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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

特集 消化器癌外科治療のrandomized controlled trial

総論―特集にあたって

著者: 松井隆則 ,   坂本純一

ページ範囲:P.743 - P.748

要旨:ランダム化比較試験(以下,RCT)は大きな情報量を有するエビデンス形成の手段であり,標準治療やガイドラインの決定など,日常の実地診療の根拠として重要である.しかし消化器癌外科治療についてRCTを実施する場合,外科治療に特有な問題点が多数存在しており,他分野に比べてRCTで実証された外科領域のエビデンスは未だ不十分な状況である.本稿では消化器癌外科治療でのRCTの必要性,RCT実施の際に解決しなければならない問題点について概説する.

食道癌外科治療におけるrandomized controlled trial

著者: 竹内裕也 ,   才川義朗 ,   大山隆史 ,   平岩訓彦 ,   入野誠之 ,   吉川貴久 ,   和田則仁 ,   菅沼和弘 ,   北川雄光

ページ範囲:P.749 - P.755

要旨:食道癌に対する術前・術後補助療法の有用性を示すランダム化比較試験(RCT)は数多くみられるものの,食道切除術式を対象とした大規模なRCTはほとんど行われていないのが実情である.しかし食道癌治療は集学的治療の時代を迎え,術前補助療法を軸に様々なRCTが今後も行われるものと考えられる.わが国の食道癌外科治療成績が国際的にも評価が高いことは異論のないところであるが,世界に通ずるエビデンスをさらに発信していくことが求められている.Japan Clinical Oncology Group(JCOG)に代表される国内多施設共同研究のさらなる成果が期待される.

胃癌外科治療におけるrandomized controlled trial

著者: 比企直樹 ,   山口俊晴 ,   佐野武 ,   福永哲 ,   大山繁和 ,   山田和彦 ,   藤本佳也 ,   大矢雅敏 ,   上野雅資 ,   黒柳洋弥 ,   斉浦明夫 ,   古賀倫太郎 ,   関誠

ページ範囲:P.757 - P.763

要旨:胃癌治療において,手術に頼った治療には限界があることが近年のRCTで確認された.これらのRCTの代表としてJCOG9501(D2リンパ節郭清vs. D3リンパ節拡大郭清)で大動脈周囲リンパ節拡大郭清の意義が否定され,JCOG9502(下部食道浸潤胃癌に対する開胸+開腹手術vs. 開腹手術)では下縦隔の拡大郭清の意義が否定された.一方,術後補助化学療法の領域ではACTS-GCにおいて,術後補助化学療法の有用性がインパクトのある結果として発表され,胃癌術後の予後改善という点において,大きな貢献をした.ステージⅢ以上の症例ではさらなる予後改善が目指されるが,いずれにせよD2リンパ節郭清を伴う胃癌の標準治療と化学療法を組み合わせた集学的治療のRCTが多く行われてゆくだろう.

大腸癌外科治療におけるrandomized controlled trial

著者: 松田圭二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.765 - P.769

要旨:大腸の手術法に関連するrandomized controlled trial(以下,RCT)の結果と評価について,①no-touch isolation technique(以下,NTIT),②器械吻合,③腹腔鏡下手術の3つに分けて概説する.①NTITは,日本の外科医の間では常識的な手技と考えられているが,外国のRCTではNTITのbenefitは限られたものであった.②器械吻合に関しては,初期の報告ではトラブルが多くみられたものの,器械の改善が進み,経験数も増加し,術中トラブルや術後合併症のリスクは低下した.③腹腔鏡下手術に関しては,短期成績として手術時間は長いが出血量が少なく,術後の痛みや合併症が少ないとされた.さらに再発率,死亡率などの長期成績は,腹腔鏡下手術と開腹手術で差はみられなかったとする報告が多い.RCTに優る評価法はないが,外科のRCTを試みる場合,外科手術が外科医個人の技術に大きく左右されるといった,手術に特有な問題点を考えておく必要がある.

原発性肝癌外科治療におけるrandomized controlled trial

著者: 長谷川潔 ,   高山忠利 ,   國土典宏 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.771 - P.777

要旨:原発性肝癌,特に肝細胞癌に対する手術術式は,肝切除の安全性の向上を主たる狙いとして発達してきた.術後の長期予後の改善を目的とした術式は系統的切除のみである.それゆえ,手術の個々のテクニックの短期成績における有効性を検証した無作為化比較試験(randomized controlled trial:以下,RCT)は散見されるが,長期予後を評価した試験はきわめて少ない.現在進行中の研究を含め,今後の検討が待たれる.

大腸癌肝転移のrandomized controlled trial

著者: 山本順司 ,   初瀬一夫 ,   柿原稔 ,   谷水長丸 ,   守屋智之 ,   上野秀樹 ,   辻本広紀 ,   小野聡 ,   市倉隆 ,   橋口陽二郎 ,   愛甲聡 ,   長谷和生

ページ範囲:P.779 - P.783

要旨:肝切除後の再発率は全体で40~80%,肝に限った再発も30~60%と高率であり,それらを抑制することが肝転移切除の成績をさらに向上させると期待される.補助療法のRCTに共通していることは,比較治療は標準治療に対して無再発生存率を有意に向上させるが,生存率は向上させないという点である.レジメンについては,5-フルオロウラシル+フォリン酸(FU/LV)が無治療に対して肝切除後の再発を有意に抑制すると報告された.現状で肝転移切除症例を対象にRCTを計画する際には,コントロールアームとして無治療群を設定することは難しい.

 肝切除術前後のFOLFOX治療が多施設共同RCTにより検証されたが,intent-to-treat basisの解析では治療群と無治療群の無再発生存期間は有意差がなく,肝切除症例の比較で10%未満の差が認められたのみであった.肝動注化学療法と全身化学療法を比較したRCTでは,肝動注療法は全身化学療法に比べて肝転移巣に対する奏効率は優れるものの,生存予後は有意差がないとされた.今後は欧米の報告を吟味しながら,より高精度な,わが国の医療レベルに見合った研究を計画していく必要がある.

胆道癌外科治療におけるrandomized controlled trial

著者: 近藤哲 ,   平野聡 ,   田中栄一 ,   七戸俊明 ,   土川貴裕 ,   加藤健太郎

ページ範囲:P.785 - P.787

要旨:胆道癌診療ガイドラインから外科治療に関連するRCTの部分を抜粋してまとめ解説した.手術術式については,RCTはただの1つもなかった.術前胆道ドレナージについては,1980年代より欧米でいくつかのRCTが行われた結果,術前減黄処置を行っても術後の合併症発生率,死亡率には差がなかったとしている報告が多く見受けられた.しかし,対象となった手術内容はバイパス手術などの姑息的手術が大部分で,黄疸肝の大量肝切除術などはなく,また,PTBDそのものによる合併症の発生率が高く,これらの結論をそのまま日本で受け入れることには問題が多いと考えられる.術後補助化学療法についてのRCTは唯一,日本から報告され術後補助療法の有効性が示唆されているものの,標準治療としては位置付けられるに至っていない.

膵癌外科治療におけるrandomized controlled trial―標準郭清vs拡大郭清

著者: 横山幸浩 ,   二村雄次 ,   梛野正人 ,   共通プロトコールに基づく膵がんの外科的療法の評価に関する研究班

ページ範囲:P.789 - P.794

要旨:膵癌は消化器癌のなかでも最も予後不良な悪性腫瘍の1つで,根治切除術を施行できたものでも5年生存率はわずか10~20%である.これまで膵癌に対して化学療法,放射線療法,分子標的治療,免疫療法など様々な補助療法が試みられているが,外科的治療が未だ唯一根治を得られる治療法である.

 膵癌はいったん発生すると容易に周辺臓器に浸潤し,神経叢浸潤やリンパ節転移を伴うことも多い.そこで周辺組織を広範に切除するいわゆる「拡大郭清手術」と膵臓に付属する組織のみを切除する「標準郭清手術」の比較を行ったrandomized controlled trial(RCT)がいくつか施行されてきた.しかしいずれの試験でも拡大手術は生存率向上に寄与することはなかった.したがって膵癌に対しては手術的治療のみでは不十分で,何らかの補助療法を組み合わせる必要がある.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・6

ラジオ波

著者: 別府透 ,   石河隆敏 ,   小森宏之 ,   堀野敬 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.733 - P.738

はじめに

 ラジオ波は主に肝臓外科の領域で,肝癌のラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation:以下,RFA)や肝切離の際のpre-coagulationに使用されている1~5).RFAは小肝細胞癌に対する低侵襲治療として経皮的,腹腔鏡や胸腔鏡による内視鏡下,開腹(開胸)などの様々なアプローチが行われている.最近では大型肝細胞癌や転移性肝癌,さらには肺,骨,副腎などの腫瘍にもその適応が拡大されつつある6,7).一方,肝切除における大量出血や同種血輸血は手術侵襲の増大や予後の悪化をもたらすため,出血のコントロールは重要な課題である.Pre-coagulationは特に内視鏡下肝切除や肝硬変症例の肝切除例で有用性が高い.

 本稿では,われわれが愛用しているCool-tipTM RFシステム(タイコ ヘルスケア ジャパン)を中心にラジオ波に関連した手術器具の特徴と使い方のコツをまとめる.

病院めぐり

寒河江市立病院外科

著者: 布施明

ページ範囲:P.796 - P.796

 寒河江市(さがえし)は山形県のほぼ中央に位置しており,県都の山形市から約20kmの距離にある人口4万人の市です.山形県は果樹王国なのですが,寒河江市はサクランボの栽培が盛んです.市職員の名刺にはサクランボがデザインされており,私たち病院職員のネームプレートにもサクランボのマークが付いていて,「寒河江市=サクランボ」を強調しています.左上の写真は病院職員の名刺にプリントされている病院の全景ですが,満開の桜しか見えないところが奥ゆかしい感じです.

 当院は昭和25年に国保病院として開設され,昭和48年に現名称となり現在に至っています.現在は一般病床125床で,診療科は内科,外科,整形外科,皮膚科,眼科,リハビリテーション科の6科で,常勤医師11名,非常勤医師を合わせると22名で診療しています.

公立高畠病院外科

著者: 須田嵩

ページ範囲:P.797 - P.797

 高畠町は山形県南部の米沢市および宮城県七ヶ宿町に隣接した最上川上流の緑豊かな置賜盆地に位置しており,人口は約26,000人で,減少はほとんどないものの高齢化傾向にある町です.

 基幹産業は農業で,米はもとより1年を通じて果物の宝庫で,サクランボ,ブドウ,ラ・フランス,リンゴと切れ目のない果物王国です.さらに,秋には香り豊かな松茸もまた顔を出します.最近では高畠ワインをはじめ,特産物を使ったジャムやジュースなどの加工食品が地場産業として盛んになってきており,全国的に名をはせています.また,山形県は温泉天国としても有名であり,高畠町でも町が運営する温泉施設が「温泉のある駅」としてJR山形新幹線高畠駅に併設されています.

ロンドン外科学史瞥見・2

旧セント・トーマス病院手術場とガイ病院

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.799 - P.803

「病院」の起源

 冒頭から話が脇道にそれるが,本文の内容に関係しているので,西欧諸国の「病院」について簡単に述べたい.すなわち,西欧社会には古来から異邦人を歓待する慣習があった.この慣習のうえに,異邦人にとどまらず旅人,巡礼者や貧困者などの社会的弱者に休息,飲食,救護を提供する場が設けられるようになり,これが「ホスピス」(今日的な意味合いとは若干異なっている)と呼ばれるようになった.やがて,修道院や教会が巡礼者や病める人々に癒しを提供する施設(救貧院)を建てるようになり,その後,これが今日的な意味での「病院」へと発展していったのである.つまるところ,主として旅人に宿泊を提供するのが「hotel:ホテル」,巡礼者の救護にあたるのが「hospice:ホスピス」,そして都市部で市民や病人を対象にしたのが「hospital:ホスピタル」である.

 例として,イギリスではないが,パリ市内のノートルダム寺院の傍らにある「Hôtel-Dieu:オテル・デュー」(「神の家」の意)と呼ばれているパリ市民病院が挙げられる.ここが「神の家」と呼ばれるのは,創設当初から聖職者が貧困者や行き倒れなどの収容・救護にあたっていたからである.このように西欧では教会と病院とは密接に関連していた.言い換えれば,病院が教会内部に設けられて尼僧などの教会関係者が救護・看護に当たっていたのである.病院名に「セント」(聖)が付いているのは,教会や聖職者がその創設や運営にかかわったことを示している.本論に入る前にこのことを念頭に置いていただきたい.

医学生一日一歩・1【新連載】

卒業まであと少し―医学生をとりまく現状

著者: 十菱大介

ページ範囲:P.805 - P.807

ご挨拶

 はじめまして.今回縁あって連載を持つことになりました.「医学生の最新動向を伝える」というなにやら漠然としていて難しげな宿命を背負って生まれてしまったこのコーナーですが,執筆者の力量に大きな不安があるせいで,どんな方向に転がっていくのか見当もつきません.とりあえず,現在の医学生が置かれている立場や学生生活の様子などを分かりやすく伝えることができればいいなと思っています.昔の医学生と比べて随分変化したところもあまり変わらないところもあるでしょうが,「今はこんな学生もいるんだな」程度に読み流していただければ幸いです.

 自己紹介が遅れました.東京大学医学部に通っている6年生で,十菱(じゅうびし)大介と申します.東大では1,2年次が教養課程で,3年から正式に医学部に所属することになります.そのせいか学内では3年生を医学部1年生という意味でM1と呼び,学年が上がるにつれ,M2,M3,M4と呼んでいきます.以下の文章でも5年生ではなくM3と表記していきたいと思います.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・1【新連載】

内視鏡下縫合・結紮を楽しむ!

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.809 - P.812

自己紹介

 皆さん,はじめまして.知っている人は知っている,でも,知らない人には覚えてほしい,ウッチ~こと内田一徳(かずのり)です.縫合・結紮に命をかけており,内視鏡外科医の仲間からは「縫い師」と呼ばれています.この度,内視鏡外科トレーニングルーム「スーチャリング虎の穴」と称して,内視鏡外科手術の基本ともいわれる縫合・結紮のお話を連載させて頂くことになりました.

 「誰?」って思われるのも寂しいので,まずは簡単に自己紹介をさせて頂きます.

総説

腹腔鏡下左側結腸切除術における視野に関する考察―特に結腸脾彎曲部の筋膜構成

著者: 三毛牧夫 ,   加納宣康

ページ範囲:P.813 - P.820

はじめに

 腹腔鏡下手術が一般的になり,大腸癌手術においてはその症例数も増加の一途を辿っている.さらに,腹腔鏡下大腸癌手術のアプローチ方法とそれに伴う筋膜解剖が大切であることが認識されてきている.結腸脾彎曲部における手術手技に関しては,肥厚した大網の存在により,腹腔内での操作に難渋するが,筋膜構成の理解があれば手術手技が確実なものとなる.

 しかし,その部の臨床解剖の理解は基本的な概念から離れた考察も多くみられる.臨床解剖では,その剝離層を発生学的認識に基づいた膜解剖から解析し,理論的な層を選択しなければならない.そこで今回は,結腸脾彎曲部切除における筋膜構成について考察した.

臨床研究

統合失調症合併患者における外科手術例の検討

著者: 青柳信嘉 ,   坂田宏樹

ページ範囲:P.821 - P.824

はじめに

 統合失調症患者は社会のなかで一定の頻度を持って存在している.また,わが国での社会全体の高齢化を背景に,統合失調症患者も高齢化しつつある1,2).これらの高齢化した統合失調症患者も健常者と同様に外科疾患に罹患し,外科医が統合失調症患者の身体疾患を診療する機会も増えつつある.今回われわれは,外科手術が行われた統合失調症患者を対象として周術期における統合失調症の影響につき検討したので報告する.

臨床報告・1

S状結腸癌・肝内胆管転移の1例

著者: 白幡康弘 ,   相磯崇 ,   橋爪英二 ,   矢島美穂子 ,   栗谷義樹

ページ範囲:P.825 - P.829

はじめに

 肝内胆管の悪性腫瘍として,原発性胆管癌が挙げられるが,大腸癌肝転移の胆管浸潤との鑑別が困難なことが多い.両者の鑑別としてcytokeratin(以下,CK)-7,CK-20による免疫染色の有用性が指摘されている1~5).また,転移性肝癌としては経門脈経路の大腸癌の転移性肝癌が通常であるが,全身性の血行性転移の1形式として,肝内胆管転移ということも考えられる.しかし,肝内胆管転移についての報告は稀である.大腸癌由来の転移性腫瘍であっても経門脈的な転移性肝癌と全身的・経動脈的な肝内胆管転移では転移の経緯が異なる.今回われわれは,大腸癌切除後に転移性肺癌を切除したのち,大腸癌の肝内胆管転移と診断された稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

膵頭後部巨大リンパ節転移を契機に発見された胆囊原発内分泌細胞癌の1例

著者: 足立尊仁 ,   種村廣巳 ,   大下裕夫 ,   日下部光彦 ,   浅野智成 ,   山田鉄也

ページ範囲:P.831 - P.835

はじめに

 胆囊原発の内分泌細胞癌はきわめて稀で,早期に多発肝転移,リンパ節転移や腹膜播種をきたすため,予後不良といわれている1,2).今回,膵頭後部巨大リンパ節転移を契機に発見された胆囊原発内分泌細胞癌に対し,手術を施行し2年6か月間無再発生存中の1例を経験したので報告する.

進行食道癌術後の胸壁・傍腹部大動脈周囲リンパ節再発に対しdocetaxel/nedaplatin/5-FU併用化学放射線療法が奏効した1例

著者: 松谷毅 ,   笹島耕二 ,   丸山弘 ,   鈴木成治 ,   小林由子 ,   田尻孝

ページ範囲:P.837 - P.840

はじめに

 食道癌術後再発症例に対しては,5-FU/cisplatin(以下,CDDP)併用化学療法(以下,FP療法)あるいはFP併用化学放射線療法(chemoradiation therapy:以下,CRT)が標準治療とされている1~7).当科では,FP療法後の食道癌再発・再燃症例に対しsecond-line therapyとしてのdocetaxel(以下,TXT)/CDDP/5-FU併用化学療法の有効性と安全性を報告してきた8)

 今回,われわれは進行食道癌に対する術後補助FP療法後の胸壁・傍腹部大動脈周囲リンパ節再発に対しTXT/nedaplatin(以下,CDGP)/5-FU併用CRTを行い,partial response(以下,PR)が得られた症例を経験したので報告する.

内視鏡的切開拡張術にて改善を認めた直腸癌術後縫合不全による吻合部狭窄の1例

著者: 岡田慶吾 ,   今泉理枝 ,   松村知憲 ,   松本裕史

ページ範囲:P.841 - P.844

はじめに

 直腸癌においては近年,診断技術とdouble stapling technique(以下,DST)など手術手技の向上に伴い肛門括約筋機能温存手術症例が増加している1).しかし器械吻合による直腸低位前方切除術後の縫合不全は3%あり,その過半数に吻合部狭窄を認めるとされる2).再手術は永久的人工肛門を造設しなくてはならない場合もあり,患者のQOLを著しく低下させ得る3).今回われわれは,パピロトームとバルーンを用いて内視鏡的に狭窄部切開拡張術を施行し,改善を認めた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

ビノレルビン・トラスツズマブを併用投与したアンスラサイクリン・タキサン抵抗性の再発乳癌4例の検討

著者: 久保秀文 ,   北原正博 ,   多田耕輔 ,   宮原誠 ,   長谷川博康

ページ範囲:P.845 - P.850

はじめに

 ビノレルビンは手術不能または再発乳癌に対して2005年5月に承認された.欧米ではfirst-lineとしても使用され,単剤で41~50%の奏効率が報告されている1,2).わが国では現在のところ,進行再発乳癌に対してアンスラサイクリン系薬剤,タキサン系薬剤に続くthird-line以降として使用されている.今回われわれは,アンスラサイクリン・タキサン既治療耐性病変を有する進行再発乳癌に対し,ビノレルビンとトラスツズマブを併用投与した4例について検討した.文献的な考察を加えて報告する.

胸骨骨髄炎腐骨除去後に大網充塡,大胸筋弁で再建した1例

著者: 鈴木良典 ,   河村進 ,   山下素弘 ,   末久弘

ページ範囲:P.851 - P.854

はじめに

 胸骨骨髄炎は開心術後の0.5~8.4%に発症する合併症で,難治性の潰瘍を形成し,致死率は8.1~14.8%と報告されている1).今回われわれは,胸骨正中切開による両側肺部分切除術後に胸骨骨髄炎となった症例に対し,大網充塡,大胸筋弁で再建し治癒した症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

横隔膜直下再発肝細胞癌に対し人工気胸・人工気腹併用リピオドール塞栓CTガイド下ラジオ波焼灼術が有効であった1例

著者: 山岡延樹 ,   宮川公治 ,   矢田善弘 ,   相良幸彦

ページ範囲:P.855 - P.860

はじめに

 経皮的ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablationtherapy:以下,RFA)は,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:以下,HCC)に対する低侵襲な局所治療法として急速に広まった.超音波ガイド下に経皮的穿刺を行う方法が最も汎用されているが,超音波の死角となりやすい横隔膜下病変に対しては明瞭な画像を捉えるための工夫として人工胸水を併用する方法が開発され,普及している1,2)

 今回,横隔膜直下肝S8に発生したHCCに対し,人工胸水併用超音波ガイド下にRFAを行ったが4か月後のCTで局所再発を認めたため,十分な焼灼と合併症の回避を目的として,リピオドール塞栓後CTガイド下に多数回のRFAを人工気胸・人工気腹(腹腔鏡)を併用して行った症例を経験したので報告する.

1200字通信・1【新連載】

連載にあたって

著者: 板野聡

ページ範囲:P.778 - P.778

 私の拙いエッセイを本誌の「コーヒーブレイク」の欄に掲載していただいておりましたが,60巻13号(2005年12月号)から始まり,64巻5号(2009年5月号)までで41編を数えることになりました.

 掲載当初は,すでに中川国利先生と岡崎 誠先生がエッセイを連載されており,私が3人目の筆者となりましたが,ほかの医学雑誌にはない本誌の懐の深さゆえか,ここまで掲載し続けていただけたことに深く感謝しています.

書評

古家 仁(編)/川口昌彦,井上聡己(編集協力)「臨床麻酔レジデントマニュアル」

著者: 並木昭義

ページ範囲:P.784 - P.784

 今年の6月に医学書院から『臨床麻酔レジデントマニュアル』が発刊された.この本の編集執筆を奈良県立医科大学麻酔学教室に依頼されたことは最適な選択であった.編集責任者の古家仁教授は日本麻酔科学会常務理事として,日本の麻酔科および麻酔科医に現在そして将来何が必要かを十分に理解している.その教室は術中の麻酔業務だけでなく,術前,術後の周術期管理に熱心に取り組んでいる.そして研修医,若手麻酔科医に臨床麻酔の知識,技術を習得させるだけでなく,患者への接し方および他科医師,看護師への対応などの教育にも力を注いでいるからである.今回発刊された本はポケット版のマニュアル本であるが臨床麻酔に必要な内容がほぼ網羅されている.しかも簡潔な表現で図表も多く用いて理解しやすくしてある.このような本ができたのは編集協力者の川口昌彦准教授,井上聡己講師および執筆に携わった29名の教室員皆さんの努力と頑張りによる.この本からは,各執筆者らが臨床現場で研修医や若手麻酔科医が何を求めているかよく知っているということや,その知識と技術を伝えたいという彼らの意気込みが伝わってくる.自分で書いたものを用いて指導に当たることは執筆者にとって嬉しいことだけでなく自分の勉強と励みになる.

 この本は序章,本文8章,付録,コラムから構成される.序章では麻酔科研修と麻酔科専門医への道が書かれている.第Ⅰ章は臨床麻酔のための薬理学で各種麻酔薬,麻酔関連薬など6項目から成る.第Ⅱ章は術前評価,前投薬などの術前対応など10項目から成る.第Ⅲ章は麻酔管理に必要な手技で麻酔器の始業点検,吸入および静脈麻酔法,気道確保に必要な各種方法や器具,輸血輸液法,各種神経ブロック法,救命処置など10項目と広範囲にわたり書かれている.第Ⅳ章はモニタリングで基本モニターをはじめ筋弛緩,経食道心エコー,麻酔深度など8項目を取り上げている.第Ⅴ章は合併症とその対策で低酸素血症,肺塞栓症,アナフィラキシーなど日常臨床でよく遭遇する11項目を挙げている.第Ⅵ章は比較的頻度が高い留意すべき症例で37項目を挙げており,日常臨床において必要な症例がほぼ網羅されており,その内容もよく書かれている.第Ⅶ章は術後管理で術後訪問から術後管理,合併症対策など6項目が書かれている.第Ⅷ章は麻酔と危機管理でヒヤリハット,災害時の対応,麻酔事故への対応など5項目から成る.付録は臨床麻酔の現場に携わる者にとって必要な知識を図表を多く用いて簡潔にまとめられており大変有益である.文中の適所に「what would you do?」という27のコラムが入っている.この内容は現場で関心かつ重要な問題を取り上げ適切に解説されており参考になる.

前田正一(編)「医療事故初期対応」

著者: 中西成元

ページ範囲:P.861 - P.861

 虎の門病院泌尿器科の小松秀樹部長が危惧した「医療崩壊」は現実のものとなりとどまるところを知らない.彼は“最も大きな問題は,医療は本来どういうものかについて患者と医師の間に大きな認識のずれがあることである”としている.“具体的対策を考える前に総論で認識を一致させる努力が必要であり,一致できなくとも,どのように認識が違うかを互いに理解する必要がある”と述べている.医療事故とその後の対応で患者さんの医療に対する不信を強めたことは疑いない.これまでの医療の安全対策や事故後の対応などには大きな問題があった.今回『医療事故初期対応』という本が出された.本書の「はじめに」に“医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる”と記されている.このことは疑う余地はない.

 不幸にして生じた医療事故に対して最も重要なことは患者さんを救うことである.全病院を挙げて患者さんを救い,命にかかわることであれば救命し,障害を残さないようにしなければならない.救急救命コール,CPA処置法,救命対応チーム,救急セットなど常に整え十分な訓練を行っておく必要がある.緊急処置後もチームにより治療を行うことが重要である.そして,本人,家族および周辺へ事故に関する事象,原因など真摯に述べ対応する必要がある.事故当事者への対応も忘れてはいけない.事故によっては警察,外部への報告が必要となり公表する場合がある.このためには現場保全と事故の事実認証を行い,原因分析が必要である.さらに,責任に対する謝罪,補償,再発防止策を取らなければならない.これらは対応部署が適確に機能していなければならない.本書には医療安全管理者が行うべきこれらの事項をガイドライン的に示されている.そして,その各節はその道の第一人者により現時点で最も新しい知見が記されている.

勤務医コラム・1【新連載】

活気ある定食屋

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.795 - P.795

 このたび縁あって本コラムを担当することになりました.編集室から「一般市中病院に勤務する外科医ならではのノウハウ,苦労話,患者対応に触れ,よくあるオピニオン欄やドクターエッセイとは一線を画すコラムにしてほしい」との注文を受けましたが,どうなることやら…….

 さてさて,われわれの仕事は商売ではありませんから,必要なことを必要なだけこなしていけばよいのです.商売人のように宣伝をしたり,作為的に需要を発生させたりするのは不可ですし,患者の接遇に過度の注意を払うのもおかしなことです.ただし,一応,人づきあいの上に成り立つ仕事であることには変わりがないので,最低限の身だしなみみたいなものは必要でしょう.

ひとやすみ・47

生涯現役

著者: 中川国利

ページ範囲:P.824 - P.824

 長男の大学の卒業アルバムを開いていたら,クラブ活動や実習に勤しむ息子の姿があった.そして,クラスの寄せ書きには「生涯現役」と息子は記載していた.息子に真意を問い質したことはないが,「臨床医として一生を捧げたい」との若き情熱を強く感じた.

 私自身の学生時代を振り返ると,最終的に勤務医,開業医,教育者,研究者いずれの道を歩むか,特に夢は抱かなかった.ただ,少しでも早く医師として患者さんの治療に従事したいとの願望があった.その後,外科医として数多くの臨床経験を重ね,早いもので30数年が過ぎ去った.自分では体力・気力ともにまだまだ充実しており,これからも外科医として活躍していく自信はある.しかしながら周りを見渡すと,同級生でも現役として手術に邁進している外科医は数少なくなった.

昨日の患者

母に無理をさせないでください

著者: 中川国利

ページ範囲:P.854 - P.854

 生きがいは人によって様々である.そして一般的には,生きがいにより活力が生じ,さらに他人から評価されると幸せを感じるものである.特に,自分の好きなことによって感謝されれば,人は少々の苦をも厭わずに行う.

 黄疸と食欲不振を主訴に,70歳代のMさんが来院した.娘さんは当院に勤める看護師であり,Mさんは遠隔地に1人で暮らしていた.精査を行うと,膵臓癌が強く疑われた.そこで膵頭十二指腸切除術が施行された.娘さんは仕事の合間を縫っては,甲斐甲斐しく母親の世話をした.そしてMさんは娘の働きぶりを見て安堵した.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.868 - P.868

 今回の特集は「消化器癌外科治療のrandomized controlled trial(RCT)」というテーマでお送りする.近年,医学論文のエビデンスレベルが色々と規定され,このRCTなるものが高いエビデンスレベルに値する研究といわれてきており,多くの外科医もこれにならって様々なRCTによる研究を進めてその結果を発信するようになってきている.もちろん,この臨床研究におけるRCTが比較対照群の設定などにおいてこれまでのretrospective studyに比べてより信頼性の高い結論を導きだせることは間違いないことであろう.しかし,RCTもときに同じ研究目的で行われたにもかかわらず,正反対あるいはほかのRCTの結果を否定するような答えを導きだしている報告をしばしばみかける.このことは,とりもなおさず1つ2つのRCTの結果によってはcontroversyとなっている現況の課題を結論づけることはできないということを強く認識させるものであろう.われわれ臨床医はRCTの意義,重要性についてはもちろん認知するべきではあるが,その評価については常に慎重であるべきであろう.また外科手技についての妥当性および臨床的意義を検討する際のRCTの困難性はしばしばわれわれの経験するところである.新たな手術手技の開発などは,retrospectiveな症例研究解析から創造されるアイデアが端緒となる.そのような症例研究の重要性を外科医は決して忘れてはならない.もちろん,新たな術式が開発され安全性も確保されたのちには,その臨床的意義についてRCTを含めた質の高い研究が実践されていくことは当然であろうが,そのseedたる独創性の高いものを生むアイデア,創造性は日々の現場臨床に潜んでいることを忘れてはならないであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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