば,それは至極当然な質問だと思います.正直なところ,大学等での卒後研修の実情を知らなかった私自身も当初は明確な答えを持ち合わせていませんでした.しかしながら日本の医療現場の実情を知るにつけ,その答えは次第に明らかなものとなってきました.

内富庸介,藤森麻衣子(編)「がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか」

著者: 宇都宮宏子

ページ範囲:P.382 - P.382

 京大病院に「退院調整看護師」として着任し,この7月で7年目に入った.

 病院勤務を経て,在宅で訪問看護・ケアマネジャーを経験し,人は,生活の場にいるからこそ,「生きる強さ」「人としての強さ」を発揮できることを実感した.家の力,地域の力,そのなかで生活者としての力,患者の強さを見て家族もまた力を発揮する.

中野 浩(著)「Ⅱcがわかる80例―早期胃癌診断のエッセンス」

著者: 多田正大

ページ範囲:P.402 - P.402

 消化管画像診断学を極めるための近道はない.多くの典型症例を経験・見聞して,頭の中のフィルムライブラリーに記憶しておくことからスタートしなければならない.一朝一夕に完成するものではなく,多くの時間と労力を要する.そのうえで見せられた画像が自分の経験例とどこが違うのか,どの点に類似点があるのかを考え,診断過程をたどる応用力を養うことが大切である.遠回りしてでもコツコツ,地道に症例を集積して,自らの診断力を磨くことがすべてである.その意味では『胃と腸』誌の「今月の症例」コーナーを熟読することで,素晴らしい画像診断学を身につけることができる.これは提示されるX線・内視鏡写真が卓越した水準にあるからであり,『胃と腸』誌が読者から支持されているゆえんもここにあると思う.

 胃癌の診断においても多くの症例を経験することが画像診断のスタートである.なかでもⅡc型早期胃癌の画像を理解することは診断学の基本であり,そこから病変範囲や深達度診断の読影,類似病変との鑑別などに役立てることができる.X線像と内視鏡所見,マクロと組織像を丹念に対比することから胃癌診断学が展開される.地道で苦労が多い作業であるが,これが王道であると私は信じている.

昨日の患者

天国からのキスマーク

著者: 中川国利

ページ範囲:P.417 - P.417

 病院には様々な患者さんが来院する.普段は時間に追われ,患者さんとの会話は事務的になりやすい.しかしながら,不安を抱えて来院する患者さんの心を安らげるためにも,できるだけ話しかけることにしている.そして時には.心温まる話を拝聴できることがある.

 たまたま客足が途絶えた午後に,顔面と左前腕を打撲したKさんが受診した.受傷した理由を聞くと,登山中に転倒したとのことであった.額の傷は深く,局所麻酔下に縫合する必要があった.そこで,局所麻酔をしながら話しかけた.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.420 - P.420

 今回の特集は「直腸癌治療―最近の進歩と動向」であるが,直腸の外科切除術式も私が大学を卒業した時代に比べると色々と工夫がなされてきていることがよくわかる.また,その結果,手術適応も大きく変化してきているのが実感されるが,これが医学の進歩というものであろう.このように,どの領域でも手術手技の小さな新たな工夫,開発によって治療適応およびその治療成績が大きく変化することが外科学の醍醐味であろう.学生との回診の際に,時にはこのような外科学の進歩について話をして外科学のダイナミックさと魅力を感じ取ってもらいたいと思っている.なかには目を輝かせて聞く学生もいるが,はたしてどのくらいの学生がこの魅力ある外科学の仲間入りをしてくれるかいつも強い期待と少なからず不安を持って日々ベッドサイド回診を行っているところである.若い学生達に,このような外科学の魅力をもっと認知させていきたいと願っている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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