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文献詳細

雑誌文献

臨床外科65巻1号

2010年01月発行

文献概要

特集 がん診療ガイドライン―臨床現場における有効活用法

最近のがん診療ガイドラインの動向

著者: 平田公一1 沖田憲司1 成田茜1 木村康利1 水口徹1 大村東生1 古畑智久1

所属機関: 1札幌医科大学外科腫瘍学・消化器外科学

ページ範囲:P.17 - P.28

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要旨:わが国の癌診療ガイドラインの歴史は浅く,ガイドラインが次々に作成されてはいるものの,それを支える,あるいは応用する医療体制と法体制の整備とコンセンサスはきわめて不十分である.今後になすべき課題が具体的にようやく提示されている昨今と言えよう.

 診療内容の質を向上させつつ医療費を抑制し,かつ安全性の高い納得のいく医療提供を目的として,欧米では1970年代後半から診療ガイドラインの作成が始まった.わが国におけるがん診療ガイドラインの作成動向は1990年代後半に,わが国としては最も発生頻度の高い「胃癌」のそれではじめてみることができる.その後,最近まではガイドラインの存在意義と概念の普及に力が注がれ,そして具体的な作成のための手順の確認,そして完成版の発行へ至る在り方を周知させることに努力が払われてきた.

 今日では多くのガイドラインが作成・公開されているが,癌領域の診療ガイドラインに関するわが国の現況はなお熟成されているとは言えない.作成組織間にも考え方の差は決して小さくない.短期間内に爆発的な作成がなされたが,わが国の医療制度や社会的活用には十分に適合しない現象がみられる.国民の間に十分に認知されたうえで利用されている状況にあるとは言えず,ガイドライン作成初期に設定されていた目的に必ずしも十分に沿っていないことが事実として認められる.

 今日に至ってはすでに更新時期を迎えたガイドラインも多く,癌診療ガイドラインについては新たな段階を迎えていると言える.すなわち,(1)診療ガイドラインの評価,(2)成熟したガイドラインの在り方に基づいた改訂,(3)医師以外の医療従事者や国民へ向けてのガイドラインの公開と普及,(4)ガイドラインの実践的利用とそのアウトカムへの影響,(5)ガイドラインのもたらす利益・不利益,限界点と社会への影響,などが検討事項として挙げられる.

 本稿では,癌診療ガイドラインのわが国におけるこれまでの動向と今後の在り方の概要を紹介する.

参考文献

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2)Canadian Task Force on the Periodiz Health Examination:The periodic health examination. Can Med Assoc J 121:1193-1254, 1979
3)Grimshaw JM, Russell IT:Achieving health gain through clinical guidelines. Ⅱ:ensuring guidelines change medical practice. Quality in Health Care 3:45-52, 1994
4)Du Pen SL, Du Pen AR, Polissar N, et al:Implementing guidelines for cancer pain management:results of a randomized controlled clinical trial. J Clin Oncol 17:361-370, 1999
5)福井次矢,丹後俊郎:診療ガイドラインの作成の手順.ver4.3.厚生労働省科学研究費補助金事業「EBMの普及のためのシラバス作成と教育方法およびEBMの有効性評価に関する研究」および「日本におけるEBMのためのデータベース構築および提供利用に関する調査研究」の報告書.2001
6)日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会:日本癌治療学会がん診療ガイドライン作成の手引き.Ver 2.2004(http://www.jsco-cancer-tq.jp)
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8)Shaneyfelt TM, Mayo-Smith MF, Rothwan J:Are guideline following guidelines? The methodological quality of clinical practice guidelines in the peer-reviewed medical literature. JAMA 281:1900-1905, 1999
9)Cluzeau FA, Littlejohns P, Grimshaw JM, et al:Development and application of a generic methodology to assess the quality of clinical guidelines. Int J Qual Health Care 11:21-28, 1999
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11)日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン作成小委員会(編):科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン.金原出版,2006
12)胆道癌診療ガイドライン作成出版委員会(編):胆道癌診療ガイドライン.医学図書出版,2007
13)関本美穂:EBM診療ガイドラインの利用と検証.診療ガイドラインの実践的利用.実践の障壁.クリニカルプラクティス 25:1020-1024,2006
14)新保卓郎(訳・解説):診療ガイドラインはガイドラインに従って作られているか? 医学雑誌に掲載された診療ガイドラインの作成方法の質の検討.JAMA(日本語版)2000年5月号:131-137,2000
15)阿部好文:診療ガイドラインをどのように利用するか.クリニカルプラクティス 25:1010-1013,2006
16)小川道雄:癌治療と診療ガイドライン.外科治療 96:390-393,2007
17)古川俊治,北島政樹:診療ガイドラインと法的「医療水準」.日消病会誌 101:1-8,2004
18)河原和夫:診療ガイドラインの有効性について.日整会誌 80:720-723,2006
19)高橋 都,佐藤(佐久間)りか,中山健夫:患者参加型の診療ガイドラインがもたらすもの.クリニカルプラクティス 25:1042-1046,2006
20)平田公一,古畑智久,大村東生,他:「癌治療ガイドライン」の基本的検証法.消外 30:1823-1836,2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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