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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻4号

2009年04月発行

雑誌目次

特集 脾臓をめぐる最近のトピックス

胃癌胃全摘における脾摘出の功罪

著者: 藍原龍介 ,   持木彫人 ,   大野哲郎 ,   緒方杏一 ,   桑野博行

ページ範囲:P.431 - P.435

要旨:胃全摘術における脾摘出の意義は完全な脾門部リンパ節郭清であり,外科医はそれによる患者予後の改善を期待してきた.しかし,現在までに脾摘出の患者予後に対する有用性を示したランダム化比較試験はない.むしろ脾摘出による免疫力の低下と,術中操作に伴う様々な合併症の増加が示されており,脾摘出に対する慎重な意見が多い.現在,JCOGにて大規模なランダム化比較試験が行われており,その結果が待たれる.

脾温存膵体尾部切除術の意義

著者: 木村理 ,   平井一郎 ,   矢野充泰

ページ範囲:P.437 - P.440

要旨:脾温存膵体尾部切除術は,通常の脾合併切除の膵体尾部切除より手術時間は若干長くなるものの,膵液瘻による後出血や脾捻転も経験しておらず,安全に施行できる術式である.脾温存によって術後の血小板数増加は有意に抑えられ,術後の肺梗塞や脳梗塞を予防できると考えられる.そのほか,免疫能や左横隔膜下への小腸の落ち込みが少なくイレウス防止にも有用と思われる.また,左胃動脈を切離する幽門側胃切除を施行しても脾動脈から短胃動脈を介した噴門側の胃の血流は保たれることも利点である.今後,良性・良悪性境界病変に対して脾温存膵体尾部切除術は積極的に行われるべき術式であると考えられる.

膵癌に対する脾温存膵全摘術―われわれの経験から

著者: 富川盛啓 ,   菱沼正一 ,   原尾美智子 ,   尾澤巖 ,   尾形佳郎

ページ範囲:P.441 - P.445

要旨:胃全摘術や膵体尾部切除術において,脾機能温存の観点から脾臓を温存することが勧められているが,膵癌に対する膵全摘術においても同様に,根治性が損なわれない限り脾臓を温存することにより,術後のQOL維持が図られる可能性がある.脾温存膵全摘術を施行する際には,脾臓への血流温存がさらに重要な問題となるが,脾動静脈を全長にわたり温存する術式以外にも,今回われわれが経験した脾動静脈を合併切除したうえで短胃動静脈を温存し,敢えて脾の脱転・授動を行わずに後腹膜を介する血行路を温存することで脾臓の静脈還流を確保する術式も十分安全に施行できる可能性がある.

肝硬変合併肝癌切除時の術前脾摘の有用性

著者: 竹村信行 ,   青木琢 ,   國土典宏

ページ範囲:P.447 - P.452

要旨:肝硬変合併肝癌に対する肝切除の際には,門脈圧亢進症状に伴う合併症の周術期管理に細心の注意を払う必要がある.高度の血小板減少を呈する(≦50,000/μl),もしくは,側副血行としての胃・食道静脈瘤が内視鏡的治療に抵抗する肝硬変患者においては,これらをコントロールするためにそれぞれ脾摘,Hassab手術が行われる.脾摘,Hassab手術を肝切除と同時に行うか,肝切除に先行するかについては一定の見解はない.筆者らの施設では肝表に存在し切除の容易な腫瘍や,左側尾状葉など脾摘後の癒着の影響を強く受ける腫瘍は同時切除を行っているが,その他の場合には肝切除に先行して脾摘,Hassab手術を行ったほうが,出血量を少なく安全に肝切除ができると考えている.さらに脾摘によって血小板数の増加はもとより,血清ビリルビン値や肝合成能まで改善するといった報告もある.しかし脾摘術自体の合併症もあり,脾摘の適応についてのコンセンサスはまだ得られていない.

肝硬変合併肝癌切除における術前PSEの有用性

著者: 吉留博之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重詔 ,   鈴木大亮 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.453 - P.457

要旨:肝硬変合併肝細胞癌に対する治療法には,肝切除・ラジオ波焼灼・肝動注化学塞栓療法・放射線(陽子線・重粒子線)治療・肝移植などがあるが,肝切除適応の判断の際には肝予備能評価と腫瘍因子以外に,肝硬変症に伴う脾機能亢進による汎血球減少症が存在する場合があることに留意する必要がある.特に血小板数減少はその治療戦略に影響を与える因子であり,原疾患の治療とともにこれに対する治療が必要となる.血小板数減少に対しては脾臓摘出術(腹腔鏡下を含む)と部分脾動脈塞栓術があるが,この両者の明確な選択基準はなく,各施設間でその適応が決定されているのが現状である.本稿では,肝硬変症を合併した肝癌に対する術前処置としての部分脾動脈塞栓術(PSE)の有効性と問題点につき述べた.

高度門脈圧亢進例の肝移植における脾動脈結紮および脾摘の意義

著者: 副島雄二 ,   武冨紹信 ,   池上徹 ,   祗園智信 ,   杉町圭史 ,   永田茂行 ,   前原喜彦

ページ範囲:P.459 - P.465

要旨:高度門脈圧亢進症を伴う肝移植,特に生体肝移植症例に対する脾摘術の目的は,いわゆる「過小グラフト」に対する過剰な門脈血流の調節,C型肝炎に対するインターフェロン治療の補助などである.新しいデバイスを用いることにより移植患者に対する脾摘術の難易度は格段に軽減した.本稿では高度門脈圧亢進症例に対する肝移植における脾動脈結紮術および脾摘術の意義,手技の実際,合併症などについて概説した.

ABO血液型不適合生体肝移植における脾摘の意義

著者: 田辺稔 ,   河地茂行 ,   尾原秀明 ,   篠田昌宏 ,   日比泰造 ,   下島直樹 ,   渕本康史 ,   星野健 ,   杜雯林 ,   坂本亨宇 ,   森川康英 ,   北川雄光

ページ範囲:P.467 - P.475

要旨:1985年にAlexandreらがABO血液型不適合腎移植における抗体関連拒絶反応を回避するための具体的な方法として,血漿交換による抗体除去と抗体産生の場である脾臓を摘出する方法を提唱して以来,脾摘はABO血液型不適合移植を行ううえで重要な役割を担ってきた.その後,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)やリツキシマブなどの新規免疫抑制剤や,術前の脱感作療法,肝移植では局所注入療法の導入により,ABO血液型不適合肝・腎移植の成績は近年さらに向上し,新たな時代を迎えつつある.本稿では血液型不適合移植の歴史を紐解くとともに,ABO血液型不適合の分野で常に肝移植の模範となってきた腎移植と比較しながら,ABO血液型不適合肝移植の動向と,変化しつつある脾摘の意義について触れたい.

生体肝移植過小グラフト例における脾動脈結紮および脾摘の意義

著者: 佐藤好信 ,   山本智 ,   大矢洋 ,   中塚英樹 ,   小林隆 ,   原義明 ,   渡辺隆興 ,   小海秀央 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.477 - P.489

要旨:成人生体肝移植の過小グラフトにおける肝障害においては,単純に物理的な力である過剰なshear stressが原因となって,ビリルビン代謝の中心であるHO(heme oxygenase-1)-CO systemに影響し,直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を呈する.これらを改善するには,過剰なshear stressを緩和してやる必要がある.その外科的手段として脾動脈結紮,脾摘,そしてporto-caval shunt(門脈下大静脈シャント術)がある.脾動脈結紮の効果が一時的であること,脾摘には出血や門脈血栓のリスクがあることなど,それぞれの合併症も踏まえ,グラフト体重比や門脈圧亢進症の程度を鑑みて相応しい手技を選択すべきである.

特発性血小板減少性紫斑病に対する腹腔鏡下脾臓摘出術

著者: 田村晃 ,   金子弘真

ページ範囲:P.491 - P.496

要旨:特発性血小板減少性紫斑病(以下,ITP)患者に治療効果のある摘脾の意義は大きく,ITP治療ガイドラインにおいても摘脾は重要な位置を占めている.一方,1992年にわが国で初めて施行された腹腔鏡下脾臓摘出術は,低侵襲性と安全性から今や脾腫のない良性疾患に対し第一選択の術式ともいわれている.ITPは腹腔鏡下脾臓摘出術の最もよい適応であり,実際わが国で施行された腹腔鏡下脾臓摘出術の約半数がITPに対してのものであった.脾腫のないITPにおいての腹腔鏡下脾臓摘出術の手技は比較的容易であるといわれている.しかし出血,術後膵炎,門脈血栓などの重症合併症に常に留意せねばならない.ITPに対する腹腔鏡下脾臓摘出術は,その低侵襲性と安全性から標準術式といわれるまでになってきているが,さらなる普及と合併症防止のため,手術手技や器材の改良が求められる.

外傷性脾損傷に対する治療方針

著者: 樽井武彦 ,   山口芳裕

ページ範囲:P.497 - P.502

要旨:脾臓は腹部鈍的外傷の際にもっとも損傷頻度の高い臓器の1つで,初発症状として左季肋部痛や腹腔内出血が多い.最近ではTAEや脾温存手術などの脾機能温存が主流である.まず初期輸液に対する反応をみて,non-responderに対してはCTを行わず緊急開腹術を行い,必要のある場合には摘脾を行う.Responderには腹部造影CTを行い,造影剤の血管外漏出や仮性動脈瘤を認めた場合,あるいはⅢ型の損傷にはTAEを行う.脾損傷後には遅発性脾破裂,仮性動脈瘤,脾膿瘍,左横隔膜下膿瘍などの合併症に注意し,中等度以上の脾損傷に対しては,約3週間の腹部CTを中心とした経過観察が必要となる.摘脾後にはOPSIの発症に注意する.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・4

電気メス(バイポーラを含む)

著者: 中川国利

ページ範囲:P.425 - P.430

はじめに

 外科の基本手技である切開や止血は電気メスを用いることによって容易に行うことができる.したがって,電気メスは手術を円滑に行うためには必要不可欠の道具であり,常日頃から習熟しておく必要がある.

病院めぐり

鰺ヶ沢町立中央病院外科

著者: 星野惠治

ページ範囲:P.504 - P.504

 鰺ヶ沢町は青森県の西海岸に位置しており,北は日本海,南は世界遺産に登録された白神山地があり,秋田県に隣接している,きわめて自然豊かで風光明媚な所です.町の歴史は古く,縄文時代の遺跡が多数発掘されています.南北朝時代にはすでに集落が形成され,藩政時代には北前船の西廻り航路の重要な港として,また津軽の玄関口,御用港として栄えました.

 当院は昭和37年に7診療科,病床数100床で開設され,昭和56年に内科,外科,小児科,産婦人科,整形外科,眼科,耳鼻咽喉科,歯科の8診療科,140床となり,現在地に移転・新築されました.同年に僻地中核病院の指定を受け,隣の深浦町を含めた5地区の僻地巡回診療を行っています.また,昭和58年からは訪問看護を始め,在宅医療も積極的に行っています.

公立野辺地病院外科

著者: 三上泰徳

ページ範囲:P.505 - P.505

 当院は青森県下北半島付け根の陸奥湾に面した野辺地町にあり,野辺地町(ホタテが有名),横浜町(なまこが有名),六ヶ所村(原燃施設がある)からなる3か町村の北部上北事業組合の公立病院で,2008年に50周年を迎えました.病床は一般180床,療養48床の計228床で運営されています.2006年あたりから患者さんが減少し,公立病院改革ガイドラインの基準である70%以上の病床利用率の達成が厳しく,また,医師充足率も青森県ではじめて緩和措置を受けており,病院の存続が危ぶまれるほど追い込まれていました.最近の医療情勢から当院も例外ではなく,この3年で小児科,産婦人科,脳外科の3診療科から大学医局の医師集約の方針で医師が撤退しました.常勤医は内科3名,外科3名,整形外科2名です.また,嘱託で小児科医師1名,県立中央病院後期研修の地域研修として外科1名の計10名,そして歯科口腔外科の1名で診療を行っています.

 外科は,外科一般のほかに透析センター(17床)と療養病床(48床)を担当しており,一人一人の仕事量はかなりなものとなっています.手術は自家麻酔で,年間150件ほどこなしています.外科は消化器を中心に行っていますが,大きな病院で乳癌を専門に何年も扱ってきた医師も2名いますので,最新の乳癌治療も手がけています.さらに1人は救命救急と外傷の専門医で,BCL/AED講習やICLS開催などで病院スタッフや救急救命士を指導講習しています.このような小規模病院では必修の初期研修は提供できませんが,研修すれば大きな経験と指導を受けられるだろうと思い,県立中央病院の後期研修医に声をかけ,半年間一緒に仕事をしてもらっています.

英語による外科カンファランス・3

Managing an English-language teaching conference

著者: 小西文雄 ,   ,  

ページ範囲:P.507 - P.509

はじめに

 本稿が本連載の最終回である.今回は,どのようにすれば英語の外科症例カンファランスを継続かつ発展させて,特に外科レジデントの将来に役立てることができるかについて述べる.In a previous article, we have discussed the basic elements for“Effective Oral Case Presentations”which are especially important for Japanese physicians and trainees who may ultimately receive training in North America where there are some significant differences in the style of presentations used. We also discussed“Common Problems with Case Presentations”that are encountered, especially when regular case presentations are prepared by residents in Japan. This article is intended to provide guidance for the successful administration of an English language conference in Japan.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座

連載を終えて

著者: 山本貴章

ページ範囲:P.511 - P.513

 12回の連載を終え(表1),今回まとめの1篇を追加寄稿させていただくこととなりました.事故報告のあった事例や各種判例からモデルケースを作成して紹介してきましたが,個人的に印象深いのは「ペルカミンS®による馬尾神経障害(第4回)」や「砕石位による腓骨神経麻痺(第8回)」です.すでに広く認知されている問題であり,論文でも発表されていたにもかかわらず,事故報告をきっかけに初めて勉強させていただきました.周囲の外科医に聞いてみると知らない先生も多数おりましたので,このような情報をキャッチして広めていくことの重要性を感じた次第です.

臨床研究

冠動脈血行再建後の消化管悪性腫瘍手術症例の検討

著者: 北薗巌 ,   宮崎俊明

ページ範囲:P.515 - P.521

はじめに

 近年,患者の高齢化に伴い,心疾患を合併した消化管悪性腫瘍症例に遭遇する機会は増加している.冠動脈病変に対する経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:以下,PCI)や冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:以下,CABG),オフポンプ冠動脈バイパス術(off pump coronary artery bypass grafting:以下,OPCAB)の血行再建後の非心臓手術では周術期心筋梗塞発生率が低く,悪性腫瘍手術に先行または同時に血行再建を行うことにより,悪性腫瘍手術が安全に施行できると報告されている1)

 しかし,虚血性心疾患症例に対してPCIやCABGを施行した際,完全血行再建が達成されていない場合が存在し,そのような不完全血行再建による残存虚血が,非心臓手術での周術期心疾患合併症を惹起すると考えられる.

 血行再建後の非心臓手術症例で,その周術期管理について検討した報告例は少ない.今回われわれは,心疾患のなかでも特に虚血性心疾患に対し冠動脈血行再建を行った消化管悪性腫瘍手術症例について術前の心機能評価と周術期管理について検討を行った.

臨床報告・1

ラジオ波焼灼療法後の異所性再発肝細胞癌に対して腹腔鏡下肝部分切除術を施行した1例

著者: 橋本和彦 ,   佐々木洋 ,   松山仁 ,   森田俊治 ,   福島幸男 ,   西庄勇

ページ範囲:P.523 - P.526

はじめに

 肝細胞癌(以下,HCC)の治療において,肝切除術は最も根治性の高い治療法であるが,多くのHCC症例は肝硬変などの高度肝機能障害を背景に持っていることが多く,そのために手術適応が制限されることがある.

 近年,HCCに対する治療戦略は多様化し,ラジオ波焼灼療法(以下,RFA)はHCCに対する局所療法の1つとして急速に広まりつつあるが1~3),その局所制御能や遠隔成績については未だ不明である.今回われわれは,RFA治療後の異所性再発に対してRFA治療が困難であったため,腹腔鏡下肝切除術を施行した症例を経験したので報告する.

広範囲腰部動静脈奇形に対して塞栓硬化療法が著効した1例

著者: 石賀充典 ,   森田一郎 ,   木下真一郎 ,   光野正人

ページ範囲:P.527 - P.530

はじめに

 動静脈奇形とは,正常毛細血管床を介して動脈から静脈へ還流する経路の先天的な異常で,動脈から静脈への還流経路がnidusと称される蛇行した異常血管により交通し,動脈から静脈への還流速度が速く,動静脈シャントを形成する疾患である1)

 今回われわれは,広範囲な腰部動静脈奇形に対して塞栓硬化療法を施行し,良好な経過を得たので報告する.

胃穿通した魚骨を術前診断し腹腔鏡下摘出術を行った1例

著者: 山岡延樹 ,   宮川公治 ,   矢田善弘 ,   相良幸彦

ページ範囲:P.531 - P.535

はじめに

 魚骨による消化管穿通は比較的稀で,そのほとんどは結腸,小腸,食道穿通であり,胃穿通をきたすことは稀であるとされている1).しかしながら最近はmulti-row detector CT(以下,MDCT)の普及により稀な疾患に対しても正確な画像診断を早期にできるようになり,病状の進行が軽度なうちに早期治療が可能であり,より低侵襲な腹腔鏡下治療を選択できる機会も増えている.

 今回われわれは,胃を穿通した魚骨の局在診断をMDCTにて行い,腹腔鏡下に摘出し得た症例を経験したので報告する.

腹腔鏡下大腸切除術後ドレーン抜去部の5mmポート孔に生じたポートサイトヘルニアの1例

著者: 金光聖哲 ,   川崎健太郎 ,   森本大樹 ,   中村哲 ,   市原隆夫 ,   黒田嘉和

ページ範囲:P.537 - P.540

はじめに

 近年,腹腔鏡下手術の適応拡大が図られ,今後もますます各領域にて施行されていくことと思われる.一方で腹腔鏡下手術では,ポートやクリップといった機器が多用され,これらに起因する特有の合併症が経験されており1~4),ときに重篤な経過をたどることもあり,広く認識される必要がある.

 今回われわれは,腹腔鏡下手術後,5mmポート挿入部に発生したポートサイトヘルニアを経験したので,文献的考察を加えて報告する.

小腸広範囲切除を行った上腸間膜静脈血栓症の2例

著者: 中村司朗 ,   松尾俊和 ,   中越享

ページ範囲:P.541 - P.544

はじめに

 上腸間膜静脈血栓症は急性腹症において比較的稀な疾患であり,診断に苦慮することも多く,治療法も血栓溶解療法で軽快するものもあれば大量腸管切除が必要な例もある1,2).今回われわれは,上腸間膜静脈血栓症にて小腸広範囲切除術を行った2例を経験したので報告する.

胃小細胞癌の1例

著者: 斉藤誠 ,   植田宏治 ,   平井俊一 ,   中野秀治

ページ範囲:P.545 - P.548

はじめに

 胃小細胞癌は全胃癌中0.06~0.2%ときわめて稀な疾患で1),胃癌取扱い規約においては特殊型のなかのその他の癌に分類されている.一般に脈管侵襲が著明で,確立された治療法もなく予後不良であることが多いが,補助化学療法が有効であった報告もみられる.今回われわれは胃小細胞癌の1例を経験したので報告する.

術前部位診断に出血シンチグラフィが有用であった上行結腸憩室出血の1例

著者: 原真也 ,   澤田成彦 ,   津田洋 ,   畠山茂毅 ,   佐尾山信夫

ページ範囲:P.549 - P.551

はじめに

 下血によるショック患者の出血部位の同定は困難であることが多く,治療方針の決定に難渋することも少なくない1).今回われわれは,上行結腸憩室大量出血による出血性ショックの1例において,血管造影検査を施行することなく出血シンチグラフィ(以下,出血シンチ)により出血部位を同定し得た症例を経験したので報告する.

胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した食道類基底細胞癌の1例

著者: 芝﨑英仁 ,   尾形章 ,   吉村光太郎 ,   秋草文四郎 ,   野呂昌弘 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.553 - P.558

はじめに

 食道の類基底細胞癌は非常に稀な疾患1,2)で,予後不良といわれている3).今回われわれは胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した食道類基底細胞癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

術前に診断し得た早期胆囊管癌の1切除例

著者: 藤川貴久 ,   田中明 ,   安部俊弘 ,   吉本裕紀 ,   田中宏和 ,   兼清信介 ,   多田誠一郎 ,   松本好晴

ページ範囲:P.559 - P.563

はじめに

 原発性胆囊管癌は比較的稀な疾患であり,胆囊結石症や胆囊炎と診断された手術後に確定診断に至ることが多く,正しい術前診断は困難とされている.今回,われわれは心窩部痛にて発症し,MRI,MDCT検査およびERCPにて診断し外科的に切除し得た早期胆囊管癌症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

ひとやすみ・45

父親への癌治療

著者: 中川国利

ページ範囲:P.466 - P.466

 病気に対する治療は,昨今はエビデンスに基づいて行われるようになった.しかしながら,癌治療ではいまだ確立されたエビデンスは少なく,臨床では悩むことが多い.特に,種々の要因が絡み合う身内では悩みはさらに増す.

 かつては70歳以上の消化器癌症例に対しては,手術はあまり行われなかった.また,施行しても単なる癌病巣切除が主体であり,郭清を伴う根治手術までは通常はしなかった.さらに,術後の癌化学療法に至っては禁忌とさえされていた.しかし,高齢化社会を迎え,80歳代の高齢者に対しても積極的に手術や癌化学療法が行われつつある.私自身も,2階まで自分で上がれる患者さんに対しては,いくら高齢者といえども手を抜かずに根治手術を行うことにしている.

コーヒーブレイク

怖くてさわれない話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.476 - P.476

 最近は消化器癌の化学療法が進歩し,当院でも積極的に取り入れています.切除不能と考えられて化学療法を実施したところ,切除が可能になった症例も経験し始めており,私が医師になった頃とは隔世の感があります.

 化学療法のなかで,最新の分子標的薬では副作用が問題となり,使用にあたっては脳神経外科などの他科との連携が必要になってきています.当院には脳神経外科がないため,近隣の脳神経外科に連携をお願いすることとなり,その手始めに脳神経外科の先生による勉強会を開くことになりました.

昨日の患者

またのお越しをお待ちしております

著者: 中川国利

ページ範囲:P.548 - P.548

 急性疾患を扱う外科病棟には様々な患者さんが入院する.しかし,同じ病名で入退院を繰り返す患者さんは少ない.ごく稀ながら患者さんの名前を聞いただけで,病棟スタッフ一同が病名を言い当てられる常連の患者さんが存在する.

 Sさんは70歳代後半であり,30歳代に急性虫垂炎のため他施設で虫垂切除術を,その1か月後に癒着性イレウスで癒着剝離術を受けた.その後の経過は良好で,転勤で当地へ転居してきた.そして,10年ほど前にイレウスが生じ,当院で癒着剝離術を受けた.さらに1年後に再びイレウスとなり,小腸切除を伴う癒着剝離術を受けた.その後もたびたびイレウス症状を繰り返し,入退院は18回にも及んだ.

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あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.568 - P.568

 今月号の特集は「脾臓をめぐる最近のトピックス」である.脾臓が外科系雑誌の特集に取り上げられることは少なく,一般人にはこの臓器の存在すら知らない人もいるように,地味な臓器といえよう.脾臓は原発する疾患が少なく,他臓器疾患あるいは血液疾患の治療のために手術対象となる場合が多い.術式としても基本的には摘出か温存かの2通りであり,肝臓や膵臓の専門家はいても,脾臓を専門的に治療の対象とする外科医はいない.今月号の執筆者も,脾臓を基礎的・臨床的研究の対象としている方か,または専門とする手術の付随的な対象としている方かで,脾臓の専門家と呼ばれる方たちではないと思う.筆者も数年前に日本消化器外科学会の教育集会で「脾臓摘出の適応と手技」というセッションを担当させていただいたが,講師として甚だ不適切な小生が選ばれたのも,人選が難しかったための苦肉の策であろうと思われた.浅学なために,また当時は脾臓に関する本特集のような網羅的でアップデートな参考書はなく,その講演の準備には多大な時間と労力を費やしたのを思い出す.

 そのときにも感じたことであるが,脾臓は地味な反面,奥の深い臓器であり,未解決の問題が沢山残されている.本特集でも,胃癌,膵癌,肝硬変合併肝癌,門脈圧亢進症,生体肝移植,血液疾患,外傷,など多岐にわたる疾患に関連して,様々なトピックスが提示され,脾摘あるいは脾温存の意義・功罪が議論されている.しかし,現時点での脾臓の意義は米国のスローガンと同様,今後も“change”する可能性がある.例えば生体肝移植の項で述べられているように,以前はABO血液型不適合移植における免疫抑制法の一環として必須と考えられた脾摘が,抗CD20モノクローナル抗体の出現によって不要になる可能性も示唆されつつある.脾臓のように派手さはなくても奥の深い臓器は,肝臓のように派手で注目を浴びることの多い臓器とは違った意味で研究対象として興味深い.それと同様に,派手でアピール力のある人には常に多くの注目が集まるが,派手さはなくても粛々と自分なりの仕事をしている奥の深い人間は,つきあうほどに興味をそそられる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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