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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

特集 炎症性腸疾患外科治療のcontroversy

特集によせて

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.580 - P.580

 免疫調整剤や血球除去療法,あるいは抗体療法などの導入によって炎症性腸疾患に対する内科的治療は進歩を続けている.これらの新たな治療法により,従来は外科手術の適応と考えられたような病態でも内科的治療で寛解導入が得られたとする報告も行われている.しかし,これらの内科的治療を駆使してもコントロールが不能な病態が存在するのも事実であり,こうした病態には現在でも外科治療が必要となる.

 外科治療においても腹腔鏡下手術をはじめとする低侵襲手術の導入などの進歩がみられている.現在では潰瘍性大腸炎あるいはクローン病に対する各種の術式も確立され,より安全で,より低侵襲を目指した治療が行われるようになっている.しかし一方で,潰瘍性大腸炎やクローン病で外科手術の適応となる症例では,術前にステロイドが大量投与されていたり,大量出血などによって全身状態が不良である場合も少なくない.こういった状況を総合的に判断して術式が決定されるが,実際に行われる術式の詳細に関しては必ずしも統一されておらず,同じ病態の症例に対しても異なった術式あるいはアプローチ法が用いられているのが現状である.

〔潰瘍性大腸炎に対する最適な外科治療とは?〕

J型回腸囊かW型回腸囊か

著者: 飯合恒夫 ,   亀山仁史 ,   野上仁 ,   川原聖佳子 ,   谷達夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.623 - P.628

要旨:潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)や家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)に対する大腸全摘,回腸囊肛門(管)吻合術に用いられる回腸囊の形状はS型,J型,W型,H型,K型など様々報告されてきたが,排便機能は側端吻合となるJ型とW型が良好であると言われている.W型は容量を大きくして排便回数を少なくすることを目的に作られた回腸囊であるが,J型との比較試験においてその差は小さく作製にも手間がかかるため,現在はほとんどの施設でJ型回腸囊が用いられている.

全大腸切除術:1期手術か2期・3期手術か

1期手術の立場から

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   中村光宏 ,   松岡宏樹 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.581 - P.586

要旨:術式の進歩によって,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:以下,UC)においても1期的な手術が可能になってきている.UCに対する1期的手術は2期分割手術と比べて在院日数の短縮や医療費の軽減に寄与している.また,術後合併症においても有意差を認める要因はなく,術後のパウチ機能率も同程度である.術後の排便機能は排便回数,便の漏れ,ガスと便の区別なども術後3か月で日常生活に不便がない程度に回復している.2期分割手術では人工肛門閉鎖を初回手術後3か月目の前後に行っていたことを考慮すると,対象症例の選択を十分に行えば,1期的な手術は安全に行うことができる術式であると思われる.デメリットとしては術後の肛門周囲の疼痛管理が必要なことがあるが,これは術後2か月を経過するとなくなる.

2期・3期手術の立場から

著者: 小川仁 ,   高橋賢一 ,   舟山裕士

ページ範囲:P.587 - P.591

要旨:潰瘍性大腸炎に対して1期手術を行うか2期・3期分割手術を行うかの問題は,diverting loop ileostomyの必要性および3期手術の有用性に集約される.Diverting loop ileostomyは吻合部の安静と早期経口摂取開始を目的として大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合の際に造設される.これを造設しない1期手術(特に手縫いで行う回腸囊肛門吻合)は,本術式に熟練した施設で症例を選択して行うのでない限り避けたほうが無難である.また3期手術は,全身状態の改善や救命を目的として回腸囊肛門(管)吻合術の前に大腸亜全摘・回腸ストーマ造設手術を行うものであり,しばしば術前の全身/栄養状態が不良な本症では有用な術式である.

標準術式として肛門管内直腸粘膜抜去は必要か

必要とする立場から

著者: 荒木俊光 ,   三木誓雄 ,   吉山繁幸 ,   内田恵一 ,   楠正人

ページ範囲:P.593 - P.600

要旨:J型回腸囊肛門吻合が登場して潰瘍性大腸炎の手術は確立したが,肛門管直腸粘膜抜去を施行するかどうかについては議論の多いところである.粘膜抜去を行うことによって残存直腸に対する治療が不要となり,さらに癌化のリスクが減少する.また,粘膜抜去を行っても肛門機能は維持されることが示されてきている.しかしながら,高度の技術や緻密な術後管理が必要であり,専門施設での手術が望まれる.最も大切なことは,患者に対してできる限り正確かつ最新の情報を提供し,術式を選択してもらうことである.手術を施行する側も様々な状況に対応できるように,十分な知識と技術を持って診療に臨むべきである.

必要でないとする立場から

著者: 板橋道朗 ,   橋本拓造 ,   番場嘉子 ,   廣澤知一郎 ,   小川真平 ,   亀岡信悟

ページ範囲:P.601 - P.605

要旨:回腸囊肛門管吻合(ileo-anal canal anastomosis:IACA)の最も大きな特徴は,直腸のanal transitional zone(ATZ)を温存して疾患のコントロールをしつつ,排便機能が良好に保たれることである.器械吻合であるため吻合の手技は術者の技術による部分が比較的小さく,安定した吻合が可能である.当科で経験した潰瘍性大腸炎手術症例で自然肛門温存手術は92.8%の症例に行われていた.直腸粘膜抜去を行わないIACAを標準手術として,癌化あるいは下部直腸にdysplasiaを認める症例では回腸囊肛門吻合(ileo-anal anastomosis:IAA)を選択している.手術時間はIACAで平均255分,IAAでは345分であった.術後合併症や術後排便回数に差は認めないが,失禁はIACAがIAAに比べて有意に良好である.IAAでの粘膜抜去は必ずしも完全なわけではなく,粘膜遺残が認められることがある.IACAでは残存直腸粘膜からの癌やdysplasiaの発生に注意が必要となるが,癌やdysplasiaが発生する頻度は低率である.IACAは,疾患のコントロールを行いつつ排便機能が良好に保たれる術式であり,多くの症例で適応とすることが可能である.高齢者や肛門機能が十分でない症例では,あえて肛門機能の温存に有利なIACAのみでなく永久人工肛門である大腸全摘術(total proctocolectomy)を選択したり,総合的に手術のリスクや術後のquality of life(QOL)を考慮して術式を決定すべきである.

開腹手術か腹腔鏡下手術か

開腹手術の立場から

著者: 杉田昭 ,   小金井一隆 ,   木村英明 ,   山田恭子 ,   二木了 ,   鬼頭文彦 ,   福島恒男

ページ範囲:P.607 - P.613

要旨:潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘・J型回腸囊肛門(管)吻合術について開腹術と腹腔鏡補助下手術の比較を行った.手術適応のうち重症例は腸管壁が脆弱であり,また全身状態が不良なことが多く,手術時間が短い開腹術の適応である.開腹術は腹腔鏡下手術に比べて出血量は多いが,手術時間や器械の費用,病院収益に関して優っていると考えられた.整容性については多くの症例で小開腹手術(臍下)が可能であり,臍左側まで切開を延長する症例を含めても腹腔鏡下手術に比べて遜色はないと思われた.潰瘍性大腸炎に対しては小開腹術による大腸全摘・J型回腸囊肛門(管)吻合術を標準術式としてよいと考えられた.

腹腔鏡下手術の立場から

著者: 國場幸均 ,   中西正芳 ,   大辻英吾 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.615 - P.621

要旨:若年者に多く発症する潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)には,整容性に優れ術後機能の温存された,より低侵襲な手技の開発が求められている.本稿では,大腸癌の腹腔鏡下手術の工夫をUCに導入した,切開創のより小さな整容性のよい腹腔鏡下大腸全摘・回腸囊肛門管吻合を紹介する.開腹手術と比較を行ったところ,腹腔鏡下手術は手術時間では劣るものの良好な整容性を有しており,術後の短期成績でも遜色なかった.本法は手術の難易度が高く,腹腔鏡下大腸手術の経験が豊富な施設での施行が望ましいと考える.しかし,良好な整容性や拡大視効果による神経温存は本法の最大の長所であり,適応を理解し,手術操作の習熟と定型化によって時間の短縮がなされれば潰瘍性大腸炎への最適な手術となり得る.

〔クローン病に対する最適な外科治療とは?〕

長い狭窄性病変に対する術式―狭窄形成術か腸切除術か

著者: 舟山裕士 ,   高橋賢一 ,   福島浩平 ,   小川仁 ,   羽根田祥 ,   徳村弘実 ,   佐々木巖

ページ範囲:P.651 - P.658

要旨:狭窄形成術は急性炎症,瘻孔,穿孔,膿瘍,蜂窩織炎を伴わない狭窄性病変に対して行われ,従来は長い連続性狭窄や短い間隔の多発性狭窄には適応が困難であったが,近年,術式の改良とともに適応病変が拡がりつつある.合併症が少なく,十分な効果が得られ,腸管の切除範囲が節約でき,腸切除術と同等の長期成績が得られるなど利点が多い.短い狭窄にはHeineke-Mikulicz法が多く用いられるが,長い狭窄,特に7~10cmを超える病変にはFinney法やJaboulay法が用いられる.さらに長い狭窄にはcombined Heineke-Mikulicz and Finney法やdouble Heineke-Mikulicz法,side-to-side isoperistaltic strictureplasty,side-to-side diseased to disease-free anastomosisなどを病変に応じて用いる.狭窄形成術は病変を残す術式であるが,術後には病変の改善が観察されるなど,今後のクローン病の病態の解明や外科治療の発展が期待される.

開腹手術か腹腔鏡下手術か

開腹手術のメリット

著者: 二見喜太郎

ページ範囲:P.629 - P.635

要旨:クローン病に対する外科治療の役割は腸管の合併症を除去し,QOLを回復させることにある.局所的および全身的に様々な合併症を有したクローン病の手術に定型はなく,開腹および腹腔内の操作には癒着剝離が必須であり,3次元的な外科解剖の理解と腹部手術手技の基本ならびに腸管の扱いに習熟しておかなければならない.腹腔鏡下手術はクローン病に対しても有用な術式であり,比較的炎症の軽い限局した狭窄例がよい適応とされている.一方,開腹手術の利点は経験から培われた手の感触を活かすことにあり,広汎な病変や複雑な瘻孔をきたした場合にはなくてはならないものである.今後は,両者の利点をさらに理解し,適応基準を明らかにすることが重要となるであろう.

Hand-assisted laparoscopic surgery(HALS)のメリット

著者: 中島清一 ,   水島恒和 ,   廣田昌紀 ,   根津理一郎

ページ範囲:P.637 - P.641

要旨:Hand-assisted laparoscopic surgery(HALS)は,術者の手を腹腔内に挿入して行う腹腔鏡下手術の変法である.HALSでは触診や指による把持や剝離,手を用いた術野の展開が可能となるため,愛護的な操作を要し,また切除臓器が大きく術野が広範囲に及ぶulcerative colitis(UC)やCrohn's disease(CD)大腸切除例には特に有用な選択肢となり得る.最近は専用デバイスが大幅に改良され,HALSはより現実的なアプローチとなってきたが,実際のHALSは事実上のsolo-surgeryであり,効果的に用手補助を行うには固有のスキルが必要となる.現在,HALSの「低侵襲性」を示すエビデンスは非常に限られており,今後はRCTを通じてCDに対するHALSの真の意義を明らかにしていく必要がある.

クローン病に対する腹腔鏡下手術のメリットとデメリット

著者: 野村明成 ,   坂井義治

ページ範囲:P.643 - P.649

要旨:クローン病は年々増加傾向にある原因不明の慢性炎症性腸疾患であり,内科的治療でコントロールが困難な症例に対しては外科的治療が施される.比較的若年者に発症し,再燃によって複数回の手術を余儀なくされることが多いため,より低侵襲なアプローチ方法である腹腔鏡下手術の機会が増えている.近年は再手術症例や膿瘍・瘻孔を形成している症例などの腹腔鏡下手術の難易度が高い症例にも適応が拡大されて良好な成績が得られている.しかし,クローン病に対する外科的治療は根治的治療ではないことを肝に銘じるべきであり,クローン病の特徴や腹腔鏡下手術のメリット・デメリットを十分に理解したうえで治療戦略を立てることが重要である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・5

マイクロ波凝固装置

著者: 才津秀樹 ,   高見裕子 ,   和田幸之 ,   龍知記 ,   立石昌樹

ページ範囲:P.573 - P.577

はじめに

 現在,肝切除は安全で普遍的な手術手技の1つとしてほぼ確立されているものの,20~30年前までは最も死亡率の高い危険な手術であった.その大きな原因の1つは術中の大量出血であった.そのため,Tabuseら1)によって肝切除の出血制御の目的で開発されたマイクロ波凝固装置(microwave tissue coagulator:以下,MTC)は超音波メスや術中超音波検査などとともに肝切除には欠かすことのできない手術機器となった.

 ところが,MTCが肝切除断端の膿瘍形成や胆汁瘻の原因になるとの報告が多数散見されるようになったため2),多くの施設でMTCは次第に使用されなくなった.しかしわれわれは,肝切除断端膿瘍や胆汁瘻の原因はMTCを使用したかどうかではなく,大量の凝固された肝組織を遺残させることと凝固された胆管断端がそのまま放置されていることにあると考え,超音波メスで凝固された肝組織を徹底的に破砕・吸引してしまい,また,脈管や胆管の結紮は凝固されていない部分との境界部で確実に行うことによって解決できたため,現在までMTCは一度もお蔵入りすることなく継続して使用している.

 最近では,マイクロ波凝固壊死療法(microwave coagulo-necrotic therapy:以下,MCN)はもとより肝切除においても膿瘍形成や胆汁瘻を経験することは皆無となったため,MCNでは全例でドレーンは留置せず,また肝切除でも肝右葉あるいは拡大肝右葉切除以外はドレーンを留置しなくなっている.

 そこで本稿では,MCNと肝切除における「マイクロ波」の使用上のコツと注意点を中心に述べる.

ロンドン外科学史瞥見・1【新連載】

ジョン・ハンターの足跡を辿る

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.659 - P.666

はじめに

 本誌に掲載されていた連載企画「外科学温故知新」が2008年の63巻7号で終了したため,歴史的な観点からコラムを担当していた者として一抹の寂しさを感じていたが,心機一転,かねてから気にかかっていたジョン・ハンター(John Hunter:1728~1793年:図1)について調査すべく2008年9月下旬にロンドンへ取材旅行に出かけた.

病院めぐり

長野赤十字病院外科

著者: 袖山治嗣

ページ範囲:P.668 - P.668

 当院の起源は明治4,5年頃に長野町善光寺門前の大門に開設された医学研究所とされています.その後,北石堂町に移転し,明治37年に長野市から譲渡されて日本赤十字社長野支部病院として発足しました.さらに昭和58年に現在地に新築・移転しました.赤十字病院として105年の歴史があることになります.病院開設当時から外科の診療は行われており,歴代部長の名前が記録に残っています.

 当院から長野オリンピックの会場となった志賀高原や八方尾根スキー場,あるいは軽井沢へは車で1時間あまりで,市内にはスケートリンクもあり,テニスコートも沢山あります.ゴルフ場やキャンプ場,温泉なども近くに多数あり,1年中,四季折々の自然を満喫して休暇を楽しむことができる環境にあります(ただし,私はほとんどその恩恵に与っていませんが).また,毎年11月に盛大に行われる「ながのえびす講煙火大会」は当院裏の犀川河川敷が会場であり,当院は絶好の観覧場所となっています.

藤森医療財団藤森病院外科

著者: 西牧敬二

ページ範囲:P.669 - P.669

 当院は長野県松本市の中心にある繁華街に隣接しており,屋上からははるか西に北アルプス連峰,常念岳,乗鞍岳,東に美ヶ原高原,南に鉢伏,高ボッチ高原を一望のもとに見渡すことができる環境に恵まれた病床数60床の小さな病院です.

 明治22年に開業し,以来今年で120年になります.開業当時は「松本病院」と称していましたが,大正14年に松本市立病院(現在のまつもと医療センター)が設立された際に松本市からこの名称の移譲の要請があり,無償で市に譲って現名称に改称しました.現在の病棟は築約35年になって老朽化したため現在,全面改築中であり,新病院が平成21年9月に完成予定です.

私の工夫 手術・処置・手順

結び目の目立たない真皮水平マットレス連続縫合

著者: 宮崎恭介

ページ範囲:P.670 - P.671

【はじめに】

 小児および成人の鼠径ヘルニア日帰り手術において,帰宅後に手術創の処置が一切不要で,かつ手術創がきれいに治ることはきわめて重要である1,2).今回筆者は,結び目の目立たない真皮水平マットレス連続縫合を考案したので紹介する.

総説

腹腔鏡下右側結腸切除術における視野に関する考察―特に右側結腸の筋膜構成

著者: 三毛牧夫 ,   加納宣康

ページ範囲:P.673 - P.680

はじめに

 腹腔鏡下手術が消化器外科で一般的になり,大腸癌手術においてもその症例数は増加の一途を辿っている.右側結腸における手術手技においては内側アプローチ,特に後腹膜アプローチによって筋膜構成の理解が容易となり,そのため手術手技が確実なものとなった.しかし,その臨床解剖の理解は基本的な概念から離れた考察も多くみられる.臨床解剖では,その剝離層を発生学的認識に基づいた筋膜解剖から理解し,最適な層を選択しなければならない.

 そこで今回,右側結腸切除術における筋膜構成について考察した.

臨床報告・1

虫垂子宮内膜症の1例

著者: 若杉正樹 ,   平田泰 ,   南村圭亮 ,   梅村彰尚 ,   菊一雅弘 ,   坂本昌義

ページ範囲:P.683 - P.686

はじめに

 虫垂子宮内膜症は,わが国では比較的稀な疾患である1).今回,われわれは急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を行った虫垂子宮内膜症を経験したので報告する.

恥骨軟骨肉腫術後8年目に小腸肉腫を認め切除した1例

著者: 篠原敏樹 ,   濱田朋倫 ,   内藤春彦 ,   前田好章 ,   砂原正男 ,   鈴木宏明

ページ範囲:P.687 - P.690

はじめに

 小腸腫瘍は原発性より転移性腫瘍のほうが多く,特に胃癌,大腸癌,卵巣癌をはじめとする腹腔内腫瘍の腹膜播種として臨床上しばしば経験する1).しかし,腹腔外臓器からの小腸転移の場合,診断時には全身転移を認め癌末期の状態であることが多いため積極的に手術加療する症例は少なく,また報告も稀である2)

 今回,恥骨軟骨肉腫根治術の8年6か月後に孤立性の小腸腫瘍を認め手術加療を行った症例を経験したので報告する.

良性疾患による幽門狭窄に対する完全腹腔鏡下胃・空腸バイパス術

著者: 小竹優範 ,   稲木紀幸 ,   山本大輔 ,   高田宗尚 ,   品川誠

ページ範囲:P.691 - P.695

はじめに

 慢性の胃・十二指腸潰瘍などの良性疾患に伴う幽門狭窄に対する治療法としてバルーン拡張術があるが1,2),拡張が不十分な場合は手術療法も施行される.近年は低侵襲な腹腔鏡下手術が進歩し続けている3)

 今回われわれは,胃潰瘍瘢痕に伴う幽門狭窄に対して完全腹腔鏡下に胃・空腸バイパス術を施行したので報告する.

Gemcitabine投与で肝転移巣が消失し,原発巣の切除を行った膵粘液性囊胞腺癌の1例

著者: 桒田和也 ,   村岡篤 ,   小林正彦 ,   國土泰孝 ,   立本昭彦 ,   津村眞

ページ範囲:P.697 - P.701

はじめに

 膵癌はわが国において増加傾向にあり,年間死亡者数は2万人を超え,今後ますます増加するものと思われる.膵臓は後腹膜臓器であり症状が出現するまで時間を要することが多いため,癌が発生しても早期に発見することが非常に困難である.また膵臓は,胃,十二指腸,脾臓,小腸,大腸,肝臓,胆囊など多くの臓器に囲まれているという解剖学的な背景もあり,初期の頃からほかの臓器への転移を生じやすいという性質がある.したがって,発見時には外科切除が不可能である症例も少なくない.膵臓癌全体の5年生存率は5%以下にすぎず1),予後の改善には全身療法としての化学療法の治療成績向上が期待される.

 今回われわれは,膵粘液性囊胞腺癌による肝転移巣が術前化学療法で画像上消失し,原発巣の切除を行った1例を経験したので,これを報告する.

虫垂切除手術創に癒着した大網から腹腔内出血をきたした1例

著者: 伊地隆晴 ,   池原康一 ,   仲宗根由幸 ,   池村綾 ,   宮城和史 ,   伊波潔

ページ範囲:P.703 - P.707

はじめに

 大網出血は大網内の動静脈の破綻によって腹腔内出血や大網内出血をきたす病態の総称で,比較的稀であり多くは外傷性とされる1)

 今回われわれは,4年前の急性虫垂炎手術部位に癒着した大網から何の誘因もなく出血し,開腹手術を行なった大網出血症例を経験したので報告する.

蛋白漏出性胃癌の1例

著者: 砂川宏樹 ,   嘉数修 ,   稲嶺進 ,   與那覇俊美 ,   武島正則

ページ範囲:P.709 - P.713

はじめに

 蛋白漏出性胃腸症は消化管に蛋白が漏出する疾患の総称で,その原因は多岐に及ぶ.その原因の1つに胃癌がある1).一般に蛋白漏出性胃癌と言われおり比較的稀な疾患である.

 今回われわれは,四肢浮腫と胸腹水貯留を伴う低蛋白血症で発症した蛋白漏出性胃癌を経験したので文献的考察を加えて報告する.

乳癌手術後に腋窩seromaから悪性細胞が証明され,再発なく9年が経過した1例

著者: 木村正美 ,   久米修一 ,   兼田博 ,   西村卓祐 ,   佐藤敏美 ,   堤悦朗

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに

 乳癌術後に腋窩や手術創下にseromaを認めることは稀ではなく,ときとして完治に難渋することもある1~3).以前は穿刺排液を行うことが多かったが,最近では手術の縮小化に伴い,そのような機会も減少している4)

 今回,乳癌手術後に創部に貯留液を認め,細胞診によって悪性細胞を証明した症例の長期経過について報告する.

在宅静脈栄養法(HPN)に間欠的完全静脈栄養法(TPN)を導入した短腸症候群の1例

著者: 甲谷孝史

ページ範囲:P.719 - P.723

はじめに

 残存小腸の短い短腸症候群は長期の完全静脈栄養法(total parenteral nutrition:以下,TPN)の適応となる症例が多い1).しかし,その輸液内容の決定や間欠的TPN(以下,本法)の導入に関する詳細な報告は少ない2~5)

 在宅静脈栄養法(home parenteral nutrition:以下,HPN)においてquality of life(QOL)の向上を目的に本法を施行した.本稿では,その具体的な導入方法に関して報告する.

書評

真野俊樹(著)「医療経済学で読み解く医療のモンダイ」

著者: 福田秀人

ページ範囲:P.672 - P.672

 コーネル大学医学部留学中に経済を学ぶことの大事さを痛感し,京都大学で経済学博士号を得た医師であり,また医療経済学者でもある筆者は,出来高払いの保険制度は,医師と患者にとっての天国をもたらすものと説く.患者のために高度な診療をするほど,病院や医師に多額の報酬が支払われるからである.しかし,これでは医療費に歯止めがかからず,また,医師と患者の間の情報・知識の格差が,過剰な診療を誘発する.

 さらに,高齢化社会の到来による患者増で,医療費は急増していくとの政府予想と財政赤字の深刻化を受けて,医療費の抑制が重要な政策課題となり,包括払い制度,在院日数の短縮,病床数削減,診療報酬引き下げ,ジェネリック薬品の奨励,レセプトの審査強化などが推進されるようになった.延命治療も問題視されるようになった.

恒藤 暁,岡本禎晃(著)「緩和ケアエッセンシャルドラッグ」

著者: 渡邊正

ページ範囲:P.682 - P.682

 診療中にすぐ参照できるように,手のひらに乗るような小型サイズでありながら,緩和ケアに関する専門的・実践的知識がぎっしりと詰まった本書は,私には小さな巨人に譬えることができると思われた.それは本書が,①従来の小型版のほとんどが疼痛コントロールに限られているのに対し,緩和ケアで遭遇する多くの症状が網羅されていること,②著者の長年の経験から得られた臨床上のノウハウが随所に見られ,本書に息を吹き込んでいるばかりでなく,実践的で有用な知識を提供していること,③緩和ケアの本質である全人的ケアの観点が貫かれていること,などの特徴を持っているからと思われる.

 さて本書は,総論として症状マネジメントの原則と概説,各論として緩和ケアで用いられるエッセンシャルドラッグの解説から構成されている.先にタイトルにもなっているエッセンシャルドラッグであるが,世界保健機関(WHO)が国際ホスピス緩和ケア協会(IAHPC)に依頼して作成されたもので,そのリストは2006年の『Palliative Medicine』(Vol 20,p 647-651)に公表されている.リストの作成に当たっては,緩和ケアで多くみられる症状を特定したあと,デルファイ法を用いて薬剤の効果,安全性,経済性などを検討し,必須薬として33剤を決定している.しかし薬剤に関する説明はほとんど省略されているため,著者はこれらの必須薬をもとにわが国の実情に即して約50種類の薬剤を厳選した上で,各薬剤の用法,副作用,相互作用などについて詳細な解説を行っている.

山本雅一(編)「レジデントのための これだけは知っておきたい! 消化器外科」

著者: 松股孝

ページ範囲:P.702 - P.702

 昭和54年秋,2年目の研修医時代に研究棟や大学院の若手先輩に10数回にわたって早朝講義をしてもらいました.Bさんが食道静脈瘤の内視鏡所見を講義してくれました.Oさんが胃透視の基本を講義してくれました.Iさんが胃の解剖を講義してくれました.Uさんが創傷治癒の講義をしてくれました.彼らにとっては講義の準備も大変だったようです.当時の文部教官には若手がよく勉強するようになったと言われました.研修医にとっても,今日・明日の臨床に直結する講義は,学生時代の講義と違って,その後10年間は役に立つ内容でした.

 そのような内容が,『レジデントのための これだけは知っておきたい!消化器外科』に,わずか1日で読破できる量でコンパクトに纏められています.

ひとやすみ・46

御用聞き

著者: 中川国利

ページ範囲:P.680 - P.680

 主治医として行う診療の1つに病棟の回診がある.患者さんの状態が不良の場合には頻回に行われるが,状態が落ち着いている場合には1日1回程度行われるのが一般的である.また,術後の患者さんが多い急性期の外科病棟でも通常は朝に創処置が行われ,夕方には気になる患者さんを見回るだけのことが多い.

 私は研修時代に,「御用聞き」と称して頻回に回診することを教え込まれた.また,患者さんは教科書であり,病院にいる間はできるだけ患者さんに付き添い,医学書は自宅で開くように指導された.さらに,患者さんの状態の変化をこまめに把握するのが主治医の義務であり,看護師さんから指摘されてはじめて気づくことは恥であるとさえ教わった.医師になったばかりの頃に刷り込まれた習慣は30数年を経た現在も続いている.まさに「三つ子の魂,百まで」である.

コーヒーブレイク

新御3K

著者: 板野聡

ページ範囲:P.707 - P.707

 医局での雑談のなかで,日本では何かにつけて物事を3つ並べて言うことが多いという話題になり,時代劇好きの私は尾張,水戸,紀伊の御三家を挙げることになりました.カラオケ好きの先生からは,御三家と言えば郷ひろみ,西条秀樹,野口五郎の3人ですねと言われ,いやそれは新御三家で元々の御三家は……となり,私の歳がばれそうになったので,外科では御三家ならぬ「御3K」というものがあるじゃないかと洒落たところでその場はお開きとなりました.

 興味本位にこの「3K」を調べてみると,人事労務用語辞典に『主として若者労働者が敬遠する「きつい」「汚い」「危険」な労働を,頭文字をとって3Kと呼ぶ』とあり,元は外科に限ったことではないと知りました.また,この言葉は1990年頃から流行りだしたようで,人手不足が顕在化したことがベースにあったと言います.そう言えば,外科界で言われるようになったのも,若い先生方の外科離れが問題なった頃からではないかと思われ,なるほどと納得することになりました.一体何のためにこの言葉を外科界に持ち込んだのかはわかりませんが,案外,自分達の過酷な労働状況を端的に表現するために,外科医自身が使い始めたのかもしれません.しかし,それでは余りにも自虐的であり,少しでも元気が出るように新御三家ならぬ「新御3K」を考えてみることにしました.

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あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.728 - P.728

 社会の注目を集めた福島県立大野病院の事件をはじめとして,医療訴訟は現在,医療を行っていくうえで重大な問題となっています.診療科別に医療訴訟の件数をみてみると,内科,外科系が多い一方,注目されるのは整形外科や美容外科の件数が多い点です.整形外科では悪性疾患も扱いますが,運動機能に関する悪性疾患でない病態とも深くかかわっています.骨折をはじめとする運動機能に関する疾患の治療は治療効果が短期的に現れ,これらは患者側から明確に評価できるものです.一方,運動機能の改善を主目的として治療が行われるため,患者側からは,きわめて具体的な治療効果が要求されます.また,美容外科においては,整容上の問題が客観的な評価以外に,患者個人の価値観のうえで結果が評価されるという特性があります.こういった点が整形外科,美容外科の医療訴訟件数が多い理由にもなっているのでしょう.

 一方,消化器疾患の外科治療においては癌をはじめとする悪性疾患の治療が大きな比重を占めています.しかし,患者側からみると,手術直後に判定できるのは創の大きさや合併症の有無などで,本来の治療目的である癌の根治度はすぐには判定できません.これに対して,良性疾患の治療は大きく異なります.治療の目的が癌による生命の危機を回避するのではなく,疾患による様々な症状のコントロールがその主目的となります.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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