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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科64巻7号

2009年07月発行

雑誌目次

特集 肝胆膵癌に対する補助療法―治療成績の向上を目指して

肝胆膵癌に対する補助療法の現況

著者: 中津宏基 ,   岡正朗 ,   上野富雄 ,   吉村清 ,   為佐卓夫 ,   鈴木伸明 ,   坂本和彦 ,   飯田通久 ,   徳久善弘 ,   吉田晋

ページ範囲:P.879 - P.884

要旨:肝胆膵癌に対する第一の根治的療法は外科的切除術であるが,進行癌として発見されることも多く,高い再発率と死亡率を呈している.根治術後のより有効な補助療法が必要であるが,この領域においては決定的なエビデンスが少なく,確立された補助療法がないのが現状である.しかし,進行癌に対する種々の抗癌剤,分子標的治療薬,免疫療法やその併用療法といった開発・臨床試験が進められており,術後補助療法においても膵癌のように大規模比較試験のエビデンスが集積されてきている.肝胆膵領域に比較的症例の多いわが国からその予後を改善させるべく質の高い臨床研究を進めていかねばならない.

肝細胞癌に対する補助療法の意義

著者: 竹村信行 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.887 - P.892

要旨:肝細胞癌に対する肝切除はいまや安全かつ確立された治療であるが,5年で80%前後という高率な再発率のため長期予後は依然として不良である.肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)には(1)主腫瘍からの肝内転移ならびに(2)背景肝を発生母地とした多中心性発癌という他臓器の腫瘍にない2つの再発機序が存在し,肝細胞癌切除後の予後を改善するためにはこの2種類の再発形態を制御することが重要である.現在までに様々な補助療法の研究がなされており,いくつか有効なレジメンは報告されているが,確立されたレジメンはなく,抗癌剤治療を付加することで長期予後を悪化させる可能性も報告されている.今後は,進行HCCなど切除後肝内転移再発の高危険群に対しては新たな薬剤などによる再発抑制目的の補助化学療法を,腫瘍条件が良好な症例には肝機能障害を避けつつ背景肝の多中心性発癌を抑制する目的で抗ウイルス療法を中心に行うなど,目的別の補助療法の検討が期待される.

C型肝炎関連肝細胞癌治療におけるインターフェロン治療の臨床的意義

著者: 久保正二 ,   竹村茂一 ,   上西崇弘 ,   塚本忠司 ,   田中宏

ページ範囲:P.893 - P.899

要旨:C型肝炎関連肝細胞癌は根治術後においても高率に癌再発をきたす.その再発には転移再発と多中心性再発が含まれ,そのうち多中心性再発は併存する活動性肝炎と肝線維化による高い発癌ポテンシャルに影響される.インターフェロン治療によるHCV RNAの除去や肝炎鎮静化による発癌ポテンシャルの制御によって多中心性再発は抑制される.さらに,併存肝疾患の悪化を防ぐことによって,たとえ再発をきたしても根治的治療が可能となる結果,肝臓関連死亡を減少させる.インターフェロン治療などによって発癌ポテンシャルが制御可能となった,あるいは可能と予測される症例では転移再発予防を重視した系統的肝切除の役割が重要となる.

肝内胆管癌に対する補助療法の意義

著者: 有泉俊一 ,   山本雅一

ページ範囲:P.901 - P.904

要旨:肝内胆管癌の214切除例の再発率および再発部位を肝内胆管癌の肉眼分類で検討した.肉眼的に遺残のない切除例の59%で再発を認めた.再発部位は肝再発が最多であり,肉眼分類では腫瘤形成と胆管浸潤+腫瘤形成型で肝再発が多かった.2cm以下の腫瘤形成型で50%(肝再発38%,他臓器12%),2cm以下の胆管浸潤型では38%であったが,すべて肝臓以外での再発を認めた.肝内胆管癌は2cm以下と早期の段階から転移があり,術後の補助療法が必須である.

大腸癌肝転移の再発予防を目指した補助化学療法の実際

著者: 正木忠彦 ,   松岡弘芳 ,   小林敬明 ,   武井宏一 ,   小山洋伸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.905 - P.909

要旨:大腸癌肝転移切除後の再発の制御は大腸癌患者の治療成績のさらなる向上のために不可欠である.エビデンスのある補助化学療法の投与法とレジメンの開発を目指して過去20年間にわたって種々の臨床研究が行われてきた.その結果,全身化学療法と肝動注療法の併用が全身化学療法単独より優れていることと,肝切除単独よりは術前・術後の全身化学療法の併用が優れていることが明らかにされてきた.この間の大腸癌に対する新規抗癌剤の開発は目覚ましいものがある一方,最も有効性が高く副作用の少ないレジメンについてはいまだコンセンサスは得られていない.本稿ではエビデンスレベルの高い臨床研究の成果と今後の展望について概説する.

胆道癌術後化学療法の実際

著者: 平田公一 ,   今村将史 ,   西舘敏彦 ,   沖田憲司 ,   成田茜 ,   信岡隆幸 ,   永山稔 ,   秋月恵美 ,   木村康利

ページ範囲:P.911 - P.917

要旨:胆道癌に対する術前・術後の補助化学療法の有用性に関する確固たるエビデンスは現在のところ存在しないが,ほかの固型癌と同様に,確実にその有用性のうかがわれる経験症例の経験報告が増えつつある.わが国では近年,gemcitabine(Gemzar®)あるいはテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1®)が続けて保険診療の適用とされ,その後,積極的に補助化学療法として使用される向きがあり,その有用性の確認を誰もが期待しているところである.今後はbiochemical modulationとしてのmodulator剤の併用あるいはtaxane系薬剤の併用,そして放射線化学療法として工夫した手法などについて正確な臨床試験のなされることが重要である.

胆管癌に対するアジュバントの現状と術前化学放射線療法の可能性

著者: 海野倫明

ページ範囲:P.919 - P.923

要旨:胆管癌に対する最良の治療は外科切除であるが,その治療成績はいまだ満足すべきものではなく,補助療法の追加が求められている.塩酸ゲムシタビンを用いた術後補助化学療法の有効性に関しては現在,多施設共同第Ⅲ相臨床試験が進行中であり,その結果が期待されている.術前化学放射線療法も肝移植前に施行した成績など,後ろ向き研究では良好な結果が報告されている.われわれは術前化学放射線療法を施行したのちに切除術を施行する方針で症例を集積しており,第Ⅰ相試験を終了し,現在第Ⅱ相試験を実施中である.術前化学放射線療法の長期成績はいまだ明らかではないが,安全性・忍容性には大きな問題なく,今後の発展が期待される.

膵癌に対する補助療法の有用性

著者: 坂本快郎 ,   高森啓史 ,   田中洋 ,   中原修 ,   橋本大輔 ,   赤星慎一 ,   尾崎宣之 ,   古橋聡 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.925 - P.932

要旨:膵癌は切除率が低く,さらに根治切除術後でも高率に再発を認める予後不良な疾患である.膵癌の予後向上のために有効な補助療法の確立が試みられている.近年,gemcitabine(GEM)による術後補助療法に関する無作為化比較試験においてその有用性が報告された.一方,術前補助療法に関してはいくつかの報告はあるものの,無作為化比較試験による十分なエビデンスは得られておらず,これからの課題である.

膵癌術後におけるgemcitabine療法のエビデンス

著者: 吉富秀幸 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.933 - P.939

要旨:膵癌の治療成績の向上を目指し,1980年代から膵癌術後補助療法の研究が進められてきた.特にgemcitabineの登場以来,補助療法にも本薬剤を使用した臨床試験の結果が報告されてきている.代表的なCONKO-001試験では膵癌切除後のgemcitabine補助療法が補助療法なしと比較され,無再発生存期間および全生存期間の延長を認めた.この結果を受け,膵癌切除前後の補助療法としてgemcitabine+αの治療法,放射線療法との組み合わせ,術前補助療法への応用が報告されている.Gemcitabineを使用した補助療法は膵癌治療成績の向上に有効であり,今後,よりよい治療法の開発が期待される.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・7

食道癌根治手術に愛用の手術器具・材料

著者: 鶴丸昌彦 ,   富田夏実 ,   諌山冬実 ,   天野高行 ,   岩沼佳見 ,   梶山美明

ページ範囲:P.873 - P.878

はじめに

 どんなに複雑な手術でも,どんなに長時間かかる手術でも,結局は1つ1つの基本的な手技の集合である.すなわち,組織を把持する,切る,剝離する,結紮する,縫合するという基本動作である.また,この基本動作を行いやすくするためには術野の展開やカウンタートラクションという操作が大切である1).これらの基本的手技は術者によって自分に合うやり方があり,用いる器具や使い方が異なるのは当然である.特に胸部食道癌の根治手術では反回神経,大血管,気管気管支などの確実に温存しなければならない重要臓器に接して郭清を行わなければならず,術者それぞれに色々な工夫がある手術である.

 本稿では,筆者が長年行ってきた胸部食道癌根治手術で用いている器具や材料について紹介したい.

病院めぐり

たけべ乳腺外科クリニック

著者: 武部晃司

ページ範囲:P.940 - P.940

 大学卒業から9年目の春,岡山大学第2外科血管班で学位論文をまとめていたとき,突然,香川県立がん検診センターに乳癌検診医として赴任せよとの命がありました.不安なままそれに従い,私の乳腺医人生は始まりました.そこで7年間,乳癌検診と乳癌治療を行ううち,一般外科医より乳腺専門医で生きていくほうが絶対に面白いと思うようになりました.その当時,まだ日本では数か所しかなかった乳腺クリニックの将来性に注目し,約1年間の準備期間を経て平成9年5月に当院は乳腺・甲状腺専門の有床外科診療所として開業しました.

 当院は高松駅から約6km南の郊外に位置し,開業当初は周囲は田んぼだらけで遠くから牛の声も聞こえるほどでした.12年経った今はスーパーや総合病院,家電量販店ができ,市内中心部より活気ある場所になりました.

医療法人社団秋月会みわクリニック

著者: 秋月美和

ページ範囲:P.941 - P.941

 「乳癌検診率は50%以上が目標」と言われるなか,熊本県の検診率はまだまだ低く,受診しない理由として「男性に乳房を見られることに抵抗がある」,「どこへ行ってよいかわからない」という声を多く聞きました.そのため,乳癌検診を受けるきっかけになれればという思いで平成19年5月に女性医師・スタッフによる乳腺専門外来として当クリニックを開院いたしました.

 熊本は交通手段の大半が車であるため,当院は駐車場の少ない市街地ではなく,車で15分ほどの閑静な住宅地にあります.緊張を和らげるため病院らしくない外観とし,内部はプライバシーを大切にした癒しの空間を目指しました.1階は駐車場で,駐車スペースを普通の幅より広めに設定し,2階を診療スペース,3階を癒しの空間としての茶室・日本庭園としました.また,50人収容のホールを設け,月に1回セミナーを開き呈茶も行っています.

医学生一日一歩・2

外科医の卵が殻越しに見る―医学生からみた「外科」・1

著者: 新里陽

ページ範囲:P.943 - P.946

筆者サマリー

 25歳男性,新里陽.外科医志望.幼稚園での習い事は小児科の受診というくらい病弱で,医療を身近に感じていた.喘息,感冒,アトピー性皮膚炎とその度に親身になって丁寧に診察してくれる主治医に憧れ,医師を志すようになる.2浪して東京大学医学部に入学,現在M4(6年生).このたび,連載の第2回を担当.「医学生からみた外科」というテーマで雑感を徒然なるままに書きしたためる.

ロンドン外科学史瞥見・3

防腐法の創始者リスターの足跡を辿る

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.947 - P.951

はじめに

 最近の若い外科医達に「リスターはどういう人物か」と尋ねて,はたしてどれだけの者が「石炭酸(フェノール)を用いた防腐法を創始することによって外科学界に一大転換をもたらしたイギリスの外科医である」と答えられるであろうか.以前に筆者の母教室の教授と話をする機会があったが,「最新の外科学を講義することで手一杯で,重要だとは思うが外科学の歴史を教える時間がとれない」ということであった.今回紹介するリスター(Joseph Lister:1827~1912年:図1)が外科学の歴史をして「pre-Listerian」と「post-Listerian」という表現で区分せしめるほどの功績があった重要人物であるにもかかわらず,にである.言い方を変えると,フェノールを用いた防腐法が麻酔法の開発とともに外科学の進歩を押し進める大きな原動力となったにもかかわらず,にである.

 そのようなわけで,2008年9月の筆者のロンドン行きの目的は,第1回(64巻5号)で述べたジョン・ハンターと今回のリスターの現地ロンドンでの顕彰状況の取材と関連資料の収集であった.そして,実際に現地に赴くと,やはりと言うべきか当然と言うべきか,防腐法の創始によって外科学に一大革新を起こしたリスターは,母国イギリスにおいてジョン・ハンターに勝るとも劣らずにきちんと顕彰されていた.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・2

先ず最初に正しく握る―有利なハンドルグリップ

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.953 - P.957

 皆様,もう覚えていただけましたか? ウッチ~です.今回は高いところから失礼致します.というのも,この原稿はロスに向かう飛行機のなか,高度35,000ftで書いているからです.多少おかしな文章になっているかもしれませんが,あくまで気圧の関係ですのでお許しください.今年も米国内視鏡外科学会(SAGES)において,Szabo先生のsuturing learning center staffとして,身振り手振りのパントマイム的なスーチャリング・レクチャーを行うため,フェニックスに向かっています.

私の工夫 手術・処置・手順

腹腔鏡下手術時の小切開創を目立たなくするための工夫

著者: 芝﨑英仁 ,   松本潤 ,   木下敬弘 ,   久保木知 ,   中村力也 ,   岡田淑 ,   尾形章 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.959 - P.961

【はじめに】

 近年は腹腔鏡下手術が普及し,完全腹腔鏡下手術も徐々に増えてきている.完全腹腔鏡下手術では腹腔内で切除や再建などを行うが,標本などを取り出すためには小切開創が必要となる.われわれは松本ら1)とともに腹腔鏡下手術施行時のファーストポート挿入時に臍切開法を行い,その有用性を報告した2,3).現在では臍切開法を応用し,完全腹腔鏡下手術における標準的な小切開創とすることによって創が目立たないように工夫している.臍切開を行っている病院は全国的に少なくないと思われるが,その報告は非常に少なく4),その方法を詳しく示した報告は現在までのところない.

 臍を切開することに対して抵抗がある施設も多いように見受けられるが,実際に施行してみると想像以上にその利点を実感すると思われるため,本稿ではその手術手技を報告することとした.

臨床研究

完全直腸脱に対するDelorme法,Altemeier法の経験

著者: 平田貴文 ,   外山裕二 ,   岡村茂樹 ,   松下弘雄 ,   西村卓祐 ,   木村正美

ページ範囲:P.963 - P.966

はじめに

 直腸脱は高齢者に多くみられる良性疾患で,発症すると患者のquality of life(QOL)を著しく損なってしまう.そのため,患者背景や疾患状況に応じて様々な治療法が行われている1)

 現在,われわれは根治性および安全性を考えて,脱出腸管の長さが5.0cm以上の完全直腸脱に対して経肛門的アプローチによるDelorme法,Altemeier法を行っているので報告する.

臨床報告・1

直腸S状部に発生した腺扁平上皮癌の1例

著者: 西宏 ,   栗生宜明 ,   鶴留秀晃 ,   小谷達也 ,   矢部正治 ,   安原裕美子

ページ範囲:P.967 - P.971

はじめに

 大腸に発生する悪性腫瘍のほとんどは腺癌であり,下部直腸や肛門管を除くと扁平上皮癌や腺扁平上皮癌はきわめて稀である.海外の報告では大腸の全悪性腫瘍に占める腺扁平上皮癌の発生頻度について0.025~0.17%と述べられている1,2)

 今回われわれは,直腸S状部に発生した進行癌で内視鏡下生検で腺癌と診断されたものの,切除標本の病理組織学的検索で腺扁平上皮癌であるとの最終診断を得た1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

脳転移を契機に発見された上行結腸癌の1例

著者: 宇高徹総 ,   小林成行 ,   葉山牧夫 ,   久保雅俊 ,   水田稔 ,   白川和豊

ページ範囲:P.973 - P.977

はじめに

 大腸癌の脳転移は日常臨床において時々遭遇する疾患ではあるが,同時性となると頻度は0.1%である1).この場合,通常は肝・肺転移が併存するものが大半であるが,本症例のように肝・肺転移を伴わない大腸癌の孤立性脳転移は非常に稀である.本稿では若干の文献的考察を加えて報告する.

骨盤臓器浸潤を伴った直腸癌に対してFOLFOX4療法が奏効して治癒切除が可能となった1例

著者: 渡邉淨司 ,   前田佳彦 ,   中村誠一 ,   澤田隆 ,   清水哲 ,   岸清志

ページ範囲:P.979 - P.983

はじめに

 切除不能な転移・再発大腸癌症例に対する生存期間の延長を目的としたFOLFOX療法が2005年4月にわが国でも承認され,広く行われている1)

 今回,他臓器浸潤を伴う進行直腸癌に対してFOLFOX4療法が著効し,治癒切除が得られた1例を経験したので報告する.

胃内分泌細胞癌術後肝転移の1切除例

著者: 菊地覚次 ,   青木秀樹 ,   塩崎滋弘 ,   二宮基樹 ,   高倉範尚 ,   高田晋一

ページ範囲:P.985 - P.988

はじめに

 胃内分泌細胞癌は全胃癌中の0.1~0.2%と比較的稀な疾患であり1),早期から肝転移やリンパ節転移をきたすため予後不良とされる.また,肝転移の発見時にはすでに多発性のことが多く,肝切除の適応となる例は少ない.

 本稿では,胃内分泌細胞癌術後肝転移に対して肝切除を施行し,長期生存を得ている1例について報告する.

脾動静脈合併切除脾温存膵体尾部切除術を行った高齢者の膵粘液性囊胞腫瘍の1例

著者: 加藤滋 ,   金城洋介 ,   韓秀炫 ,   山本秀和 ,   小西靖彦 ,   武田惇

ページ範囲:P.989 - P.992

はじめに

 近年,膵の良性疾患や低悪性度腫瘍に対して脾を温存する縮小手術が広く行われるようになっている1~6).脾温存術式では脾動静脈を温存する方法が主流であるが,今回,われわれは脾動静脈の温存が不可能であった高齢者の膵粘液性囊胞腫瘍に対して脾動静脈を合併切除する脾温存膵体尾部切除術を施行したので報告する.

劇症型アメーバ赤痢によって多発性大腸穿孔をきたしたHIV感染者の1例

著者: 田村淳 ,   北口和彦 ,   浦克明 ,   馬場信雄

ページ範囲:P.993 - P.997

はじめに

 アメーバ赤痢は熱帯,亜熱帯地方での発生が多く,わが国では稀な疾患である.先進国では性感染症として問題視されており,最近ではhuman immunodeficiency virus(以下,HIV)感染者における日和見感染症の1つとしてアメーバ赤痢に遭遇する機会も増加してきている.劇症型アメーバ赤痢は急激な経過で重症化する大腸炎の臨床像を呈し,巨大結腸症や穿孔をきたす致命率の高い重篤な疾患である1,2)

 今回われわれは,劇症型アメーバ赤痢による多発性大腸穿孔に対して大腸亜全摘術を施行し救命し得たHIV感染者の1例を経験したので報告する.

大量腹水および臍ヘルニアを合併した両鼠径ヘルニアにPROLENE* Hernia Systemを用いた1例

著者: 徳永行彦 ,   佐々木宏和 ,   松枝重樹

ページ範囲:P.999 - P.1002

はじめに

 近年,人工の補強物であるメッシュやプラグを用いた術式が成人鼠径ヘルニアに対する標準術式となっている1).なかでもPROLENE* Hernia System(以下,PHS:ジョンソン・エンド・ジョンソン)はonlay patchとunderlay patchが一体化した補強物で,広いヘルニア門を伴う例や再発例などの修復が難しい例にも適応できる術式である2)

 今回,肝硬変による大量腹水と臍ヘルニアを合併した両側鼠径ヘルニアにPHSが有用であった1例を経験したので報告する.

臨床報告・2

Klippel-Trenaunay症候群に対して外側辺縁静脈の結紮切除術を行った1例

著者: 藤村博信 ,   黒瀬公啓

ページ範囲:P.1003 - P.1005

はじめに

 Klippel-Trenaunay症候群は(1)体幹や四肢の先天性皮膚血管腫(母斑:nevus),(2)静脈瘤(varicose veins),(3)下肢長や周径の左右差の3つの症状を伴う先天性静脈奇形である1).稀な疾患であり,ときにほかの疾患を合併することが少なくなく,治療に難渋することもある.

 今回,われわれはKlippel-Trenaunay症候群による患肢の静脈うっ滞症状に対して,うっ滞の原因となっている外側辺縁静脈を結紮し,不全交通枝とともに部分切除することによって良好な経過を得た1例を経験したので報告する.

手術手技

中等度胆囊炎に対する腹腔鏡下手術―術前ENBD tube留置の有用性

著者: 野島広之 ,   勝浦譽介 ,   志田崇 ,   寺本修 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1007 - P.1011

はじめに

 胆囊炎に対して腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:以下,LC)は標準術式であるが1),高度炎症を伴う胆囊炎やMirizzi症候群においては胆管損傷などの合併症の危険性が高くなる.胆管損傷を回避するための方法として術中画像診断法が挙げられるが,従来のように胆囊管を切開してtubeの挿入を行う手技では総胆管の切断は防げるにしても,総胆管であった場合は切開した部分を修復する必要があり,修復が腹腔鏡下では困難な場合には開腹に移行せざるを得ない.

 われわれは1地域病院として中等度の胆囊炎症例に対し,より安全にかつ確実にLCを遂行するための工夫として,総胆管と胆囊管の位置関係を把握するためにendoscopic nasobiliary drainage tube(以下,ENBD tube)を術前に留置して術中ナビゲーションとして用い,術中胆管損傷の合併症を回避させることができた.本稿ではその手技を症例と合わせて報告する.

ひとやすみ・48

発想法の逆転

著者: 中川国利

ページ範囲:P.939 - P.939

 医師不足の診療科として麻酔科,小児科,産婦人科などが話題となっている.私が専門とする消化器外科もハイリスク・ローリターンのため志望者が激減した.また,勤務医の仕事は激務なため開業に転じる外科医が増加し,勤務医の仕事はさらにハードになりつつある.

 東北地方は医師不足が特に著明であり,多くの病院で外科医が不足している.そこで,出身医局に医師派遣を要請する.しかし,医局も昨今の外科希望者の激減によって入局者の確保に奔走している.そして,少ない医局員で高度の医療を担うとともに医学生を教育し,さらに研究で成果を出すという離れ業を強いられている.関連病院から医師派遣を要請されても,ない袖は振れない厳しい状況にある.

書評

多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治(著)「内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管(第2版)」

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.942 - P.942

 このたび医学書院から『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管第2版』が発刊された.多くの内視鏡医から好評を博した初版の上梓から約7年がたち,企画の意図は初版のまま,時代の進歩に即した内容の充実が図られている.その結果,初版より掲載症例と写真は大幅に増加し,頁数も約1.7倍に増えているが,日常臨床の現場で容易に活用できるサイズは維持されており,初版以上の売れ行きを示すことは間違いないであろう.

 本書の執筆者は,いずれもわが国を代表する消化管形態診断学のエキスパートであり,東京で毎月開催される早期胃癌研究会の運営委員やその機関誌である雑誌「胃と腸」の編集委員を歴任してこられた方々である.そのため,本書は「胃と腸」誌と基本的には同様の方針で編集されている.すなわち,掲載された内視鏡写真に限らず,内視鏡所見の成り立ちを説明するために呈示されたX線写真や病理写真に至るまですべて良質な画像が厳選されており,“実証主義の立場から消化管の形態診断学を追求する”という「胃と腸」誌の基本理念が貫かれている.

李 啓充(著)「続 アメリカ医療の光と影―バースコントロール・終末期医療の倫理と患者の権利」

著者: 向井万起男

ページ範囲:P.952 - P.952

 李啓充氏は『週刊文春』で大リーグに関する素晴らしいコラムを6年間連載されていた.その後,見事な大リーグ本も出されている.で,世間には,氏のことを稀有な大リーグ通としてしか知らない人が多いようだ.それが悪いというわけではないけれど.

 だが,医療界で働く私たちは違う.氏が大リーグ通として広く知られるようになる前に書かれた『市場原理に揺れるアメリカの医療』(1998年,医学書院)を忘れることなどできない.その分析の鋭さ,読む者を引きずり込む圧倒的な筆力,随所に散りばめられた粋な大リーグ関連ネタ.氏の鮮烈のデビューだった.この本を読んで氏のファンになった医療人が多いはずだ.その後も,氏はアメリカ医療の光と影を描きつつ日本の医療に厳しい問題提起をするという本を出し続けてきた.そして,本書.

五十嵐正男,福井次矢(編)「エキスパート外来診療―一般外来で診るcommon diseases & symptoms」

著者: 伴信太郎

ページ範囲:P.962 - P.962

 世の中に類書は少なくないが,本書は章・項目立てと著者選びに非常に工夫が凝らされた極めて実用的かつ格調の高い外来診療のガイドブックだといえる.

 まず,章・項目立ては「外来でみる症候からの診断学,治療原則」から始まって,感染症,循環器疾患,というように内科学書に似た章立てとなっているが,その項目内容は外来でよく遭遇する疾患に絞り込んだ簡にして要を得て,かつ実践的な記述となっている.さらには,家庭医的な診療にも役立つように,小児科,眼科,耳鼻科の他,在宅医療,漢方治療も含まれていて幅が広い.

柴田 実,八橋 弘,石川哲也(編)「肝疾患レジデントマニュアル(第2版)」

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.978 - P.978

 『肝疾患レジデントマニュアル第2版』が,このたび医学書院より上梓された.本書の初版は,肝疾患診療に携わる研修医必携の書として絶賛され,4年を経てここにバージョンアップされたわけである.新しい知見を豊富に盛り込み,さらに新たな章立ても見られるためページ数は増加したにもかかわらず,価格が据え置きなのは良心的である.編集者・執筆者に多少の変更があるものの,いずれも実際の診療で患者と共に悩み苦労している肝臓専門医という基本線を踏襲していることが,本書を肝疾患診療のための活きた知識の道具箱としている理由であろう.

 明快な構成と随所にちりばめられた多数の図表が,多忙な研修医の理解を容易にしている.若者に媚びるような無駄な漫画やイラストがないのも好感が持てる.冒頭の章,レジデントの心得は,評者も大いに参考にしたいClinical Pearlsである.お説教臭いなどと言わずに,ぜひ心に刻んでいただきたい.

勤務医コラム・2

PEG直後のbronchoscopy

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.972 - P.972

 皆さんは内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:以下,PEG)をどう思いますか? 私は嫌いです.できればやりたくない.国民医療費高騰の一因になっていると感じるからです.しかし,近隣の開業医の先生方や療養型病院からの依頼があって断われず,年間30例近く行っていると思います.ちなみに私はpull法で行っています.われわれのような外科系の一般市中病院では避けて通れません.

 依頼を受けたからにはキッチリやって患者を帰すのですが,PEG後の発熱には悩まされ続けてきました.創感染もないし,手技もno troubleでパパッと済んでいるのに,どうして熱が出るのだろうと思いつつ,なんとなく対症的にこなしていました.

昨日の患者

正妻と愛人

著者: 中川国利

ページ範囲:P.992 - P.992

 長らく臨床医を務めていると,医療を介して患者さんの家庭の実情を垣間見ることがある.表面上は理想的な家庭でも,実際は多くの問題を抱えていることもある.

 20数年前のことであるが,癌性腹膜炎を伴った70歳代後半の胃癌患者Iさんの主治医を勤めたことがある.Iさんは手広く事業を展開し,地元を代表する経営者であった.

1200字通信・2

「おくりびと」

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1006 - P.1006

 先日,医師と患者という関係ではありましたが,十数年のおつき合いが続いた方がお亡くなりになりました.当初は胃潰瘍の治療で通院されていたのですが,昨年の1月に偶然に肺癌が発見されました.ご本人は胸に関してはまったくの無症状であり,また,医師の目から見ても症状はなく,驚かされることになりました.

 何年か前のフィルムを出してみましたが,そこには異常は認められず,その後に発生し,かなりのスピードで成長したものと想像されました.しかし,ご本人は「いたって健康ですよ」と達観した風で,そうしたX線写真にも頓着なく,「このままで結構です」と言い残して帰られました.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 外科医療が大変なことになりそうだ.いや,すでに危機的状況になっている.厚生労働省のデータベースによると,外科医は1996年で24,919人,2006年では21,574人と実に13.4%の減少であった.外科志望者の推移をみると,臨床研修制度が導入される直前の2005年に行なった日本外科学会の調査では1980年代後半をピークとして,2000年以降ではピーク時の80%まで減少していた.全国医学部長病院長会議の調査によると,大学帰学医師の診療科別増減では外科志望者は臨床研修制度発足前の2/3と著しく減少している.つまり,外科志望者は減り続いていたのが,臨床研修制度でそれが一層加速したのである.

 一方で,手術を必要とする悪性腫瘍患者は増加の一途をたどり,その多くが消化器・一般外科の治療対象となる.さらに,病院の統廃合などの集約化によって1病院あたりの手術件数は増えつつある.外科医が減少し,手術件数が増加すれば外科医の労働量は必然的に増えることになる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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