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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

特集 がん診療ガイドライン―臨床現場における有効活用法

ページ範囲:P.15 - P.15

 2001年3月に「胃癌治療ガイドライン」が公表されて以来,各種のがん診療ガイドラインが策定・改訂されてきた.現在では,治療計画を立てるに当たってこれらのガイドラインを参照することが必須となっている.

 しかし,ガイドラインは改訂を重ねて醸成されていくものであり,つねに限界を抱えている.また,個々の患者の治療選択にそのまま適用できるものではない.

最近のがん診療ガイドラインの動向

著者: 平田公一 ,   沖田憲司 ,   成田茜 ,   木村康利 ,   水口徹 ,   大村東生 ,   古畑智久

ページ範囲:P.17 - P.28

要旨:わが国の癌診療ガイドラインの歴史は浅く,ガイドラインが次々に作成されてはいるものの,それを支える,あるいは応用する医療体制と法体制の整備とコンセンサスはきわめて不十分である.今後になすべき課題が具体的にようやく提示されている昨今と言えよう.

 診療内容の質を向上させつつ医療費を抑制し,かつ安全性の高い納得のいく医療提供を目的として,欧米では1970年代後半から診療ガイドラインの作成が始まった.わが国におけるがん診療ガイドラインの作成動向は1990年代後半に,わが国としては最も発生頻度の高い「胃癌」のそれではじめてみることができる.その後,最近まではガイドラインの存在意義と概念の普及に力が注がれ,そして具体的な作成のための手順の確認,そして完成版の発行へ至る在り方を周知させることに努力が払われてきた.

 今日では多くのガイドラインが作成・公開されているが,癌領域の診療ガイドラインに関するわが国の現況はなお熟成されているとは言えない.作成組織間にも考え方の差は決して小さくない.短期間内に爆発的な作成がなされたが,わが国の医療制度や社会的活用には十分に適合しない現象がみられる.国民の間に十分に認知されたうえで利用されている状況にあるとは言えず,ガイドライン作成初期に設定されていた目的に必ずしも十分に沿っていないことが事実として認められる.

 今日に至ってはすでに更新時期を迎えたガイドラインも多く,癌診療ガイドラインについては新たな段階を迎えていると言える.すなわち,(1)診療ガイドラインの評価,(2)成熟したガイドラインの在り方に基づいた改訂,(3)医師以外の医療従事者や国民へ向けてのガイドラインの公開と普及,(4)ガイドラインの実践的利用とそのアウトカムへの影響,(5)ガイドラインのもたらす利益・不利益,限界点と社会への影響,などが検討事項として挙げられる.

 本稿では,癌診療ガイドラインのわが国におけるこれまでの動向と今後の在り方の概要を紹介する.

食道癌診断・治療ガイドラインの有効活用法

著者: 宗田真 ,   桑野博行

ページ範囲:P.30 - P.40

要旨:「食道癌診断・治療ガイドライン」は食道癌の診療に携わる医師を対象としており,(1)その診断・治療法についてevidence-based medicine(EBM)を重視し標準的な診療の適応を示すこと,(2)治療の安全性と治療成績の向上をはかり,治療成績の施設間差を少なくすること,(3)無駄な治療をなくし,国民が安心して治療を受けられるようにすることを目的としている.近年の外科手術手技および術前・術後管理の向上によって食道癌手術の根治性・安全性は高まってきつつあるが,消化器癌のなかで最も手術侵襲が大きく化学療法や放射線療法が有効な症例も多いことから選択肢は多岐にわたっている.このような状況において,食道癌診断・治療ガイドラインを有効利用していただき,EBMに基づいた治療が選択されることが大切である.

胃癌治療ガイドラインの有効活用法

著者: 山口俊晴 ,   佐野武 ,   福永哲 ,   比企直樹 ,   大山繁和

ページ範囲:P.42 - P.47

要旨:現在,「胃癌治療ガイドライン」(以下,本ガイドライン)は第3版の発行に,また「胃癌取扱い規約」は第14版の発行に向けてそれぞれ作業を進めている.本ガイドラインは今回は「胃癌取扱い規約」と役割分担をするとともに,国際的にわが国の業績を広めるために,2010年に発行されるTNM分類第7版を大幅に取り入れる予定の「胃癌取扱い規約」に沿ったかたちで改訂が進められている.本稿では本ガイドラインの活用方法と,利用するにあたっての注意点を述べ,また,現在進行中の改訂作業について簡単に述べる.ガイドラインはきわめて有用なツールであるが,その利用法によっては患者の個々の状況を無視した画一的な治療を進める危険性のあることも強調したい.

大腸癌治療ガイドラインの有効活用法

著者: 松井孝至 ,   固武健二郎

ページ範囲:P.48 - P.53

要旨:Evidence-based medicine(EBM)は臨床上の問題を解決するための考え方・行動様式の1つであり,ガイドラインはEBMを実践するためのエビデンスの1つである.ガイドラインの記載内容がすべての患者に同じように当てはまる訳ではないことは言うまでもない.ガイドラインを活用する際には,個々の患者に特有な要因や医療者側の要因,更新される最新のエビデンスを十分に考慮する必要があり,ガイドラインの役割と限界を十分に認識して,適切な距離を置いて利用するという姿勢が望ましい.本稿では先般,新たな知見に基づいて改訂された大腸癌治療ガイドラインの活用法と改訂の要点を概説した.

肝癌診療ガイドラインの有効活用法

著者: 池田真美 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.54 - P.60

要旨:「肝癌診療ガイドライン」はevidence based medicine(EBM)の手法に則って2005年に作成され,この4年間で臨床現場に普及した.本稿では,外科医が頻回に使用すると考えられる治療アルゴリズムや有用と考えられるresearch questionについて解説を加える.また,2009年末に改訂版ガイドラインの発表を控えるため,その要点も併せて述べる.

胆道癌診療ガイドラインの有効活用法

著者: 吉富秀幸 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.62 - P.68

要旨:胆道癌は依然として予後不良の疾患であり,その罹患数も増加傾向にある.しかし,その診療は各施設で独自の経験に基づいて行われていることも多く,その内容にばらつきが多いのが現状である.このような背景から「胆道癌診療ガイドライン」は作成された.本ガイドラインの特徴は,クリニカルクエスチョン形式を取っていることと,できる限り具体的に臨床上問題となる点を挙げて,その推奨を記載している点である.また,診療の中心となる外科治療に関する問題点を多く取り上げており,加えて,欧米ではあまり一般的でない術前の減黄術に関しても詳細な記述を設けてある.本ガイドラインが臨床医に適切な情報を提供し,患者に最適な医療が行われることを期待する.

膵癌診療ガイドラインの有効活用法

著者: 田中雅夫

ページ範囲:P.70 - P.77

要旨:日本膵臓学会から2006年に発行された「膵癌診療ガイドライン」は2009年に化学療法や放射線療法などの最新の知見を取り入れて改訂された.膵癌の診断を効率よく進める指針を一般の診療施設に示し,患者に説明する際の一助ともなっている.専門施設にとって参考になるような指針の記載が少ないという意見もいただいたが,診療ガイドラインは本来,一般診療施設にとってのガイドとなるべく作成されるものであり,専門施設はガイドラインを読むことで明らかになる問題点を解決するように新しい診断法・治療法を開発していくのがその務めである.本ガイドラインに特別に加えてある「明日への提言」はそのために有用ではないかと期待している.

EBMの手法による肺癌診療ガイドライン―臨床現場における有効活用法

著者: 宮島邦治 ,   稲田秀洋 ,   大谷圭志 ,   吉田浩一 ,   加藤靖文 ,   河野貴文 ,   奥仲哲弥 ,   加藤治文

ページ範囲:P.78 - P.86

要旨:肺癌診療の効果的・効率的な診断・治療法を体系化するために肺癌診療の全領域に関する「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」が作成され,近年はこのガイドラインに沿った診断治療が行われるようになってきている.2003年に第1版が,そして2005年に改訂第2版が発刊された「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」は肺癌の診断,化学療法,放射線治療,外科治療,術前術後併用療法,中心型早期癌診断・治療などを含む6項目のほか,肺癌の組織型・病期別診療に関する項目が加えられている.本稿では,「肺癌診療ガイドライン」を臨床現場で活用する側から,外科治療を中心に本ガイドラインの有効活用法およびその問題点を述べ,また,現在進行中の改訂第3版に改訂・追加予定の項目などを解説する.

甲状腺腫瘍診療ガイドラインの有効活用法

著者: 岡本高宏

ページ範囲:P.88 - P.93

要旨:わが国における甲状腺腫瘍診療ガイドラインは日本内分泌外科学会および日本甲状腺外科学会が主体となって現在開発中である.海外ではすでに複数のガイドラインが公開されているが,わが国の医療事情には合わない面もある.本稿では,2008年10月に始まったガイドラインの開発のこれまでの経緯と今後の展望を解説した.

乳癌診療ガイドラインの有効活用法

著者: 田原梨絵 ,   渡辺亨 ,   相原智彦 ,   相良安昭

ページ範囲:P.94 - P.99

要旨:乳癌学会では2004年以降,医療従事者向け診療ガイドラインとして「薬物療法」「外科療法」「放射線療法」「検診・診断」「疫学・予防」の5種類および患者向けガイドラインの6点を発行している.これらは,医療者と患者が様々な臨床的状況で適切な決断を下せるよう支援する目的で,根拠に基づいた医療(EBM)の手順に則って作成している.乳癌学会ガイドライン委員会(渡辺亨委員長)の下に各ガイドライン作成のための小委員会を設置し,2~3年ごとに改訂作業を行っている.診療ガイドラインは標準的診療を実践するための最低限の水準を提示するものであり,医療者各自の臨床経験,知識,判断を加え,さらに質の高い診療を目指すことが期待されている.

GIST診療ガイドラインの有効活用法―ガイドラインに則したGISTの診断と治療指針

著者: 山下雅史 ,   赤松大樹 ,   仲原正明 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.100 - P.106

要旨:消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)は食道~直腸までの消化管と腸間膜に発生する,10万人に1~2人と比較的稀な腫瘍である.良・悪性の鑑別は病理組織学的にも困難であり,診断がつけば治療の対象となると考えられている.治療の第1選択は外科切除であり,5cm以下の比較的小さなGISTに対しては侵襲度の低い腹腔鏡下手術も行われ,その安全性,有効性が示されつつある.一方,進行・再発GISTには分子標的治療薬(イマチニブ)の臨床開発が行われ,その予後は画期的に改善された.特に,進行GISTに対してはアジュバント治療,ネオアジュバント治療やイマチニブ治療下の外科切除など,集学的治療によって予後の改善が期待されている.これに伴い,米国,欧州,そしてわが国でも一般医療者向けの診療ガイドラインの改訂が行われた.本稿では,GIST診療ガイドラインに基づいた最新のGISTの診断と治療を紹介する.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・13

膵切除(再建を含む)に愛用の手術器具・材料

著者: 木村理

ページ範囲:P.5 - P.14

はじめに

 膵切除術と言っても,膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術のほかにも膵の中央切除術や十二指腸温存膵頭亜全摘術,脾臓脈を温存した脾臓温存膵体尾部切除術などがあり,様々である.また,それぞれに切除範囲やリンパ節郭清,再建方法など様々な程度の術式が存在する.膵頭十二指腸切除術の再建方法をみても,膵と消化管の吻合は1期的か2期的か,再建の順序は胃→膵→胆か膵→胆→胃か,粘膜・粘膜吻合法か嵌入法か,輸入脚空腸を吊り上げる経路は後腸間膜経路か,前結腸経路かあるいは後結腸経路か,これらを膵の固さ・疾患の種類によって変えるか変えないかなど,細かな点を挙げるときりがない.

 膵頭十二指腸切除術のバリエーションはますます増えている.まさに,「外科医が100人いれば100通りの膵頭十二指腸切除術がある」と言っても過言ではない1).このことは,しかし,どの方法をとってみてもそれほど大きな違いはないという証左にほかならない.ずば抜けて素晴らしい切除法,吻合法,再建法があるわけではないということである.術前・術後の管理やnutrition support team(NST)による経腸栄養に対する見直し・早期の施行,経静脈栄養などの輸液管理の発達,縫合糸や手術器具の改良などによって膵頭十二指腸切除術は以前に比べて比較的安全に行われるようになってきた.それでも全世界的には手術死亡率は1.4~4.9%と報告されており2),外科医の工夫は続いている.

 膵頭十二指腸切除術について論ずるうえで,このように様々な点に焦点を当てることができる.本稿では,膵手術を施行する際の器具とその使用方法について述べる.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・8

キラッと光る運針

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.107 - P.111

 寒い日が続きますが,皆さんいかがお過ごしでしょう? いよいよ秋の学会シーズンとなり,皆さんの中にも学会の準備に追われている先生が多くいらっしゃることでしょう….私もです!

 とは言っても私の発表は通常の「業績に残る演題」ではなく,プログラムには載らない(載せられない?)特殊な演題です.発表会場はメインの宴会場,セッション開始時間は決まってPM8時頃.そこで会長招宴や,懇親会向けのエンターテインメントプレゼンテーションを担当しています.この準備のため,この時期はPCに向かって唸る日々….PCも一杯一杯なのか,最近やたらと画面に砂時計が登場します.

病院めぐり

白十字会佐世保中央病院外科

著者: 國﨑忠臣

ページ範囲:P.112 - P.112

 当院の初代理事長である富永猪佐雄博士は昭和4年に佐世保市宮崎町で診療所を開設され,戦後の昭和22年に24床で当院を設立された.昭和35年に前理事長の富永雄幸博士と故鳥越敏明博士が就任され,約300名の結核患者の内科的・外科的治療が可能になった.昭和38年に161床の新館が完成し,昭和39年に救急告示病院となった.高度成長によって交通事故が急増し,整形外科と脳外科を開設する.昭和48年に292床へ増床し,急増する腎不全に対して血液透析センターを併設した.

 昭和53年に鳥越博士が病院長に就任された.病院内の近代化に着手され,画像診断の必要性から血管造影装置,シンチグラム,CT装置など最新の医療機器を導入し,機械吻合器や外科用レーザーなど新しい医療技術に対しても積極的に取り組まれた.肺癌の研鑚に菅村医師を国立がんセンターに短期留学させた.また,現在の碇外科部長も癌研病院で乳腺外科の研修を積み,この地域の乳癌患者さんの診療・指導に活躍中である.このように,当院は勤務医の研修・教育を行っており,また,学会活動にも積極的に参加するよう奨励し,つねに最新の医療技術を修得し,地域住民の医療へ還元している.平成7年に現在地に心臓血管外科を含めて18診療科の総合病院としてオープンした.

長崎県病院企業団上五島病院外科

著者: 八坂貴宏

ページ範囲:P.113 - P.113

 新上五島町は五島列島北部の2島(中通島,若松島)を中心とした島々からなり,長崎市から約75km,佐世保市から約60kmの東シナ海海上に位置する町です.雄大な自然と美しい海岸線を持ち,遣唐使の寄港地として多くの史跡があり,またキリシタン信仰の地,遠洋漁業の基地でもあります.

 当院は人口約24,000人の新上五島町の中央に位置する186床(一般132,療養50,感染4床)の地域基幹病院です.昭和35年に上五島町立国民健康保険診療所として開設され,昭和43年に長崎県離島医療圏組合上五島病院となり,昭和61年に現在地に新築・移転しました.平成21年4月に長崎県病院企業団に改組され現在に至ります.診療科は13科,医師は21名ですが,特徴的なのは約6割,13名が長崎県の養成医師(自治医大卒9名,長崎県医学修学資金制度卒4名)であることです.へき地医療拠点病院として一般診療,救急医療,在宅医療などを展開し,地域における医療・福祉・保健のコーディネート,健診業務などの予防医療にも力を入れています.

医学生一日一歩【最終回】

モラトリアムの終焉―社会復帰へ向けて

著者: 十菱大介

ページ範囲:P.115 - P.118

結果発表の日

 去る10月29日14時0分,平成21年度研修医マッチングの結果が発表されました.医学生にとっては,今後2年間の就職先が決まる大事な瞬間です.平日の昼で,本来ならいつも通り病院実習に取り組んでいるはずの時間帯でしたが,この日ばかりは「発表されたらすぐにでも結果を確認したいだろう」と担当の先生が気を利かせてくれ,昼過ぎに実習が切り上げられました.各自,自宅のPCの前で結果を待つこととなります.

 もっとも,私の場合は自宅から学校まで電車で1時間ほどかかるので,発表時間には間に合いません.「急いでも仕方がないし,まあなんとかなっているだろう」と,持ち前のポジティブ思考を発揮した私は,浮いた時間を散歩に当て,寄り道をしながらゆっくりと帰ることにしました.先生の厚意を無にするようで申し訳なかったのですが,結果がもう決まっている以上,早く帰る意味は特にないと考えていたのです.1学年上の先輩の学年にはアンマッチの(どの病院ともマッチしなかった)学生はいなかったはずだと聞いていたため,きっと今年も大丈夫だろうと高を括っていた面もあったように思います.

臨床研究

根治度C胃癌症例の予後予測における末梢血中CD57陽性natural killer T(NKT)細胞測定の有用性

著者: 赤木純児 ,   深見賢作 ,   増田吉弘 ,   高井英二 ,   柳下芳寛 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.119 - P.124

要旨:われわれはCD57陽性NKT(CD57NKT)細胞の割合が進行胃癌の独立予後判定因子となることを報告した.今回,根治度C胃癌の14症例(CD57NKT細胞高値群8例,低値群6例)に関して,CD57NKT細胞の割合とその予後との関連について検討した.術後2年以上生存した5症例のうち4症例はCD57NKT低値群であり,生存期間2年未満の9症例中7症例はCD57NKT高値群であった(p=0.0363).低値群のMST(生存期間中央値)が31.3か月であったのに比べて高値群のMSTは9か月であり,高値群の累積生存率は低値群のそれに比べ有意に低下していた(logrank p=0.0033).HIV末期患者,移植の長期生存者,癌患者で増加したCD57NKT細胞は免疫の抑制に関与していることが報告されている.進行胃癌で増加したCD57NKT細胞も癌免疫の抑制に関与していることが考えられ,また,その測定は根治度C胃癌の予後判定に有用であると考えられる.

臨床報告

自己グリセリン浣腸を契機とした直腸穿孔に対して非観血的治療で軽快した1例

著者: 土屋康紀 ,   岡本政広 ,   東山考一 ,   塚田一博

ページ範囲:P.125 - P.129

要旨:今回,われわれはグリセリン浣腸(GE)・摘便による直腸穿孔に対して非観血的治療を選択した1例を経験したので,若干の文献的考察も加えて報告する.患者は58歳,女性.既往歴に特記すべきことはないが,普段から便秘傾向にあった.患者自身でGE(60ml)および摘便を施行した.以後,腹部膨満と腹痛の継続に加え,発熱・血尿を認めた.翌日に当科の外来を受診し,GEによる直腸穿孔と診断されて入院となった.入院時の身体・検査所見ではsystemic inflammatory response syndromeの診断基準を満たしていた.CTでは右側の直腸の外側のみにfree airと脂肪織濃度上昇を認め,下部消化管内視鏡検査では肛門縁より約5cmに損傷部位を認めた.触診でも圧痛部位は局所のみで軽度であり,絶食・抗生剤で経過観察することとした.翌日には発熱は軽快し,翌々日には局所の圧痛も消失した.以後の経過は良好であり,4か月が経過した現在も遺残腫瘍は認めていない.

MDCTが早期診断に有用であった魚骨による空腸穿孔の1例

著者: 池田直哉 ,   高久秀哉 ,   長倉成憲 ,   鈴木俊繁 ,   齊藤英俊

ページ範囲:P.131 - P.134

要旨:患者は71歳,男性で,右下腹部痛を主訴に来院した.腹膜刺激徴候があり,急性虫垂炎が疑われた.腹部multi-detector-row CT(MDCT)の水平断で,虫垂の腫大はなく,小腸内に連続する点状石灰化を認めた.3次元再構成像を作成し,矢状断で石灰化は約3cm長の線状構造物であった.再度の問診でタラ(鱈)を前夜食べていたことから,魚骨による小腸穿孔と診断して手術を行った.手術所見では,長さ3cmの魚骨が空腸壁を貫通していた.穿孔部位を一期的に縫合閉鎖した.術後経過は良好であった.魚骨による消化管穿孔の早期診断には経口摂取状況の問診とともに,腹部MDCTの3次元再構成像が有用であると考えられた.

ペースメーカー感染後に発症した感染性腸骨動脈瘤の1例

著者: 宮本裕士 ,   土井口幸 ,   阿部道雄 ,   蓮尾友伸 ,   谷川富夫 ,   坂本不出夫

ページ範囲:P.135 - P.138

はじめに

 感染性の腹部ならびに腸骨動脈瘤は動脈壁の脆弱化のため破裂の危険性が高く,適切な治療を要する疾患である1).今回,われわれはペースメーカー感染後に発症した感染性腸骨動脈瘤の1例を経験したので報告する.

胃異所性膵に発生した上皮内癌の1例

著者: 岡田慶吾 ,   十束英志 ,   松村知憲 ,   松本裕史 ,   新井桃子 ,   神谷誠

ページ範囲:P.139 - P.143

要旨:患者は78歳,男性.胸焼けの精査目的の上部消化管内視鏡検査で胃前庭部前壁の大彎寄りに粘膜下腫瘍を認めた.生検による確定診断は得られなかった.しかし,周囲に潰瘍形成を繰り返し,大きさも増大傾向となったため,診断的治療の目的で幽門側胃切除術を施行した.病理学的検索の結果,胃粘膜下組織から筋層にかけて異所性膵がみられ,その膵管上皮の一部に上皮内癌を認めた.異所性膵からの癌化の証明は多くの場合困難であり,わが国における報告例は25例にすぎない.自験例はin situ病変であり,異所性膵のmalignant potentialを示す興味深い症例と思われた.

十二指腸癌を合併した早期胃癌の1例

著者: 多田耕輔 ,   北原正博 ,   宮原誠 ,   久保秀文 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.145 - P.149

はじめに

 近年,重複癌は増加の傾向にあるが,胃と十二指腸癌の重複癌の報告は少なく,わが国では50例あまりの報告があるにすぎない1).今回われわれは,いずれも粘膜内癌であった胃癌と十二指腸癌の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

過食による急性胃拡張のため胃壊死をきたした1例

著者: 高久秀哉 ,   長倉成憲 ,   鈴木俊繁 ,   及川明奈 ,   小海秀央 ,   齋藤英俊

ページ範囲:P.151 - P.154

はじめに

 胃は血流が豊富な臓器であり,壊死に陥ることは少ないと報告されている1,2).今回われわれは,過食から胃拡張をきたし,胃壊死・胃破裂に至った症例を経験したので報告する.

腸重積の大腸内視鏡整復直後に術前CT診断を行い,腹腔鏡補助下切除を施行した盲腸癌の1例

著者: 山岡延樹 ,   宮川公治 ,   矢田善弘 ,   相良幸彦 ,   藤原淳

ページ範囲:P.155 - P.159

要旨:盲腸癌から発症した腸重積の1症例を報告する.大腸内視鏡下に整復を行い,その直後にmulti-detector row CT(MDCT)を撮像した.この画像情報からCT colonographyを作成することで注腸造影を省略し,再構築3D画像で腫瘍と支配血管との関係を明らかにしたうえで効率的な術前診断を行った.本来の解剖に復した状態で時期を逸することなく病変を評価できる意義は高いと考えられた.腹腔鏡下手術による腸重積盲腸癌の報告は本例が5例目である.術中の腸重積整復には口側腸管の牽引に加えて肛門側腸管をチェリーダイセクタで愛護的に押す方法が有効であった.整復後は通常の右結腸切除(D3)を行ったが,整復を先行したほうが慣れた視野で脈管処理などを行い得るため安全性が高いと考えられた.

ひとやすみ・55

癌の告知

著者: 中川国利

ページ範囲:P.87 - P.87

 私は30数年にわたり,消化器外科医として種々の癌患者さんの手術を施行してきた.初期研修時代は癌告知は「不治の病」の宣言であり,患者さんには真の病名を伏せて手術をするのが常であった.しかし,最近は癌に対する治療は格段に進歩した.そしてインフォームド・コンセントが重んじられ,患者さんに癌を告知することは常識となった.しかしながら,いまだ3割は死亡する恐ろしい病気であり,告知された患者さんは死の恐怖に駆られる.最近,自分自身が健診で癌を疑われ,自分なりに悩んだことを記してみたい.

 私が勤める病院では年に2回の職場健診を行っている.ある日,返ってきた検査結果には「胸部X線写真で肺野に影があり,胸部CT検査を受けるように」と呼吸器内科医の指示が記されていた.自分自身では何の症状もなく,青天の霹靂であった.しかし,年齢的には肺癌発症の危険性はあり,私より若くても癌に罹患する患者さんを常日頃から多数診ている.そこで早速,自分でCT検査を予約した.

1200字通信・9

虎は死して皮を留め―もう1つの歯車

著者: 板野聡

ページ範囲:P.114 - P.114

 昨年の1年間に3人のおじを送ったことを第8回「歯車」に書きましたが(64巻13号),そのうちの1人は家内の伯父で,私にとっては義理の伯父ということになります.しかし,義理とは言いながら,住まいが近かったこともあり,公私ともに大変お世話になりました.はじめての出逢いは私が非常勤として勤務し始めた頃ですが,妻と結婚し,やがて常勤となって今に至る20数年の間,遠くの親戚より近くの他人ならぬ,近くの伯父貴として親しく接していただいたのでした.

 そうした伯父貴の四十九日を迎える頃になって,長年お世話になった伯父貴に私は一体何で恩返しをできたのだろうかと考えることになりました.その答えは,意外なことに,休みに帰ってきた娘達との会話のなかに見つけることができたのでした.

勤務医コラム・8

二条河原落書

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.130 - P.130

 このごろ病院に流行るもの.会議,文書に報告書,辞令入れたる細つづら.監査監査と銘打って,机上の確認怠らず,各種同意書列を成し,病態把握の邪魔となる.大所高所の御意見も,書類にピッタリ収まって,それがあんたの仕事かと,開いた口だに塞がらず.リスクとるべき外科医もなく,口先商売花ざかり.メディア,法曹,文筆業,政治屋,行政,評論家,繰り出す御説ごもっとも,非の打ちどころなけれども,所詮は法の運用も,時代の風に流されて,消えては結ぶ水の泡,泡にまつわる人々の,リスクのなきがうらやまし.超軽症の救急車,宿直の仮眠防げて,果ては未収の風情なり.制度を少々変えたとて,どうにもならぬエセ連歌,馬耳東風と受け流し,若手に技を伝ふるを,己の所業と致すのみ.金のかからぬ節操を,世間に求むるばかりなり.

 医学生の外科離れが進行しているらしい.確かに外科はキツイもんなあ.県の外科医会でも最近若い先生を見ないなあ.外科はどうなるんかなあ.俺にはわからんなあ.南の島で1か月くらいのんびりしたいなあ……(笑).現時点での偽らざる気持ちです.

書評

宮崎 仁,尾藤誠司,大生定義(編)「白衣のポケットの中―医師のプロフェッショナリズムを考える」

著者: 岩﨑榮

ページ範囲:P.144 - P.144

 本書は「医師のプロフェッショナリズムを考える」として,医師という職業(プロフェッション)のあり方を問い掛けながら,プロフェッショナリズムは日常診療の中にあることを気付かせる.なぜ自分は医師を続けているのかを自らの問いに答える形で,「医師というプロフェッション」とは何かを明らかにする.それは実証的ともいえる探求に基づいた実に印象深い実践の書となっている.編者の一人尾藤氏は「教条的なことを書いた本ではない」と.「国民は,立派な教条ではなく,医療専門職の意識と行動の変化を求めているのだ」という.本書を手にしたとき正直言って,『白衣のポケットの中』という表題に,“それって何なの?”と思ったのも事実である.かつて医学概論の論者であり医学教育者でもあった中川米造さんとの白衣論議で,必ずしも白衣に対しては良い思い出がないからでもある.その中川さんは,「古典的にはプロフェッションとよばれる職業は,医師と法律家と聖職者の三つだけであったが,いずれも中身がわからない職業であるうえに,質の悪いサービスを受けると重大な結果を招くおそれのあるものである.」といっている.とかくプロフェッショナリズムという言葉からはヒポクラテスにまでさかのぼる医療倫理という堅苦しさをイメージさせたからでもある.だがそのような読み物となっていないところに本書の特徴がある.読者をして,日常診療の場で身近に起こり得る現実の問題に直面させながら問題解決をしていくプロセスの中で,プロフェッショナリズムを考えさせていくという巧みな執筆手法(むしろ編集といったほうが良いのかもしれない)がとられている.決して難しくもなく,そんなに易しくもなくプロフェッショナリズムが論じられている.

IDATENセミナーテキスト編集委員会(編)「市中感染症診療の考え方と進め方―IDATEN感染症セミナー」

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.150 - P.150

 「いだてん」って,韋駄天(増長天八将軍の一神,小児の病魔を除く足の速い神)? いやいや日本感染症教育研究会こそ「IDATEN」なのである.歴史は古くなんと…大野博司先生(洛和会音羽病院)がまだ研修医だった2002年に,麻生飯塚病院で始められた「病院内感染症勉強会」にさかのぼるという.現在は大曲貴夫先生(静岡県立静岡がんセンター)が代表世話人を務められ,年に2回感染症セミナーが全国で開催される.私は2008年の夏に参加させていただいたが,市中感染症のreviewを豪華講師陣から聞くことができ,実に充実した感動の3日間だった.

 「IDATENセミナーの本が発売されるらしい」との噂を聞き,居ても立ってもいられず馴染みの本屋に注文した.「お~,これぞまさにIDATENセミナーではないか!」冒頭の「感染症診療の基本原則」では,青木眞先生が「発熱=感染症の存在ではない」こと,「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度ではない」ことを熱く語られる.

ジョージ・ボダージュ(Georges Bordage)(著)大滝純司,水嶋春朔,當山紀子(訳)「今日からはじめられるボダージュ先生の医学英語論文講座」

著者: 新保卓郎

ページ範囲:P.160 - P.160

 今やあまたのコミュニケーション技術が利用され,個人は多数の表現手段で社会とつながっている.論文を作成するというのも,一つのコミュニケーションの手段であろう.自分の経験や思考を自分の中だけにとどめず,皆が共有できる情報として伝えていく.

 論文を書くことそのものが,コミュニケーション技能を磨くための重要な医学研修の方法であろう.論文を書こうと思えば,読者の思考の流れに思いをはせなければまとめることができない.この方法の習得に,近道はないものと思われる.多数の医学文献を読み,論文作成の経験を積み,同僚や上司から指摘を繰り返し受け,多数のreject letterを積み重ねて,修得されるものであろう.しかし手引きがあればありがたい.本書はこのような論文作成の優れた手引書である.ポイントが簡潔に整理され,まとめられている.恐らく半日で読み終える分量であろう.その中に重要なエッセンスが多数盛り込まれている.

昨日の患者

いつまでも元気で仲良くね

著者: 中川国利

ページ範囲:P.149 - P.149

 遺言状とは死後のことを書き残した文書であり,多くの場合は財産の分与が記載されていることが多い.しかし,残された家族の幸せを願い,文章をしたためる人もいる.

 90歳を超えたばかりのSさんが癌の再発で入院した.補液によって一時的ながら全身状態は改善し,鎮痛剤により疼痛も消失した.Sさんは,脚が冷えると言っては奥さんが編んだ靴下を履いた.奥さんや娘さん達が見舞うと「赤とんぼ」「めだかの学校」「夕日」などの童謡を歌い,死を目前にしているとは思えないほど明るく振る舞った.また,孫に電気かみそりで髭を剃ってもらっては男前を発揮し,目薬をつけてもらっては涙を隠した.

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あとがき

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.164 - P.164

 われわれの世代だと,運動神経のよい者(今では死語か?)は野球をやることが多かった.中学校の校庭では軟式野球部員が実に颯爽と走り回っていた.そのうちの1人には近隣の高校から誘いがあったとのこと.うらやましくも誇らしく思ったものである.田舎の中学からただ1人入学した高校は昔の愛知一中であり,全国中等学校野球大会で優勝もしている.当然のことながら野球部はそれなりに健闘していた.高校2年の時だったか,夏の高校野球大会愛知県予選でいいところまで行ったことがある.勇んで応援に出かけたが,ころっと負けた.その時の捕手が,確か連合の高木前会長であった.

 大学の教養部の友人に野球部部員がいた.最初のオリエンテーションで意気投合したが,その後ほとんど姿を見ない.試験の前に突然現れて,また慌ただしく去っていく.つかまえて話をすると,練習,練習の日々とのことであった.同級生と語らってたびたび応援に行った.当然ながらベンチにも入れないようで,フィールドで彼の活躍ぶりを見ることはなかった.進学した学部が異なることもあり,その友人に会うこともなかった.

 東京6大学野球のリーグ戦は,前季の優勝校と最下位校が開幕戦で相まみえる.何年生の時だったかはっきりしていないが,秋の優勝校は慶應で,春が慶應と東大の戦いとなった.東大のエースは卒業後に中日ドラゴンズに入った井出である.1回戦は井出が投げて東大が勝った.2回戦をラジオで聴く.スイッチを入れると,東大の先発は驚く事なかれ,なんと友人ではないか.彼は4回まで慶應を押さえ,その後,井出が連投して慶應から勝ち点を挙げたのである.彼が野球部生活で最も輝いた時であった.

 最近,彼を交えて昔からの仲間でよくゴルフをするが,話題は慶應に連勝した時のことになる.ラジオの解説者が彼の投球を評して,「これだけ球が遅くて荒れていると,さすがの慶應も打てませんね」と言ったと私の記憶にある.彼はそれは違う,「球が速くて」と言ったはずと頑張る.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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